PD資格試験開始から4年の実施状況

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
(財)電力中央研究所は平成 17 年 11 月に材料科学研 究所にPDセンターを設立し、平成 18年3月から日本非 破壊検査協会規格NDIS 06032005の附属書に従って原子 力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部のき裂深さ測定のPD資格試験を実施している。 - 第1期から第7期までのPD資格試験の結果について は随時報告1-3を行ってきた。今回は第 9 期までのPD 資格試験結果の報告に加え、これまでの受験者の傾向 についても報告する。
2. PD 資格試験の実施状況
2.1. PD 試験結果 - 平成 21 年度は第8期と9期の試験を計3回実施し た。受験者は6名であり、合格基準に達したものは 4 名であった。第1期から9期までの受験者は 43 名(の ベ受験者は 69 名)であり、合格基準に達したものは 31名で、合格率は 72%となった。 - 第1期から9期までの各期ごとの新規受験者と再受 験者の受験者数、合格者数と RMSE (平均自乗誤差)を 表1に示す。 表中の RMSE を見ると、新規受験者は各期連絡先:電力中央研究所材料科学研究所 PD センター 〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂 2-6-1 http://criepi.denken.or.jp/pd/index.htmlでばらつきがあるのに対して、再受験者は比較的安定 している。これは初回受験者がそれまでに経験のない 比較的深い SCC き裂を測定することと、一方で再受験 者は PD 試験も含めた経験により、深い SCC き裂測定の ノウハウを確立していることが考えられる。3-表1 各期ごとの新規受験者と再受験者の試験結果 試驗時期 新規受験者再受験者 (回数) | 受験 | 合格 | RMSE | 受験 | 合格 | RMSE 第1期(6回)3.38 | 7 | 11 3.62 第2期(4回)6.13 14 | 4 | 1.55 第3期(2回)3.63 | 3 | 2 | 2.14 第4期(3回)4.63 | 4 | 3 2.16 第5期(3回)」 3 | 1 | 4.01 | 2 | 1 | 2.79 | 第6期(3回)| 1 | 0 | - | 3 | 2 | 2.03 第7期(2回) 11 1- | 2 | 2 | 1.86 第8期(2回)3 | 1.89 | 第9期(1回)| 2 | 0 | 4.22 | 0 | 0 1※RMSE は受験者の平均(1名の場合は示さず)4-1-4-2-3-1-2-2-12019/02/01* 第9期までの受験者の RMSE と誤差(解答値-真値) の平均値を合格者、不合格者に分けて図1に示す。こ の図には合格基準の一つである「RMSE が 3. 2 mm を超 えない」の 3.2 mm を点線で示すが、3.2 mm 以下であ っても、もう一つの合格基準である「測定値は真とす る値に対し 4. 4 mm を超えて下回わらないこと」により 不合格となった受験者が存在する。合格者について平 均誤差の範囲をみると、90%以上の人が±1 mm 以内に 入っている。■200 合格者 × 不合格者- RMSE-3.2mm1080さん881-40 -2. 0 00 2.0 4.0 60 801平均誤差(mm) 2.2. PD 試験受験者の傾向第9期までの PD受験者数と結果の推移を図2に示す。 図2(a)の受験者数の推移をみると、その数は期数が進 むにつれて減少しているように見える。しかしながら その後は増加しているようにみえる。この傾向は、PD 有資格者を一定数輩出する必要があった初期段階と、 たとえば企業内の教育的な位置づけとしての資格取得 の段階といった2段階で推移したと考えることとも可図1 受験者の RMSE と誤差の平均値第1期調期期期前期前期25.02930-343539404445~4950-5455~592009年時点での満年齢2.2. PD試験受験者の傾向 - 第9期までの PD受験者数と結果の推移を図2に示す。 図2(a)の受験者数の推移をみると、その数は期数が進 むにつれて減少しているように見える。