高温超電導電磁石を用いたタービン羽根の電磁診断
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カテゴリ: 第7回
1.緒言
度で検出することが可能である事が判った。ただし、励磁のためにケーシング内部に永久磁石による構成 現状、ポンプインペラ、タービン羽根等の回転体 した電磁センサを長時間設置することが実機では不 の異常は、回転体の軸受の振動、軸受潤滑油の性状 可能であり、励磁方式については更に検討する必要 分析等の2次的なパラメータにより監視されている。 があった。解決案として、電磁センサの励磁部と検 一方、浜岡5号機の主タービン等で発生した低圧タ 出部を分離することが提案された。励磁部はケーシ ービン羽根の損傷事象では、軸受の振動の監視だけ ング外部から励磁し、オンオフできるように永久磁 ではタービン羽根の異常兆候の検知が困難であった。 石ではなく高温超電導電磁石を採用する。検出コイ ことから、タービン羽根が損傷に至る前に異常を検 ルはタービンに悪影響を与えることがないので、イ 知できる技術のニーズが高まっている。ンペラの近傍に設置することが可能と考えられる。 - 最近の研究において、回転機器の内部回転体の状1本研究では実機タービンへの適用について検討す 態を、ケーシングの外側から電磁的に診断する技術 ることより実用化検討を進め、原子力発電所の信頼 の検討が進められている[1]。これは、非破壊検査技性向上に資することを目的とする。その第一歩とし 術として実用化されている渦電流探傷試験の技術をて、小型の試験用電動駆動タービンを用いた試験・ 発展させたものであり、本技術が実用化できれば、 分析を実施した。 既存設備の大幅な改造無しに内部回転体の状態監視
2. 小型電動タービンの試験 精度を向上させることが期待できる。
これまでに、電磁診断技術を用いてポンプのイン タービン測定への電磁診断技術の有効性を確認す ペラや軸受等の回転体の状態診断を検討してきた[2, るため、株式会社日立製作所構内における小型の試 31。また、タービンについては数値解析を行い、適 験用タービンを対象に試験を実施する。平成 20 年度 用の可能性も確認できた。平成 20 年度では、小型の の試験に使われた永久磁石タイプ電磁センサの問題 試験用タービンにおけるデータ採取を行い、タービ 1点を解決し、タービン羽根の検出性を確認する。 ン羽根への電磁診断技術適用の有効性と問題点を抽 出した[4]。その結果、タービンのケーシング内に電 2.1 ケーシング外部励磁のための磁気回路 磁センサを置くことができれば、羽根の信号を高精本研究では、電磁診断技術を実機適用するため、 連絡先: 黄皓宇,〒110-0008 東京都台東区池之端タービンのケーシングの外部からの電磁石励磁を検 2-7-17 井門池之端ビル 7F, 株式会社 IIU, 電話:討した。一般的に、磁石から発生する磁場の強度は 03-5814-5350, E-mail: huang@iiu.co.jp101距離によって指数的に減少するので、タービンのケ ーシング外部からの励磁では羽根まで届く磁場は極 めて弱い。また、オンオフできる電磁石では、強い 磁場を発生するために電磁石が巨大化になってしま う問題が存在する。これらの問題を解決するには、まず励磁用に高温 超電導電磁石を使用する。超電導励磁コイルを窒素 で冷却することで、最大 50A までの励磁電流を使用 することができ、最大 1-2T の強い磁場を発生させる ことができる。次に、磁場減衰の問題を解決するた めに、ケーシングと内部の構造物などの磁性体を利 用し、鉄心と鉄脚を用いて磁気回路を構成させる。 ・タービンのケーシング外部から励磁するための磁 気回路の断面図を Fig.1 に示す。赤い矢印は磁気回 路中の磁束の流れを示している。高温超電導電磁石 から発生した磁場は、鉄心の誘導によりケーシング まで無減衰に届くが、磁束の90%以上は最も近いケ ーシングの壁に沿って流される。残る磁束は両側の ケーシング壁に沿って流れ、インペラの回転軸また は鉄脚・羽根の回路から戻る。ただし、鉄脚と羽根 の間には空気ギャップが存在するので、回転軸の磁 束の分流は 90%以上となる。鉄脚の磁束は空気中に 発散し、一部が希望通り羽根まで届く。数値計算の 結果では、高温超電導電磁石(励磁電流 10A)から 発生した最大磁場は 1.2T に対して、鉄脚と羽根の空 気ギャップまで届く磁場はわずか 1.7mT であり、ほ ぼ千分の一まで減衰した。ただし、平成 20 年度の測 定結果から、検出コイルは可能の限り羽根に近づけ ば mT 単位の磁場でも羽根を検出することが可能と 概算した。 →磁気回路羽根に通る磁気回路(空気ギャップがあるため、弱くなる)ギャップ、ケーシング高温超電不 導電磁石川」羽根10鉄心跌脚Fig. 1 Magnetic circuit for excitation2.2 高温超電導電磁石と検出コイル- 高温超電導電磁石の仕様を Table 1 に示す。超電導 コイルに流れる臨界電流は 50A で、鉄心を構成する 磁性材料の磁気特性は線形であれば 6T までの磁場 を発生させることができる。しかし、一般的な磁性 材料は非線形特性を持ち、また飽和磁束密度が存在 しており、励磁電流に比例して磁場が強くなること はない。材料の飽和磁束密度に制限され、高温超電 導電磁石の磁場は最大でも 2T が限界と数値解析の 結果から分かった。励磁部の高温超電導電磁石はケーシングの外部に 設置したが、検出コイル部は羽根の近傍に設置する必要がある。Fig.1 に示した鉄脚の先端に、135 の ねじ状のセンサーコアを設計した。このコアは、磁 気回路の一部となる以外に検出コイルのコアとして 働き、検出する磁場を集中させる役割を果たしてい る。コアの直径は 35mm、長さは 40mm、検出コイ ルの巻数は 500 ターンである。センサの検出部の写 真をFig.2 に示す。電圧信号は BNC コンネクターよ りアンプ・フィルターに送る。検出部を装着する前 のタービン内部の写真を Fig.3 に示す。