大規模複雑プラントシステムにおける保全活動の有効性評価方法に関する研究

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
一般に保全活動は、次のような手順で実施され る。すなわち、プラント設備等を構成する機器が経 年劣化あるいは機能異常を起こすことは必然との基 本的認識に立ち、その劣化状態を把握するために検 査・モニタリング等の保全行為を「計画」し、それ を「実行」する。そして、その結果得られる機器の 保全データ(検査結果など)を用いて、その時点お よび将来における機器の健全性を「評価」し、その 評価結果に応じて運転継続するか、補修を実施する か等の必要な「是正措置」を計画、実行するととも に、それらの結果を次の保全計画に反映する。この ように、保全活動は、計画(Plan)、実施(Do)、評価 (Check)、是正措置(Act)の、いわゆる保全サイクル (PDCA) を構成しているリ(Fig.1-1)。保全を最適化する場合、まず最適保全とは何を 以って最適あるいは最良というかである。保全は一 般に劣化という自然現象だけでなく、人間の判断が 入る現象であるので、物理現象のように条件が与え られれば一義的に最適解が得られるようなものでは ない。したがって、漠然と最適、最良というと、最 良の人生とは何かを追求するのと同様、無限の問題、 解けない問題となる。したがって、保全を最適化 するには、保全を検討する時点において最適あるい は最良と考えられる保全目標を具体的に設定し、そ れを継続的に追求、実現しようとする問題、すなわ ち有限の問題に置き換えて解を求める必要がある (Fig.1-2)。ここで、保全目標は、保全法則が安全 性の最大化と経済性の最大化を同時に要求しており 4、これが保全の目的であるので、安全性と経済性の2つの目標を設定する必要がある。また、この目 標は具体的な数値目標とし、これらを定量的に評価 できるようにする必要がある。一方、Fig.1-1に示すように、保全活動の中には 上記の保全サイクルと並行して保全が有効に機能し ているか監視するため、その監視活動を行うことが 想定されている。この監視活動ではプラント設備等 の安全性と経済性に対して保全活動監視指標(いわ ゆる Performance Indicator。以下PI という。)を設 定し、予め定められた保全目標に対してこれまでの 保全が有効であったか評価される。これは、これま での保全の結果である PI 値がどのような値を示し、 保全目標との差を確認してこれまでの保全活動が有 効であると評価できるか、有効でないとすればこれ までの保全の何をどう改善すればよいか、などにつ いて検討、評価することを意図した活動である。し かしながら、前述の保全目標と予め設定すべき PI との関係、PIと保全活動に関する各種の保全キー パラメータとの関係など、必ずしも明確であるとは 言い難い。そこで、本研究では、大規模複雑プラントシス テムである原子力発電所を念頭に、これらの内容を 明確にするとともに、保全活動の有効性を定量的に 評価する方法とその考え方について検討する。
2. 保全活動の有効性評価 2.1 保全有効性評価の目的
「保全活動が有効である」とは何を以って有効 と言えるのであろうか。何を以って有効とするので あろうか。プラント設備等を運用する目的は、社会が必要 とするもの(生産物あるいは製品)を安全に、しか もタイムリーに供給することである。これは取りも 直さず、前述の保全法則の要求(安全性の最大化と 経済性の最大化のバランスを追求)を満足させるこ とである。そして、保全法則の要求を前述のように 有限の問題に置き換えるために、具体的な保全目標 を設定し、それを達成することである。したがって、 保全有効性評価の内容はこれまでの保全活動が保全 法則の要求を踏まえて設定された保全目標(安全目 標と経済目標)を達成しているか否かを評価し、こ れまでの保全を是正する方向を示せるものでなけれ ばならない。以上より、保全有効性評価の目的は、これまで の保全活動の結果が保全目標を達成しているか否か を評価し、その結果に基づき現状保全の何をどう改 善すればよいか、その方向性を示すことであると言 える。2.2 保全有効性評価のための評価項目原子力発電所の保全活動の場合、前述の保全法 則が要求する安全性については、炉心損傷頻度(CDF: Core Damage Frequency)を用いて評価する ことが定着している。特に、米国 NRCは原子炉監 視プロセス(ROP: Reactor Oversight Process) 5110の もとで原子力発電所の運転パフォーマンスを評価し ており、これにはリスク情報に基づく考え方に従っ て7つの分野において監視指標を設定している。こ の中で保全に関するものは、原子炉事故に発展する 恐れのある事象の発生頻度を低く抑える観点から下 記があげられている[7]。 *起因事象に関する監視指標(計画外スクラム回数、出力変動回数) *緩和系に関する監視指標(安全系の非待機時間 (UA 時間: Un availability Time)、安全系の保全 で予防可能な機能故障回数(MPFF 回数: Number of Maintenance Preventable Function Failure) *バリア健全性に関する監視指標(燃料被覆管漏 えい、一次冷却材系漏えい)なお、米国 NRCは保全に関する監視指標の他、「放 射線安全」および「安全保障」に関する監視指標を 設定しているが、本研究では原子力発電所の保全活 動に関する事項を対象としているので、これらにつ いては検討対象外とした。