しかしながら図2 PD 受験者数と結果の推移 別の見方として点線で示されるように第1期から4期 までは減少傾向を示すものの、その後はほぼ一定の受 験者数で推移しているとみることもできる。表1で受 験者数をみると再受験者が期数を追うごとに減少する のに対して、新規受験者は第6、7期当たりを底として その後は増加しているようにみえる。この傾向は、PD 有資格者を一定数輩出する必要があった初期段階と、 たとえば企業内の教育的な位置づけとしての資格取得 の段階といった2段階で推移したと考えることとも可 能である。図3 PD 試験合格者の年齢分布 * 合格者の中の新規受験者と再受験者の推移を図2(b) に示す。この図から、合格者に占める新規受験者の割12.3. PD 資格試験の統計分析 合が 1 期を除くと増加していることが示される。これ第7期までの全受験者のき裂深さ測定誤差の統計分 は各社の受験者の教育システムがある程度充実してき析結果を表2に示す。この表の全受験者と合格者の数 た結果だと考えることができる。値をみると、全受験者の平均誤差は 0.62 mm、標準偏 * PD 試験合格者の平成 21 年における満年齢を図3に差は 4.0 mmであるのに対し、合格者はそれぞれ 0.17 mml 示す。合格者は 30~40 歳代が多く、50歳以上と 30歳 2.0 mmであった。図4に計測誤差の度数分布と全受験 未満は比較的少ない。これは 30~40 歳代は現場におい者および合格者の標準偏差から求めた確率密度曲線を て測定する機会が多く、経験を十分につんでいるため併せて示す。度数が最大となるのは平均誤差がほぼゼ と推定される。30 歳未満の合格者が少ないのは現場で口の位置であり、裾野は左右対称に広がっている。し の経験が比較的短いこと、一方で経験豊富な 50 歳台がかしながらこの裾野の度数分布をよくみると、明らか 少ないのは、フェーズドアレイ技術といった新技術へにプラス側に偏っている。この原因はいくつか考えら の対応が難しいこと等が考えられる。れるが、1つには前報で指摘した母材と溶接部の境 * 余談になるが、日本の PD 技術者の年齢構成を見る限界面エコーの判別手段あるいは、技術の未熟さによる り、欧米で喫緊の課題とされている検査技術者の枯渇SCCき裂の過大評価が挙げられる。一方で、裾野の分布 については、しばらくは猶予があると考えられる。がプラス側に偏っているのは、受験者が合格基準の一 能である。 * 合格者の中の新規受験者と再受験者の推移を図2(6) に示す。この図から、合格者に占める新規受験者の割 * PD 試験合格者の平成 21 年における満年齢を図3に 示す。合格者は 30~40 歳代が多く、50 歳以上と 30 歳 未満は比較的少ない。これは 30~40 歳代は現場におい て測定する機会が多く、経験を十分につんでいるため と推定される。30 歳未満の合格者が少ないのは現場で の経験が比較的短いこと、一方で経験豊富な 50 歳台が日合格 ■不合格病態調明期学期期前期の期図2 PD 受験者数と結果の推移25~2910-3435394004454950-5455~5912009年時点での満存館図3 PD 試験合格者の年齢分布 PD 資格試験の統計分析 期までの全受験者のき裂深さ測定誤差の統計分 を表2に示す。この表の全受験者と合格者の数 差は 4.0 mmであるのに対し、合格者はそれぞれ 0. 17 mm、 2.0 mmであった。図4に計測誤差の度数分布と全受験 者および合格者の標準偏差から求めた確率密度曲線を 併せて示す。度数が最大となるのは平均誤差がほぼゼ ロの位置であり、裾野は左右対称に広がっている。し にプラス側に偏っている。この原因はいくつか考えら れるが、1つには前報3で指摘した母材と溶接部の境 界面エコーの判別手段あるいは、技術の未熟さによる - 22 - つである-4.4 mmのストレスにさらされることで、極力と結果を表3に示す。 大きい側へ読むヒューマンエラーの可能性も否定でき表3 ケーススタディの条件と結果ない。