磁気センサを用いた磁気特性測定による非破壊材質評価
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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
機械部品の焼入れ深さの評価方法として,機械的 手法の1つである硬度試験が用いられている。この 方法は,焼入れされた機械部品を切出し,その断面 の硬度を測定することで有効焼入れ深さを決定す る。しかしながら,試料を破壊するため別途参照試 料が必要であり,実際の製品の焼入れ深さや度合い を評価することは不可能である。そのため,焼入れ 深さや度合いを非破壊評価することが望まれ,これ までにも電磁気的手法を用いた様々な研究が行わ れてきた[1-2]。著者らも,電磁気的手法を用いた焼 入れ深さや度合いの非破壊評価法をこれまで検討 してきた。まず,表面焼入れされた炭素鋼から切出 しリング試料を作製し,深さごとの磁気特性を明ら かにした。次に,試料表面から焼入れ深さや度合い を非破壊評価するため,周波数を変化させ,深さ方 向の情報を得ることを目的とした周波数探査法の 検討を行ってきた[2]。さらに,表面から磁束密度及 び磁界強度を測定する磁気センサを開発し,周波数 ごとの磁気特性を検討した[3]。本論文では,周波数探査法の1つとして,周波数 掃引励磁スペクトログラム法を開発し,焼入れ炭素 鋼の磁気特性評価を行った。その際に,異なる焼入 れ温度条件下で作製された炭素鋼の磁気特性を測 定し,焼入れ評価に有効なパラメータを検討したの でその結果を報告する。
2.焼入れ炭素鋼の周波数に対する磁気特 性評価
まず、焼入れ炭素鋼を深さ方向にリング試料に切 出し、各試料の交流磁気特性の評価を行なった。切 出しリング試料は,有効焼入れ深さが 2 mm の円柱 状炭素鋼から作製し,切出しリング試料の表面から 順に, Surface, Boundary, Interior-1, Interior-2, Interior-3 と名づけた。Fig. 1 に単位周波数あたりの磁気損失 Wm/fを示す。ここで, f = 0 における Wm/fの切 片はヒステリシス係数,勾配は渦電流係数を意味す る。Fig.1 に示すように Wm/fは,どの試料も周波 数に対して直線的に変化している。Surface のヒステ リシス係数は, Interior や Boundary と比較して大き くなっていることから,焼入れの影響によって Surface の磁気特性が劣化していると考えられる。一 方, Surface と Boundary の Wm / f はほぼ同じ傾きで あるが, Interior の傾きが最も大きい。この傾きは,Surface # Boundary A Interior-1 Interior-2 Interior-3Wolf [J/kg]Ann Surace * Boundary ・2007 Interior-1Interior-2. H-I Interior-3
Frequency f[Hz] Fig.1 Magnetic property of cut-out ring type specimen 渦電流係数を表しており, Interior では,他の部分と245比較して渦電流の影響を強く受けていると考えら れる。以上の結果から,ヒステリシス及び渦電流係 数を評価し,各試料間の磁気特性に変化が得られて いるため,これらのパラメータを焼入れ深さや度合 いの評価に利用できると考えられる。3.焼入れ炭素鋼の周波数に対する磁気特 性評価 - Fig. 2 に磁気センサの構造を示す。励磁コアには フェライトを使用し,B コイルとロゴスキー・チャ トックコイルを用いて,磁束密度と磁界強度を測定 した。Table 1 には,焼入れ温度条件を示す。 - Fig. 3 に異なる焼入れ温度条件下で作製された試 料のスペクトログラムを示す。Non-hardening は, ス ペクトログラムの変化がほとんどない。しかしなが ら,焼入れ試料の場合,磁気センサが試料中央部に 近づくにつれてスペクトログラムの変化が大きく なる。さらに,焼入れ温度が高くなるにつれて,中 央付近のスペクトログラムの変化が大きくなって いる。以上の結果より,スペクトログラムを評価す ることで,焼入れ温度の違いを評価することが可能 である。4.まとめ 本論文では,焼入れ深さ及び度合いを評価するた め,周波数掃引励磁スペクトログラム法を用いて磁 気特性評価を行った。以下に得られた知見をまとめる。