半導体レーザーを用いた原子分光によるナトリウム漏洩検出法の開発
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
現在、高速増殖炉の最有力候補であるナトリウム冷却炉においては、その化学的活性の高さから、ナトリ ウム管理技術が重要課題の一つとして考えられてい る。ナトリウム冷却炉は軽水炉に比べ、冷却材圧力が 低いため、冷却材の微小漏洩を早期検知することで配 管破断前に炉停止することも可能であるため、ナトリ ウム微小漏洩検知技術が、ナトリウム管理技術の中で も非常に重要な位置づけとなっている。現在、原型炉 「もんじゅ」では、ナトリウム微小漏洩検出器として 放射線イオン化式検出器、ナトリウムイオン化式検出 器、差圧式検出器等が用いられているが、これらはい ずれもナトリウムそのものではなく、ナトリウム漏洩 時に発生するエアロゾル等をモニタしているに過ぎ ない。そこで、ナトリウムを分光学的に、特にレーザ ー分光により検出する手法がいくつか提案されてい るが、どれも研究用の高性能・高価かつメンテナンス に多くの労力を要するレーザー装置が必要であり、原 子炉プラントといった厳しい環境での実用化には、依 然として大きな壁があるのが現状である。そこで我々 は、安価で様々な産業分野で利用されている半導体レ ーザーを光源として、簡易な検出器構成でナトリウム 元素を分光学的に検出するナトリウム漏洩検出器を 提案している。
2. 分光スキーム | ナトリウムをレーザー吸収分光する場合に最も効連絡先: 小倉智志 名古屋大学工学研究科 〒464-8603 名古屋市千種区不老町 E-mail: ogura.satoshi@f.mbox.nagoya-u.ac.jp| Na4p -3dLaser 3300m 820nmー3p5900mPlasma Excitation3sPlasma gasLeakage gas PlasmaLaserPhoto detectorOpticalfiberElectrodesRFOptical fiberFig.1 Conceptual drawing of a sodium leak detector based on an atmospheric plasma assisted laser spectroscopy and sodium spectroscopic scheme.が、市販の半導体レーザーでは発振不可能な波長領 域である。さらに 3s 準位を下準位とする他の励起ス キームを用いる場合には330 nm 以下の短波長レーザ ーが必要になるが、それも現在市販されている半導 体レーザーでは発振不可能である。そこで第一励起 状態である 3p を下準位とした励起を考えると、820 nm (3p'S12→3d “Dans/2)の波長で励起可能で、これ は市販の半導体レーザーで発振可能である。したが って本研究ではこの遷移を利用してナトリウムを吸 収分光することを考えている。 しかしここで問題となるのはナトリウム原子を 3p247準位如何に励起するかである。その方法として我々 が提案するのは大気圧プラズマを利用する方法であ る。大気圧プラズマを用いることで真空チャンバー などの大掛かりな装置を必要とせず、シンプルな検 出器構成となる。サンプルガスを大気圧プラズマ中 に直接通すことで比較的簡易な装置構成でサンプル ガスを励起することができる[1].Fig. 1 に大気圧プラ ズマとレーザーを組み合わせたナトリウム漏洩検出 器の概略図およびナトリウムの分光スキームを示す。3. 実現性の検討 本検出器の検出下限濃度は以下の式で求まる。- = 1-exp(-oNcSL) ~ ON SL > aここで、Io,I は試料透過前後のレーザー強度、6は吸 収断面積、Noは原子数密度、「は第一励起準位の励起 割合、Lは試料ガス中の光路長であり、aは吸光度の 検出下限である。この条件式を満たす最も小さい N。 がナトリウムの検出限界濃度を示している。この条 件式の中で、不確定な項は第一励起準位の占有割合 f および吸光度の検出下限aである。励起準位の占有割 合 f は電子温度 T に依存するため、大気圧 He プラズ マジェットで行った予備実験より得られた電子温度 T=2160 K を採用し、 f を算出した。さらに、一般的 な吸光分光における吸光度の検出下限aを 10°と仮 定すると、ナトリウムの検出限界はおよそ 15 ppb と 見積もられた。これは従来のナトリウム漏洩検出器 と同等の値である。以上により、本手法は従来法と 異なりナトリウム原子そのものからの信号を取得し ているにも関わらず、従来と同等の検出限界を確保 できる手法となり得るとの見通しが得られた。4. 大気圧プラズマの点灯条件 1 本手法においてナトリウムの検出限界濃度を決定 している主要因は、吸光分光における検出下限aおよ び電子温度Tである。本報では、電子温度 Tに着目し、 その大気圧プラズマ点灯条件に対する依存性につい て検討を行った。電子励起がボルツマン分布に従うとPopulation of 3p level5000 10000Electron temperature (K) Fig. 2 The dependence of 3p level population for sodium on the electron temperature.