浜岡4/5号機 気体廃棄物処理系水素/酸素再結合触媒性能の低下に関する検討

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
2. 触媒性能低下要因の調査と対策 沸騰水型原子炉(BWR)は、冷却水を原子炉内で直接2.1 担体の形態変化 沸騰し蒸気を生成する。その際、冷却水の一部が放射 浜岡原子力発電所4号機および5号機の排ガス再 線により分解し水素と酸素を生成する。これら水素と 結合器で使用される触媒は、ニッケルクロムの発泡金 酸素は気体廃棄物処理系に導かれ、触媒を充填した排属上にアルミナ担体を添着し、その表面に白金微粒子 ガス再結合器にて、水に戻される。を担持したものである。アルミナは細孔構造を持った しかしながら、浜岡原子力発電所4、5号機におい。 め比表面積が大きく、高い反応効率が期待できる。 て、定期点検後の原子炉起動時に気体廃棄物処理系排 担体のアルミナの原料としてベーマイトが用いら ガス再結合器出口水素濃度が上昇したため、原子炉をれるが、焼成処理によりアルミナに変換して使用す 手動停止させ、点検および調査を行った。その結果、 る。yアルミナは、比表面積が大きく触媒の担体とし 排ガス再結合器で用いられた触媒の性能が低下して て好適である。 いたことが判明した。そこで、再結合器触媒の性能低 浜岡5号機および4号機において水素濃度上昇が発 下原因の究明と対策を行い[1]、健全な状態でプラント 生した触媒と同一ロットの未使用の触媒を X 線回折 を再起動できた。法(XRD)および熱重量測定により評価したところ、担 本報では、浜岡原子力発電所4、5号機において行 体にはベーマイトが多く存在した[1。触媒の担体に存 った再結合器触媒性能低下原因究明結果および実機 在したベーマイトは、触媒製造時に脱塩素のために実 において選定した対策を示す。さらに、再結合器の信 施した高温高圧での温水洗浄処理により生成したと 頼性向上および保全技術の確立を目指した触媒性能想定された。さらに、浜岡5号機で使用された触媒は、 監視技術についても述べる。塩素濃度をより低減するために脱塩素処理時間が従 来よりも延長されていたことから、ベーマイトの割合 が増加したものと考えられた。ベーマイトを有する触媒は、図1に示すように未使 用品と比べると性能試験後や実機での使用後のよう に熱履歴を受けると、比表面積や CO 吸着量が大きく 低下する特徴を有していたい。この事実より、ベーマイトはアルミナに比べ不安定であるため、再結合反応に伴う温度上昇により脱水縮合が生じアルミナの細孔が閉塞するとともに、細孔中に存在する白金がアルミナ担体中に埋没することにより触媒活性が低下したものと考えられた。ベーマイト形成による性能低下を避けるため、触媒 製造の最終工程に 500°Cで再加熱処理を追加し、ベー
マイトをyアルミナに転換した改良触媒を製作した。 改良触媒の、CO 吸着量と比表面積を試験前後で測定 した結果、図 1 に示すように改良触媒の使用前後の CO 吸着量と比表面積の低下量は、従来品に比べて極 めて少なく、安定した性能を有する触媒に改善できる ことを確認した。 11.4Unit 4 unused A Unit 4 after experiment o Unit 4 used in actual plantUnit 5 unused A Unit 5 after experiment ●Unit 5 used in actual plant ◆ Improved cat. unusedImproved cat. after exp.Chemisorbed CO (umol/g)1 0_ 2040 60 80 100 120_ 140Specific surface area (m2/g) Figure 1. Correlation between specific surface area and CO chemical sorption2.2 被毒物質による触媒活性の低下 - 浜岡4号機および5号機の触媒表面の付着成分を SEM-EDX で分析したところ、約 2%の Si が検出され た。未使用触媒の分析では Si は検出されていないこ とから、実機の触媒に存在した Si は、運転中に付着 した成分であり、触媒性能の低下に影響している可能 性が考えられた。そこで発電プラント内での Si の発 生源を調査したところ、低圧タービンのパッキンケー スのシール材として、有機シリコン化合物を使用して いることがわかった。このシール材を高温真空条件下 (150°C、5kPa)で揮発させたところ、低分子環状シロキ サンが検出された。この低分子環状シロキサンは触媒 の被毒物質として作用する可能性があることも報告 されている[2]。