高速実験炉「常陽」の保守経験 (1) 「常陽」における保守活動の概要

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
高速実験炉「常陽」は、国のプロジェクトとして 国産技術により設計、建設および運転されてきたナ トリウム(以下、Na) 冷却型の高速中性子炉である。 1970 年に建設を開始し、1977 年に MK-I 炉心として初臨界を達成した後、MK-II 炉心、MK-II炉心への2 三度の炉心改造を経て、積算運転時間は約7万1千時 間に達している。この間、高速増殖炉に関する技術 的経験を蓄積するとともに、高速中性子照射炉とし て燃料・材料の開発に活用され、数多くの成果を上 げてきた。ここでは、主に、核原料物質、核燃料物 質及び原子炉の規制に関する法律(以下、炉規法) に基づき、原子炉施設に対して建設以来40年にわた って行ってきた保守経験について報告する。荷されているため、それらのシール部は直接 Na に接 しない。さらに、主循環ポンプの Na 中にあるインペ ラ部の軸受は、メンテナンスフリーに設計されてい るため、これらの系外引き抜き点検が不要。したが って、それらの保守点検の範囲は、駆動部等の冷却 材に接しない部分に限られ、保守の負担が小さい。(2) 1次冷却系は、点検時においても Ar ガスによ って常に外気と隔離されているため、作業員の内部 被ばくのリスクが小さい。同様に外部被ばくについ ても軽水炉等に比べて少なく、放射線作業管理の負 担が小さい。(3)廃液の発生源は、使用済燃料及び保守に伴う機 器に付着した Na の洗浄によるものに限られ、発生廃 棄物の量が少ない。(4) 一方、定期点検期間中であっても、予熱ヒー タ設備、カバーガス系、メンテナンス冷却系、1 次 系セル空調換気設備及びこれらの電源設備を一括し て停止することができないため、これらの運転停止
主冷却機建家原子炉付属建家 原子炉建家原子炉格納容器2.保守業務の概要「常陽」は熱出力 140MW の実験炉である。発電の ためのタービン系を持たず、発生した熱出力を主冷 却機により冷却している以外、基本的に発電炉と同 等の設備・機器を有している。図1に「常陽」の設 備概要を示す。軽水炉と異なる高速炉の保守の特徴として以下が あげられる。(1) 主要な動的機器である主循環ポンプ及び制御 棒駆動軸は、Ar カバーガス層を通過して Na 中に装補機冷却系電円 ポンプ御堂ART動冷却系送風機esen6交換出入! SSXG, CRDUAキャスクカー大サイリウム所から一D/Gトランスファロー主体ポンプ1530非常用ディーゼル発電機連絡先: 吉田昌宏、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗 町成田町 4002、(独)日本原子力研究開発機構 大洗 研究開発センター 高速実験炉部 高速炉第2課 電話:029-267-4141、E-mail:yoshida.akihiro@jaea.go.jp図1 「常陽」の設備概要Kozo SUMINONon Member Tetsuhiko KOBAYASHI Non Member Kazunori ISOZAKI Non Member Akihiro YOSHIDA Member255にかかわる管理の負担が比較的大きい。 - 冷却材に Na を使用している高速炉は、(1)~ (3) に示した保守上の大きなメリットを有しており、こ れらのメリットを最大限に活用した保守に係るシス テム設計と保守方策により、高い保守性を発揮でき る。予防保全定期点検計画法定点検 規則に基づく点検計画 原子炉等規制法(施設定期検査)、 労基法など月例点検 週間点検り状態監視予機保有機器運転時間に基づく点検計画| 回転機器、放射線劣化、電気品........自主点検設備保全計画事後保全緊急補修安全 機能、原子炉運転に影響する機器通常補修予備機保有機器、重要度の低い機器設備更新定期耐用年数(放射線劣化など)、部品供給停止問題 スポット: 使用環境(食、磨耗、疲労、劣化など) その他:故障発生頻度、性能向上、運転性改善など日特別保全他プラント不具合事象で水平展刷が必要なもの図2 高速実験炉「常陽」の保全活動「常陽」では、安全上の重要度分類に基づき予防 保全/事後保全の分類を行い、文部科学省が行う施 ・設定期検査を中心に図2示す保全活動を展開してい る。