高速炉構造材料の照射損傷管理技術に関する研究開発
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
原子炉容器や炉内構造物等のように比較的低い 反射線環境下に長時間継続的にさらされ、かつ寿命 コの交換が困難である鉄鋼材料構造物に関して、機特性に与える照射環境効果を適切に把握し管理 一ることは、合理的なプラントの設計や建設、運転始後の経年評価等の健全性確保のために必須で ある。照射環境効果を評価するための指標としては、 これまでの研究により、弾き出し損傷量や He 生成 量、及び両者の比(Heldpa)が有望であることが知 られている。そこで本研究では、次世代高速炉の候補構造材料 つひとつである高速炉用 SUS316 オーステナイト系 ステンレス鋼(316FR)を対象に、上記の候補指標 の有効性を検討した。想定適用範囲は、弾き出し損 島量及び He 生成量についてそれぞれ約1dpa、約 30 ppm までとした。高速炉「常陽」及び熱中性子炉 「JRR-3M」を用いて中性子照射試験を行い、引張試 浄、クリープ試験に供した。異なる種類の原子炉を 引用することにより、単一の炉では得ることが難し い照射損傷範囲の試料を得ることができる。さらに、連絡先: 髙屋 茂, 〒311-1393 茨城県東茨城郡大 も町成田町 4002,(独)日本原子力研究開発機構 次世代原子力システム研究開発部門 構造材料 平価グループ,電話 : 029-267-4141, E-mail: | akaya.shigeru@jaea.go.jp三研究では各炉での照射に加えて、両炉を用いた組 合せ照射も実施した。また、運転開始後の照射損傷量を非破壊で評価す うために提案した遠隔操作式振動試料型磁力計を 引いた手法についても紹介する。
2. 実験方法 3.1 中性子照射試験」
中性子照射試験は、日本原子力研究開発機構の高 東実験炉「常陽」(高速炉)及び研究用原子炉 「JRR-3M」(熱中性子炉)を用いて、各炉での単独 照射試験及び両炉を用いて世界的にも希少である 組合せ照射を実施した。照射試験の雰囲気は、不活 生ガス(Ar、He) 中とした。高速炉での照射では、熱 中性子炉での照射に比べて多くの弾き出し損傷が 導入され、一方、熱中性子炉での照射では、より多 くの He が生成されるため、複数の炉を用いた照射 や組合せ照射を実施することにより、より広い範囲 での照射損傷指標の検討が可能になる。供試材には、316FR を用いた。また、熱中性子炉 である「JRR-3」での照射の際に ''B(n, a)' Li反応を 利用して、短時間でより多くの He を発生させるた めに、'Bを添加した 316FR(316FR+B)も作製し、照 射試験に供した。両鋼の化学組成を表 1 に示す。 316FR については 1050°Cで、316FR+B については 1010°Cで 30 分間保持した後、水冷することにより、 容体化処理を行った。試験片形状を図1に示す。引Table 1 Chemical compositions (wt%) |c | Si | Mn | P | s | Cu | Ni | Cr | Mo | V | N 316FR0.01 | 0.59 0.84 10.026 | 0.003 10.26 | 11.19 | 16.87 | 2.23 | 0.08 | 0.08 316FR+B 0.01 | 0.58 | 0.79 | 0.020 | 0.003 | 0.28 | 11.02 | 16.63 | 2.08 | 0.008 | 0.076 | *. '°B with 99% purity was used.(ppm)23* -長試験、クリープ試験には SS-3 試験片を、照射損傷 の非破壊評価手法の開発を目的とした磁気測定に は短冊状試験片を用いた。照射後に、照射損傷量及び照射温度を評価した結 果、「常陽」での照射については、弾き出し損傷量、 He 生成量、照射温度の範囲は、それぞれ、0.8~1.7 apa、0.3~0.9 appm、487~565°Cであった。また 「JRR-3M」での照射については、それぞれ 0.1~0.2 ■pa、He 生成量: 1.7~35 appm、441~579°Cであっ中性子照射試験のより詳細については、松井らに より報告されている[1]。25.41.524.95||| (t = 0.76)7.62 (a) SS-3 type.25.44.95(t = 1.71)(b) Plate type.Fig.1 Dimensions of the samples. (unit: mm)2.2 照射後試験引張試験及びクリープ試験を実施した。試験温度 はいずれも 550°Cとし、真空中(102~10“ Pa)で実 施した。引張試験における引張速度は 0.2 mm/min とした。 * 本研究では、引張試験、クリープ試験ともに、図 1(a)に示す微小試験片(SS-3 試験片)を用いた。