検出コイル は羽根を挟む形で両側に配置する。コアにはねじ切 りしており、鉄脚にねじこめば装着且つ距離の調節 が可能となる。Table1 Specification of superconductivity magnet 部品名仕様 内径185mm外径210mm高温超電 導コイル厚み40mm巻き数186ターン臨界電流50A 概要 | 発泡スチロール製簡易断熱容器 高さ365mm断熱容器284mm112mm奥行き 鉄心穴横 100mm×縦 110mm検出コイルコアFig.2 Pickup coil and core with screwセンサを装着 するねじ穴。Fig.3 Iron leg and impeller of the turbine1022.3 測定システムと試験内容電磁診断システムは Fig.4 に示す。電磁センサを 対象物であるインペラの羽根の軸方向に配置し、ア ンプを用いて検出コイルに誘導される電圧を増幅し、 その電圧を AD 変換によってパソコンに取り込む。 高周波ノイズを除去するため、ポンプのインペラを 測定する際には 10kHz ローパスフィルターをかける ことが一般的であるが、タービン羽根の枚数は 102 枚もあり信号の周波数成分が高いと予想し 50kHz の ローパスフィルターを使用することにした。 - 検出センサを装着した鉄脚とインペラの写真 Fig.5 に示す。センサの表面から羽根までの最も短い 距離は 5mm だが、羽根は平面状ではないので、セ ンサと羽根の距離は大体 5-10mm である。また、Fig.1 の鉄脚部分と異なって、破線で示したバイパス構造 があり、磁束がバイパスに流れ込むことが予想でき る。ただし、数値計算の結果ではセンサと羽根の間 の空気ギャップの磁束密度は 1.7mT (バイパス無し) から 1.2mT(バイパス有り)に減少したが、検出す ることには支障がないと考えられる。また、それを 補うために超電導コイルの励磁電流を最適化し、 25A に選定した。AnalogDigitalProbeDC AmplifierPCLow PassFilterLow PassRaw DataGainGainAVD ConverterData FileFig.4 Block diagram of measurement systemCH2CH1検出センサバイパスFig.5 Block diagram of measurement system小型電動タービンの試験は Table 2 に示した条件 で、測定時間は 10s/回で各ケースにおいて5回を測 定した。インペラの回転速度は 300、600、900、1200、 1500、1800rpm の計6ケースを対象とし、回転速度 が安定した状態で測定を行った。また、インペラ羽 根の振動の検出可能性を調べるため、高圧気流で羽 根を振動させ、各回転速度において加振の有無それ ぞれ2ケースを計測した。測定結果からタービン羽根の信号を確認すること ができた。測定データをパソコンに保存し、試験後に詳細分析を実施する。Table 2 Times of acquisition of each condition 回転数(rpm) 加振なし加振有り 300105/回, 5回 105/回, 5回 600 105/回, 5回10s/回, 5回 900 10s/回, 5回10s/回,5回 1200 105/回, 5回105/回,5回 1500 10s/回.5回10s/回, 5回 1800 10s/回, 5回10s/回, 5回3.タービンの測定信号の分析測定信号を用いて解析し、羽根の検出信号、回転 周波数などの情報を取り出す。また、加振試験の検 出信号を用いて羽根振動の増加の検出と振動増加の 周波数帯の特定を試み、インペラ羽根の異常兆候を 検知するための信号解析手法を開発する。3.1 羽根の検出信号Fig.5 に示した検出センサは左右対称二つを設置 したが、それぞれ面する羽根の形状が異なるので、 検出信号も異なる。ここでは、得られた信号が大き い左側のセンサの信号(CH2)を対象として議論す る。電磁センサ CH2 の検出信号を Fig.6 に示す。各図 において、(a) は 2回転間の検出信号、(b)は 1/2 回 転間の検出信号を示したものである。 Fig.6(a)には電 磁信号の周期性が見られ、Fig.6(b)には羽根の一枚一 枚の信号を確認することができる。Raw signal in 2 turns of 600rpm (ch2)一回転 ...Voltage (V)11.44-1-1.510.000.020.040.060.080.12.0.140.160.180.20.10. time(s)(a) Signal of 2 turnsRaw enlarge signal of 600rpm (ch2)羽根一枚一枚の信号........Voltage (V)-1.540.0000.0050,010 0.0150.020 0.0250,0300.0350,04000450.050time(s)(b) Signal of 1/2 turn Fig.6 Raw signal of EM sensor CH2 (600rpm)103また、同じ CH2 の検出信号の FFT 結果を Fig.7 に 示す。各図において、(a) は 0~10kHz までの FFT の結果、(b) は FFT の結果を 0~羽根周波数まで拡 大した図を示したものである。FFT の結果では、信 号の周波数帯の分布、羽根周波数 (回転周波数*羽根 ・枚数)、羽根周波数成分の大きさを確認できる。Spectrum (0-10kHz) of 600rpm (ch2)0.301( )羽根周波数Amplitude (v)010009000100002.000300040005E+27frequency(Hz)(a) FFT results (0~10kHz)Spectrum (0-wing frequency) of 600rpm (ch2)0.307114羽根周波数Amplitude (v)0.10.05020040080012001600frequency(Hz) (b) FFT results (0~frequency of wing) Fig.6 FFT results of EM sensor CH2 (600rpm)電磁診断技術は直接羽根を測定しているので、羽 根の可視化が可能である。