重要度分類では、「発電用軽水型原子炉施設の重 要度分類」指針を参考に、施設の安全を確保するた」 めに必要とされる安全機能を有する構築物、系統及 び機器を分類するとともに、対象となった設備・機 器以外でも、原子炉運転に直接あるいは間接的に影 響するものを予防保全対象としている。「常陽」 重要 度分類と代表的な機器の例を表1に示す。一例として、2009 年度の原子炉施設保安規定に基 づく年間保守計画書の記載項目を表2に示す。ここ表1 「常陽」の重要度分類例 機器の安全機能」?象機器例 原子炉冷却材バウンダリ、炉心形成 原子炉容器、炉内構造物、1次冷却系 原子炉緊急停止、未臨界維持制御棒、制御棒駆動機構・案内管 崩壊熱除去、冷却材液位確保1次主循環ポンプ、ポニーモータ、安全容器 放射性物質閉じ込め機能格納容器、アニュラス排気・非常用換気設備 上記作動に必要な補助機能安全保護系、非常用ディーゼル発電機(D/G)、無停電電源設備 原子炉冷却材内包機能オーバフロー系、1次 Na純化系、回転プラグ、1次Arガス系 放射性物質保持機能1次 Na充填ドレン系、気体廃棄物処理系、水冷却池 燃料取扱、使用済燃料冷却機能燃料取扱設備、使用済燃料取扱設備 事故後プラント状態把握機能原子炉制御設備 冷却材循環、流量配分機能1次及び2次主循環ポンプ関連設備 プラント計測機能、外部電源供給機能 プロセス計装(安全保護系以外)、一般電源系 非放射性 Na保持、カバーガスバウンダリ機能 2次 Na 純化系、2次充填ドレン系、2次 Ar ガス系 放射性物質貯藏機能液体廃棄物処理設備、アルコール廃液設備 出力上昇抑制、放射性 Na火災抑制制御棒引抜き阻止、格納容器雰囲気調整系、消火設備 異常事象の把握機能放射線監視設備、燃料破損検出設備、プロセス計装主送風機関連機器、廃棄物処理建家空調設備 原子炉運転に影響補機冷却系統(補機系、空調系、D/G系)、圧縮空気供給設備原子炉附属建屋,主冷却機建屋,使用?燃料貯藏建屋空調設備 原子炉運転に間接的に影響予熱ヒータ設備、予熱窒素ガス系、Ar、Nガス供給系 脱塩水供給設備、メンテナンス設備、ボイラ設備分類なしで、検査数は燃料取扱系が最多であるが、これは、 新燃料貯蔵設備、格納容器、原子炉容器、使用済燃 料貯蔵設備への集合体の搬出入に個別の機器を使用 することに加え、取扱中一貫して集合体を視認でき ないこと、Na に浸漬させた状態で取り扱うため個々 の機器にバウンダリ確保と温度制御が必要であるこ と及び放射性の付着 Na や Na蒸気への対策が必要な こと等による。同じNa 取扱系ではあるが、冷却系については前述 の通り保守の負担が小さく、主な検査が起動前の作 動確認であることから、保守業務全体に係る比重は 小さい。Na は、融点が 98°C、沸点が 881°Cと高く、 常圧の広い液体温度領域を持っているので冷却系は 低圧(10 数 kg/cm2以下)であり、また、ステンレス 鋼との共存性に優れているため、水を使用する場合 と比較して腐食が格段に小さい。さらに「常陽」で は、運転初期から Na 中の不純物である酸素濃度を1 ~2ppm と極めて低い値に維持しており、これまで、 構造材のサーベイランス試験、循環ポンプのメンテ ナンスや冷却系改造工事を通じ、その健全性を確認 してきた結果、Na 冷却型高速炉特有の経年事象であ る Na 環境効果、高速中性子照射効果、高温環境にお ける疲労、クリープについて、設計寿命中問題とな ることはないことを確認している。 - 計測制御系には、Na 冷却型高速炉特有の計測機器 として、Na の導電性を利用した電磁流量計(鞍型コ イル式及び永久磁石式)や誘導型 Na 液面計、圧力伝 達媒体に NaK を使用し、冷却系への混入時にも影響 を与えない構造としている NaK 封入式圧力計等があ る。これらは、案内管を用いるなどして Na と非接触 で計測を行っており、一般的な電気的劣化を除き良 好な保守実績を有している。また、Na 漏えい検出器 には、主に接触式のものを使用していることから、 検査対象が1次系 216 ユニット、2次系 59 ユニット-256と多数に及ぶが、ガスサンプリング式のものと比較 して構造が単純で可動部もないことから、定期的な 部品交換もなく、保守の負担は小さい。表2 「常陽」年間保守計画書記載項目 (2009 年度) 分類 | 施設定期」 施設定期自主検査 系統|検査 | 自主検査 燃料取扱系13 | 15 | 47 冷却系計測制御系放射性廃棄物の 廃棄施設放射線管理施設原子炉格納施設非常用電源・そ の他附属施設計1-3173. 