自己修復型センサネットワークの研究

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カテゴリ: 第6回
1.緒言
原子力発電プラントにおいては現在、原子炉の稼働 率と信頼性を高める観点から、保全手法としてこれま での定期点検をベースとした時間計画保全 TBM(Time Based Maintenance から新たな保全手法として状態監視 保全 CBM(Condition Based Maintenance)が提案され、セ ンサによって原子炉の状態を継続的に監視する保全手 法への移行が進められている。CBM を用いることで、 原子炉の稼働率を上げ、保全のコストを下げることが でき、また異常を早期に検知することにより原子力発 電プラント全体の信頼性を向上させることが可能であ ると期待されている。一方、CBM の実現においては、 放射線環境下で異なる物理量を観測する多数のセンサ を配置し、維持動作させていくというセンサの最適配 置、比較的故障確率の高い部品であるセンサ自身のメ ンテナンスという別の問題が発生する。センサの一部 が故障した場合には、異常信号が発生する(False Positive)か、異常信号を発生できないか(False Negative) の双方が起こるが、前者は正常に稼働中の原子炉を止 めることになり、莫大な経済的損失を招く。後者は重 大事故に繋がることになり、人体および環境に多大な 被害を及ぼす恐れがある。CBM の導入により、このよ うなアラームの誤作動・不作動が頻出しては、プラン ト全体の信頼性・経済性に関わり、本末転倒となるの で、両方に対してロバストなシステムが必要である。
1. 本研究では、個々のセンサ間での情報交換を前提と して、センサシステム全体をネットワークとして取り 扱い、プラント中に網の目のように張り巡らせるセン サ全体を有効活用し、新たな機能を発現させることや、 センサ間の物理的な関係をもとに、センサ自身の故障 判定やプラントの各部位の健全性診断を行い、モニタ リングシステム全体の信頼性向上を実現することを目 指す。一方でセンサをネットワーク化することにより、 モニタリングシステムが複雑化することは、故障リス クの増加、高コスト化などの問題が発生する。効率的 なノード間通信手法の導入により、分散処理を行いな がらも、ネットワーク全体で情報を共有し、異常診断 の実現と異常部位の推定、センサ自身の故障への対処 など、CBM の本格的な導入において解決すべき問題へ の道筋をつけるものである。2.信頼性向上のための手段2.1 部分的故障に対するロバスト性 * モニタリングシステムを設置する目的は、センサに よって故障を発見することだが、センサ自身の故障が 発生することが考えられる。そこで,複数の診断セン サを用い,各センサからの情報を統合的に判断するこ とにより誤診断を減らす試みがなされてきた。n 個の センサからなる安全監視システムについて、センサの 誤作動と不作動により生じる損害額の期待値を評価指 標とし,この損害額の期待値を最小とするセンサの最 適論理構成は k-out-of-n (n個センサのうちに個以上のセ ンサが監視対象を異常と判断すれば,監視対象が異常 であると判定する)システムであることが証明され,最94適なk の計算式が導出されている。この手法は単体の センサを用いた場合よりも、モニタリングシステムの 信頼度が大幅に向上する。しかし、定期点検間隔を延 長するには長期運用によるセンサ単体の信頼性が下が るので、信頼度が経年劣化により下がった場合を想定 したさらなるシステムとしての信頼度の改善が必要と なる。また、従来手法では局所的なモニタリングには 適しているが、長期運用を考えた際に、安全性を確保 するには細かな事象を早期に発見することが重要にな り、広範囲のモニタリングに適した信頼性向上の手法 の確立が課題であった。さらに、これら従来手法は大 規模システムでは通信データのオーバーフローや、中 央にリスクが集中する点が問題となる上、局所的にセ ンサを冗長させただけなので多数配置されたセンサを 最大限に有効活用しているとはいえない。 1. 本研究はセンサと自律分散型の情報処理部が一体と なった、インテリジェントなノードでセンサネットワ ークを構築し、ノード間でのコミュニケーションを可 能にさせることにより、配置されたセンサを最大限に 活用するとともに、モニタリングシステムの高信頼性 化を図るものである。センサをネットワーク化するこ とによって、各ノードがお互いを診断・故障判定し、 故障部位を排除し、ネットワークを再構成する「自己 修復型センサネットワーク」にすることで、この問題 を解決した[1, 2]。個々のノードに情報処理部を搭載し 自律分散処理を行う事により、センサは同時に通信) ードとなり、自身が検出した情報を発信するだけでは なく、他のノードが発した情報をノード間で通信する ことにより、ローカルで情報を共有し、その情報を元 に自身の情報処理部で物理モデルと定性推論に基づい た信頼性評価を行うことが可能となる。情報処理部は ROHM 社の CMOS 0.35um プロセスを用いて ASIC (Application Specified Integrated Circuit)を開発(図.1) し、開発した ASIC とフォトトランジスタを用いて、 49ノードで実際にセンサネットワークを構築し、想 定される様々な事象を人為的にセンサに故障を発生さ せ検証した。センサネットワークに自己修復機能を加 えることにより、複数のセンサに故障が発生した場合 でも、故障が適切に検知・排除されることを確認し、 本システムがモニタリングシステムの信頼性向上に有 効であることを立証した。また、本研究で用いた手法 は単に論理ゲートを用いた排他的冗長システムと違い、 信頼度に基づき多数のセンサと整合性をとることにより、放射線による偶発的エラ る。放射線による偶発的エラーも回避できるようにな31日に10におににににににににに!MILLLILLLLLLL1-STEET1.開発した自己修復型センサネットワーク用のASIC (ROHM 社 CMOS 0.35um)図1. 