保全活動に係る技術の適用プロセスに関するガイドライン
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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
近年の原子力発電への期待は高まりつつある一方で、 原子力発電設備の高経年化に伴う設備に対する保全活 動の重要性が認識されてきている。この保全活動には 経年変化を踏まえた保全計画に基づくことが求められ ており、その対応としてより高度な新たに開発された 補修・予防保全技術を適用する必要が生じる場合があ る。特に予防保全措置の適用、損傷が顕在化された場 合の補修に用いる新技術については開発から実適用ま での迅速性が求められる。しかし補修・予防保全に適用される新技術(以下「新 保全技術」)が開発された後、タイムリーに実現化され ず、実機適用までに多くの年月を要している事例があ る。開発技術の実機への適用にあたって、その技術の、 妥当性、有効性、適用による構造物の健全性などの事 前確認プロセスに時間をかける必要があるが、その他 に規制要求への適合性確認までの審議プロセスが不明 確であるため時間を要することが要因となっていると の認識がされてきた。新保全技術の実機適用には、適用までのそれぞれの プロセスで関係者が確認・検討など行うべきことを明 確にし、その共通認識を持つことが必要であり、これ により適用プロセスの一層の効率化、迅速化が図られ、 新保全技術の開発成果を確かなものにして、実機適用 を円滑に推進することが可能となると考えられる。このような状況のもと、学協会では慎重な審議のな かでも効率化を志向しつつあること、また規制当局に おいても、新保全技術を迅速に適用する場合を想定し たプロセスを設けるなどの改善が図られつつある。さらに(社)日本原子力技術協会(以下「原技協」) 炉内構造物点検評価ガイドライン検討会では、開発段 階から実機適用までの各プロセスの考え方を再整理し、 各プロセス、特に「補修・予防保全工法ガイドライン」 の策定プロセスにおいて関係者が行うべき事項を明確 にする目的で「保全技術の適用プロセスに関するガイ ドライン」 33 (http://www.gengikyo.jp/KikakuKijun/ RonaiGuideline/index.htm)を策定した。 1 以下にこの「保全技術の適用プロセスに関するガイ ドライン」の概要を述べる。
2. 新保全技術の適用プロセス
2.1適用プロセスの流れの概要新保全技術の適用プロセスは、基本的に図1に示す ようなプロセスにより、その技術は実機へ適用される。 各プロセスを通じ、開発された新保全技術の適用の目 的とする性能(材料改善、応力改善、環境遮断など)、 その性能達成のための再現性のある方策、及びその性 能達成確認方法が明確にされるとともに、適用される 構造物の本来有している構造・強度の健全性が確保さ れることが明確にされる。 通常のプロセスでは、技術開発の後に新保全技術の
ガイドライン化、学協会規格化が行われる。規制当局 による「技術評価」を通じて、技術基準への適合性が 確認された学協会規格に合致した保全技術であれば、 規制要求に適合するものとして実機への適用が可能と なる。しかし、対象とする設備の重要度、技術基準等 の規制要求への影響の有無、緊急性等の状況によって は必ずしも上記の「通常のプロセス」に沿ったものと する必要はない。技術開発実証(確性試験)民間規格規制要求 (技術基準)規格の策定・改訂トーー技術評価| 適合性確認適合性確認、許認可| 許認可)| 実機適用]実機適用図1 実機適用までのプロセス1技術開発 *開発主体者が新保全技術の開発後、新保全技術が実 機に適用可能であること(技術的妥当性)をその確認 方法とともに確立し、その技術的妥当性確認を行う。 さらに必要であれば第三者により技術的妥当性確認が 行われる。その新保全技術の内容、技術的妥当性とそ の確認方法は、2以降の各プロセスでの検討に必要と なる詳細な技術情報であり、論文あるいは技術資料と して公開されるべきである。 2ガイドライン化公開された技術開発等の情報に基づき、技術的妥当 性とその確認方法等を中立的な第三者を含む専門家に より検討、審議し、その結果として新保全技術適用に 関するガイドラインを原技協ガイドライン(「補修・予 防保全工法ガイドライン」)として公表する。 