加 藤らは、316FR の未照射材について、SS-3 試験片で 得られた引張特性及びクリープ特性と、JIS 標準試 験片で得られたそれらを比較し、両者に有意な差が 認められないことを報告している[2]。さらに、新たに開発した遠隔操作式振動試料型磁 力計[3]を用いて照射材の磁化曲線を測定した[4]。図 1(b)に示す短冊状試験片を、照射後、6.5 mm の長さ に切断し、測定に供した。印加磁場方向は試験片の 長手方向とし、最大印加磁場は約 0.5/ko Alm とした。3.照射損傷評価指標の検討図2に、弾き出し損傷量と 550°Cでの引張試験結 果(未照射材の結果で規格化した降伏応力及び破断 伸び)の関係を示す。なお、図には、今回の照射後 試験結果の他に、原子力機構の既存照射後試験結果 も含めた。また、図中プロット点の濃淡は、Heldpa に対応している。この図から、弾き出し損傷量の増 加とともに、降伏応力が増加し、破断伸びが低下す る傾向が認められ、弾き出し損傷量が引張特性への 照射環境効果を評価するための指標として有効で あることがわかる。一方、Heldpa については、仮に 指標として有効であるならば、同一弾き出し損傷量 で比較した場合、He/dpa に従ってデータが分布する ことが予想されるが、データのばらつきが見られる 1 dpa 付近に注目しても、そのような傾向は認められ なかった。このことから、引張特性については、 Heldpa を考慮する必要はないことが分かる。引張特性に与える He 単独の影響については、長 谷川らにより検討されている[4, 5]。長谷川らは、 316FR について、AVF サイクロトロンを用いて、約 550°Cで、50 MeV He-イオンを最大 50 appm まで注 入した後、注入温度と同じ 550°Cで引張試験を行い、 He注入量が機械特性に与える影響を調べている[5]。 その際の弾き出し損傷量は約 0.01 dpa 以下である。 その結果、He 注入量が 50 appm までの範囲では、強 度、延性ともに、He 注入による顕著な変化は認めら れないことがわかった。長谷川らは、また、約 550°C で 10 appm まで He を注入した 316FR の透過型電子 顕微鏡観察も実施しており、マトリックス中にも結 晶粒界においても、He バブルが観察されなかったこ とを報告している[4]。このように、He 生成量も、 引張特性の照射環境効果を評価する上で考慮する 必要が無いことが分かる。 * 以上のことから、想定適用範囲内においては、弾 き出し損傷量が、引張特性への照射環境効果を評価 するために有効な照射損傷指標であることが分かった。次に、クリープ破断寿命の照射環境効果評価に有 効な照射損傷指標について検討する。図3に、クリ - 232 -100002.5|1et3[1e+2Normalized yield stressHe/dpa (appm/dpa)100|1e-10.011e- 41e- 31e- 21e- 11e+01e+1 Dose (dpa) (a) Normalized yield stress.11000010000.11Normalized fracture elongationHe/dpa (appm/dpa)+---Die-21e- 41e- 31e- 21e- 11e+01e+1_1 Dose (dpa) (b) Normalized fracture elongationFig. 2 Relationships between dose and tens properties of 316FR at 550°C.tensileープ破断寿命比と弾き出し損傷量及び He 生成量と の関係を示す。なお、クリープ破断寿命比とは、照 射材のクリープ破断寿命と、同じ負荷応力での未照 射材のクリープ破断寿命の比のことである。また、 図には、316FR と同じオーステナイト系ステンレス 鋼である SUS304 鋼に関するデータを含む原子力機 構の既存照射後試験データも加えた。図 3 から、 SUS304 に比べて、316FR の方が、照射によるクリ ープ寿命の低下程度が小さいことがわかる。また、 弾き出し損傷量、He 生成量のいずれについても、値 の増加とともに、クリープ破断寿命比が低下する傾 向にあるように思われる。しかしこれは、多くのデ ータが「常陽」での照射試料を用いて得られている ために Heldpa がほぼ等しく、弾き出し損傷量と He 生成量の効果を明確に分離できていないことが影 響していると考えられる。そこで、図中点線の囲み で示した弾き出し損傷量がほぼ等しく、He 生成量が 大きく異なる 316FR と 316FR+B の結果に着目する と、He 生成量が1桁以上異なるにも関わらず、クリープ破断寿命比に大きな違いはないことが分かる。 上述の長谷川らの研究結果からも、約 30 appm まで とした今回の想定適用範囲内においては、He 生成量 単独では機械特性に顕著な影響を及ぼさないと予 想される。