開発した自己修復型センサネットワーク用のACT innin AL CanCa 2s..ml 2.2 通信手法の開発 ・ センサネットワークの構築の際に問題となるのは配 線の数である。前述のように複数のノードで情報共有 をさせる場合、メッシュ型ネットワークでは個々を結 ぶ配線が必要となり、配線の複雑化によって新たな故 障を誘発する危険性がある上、コスト面からも現実的 ではない。そこで本研究ではセンシング値を ToT (Time over Threshold) に 基 づいた PWM (Pulse Width Modulation)を用いて簡素化し、さらにそのパルスにノ ードの個別 ID 情報を持ったパルスを付加することに よってパルストレインを形成する手法を開発した。こ れによって一つのバスラインから複数のノードからの センシング値を識別できるようになるので、多数の構 成要素で一つのバスラインを共有することが可能とな り、配線トラブルによるリスクの低下と敷設の低コス ト化が図れる。2.2.1 センサネットワークにおける情 報処理センサから得られ情報は基本的にアナログ値であり、 ネットワークで扱うにはアナログ値をディジタル値に 変換するプロセスが必要となるが、バスラインの簡素 化が必要とされるセンサネットワークにおいては情報 処理・情報伝送を効率化する手段として、ToT (Time over Threshold)に基づいたパルス幅変調の概念が有効 であると考えられる[3]。また、ToT ではセンシング値 を「時間」いうどのセンサにも共通にある概念で定量 化しているので、多数のノードで構成されるセンサネ ニットワークに対し、データの信頼性を保つという意味959でも有効であるといえる。しかし、ToT では「波高値とパルス幅の関係の非線 形性」と「ダイナミックレンジの狭さ」が問題となっ ていた。本研究ではこの問題を解決するためにマルチ レベルスレショルドの手法を開発した。さらに複数の パルスを一つのバスラインで伝送するためのエンコー ディング回路を開発した。これはセンシング値を正確 に伝送、システムの簡素化という相反する要求に応え るシステムである。2.2.2 無線センサネットワーク 1 本研究ではセンサネットワークの通信手段に無線 信号を用いることを検討した。無線センサネットワー クは物理的な配線を必要としないので、既存の原子炉 に新たにセンサを導入する際にセンサネットワーク敷 設の障害が比較的少ない。また、回転機器の状態監視 などへの適用や、センサネットワーク敷設の低コスト 化、ブロードキャストを利用した多数のノード間の同 時通信が可能となる。このような無線センサノードを 用いれば、大規模な分散計測システムに有効に作用す るといえるが、放射線に起因するシングルイベントに よって、センシング値が正しく伝達しない可能性があ る。そこで本研究では前述の定性推論に基づき、近接 ノードとの通信し、比較することによってエラーを補 正する手法を無線に実装することが可能であることを 立証した。Zigbee Wreless Module10bit Digital Temperature SensorXBeeBarbro 2045-11500AADORAVoltage RegulatorProcessing Unit図2. 無線センサネットワークモジュール結言本研究で提案した信頼度を導入し自己修復機 能をもたせたセンサネットワークによる状態 監視は CBM を実現する上でモニタリングシス テムの信頼性・高機能性・経済性を満たす有力な手段と考えられる。 本研究で開発したセンサネットワークの概念 はピクセルアレイ型検出器のピクセル欠損等 など多数のセンサで構成されるものに対して 有効に作用するといえる。 故障ノードの排除機能や通信部、アナログ・デ ィジタル変換機能を一つの自律分散型 ASIC に 実装することで、リスクの分散、ノードの小型 化、システム全体の簡素化により敷設負荷の低 減を実現した。 センサネットワークのノード間通信手法の検 討を行い、無線によるセンサネットワークの可 能性や共通バスラインにパルス信号を送出す ることで情報のやりとりを行うとともにパル ス幅変調の概念を検討した。 CBM を実現するにはセンサの信頼性が重要視 されてきたが、センサの信頼性が低い場合でも ネットワーク化して互いに補完するような仕 組みにすれば全体としての信頼性を向上させ ることは可能である。5)「謝辞本研究は文部科学省科学研究費「グローバル COE プ ログラム 世界を先導する原子力教育研究イニシアチ ブ」事業に基づく支援を受けた調査研究成果の一部で ある。参考文献[1][2]Y. Shimomura, S. Tanigawa , Y. Umeda, and T. Tomiyama, Development of Self-Maintenance Photocopiers. In AI Magagine, The American Association for Artificial Intelligence(AAAI), Vol.16, pp.41-53, No.4, 1995. T.Fujiwara, K.Komatsu, H.Takahashi, M.Nakazawa, Y.Shimomura, ““Distributed Processing Sensor Network Based on Reliability Index and its Simulation““, WSEAS TRANSACTIONS on CIRCUITS and SYSTEMS, Issue6, Volume4, 602-609 (2005) T. C. Meyer, “A Time-Based Front End Readout System for PET &CT,” IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2006, pp. 2494-2498.[3]“ “自己修復型センサネットワークの研究“ “藤原 健,Takeshi FUJIWARA,高橋 浩之,Hiroyuki TAKAHASHI
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