基調講演: 高速炉の実用化に向けた保守・補修技術開発
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
実用化段階の高速増殖炉は、「もんじゅ」の2 倍の 60 年の寿命で設計されるため、高温での長 期使用による経年劣化や損傷に配慮した保守・補 修技術開発が必要になる。高速炉プラントの特徴 や「常陽」、「もんじゅ」の保守・補修経験を概観 するとともに、実用化段階の高速増殖炉の特徴を 整理し、実用炉に必要な保守・補修技術開発にっ いてまとめる。
2. 高速炉プラントの特徴- ナトリウム冷却型 FBR プラントの特徴は、高速中 性子を利用し、冷却材に化学的に活性で不透明な液体 金属ナトリウムを使用していることである。ナトリウ ムは沸点が高い(常圧で約 880°C)ため低圧で運転され ることと、構造材料に延性に優れたオーステナイト系 ステンレス鋼を用いていることから、疲労やクリープ によるき裂が貫通してもすぐに破断に至ることはなく、 破断前漏えい(LBB)が成立する。また、配管の高所引 き廻しとガードベッセルの設置等により、破断時にお いても炉心燃料の崩壊熱除去に必要な冷却材が確保出連絡先:山下卓哉、〒919-1279福井県敦賀市白木1丁目 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 FBRプラント 工学研究センター、電話: 0770-39-1031(内線6811)、 e-mail: yamashita.takuya@jaea.go.jp来るため、ナトリウムの漏えいを検知してからでも安 全に原子炉を停止することが出来る。このような特徴 から、「常陽」と「もんじゅ」の検査は、ナトリウムや カバーガスの連続漏えい監視を主体に行っている。3.実験炉「常陽」の保守・補修経験高速実験炉「常陽」(図1)は、我が国最初のウラン -プルトニウム混合酸化物燃料 (MOX燃料)、ナトリウ ム冷却、ループ型の高速増殖炉として 1977年4月に 初臨界を達成した後、1981 年 12 月までは MK-I 炉心 (増殖炉心)で熱出力 50MW 及び 75MW で運転を行 い、高速増殖炉に関する技術的知識、経験の蓄積が図 られた。その後、熱出力 10MW の MK-II 炉心(照射 用炉心)に移行した。図1 高速実験炉「常陽」221- 2003年7月には、高速中性子束を MK-II 炉心の 約 1.3 倍、原子炉熱出力を 140MW に増加させた MK-III 炉心の初臨界を達成した後、2004 年から MK-III 炉心での本格運転を開始し、燃料、材料の照 射施設として利用されている。この間、炉心管理、 運転技術、保守技術などで多くの経験を蓄積した。 しかしながら、2007年5月14日に MK-III 炉心第 6 サイクル運転を終了した後、照射試験を終了した 計測線付実験装置の切り離しに失敗し、燃料交換機 能の一部阻害と炉心上部機構下面の損傷が明らかに なった。現在、再起動に向けた復旧方法の検討を進 めている。「常陽」の原子炉設備の構造材料に使用している ステンレス鋼やフェライト系合金鋼は、ナトリウム 中ではほとんど腐食しない。また、ナトリウム中に は主循環ポンプを含め、可動部が摺動し、磨耗する 部分がない。このため、「常陽」のナトリウム機器は 電気や機械部分を除き原則としてメンテナンスフリ ーである。一方、カバーガス中に設置されている回 転プラグや燃料交換機などの燃料取扱い系の機器の 可動部にナトリウム蒸気が付着しため、運転手法の 改善やナトリウム付着低減のための改造工事を行っ た。原子炉および冷却設備のナトリウム機器につい ては、電動機や電気部品の点検、および機器の外観 目視検査を行っているが、これまで「常陽」ではナ トリウム機器に関する重大な故障は発生していない。 供用期間中の健全性については、連続漏えい監視を 主体に、ナトリウムに接する機器の構造材料はナト リウム冷却系に装荷したサーベイランス材により、 また、中性子照射効果については原子炉容器内に装 荷したサーベイランス試験片により確認している。 - 高速実験炉「常陽」は、1977年の初臨界以来、33 年間の運転の中で、1次主冷却系の主循環ポンプ分 解点検・再組立、主中間熱交換器の交換等の作業を 通して、これらナトリウム機器取り扱いに係る作業 管理・プラント管理の経験・知見を蓄積してきてい る 1-2。4. 原型炉「もんじゅ」の保守・補修経験高速増殖原型炉「もんじゅ」(図2)は、1994 年 4月5日に初臨界を達成したが、電気出力 40%での 出力上昇試験及び過渡試験を実施していた 1995 年12月8日に2次主冷却系ナトリウム漏えい事故が発 生し原子炉を停止した。その後、徹底した原因究明 を行うとともに、安全性及び信頼性のより一層の向 上を図ることを目的とした「安全総点検」を実施し、 改善すべき事項を明らかにするとともに、ナトリウ ム漏えい対策等に係る改善策を策定した。2005年9 月にナトリウム漏えい対策等に係る工事に着手し、 2007年5月23日に終了した。その後、工事確認試 験、プラント確認試験、単体及び系統の機能確認試 験を経て、2010年4月28日に地元了解が得られた ため、5月6日に運転を再開し同8日に臨界を達成 した。今後、炉心確認試験、発電を行う 40%出力プ ラント確認試験、その後の出力上昇試験と3段階の 性能試験を経て、約3年後に 100%出力を達成する 計画である。「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)は、連続漏え い監視が主体であるが、安全上特に重要な機器に対 しては最新の開発成果を取り入れて計画的に検査装 置開発を行うこととされており、(1)原子炉容器廻り 検査装置、(2)蒸気発生器伝熱管検査装置、(3) 1次主 冷却系配管検査装置については、1960 年代から開 発・整備を進め、1991 年に行われた総合機能試験に 適用し、要求性能を満たすことを確認した(図3)。 