公開データ及び情報に基づく日本の原子力発電プラントのパフォーマンス評価(2)

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カテゴリ: 第6回
1. 緒言
我が国の原子力発電所は、他国に比べ、運転期間が 短い一方、定期検査(以下「定検」と呼ぶ)の期間が 長く、オーバーメンテナンス(初期故障タイプ)の懸 念がある。そこで、公開情報を用いて、統計分析を行 った。具体的には、プラントの発電停止に着目して、 ワイブル解析を行った[1]。その結果、故障タイプは 初期故障タイプであり、運転開始後約1か月の間に発 生したトラブルに関して、初期故障に影響を与えてい る可能性があるとの結論を得た。しかし、機器の保守(オーバーホール)情報が公開 されておらず、毎定検、全ての機器が保守されるとの 厳しい仮定を用いた。 - 本書では、この保守性について検討を行い、さらに、 より妥当と思われる結果を得るための、統計処理方法 の検討を行った。 連絡先:永田匡尚、〒108-0014 東京都港区芝 4-2-3 NOF 芝ビル7階、日本原子力技術協会業務部、電話: 03-5440-3656、e-mail:nagata. tadahisa@gengikyo.jp_
2.検討2.1 機器の保守時期の影響原子力発電プラントの重要な機器は、多重性を有し、 また、最近の機器の性能向上と相俟って、専ら、数定 検に1度の頻度で各機器の点検が行われている。 - 例えば、多重性を有するポンプの台数が N 台の場合、 定検毎に1台、N 定検に1回の頻度で保守が行われる 場合がある。 Fig.1 に、多重性を有するポンプの例を示す。3定検に1回、保守を実施・は保守実施ポンプA | ポンプB| ポンプCn- 2n-1 n n+1n+2 定検Fig. 1 Redundancy and Maintenance frequency従って、定検ごとに保守が行われているという仮定82,は、寿命(MTBF)を短く評価するだけでなく、運転再 開~定検までのプラントの発電停止率(計画外停止 率)を大きくし、保守的な結果となる可能性がある。そこで、発電停止の原因となった機器の保守データ に着目して、運転時間を補正する方法が考えられる。 しかし、プラントの運転データは運転再開~定検 (以下、「1サイクル」という)までしかなく、1サ イクルを越える運転期間では、打切りデータがないこ とに注意を要する。つまり、機器レベルで考えた場合、数サイクルの運 転実績データは多く存在するが、プラント・レベルで 考えた場合、1サイクルを越えた運転データは存在し ないため、データの連続性(具体的にはワイブル・プ ロットの直線性)に影響を与える可能性がある。そこで、加圧水型軽水炉(PWR)の蒸気発生器 (SG) の伝熱管漏えい事故を例に、検討を行った。PWR の蒸気発生器の伝熱管は、第1サイクルの運転 開始以降、交換されることなく、最終的にはクラック 等の損傷発生により、使用を止め施栓等の処置が行わ れる。このような蒸気発生器伝熱管漏えい事故は、試運転 時の玄海1号機のトラブルを除き、日本においては 16 件発生している。 Table 1 Un-planed shutdown because of SG tube leak No. 発生年月プラント 1972年 6月美浜1号 1974年7月美浜1号 1975年1月美浜2号 1977年1月高浜1号 1979 年10月美浜2号 1981年 9月大飯1号 1982 年 3月美浜1号 1982 年 7月美浜1号 1983年 2月美浜2号 1985 年 2月高浜2号 1988年 8月高浜2号 1988年10月大飯1号 1991 年 2月美浜2号 1992 年 7月美浜1号 1994 年 2月美浜1号 1995 年 2月大飯2号4567890 1 2 314ここで、蒸気発生器伝熱管漏えい事故のみについて、 商業運転開始以降保守は行われず、連続して使用され たという条件に運転データを置き換え、計算を行った。 本方法の概要を Fig. 2 に示す。――――――→運転時間ーメーシー[xは故障停止 口はSG伝熱管漏えい停止 △は定検SG伝熱管漏えい停止以外は、 連続運転時間ごとに整理―――→運転時間1 2 3 4 56運転時間を2重に考慮Fig. 2 consideration for SG Tube Leak Shutdownワイブル・プロットの結果を Fig.3 に示す。 なお、本書では、データは前回の評価 [1]と同様に 第 2 サイクル以降とし、最新の運転管理年報(2008 年3月)までとしている [3]。10r100.010.00110010000In(t)Fig. 3 Weibull Plot of PWR* Fig.3 を見ると、1サイクル (500 日)を越える領域(Fig.3 の破線部)において、予想どおりワイブル・ プロットが直線から外れていることが分かる。さらに、このようなデータが多く存在する場合は、 運転時間を多重に考慮 (Fig.2 の破線部)することに より、非保守的な結果を得る可能性のあることにも注 意を要する(2.3 章参照)。2.2 モデル化の検討 - 数サイクル前の定検で保守を行った機器が、運転開 始後のある時間: t で故障し、プラントの発電停止に-83至ったとする。