(1) 焼入れ炭素鋼から切出しリング試料の交流磁気 特性を測定し, ヒステリシス及び過電流係数が各試 料間で異なることがわかった。その結果,これらの パラメータを用いることで焼入れ深さや度合いを 評価可能である。 (2) 周波数掃引励磁スペクトログラム法を用いるこ とで,焼入れ温度条件の違いだけでなく焼入れ幅や 領域の評価が可能であり,今後,焼入れ製品の製造 支援技術に応用できると考えられる。参考文献 [1] 武尾文雄,中島佳奈子, ““4探針法による高周波焼入れ深さの非破壊評価,““ 非破壊検査, 52[1],39-44 (2004). [2] Y. Kai, Y. Tsuchida, and M. Enokizono,““Non-destructive Evaluating of Case Hardening by Measuring Magnetic Properties,” Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, 25, 143-150 (2005)YokeRogowski coil (1000 turn)Excitation coil(27turn)B coil (1) turn)- Unit: mm Fig.2 Shape and dimension of specimen.Table 1 Hardening temperature. Hardening Cooling method temperature [°C] Non-hardened 600
(d) 810°C(e)900°C Fig.3 Spectrogram of whfi under different hardeningtemperature conditions.Yuichiro KAI, Yuji TSUCHIDA and Masato ENOKIZONO, “Non-destructive Evaluation of Hardening Carbon Steel by Measuring Hysteresis oops,” Journal of the Japan Society of Applied Electromagnetics and Mechanics, 15, S112-S115 2007)“ “磁気センサを用いた磁気特性測定による非破壊材質評価“ “甲斐 祐一郎,Yuichiro KAI,植田 雄二,Yuji TSUCHIDA,榎園 正人,Masato ENOKIZONO
機械部品の焼入れ深さの評価方法として,機械的 手法の1つである硬度試験が用いられている。この 方法は,焼入れされた機械部品を切出し,その断面 の硬度を測定することで有効焼入れ深さを決定す る。しかしながら,試料を破壊するため別途参照試 料が必要であり,実際の製品の焼入れ深さや度合い を評価することは不可能である。そのため,焼入れ 深さや度合いを非破壊評価することが望まれ,これ までにも電磁気的手法を用いた様々な研究が行わ れてきた[1-2]。著者らも,電磁気的手法を用いた焼 入れ深さや度合いの非破壊評価法をこれまで検討 してきた。まず,表面焼入れされた炭素鋼から切出 しリング試料を作製し,深さごとの磁気特性を明ら かにした。次に,試料表面から焼入れ深さや度合い を非破壊評価するため,周波数を変化させ,深さ方 向の情報を得ることを目的とした周波数探査法の 検討を行ってきた[2]。さらに,表面から磁束密度及 び磁界強度を測定する磁気センサを開発し,周波数 ごとの磁気特性を検討した[3]。本論文では,周波数探査法の1つとして,周波数 掃引励磁スペクトログラム法を開発し,焼入れ炭素 鋼の磁気特性評価を行った。その際に,異なる焼入 れ温度条件下で作製された炭素鋼の磁気特性を測 定し,焼入れ評価に有効なパラメータを検討したの でその結果を報告する。
2.焼入れ炭素鋼の周波数に対する磁気特 性評価
まず、焼入れ炭素鋼を深さ方向にリング試料に切 出し、各試料の交流磁気特性の評価を行なった。切 出しリング試料は,有効焼入れ深さが 2 mm の円柱 状炭素鋼から作製し,切出しリング試料の表面から 順に, Surface, Boundary, Interior-1, Interior-2, Interior-3 と名づけた。Fig. 1 に単位周波数あたりの磁気損失 Wm/fを示す。ここで, f = 0 における Wm/fの切 片はヒステリシス係数,勾配は渦電流係数を意味す る。Fig.1 に示すように Wm/fは,どの試料も周波 数に対して直線的に変化している。Surface のヒステ リシス係数は, Interior や Boundary と比較して大き くなっていることから,焼入れの影響によって Surface の磁気特性が劣化していると考えられる。一 方, Surface と Boundary の Wm / f はほぼ同じ傾きで あるが, Interior の傾きが最も大きい。この傾きは,Surface # Boundary A Interior-1 Interior-2 Interior-3Wolf [J/kg]Ann Surace * Boundary ・2007 Interior-1Interior-2. H-I Interior-3