その後も、検査性能と検査効率の向上を図るべく ISI 装置の高度化を進めた 3)。原子炉容器廻り検査装置 については、従来のファイバースコープに代えて、 CCD カメラを搭載し肉眼試験時の視認性の向上と 視野の拡大を図った。また、研究開発の位置付けで 搭載を検討している電磁超音波探傷器(EMAT)の改 良を行い、従来の2倍の検出感度向上と 1/4 の重量 軽減を達成した。蒸気発生器伝熱管検査装置につい ては、渦電流を励起するコイルを2個配置した図2 高速増殖原型炉「もんじゅ」222認試験」の一環として 2007年 11 月から 2008年 月に掛けて蒸気発生器伝熱管の全数検査を実施し、 問題となるような減肉や欠陥が無いことを確認して 双方向励磁型リモートフィールド ECT の採用とプ ローブ構造の見直し等により、欠陥検出性能の向上 と振動ノイズの低減を図った。1次主冷却系配管検 査装置については、超音波探傷プローブの最適化に より、従来の1.5倍の検出感度向上を図った。なお、 蒸気発生器伝熱管検査装置については、「プラント確 認試験」の一環として 2007年 11 月から 2008年3 月に掛けて蒸気発生器伝熱管の全数検査を実施し、 問題となるような減肉や欠陥が無いことを確認して いる)。原子炉容器超り検査装置もんじゅ「原子炉容器検査ロボットるベッセル1次主冷却系配管検査装置 中間熱交換器蒸気発生器伝熱管検査装置5. 実用化に向けた保守・補修技術開発 5.1 実用炉の開発目標と特徴FBR サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト) で選定した高速炉は、「常陽」や「もんじゅ」と同様 に MOXを燃料とするナトリウム冷却型ループ型炉で ある。FaCT プロジェクトでは、経済性の向上、信頼 性の向上及び安全性の向上のために、図4に示すよう な革新技術の採用を検討している 5)。実用炉も基本的 には連続漏えい監視が主体になるが、革新技術の一つ として「の保守、補修性を考慮したプラント設計」を 挙げており、これを達成することにより信頼性・安全性 の向上と供用期間全体を通しての運転・保守に掛かる コストの低減を目指している。実用炉の保守・補修技術を検討する上で考慮すべき 特徴を列挙すると、1)「もんじゅ」よりも高温化(「も んじゅ」の運転温度 529°Cに対し、実証炉は 550°C)を 図るとともに設計寿命を2倍の60年に設定している こと、2) 24 ヶ月の連続運転と 90%以上の稼働率を目 標としていること、3)構造材料として原子炉容器に 316FR 鋼を採用しそれ以外の1次主冷却系機器・配管 及び2次主冷却系機器・配管の構造材料として改良9Cr 鋼等の新材料を採用していること、4)安全上の配慮か ら容器や配管を2重化するとともに蒸気発生器伝熱管 に直管型の2重伝熱管の採用していること、5)システ ムの簡素化を狙ったポンプ組込型 IHX や逆L字型の1 次主冷却系配管の採用等により、機器設置がコンパク トになる一方で検査・補修部位へのアクセス性が悪化 したこと、また、6)原子炉容器が大型化し「もんじゅ」 には無い原子炉容器の縦継手や炉心支持スカートの溶 接構造の採用などが挙げられる。挿入装置に検査ロボット一伝熱管ECTプローブ図3 「もんじゅ」の ISI 装置一方、ナトリウム漏えい対策に係る2次冷却系の 改造工事では、高速実験炉「常陽」や海外先行プラ ントの改造工事の経験や知見を参考に、ナトリウム バウンダリを開放する際のプラバックの使用、プラ バック内の酸素濃度管理、系統系カバーガスの微正 圧制御、切粉混入防止のためのロールカッタによる 押し切り工法等を採用した。これらの導入により、 2次冷却系の改造工事は、トラブルもなくほぼ計画 通りに完了することができた。 原子炉容器廻り検査装置もんじゅ原子炉容器検査ロボットすーガード るベッセル蒸気発生器伝熱管検査装置1次主冷却系配管検査装置 中間熱交換器類挿入装置検査ロボット一伝熱管ECTプローブ図3 「もんじゅ」の ISI 装置 経済性に係る課題」 1配管短縮のための高クロム鋼の開発 2システム簡素化のための冷却系2ループ化 [31次冷却系簡素化のためのポンプ | 込型中間熱交換器開発 4原子炉容器のコンパクト化信頼性向上に係る課題 R配管2重化によるナトリウム漏洩対策と技術開発 19直管2重伝熱管蒸気発生器の開発10保守、補修性を考慮したプラン| ト設計と技術開発安全性向上に係る課題 「1D受動的炉停止と自然循環による炉 心冷却(5)システム簡素化のための燃料取扱系の開発 c物量削減と工期短縮のための格納容器のSC造化 7高燃焼度化に対応した炉心燃料の 開発(2炉心損傷時の再臨界回避技術13 大型炉の炉心耐震技術図4 実用化に向けた革新技術の検討 .1 実用炉の開発目標と特徴 FBR サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト) 選定した高速炉は、「常陽」や「もんじゅ」と同様 - MOXを燃料とするナトリウム冷却型ループ型炉で として「の保守、補修性を考慮したプラント設計」を 挙げており、これを達成することにより信頼性・安全性 の向上と供用期間全体を通しての運転・保守に掛かる ストの低減を目指している。 実用炉の保守・補修技術を検討する上で考慮すべき =徴を列挙すると、1)「もんじゅ」よりも高温化(「 及び2次主冷却系機器・配管の構造材料として改良9Cr 鋼等の新材料を採用していること、4)安全上の配慮か ら容器や配管を2重化するとともに蒸気発生器伝熱管 次主冷却系配管の採用等により、機器設置がコ トになる一方で検査・補修部位へのアクセス性が したこと、また、6)原子炉容器が大型化し「もん には無い原子炉容器の縦継手や炉心支持スカー 接構造の採用などが挙げられる。