原子炉熱出力向上が保全内容に及ぼす影響の概略評価結果について

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カテゴリ: 第7回
1はじめに
第二発電所での5%出力向上における影響とそれら 原子炉熱出力向上(以下、「出力向上」という。) についての主な評価結果を以下に記す。 は、運転中の原子力発電所の発電電力量を向上させなお、原子炉の運転圧力・温度、炉心流量及び再 る方策の1つとして、1970年代後半にスイス、 循環流量については、出力向上後も変更しない。 米国で初めて導入されて以降、欧米の数多くの発電 ・ 原子炉熱出力を増加させると、炉心の核的/熱 所に導入され、長期間に亘る良好な運転経験を有し 的裕度への影響が想定されるとともに、原子炉 ている。停止後の残留熱が約5%増えるが、原子炉冷却 出力向上を行うと発電所各部の温度、圧力、流量、 材喪失事故時のような場合においても、その影 電流などの運転パラメータが変わり、これにより機 響は小さく、出力向上前と同様、原子炉の安全 器・構築物に想定される経年劣化事象の発生・進展 性を十分確保できる。 特性が変化する可能性があるため、出力向上前の保 ・ 炉心での核分裂反応が増えて中性子束が約5% 全内容の追加・変更が必要となる可能性がある。増加し、原子炉圧力容器が受ける中性子照射量 本資料では、上記テーマについて、電力共通研究が増加するが、中性子照射脆化の進展に及ぼす で開発した標準的な原子炉出力向上に関する技術評 影響は小さい。 価手法”を用いて日本原子力発電線の東海第二発電 1. 蒸気流量及び給復水流量が約5%増加すること 所(1978 年 11月 28 日運転開始、BWR-5 電気出力 から、配管内面の減肉進展速度の増加が予想さ 110万kW) での5%出力向上計画を例に概略評価し れるが、その影響は小さく、現行の減肉管理手 た結果の概要を紹介する。法により十分管理できる程度である。また、蒸気流量の増加に対して、高圧タービン 2 東海第二発電所での5%出力向上計画の一部静翼の形状を流路断面積の大きいものに 東海第二発電所では、欧米での長期間にわたる変更し、増加した蒸気が円滑に流れるように改 * 出力向上の良好な運転実績を踏まえて、2003造を行う計画である。(図2参照) 年から東海第二発電所での出力向上の可能性に. 電気出力が約5%増加することから、発電機や変圧器等を流れる電流が増えるが、現行設備の ついての技術的検討(フィージビリティ・スタデ容量内であり、改造等は不要である。 ィ)を行ってきた。
【タービン/発電機系】 その結果、これまでに取り組んできた信頼性向上 対策と高経年化対策の観点からの定期的な点検や計 画的な設備の更新により新しくなった設備も活用す ることによって、原子炉熱出力及び電気出力を約 5%向上できることの技術的な見通しを得たことか ら、2007年5月に原子炉熱出力を約5%向上さ せる計画を公表している。 3 出力向上が発電所の各機器・構築物に及 ぼす影響【原子炉系】格1蒸気流量及び流速の増加による影響2中性子東増加) による影響195負荷の増加) による影響(8電流の増加による影響原子使圧力」気弁分分【電気設備レビン支所10核的/熱的。 (裕度への影響ポンプ(6タービン排熱の増加による影響 期永海水3残留熱増加 による影響サプレッションブール台水加水ポンプ7給復水流量及び流速増加による影響【復水/給水系】(原子炉出力向上に関する技術検討評価特別専門委員会 「原子炉出力向上の安全性に関する技術検討評価」告書 (平成19年10月 (社)日本原子力学会)を参考に作成)図1 出力向上による発電所各部への影響出力向上による運転パラメータの変化が発電所 連絡先:大畑仁史、〒101-0053 東京都千代田区神田美 土代町 1-1、発電管理室出力向上計画グループ、電話: 136 - 03-6371-7671、e-mail:hitoshi-ohata@japc.co.jp蒸気のみ込み対策 | 現状(改造前)出力向上後(改造後)駆動力が増加 ] 駆動力」 蒸気の流路断面積シ蒸気の流路断面積(増加)静翼の形状変更蒸氣流量【 蒸気流量が増加]動實酷我高圧タービン静翼2改造範囲低圧タービン高圧タービン電気出力 増加動力高圧タービン面図(片側上半)図2 高圧タービンの静翼改造の概要4 出力向上が保全内容に及ぼす影響上記3で述べたような出力向上が発生・進展特性 に影響を及ぼす主な経年劣化事象の中から、以下の 3事象を代表例として出力向上が保全内容に及ぼす 影響を概略評価した。 (1)原子炉圧力容器鋼材の中性子照射脆化の進展 (2)主蒸気系及び給復水系の配管、弁、並びにタ ・ーービン内部での減肉の進展 (3)電気品の絶縁特性の低下の進展上記評価結果の概要を以下の2つの観点に分けて 示す。 11 定期検査時に実施している通常の保全 2 高経年化技術評価結果に基づき中長期的な観点で追加すべき保全 4.1 通常の保全内容に及ぼす影響(1) 中性子照射脆化 原子炉圧力容器鋼材の中性子照射脆化の進展につ いては、炉内に装荷した監視試験片のこれまでの試 験結果を踏まえた上、運転実績に基づき評価時点の 中性子照射量を評価し、「JEAC 4201-2004 原子炉構 造材の監視試験方法」に規定されている国内脆化予 測式に基づき、脆化の進み具合を把握しており、低 温の状態で原子炉圧力容器に大きな力が掛かるよう な場合においても原子炉圧力容器が破壊しないよう に厳格に管理している。(非延性破壊の防止)東海第二発電所のような沸騰水型原子炉(BWR)の 場合は、原子炉停止及び運転中(事故時を含む)を 通じて、原子炉圧力容器の耐圧・漏えい試験時以外 には、低温で加圧される状態がないことから、耐圧・ 漏えい試験時の試験温度を適切に管理して加圧を行 うことで非延性破壊を防止することができる。東海 第二発電所においては、「JEAC 4206-2004 原子力発 電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」に規 定の破壊力学に基づく温度管理を行っている。 具体的には、耐圧・漏えい試験時点までの脆化の進み具合を加味して原子炉圧力容器鋼材の破壊靭性 値 Kic(=試験温度の関数)を算出するとともに、原 子炉圧力容器内面に保守的に大きな欠陥(板厚の 0.25 倍の深さ、板厚の 1.5倍の長さの半楕円上の欠 陥)を想定し、同欠陥に耐圧・漏えい試験時に発生 する応力拡大係数 K,(=試験圧力の関数)算出し、 [Ke > K, ] となる範囲として定められる圧力・ 温度制限曲線を作成し、この制限範囲内で昇温・加 圧操作を行っている。・漏えい試験:毎定期検査時、原子炉起動前に実施 ・耐圧試験:設備の取替・改造を行った場合に実施上述の非延性破壊防止のための管理方法は出力向 上後においても変更しない。ただし、出力向上によ り中性子束が約5%増加し、耐圧・漏えい試験時の 中性子照射量が出力向上前の予測値よりも若干増加 するため、これによる脆化の進展量を加味して圧 力・温度制限曲線を作成する。(2)減肉減肉の発生が想定される部位については、定期検 査期間中に定期的に肉厚を測定して減肉率を評価し、 必要最小肉厚を割らないように必要な時期に取替え を行っている。(余寿命管理を実施) * 出力向上による主蒸気流量及び給水流量の増加に よって、主蒸気系及び給復水系の配管、弁、並びに タービン内部車室、湿分分離器及び給水加熱器の胴 及び管支持板などの減肉の進展が想定される。この うち、抽気系配管については、蒸気流量(流速)の 増加によって減肉率が最大で約30%増加すると評 価されるものの、減肉率自体は小さく、現行の減肉 管理手法で管理できることを確認している。 * これらの部位については、出力向上後の減肉進展 速度の見直し結果、及び出力向上後の点検結果を踏 まえて、必要に応じて個々の部位の点検頻度、点検 時期を見直して余寿命管理を行う予定である。