3学協会規格化学協会では、公開されたガイドライン及び技術開発 等の情報に基づき、構造、施工、維持・保全の面から 学協会規格(機械学会「設計・建設規格」、「溶接規 格」、「維持規格」)への反映を行う。ここでは技 術的妥当性、およびその確認方法などの一般化した規 格案を中立的な第三者を含む専門家が公正、公平、公 開を重視した策定プロセスに基づいて検討、審議し、 その結果が規格に反映される。 @規制当局による技術基準への適合性の確認規制当局は、学協会規格(改訂)案が技術基準など 規制要求に適合することを技術評価を通じて確認する。 なお、迅速に適用する必要のある場合には別途2ある いは2~3を経ずに(独) 原子力安全基盤機構(JNES) に設けられている新保全技術適合性検討作業会 (RNP) を通じた規制要求への適合性を確認するプロセスも設 けられている。 5実機への適用新保全技術の実機適用(施工)はそれぞれの事例に ついて、技術開発等の情報、「補修・予防保全工法ガイ ドライン」に基づき行われる。必要な場合は、新保全 技術が学協会規格(または技術基準)に適合すること が事業者により示され、その適合性の確認をもって規 制当局により適用が許可(認可)される。2.2 各プロセスの基本的考え方 2.2.1 技術開発開発者は新保全技術の目的とする性能の目標レベル を設定し、その技術を確立するとともに、性能達成の 方策(性能達成のための影響因子の特定およびその因 子を管理するためのパラメータ(管理項目)の策定な らびに再現性を担保する具体的方策)およびその実施 可能な性能達成確認方法を確立し、その技術的妥当性 の確認を行う。また、その後のガイドライン化、規格 化及び技術基準への適合性の確認のための情報も整備 する。開発された新保全技術について、その技術の内 容とともに後のプロセスで技術的妥当性が確認できる ようにするための説明性のある情報の公開・公表を行 う。さらに、必要により次に示す第三者による技術的 妥当性評価を行う。 2.2.2 第三者による技術的妥当性評価 - 透明性の確保の観点から、技術開発で確立された新 保全技術の性能達成の再現性を担保する方策及びその 実施可能な性能達成確認方法の技術的妥当性を、当該26技術開発者以外の第三者組織が確認する必要がある場 合にこの技術的妥当性評価(いわゆる確性試験)を行 う。ここでは技術開発時の試験結果のレビューのほか、 必要であれば、新たに確認のための試験を行う。なお、 第三者組織による技術的妥当性評価が行われたことに より、技術基準適合性の確認が行われたとの解釈はさ れない。技術的妥当性評価の実施主体は開発当事者以外の第 三者組織(官民いずれの組織でも良い)とし、第三者 組織は対象技術に関する専門性だけでなく技術的中立 の立場、利益の中立性確保の観点で参加者を選抜する。 技術的妥当性評価は知的財産に係る情報も取扱う可能 性があることから、基本的にその内容は非公開である が、第三者組織は 2.2.1 の技術開発の段階の情報の一部 として後段のプロセスでの引用ができるように可能な 範囲で詳細かつ具体的に公開・公表を行うことが望ま しい。 2.2.3 ガイドライン化ガイドライン化にあたっては、経年変化事象の顕在 化が認められる具体的な部位に対する補修・取替・予 防保全などの保全措置のために確立された新保全技術 の概要、適用範囲、適用条件、施工方法および施工後 の点検について公知化し、新保全技術適用の技術的妥 当性の説明性を確立することが求められる。 - したがって、確立された新保全技術を、再現性をも って実機に適用するために、その目的とする要求性能 に対して、達成の再現性を担保する具体的な方策及び その実施可能な性能達成確認方法が確立されているこ とを確認、検討し、これら方策、方法を実機に適用す るのに十分な程度により具体的に展開し「補修・予防 保全工法ガイドライン」として規定する。このために は基本的に、この確立された新保全技術が目標とする 性能を、再現性をもって達成可能であることを事前に 確認する方法、実際の施工段階において事前及び事後 の品質を確認する方法、ならびに適用後の供用段階で の目標性能及び構造・強度の健全性を確認する方法を 規定する。さらにこのプロセスで、規制の要求範囲との整合性 など新保全技術の技術基準への適合性に関する説明性 を確立し、必要となる場合は後のプロセスとの一貫性 を持たせるように技術基準適合性の解釈を整備する。 