さらに Heldpa についても、クリープ破断 寿命比との関係を検討したが、特に相関性は認めら れなかった。以上の結果から、クリープ破断寿命についても、 弾き出し損傷量が約 1 dpa まで、He 生成量が約 30 appm までとした想定適用範囲内であれば、弾き出 し損傷量を用いて評価できることが分かった。ここ で、一般的には、クリープ特性については He 生成 量が影響すると考えられている。今回の検討では、 単純な総量としての He 生成量とクリープ破断寿命 の間に直接的な相関を求めることは困難であった。 しかしながら、今後、例えば、結晶粒界に偏析する He量等のような実効的な He量との相関を検討する 必要があると考えられる。Time to rupture ratio (Tread/Tr Unitrad.)01.E.041.E.03OSUS304 ●316FR ■316FR+BTime to rupture ratio (Triad / Tr Unitrad.)1.E.04 110.0031101.E-02 1 1 .E-01dose (dpa) (a) dose◆SUS304●316FR316FR+BTime to rupture ratio (Trinad/Truninrad.)0.0010.01101000.11.E+00 He content (appm) (b) He contentFig. 3 Relationships between irradiation damage indexes and time to rupture ratio.Time to rupture ratio (Trinad. Trunimad.)0.0010.012334.損傷指標に基づく照射損傷の非破壊評 価技術の開発3.での検討から、照射損傷指標として弾き出し損 傷量が有効であることが分かった。そこで、運転開 始後の弾き出し損傷量の進行監視技術を開発する ことを目的として、遠隔操作式振動試料型磁力計を 開発した[3]。 本装置を用いることにより、照射材の 磁化曲線を簡便に測定することが可能であり、磁化 曲線から保磁力等各種磁化特性を評価することが できる。本研究で中性子照射した 316FR 及び 316FR+B の 磁化曲線を測定し、各種磁化特性と弾き出し損傷量 の関係を調べたところ、特に、最大印加磁場での磁 化(飽和磁化相当値)と保磁力が弾き出し損傷量と の相関が高かった[4]。例として、保磁力と弾き出し 損傷量の関係を図4に示す。弾き出し損傷量ととも に、保磁力が低下する傾向が認められる。 *今後、データの拡充が求められるものの、遠隔操 作式振動試料型磁力計を用いてサーベイランス試 験片等の磁化曲線を測定し、保磁力等の磁化特性を 評価することによって、損傷指標として有望である 弾き出し損傷量の進行を監視できる可能性がある。JRR-3316FR ・316FR+BJRR-3(467°C)Coercive force (10+/4, A/m)JOYO.JOYO JRR-3JOYOJRR-3JRR 3-JOYO0.511.5 Dose (dpa)Fig. 4. Relationship between dose and coercive force[4].5.結言次世代高速炉の候補構造材料である 316FR を対 象に、照射損傷評価の候補指標である弾き出し損傷 量、He 生成量及び両者の比について、中性子照射に よる引張特性及びクリープ特性変化との関係を調 べ、次世代高速炉構造材料の照射損傷評価に有効な 指標を検討した。想定適用範囲は、弾き出し損傷量 及び He 生成量についてそれぞれ約 1 dpa、約 30 appm までの範囲とした。「常陽」及び「JRR-3M」の各炉での照射及び両炉 を用いた組合せ照射を実施し、引張試験及びクリー プ試験に供した。原子力機構の既存照射後試験デー タを合わせた検討の結果、想定適用範囲内では、He生成量及び Heldpa は、引張特性やクリープ特性に有 意な影響を与えないと考えられること、一方、弾き 出し損傷量については、その増加とともに降伏応力 の増加、引張破断伸びの低下、クリープ寿命の低下 が認められることがわかった。以上の検討の結果か ら、候補指標のうち、弾き出し損傷量が、照射損傷 指標として最も有効であると考えられる。さらに、遠隔操作式振動試料型磁力計を用いて評 価した保磁力と弾き出し損傷量の関係を紹介し、サ ーベイランス試験片等を用いて、実機の弾き出し損 傷量の進行を監視できる可能性を示した。謝辞本報告の内容は、旧電源開発促進対策特別会計法 及び特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会 計)に基づく文部科学省からの受託事業として独立 行政法人日本原子力研究開発機構が実施した平成 18年度、平成19年度及び平成 20 年度「長寿命プラ ント照射損傷管理技術に関する研究開発」の成果で す。