Frequency f[Hz] Fig.1 Magnetic property of cut-out ring type specimen 渦電流係数を表しており, Interior では,他の部分と245比較して渦電流の影響を強く受けていると考えら れる。以上の結果から,ヒステリシス及び渦電流係 数を評価し,各試料間の磁気特性に変化が得られて いるため,これらのパラメータを焼入れ深さや度合 いの評価に利用できると考えられる。3.焼入れ炭素鋼の周波数に対する磁気特 性評価 - Fig. 2 に磁気センサの構造を示す。励磁コアには フェライトを使用し,B コイルとロゴスキー・チャ トックコイルを用いて,磁束密度と磁界強度を測定 した。Table 1 には,焼入れ温度条件を示す。 - Fig. 3 に異なる焼入れ温度条件下で作製された試 料のスペクトログラムを示す。Non-hardening は, ス ペクトログラムの変化がほとんどない。しかしなが ら,焼入れ試料の場合,磁気センサが試料中央部に 近づくにつれてスペクトログラムの変化が大きく なる。さらに,焼入れ温度が高くなるにつれて,中 央付近のスペクトログラムの変化が大きくなって いる。以上の結果より,スペクトログラムを評価す ることで,焼入れ温度の違いを評価することが可能 である。4.まとめ 本論文では,焼入れ深さ及び度合いを評価するた め,周波数掃引励磁スペクトログラム法を用いて磁 気特性評価を行った。以下に得られた知見をまとめる。(1) 焼入れ炭素鋼から切出しリング試料の交流磁気 特性を測定し, ヒステリシス及び過電流係数が各試 料間で異なることがわかった。その結果,これらの パラメータを用いることで焼入れ深さや度合いを 評価可能である。 (2) 周波数掃引励磁スペクトログラム法を用いるこ とで,焼入れ温度条件の違いだけでなく焼入れ幅や 領域の評価が可能であり,今後,焼入れ製品の製造 支援技術に応用できると考えられる。参考文献 [1] 武尾文雄,中島佳奈子, ““4探針法による高周波焼入れ深さの非破壊評価,““ 非破壊検査, 52[1],39-44 (2004). [2] Y. Kai, Y. Tsuchida, and M. Enokizono,““Non-destructive Evaluating of Case Hardening by Measuring Magnetic Properties,” Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, 25, 143-150 (2005)YokeRogowski coil (1000 turn)Excitation coil(27turn)B coil (1) turn)- Unit: mm Fig.2 Shape and dimension of specimen.Table 1 Hardening temperature. Hardening Cooling method temperature [°C] Non-hardened 600
(d) 810°C(e)900°C Fig.3 Spectrogram of whfi under different hardeningtemperature conditions.Yuichiro KAI, Yuji TSUCHIDA and Masato ENOKIZONO, “Non-destructive Evaluation of Hardening Carbon Steel by Measuring Hysteresis oops,” Journal of the Japan Society of Applied Electromagnetics and Mechanics, 15, S112-S115 2007)“ “磁気センサを用いた磁気特性測定による非破壊材質評価“ “甲斐 祐一郎,Yuichiro KAI,植田 雄二,Yuji TSUCHIDA,榎園 正人,Masato ENOKIZONO