全ての羽根について一枚 一枚見分けることが可能であり、羽根の脱落や変形 を検出可能と考えられる。また、羽根の周波数が FFT の結果から高精度で確認できるので、インペラの回 転速度も極めて高精度で測定できる。3.2 回転速度の高精度検出により外乱検出小型電動タービンの試験では、一回の測定の時間 は 10s であるので、FFT により確認される羽根の周 波数の精度は 0.1Hz。羽根の枚数が 102 枚で、また 周波数を rpm に換算すると、インペラの回転速度の 検出精度は 0.06rpm 以上であることが分かった。電 動タービンまたは実機蒸気タービンでは、回転速度 をある程度制御して運転しているが、一時的な外乱 により速度が不安定になる過渡現象が起こる可能性 がある。 - 小型タービン試験では、高圧気流で羽根を強制的 に振動させる加振試験を実施した。羽根の形状、回 転方向と加圧気流の方向を Fig.7 に示す。高圧気流 によって、インペラの回転が速くなることが分かっ た。加振前後の回転速度を電磁信号の FFT で表した 結果、Fig.8 に示したように、加振後の羽根周波数(回転速度と比例している)は僅かながら加振前の羽根 周波数より大きい。加振により回転速度の増加が有 意に見られる。 1 回転速度の高精度検出により予期外の外乱を検出 することが可能であり、タービンの運転の安定性指 標としてタービンの状態を評価することが可能と考 える。羽根形状の概略図加?流方向羽根 加?气流方向加圧気流によって 加速効果あり回転方向Fig.7 Accelerating effect of high-pressure air1200Spectrum (enlarge) of 600rpm (ch2)without vibration0.3Amplitude (v)TTTTTTTTTTTTTT0.050102851031010290 1029510300frequency(*0.1H2) (a) Frequency of wing (600rpm case)Spectrum (enlarge) of 1500rpm (ch2)......... ..without vibration with vibrationAmplitude (v)““2564025645256601970/04/071970/03/2325655 frequency(*0.1 Hz)(b) Frequency of wing (1500rpm case) Fig.8 Change of rotation speed due to acceleratingeffect of high-pressure air3.3 羽根の振動分析タービン試験の電磁信号の測定サンプルレートは 50kHz、また信号処理の際に 10kHz のローパスフィ ルターをかけている。従って、電磁診断の検出信号 は 0~10kHz の範囲内の情報を全て反映している。 但し、直接全周波数帯を見ると、必要な情報が他の 信号に埋められ、加振による変化(羽根の振動の増 加)を見分けることが困難となる。この問題を解決 するため、信号処理においてバンドパスフィルター を使用し、ある特定周波数帯の情報を抽出して分析1900/04/13する方法を採用した。 ・回転速度 300rpm~1800rpm 全ケースの測定結果か ら、周波数帯ごとの有効値(RMS)を分析した。回 転速度 600rpm の信号に対して周波数帯の RMS の分 析結果を Fig.9 に示す。各図において、(a) は 1-2kHz の周波数帯、(b) は 2-3kHz の周波数帯、(c) は 3-4kHz の周波数帯の RMS 分析結果を示したものである。 図の横軸の 1-5 は5回の測定結果に対応し、平均は 5回の結果を平均したものに対応している。 245.10245,001900/08/31 21:36:00信号のRLS(ml)244.8一加振前 加振後この日、アルJKT VIVIEWに行くのか められる。加振後の RMS の増加と測定結果の標準偏差の日 a の周波数ごとの分析結果を Fig.10 に示す。RM の増加量が 30 より大きいという基準で選定すれば 600pm のケースでは 1kHz~3kHz の周波数帯におい て、1500rpm のケースでは 2kHz~3kHz の周波数帯 において有意な増加が確認された。ちなみに、ひす みゲージによる測定では羽根の固有振動数は主に 2kHz~3kHz の範囲内であることが分かり、電磁司 断もこの固有周波数帯の振動の増加を確認すること ができたと言える。244.7244.6244.512345 平均(a) Frequency band 1-2kHz33.543.3.52...1900/02/01 12:00:00185ORNIS(m1)( 加振後のRISの増加:測定結果の標準偏差の出*加振前 参加版後1900/02/01 11:02:24244.3がきたと言える。12345 平均(a) Frequency band 1-2kHz1900/02/01 12:57:361900/02/01 12:28:48...~33.50ORNIS(m1)加振後のRAISの増加:測定結果の標準偏差の比+加振前 *加後、1233.460-10401000-2000300000-10930400019-500033.122010-30000 周波数帯(Hz)平均(a) 600rpm case(b) Frequency band 2-3kHz5.955.945.235.2GSORNIS(m1)加最後のRISの増加:測定結果の標準偏差の比3.91*加振前 普加振後、30005.895.8810-101010000-200003000-1004000-50005.872000-3000周波数帯(Hz)(b) 1500rpm case (c) Frequency band 3-4kHz Fig.9 Change in RMS according to frequency bandFig.10 Increase of RMS by standard deviation (results of 600rpm cases)* 各回転速度の測定においても、羽根固有周波数帯 回転速度 600rpm のケースでは、Fig.9(a)と Fig.9(6) 2kHz~3kHz に加振による振動の増加が検出した。 (1-2kHz と 2-3kHz)に加振後の RMS の増加が明確 また、回転速度により羽根の振動信号が調波され、 二確認できた。Fig.9(c) (3-4kHz)では一部の RMS 周波数の敏感帯と不感帯が存在すると分かった。 ・回転速度 600rpm のケースでは、Fig.9(a)と Fig.9(6)(1-2kHz と 2-3kHz)に加振後の RMS の増加が明確 に確認できた。Fig.9(c) (3-4kHz)では一部の RMS の増加が確認できないが、5 回の平均値では加振後 の RMS が大きい。また、5回の測定値においてもば同じ振動を測定するといっても、タービンの滑り ば 軸受部の振動診断と異なり、電磁診断は直接に羽- 105 - よりて、RMS う一ある。いる。大き と認この比 らつきが存在しており、RMS の増加がばらつきより 大きいかどうか評価する必要がある。ここでは周波数帯の RMS の評価結果を用いて、 三つのパラメータを抽出する。一つは加振後の RMS の平均 S、一つは加振前の RMS の平均 So、もう一 つは加振前の5回測定の RMS の標準偏差o である。 RMS の増加を規格化するため、以下の式を用いる。___a=(SI- S)/ 一般的に、a が 1より大きく、特に 2, 3 より大き い場合、加振前後の RMS には有意な差があると認 められる。 - 加振後の RMS の増加と測定結果の標準偏差の比 a の周波数ごとの分析結果を Fig.10 に示す。RMS の増加量が 30 より大きいという基準で選定すれば、 600pm のケースでは 1kHz~3kHz の周波数帯におい て、1500rpm のケースでは 2kHz~3kHz の周波数帯 において有意な増加が確認された。ちなみに、ひず みゲージによる測定では羽根の固有振動数は主に 2kHz~3kHz の範囲内であることが分かり、電磁診 断もこの固有周波数帯の振動の増加を確認すること ができたと言える。 * 各回転速度の測定においても、羽根固有周波数帯 2kHz~3kHz に加振による振動の増加が検出した。 また、回転速度により羽根の振動信号が調波され、 周波数の敏感帯と不感帯が存在すると分かった。 同じ振動を測定するといっても、タービンの滑り 軸受部の振動診断と異なり、電磁診断は直接に羽根の振動を不接触で検出するので、羽根の損傷を 早期的に検出することが期待できる。4.結言 高温超電導電磁石で励磁し、羽根近傍の検出コイ ルで検出することで、小型の試験用電動駆動タービ ンを対象に試験を実施した。本研究で得られた結果 を以下にまとめる。 * 1. 高温超電導電磁石は従来の永久磁石に比べ、印加磁場を長距離まで到達させることが可能と 分かり、高温超電導電磁石によりケーシング外からの励磁の可能性が示された。 2. 電磁診断技術は直接羽根を測定しているので、羽根の可視化が可能である。全ての羽根につい て一枚一枚見分けることが可能であり、羽根の脱落や変形を検出可能と考えられる。 3. 回転速度の高精度検出により予期外の外乱を 検出することが可能であり、タービンの運転の 安定性指標としてタービンの状態を評価する ことが可能と考える。 4. 加振による羽根の振動を検出するために、周波数帯別に信号の RMS を分析し、加振後の RMS の平均値の増加を確認した。RMS の増加量と標 準偏差の比を用いることにより、この RMS の 増加は有意であることが確証され、この比が大 きい周波数帯は実際の羽根の共振周波数と一致していることが明らかになった。謝辞 ・ 本研究は株式会社日立製作所、中部電力株式会社 および北陸電力株式会社からの委託研究「回転体の 電磁診断研究その3」の成果の一部である。参考文献 [1] D. Kosaka, H. Huang, N. Yusa and K. Miya.“Electromagnetic Nondestructive Evaluation of Rotating Blades”. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,September 9-12, 2007. [2] H. Huang, R. Kayata, S. Perrin, N. Yusa and K.Miya, ““Numerical Analysis of an Electromagnetic Nondestructive Evaluation Method for Rotating Machinery,” Proceeding of the 14th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Xi'an, China, September 20-24, 2009.(in Press) [3] 萱田良,黄皓宇, Stephane Perrin, 真木紘一, 遊佐訓孝, 宮健三,“電磁診断装置「電磁郎」の開発, 検査技術, Vol.14, No.3, 55-61, 2009. [4] 黄皓宇, 柴下直昭, 釘本三男, 塚本透,“電磁診断技術を用いたタービン羽根の異常検出,““日 本保全学会第6回学術講演会,札幌市ホテルニ ューオータニ札幌, 2009年8月 3-5 日.106“ “?高温超電導電磁石を用いたタービン羽根の電磁診断“ “黄 宇,Haoyu HUANG,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,柴下 直昭,Naoaki SHIBASHITA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,塚本 透,Toru TSUKAMOTO