2.2.4 学協会規格化 容器、管など一般化した対象設備(機器)に適用可能な新保全技術(一般化した技術)に関する学協会規 格化にあたっては、規格(「設計・建設規格」、「溶接規 格」、「維持規格」)間の体系等の整合を考慮して、技術 基準に規定される性能目標に適合させるのに必要な施 工、点検等の方法および判定基準を明示することが求 められる。 ・ したがって、このプロセスでは、前のプロセスで規 定された性能達成方法とその確認方法、適用部位の適 用に伴う品質確認方法、ならびに適用後の健全性の確 認方法に関する規定をさらに一般化して学協会規格の 体系に沿った規定とする。この際、個別の実機施工要 領の中で定める管理値のような具体的施工方法の詳細、 影響因子の定量値までは学協会規格で規定する必要はない。さらに、前のプロセスで確立された技術基準適合性 に関する説明性を確立できることを確認する。ただし、 技術基準の要求範囲との整合性や規定された手法や仕 様と規制要求性能を達成するための必要な技術事項と の関連の整理などは技術評価の範疇であるため規格化 として行う必要はない。3.各プロセスにおいて確認される事項基本的にすべてのプロセスにおいて確認が必要とな るすべての項目については技術開発で行うことになる。技術開発では目標とする機能・性能及び確認項目等 の明確にされる事項が定量性をもって確認されるが、 ガイドライン化では定量的な規定が適切でない場合は、 実機適用に先立って実施者が定量的レベルを設定する 必要があるとしている。また学協会規格化では原則的 に定量性の規定は不要とし、実機への適用に先立って 実施者が定量的レベルを設定することとしている。 - 技術基準適合性の確認は技術開発では明示的に行う 必要はないが、ガイドライン化以降のプロセスで規定 内容の技術基準適合性の確認が必要になるため、実質 的に基準適合性を示すことに繋がる項目について確認 する必要がある。一方、ガイドライン化および規格化 のプロセスでは技術開発で確認された内容をもとに技 術基準適合性を明示的に示すこととしている。 - 以下に「保全技術の適用プロセスに関するガイドラ イン」で挙げられている技術開発から実機適用までの 各プロセスで明確にすべき主な項目を示す。 なお、新保全技術は大きく別けて以下の「手段」あ27るいはこれらの組合せからなると理解できることから 「保全技術の適用プロセスに関するガイドライン」で は、各プロセスで明確にされる事項をそれぞれの手段 (「溶接によるもの」、「溶接以外によるもの」、「材料を 変更するもの」、「構造を変更するもの」)ごとに別けて 示している。さらにき裂を残存させる場合には、さら に追加して明確にすべき事項を示している。 (1) 対象部位:形状、寸法、材料などの前提/制限とともに明確化。 (2) 達成しようとする機能・性能:技術開発ではその目 - 標レベルも明確化し、ガイドライン化では目標レベルの明確化が適切でない場合は適用前に確認。 (3) 新保全技術の実現性:新保全技術が有効かつ達成可能であることを技術開発で明確化。 (4) 新保全技術の適用限界 (5) 運転開始後への影響:影響あれば供用期間中検査等での確認方法等の要件をガイドライン化以降で明確化。(6) 施工の実施者、装置の要件 (7) 影響因子(溶接の場合「確認項目」) (8) 影響因子の基準値と範囲:間接的に管理する場合はその管理項目を確認。 学協会規格化では適用前に具 体的レベルを明確化。施工中に影響因子/管理項目を管理するパラメータがあればその管理方法。 (9) 機能・性能達成の確認方法と判定基準:施工前に施工法確認として明確化。達成のための施工前の前提条件とその確認方法も明確化。 (10)施工時の品質確保: ガイドライン化以降で施工時の機能・性能達成の確認方法と判定基準を施工時確認 試験として明確化。必要な場合耐圧・漏えい試験の 要件も明確化。 (11)対象部位への施工の影響:施工により形状・寸法、材料等の変化があっても、本来の要求・性能機能の 確保を技術開発で確認。 必要あれば施工時の確認方法と判定基準を明確化。 (12)対象部位の構造・強度:形状・寸法、材料等の変 更に伴い、本来の要求・性能機能の確保を技術開発 で確認。耐震健全性確保の観点からも確認。必要あれば確認方法と判定基準を明確化。 (13)対象部位の構造変更による他部位への影響:構造の変更に伴い、(流体)振動特性の影響のないことを 技術開発で確認。 必要あれば確認方法と判定基準を 明確化。(14)き裂の進展の影響:き裂が残存することに伴い、施 工によるき裂進展の影響を技術開発で確認。