すると電子温度 T における励起準位iへの励起割合 P; は以下の式で表される。P = _8, exp(-E, /kT)Eg, exp(-E, /kT)ここで gi, E, は励起準位iの統計的重率、励起エネルギ ーであり、kはボルツマン定数である。ナトリウムの 3p 準位に関して、励起割合の電子温度 T に対する依 存性を求めたものを Fig. 2 に示す。電子温度を上げる ことで、励起割合も増加するが、ある温度を越えると 3p 準位より上の準位へ励起される割合が増加するた め、3p 準位への励起割合はむしろ減少する傾向を示 した。 * 実際に大気圧プラズマの一種である誘導結合プラ ズマ(ICP)中に NaCl 溶液のエアロゾルを導入し、 Na の D線(589 nm) 発光強度のプラズマ電源出力に 対する依存性を調べた結果を Fig. 3 に示す。横軸は 各々のプラズマ電源出力時に Ar プラズマの発光線強 度比より求めた電子温度である。電子温度が上昇する につれて Na の発光強度は増加するが、ボルツマン分 布から予測されるように、ある温度以上では Na の発 光強度は飽和傾向を示した。以上のように、大気圧プ ラズマの点灯条件には最適値が存在することがわか った。4.結言20000FNa emission intensity (a.u.)10000410 2000~4000 6000 8000Electron temperature (K) Fig. 3 The dependence of 3p level population for sodium on the electron temperature. 微小漏洩ナトリウムを高い信頼性で検出するため、 ナトリウムのレーザー原子分光に基づく手法を、簡便 な装置構成で実施すべく、半導体レーザーと大気圧プ ラズマを組み合わせた手法を提案した。予備的に検出 限界濃度を評価した結果、従来のナトリウムエアロゾ ル検出器と同等の検出限界濃度を達成できる見通し を得た。また、プラズマの点灯条件に関する検討を行 った結果、励起準位をした準位とする分光スキームを 採用する場合、最適なプラズマ点灯条件が存在するこ とがわかった。248参考文献 1] S.Okazaki, M.Kogoma, M.Uehara, Y.Kimura, J. Phys.D: Appl. Phys. 26,888 (1993)(平成 22 年5月 20 日)249 -“ “半導体レーザーを用いた原子分光によるナトリウム漏洩検出法の開発“ “小倉 智志,Satoshi OGURA,渡辺 賢一,Kenichi WATANABE,山﨑 淳,Atsushi YAMAZAKI,瓜谷 章,Akira URITANI,伊藤 主税,Chikara ITO
現在、高速増殖炉の最有力候補であるナトリウム冷却炉においては、その化学的活性の高さから、ナトリ ウム管理技術が重要課題の一つとして考えられてい る。ナトリウム冷却炉は軽水炉に比べ、冷却材圧力が 低いため、冷却材の微小漏洩を早期検知することで配 管破断前に炉停止することも可能であるため、ナトリ ウム微小漏洩検知技術が、ナトリウム管理技術の中で も非常に重要な位置づけとなっている。現在、原型炉 「もんじゅ」では、ナトリウム微小漏洩検出器として 放射線イオン化式検出器、ナトリウムイオン化式検出 器、差圧式検出器等が用いられているが、これらはい ずれもナトリウムそのものではなく、ナトリウム漏洩 時に発生するエアロゾル等をモニタしているに過ぎ ない。そこで、ナトリウムを分光学的に、特にレーザ ー分光により検出する手法がいくつか提案されてい るが、どれも研究用の高性能・高価かつメンテナンス に多くの労力を要するレーザー装置が必要であり、原 子炉プラントといった厳しい環境での実用化には、依 然として大きな壁があるのが現状である。そこで我々 は、安価で様々な産業分野で利用されている半導体レ ーザーを光源として、簡易な検出器構成でナトリウム 元素を分光学的に検出するナトリウム漏洩検出器を 提案している。
2. 分光スキーム | ナトリウムをレーザー吸収分光する場合に最も効連絡先: 小倉智志 名古屋大学工学研究科 〒464-8603 名古屋市千種区不老町 E-mail: ogura.satoshi@f.mbox.nagoya-u.ac.jp| Na4p -3dLaser 3300m 820nmー3p5900mPlasma Excitation3sPlasma gasLeakage gas PlasmaLaserPhoto detectorOpticalfiberElectrodesRFOptical fiberFig.1 Conceptual drawing of a sodium leak detector based on an atmospheric plasma assisted laser spectroscopy and sodium spectroscopic scheme.が、市販の半導体レーザーでは発振不可能な波長領 域である。さらに 3s 準位を下準位とする他の励起ス キームを用いる場合には330 nm 以下の短波長レーザ ーが必要になるが、それも現在市販されている半導 体レーザーでは発振不可能である。