これらの状況証拠を確認するため、シール材の触媒 性能への影響を評価する試験を行った。試験に用いた 触媒サンプルは、浜岡4号機、5号機と同仕様触媒お よび対策品として選定した改良触媒を用いた。 - 試験は直径 25mm、高さ 11mm の触媒を5層装荷 した反応管に水素、酸素、空気、水蒸気を原子炉熱出 力 25%の条件を模擬した濃度で通気した。また、有機 シリコンの影響を確認するため、触媒の上流側に2g のシール材を設置した。出口側ガス中の水素濃度の経 時変化をガスクロマトグラフにより測定した。その結 果、図2に示すように、ベーマイト量の最も多い5号 機の触媒は水素濃度上昇速度が最も速く、担体をy ア ルミナに変換した改良触媒については、水素濃度上昇 は試験期間中ほとんど生じなかった。 ・ このことから、シール材から揮発した低分子環状シ ロキサンが触媒上の白金表面を被覆し、触媒の性能低 下をもたらしたことがもう一つの原因と評価した。--- Unit 5 catalyst + Unit 4 catalystImproved catalystHydrogen concentrationof outlet [dry%]100 2003001 400Elapsed time [min] Figure 2. Influence of organosilicon sealant on the performance of the improved catalyst compared with that of the conventional catalysts2.3 触媒劣化対策適用結果上述の触媒性能低下原因の究明結果に基づき、浜岡 4号機、5号機では、触媒製造工程を見直し再加熱処 理を追加することで、ベーマイトを有する触媒より安 定かつ耐被毒性の高いy アルミナに変換した改良触 媒に取り替えた。また低圧タービンのパッキンケース から有機シリコン系シール材を除去し、代わりに亜麻 仁油を使用した。これらの触媒性能劣化抑制対策を適 用した、浜岡4号機、5号機は、再結合器の性能を健 全に維持したまま起動することができた。3.信頼性向上のための技術開発 3.1 触媒性能監視技術 - 運転中の触媒性能の変化を連続監視するモニタリ ング技術を確立することにより、再結合器の性能監視 が可能となる。特に、触媒層の高さ方向の性能変化を モニタリングすることが可能となれば再結合触媒の 取替え時期の判定ができる。触媒上で水素酸素再結合反応が起こると反応熱が 発生し、これにより排ガスの温度が上昇する。入口温 度やガス濃度は、定格運転中は安定しており大きく変 動しないため、運転中の触媒層の温度はほぼ一定であ る。一方、触媒は被毒などによる性能低下が起こると、 反応速度が低下する。また、上流側からの被毒により 性能低下する場合には上層の触媒から順に劣化して いく。したがって、性能低下時には触媒の上層から 温度が低下するため、触媒各層に温度計を設置するこ とにより、出口の水素濃度が上昇する前に触媒の性能 低下を知ることが可能となる。触媒層への温度計設置 の構造を図3に示す。触媒層の中央に温度計の案内管 を通し、そこに複数の高さ位置に熱電対を設置し、各 触媒層の温度変化を連続に測定できる連続性能監視 技術を考案した。172 RecombinerRecombin|- CatalystsGuide tubeFixed to elbow Figure 3. Scheme of the recombiner in which thermocouples are installed 4.結言気体廃棄物処理系の水素濃度上昇事象に対して、原 因究明結果に基づき、触媒特性の改良および被毒物質 を除去する等の触媒劣化抑制技術を確立した。一方では、長期的な視野に立ち、触媒性能監視等の 技術開発を継続し、成熟した保守・点検技術の確立を 目指す。参考文献 [1] T. Kawasaki, et al., Proceedings of the 18thInternational Conference on Nuclear Engineering,ICONE18-29155, May 17-21, 2010, Xi'an, China, [2] K. Arnby et al., Applied Catalysis B: Environmental 54(2004) 1-7.[2]- 173 -“ “浜岡 4/5 号機 気体廃棄物処理系水素/酸素再結合触媒性能の低下に関する検討“ “武藤 誠志,Seishi MUTO,川辺 健一,Kenichi KAWABE,川嵜 透,Toru KAWASAKI
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