必要あれば残存き裂進展の確認方法と判定基準を明確化。 (15)残存き裂の施工後の運転中の健全性評価方法への影響:健全性評価方法への影響を技術開発で確認。必要あれば健全性評価方法と判定基準を明確化。 (16)残存き裂の施工後の供用期間中の進展予測への影響:供用期間中の進展予測(健全性評価)への影響 を技術開発で確認。必要あればき裂の進展確認方法 と判定基準を明確化。4. おわりに 原子力発電設備の保全活動に用いる新保全技術の技 術開発から実機適用にあたって、それぞれのプロセス において明確にする確認・検討事項に関して原技協「保 全技術の適用プロセスに関するガイドライン」が策定 された。技術開発で、後段のそれぞれのプロセスで確認・検 _討する事項を準備しておき、さらに後段のガイドライ ン化、学協会規格化プロセスでそれらの確認・検討を もとに具体的規定として活用するとしている。 - 技術の実機への迅速な適用にあたって、学協会規格 化及び規制要求への適合性確認プロセスでの効率的な 確認・検討のため、各プロセスで行うべき事項を関係 者間で共有認識をすることが重要である。参考文献[1] 小山幸司「保全活動に関わる技術の適用プロセスについて」保全学会学術講演会(2008年) [2] 前川之則、菅野眞紀「新保全技術の技術基準への適合性確認について」保全学会学術講演会(2009 年) 「31 (社)日本原子力技術協会「「保全技術の適用プロセスに関するガイドライン」」JANTI-VIP-11-第1版(2010年) 「41 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 設計建設規格(2005 年版)第I編 軽水炉規格」、JSMES-NC1-2005 「51 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 溶接規- 格(2007年版)」、JSME S-NB1-2007 . [6] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2008 年版)」、JSME S-NA1-200828
“ “保全活動に係る技術の適用プロセスに関するガイドライン“ “小山 幸司,Koji KOYAMA,坂下 彰浩,Akihiro SAKASHITA,平野 伸朗,Shinro HIRANO,堂崎 浩二,Koji DOZAKI
近年の原子力発電への期待は高まりつつある一方で、 原子力発電設備の高経年化に伴う設備に対する保全活 動の重要性が認識されてきている。この保全活動には 経年変化を踏まえた保全計画に基づくことが求められ ており、その対応としてより高度な新たに開発された 補修・予防保全技術を適用する必要が生じる場合があ る。特に予防保全措置の適用、損傷が顕在化された場 合の補修に用いる新技術については開発から実適用ま での迅速性が求められる。しかし補修・予防保全に適用される新技術(以下「新 保全技術」)が開発された後、タイムリーに実現化され ず、実機適用までに多くの年月を要している事例があ る。開発技術の実機への適用にあたって、その技術の、 妥当性、有効性、適用による構造物の健全性などの事 前確認プロセスに時間をかける必要があるが、その他 に規制要求への適合性確認までの審議プロセスが不明 確であるため時間を要することが要因となっていると の認識がされてきた。新保全技術の実機適用には、適用までのそれぞれの プロセスで関係者が確認・検討など行うべきことを明 確にし、その共通認識を持つことが必要であり、これ により適用プロセスの一層の効率化、迅速化が図られ、 新保全技術の開発成果を確かなものにして、実機適用 を円滑に推進することが可能となると考えられる。このような状況のもと、学協会では慎重な審議のな かでも効率化を志向しつつあること、また規制当局に おいても、新保全技術を迅速に適用する場合を想定し たプロセスを設けるなどの改善が図られつつある。さらに(社)日本原子力技術協会(以下「原技協」) 炉内構造物点検評価ガイドライン検討会では、開発段 階から実機適用までの各プロセスの考え方を再整理し、 各プロセス、特に「補修・予防保全工法ガイドライン」 の策定プロセスにおいて関係者が行うべき事項を明確 にする目的で「保全技術の適用プロセスに関するガイ ドライン」 33 (http://www.gengikyo.jp/KikakuKijun/ RonaiGuideline/index.htm)を策定した。 1 以下にこの「保全技術の適用プロセスに関するガイ ドライン」の概要を述べる。