合格基準1T 現行RMSE<3.2mm X-4.4mm ケース1 | RMSE<3.2mm | なし ケース2 | RMSE<3.0mm なしデータ数 | 平均誤差 | 標準偏差(個) | (mm) | o(mm) 2700.17 | 2.00340-0.052.2310-0.032.08表2 PD 試験の統計分析結果 データ数 | 平均誤差 標準偏差 u (mm)o (mm) 全受験者 | 630 | 0.624.01 合格者 | 770 | 017200 表2 PD 試験の統計分析結果 データ数 | 平均誤差 標準偏差u (mm) | (mm) 全受験者 6300.624.01 合格者 2700.172.00 不合格者 3600.955140-21-18 -15-12-330 3691215182124 測定は差(mm)図4 全受験者の測定誤差の度数分布不合格者3600.95||5(a)現行 現行の場合は合格基準1「RMSE が 3.2 mm を超えな い」、と合格基準2 「測定値は真とする値に対し 4. 4 mm を超えて下回わらない」、の両方を満足した受験者(合 格者)の数字であるが、平均誤差と標準偏差から導か れる統計的な可能性をみると、合格基準2の-4.4 mm を超えて下回る確率が 1.1%存在する。この確率は制度 設計時の条件であった「-4.4 mm を超えて下回る確率 を 5%未満とする」のクライテリアは十分に満足させて いる。 (6) ケース1ケース1は合格基準のはそのままで、合格基準2を 不採用としたものである。この場合の合格基準2の -4.4 mm を超えて下回る確率は 2.4%である。 (c) ケース2ケース2は、ケース1の合格基準○をさらに厳しく 3.0 mm とした場合で、この場合-4.4 mm を超えて下回 る確率は 1.8%である。 今回検討したケース 1、2 のそれぞれの場合について、-21-18 -15-12--303691215182124図4 全受験者の測定誤差の度数分布SCC き裂深さの試験結果への影響をみるために、SCC き裂深さと測定誤差の標準偏差を合格者と不合格者に 分けて図5に示す。この図から合格者は SCC 深さに関 係なく誤差の標準偏差はほぼ一定で、どの深さも同程 度の精度で測定できるのに対し、不合格者は板厚の 20 ~60%の SCC 深さ測定に課題があること、が示唆される。 き裂深さの試験結果への影響をみるために、SCO さと測定誤差の標準偏差を合格者と不合格者に 図5に示す。この図から合格者は SCC 深さに関---き裂深さと測定誤差の標準偏差を合格者と不合格者に 分けて図5に示す。この図から合格者は SCC 深さに関 係なく誤差の標準偏差はほぼ一定で、どの深さも同程 度の精度で測定できるのに対し、不合格者は板厚の 20 ~60%の SCC 深さ測定に課題があること、が示唆される。口合格者 ■不合格者標準編差o(mm)(c)ケース2ケース2は、ケース1の合格基準をさらに厳しく 3.0 mm とした場合で、この場合-4.4 mm を超えて下回 る確率は 1.8%である。今回検討したケース 1、2 のそれぞれの場合について、 合格基準2の-4.4 mm を超えて下回る確率は、クライ テリアの 5%未満を十分に下回る結果であった。このこ とから、ケース 1、2 とも制度設計時の条件は満たすこ とができ、RMSE のみの合格基準で測定精度を担保でき る可能性が示唆される。 * 現行の合格基準決定においては安全側の評価とする ために合格基準1と2が併設された。しかしながら PD 資格試験開始から4年が経過し、測定データ数の増加 に伴い統計分析が可能となってきたことで、PD 資格試 験の合格基準を合理的に見直す時期が来ているかもし れない。今回の分析とは直接関係ないが、PD資格者の測定精 度の裏付けとして、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の 3号機のPLR配管のSCC深さのデータがある「4。そのデー タはPD資格者がSCC深さを 5.3 mmと測定し、切断調査8012 10 20130 40 50 60 70板厚に対するSCCの深さ区分(%) 図5 SCC 深さ区分に対する標準偏差の分布3. ケーススタディ * ここでは今回得られた統計分析結果を用いて、合格 基準に対して2つのケースの検討を行った。その条件合格基準データ数 | 平均誤差 | 標準偏差u (mm) | (mm) 270 0.172現行RMSE<3.2mmx<-4.4mmケース1 | RMSE<3.2mmなし340-0.051899/12/31 4:48:00ケース2 | RMSE<3.0mmなし3100:43:122.08(a)現行 現行の場合は合格基準1「RMSE が 3.2 mm を超えな い」、と合格基準2「測定値は真とする値に対し 4.4 mm を超えて下回わらない」、の両方を満足した受験者(合 格者)の数字であるが、平均誤差と標準偏差から導か れる統計的な可能性をみると、合格基準2の-4.4 mm を超えて下回る確率が 1.1%存在する。