この場合、故障に至るまでの機器の運転時間は1サ イクル以上でとなる。従って、時間: t で故障を起こ したとするモデルは保守的であり、むしろ、この時間 では故障は起こらなかったとするのが現実的と考え る。つまり、故障データ⇒打切りデータに変更するこ とが考えられる。これは、特定の原因に着目して評価を行う競合リス クモデルの考え方に類似する。 - 競合リスクモデルでは、ある特定の原因に着目して、 その他の原因による場合は、全て故障データ⇒打切り データに置き換えて、評価を行う。 競合リスクモデルの概念を Fig.4 に示す。50100150200 >運転時間X×は故障モードA ▲は故障モードB9故障モードAのみに着目 50 100 150 200 →運転時間×は故障データ oは途中打切りデータFig.4 Competing Risk Modelそこで、公開情報に基づき、PWR の発電停止の原因 となった機器の保守の時期を調査し、前定検より前に 保守が行われたと判明した事象(105 件中 34 件)に ついて、故障データ⇒打切りデータに変更して、評価 を行った。一般に用いられている方法 (usual method) と合わ せて、結果を table 2 及び Fig.5 に示す。Table 2 Weibull Parameter of PWR ItemsUsual Modified Shape Parameter 0.50.6 Scale Parameter | 5.5E+3 4. 1E+30.006-- - Usual-Modified50.004Shutdown Rate10_100200 300 Operation Term400500Fig. 5 Shutdown Rate of PWRTable 2 に示すとおり、ワイブル・パラメータには 大きな変化はなかったが、Fig.5 に示すように発電停 止率は減少する。 * 特定の原因に着目した評価の場合、競合リスクモデ ルは有効と考えるが、本検討のように総合的な評価を 行う場合、この故障件数の過少評価による影響(非保 守性)を考慮する必要があると考える。2.3 ハザードの算出方法の検討ワイブル分布は、ある時間 t とその時における累積 ハザード H の両対数をとった場合、直線になる。in(H)= m xln()-mx In(n)-1ここで、m:形状パラメータ、及びn:尺度パラメ ータとする。ここで、故障が発生した時間における運転機器数 を N, とすると、累積ハザードとはハザード=故障機 器数/運転機器数の累積であり、次式のように表せる [2]。-2“N'N,A N , 一般に用いられる方法では、運転時間を故障発生あ るいは保守の都度、短冊のようき切り、ハザードを算 出する。そして、ハザードの分母は、実際の機器の数ではな く、連続運転時間ごとに整理されたデータ数から求め られる。一般的な方法の概要をFig.6 に示す。-84|0_50100 __ 150 __ 200 →運転時間 ー×× 。[xは故障停止 oは保守停止連続運転時間ごとに整理50_100150200 >運転時間} } ←ハザードFig. 6 General Hazard Calculation Methodところで、既述のハザードの定義に従うと、継続し て運転してきた機器がある時間 tに故障を起こした 場合の、故障機器数と運転機器数比であり、分母を実 際の運転機器数として算出することになる。 ハザードの算出方法の概要を Fig.7に示す。10050 ー×150 __ 200 →運転時間×x||||x×は故障停止 oは保守停止連続運転時間ごとに整理はしない50100150 200 →運転時間|x |o|o ol!13 13333←ハザード Fig. 7 Modified Hazard Calculation Method* 本方法に基づき、プラントの運転開始(本検討では、 第2サイクル)以降の原子力発電プラントの評価を行った。2.1 章の蒸気発生器伝熱管漏えい事故に適用した 方法を全ての発電停止事象に適用した結果と併せて、 Fig.8 に Weibull Plot の結果を、Fig.9 に発電停止率 のグラフを示す。Modified × Modified($2.1)|0.01x|100000.001 0.1 1 10 100 1000In(t) Fig. 8 Weibull Plot of PWRTable 3 Weibull Parameter of PWRItems Modified ( $ 2.1) Modified Shape Parameter 0.90.5 Scale parameter 4. 4E+3 | 4.9E+20.005== - Modified est ModifiedAverage0.004Shutdown Rate0.003 0.0020.001500...1 0_ 2000 4000 6000 8000Operation Term Fig. 9 Shutdown Rate of PWRFig.8 及び9を見ると、運転時間を多重に考慮し過 ぎた結果、一般的な方法では累積ハザード及び発電停 止率が 2.1 章の方法に比べ非常に小さいことが分か る。さらに、発電停止率では、平均値と比較しても、 2.1 章の方法では非常に小さくなっている。 ・ 従って、2.1 章の結果も併せて考慮すると、機器の 保守を考慮するには、2.1章の方法を用いるべきでな いと考える。2.4 定検後のパフォーマンス評価 - 本検討の目的は、定検とその後のプラント・パフォ ーマンスとの関係を推定することである。そこで、2.3 章の考え方を各運転サイクルに適用し、 定検毎に区切って評価を行うこととした。-85_50_ ーメーム100 _150 __ 200 >運転時間 ムーメームー|×は故障停止△は定検 ーーー1△は足検定検ごとに整理50100150200 →運転時間ーメーム1 = ハザード Fig. 10 Modified Hazard Calculation MethodPWR 及び BWR の結果を Fig.11~14 及び table 4~5 に示す。-14 及び table 4~5Modified0.1X Usualln(H) ,0.010.0010.010.11101001000In(t)Fig. 11 Weibull Plot of PWRItemsTable 4 Weibull Parameter of PWR ItemsUsual Modified Shape Parameter 0.5 | 0.5 Scale Parameter | 6.0E+3 | 5.5E+30.006Modified0.004- - - UsualShutdown Rate2200 1600400 tion TermFig. 12 Shutdown Rate of PWRModifiedX Usual(H)。0.00110000.001 0.1 , 10In(t) Fig. 13 Weibull Plot of BWRTable 14 Weibull Parameter of BWR ItemsUsual | Modified Shape Parameter 0.5 0.5 Scale Parameter | 1.3E+3 | 1.5E+3- Modified - - - UsualShutdown Rate10_600200400 Operation TermFig. 14 Shutdown Rate of BWR上述の図及び表より、改良方法の結果は一般的な方 法と殆ど変わらないことが分かる。これは、我が国のプラントでは、発電停止率が非常 に小さいため、方法による影響が殆どないため、と推 定される。3. 結言 1 原子力発電プラントの殆どの機器は、数定検に1度 の頻度で保守を行っており、定検毎に保守を行うとい う仮定は厳しい条件である。そこで、機器の保守履歴 によるプラント性能(発電停止率)への影響を評価した。1)一般的な方法において、運転時間のみを変更するこ - とは、ワイブル・プロットの直線性に影響を与え、 問題がある。-862) 競合リスクモデルを用い、前回以前の定検で保守を した機器については打切りデータとして扱う場合、故障件数減少による影響を考慮する必要がある。 3) ハザードの計算方法を定義とおりに変更して、ワイブル解析を行った結果、一般的な方法と殆ど変わら ない結果を得た。原因は、我が国の発電停止率が非 常に低いためと推定されるが、今後、検討を行う予 定である。 参考文献 [1] T. Nagata et al. ““Performance Evaluation ofJapanese Nuclear Power Plant based on Open Data and Information”, ICON-17/2009 Brussels,Belgium [2] 市田嵩、鈴木和幸、”信頼性の分布と統計”(株)日- 科技連出版社、1984、 pp. 159-160. [3] ““Japan Nuclear Energy Safety Organization,Operational Status of Nuclear Facilities in Japan 2008 Edition (as of March 31, 2008)““. JNES、2008モデルを用い、前回以前の定検で保守を については打切りデータとして扱う場合、 夏少による影響を考慮する必要がある。 計算方法を定義とおりに変更して、ワイ 行った結果、一般的な方法と殆ど変わら ニ得た。原因は、我が国の発電停止率が非 めと推定されるが、今後、検討を行う予ta et al. ““Performance Evaluation of se Nuclear Power Plant based on Open nd Information““、ICON-17/2009 Brussels,- 鈴木和幸、”信頼性の分布と統計” (株)日 出版社、1984、 pp. 159-160.Nuclear Energy Safety Organization, cional Status of Nuclear Facilities in 2008 Edition (as of March 31, 2008)”、 2008-87- 87 -“ “?公開データ及び情報に基づく 日本の原子力発電プラントのパフォーマンス評価 (2)“ “永田 匡尚,Tadahisa NAGATA,杉山 憲一郎,Ken-Ichiro SUGIYAMA
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