2. 新保全技術の適用プロセス
2.1適用プロセスの流れの概要新保全技術の適用プロセスは、基本的に図1に示す ようなプロセスにより、その技術は実機へ適用される。 各プロセスを通じ、開発された新保全技術の適用の目 的とする性能(材料改善、応力改善、環境遮断など)、 その性能達成のための再現性のある方策、及びその性 能達成確認方法が明確にされるとともに、適用される 構造物の本来有している構造・強度の健全性が確保さ れることが明確にされる。 通常のプロセスでは、技術開発の後に新保全技術の
ガイドライン化、学協会規格化が行われる。規制当局 による「技術評価」を通じて、技術基準への適合性が 確認された学協会規格に合致した保全技術であれば、 規制要求に適合するものとして実機への適用が可能と なる。しかし、対象とする設備の重要度、技術基準等 の規制要求への影響の有無、緊急性等の状況によって は必ずしも上記の「通常のプロセス」に沿ったものと する必要はない。技術開発実証(確性試験)民間規格規制要求 (技術基準)規格の策定・改訂トーー技術評価| 適合性確認適合性確認、許認可| 許認可)| 実機適用]実機適用図1 実機適用までのプロセス1技術開発 *開発主体者が新保全技術の開発後、新保全技術が実 機に適用可能であること(技術的妥当性)をその確認 方法とともに確立し、その技術的妥当性確認を行う。 さらに必要であれば第三者により技術的妥当性確認が 行われる。その新保全技術の内容、技術的妥当性とそ の確認方法は、2以降の各プロセスでの検討に必要と なる詳細な技術情報であり、論文あるいは技術資料と して公開されるべきである。 2ガイドライン化公開された技術開発等の情報に基づき、技術的妥当 性とその確認方法等を中立的な第三者を含む専門家に より検討、審議し、その結果として新保全技術適用に 関するガイドラインを原技協ガイドライン(「補修・予 防保全工法ガイドライン」)として公表する。 3学協会規格化学協会では、公開されたガイドライン及び技術開発 等の情報に基づき、構造、施工、維持・保全の面から 学協会規格(機械学会「設計・建設規格」、「溶接規 格」、「維持規格」)への反映を行う。ここでは技 術的妥当性、およびその確認方法などの一般化した規 格案を中立的な第三者を含む専門家が公正、公平、公 開を重視した策定プロセスに基づいて検討、審議し、 その結果が規格に反映される。 @規制当局による技術基準への適合性の確認規制当局は、学協会規格(改訂)案が技術基準など 規制要求に適合することを技術評価を通じて確認する。 なお、迅速に適用する必要のある場合には別途2ある いは2~3を経ずに(独) 原子力安全基盤機構(JNES) に設けられている新保全技術適合性検討作業会 (RNP) を通じた規制要求への適合性を確認するプロセスも設 けられている。 5実機への適用新保全技術の実機適用(施工)はそれぞれの事例に ついて、技術開発等の情報、「補修・予防保全工法ガイ ドライン」に基づき行われる。必要な場合は、新保全 技術が学協会規格(または技術基準)に適合すること が事業者により示され、その適合性の確認をもって規 制当局により適用が許可(認可)される。2.2 各プロセスの基本的考え方 2.2.1 技術開発開発者は新保全技術の目的とする性能の目標レベル を設定し、その技術を確立するとともに、性能達成の 方策(性能達成のための影響因子の特定およびその因 子を管理するためのパラメータ(管理項目)の策定な らびに再現性を担保する具体的方策)およびその実施 可能な性能達成確認方法を確立し、その技術的妥当性 の確認を行う。また、その後のガイドライン化、規格 化及び技術基準への適合性の確認のための情報も整備 する。開発された新保全技術について、その技術の内 容とともに後のプロセスで技術的妥当性が確認できる ようにするための説明性のある情報の公開・公表を行 う。さらに、必要により次に示す第三者による技術的 妥当性評価を行う。 2.2.2 第三者による技術的妥当性評価 - 透明性の確保の観点から、技術開発で確立された新 保全技術の性能達成の再現性を担保する方策及びその 実施可能な性能達成確認方法の技術的妥当性を、当該26技術開発者以外の第三者組織が確認する必要がある場 合にこの技術的妥当性評価(いわゆる確性試験)を行 う。ここでは技術開発時の試験結果のレビューのほか、 必要であれば、新たに確認のための試験を行う。