- 223 -5.2 新材料の採用と高温、長寿命化に向けた保守・補修技術開発 実用炉は、316FR 鋼や改良 9Cr 銅といった新たな構 造材料の採用に伴い、「もんじゅ」よりも高温化を図る とともに設計寿命を2倍の 60 年に設定している。高温 で長時間に亘って機器を使い続けるためには、クリー プ疲労損傷や溶接部の割れを主体とした高温で問題と なる劣化・損傷を適切に検出する技術、検出した劣化・ 損傷のその後の進展を予測する技術、劣化・損傷の補修 の必要性や時期を評価する技術等に加えて劣化・損傷 の予防・回復技術や補修・修理の技術が重要になる。 機器の劣化や損傷を検出する技術として、軽水炉や 「もんじゅ」の蒸気発生伝熱管の検査にも適用される 過電流探傷(ECT; Eddy Current Testing)や「もんじゅ」 の原子炉容器の溶接部の検査用に研究開発を行ってい る電磁超音波探触子(EMAT; Electro-Magnetic Acoustic Transducer)等に加えて、中間媒質が不要なため非接触 で高温の被検体の超音波探傷を行うことができるレー ザー超音波のも有望である。また、目に見える前の劣 化状態の検知を可能にする磁気的検査手法 ”の開発が 望まれる。 |- 劣化・損傷を予防・回復する技術としては、誘導加熱 やレーザー加熱等による損傷部分の焼戻しやレーザー ピーニング 8) 等による材料強化がある。また、ナトリ ウム中で実施できる可能性のある材料強化技術として、 キャビテーションショットレスピーニングの応用が 考えられる。また、き裂などの損傷部の補修について は、細いグラスファイバーで大きなエネルギーを伝送 でき遠隔での補修が可能な技術としてレーザーによる クラッディング補修 100が考えられる。5.3 長期連続運転の達成と稼働率向上に必要な保守・補修技術開発 24ヶ月の長期連続運転と 90%以上という高い稼働率 を達成するためには、運転しながら機器の劣化・損傷の 検査やモニタリングが出来る状態監視技術を積極的に 採り入れことが必要である。運転中の状態監視を取り 入れることにより、定検での検査項目を減らすことが 出来るだけでなく、軽水炉の応力腐食割れ(SCC)のよう に当初想定出来なかった損傷や高クロム鋼の「タイプ IV損傷」のように加速試験では確認できないような損 傷に対するリスクの低減が可能となる。状態監視は、特に、運転経験の少ない実証段階での未知の破損に対 するリスク低減に有効と考えられる。 - 状態監視技術に使える技術として、前述の ECT、 EMAT やレーザー超音波等がある他、1本のグラスフ ァイバーで同時に数千箇所の温度、歪、振動等のモニ タリングが可能なファイバー・ブラッグ・グレーティン グ(FBG; Fiber Bragg Grating))がある(図5)。ただし、 これらの技術を高速炉の機器・配管のモニタリング用 センサとして実用化するためは、耐熱性と耐放射線性 が要求されるため新たな技術開発が必要である。FBG(ファイバグレー ティング)センサの反射 波長を計測して歪み等 を導出光ファイバ| 高温機器・配管の光ファイバセンサによる監視技術FBGセンサ エルボ部など の歪み集中部 にFBGセンサ を張り巡らせる0図5 FBG センサを用いた状態監視システム5.4 容器、配管、SG 伝熱管の2重化、狭隘化に対する保守・補修技術開発 実用炉は、原子炉容器や主冷却系配管が 2 重化され るため、人が検査部位に直接アクセスすることが出来 ない。また、システムの簡素化を狙ったポンプ組込型 IHX や逆L字型の1次主冷却系配管の採用等により機 器設置スペースが狭隘化する等、検査・補修部位へのア クセス性が悪くなる。このため、人がアクセスしなく ても行える遠隔での検査・補修技術の開発が必要にな る。容器や配管に対する遠隔の検査・補修技術は、前述 の ECT、EMAT、レーザー超音波等のセンサやレーザ ー補修装置と「もんじゅ」の検査ロボット(図3)を 組み合わせることにより可能になる。実用炉の蒸気発生器伝熱管は、内外の管を密着させ た構造の2重伝熱管であることや、「もんじゅ」に比べ224て伝熱管本数が大幅に増えることから、検査精度の向 上に加え検査速度の高速化が望まれる。このため、欠 陥検出性能の高い超音波探傷プローブとマルチコイル 型の ECT プローブ(図6)の開発 12)に加え、探傷速度 の飛躍的な高速化が可能なガイドウェーブプローブの 開発を進めている。初期段階で検出された小さなき裂 程度であれば比較的容易に補修が出来るため、ECT プ ローブとレーザー加工ヘッドを組合わせた伝熱管の検 査補修装置の開発を進めている13)。試験体マルチコイル型 RFECセンサ励磁コイルさ検出コイルー図6 マルチコイル型の ECT プローブ5.5 ナトリウム中の保守・補修技術開発原子炉容器の炉心支持スカートの溶接構造を検査す るためには、高温(検査時の温度は約 200°C)の液体 金属ナトリウム中で適用出来る検査技術が必要である。 ・ ナトリウム中の検査装置については、超音波を使っ て機器の変形、破損、脱落やき裂の目視検査や体積検 査が可能なセンサの開発 14-15)と検査部位にアクセスす るための搬送装置(電磁推進式ビークル)の開発を進 めている(図7)。ト導入管超音波による 位置決め超音波受信器2)体積検査電磁推進式 ビークルNa中検査装置1)検査システム。3)目視検査 図7 ナトリウム中の検査装置ナト * ナトリウム中の補修技術については、液体金属中での摩擦攪拌接合(FSW; Friction Stirring Welding) 補修技 術の研究がある他、軽水炉で実用化された水中での レーザー補修技術 10のナトリウム中補修への応用が考 えられる。5.6 「常陽」、「もんじゅ」の経験の反映現在、世界で稼働している高速増殖炉は少ないため、 高速増殖炉の実用化のために必要な保守・補修技術 を確実に高度化していくためには、「常陽」や「もんじ ゆ」の経験を有効に活用していくことが重要である。 