参考文献 [1] 松井義典ら, “実験炉組合せ照射(JRR-3⇔常陽)及びホット施設 (WASTEF, JMTR ホットラボ、 MMF, FMF) の 作業計画と 作業報告““,JAEA-Technology 2009-072 (2010). [2] 加藤章一, 若井栄一, 吉田英一,土岐沢耕一,福島文欧,“長寿命プラント照射損傷管理技術 に関する研究開発 (5)微小試験片による未照射 材料の強度試験““,日本原子力学会 2007 年秋の 大会, G12 (2007) 高屋茂,山県一郎, 市川正一, 永江勇二, 若井 栄一, 青砥紀身, “照射損傷評価のための遠隔操 作式振動試料型磁力計の開発”, 保全学誌, 9[1],51-56(2010). [4] S. Takaya, I. Yamagata, S. Ichikawa, Y. Nagae, K.Aoto, “Nondestructive Evaluation of Neutron Irradiation Damage on Type 316 Stainless Steel by Measurement of Magnetic Properties”, International Journal of Applied Electromagneticsand Mechanics, accepted. [5] A. Hasegawa, S. Nogami, M. Sato, E. Wakai, K.Aoto, “Evaluation of Helium Effect on Candidate Structural Materials for Next Generation Long-life Nuclear Plant”, CYRIC (Cyclotron and Radioisotope Center) Annual Report 2007, 25-29(2008). [6] A. Hasegawa, S. Nogami, M. Sato, E. Wakai, K.Aoto, “Evaluation of Helium Effect on Candidate Structural Materials for Next Generation Long-life Nuclear Plant”, CYRIC Annual Report 2008, 47-52 (2009).234“ “?高速炉構造材料の照射損傷管理技術に関する研究開発“ “永江 勇二,Yuji NAGAE,若井 栄一,Eiichi WAKAI,青砥 紀身,Kazumi AOTO
原子炉容器や炉内構造物等のように比較的低い 反射線環境下に長時間継続的にさらされ、かつ寿命 コの交換が困難である鉄鋼材料構造物に関して、機特性に与える照射環境効果を適切に把握し管理 一ることは、合理的なプラントの設計や建設、運転始後の経年評価等の健全性確保のために必須で ある。照射環境効果を評価するための指標としては、 これまでの研究により、弾き出し損傷量や He 生成 量、及び両者の比(Heldpa)が有望であることが知 られている。そこで本研究では、次世代高速炉の候補構造材料 つひとつである高速炉用 SUS316 オーステナイト系 ステンレス鋼(316FR)を対象に、上記の候補指標 の有効性を検討した。想定適用範囲は、弾き出し損 島量及び He 生成量についてそれぞれ約1dpa、約 30 ppm までとした。高速炉「常陽」及び熱中性子炉 「JRR-3M」を用いて中性子照射試験を行い、引張試 浄、クリープ試験に供した。異なる種類の原子炉を 引用することにより、単一の炉では得ることが難し い照射損傷範囲の試料を得ることができる。さらに、連絡先: 髙屋 茂, 〒311-1393 茨城県東茨城郡大 も町成田町 4002,(独)日本原子力研究開発機構 次世代原子力システム研究開発部門 構造材料 平価グループ,電話 : 029-267-4141, E-mail: | akaya.shigeru@jaea.go.jp三研究では各炉での照射に加えて、両炉を用いた組 合せ照射も実施した。また、運転開始後の照射損傷量を非破壊で評価す うために提案した遠隔操作式振動試料型磁力計を 引いた手法についても紹介する。
2. 実験方法 3.1 中性子照射試験」