そこで第一励起 状態である 3p を下準位とした励起を考えると、820 nm (3p'S12→3d “Dans/2)の波長で励起可能で、これ は市販の半導体レーザーで発振可能である。したが って本研究ではこの遷移を利用してナトリウムを吸 収分光することを考えている。 しかしここで問題となるのはナトリウム原子を 3p247準位如何に励起するかである。その方法として我々 が提案するのは大気圧プラズマを利用する方法であ る。大気圧プラズマを用いることで真空チャンバー などの大掛かりな装置を必要とせず、シンプルな検 出器構成となる。サンプルガスを大気圧プラズマ中 に直接通すことで比較的簡易な装置構成でサンプル ガスを励起することができる[1].Fig. 1 に大気圧プラ ズマとレーザーを組み合わせたナトリウム漏洩検出 器の概略図およびナトリウムの分光スキームを示す。3. 実現性の検討 本検出器の検出下限濃度は以下の式で求まる。- = 1-exp(-oNcSL) ~ ON SL > aここで、Io,I は試料透過前後のレーザー強度、6は吸 収断面積、Noは原子数密度、「は第一励起準位の励起 割合、Lは試料ガス中の光路長であり、aは吸光度の 検出下限である。この条件式を満たす最も小さい N。 がナトリウムの検出限界濃度を示している。この条 件式の中で、不確定な項は第一励起準位の占有割合 f および吸光度の検出下限aである。励起準位の占有割 合 f は電子温度 T に依存するため、大気圧 He プラズ マジェットで行った予備実験より得られた電子温度 T=2160 K を採用し、 f を算出した。さらに、一般的 な吸光分光における吸光度の検出下限aを 10°と仮 定すると、ナトリウムの検出限界はおよそ 15 ppb と 見積もられた。これは従来のナトリウム漏洩検出器 と同等の値である。以上により、本手法は従来法と 異なりナトリウム原子そのものからの信号を取得し ているにも関わらず、従来と同等の検出限界を確保 できる手法となり得るとの見通しが得られた。4. 大気圧プラズマの点灯条件 1 本手法においてナトリウムの検出限界濃度を決定 している主要因は、吸光分光における検出下限aおよ び電子温度Tである。本報では、電子温度 Tに着目し、 その大気圧プラズマ点灯条件に対する依存性につい て検討を行った。電子励起がボルツマン分布に従うとPopulation of 3p level5000 10000Electron temperature (K) Fig. 2 The dependence of 3p level population for sodium on the electron temperature.すると電子温度 T における励起準位iへの励起割合 P; は以下の式で表される。P = _8, exp(-E, /kT)Eg, exp(-E, /kT)ここで gi, E, は励起準位iの統計的重率、励起エネルギ ーであり、kはボルツマン定数である。ナトリウムの 3p 準位に関して、励起割合の電子温度 T に対する依 存性を求めたものを Fig. 2 に示す。電子温度を上げる ことで、励起割合も増加するが、ある温度を越えると 3p 準位より上の準位へ励起される割合が増加するた め、3p 準位への励起割合はむしろ減少する傾向を示 した。 * 実際に大気圧プラズマの一種である誘導結合プラ ズマ(ICP)中に NaCl 溶液のエアロゾルを導入し、 Na の D線(589 nm) 発光強度のプラズマ電源出力に 対する依存性を調べた結果を Fig. 3 に示す。横軸は 各々のプラズマ電源出力時に Ar プラズマの発光線強 度比より求めた電子温度である。電子温度が上昇する につれて Na の発光強度は増加するが、ボルツマン分 布から予測されるように、ある温度以上では Na の発 光強度は飽和傾向を示した。以上のように、大気圧プ ラズマの点灯条件には最適値が存在することがわか った。4.結言20000FNa emission intensity (a.u.)10000410 2000~4000 6000 8000Electron temperature (K) Fig. 3 The dependence of 3p level population for sodium on the electron temperature. 微小漏洩ナトリウムを高い信頼性で検出するため、 ナトリウムのレーザー原子分光に基づく手法を、簡便 な装置構成で実施すべく、半導体レーザーと大気圧プ ラズマを組み合わせた手法を提案した。予備的に検出 限界濃度を評価した結果、従来のナトリウムエアロゾ ル検出器と同等の検出限界濃度を達成できる見通し を得た。また、プラズマの点灯条件に関する検討を行 った結果、励起準位をした準位とする分光スキームを 採用する場合、最適なプラズマ点灯条件が存在するこ とがわかった。248参考文献 1] S.Okazaki, M.Kogoma, M.Uehara, Y.Kimura, J. Phys.D: Appl. Phys. 26,888 (1993)(平成 22 年5月 20 日)249 -“ “半導体レーザーを用いた原子分光によるナトリウム漏洩検出法の開発“ “小倉 智志,Satoshi OGURA,渡辺 賢一,Kenichi WATANABE,山﨑 淳,Atsushi YAMAZAKI,瓜谷 章,Akira URITANI,伊藤 主税,Chikara ITO