そのような中で、2009年8月に文部科学省より「もん じゅ」を活用した特別推進分野の研究課題が募集され た。その中の『課題1 :「もんじゅ」における高速 増殖炉の実用化のための中核的研究開発』につい ては、福井大学が総括代表として応募し委託先に 採択された。本課題の中の「プラント保全技術に 関する研究開発」は、『高温で運転される高速増 殖炉の健全性の確認・維持・向上を図る上で特に 重要となる機器配管の高応力部や溶接部で予想 されるクリープ疲労損傷や溶接割れ等の経年劣 化を対象に、「もんじゅ」や実用化段階の高速増 殖炉の運転や維持基準の体系化に必要な 1) 劣化 診断技術、2) 検査モニタリング技術及び 3)補修 技術を開発し、4)高速増殖炉の保全評価手法を構 築する。』ことを目的としており、これまでに述 べた開発課題の幾つかが研究テーマとして盛り 込まれた。高速炉の保守・補修技術を体系的、大々 的に取り上げた研究プロジェクトは今までに例 がなく、今後3年間の研究開発成果に大きな期待 が寄せられている。 * 「常陽」や「もんじゅ」の運転を通して得られる保 守・補修経験を反映し高速増殖炉の保全計画の策定と 運用に必要な保全技術を確立するために、2009年4月 に「もんじゅ」サイトに隣接する白木地区に「FBR プ ラント工学研究センター」が開設された。また、2012 年度の開設を目指して、高速炉特有のナトリウム環境 や高温環境下での各種試験が可能な「プラント実環境 試験施設(仮称)」の建設を進めており、「FBR プラント 工学研究センター」と併せて、高温・長寿命化した高速 増殖炉の機器・設備の損傷評価手法及び材料劣化防止 技術等の基礎研究、機器・設備の保全に必要な検査・モ225ニタリング技術や補修・修理技術の開発に加え、保全管 理に必要な各種評価手法の開発の拠点を目指している。 今後、大学や産業界、国内外の研究機関等と協力して、 高速増殖炉の保全技術開発に取り組んでいく計画で ある。6.結言高速炉プラントの特徴や「常陽」、「もんじゅ」 の保守・補修経験を概観するとともに、実用化段 階の高速増殖炉の特徴を整理し、実用炉に必要な 保守・補修技術開発についてまとめた。「謝辞本報告の検討に当たっては、約1年間に亘る高 速炉のプラント設計、構造材料、保全技術及びナ トリウム技術の専門家との議論に拠るところが 大きい。特に、5章の「実用化に向けた保守・補修技 術開発」の検討に当たっては、日本原子力研究開発機 構次世代部門の青砥紀身氏、小竹庄司氏、月森和之氏、 早船浩樹氏、西山昇氏、大野裕司氏、FBR プラント工 学研究センターの宮原信哉氏との議論に拠るところ が大きく各氏に謝意を表します。参考文献1)実験炉部, ““特集「常陽」20 周年IV.高速炉の運転管理 及び保守技術の開発”,動燃技報 No.104, pp.43-58, 1997 2)磯崎他,“プラント改造設計と冷却系機器の交換““,サ イクル機構技報 No.21, pp.49-61, 2003 3)上田他,““もんじゅ用 ISI 装置の開発(1)~(33)““,原子 力学会 2003年春の年会~2006年秋の大会 4) K.Takahashi et al., “Inspection of the Steam Generator Heat Transfer Tubes for FBR Monju Restart”, ICONE17-75904, 9p. , in CD-ROM 5) 日本原子力研究開発機構,日本原子力発電株式会社, “高速増殖炉サイクル実用化研究開発 2008 年中間とりまとめ”,JAEA-Evaluation 2009-003 6) 平澤英幸,“最新の超音波探傷試験技術”,溶接学会 誌 70(2001), 405-408 7) 高屋他,“高温環境下疲労損傷による SUS304 鋼の 磁気特性変化““, 原子力学会 2004 年春の年会要旨集 Vol.42, 第2分冊, Page435 (8) 佐野他,“レーザーピーニングによる原子炉構造物」の応力腐食割れ対策”,溶接学会誌 75(2006), 33-36 9) 祖山他,“疲労強度向上におけるキャビテーション・ ショットレス・ピーニングとショット・ピーニングの比 較““,日本材料学会 学術講演会講演論文集 52, pp332-333, 2003-05-16 10) 西本他,“結晶制御補修部の機械的特性に関する検 討:LD レーザによる結晶制御クラッディング(第6 報)”,溶接学会 全国大会講演概要 (81), 82-83, 2007-09-01 (11) 猿田他,“耐熱 FBG を用いた高速炉プラント健全 性監視システムの開発:耐熱 FBG のひずみ計測性能 評価”,保全学会第 6 回学術講演会要旨 pp.219-222, 2009 12) 山口他,“高速増殖実証炉に向けた概念検討と関連 技術開発 (9)構造物欠陥検査技術開発”,原子力学会 2010年春の年会予稿集 D34 13) 西村他,“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要““, 保全学会第5回学術講演会要旨集 pp.139-141, 2008 14) 山下他,“ナトリウム中目視検査用リアルタイムセ ンサの開発”, 日本原子力学会 2009年秋の大会 G50 15) 田川他,“ナトリウム中目視検査用高解像度センサ の開発”, 日本原子力学会 2009年秋の大会 G51 16) 加藤他,“液体金属中で適用可能な摩擦攪拌接合補 修技術の開発”,原子力システム研究開発事業 平成 21 年度成果報告会資料集, 159-162 17) 河野他,“多機能レーザ溶接ヘッドの開発 (第1報) 一水中レーザ溶接の基本特性評価一““, 保全学会第5回 学術講演会要旨集 pp.99-102, 2008226“ “?高速炉の実用化に向けた保守・補修技術開発“ “山下 卓哉,Takuya YAMASHITA