(3)電気品の絶縁特性の低下通常運転時の電流が増加する電気品(発電機、主 変圧器、復水ポンプ電動機、電動原子炉給水ポンプ 電動機など)については、発熱量が増加し、温度が 上昇して絶縁特性低下の進展が予想されるが、この 事象の進展には長期間を要することから、定期検査 期間中に定期的に絶縁抵抗を測定することで絶縁低 下の進展状況を確認し、この結果に基づき、機器の 寿命予測を行い必要な時期に機器又は電線の取替を 行う予定である。 4.2 中長期的な観点での保全内容に及ぼす影(1) 中性子照射脆化 原子炉圧力容器鋼材の中性子照射脆化の進展につ137 いては、高経年化技術評価の一環として、出力向上 による中性子束の増加を加味して、運転開始後60 年時点においても、耐圧・漏えい試験時の昇温・加 圧操作を支障なく行える見通しであることを確認し ており、今後、国の確認を受ける予定である。また、今後、炉内に装荷されている監視試験片を 所定の時期に取り出し、脆化の進展速度が脆化予測 式に基づく評価値から乖離していないことの確認を 行うとともに、必要に応じて、前述の圧力・温度制 限曲線に反映する予定である。(2) 減肉 * 出力向上による主蒸気流量及び給水流量の増加に よって、主蒸気系及び給復水系の配管、弁、並びに タービン内部車室、給水加熱器の胴、管支持板など での減肉の進展については、長期間運転の後に発生 したり、進展特性が変わる可能性が殆どないことか ら、基本的に 4. 1 (2)で述べたような保全方法によっ て管理が可能である。 (3)電気品の絶縁特性の低下原子炉格納容器内に設置している安全系ケーブル の絶縁低下については、出力向上によって給水温度 が若干上昇することで、通常運転中の雰囲気温度が 局所的に若干上昇し、絶縁特性の低下が進展する可 能性がある。また、原子炉冷却材喪失事故時におけ る放射線線量が出力向上に伴うソースタームの増加 によって若干増加する。このため、これらの影響の 重畳を考慮し、長期間運転の後に原子炉冷却材喪失 事故が発生した場合においても安全系ケーブルの安 全機能が維持されることの評価を高経年化技術評価 の一環として行い、事故時の機能維持に問題のない ことを確認するとともに、国の確認を受ける予定である。- 138 -東海第二発電所での今後の対応の考え方 - 東海第二発電所においては、今後、出力向上を行 うために必要な許認可手続き(原子炉設置変更許可 申請、工事計画変更認可申請等)を行った後、出力 向上を行うために必要な改造を行い、必要な試験、 検査 (法定の使用前検査や定期事業者検査など)、確 認を行った後、出力向上運転を開始する予定である。出力向上が保全内容に及ぼす影響については、先 ず、これまでの科学的知見や点検データに加えて、 出力向上前の定期検査期間中において必要な点検を 行い、出力向上開始前の経年劣化データを取得する。次にこれらのデータを踏まえて出力向上の影響を 受ける可能性のある経年劣化事象の発生・進展特性 を予測し、出力向上後の定期検査において追加的に 点検すべき項目や出力向上後の点検頻度変更の要否 検討を行い、現行の保全内容を見直し、それらを出 力向上後の保全計画へ反映する。更に、出力向上後の点検結果を踏まえて、適時、 保全計画の見直しを行う予定である。果を踏まえて、適時、である。““原子炉出力向上が経参考文献 [1] 小野瀬鉄也, 青木孝行 ““ 原子炉出力向上が経 年劣化へ与える影響の評価と対応” 2008年7月10 日~12 日開催 日本保全学会主催 第5回学術講 演会 要旨集“ “原子炉熱出力向上が保全内容に及ぼす影響の概略評価結果について“ “大畑 仁史,Hitoshi OHATA,室井 勇二,Yuji MUROI,小野瀬 鉄也,Tetsuya ONOSE
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