なお、 第三者組織による技術的妥当性評価が行われたことに より、技術基準適合性の確認が行われたとの解釈はさ れない。技術的妥当性評価の実施主体は開発当事者以外の第 三者組織(官民いずれの組織でも良い)とし、第三者 組織は対象技術に関する専門性だけでなく技術的中立 の立場、利益の中立性確保の観点で参加者を選抜する。 技術的妥当性評価は知的財産に係る情報も取扱う可能 性があることから、基本的にその内容は非公開である が、第三者組織は 2.2.1 の技術開発の段階の情報の一部 として後段のプロセスでの引用ができるように可能な 範囲で詳細かつ具体的に公開・公表を行うことが望ま しい。 2.2.3 ガイドライン化ガイドライン化にあたっては、経年変化事象の顕在 化が認められる具体的な部位に対する補修・取替・予 防保全などの保全措置のために確立された新保全技術 の概要、適用範囲、適用条件、施工方法および施工後 の点検について公知化し、新保全技術適用の技術的妥 当性の説明性を確立することが求められる。 - したがって、確立された新保全技術を、再現性をも って実機に適用するために、その目的とする要求性能 に対して、達成の再現性を担保する具体的な方策及び その実施可能な性能達成確認方法が確立されているこ とを確認、検討し、これら方策、方法を実機に適用す るのに十分な程度により具体的に展開し「補修・予防 保全工法ガイドライン」として規定する。このために は基本的に、この確立された新保全技術が目標とする 性能を、再現性をもって達成可能であることを事前に 確認する方法、実際の施工段階において事前及び事後 の品質を確認する方法、ならびに適用後の供用段階で の目標性能及び構造・強度の健全性を確認する方法を 規定する。さらにこのプロセスで、規制の要求範囲との整合性 など新保全技術の技術基準への適合性に関する説明性 を確立し、必要となる場合は後のプロセスとの一貫性 を持たせるように技術基準適合性の解釈を整備する。 2.2.4 学協会規格化 容器、管など一般化した対象設備(機器)に適用可能な新保全技術(一般化した技術)に関する学協会規 格化にあたっては、規格(「設計・建設規格」、「溶接規 格」、「維持規格」)間の体系等の整合を考慮して、技術 基準に規定される性能目標に適合させるのに必要な施 工、点検等の方法および判定基準を明示することが求 められる。 ・ したがって、このプロセスでは、前のプロセスで規 定された性能達成方法とその確認方法、適用部位の適 用に伴う品質確認方法、ならびに適用後の健全性の確 認方法に関する規定をさらに一般化して学協会規格の 体系に沿った規定とする。この際、個別の実機施工要 領の中で定める管理値のような具体的施工方法の詳細、 影響因子の定量値までは学協会規格で規定する必要はない。さらに、前のプロセスで確立された技術基準適合性 に関する説明性を確立できることを確認する。ただし、 技術基準の要求範囲との整合性や規定された手法や仕 様と規制要求性能を達成するための必要な技術事項と の関連の整理などは技術評価の範疇であるため規格化 として行う必要はない。3.各プロセスにおいて確認される事項基本的にすべてのプロセスにおいて確認が必要とな るすべての項目については技術開発で行うことになる。技術開発では目標とする機能・性能及び確認項目等 の明確にされる事項が定量性をもって確認されるが、 ガイドライン化では定量的な規定が適切でない場合は、 実機適用に先立って実施者が定量的レベルを設定する 必要があるとしている。また学協会規格化では原則的 に定量性の規定は不要とし、実機への適用に先立って 実施者が定量的レベルを設定することとしている。 - 技術基準適合性の確認は技術開発では明示的に行う 必要はないが、ガイドライン化以降のプロセスで規定 内容の技術基準適合性の確認が必要になるため、実質 的に基準適合性を示すことに繋がる項目について確認 する必要がある。一方、ガイドライン化および規格化 のプロセスでは技術開発で確認された内容をもとに技 術基準適合性を明示的に示すこととしている。 - 以下に「保全技術の適用プロセスに関するガイドラ イン」で挙げられている技術開発から実機適用までの 各プロセスで明確にすべき主な項目を示す。 なお、新保全技術は大きく別けて以下の「手段」あ27るいはこれらの組合せからなると理解できることから 「保全技術の適用プロセスに関するガイドライン」で は、各プロセスで明確にされる事項をそれぞれの手段 (「溶接によるもの」、「溶接以外によるもの」、「材料を 変更するもの」、「構造を変更するもの」)ごとに別けて 示している。