実用化段階の高速増殖炉は、「もんじゅ」の2 倍の 60 年の寿命で設計されるため、高温での長 期使用による経年劣化や損傷に配慮した保守・補 修技術開発が必要になる。高速炉プラントの特徴 や「常陽」、「もんじゅ」の保守・補修経験を概観 するとともに、実用化段階の高速増殖炉の特徴を 整理し、実用炉に必要な保守・補修技術開発にっ いてまとめる。
2. 高速炉プラントの特徴- ナトリウム冷却型 FBR プラントの特徴は、高速中 性子を利用し、冷却材に化学的に活性で不透明な液体 金属ナトリウムを使用していることである。ナトリウ ムは沸点が高い(常圧で約 880°C)ため低圧で運転され ることと、構造材料に延性に優れたオーステナイト系 ステンレス鋼を用いていることから、疲労やクリープ によるき裂が貫通してもすぐに破断に至ることはなく、 破断前漏えい(LBB)が成立する。また、配管の高所引 き廻しとガードベッセルの設置等により、破断時にお いても炉心燃料の崩壊熱除去に必要な冷却材が確保出連絡先:山下卓哉、〒919-1279福井県敦賀市白木1丁目 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 FBRプラント 工学研究センター、電話: 0770-39-1031(内線6811)、 e-mail: yamashita.takuya@jaea.go.jp来るため、ナトリウムの漏えいを検知してからでも安 全に原子炉を停止することが出来る。このような特徴 から、「常陽」と「もんじゅ」の検査は、ナトリウムや カバーガスの連続漏えい監視を主体に行っている。3.実験炉「常陽」の保守・補修経験高速実験炉「常陽」(図1)は、我が国最初のウラン -プルトニウム混合酸化物燃料 (MOX燃料)、ナトリウ ム冷却、ループ型の高速増殖炉として 1977年4月に 初臨界を達成した後、1981 年 12 月までは MK-I 炉心 (増殖炉心)で熱出力 50MW 及び 75MW で運転を行 い、高速増殖炉に関する技術的知識、経験の蓄積が図 られた。その後、熱出力 10MW の MK-II 炉心(照射 用炉心)に移行した。図1 高速実験炉「常陽」221- 2003年7月には、高速中性子束を MK-II 炉心の 約 1.3 倍、原子炉熱出力を 140MW に増加させた MK-III 炉心の初臨界を達成した後、2004 年から MK-III 炉心での本格運転を開始し、燃料、材料の照 射施設として利用されている。この間、炉心管理、 運転技術、保守技術などで多くの経験を蓄積した。 しかしながら、2007年5月14日に MK-III 炉心第 6 サイクル運転を終了した後、照射試験を終了した 計測線付実験装置の切り離しに失敗し、燃料交換機 能の一部阻害と炉心上部機構下面の損傷が明らかに なった。現在、再起動に向けた復旧方法の検討を進 めている。「常陽」の原子炉設備の構造材料に使用している ステンレス鋼やフェライト系合金鋼は、ナトリウム 中ではほとんど腐食しない。また、ナトリウム中に は主循環ポンプを含め、可動部が摺動し、磨耗する 部分がない。このため、「常陽」のナトリウム機器は 電気や機械部分を除き原則としてメンテナンスフリ ーである。一方、カバーガス中に設置されている回 転プラグや燃料交換機などの燃料取扱い系の機器の 可動部にナトリウム蒸気が付着しため、運転手法の 改善やナトリウム付着低減のための改造工事を行っ た。原子炉および冷却設備のナトリウム機器につい ては、電動機や電気部品の点検、および機器の外観 目視検査を行っているが、これまで「常陽」ではナ トリウム機器に関する重大な故障は発生していない。 供用期間中の健全性については、連続漏えい監視を 主体に、ナトリウムに接する機器の構造材料はナト リウム冷却系に装荷したサーベイランス材により、 また、中性子照射効果については原子炉容器内に装 荷したサーベイランス試験片により確認している。 - 高速実験炉「常陽」は、1977年の初臨界以来、33 年間の運転の中で、1次主冷却系の主循環ポンプ分 解点検・再組立、主中間熱交換器の交換等の作業を 通して、これらナトリウム機器取り扱いに係る作業 管理・プラント管理の経験・知見を蓄積してきてい る 1-2。4. 原型炉「もんじゅ」の保守・補修経験高速増殖原型炉「もんじゅ」(図2)は、1994 年 4月5日に初臨界を達成したが、電気出力 40%での 出力上昇試験及び過渡試験を実施していた 1995 年12月8日に2次主冷却系ナトリウム漏えい事故が発 生し原子炉を停止した。その後、徹底した原因究明 を行うとともに、安全性及び信頼性のより一層の向 上を図ることを目的とした「安全総点検」を実施し、 改善すべき事項を明らかにするとともに、ナトリウ ム漏えい対策等に係る改善策を策定した。2005年9 月にナトリウム漏えい対策等に係る工事に着手し、 2007年5月23日に終了した。その後、工事確認試 験、プラント確認試験、単体及び系統の機能確認試 験を経て、2010年4月28日に地元了解が得られた ため、5月6日に運転を再開し同8日に臨界を達成 した。今後、炉心確認試験、発電を行う 40%出力プ ラント確認試験、その後の出力上昇試験と3段階の 性能試験を経て、約3年後に 100%出力を達成する 計画である。「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)は、連続漏え い監視が主体であるが、安全上特に重要な機器に対 しては最新の開発成果を取り入れて計画的に検査装 置開発を行うこととされており、(1)原子炉容器廻り 検査装置、(2)蒸気発生器伝熱管検査装置、(3) 1次主 冷却系配管検査装置については、1960 年代から開 発・整備を進め、1991 年に行われた総合機能試験に 適用し、要求性能を満たすことを確認した(図3)。 