度で検出することが可能である事が判った。ただし、励磁のためにケーシング内部に永久磁石による構成 現状、ポンプインペラ、タービン羽根等の回転体 した電磁センサを長時間設置することが実機では不 の異常は、回転体の軸受の振動、軸受潤滑油の性状 可能であり、励磁方式については更に検討する必要 分析等の2次的なパラメータにより監視されている。 があった。解決案として、電磁センサの励磁部と検 一方、浜岡5号機の主タービン等で発生した低圧タ 出部を分離することが提案された。励磁部はケーシ ービン羽根の損傷事象では、軸受の振動の監視だけ ング外部から励磁し、オンオフできるように永久磁 ではタービン羽根の異常兆候の検知が困難であった。 石ではなく高温超電導電磁石を採用する。検出コイ ことから、タービン羽根が損傷に至る前に異常を検 ルはタービンに悪影響を与えることがないので、イ 知できる技術のニーズが高まっている。ンペラの近傍に設置することが可能と考えられる。 - 最近の研究において、回転機器の内部回転体の状1本研究では実機タービンへの適用について検討す 態を、ケーシングの外側から電磁的に診断する技術 ることより実用化検討を進め、原子力発電所の信頼 の検討が進められている[1]。これは、非破壊検査技性向上に資することを目的とする。その第一歩とし 術として実用化されている渦電流探傷試験の技術をて、小型の試験用電動駆動タービンを用いた試験・ 発展させたものであり、本技術が実用化できれば、 分析を実施した。 既存設備の大幅な改造無しに内部回転体の状態監視
2. 小型電動タービンの試験 精度を向上させることが期待できる。
これまでに、電磁診断技術を用いてポンプのイン タービン測定への電磁診断技術の有効性を確認す ペラや軸受等の回転体の状態診断を検討してきた[2, るため、株式会社日立製作所構内における小型の試 31。また、タービンについては数値解析を行い、適 験用タービンを対象に試験を実施する。平成 20 年度 用の可能性も確認できた。平成 20 年度では、小型の の試験に使われた永久磁石タイプ電磁センサの問題 試験用タービンにおけるデータ採取を行い、タービ 1点を解決し、タービン羽根の検出性を確認する。 ン羽根への電磁診断技術適用の有効性と問題点を抽 出した[4]。その結果、タービンのケーシング内に電 2.1 ケーシング外部励磁のための磁気回路 磁センサを置くことができれば、羽根の信号を高精本研究では、電磁診断技術を実機適用するため、 連絡先: 黄皓宇,〒110-0008 東京都台東区池之端タービンのケーシングの外部からの電磁石励磁を検 2-7-17 井門池之端ビル 7F, 株式会社 IIU, 電話:討した。一般的に、磁石から発生する磁場の強度は 03-5814-5350, E-mail: huang@iiu.co.jp101距離によって指数的に減少するので、タービンのケ ーシング外部からの励磁では羽根まで届く磁場は極 めて弱い。また、オンオフできる電磁石では、強い 磁場を発生するために電磁石が巨大化になってしま う問題が存在する。これらの問題を解決するには、まず励磁用に高温 超電導電磁石を使用する。超電導励磁コイルを窒素 で冷却することで、最大 50A までの励磁電流を使用 することができ、最大 1-2T の強い磁場を発生させる ことができる。次に、磁場減衰の問題を解決するた めに、ケーシングと内部の構造物などの磁性体を利 用し、鉄心と鉄脚を用いて磁気回路を構成させる。 ・タービンのケーシング外部から励磁するための磁 気回路の断面図を Fig.1 に示す。赤い矢印は磁気回 路中の磁束の流れを示している。高温超電導電磁石 から発生した磁場は、鉄心の誘導によりケーシング まで無減衰に届くが、磁束の90%以上は最も近いケ ーシングの壁に沿って流される。残る磁束は両側の ケーシング壁に沿って流れ、インペラの回転軸また は鉄脚・羽根の回路から戻る。ただし、鉄脚と羽根 の間には空気ギャップが存在するので、回転軸の磁 束の分流は 90%以上となる。鉄脚の磁束は空気中に 発散し、一部が希望通り羽根まで届く。数値計算の 結果では、高温超電導電磁石(励磁電流 10A)から 発生した最大磁場は 1.2T に対して、鉄脚と羽根の空 気ギャップまで届く磁場はわずか 1.7mT であり、ほ ぼ千分の一まで減衰した。ただし、平成 20 年度の測 定結果から、検出コイルは可能の限り羽根に近づけ ば mT 単位の磁場でも羽根を検出することが可能と 概算した。 →磁気回路羽根に通る磁気回路(空気ギャップがあるため、弱くなる)ギャップ、ケーシング高温超電不 導電磁石川」羽根10鉄心跌脚Fig. 1 Magnetic circuit for excitation2.2 高温超電導電磁石と検出コイル- 高温超電導電磁石の仕様を Table 1 に示す。超電導 コイルに流れる臨界電流は 50A で、鉄心を構成する 磁性材料の磁気特性は線形であれば 6T までの磁場 を発生させることができる。しかし、一般的な磁性 材料は非線形特性を持ち、また飽和磁束密度が存在 しており、励磁電流に比例して磁場が強くなること はない。材料の飽和磁束密度に制限され、高温超電 導電磁石の磁場は最大でも 2T が限界と数値解析の 結果から分かった。励磁部の高温超電導電磁石はケーシングの外部に 設置したが、検出コイル部は羽根の近傍に設置する必要がある。Fig.1 に示した鉄脚の先端に、135 の ねじ状のセンサーコアを設計した。このコアは、磁 気回路の一部となる以外に検出コイルのコアとして 働き、検出する磁場を集中させる役割を果たしてい る。コアの直径は 35mm、長さは 40mm、検出コイ ルの巻数は 500 ターンである。センサの検出部の写 真をFig.2 に示す。電圧信号は BNC コンネクターよ りアンプ・フィルターに送る。検出部を装着する前 のタービン内部の写真を Fig.3 に示す。検出コイル は羽根を挟む形で両側に配置する。コアにはねじ切 りしており、鉄脚にねじこめば装着且つ距離の調節 が可能となる。