以上のように、米国 NRCは原子炉事故に発展す る恐れのある事象である「起因事象(スクラムと出 力変動)」「安全系の故障」および「RCS の漏えい」 に着目している。これらは原子炉事故に発展する恐 れのある事象として網羅的であり、また後述するよ うに、これらの事象は保全活動のパフォーマンスの 良否が如実に現れる保全キーパラメータと強く関連 しており、さらに容易にカウントできる事象である という PIに不可欠な特性も有している。したがっ て、これらは安全性に対する保全の有効性を評価、 確認するためのものとして極めて妥当であると考え られる一方、前述の保全法則が要求する経済性につい ては、投入した保全費用に対して得られる発電電力 量の比である保全費発電単価が経済性に関する保全 活動のパフォーマンスを評価するものとして最も相 応しいと考えられる。保全費用 保全費発電単価 =発電電力量 この保全費発電単価を出発点に保全費発電単価に強 く影響する因子を具体的に検討し展開した。保全費は、保全の有効性を確認する観点から計 画外の保全費に着目し、プラント停止、出力低下お よび出力影響なしの3つの場合を網羅的に想定する とともに、発電損失量に相当する発電損失費用も復 旧費用の中にカウントするようにした。ここで、プ ラント停止は、常用系の MPFFによるプラント停止 と待機系(安全系)の MPFF で許容待機除外時間 (AOT: Allowed Outage Time)内に復旧できないこ
とによるプラント停止がある。出力低下は、常用系 の MPFF による部分出力運転がある。出力影響なし は、上記以外のプラント出力に影響しない MPFF に よる故障の是正費用である。発電電力量はプラント出力が変化する「プラン ト停止」と「出力低下」の2つの場合を想定し、前 述の安全性指標と同様、復旧に要する時間と MPFF 回数をそれぞれ考慮する。以上、安全性指標と経済性指標について検討し た内容をまとめて Table 2-1に示す。2.3 保全有効性評価項目とその影響因子これまでに述べた安全性および経済性に関する 項目は、保全活動の有効性を確認するために必要で あると考えられるが、これらに対し保全の観点から どのような保全キーパラメータが関与しているか、 以下に検討する。保全活動の有効性を確認するために必要な評価 項目 PIは、機器に保全で予防可能な機能故障 (MPFF)が発生した時に顕在化するものをカウント して評価される。これらの評価項目を見ると、これTable 2-1 Study on Maintenance Performance Indicators developed from the Viewpoint of Maintenance Law保全活動の有効性を確認するために必要な評価項目(PI)左記評価項目の影響因子正常正常待機時間計画外自動/手動スクラム回数 正常な熱除去機能の喪失を伴う計画外スクラム回数起因事象●MPFF が発生した機器 (保全重要度)計画外出力変動回数安全性指標s | 炉心損傷リスク (安全性リスク)CDF●MPFF 時の復旧に要す る時間(保全実行部隊 の作業遂行能力)安全系の UA 時間非正常緩和系安全系の MPFF 回数RCS 漏えい率が基準値を超えた回数●MPFF が発生した機器 の故障頻度(それまで に施した保全内容)バリア 健全性燃料被覆管漏えい(RCS 比放射能が基準値を超えた回数)計画計画通り使用した保全費用計画保全費用消化率常用系機器のMPFF によるプラント停止時 における復旧費用●MPFF が発生した機器 (保全重要度)待機系機器の MPFF によるプラント停止時 における復旧費用修繕費用●MPFF 時の復旧に要す る時間(保全実行部隊 の作業遂行能力)計画外MPFF 時の復旧に要した合計費用 (復旧費用=是正費用+発電損失費用) (発電損失費用=3D低下出力×DT/PP 時間×発電単価)プラント停止 一出力低下 出力影響無し常用系機器の MPFF による出力低下時に おける復旧費用●MPFF 時の復旧に要す る是正費用(保全要 員、材料等の調達価 格)経済性指標E●MPFF が発生した機器 の故障頻度(それまで に施した保全内容)上記以外の是正費用修繕費発電單個(経済性リスク)生産電力量 (生産電力量=出力×OT 時間)設備利用率(運転時間)MPFF によるプラント 停止時の復旧に要す る時間(DT 時間)●MPFF が発生した機器 (保全重要度)発電電力量計画外プラント停止 | 出力低下●MPFF 時の復旧に要す る時間(保全実行部隊 の作業遂行能力)MPFF で発生した合計発電損失電力量 (発電損失量%3D低下出力×DT/PP 時間)MPFFによるプラント停 止に至る MPFF 回数 MPFF による出力低下 時の復旧に要する時 間(PP 時間)●MPFF 時の出力低下量 (経済重要度)出力低下に至る MPFF 回数●MPFF が発生した機器 の故障頻度(それまで に施した保全内容)UA: Unavailability RCS: Reactor Coolant System MRF: Maintenance Request FormMPFF: Maintenance Preventable Function Failure DT: Down Time OT: Operating Time PP: Partial Power
“ “大規模複雑プラントシステムにおける保全活動の有効性評価方法に関する研究“ “青木 孝行,Takayuki AOKI
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