その後も、検査性能と検査効率の向上を図るべく ISI 装置の高度化を進めた 3)。原子炉容器廻り検査装置 については、従来のファイバースコープに代えて、 CCD カメラを搭載し肉眼試験時の視認性の向上と 視野の拡大を図った。また、研究開発の位置付けで 搭載を検討している電磁超音波探傷器(EMAT)の改 良を行い、従来の2倍の検出感度向上と 1/4 の重量 軽減を達成した。蒸気発生器伝熱管検査装置につい ては、渦電流を励起するコイルを2個配置した図2 高速増殖原型炉「もんじゅ」222認試験」の一環として 2007年 11 月から 2008年 月に掛けて蒸気発生器伝熱管の全数検査を実施し、 問題となるような減肉や欠陥が無いことを確認して 双方向励磁型リモートフィールド ECT の採用とプ ローブ構造の見直し等により、欠陥検出性能の向上 と振動ノイズの低減を図った。1次主冷却系配管検 査装置については、超音波探傷プローブの最適化に より、従来の1.5倍の検出感度向上を図った。なお、 蒸気発生器伝熱管検査装置については、「プラント確 認試験」の一環として 2007年 11 月から 2008年3 月に掛けて蒸気発生器伝熱管の全数検査を実施し、 問題となるような減肉や欠陥が無いことを確認して いる)。原子炉容器超り検査装置もんじゅ「原子炉容器検査ロボットるベッセル1次主冷却系配管検査装置 中間熱交換器蒸気発生器伝熱管検査装置5. 実用化に向けた保守・補修技術開発 5.1 実用炉の開発目標と特徴FBR サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト) で選定した高速炉は、「常陽」や「もんじゅ」と同様 に MOXを燃料とするナトリウム冷却型ループ型炉で ある。FaCT プロジェクトでは、経済性の向上、信頼 性の向上及び安全性の向上のために、図4に示すよう な革新技術の採用を検討している 5)。実用炉も基本的 には連続漏えい監視が主体になるが、革新技術の一つ として「の保守、補修性を考慮したプラント設計」を 挙げており、これを達成することにより信頼性・安全性 の向上と供用期間全体を通しての運転・保守に掛かる コストの低減を目指している。実用炉の保守・補修技術を検討する上で考慮すべき 特徴を列挙すると、1)「もんじゅ」よりも高温化(「も んじゅ」の運転温度 529°Cに対し、実証炉は 550°C)を 図るとともに設計寿命を2倍の60年に設定している こと、2) 24 ヶ月の連続運転と 90%以上の稼働率を目 標としていること、3)構造材料として原子炉容器に 316FR 鋼を採用しそれ以外の1次主冷却系機器・配管 及び2次主冷却系機器・配管の構造材料として改良9Cr 鋼等の新材料を採用していること、4)安全上の配慮か ら容器や配管を2重化するとともに蒸気発生器伝熱管 に直管型の2重伝熱管の採用していること、5)システ ムの簡素化を狙ったポンプ組込型 IHX や逆L字型の1 次主冷却系配管の採用等により、機器設置がコンパク トになる一方で検査・補修部位へのアクセス性が悪化 したこと、また、6)原子炉容器が大型化し「もんじゅ」 には無い原子炉容器の縦継手や炉心支持スカートの溶 接構造の採用などが挙げられる。挿入装置に検査ロボット一伝熱管ECTプローブ図3 「もんじゅ」の ISI 装置一方、ナトリウム漏えい対策に係る2次冷却系の 改造工事では、高速実験炉「常陽」や海外先行プラ ントの改造工事の経験や知見を参考に、ナトリウム バウンダリを開放する際のプラバックの使用、プラ バック内の酸素濃度管理、系統系カバーガスの微正 圧制御、切粉混入防止のためのロールカッタによる 押し切り工法等を採用した。これらの導入により、 2次冷却系の改造工事は、トラブルもなくほぼ計画 通りに完了することができた。 原子炉容器廻り検査装置もんじゅ原子炉容器検査ロボットすーガード るベッセル蒸気発生器伝熱管検査装置1次主冷却系配管検査装置 中間熱交換器類挿入装置検査ロボット一伝熱管ECTプローブ図3 「もんじゅ」の ISI 装置 経済性に係る課題」 1配管短縮のための高クロム鋼の開発 2システム簡素化のための冷却系2ループ化 [31次冷却系簡素化のためのポンプ | 込型中間熱交換器開発 4原子炉容器のコンパクト化信頼性向上に係る課題 R配管2重化によるナトリウム漏洩対策と技術開発 19直管2重伝熱管蒸気発生器の開発10保守、補修性を考慮したプラン| ト設計と技術開発安全性向上に係る課題 「1D受動的炉停止と自然循環による炉 心冷却(5)システム簡素化のための燃料取扱系の開発 c物量削減と工期短縮のための格納容器のSC造化 7高燃焼度化に対応した炉心燃料の 開発(2炉心損傷時の再臨界回避技術13 大型炉の炉心耐震技術図4 実用化に向けた革新技術の検討 .1 実用炉の開発目標と特徴 FBR サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト) 選定した高速炉は、「常陽」や「もんじゅ」と同様 - MOXを燃料とするナトリウム冷却型ループ型炉で として「の保守、補修性を考慮したプラント設計」を 挙げており、これを達成することにより信頼性・安全性 の向上と供用期間全体を通しての運転・保守に掛かる ストの低減を目指している。 実用炉の保守・補修技術を検討する上で考慮すべき =徴を列挙すると、1)「もんじゅ」よりも高温化(「 及び2次主冷却系機器・配管の構造材料として改良9Cr 鋼等の新材料を採用していること、4)安全上の配慮か ら容器や配管を2重化するとともに蒸気発生器伝熱管 次主冷却系配管の採用等により、機器設置がコ トになる一方で検査・補修部位へのアクセス性が したこと、また、6)原子炉容器が大型化し「もん には無い原子炉容器の縦継手や炉心支持スカー 接構造の採用などが挙げられる。