Table1 Specification of superconductivity magnet 部品名仕様 内径185mm外径210mm高温超電 導コイル厚み40mm巻き数186ターン臨界電流50A 概要 | 発泡スチロール製簡易断熱容器 高さ365mm断熱容器284mm112mm奥行き 鉄心穴横 100mm×縦 110mm検出コイルコアFig.2 Pickup coil and core with screwセンサを装着 するねじ穴。Fig.3 Iron leg and impeller of the turbine1022.3 測定システムと試験内容電磁診断システムは Fig.4 に示す。電磁センサを 対象物であるインペラの羽根の軸方向に配置し、ア ンプを用いて検出コイルに誘導される電圧を増幅し、 その電圧を AD 変換によってパソコンに取り込む。 高周波ノイズを除去するため、ポンプのインペラを 測定する際には 10kHz ローパスフィルターをかける ことが一般的であるが、タービン羽根の枚数は 102 枚もあり信号の周波数成分が高いと予想し 50kHz の ローパスフィルターを使用することにした。 - 検出センサを装着した鉄脚とインペラの写真 Fig.5 に示す。センサの表面から羽根までの最も短い 距離は 5mm だが、羽根は平面状ではないので、セ ンサと羽根の距離は大体 5-10mm である。また、Fig.1 の鉄脚部分と異なって、破線で示したバイパス構造 があり、磁束がバイパスに流れ込むことが予想でき る。ただし、数値計算の結果ではセンサと羽根の間 の空気ギャップの磁束密度は 1.7mT (バイパス無し) から 1.2mT(バイパス有り)に減少したが、検出す ることには支障がないと考えられる。また、それを 補うために超電導コイルの励磁電流を最適化し、 25A に選定した。AnalogDigitalProbeDC AmplifierPCLow PassFilterLow PassRaw DataGainGainAVD ConverterData FileFig.4 Block diagram of measurement systemCH2CH1検出センサバイパスFig.5 Block diagram of measurement system小型電動タービンの試験は Table 2 に示した条件 で、測定時間は 10s/回で各ケースにおいて5回を測 定した。インペラの回転速度は 300、600、900、1200、 1500、1800rpm の計6ケースを対象とし、回転速度 が安定した状態で測定を行った。また、インペラ羽 根の振動の検出可能性を調べるため、高圧気流で羽 根を振動させ、各回転速度において加振の有無それ ぞれ2ケースを計測した。測定結果からタービン羽根の信号を確認すること ができた。測定データをパソコンに保存し、試験後に詳細分析を実施する。Table 2 Times of acquisition of each condition 回転数(rpm) 加振なし加振有り 300105/回, 5回 105/回, 5回 600 105/回, 5回10s/回, 5回 900 10s/回, 5回10s/回,5回 1200 105/回, 5回105/回,5回 1500 10s/回.5回10s/回, 5回 1800 10s/回, 5回10s/回, 5回3.タービンの測定信号の分析測定信号を用いて解析し、羽根の検出信号、回転 周波数などの情報を取り出す。また、加振試験の検 出信号を用いて羽根振動の増加の検出と振動増加の 周波数帯の特定を試み、インペラ羽根の異常兆候を 検知するための信号解析手法を開発する。3.1 羽根の検出信号Fig.5 に示した検出センサは左右対称二つを設置 したが、それぞれ面する羽根の形状が異なるので、 検出信号も異なる。ここでは、得られた信号が大き い左側のセンサの信号(CH2)を対象として議論す る。電磁センサ CH2 の検出信号を Fig.6 に示す。各図 において、(a) は 2回転間の検出信号、(b)は 1/2 回 転間の検出信号を示したものである。 Fig.6(a)には電 磁信号の周期性が見られ、Fig.6(b)には羽根の一枚一 枚の信号を確認することができる。Raw signal in 2 turns of 600rpm (ch2)一回転 ...Voltage (V)11.44-1-1.510.000.020.040.060.080.12.0.140.160.180.20.10. time(s)(a) Signal of 2 turnsRaw enlarge signal of 600rpm (ch2)羽根一枚一枚の信号........Voltage (V)-1.540.0000.0050,010 0.0150.020 0.0250,0300.0350,04000450.050time(s)(b) Signal of 1/2 turn Fig.6 Raw signal of EM sensor CH2 (600rpm)103また、同じ CH2 の検出信号の FFT 結果を Fig.7 に 示す。各図において、(a) は 0~10kHz までの FFT の結果、(b) は FFT の結果を 0~羽根周波数まで拡 大した図を示したものである。FFT の結果では、信 号の周波数帯の分布、羽根周波数 (回転周波数*羽根 ・枚数)、羽根周波数成分の大きさを確認できる。Spectrum (0-10kHz) of 600rpm (ch2)0.301( )羽根周波数Amplitude (v)010009000100002.000300040005E+27frequency(Hz)(a) FFT results (0~10kHz)Spectrum (0-wing frequency) of 600rpm (ch2)0.307114羽根周波数Amplitude (v)0.10.05020040080012001600frequency(Hz) (b) FFT results (0~frequency of wing) Fig.6 FFT results of EM sensor CH2 (600rpm)電磁診断技術は直接羽根を測定しているので、羽 根の可視化が可能である。