高経年化対策「常陽」では、炉規法の規定に基づき、平成 17 年に高経年化に関する評価を実施し、その結果を基 に中長期保全計画を策定した。高経年化評価にあた っては、「常陽」に設置されている主要な設備、機器 を機器種別毎に分類し、更に構造(型式、設置方式)、 使用環境(使用条件、内部流体)、材料等によりグル ープ化を行い、「常陽」において考えられる経年変化 事象を抽出した。抽出した経年変化事象は、放射線 劣化、ナトリウム環境、冷却水環境及び大気環境に おける腐食、磨耗、浸食、熱時効、クリープ疲労、 疲労、応力腐食割れ、絶縁劣化、一般劣化であり、 これらに対して、代表となるべき評価対象機器等を 選定し、実績調査を行った。調査を通じ、高速炉特有の Na環境、高速中性子照 射環境、高温環境下における熱時効、疲労、クリー プについては、設計寿命期間中問題ないことが確認 でき、定期的に分解点検を実施する際の部品交換な どの一般劣化を除き、定期的な監視、一部更新等が 必要となる経年変化事象は、放射線劣化、冷却水及 び大気環境による材料の腐食・侵食、絶縁劣化にほ ぼ集約された。以上の結果を踏まえ、最終的に安全機能上問題と なるような経年変化傾向はないことを確認するとと もに、定期的監視等が必要として抽出された機器に ついて 137 件からなる中長期保全計画を策定した。 2005 年の計画策定以降、これまでの実施件数を表3 に示す。現在、「常陽」では、原子炉内に設置した実験設備 のトラブルにより原子炉を起動できない状態であり、 原子炉運転状態でなければ状態監視を行えない1項 目(表3の短期一般劣化項目)を除き、計画通り状 態監視とそれに伴う高経年化対策を進めてきた。こ れより、経年劣化により対策を必要とした項目は、 一般劣化を除けば、腐食(冷却水及び大気環境による)と絶縁劣化に集中していることが確認できた。表3 中長期保全計画に基づく高経年化対策実績定期短期中長期」不定期合計分類計|実系統「計|実画 | 施計画実 施一|実| 計|実 | | 施|画| 施実施実施一|計画一二計画|3||施放射線劣化腐食|6|15||1900/01/01|2| 035磨耗・侵食絶縁劣化20一般劣化6| 5| 51 | 20|-|5723/01/01合計33 | 32 | 92 | 33 |5|0|137 | 72定期:定期的に実施短期:2009年度までに実施中長期:2014年度までに実施 不定期:監視を通じ環境変化等が確認された場合実施4.まとめ「常陽」では、重要度分類に基づき、これまでの 経験・知見を反映して、効率的・効果的な保全計画 を策定して 30 年以上にわたり保守業務を展開して きた。その結果、系統が複雑で遠隔操作に確実性が 求められ、放射性 Na 付着等が伴う燃料取扱系の保守 業務の比重が大きいものの、Na 冷却系に関しては、 保守範囲が駆動部等の冷却材に接しない部分に限ら れていることに加え、Na の純度管理を適切に行うこ とにより、腐食に起因する保全活動も負担とならな いことが実証された。 また、高経年化に関する評価を行い、中長期保全 計画を策定し、これに基づく保全業務を展開した結 果、主な経年劣化事象は、冷却水及び大気環境によ る材料の腐食・侵食、絶縁劣化によるものであり、 高速炉プラント特有のものはないことが確認された。参考文献 [1] 伊藤他,“連載講座 高速炉の変遷と現状 第6回 日本の高速炉開発の歴史(I)”, 日本原子 力学会誌, Vol.50, No.1, pp44~79, 2008 砂押他, “高速増殖炉工学基礎講座 12.運転と保 守(その 2)““,日本工業新聞社発行「原子力工 業」, 第 37 巻, 第8号,pp76~49, 1989 実験炉部,“特集「常陽」 20 周年 IV.高速炉の運 転管理及び保守技術の開発”,動燃技報 No.104, pp43~58, 1997 礒崎他,“プラント改造設計と冷却系機器の交 換”,サイクル機構技報 No.21, pp49~61,2003 礒崎他,“総合講演・報告 11 「試験研究炉にお ける定期的な評価」高速実験炉「常陽」の定期 的な評価”, 日本原子力学会 2006年秋の大会[4][5]様は257“ “高速実験炉「常陽」の保守経験(1) 「常陽」における保守活動の概要“ “住野 公造,Kozo SUMINO,小林 哲彦,Tetsuhiko KOBAYASHI,礒崎 和則,Kazunori ISOZAKI,吉田 昌宏,Akihiro YOSHIDA
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