さらにき裂を残存させる場合には、さら に追加して明確にすべき事項を示している。 (1) 対象部位:形状、寸法、材料などの前提/制限とともに明確化。 (2) 達成しようとする機能・性能:技術開発ではその目 - 標レベルも明確化し、ガイドライン化では目標レベルの明確化が適切でない場合は適用前に確認。 (3) 新保全技術の実現性:新保全技術が有効かつ達成可能であることを技術開発で明確化。 (4) 新保全技術の適用限界 (5) 運転開始後への影響:影響あれば供用期間中検査等での確認方法等の要件をガイドライン化以降で明確化。(6) 施工の実施者、装置の要件 (7) 影響因子(溶接の場合「確認項目」) (8) 影響因子の基準値と範囲:間接的に管理する場合はその管理項目を確認。 学協会規格化では適用前に具 体的レベルを明確化。施工中に影響因子/管理項目を管理するパラメータがあればその管理方法。 (9) 機能・性能達成の確認方法と判定基準:施工前に施工法確認として明確化。達成のための施工前の前提条件とその確認方法も明確化。 (10)施工時の品質確保: ガイドライン化以降で施工時の機能・性能達成の確認方法と判定基準を施工時確認 試験として明確化。必要な場合耐圧・漏えい試験の 要件も明確化。 (11)対象部位への施工の影響:施工により形状・寸法、材料等の変化があっても、本来の要求・性能機能の 確保を技術開発で確認。 必要あれば施工時の確認方法と判定基準を明確化。 (12)対象部位の構造・強度:形状・寸法、材料等の変 更に伴い、本来の要求・性能機能の確保を技術開発 で確認。耐震健全性確保の観点からも確認。必要あれば確認方法と判定基準を明確化。 (13)対象部位の構造変更による他部位への影響:構造の変更に伴い、(流体)振動特性の影響のないことを 技術開発で確認。 必要あれば確認方法と判定基準を 明確化。(14)き裂の進展の影響:き裂が残存することに伴い、施 工によるき裂進展の影響を技術開発で確認。必要あれば残存き裂進展の確認方法と判定基準を明確化。 (15)残存き裂の施工後の運転中の健全性評価方法への影響:健全性評価方法への影響を技術開発で確認。必要あれば健全性評価方法と判定基準を明確化。 (16)残存き裂の施工後の供用期間中の進展予測への影響:供用期間中の進展予測(健全性評価)への影響 を技術開発で確認。必要あればき裂の進展確認方法 と判定基準を明確化。4. おわりに 原子力発電設備の保全活動に用いる新保全技術の技 術開発から実機適用にあたって、それぞれのプロセス において明確にする確認・検討事項に関して原技協「保 全技術の適用プロセスに関するガイドライン」が策定 された。技術開発で、後段のそれぞれのプロセスで確認・検 _討する事項を準備しておき、さらに後段のガイドライ ン化、学協会規格化プロセスでそれらの確認・検討を もとに具体的規定として活用するとしている。 - 技術の実機への迅速な適用にあたって、学協会規格 化及び規制要求への適合性確認プロセスでの効率的な 確認・検討のため、各プロセスで行うべき事項を関係 者間で共有認識をすることが重要である。参考文献[1] 小山幸司「保全活動に関わる技術の適用プロセスについて」保全学会学術講演会(2008年) [2] 前川之則、菅野眞紀「新保全技術の技術基準への適合性確認について」保全学会学術講演会(2009 年) 「31 (社)日本原子力技術協会「「保全技術の適用プロセスに関するガイドライン」」JANTI-VIP-11-第1版(2010年) 「41 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 設計建設規格(2005 年版)第I編 軽水炉規格」、JSMES-NC1-2005 「51 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 溶接規- 格(2007年版)」、JSME S-NB1-2007 . [6] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2008 年版)」、JSME S-NA1-200828
“ “保全活動に係る技術の適用プロセスに関するガイドライン“ “小山 幸司,Koji KOYAMA,坂下 彰浩,Akihiro SAKASHITA,平野 伸朗,Shinro HIRANO,堂崎 浩二,Koji DOZAKI