全ての羽根について一枚 一枚見分けることが可能であり、羽根の脱落や変形 を検出可能と考えられる。また、羽根の周波数が FFT の結果から高精度で確認できるので、インペラの回 転速度も極めて高精度で測定できる。3.2 回転速度の高精度検出により外乱検出小型電動タービンの試験では、一回の測定の時間 は 10s であるので、FFT により確認される羽根の周 波数の精度は 0.1Hz。羽根の枚数が 102 枚で、また 周波数を rpm に換算すると、インペラの回転速度の 検出精度は 0.06rpm 以上であることが分かった。電 動タービンまたは実機蒸気タービンでは、回転速度 をある程度制御して運転しているが、一時的な外乱 により速度が不安定になる過渡現象が起こる可能性 がある。 - 小型タービン試験では、高圧気流で羽根を強制的 に振動させる加振試験を実施した。羽根の形状、回 転方向と加圧気流の方向を Fig.7 に示す。高圧気流 によって、インペラの回転が速くなることが分かっ た。加振前後の回転速度を電磁信号の FFT で表した 結果、Fig.8 に示したように、加振後の羽根周波数(回転速度と比例している)は僅かながら加振前の羽根 周波数より大きい。加振により回転速度の増加が有 意に見られる。 1 回転速度の高精度検出により予期外の外乱を検出 することが可能であり、タービンの運転の安定性指 標としてタービンの状態を評価することが可能と考 える。羽根形状の概略図加?流方向羽根 加?气流方向加圧気流によって 加速効果あり回転方向Fig.7 Accelerating effect of high-pressure air1200Spectrum (enlarge) of 600rpm (ch2)without vibration0.3Amplitude (v)TTTTTTTTTTTTTT0.050102851031010290 1029510300frequency(*0.1H2) (a) Frequency of wing (600rpm case)Spectrum (enlarge) of 1500rpm (ch2)......... ..without vibration with vibrationAmplitude (v)““2564025645256601970/04/071970/03/2325655 frequency(*0.1 Hz)(b) Frequency of wing (1500rpm case) Fig.8 Change of rotation speed due to acceleratingeffect of high-pressure air3.3 羽根の振動分析タービン試験の電磁信号の測定サンプルレートは 50kHz、また信号処理の際に 10kHz のローパスフィ ルターをかけている。従って、電磁診断の検出信号 は 0~10kHz の範囲内の情報を全て反映している。 但し、直接全周波数帯を見ると、必要な情報が他の 信号に埋められ、加振による変化(羽根の振動の増 加)を見分けることが困難となる。この問題を解決 するため、信号処理においてバンドパスフィルター を使用し、ある特定周波数帯の情報を抽出して分析1900/04/13する方法を採用した。 ・回転速度 300rpm~1800rpm 全ケースの測定結果か ら、周波数帯ごとの有効値(RMS)を分析した。回 転速度 600rpm の信号に対して周波数帯の RMS の分 析結果を Fig.9 に示す。各図において、(a) は 1-2kHz の周波数帯、(b) は 2-3kHz の周波数帯、(c) は 3-4kHz の周波数帯の RMS 分析結果を示したものである。 図の横軸の 1-5 は5回の測定結果に対応し、平均は 5回の結果を平均したものに対応している。 245.10245,001900/08/31 21:36:00信号のRLS(ml)244.8一加振前 加振後この日、アルJKT VIVIEWに行くのか められる。加振後の RMS の増加と測定結果の標準偏差の日 a の周波数ごとの分析結果を Fig.10 に示す。RM の増加量が 30 より大きいという基準で選定すれば 600pm のケースでは 1kHz~3kHz の周波数帯におい て、1500rpm のケースでは 2kHz~3kHz の周波数帯 において有意な増加が確認された。ちなみに、ひす みゲージによる測定では羽根の固有振動数は主に 2kHz~3kHz の範囲内であることが分かり、電磁司 断もこの固有周波数帯の振動の増加を確認すること ができたと言える。244.7244.6244.512345 平均(a) Frequency band 1-2kHz33.543.3.52...1900/02/01 12:00:00185ORNIS(m1)( 加振後のRISの増加:測定結果の標準偏差の出*加振前 参加版後1900/02/01 11:02:24244.3がきたと言える。12345 平均(a) Frequency band 1-2kHz1900/02/01 12:57:361900/02/01 12:28:48...~33.50ORNIS(m1)加振後のRAISの増加:測定結果の標準偏差の比+加振前 *加後、1233.460-10401000-2000300000-10930400019-500033.122010-30000 周波数帯(Hz)平均(a) 600rpm case(b) Frequency band 2-3kHz5.955.945.235.2GSORNIS(m1)加最後のRISの増加:測定結果の標準偏差の比3.91*加振前 普加振後、30005.895.8810-101010000-200003000-1004000-50005.872000-3000周波数帯(Hz)(b) 1500rpm case (c) Frequency band 3-4kHz Fig.9 Change in RMS according to frequency bandFig.10 Increase of RMS by standard deviation (results of 600rpm cases)* 各回転速度の測定においても、羽根固有周波数帯 回転速度 600rpm のケースでは、Fig.9(a)と Fig.9(6) 2kHz~3kHz に加振による振動の増加が検出した。 (1-2kHz と 2-3kHz)に加振後の RMS の増加が明確 また、回転速度により羽根の振動信号が調波され、 二確認できた。Fig.9(c) (3-4kHz)では一部の RMS 周波数の敏感帯と不感帯が存在すると分かった。 ・回転速度 600rpm のケースでは、Fig.9(a)と Fig.9(6)(1-2kHz と 2-3kHz)に加振後の RMS の増加が明確 に確認できた。Fig.9(c) (3-4kHz)では一部の RMS の増加が確認できないが、5 回の平均値では加振後 の RMS が大きい。また、5回の測定値においてもば同じ振動を測定するといっても、タービンの滑り ば 軸受部の振動診断と異なり、電磁診断は直接に羽- 105 - よりて、RMS う一ある。いる。大き と認この比 らつきが存在しており、RMS の増加がばらつきより 大きいかどうか評価する必要がある。ここでは周波数帯の RMS の評価結果を用いて、 三つのパラメータを抽出する。一つは加振後の RMS の平均 S、一つは加振前の RMS の平均 So、もう一 つは加振前の5回測定の RMS の標準偏差o である。 RMS の増加を規格化するため、以下の式を用いる。___a=(SI- S)/ 一般的に、a が 1より大きく、特に 2, 3 より大き い場合、加振前後の RMS には有意な差があると認 められる。 - 加振後の RMS の増加と測定結果の標準偏差の比 a の周波数ごとの分析結果を Fig.10 に示す。RMS の増加量が 30 より大きいという基準で選定すれば、 600pm のケースでは 1kHz~3kHz の周波数帯におい て、1500rpm のケースでは 2kHz~3kHz の周波数帯 において有意な増加が確認された。ちなみに、ひず みゲージによる測定では羽根の固有振動数は主に 2kHz~3kHz の範囲内であることが分かり、電磁診 断もこの固有周波数帯の振動の増加を確認すること ができたと言える。 * 各回転速度の測定においても、羽根固有周波数帯 2kHz~3kHz に加振による振動の増加が検出した。 また、回転速度により羽根の振動信号が調波され、 周波数の敏感帯と不感帯が存在すると分かった。 同じ振動を測定するといっても、タービンの滑り 軸受部の振動診断と異なり、電磁診断は直接に羽根の振動を不接触で検出するので、羽根の損傷を 早期的に検出することが期待できる。4.結言 高温超電導電磁石で励磁し、羽根近傍の検出コイ ルで検出することで、小型の試験用電動駆動タービ ンを対象に試験を実施した。本研究で得られた結果 を以下にまとめる。 * 1. 高温超電導電磁石は従来の永久磁石に比べ、印加磁場を長距離まで到達させることが可能と 分かり、高温超電導電磁石によりケーシング外からの励磁の可能性が示された。 2. 電磁診断技術は直接羽根を測定しているので、羽根の可視化が可能である。全ての羽根につい て一枚一枚見分けることが可能であり、羽根の脱落や変形を検出可能と考えられる。 3. 回転速度の高精度検出により予期外の外乱を 検出することが可能であり、タービンの運転の 安定性指標としてタービンの状態を評価する ことが可能と考える。 4. 加振による羽根の振動を検出するために、周波数帯別に信号の RMS を分析し、加振後の RMS の平均値の増加を確認した。RMS の増加量と標 準偏差の比を用いることにより、この RMS の 増加は有意であることが確証され、この比が大 きい周波数帯は実際の羽根の共振周波数と一致していることが明らかになった。謝辞 ・ 本研究は株式会社日立製作所、中部電力株式会社 および北陸電力株式会社からの委託研究「回転体の 電磁診断研究その3」の成果の一部である。参考文献 [1] D. Kosaka, H. Huang, N. Yusa and K. Miya.“Electromagnetic Nondestructive Evaluation of Rotating Blades”. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,September 9-12, 2007. [2] H. Huang, R. Kayata, S. Perrin, N. Yusa and K.Miya, ““Numerical Analysis of an Electromagnetic Nondestructive Evaluation Method for Rotating Machinery,” Proceeding of the 14th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Xi'an, China, September 20-24, 2009.(in Press) [3] 萱田良,黄皓宇, Stephane Perrin, 真木紘一, 遊佐訓孝, 宮健三,“電磁診断装置「電磁郎」の開発, 検査技術, Vol.14, No.3, 55-61, 2009. [4] 黄皓宇, 柴下直昭, 釘本三男, 塚本透,“電磁診断技術を用いたタービン羽根の異常検出,““日 本保全学会第6回学術講演会,札幌市ホテルニ ューオータニ札幌, 2009年8月 3-5 日.106“ “?高温超電導電磁石を用いたタービン羽根の電磁診断“ “黄 宇,Haoyu HUANG,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,柴下 直昭,Naoaki SHIBASHITA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,塚本 透,Toru TSUKAMOTO