この確率は制度 設計時の条件であった「-4.4 mm を超えて下回る確率 * 今回検討したケース 1、2 のそれぞれの場合に 合格基準2の-4.4 mm を超えて下回る確率は、 テリアの 5%未満を十分に下回る結果であった。 る可能性が示唆される。 * 現行の合格基準決定においては安全側の評価とする ために合格基準1と2が併設された。しかしながら PD 資格試験開始から4年が経過し、測定データ数の増加 に伴い統計分析が可能となってきたことで、PD 資格試 験の合格基準を合理的に見直す時期が来ているかも * 今回の分析とは直接関係ないが、PD資格者の測定精 度の裏付けとして、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の 3号機のPLR配管のSCC深さのデータがある!!。そのデー タはPD資格者がSCC深さを 5.3 mmと測定し、切断調査」 - 23 -PD 資格試験は開始から4年が経過し、26回実施され、 合格基準に達した人は 31 名となった。これまでの受験者 のデータについて分析した結果は以下の通りである。 1)PD 資格試験合格者の平均誤差は 0.17 mm、標準偏差 * は 2.0 mm であった。全受験者の平均誤差は 0.62 mm、標準偏差は 4.0 mm であり、合格者の測定精度が非常 の合格者の測定精度は SCC 深さに依存せず、どの深さ も高精度で測定ができるのに対し、不合格者は板厚 の20~60%のSCC深さ測定に課題があることが判明し で約 5.6 mmと判明したものであり、PD資格者の測定値 の信頼性を確認する結果ともなっている。4. まとめPD 資格試験は開始から4年が経過し、26回実施され、 合格基準に達した人は 31 名となった。これまでの受験者 のデータについて分析した結果は以下の通りである。 1)PD 資格試験合格者の平均誤差は 0.17 mm、標準偏差 * は 2.0 mm であった。全受験者の平均誤差は 0.62 mm、 標準偏差は 4.0 mmであり、合格者の測定精度が非常 に高いことが示された。 2)合格者の測定精度は SCC 深さに依存せず、どの深さ ・ も高精度で測定ができるのに対し、不合格者は板厚の20~60%のSCC深さ測定に課題があることが判明した。3)合格者の年齢構成をみると、30~40 歳代が多く、50 歳以上と 30 歳未満は比較的少なかった。このことは PD 資格試験の結果に、経験年数と新技術への対応が 影響する可能性を示唆している。参考文献[1] 笹原,直本,秀,神戸,“PD 資格試験開始から一年の実施状況”第4回保全学会予稿集, 福井,2007. [2] 直本,笹原,秀,“PD 資格試験開始から2年の実施状況”第5回保全学会予稿集, 水戸, 2008. [3] 直本,笹原,秀,“PD 資格試験開始から3年の実施状況”第6回保全学会予稿集,札幌, 2009. [4] WEB 東京電力 平成20年5月 29 日 「3 号機 原子炉再循環系配管のひび部の点検・調査について(断面観察結果)原子炉再循環系配管 維持基準 た。 3)合格者の年齢構成をみると、30~40 歳代が多く、50 歳以上と 30 歳未満は比較的少なかった。このことは PD 資格試験の結果に、経験年数と新技術への対応が 影響する可能性を示唆している。 直本,笹原,秀,“PD 資格試験開始から2年の実 施状況”第5回保全学会予稿集, 水戸, 2008. 直本,笹原,秀,“PD 資格試験開始から3年の実 施状況”第6回保全学会予稿集,札幌, 2009. WEB 東京電力 平成20年5月 29 日「3号機 原 子炉再循環系配管のひび部の点検・調査について (断面観察結果)原子炉再循環系配管 維持基準 適用箇所点検」 - 24 -“ “PD 資格試験開始から4年の実施状況 “ “秀 耕一郎,Koichiro HIDE,笹原 利彦,Toshihiko SASAHARA,直本 保,Tamotsu JIKIMOTO,渡辺 恵司,Keiji WATANABE
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