中性子照射試験は、日本原子力研究開発機構の高 東実験炉「常陽」(高速炉)及び研究用原子炉 「JRR-3M」(熱中性子炉)を用いて、各炉での単独 照射試験及び両炉を用いて世界的にも希少である 組合せ照射を実施した。照射試験の雰囲気は、不活 生ガス(Ar、He) 中とした。高速炉での照射では、熱 中性子炉での照射に比べて多くの弾き出し損傷が 導入され、一方、熱中性子炉での照射では、より多 くの He が生成されるため、複数の炉を用いた照射 や組合せ照射を実施することにより、より広い範囲 での照射損傷指標の検討が可能になる。供試材には、316FR を用いた。また、熱中性子炉 である「JRR-3」での照射の際に ''B(n, a)' Li反応を 利用して、短時間でより多くの He を発生させるた めに、'Bを添加した 316FR(316FR+B)も作製し、照 射試験に供した。両鋼の化学組成を表 1 に示す。 316FR については 1050°Cで、316FR+B については 1010°Cで 30 分間保持した後、水冷することにより、 容体化処理を行った。試験片形状を図1に示す。引Table 1 Chemical compositions (wt%) |c | Si | Mn | P | s | Cu | Ni | Cr | Mo | V | N 316FR0.01 | 0.59 0.84 10.026 | 0.003 10.26 | 11.19 | 16.87 | 2.23 | 0.08 | 0.08 316FR+B 0.01 | 0.58 | 0.79 | 0.020 | 0.003 | 0.28 | 11.02 | 16.63 | 2.08 | 0.008 | 0.076 | *. '°B with 99% purity was used.(ppm)23* -長試験、クリープ試験には SS-3 試験片を、照射損傷 の非破壊評価手法の開発を目的とした磁気測定に は短冊状試験片を用いた。照射後に、照射損傷量及び照射温度を評価した結 果、「常陽」での照射については、弾き出し損傷量、 He 生成量、照射温度の範囲は、それぞれ、0.8~1.7 apa、0.3~0.9 appm、487~565°Cであった。また 「JRR-3M」での照射については、それぞれ 0.1~0.2 ■pa、He 生成量: 1.7~35 appm、441~579°Cであっ中性子照射試験のより詳細については、松井らに より報告されている[1]。25.41.524.95||| (t = 0.76)7.62 (a) SS-3 type.25.44.95(t = 1.71)(b) Plate type.Fig.1 Dimensions of the samples. (unit: mm)2.2 照射後試験引張試験及びクリープ試験を実施した。試験温度 はいずれも 550°Cとし、真空中(102~10“ Pa)で実 施した。引張試験における引張速度は 0.2 mm/min とした。 * 本研究では、引張試験、クリープ試験ともに、図 1(a)に示す微小試験片(SS-3 試験片)を用いた。加 藤らは、316FR の未照射材について、SS-3 試験片で 得られた引張特性及びクリープ特性と、JIS 標準試 験片で得られたそれらを比較し、両者に有意な差が 認められないことを報告している[2]。さらに、新たに開発した遠隔操作式振動試料型磁 力計[3]を用いて照射材の磁化曲線を測定した[4]。図 1(b)に示す短冊状試験片を、照射後、6.5 mm の長さ に切断し、測定に供した。印加磁場方向は試験片の 長手方向とし、最大印加磁場は約 0.5/ko Alm とした。3.照射損傷評価指標の検討図2に、弾き出し損傷量と 550°Cでの引張試験結 果(未照射材の結果で規格化した降伏応力及び破断 伸び)の関係を示す。なお、図には、今回の照射後 試験結果の他に、原子力機構の既存照射後試験結果 も含めた。また、図中プロット点の濃淡は、Heldpa に対応している。この図から、弾き出し損傷量の増 加とともに、降伏応力が増加し、破断伸びが低下す る傾向が認められ、弾き出し損傷量が引張特性への 照射環境効果を評価するための指標として有効で あることがわかる。一方、Heldpa については、仮に 指標として有効であるならば、同一弾き出し損傷量 で比較した場合、He/dpa に従ってデータが分布する ことが予想されるが、データのばらつきが見られる 1 dpa 付近に注目しても、そのような傾向は認められ なかった。このことから、引張特性については、 Heldpa を考慮する必要はないことが分かる。引張特性に与える He 単独の影響については、長 谷川らにより検討されている[4, 5]。長谷川らは、 316FR について、AVF サイクロトロンを用いて、約 550°Cで、50 MeV He-イオンを最大 50 appm まで注 入した後、注入温度と同じ 550°Cで引張試験を行い、 He注入量が機械特性に与える影響を調べている[5]。 その際の弾き出し損傷量は約 0.01 dpa 以下である。 その結果、He 注入量が 50 appm までの範囲では、強 度、延性ともに、He 注入による顕著な変化は認めら れないことがわかった。長谷川らは、また、約 550°C で 10 appm まで He を注入した 316FR の透過型電子 顕微鏡観察も実施しており、マトリックス中にも結 晶粒界においても、He バブルが観察されなかったこ とを報告している[4]。このように、He 生成量も、 引張特性の照射環境効果を評価する上で考慮する 必要が無いことが分かる。 * 以上のことから、想定適用範囲内においては、弾 き出し損傷量が、引張特性への照射環境効果を評価 するために有効な照射損傷指標であることが分かった。次に、クリープ破断寿命の照射環境効果評価に有 効な照射損傷指標について検討する。図3に、クリ - 232 -100002.5|1et3[1e+2Normalized yield stressHe/dpa (appm/dpa)100|1e-10.011e- 41e- 31e- 21e- 11e+01e+1 Dose (dpa) (a) Normalized yield stress.11000010000.11Normalized fracture elongationHe/dpa (appm/dpa)+---Die-21e- 41e- 31e- 21e- 11e+01e+1_1 Dose (dpa) (b) Normalized fracture elongationFig. 2 Relationships between dose and tens properties of 316FR at 550°C.tensileープ破断寿命比と弾き出し損傷量及び He 生成量と の関係を示す。なお、クリープ破断寿命比とは、照 射材のクリープ破断寿命と、同じ負荷応力での未照 射材のクリープ破断寿命の比のことである。また、 図には、316FR と同じオーステナイト系ステンレス 鋼である SUS304 鋼に関するデータを含む原子力機 構の既存照射後試験データも加えた。図 3 から、 SUS304 に比べて、316FR の方が、照射によるクリ ープ寿命の低下程度が小さいことがわかる。また、 弾き出し損傷量、He 生成量のいずれについても、値 の増加とともに、クリープ破断寿命比が低下する傾 向にあるように思われる。しかしこれは、多くのデ ータが「常陽」での照射試料を用いて得られている ために Heldpa がほぼ等しく、弾き出し損傷量と He 生成量の効果を明確に分離できていないことが影 響していると考えられる。そこで、図中点線の囲み で示した弾き出し損傷量がほぼ等しく、He 生成量が 大きく異なる 316FR と 316FR+B の結果に着目する と、He 生成量が1桁以上異なるにも関わらず、クリープ破断寿命比に大きな違いはないことが分かる。 上述の長谷川らの研究結果からも、約 30 appm まで とした今回の想定適用範囲内においては、He 生成量 単独では機械特性に顕著な影響を及ぼさないと予 想される。さらに Heldpa についても、クリープ破断 寿命比との関係を検討したが、特に相関性は認めら れなかった。以上の結果から、クリープ破断寿命についても、 弾き出し損傷量が約 1 dpa まで、He 生成量が約 30 appm までとした想定適用範囲内であれば、弾き出 し損傷量を用いて評価できることが分かった。ここ で、一般的には、クリープ特性については He 生成 量が影響すると考えられている。今回の検討では、 単純な総量としての He 生成量とクリープ破断寿命 の間に直接的な相関を求めることは困難であった。 しかしながら、今後、例えば、結晶粒界に偏析する He量等のような実効的な He量との相関を検討する 必要があると考えられる。Time to rupture ratio (Tread/Tr Unitrad.)01.E.041.E.03OSUS304 ●316FR ■316FR+BTime to rupture ratio (Triad / Tr Unitrad.)1.E.04 110.0031101.E-02 1 1 .E-01dose (dpa) (a) dose◆SUS304●316FR316FR+BTime to rupture ratio (Trinad/Truninrad.)0.0010.01101000.11.E+00 He content (appm) (b) He contentFig. 3 Relationships between irradiation damage indexes and time to rupture ratio.Time to rupture ratio (Trinad. Trunimad.)0.0010.012334.損傷指標に基づく照射損傷の非破壊評 価技術の開発3.での検討から、照射損傷指標として弾き出し損 傷量が有効であることが分かった。そこで、運転開 始後の弾き出し損傷量の進行監視技術を開発する ことを目的として、遠隔操作式振動試料型磁力計を 開発した[3]。 本装置を用いることにより、照射材の 磁化曲線を簡便に測定することが可能であり、磁化 曲線から保磁力等各種磁化特性を評価することが できる。本研究で中性子照射した 316FR 及び 316FR+B の 磁化曲線を測定し、各種磁化特性と弾き出し損傷量 の関係を調べたところ、特に、最大印加磁場での磁 化(飽和磁化相当値)と保磁力が弾き出し損傷量と の相関が高かった[4]。例として、保磁力と弾き出し 損傷量の関係を図4に示す。