- 223 -5.2 新材料の採用と高温、長寿命化に向けた保守・補修技術開発 実用炉は、316FR 鋼や改良 9Cr 銅といった新たな構 造材料の採用に伴い、「もんじゅ」よりも高温化を図る とともに設計寿命を2倍の 60 年に設定している。高温 で長時間に亘って機器を使い続けるためには、クリー プ疲労損傷や溶接部の割れを主体とした高温で問題と なる劣化・損傷を適切に検出する技術、検出した劣化・ 損傷のその後の進展を予測する技術、劣化・損傷の補修 の必要性や時期を評価する技術等に加えて劣化・損傷 の予防・回復技術や補修・修理の技術が重要になる。 機器の劣化や損傷を検出する技術として、軽水炉や 「もんじゅ」の蒸気発生伝熱管の検査にも適用される 過電流探傷(ECT; Eddy Current Testing)や「もんじゅ」 の原子炉容器の溶接部の検査用に研究開発を行ってい る電磁超音波探触子(EMAT; Electro-Magnetic Acoustic Transducer)等に加えて、中間媒質が不要なため非接触 で高温の被検体の超音波探傷を行うことができるレー ザー超音波のも有望である。また、目に見える前の劣 化状態の検知を可能にする磁気的検査手法 ”の開発が 望まれる。 |- 劣化・損傷を予防・回復する技術としては、誘導加熱 やレーザー加熱等による損傷部分の焼戻しやレーザー ピーニング 8) 等による材料強化がある。また、ナトリ ウム中で実施できる可能性のある材料強化技術として、 キャビテーションショットレスピーニングの応用が 考えられる。また、き裂などの損傷部の補修について は、細いグラスファイバーで大きなエネルギーを伝送 でき遠隔での補修が可能な技術としてレーザーによる クラッディング補修 100が考えられる。5.3 長期連続運転の達成と稼働率向上に必要な保守・補修技術開発 24ヶ月の長期連続運転と 90%以上という高い稼働率 を達成するためには、運転しながら機器の劣化・損傷の 検査やモニタリングが出来る状態監視技術を積極的に 採り入れことが必要である。運転中の状態監視を取り 入れることにより、定検での検査項目を減らすことが 出来るだけでなく、軽水炉の応力腐食割れ(SCC)のよう に当初想定出来なかった損傷や高クロム鋼の「タイプ IV損傷」のように加速試験では確認できないような損 傷に対するリスクの低減が可能となる。状態監視は、特に、運転経験の少ない実証段階での未知の破損に対 するリスク低減に有効と考えられる。 - 状態監視技術に使える技術として、前述の ECT、 EMAT やレーザー超音波等がある他、1本のグラスフ ァイバーで同時に数千箇所の温度、歪、振動等のモニ タリングが可能なファイバー・ブラッグ・グレーティン グ(FBG; Fiber Bragg Grating))がある(図5)。ただし、 これらの技術を高速炉の機器・配管のモニタリング用 センサとして実用化するためは、耐熱性と耐放射線性 が要求されるため新たな技術開発が必要である。FBG(ファイバグレー ティング)センサの反射 波長を計測して歪み等 を導出光ファイバ| 高温機器・配管の光ファイバセンサによる監視技術FBGセンサ エルボ部など の歪み集中部 にFBGセンサ を張り巡らせる0図5 FBG センサを用いた状態監視システム5.4 容器、配管、SG 伝熱管の2重化、狭隘化に対する保守・補修技術開発 実用炉は、原子炉容器や主冷却系配管が 2 重化され るため、人が検査部位に直接アクセスすることが出来 ない。また、システムの簡素化を狙ったポンプ組込型 IHX や逆L字型の1次主冷却系配管の採用等により機 器設置スペースが狭隘化する等、検査・補修部位へのア クセス性が悪くなる。このため、人がアクセスしなく ても行える遠隔での検査・補修技術の開発が必要にな る。容器や配管に対する遠隔の検査・補修技術は、前述 の ECT、EMAT、レーザー超音波等のセンサやレーザ ー補修装置と「もんじゅ」の検査ロボット(図3)を 組み合わせることにより可能になる。実用炉の蒸気発生器伝熱管は、内外の管を密着させ た構造の2重伝熱管であることや、「もんじゅ」に比べ224て伝熱管本数が大幅に増えることから、検査精度の向 上に加え検査速度の高速化が望まれる。このため、欠 陥検出性能の高い超音波探傷プローブとマルチコイル 型の ECT プローブ(図6)の開発 12)に加え、探傷速度 の飛躍的な高速化が可能なガイドウェーブプローブの 開発を進めている。初期段階で検出された小さなき裂 程度であれば比較的容易に補修が出来るため、ECT プ ローブとレーザー加工ヘッドを組合わせた伝熱管の検 査補修装置の開発を進めている13)。試験体マルチコイル型 RFECセンサ励磁コイルさ検出コイルー図6 マルチコイル型の ECT プローブ5.5 ナトリウム中の保守・補修技術開発原子炉容器の炉心支持スカートの溶接構造を検査す るためには、高温(検査時の温度は約 200°C)の液体 金属ナトリウム中で適用出来る検査技術が必要である。 ・ ナトリウム中の検査装置については、超音波を使っ て機器の変形、破損、脱落やき裂の目視検査や体積検 査が可能なセンサの開発 14-15)と検査部位にアクセスす るための搬送装置(電磁推進式ビークル)の開発を進 めている(図7)。ト導入管超音波による 位置決め超音波受信器2)体積検査電磁推進式 ビークルNa中検査装置1)検査システム。3)目視検査 図7 ナトリウム中の検査装置ナト * ナトリウム中の補修技術については、液体金属中での摩擦攪拌接合(FSW; Friction Stirring Welding) 補修技 術の研究がある他、軽水炉で実用化された水中での レーザー補修技術 10のナトリウム中補修への応用が考 えられる。5.6 「常陽」、「もんじゅ」の経験の反映現在、世界で稼働している高速増殖炉は少ないため、 高速増殖炉の実用化のために必要な保守・補修技術 を確実に高度化していくためには、「常陽」や「もんじ ゆ」の経験を有効に活用していくことが重要である。 そのような中で、2009年8月に文部科学省より「もん じゅ」を活用した特別推進分野の研究課題が募集され た。その中の『課題1 :「もんじゅ」における高速 増殖炉の実用化のための中核的研究開発』につい ては、福井大学が総括代表として応募し委託先に 採択された。本課題の中の「プラント保全技術に 関する研究開発」は、『高温で運転される高速増 殖炉の健全性の確認・維持・向上を図る上で特に 重要となる機器配管の高応力部や溶接部で予想 されるクリープ疲労損傷や溶接割れ等の経年劣 化を対象に、「もんじゅ」や実用化段階の高速増 殖炉の運転や維持基準の体系化に必要な 1) 劣化 診断技術、2) 検査モニタリング技術及び 3)補修 技術を開発し、4)高速増殖炉の保全評価手法を構 築する。』ことを目的としており、これまでに述 べた開発課題の幾つかが研究テーマとして盛り 込まれた。高速炉の保守・補修技術を体系的、大々 的に取り上げた研究プロジェクトは今までに例 がなく、今後3年間の研究開発成果に大きな期待 が寄せられている。 * 「常陽」や「もんじゅ」の運転を通して得られる保 守・補修経験を反映し高速増殖炉の保全計画の策定と 運用に必要な保全技術を確立するために、2009年4月 に「もんじゅ」サイトに隣接する白木地区に「FBR プ ラント工学研究センター」が開設された。また、2012 年度の開設を目指して、高速炉特有のナトリウム環境 や高温環境下での各種試験が可能な「プラント実環境 試験施設(仮称)」の建設を進めており、「FBR プラント 工学研究センター」と併せて、高温・長寿命化した高速 増殖炉の機器・設備の損傷評価手法及び材料劣化防止 技術等の基礎研究、機器・設備の保全に必要な検査・モ225ニタリング技術や補修・修理技術の開発に加え、保全管 理に必要な各種評価手法の開発の拠点を目指している。 今後、大学や産業界、国内外の研究機関等と協力して、 高速増殖炉の保全技術開発に取り組んでいく計画で ある。6.結言高速炉プラントの特徴や「常陽」、「もんじゅ」 の保守・補修経験を概観するとともに、実用化段 階の高速増殖炉の特徴を整理し、実用炉に必要な 保守・補修技術開発についてまとめた。「謝辞本報告の検討に当たっては、約1年間に亘る高 速炉のプラント設計、構造材料、保全技術及びナ トリウム技術の専門家との議論に拠るところが 大きい。特に、5章の「実用化に向けた保守・補修技 術開発」の検討に当たっては、日本原子力研究開発機 構次世代部門の青砥紀身氏、小竹庄司氏、月森和之氏、 早船浩樹氏、西山昇氏、大野裕司氏、FBR プラント工 学研究センターの宮原信哉氏との議論に拠るところ が大きく各氏に謝意を表します。参考文献1)実験炉部, ““特集「常陽」20 周年IV.高速炉の運転管理 及び保守技術の開発”,動燃技報 No.104, pp.43-58, 1997 2)磯崎他,“プラント改造設計と冷却系機器の交換““,サ イクル機構技報 No.21, pp.49-61, 2003 3)上田他,““もんじゅ用 ISI 装置の開発(1)~(33)““,原子 力学会 2003年春の年会~2006年秋の大会 4) K.Takahashi et al., “Inspection of the Steam Generator Heat Transfer Tubes for FBR Monju Restart”, ICONE17-75904, 9p. , in CD-ROM 5) 日本原子力研究開発機構,日本原子力発電株式会社, “高速増殖炉サイクル実用化研究開発 2008 年中間とりまとめ”,JAEA-Evaluation 2009-003 6) 平澤英幸,“最新の超音波探傷試験技術”,溶接学会 誌 70(2001), 405-408 7) 高屋他,“高温環境下疲労損傷による SUS304 鋼の 磁気特性変化““, 原子力学会 2004 年春の年会要旨集 Vol.42, 第2分冊, Page435 (8) 佐野他,“レーザーピーニングによる原子炉構造物」の応力腐食割れ対策”,溶接学会誌 75(2006), 33-36 9) 祖山他,“疲労強度向上におけるキャビテーション・ ショットレス・ピーニングとショット・ピーニングの比 較““,日本材料学会 学術講演会講演論文集 52, pp332-333, 2003-05-16 10) 西本他,“結晶制御補修部の機械的特性に関する検 討:LD レーザによる結晶制御クラッディング(第6 報)”,溶接学会 全国大会講演概要 (81), 82-83, 2007-09-01 (11) 猿田他,“耐熱 FBG を用いた高速炉プラント健全 性監視システムの開発:耐熱 FBG のひずみ計測性能 評価”,保全学会第 6 回学術講演会要旨 pp.219-222, 2009 12) 山口他,“高速増殖実証炉に向けた概念検討と関連 技術開発 (9)構造物欠陥検査技術開発”,原子力学会 2010年春の年会予稿集 D34 13) 西村他,“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要““, 保全学会第5回学術講演会要旨集 pp.139-141, 2008 14) 山下他,“ナトリウム中目視検査用リアルタイムセ ンサの開発”, 日本原子力学会 2009年秋の大会 G50 15) 田川他,“ナトリウム中目視検査用高解像度センサ の開発”, 日本原子力学会 2009年秋の大会 G51 16) 加藤他,“液体金属中で適用可能な摩擦攪拌接合補 修技術の開発”,原子力システム研究開発事業 平成 21 年度成果報告会資料集, 159-162 17) 河野他,“多機能レーザ溶接ヘッドの開発 (第1報) 一水中レーザ溶接の基本特性評価一““, 保全学会第5回 学術講演会要旨集 pp.99-102, 2008226“ “?高速炉の実用化に向けた保守・補修技術開発“ “山下 卓哉,Takuya YAMASHITA