弾き出し損傷量ととも に、保磁力が低下する傾向が認められる。 *今後、データの拡充が求められるものの、遠隔操 作式振動試料型磁力計を用いてサーベイランス試 験片等の磁化曲線を測定し、保磁力等の磁化特性を 評価することによって、損傷指標として有望である 弾き出し損傷量の進行を監視できる可能性がある。JRR-3316FR ・316FR+BJRR-3(467°C)Coercive force (10+/4, A/m)JOYO.JOYO JRR-3JOYOJRR-3JRR 3-JOYO0.511.5 Dose (dpa)Fig. 4. Relationship between dose and coercive force[4].5.結言次世代高速炉の候補構造材料である 316FR を対 象に、照射損傷評価の候補指標である弾き出し損傷 量、He 生成量及び両者の比について、中性子照射に よる引張特性及びクリープ特性変化との関係を調 べ、次世代高速炉構造材料の照射損傷評価に有効な 指標を検討した。想定適用範囲は、弾き出し損傷量 及び He 生成量についてそれぞれ約 1 dpa、約 30 appm までの範囲とした。「常陽」及び「JRR-3M」の各炉での照射及び両炉 を用いた組合せ照射を実施し、引張試験及びクリー プ試験に供した。原子力機構の既存照射後試験デー タを合わせた検討の結果、想定適用範囲内では、He生成量及び Heldpa は、引張特性やクリープ特性に有 意な影響を与えないと考えられること、一方、弾き 出し損傷量については、その増加とともに降伏応力 の増加、引張破断伸びの低下、クリープ寿命の低下 が認められることがわかった。以上の検討の結果か ら、候補指標のうち、弾き出し損傷量が、照射損傷 指標として最も有効であると考えられる。さらに、遠隔操作式振動試料型磁力計を用いて評 価した保磁力と弾き出し損傷量の関係を紹介し、サ ーベイランス試験片等を用いて、実機の弾き出し損 傷量の進行を監視できる可能性を示した。謝辞本報告の内容は、旧電源開発促進対策特別会計法 及び特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会 計)に基づく文部科学省からの受託事業として独立 行政法人日本原子力研究開発機構が実施した平成 18年度、平成19年度及び平成 20 年度「長寿命プラ ント照射損傷管理技術に関する研究開発」の成果で す。参考文献 [1] 松井義典ら, “実験炉組合せ照射(JRR-3⇔常陽)及びホット施設 (WASTEF, JMTR ホットラボ、 MMF, FMF) の 作業計画と 作業報告““,JAEA-Technology 2009-072 (2010). [2] 加藤章一, 若井栄一, 吉田英一,土岐沢耕一,福島文欧,“長寿命プラント照射損傷管理技術 に関する研究開発 (5)微小試験片による未照射 材料の強度試験““,日本原子力学会 2007 年秋の 大会, G12 (2007) 高屋茂,山県一郎, 市川正一, 永江勇二, 若井 栄一, 青砥紀身, “照射損傷評価のための遠隔操 作式振動試料型磁力計の開発”, 保全学誌, 9[1],51-56(2010). [4] S. Takaya, I. Yamagata, S. Ichikawa, Y. Nagae, K.Aoto, “Nondestructive Evaluation of Neutron Irradiation Damage on Type 316 Stainless Steel by Measurement of Magnetic Properties”, International Journal of Applied Electromagneticsand Mechanics, accepted. [5] A. Hasegawa, S. Nogami, M. Sato, E. Wakai, K.Aoto, “Evaluation of Helium Effect on Candidate Structural Materials for Next Generation Long-life Nuclear Plant”, CYRIC (Cyclotron and Radioisotope Center) Annual Report 2007, 25-29(2008). [6] A. Hasegawa, S. Nogami, M. Sato, E. Wakai, K.Aoto, “Evaluation of Helium Effect on Candidate Structural Materials for Next Generation Long-life Nuclear Plant”, CYRIC Annual Report 2008, 47-52 (2009).234“ “?高速炉構造材料の照射損傷管理技術に関する研究開発“ “永江 勇二,Yuji NAGAE,若井 栄一,Eiichi WAKAI,青砥 紀身,Kazumi AOTO