既設原子力発電プラントの有効活用に関する質問紙調査
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
一般の人々を対象とした原子力広報において、機器 や設備のメンテナンスは、プラントの安全対策の一環 や安全・安定運転への取り組みとして紹介されること が多い!!。しかしながら、適切なメンテナンスによっ てプラントを効率的に運用し生産性を高める、という 観点を含めた説明はあまり見当たらない。昨今では、エネルギーの安定供給や地球温暖化問題 に対応するために、既設の原子力発電プラントを適切 にメンテナンスし、有効に活用することが求められて いる。主な方策には、長期サイクル運転、高経年化 プラントの継続運転、出力の向上があげられる。これ らに関する制度のしくみやメンテナンスの情報を一般 の人々に提供する場合には、プラントの生産性向上と いう観点を含めて包括的に説明することも必要と考え られる。プラントの安全対策の観点だけで個別に説明 した場合、プラントを有効に活用する本来の意義や目 的が明確に伝わりにくく、安全性の認知によって各方 策の受容性が規定される可能性は否定できない。 そこで、長期サイクル運転、高経年化プラントの継続運転、出力の向上に関する制度のしくみやメンテナ ンスの内容を、プラントを有効に活用する取り組みと して包括的に説明する情報文を試作し、これに対する 人々の受けとめ方を質問紙調査により検討した。
2. 方法 2.1 調査方法 - 京都市・大阪市・神戸市に在住する 20 歳以上の男女 306 人を対象に、訪問留置法による質問紙調査を実施 した。調査時期は、平成 21 年 11月 12 日から11月26 一日であった。 2. 2提示情報
【現在運転している原子力発電所のさらなる活用】 と題するA4×1頁 (800 字程度)の文字情報(以下、 【さらなる活用」とよぶ)を提示した。まず、日本の 総発電電力量に占める原子力発電比率、運転中の原子 力発電プラントの基数と運転開始から 30 年以上を経 たプラントの基数などの基本情報を示した。続いて、 「1発電所によっては、これまでよりも長い期間連続 して運転します」、「2長い年数、安定的に運転できる ようにします」、「3発電所の発電能力(発電できる電 気の量)を増やします」というリード文を提示し、1 については、国の定期検査の間隔の設定が変わったこ と(一律に 13 ヵ月以内→適切な間隔をプラント毎に評 価し、13 ヵ月以内、18 ヵ月以内、24 ヵ月以内のうち273から個別に設定)、2については、機器の劣化状態を調 べたり機器を交換したりしていること、高経年化技術 評価を行うとともに長期保守管理方針を策定している こと、3については、機器や設備の改良によって5% 程度の出力の向上が検討されていることを、それぞれ 平易な言葉で説明した。 2.3 質問内容【さらなる活用】の印象、誰にどのようなメリット があると思うかの自由記述、目的や理由に対する共感 の程度、心配事の有無とその理由、「安全にできる」と いう気持ちになる程度、推進の意向などをたずねた。3.結果 3.1 メリットや目的に関する認知 1 【さらなる活用】の印象について5段階評定を求め たところ、「必要なことだ」に肯定的な回答は8割近く であった。「なんとなく気が進まない」「慎重さに欠け る気がする」に肯定的な回答は2割~3割であった。【さらなる活用】は誰にどのようなメリットがある と思うか自由記述を求めたところ、調査対象者の半数 は“私”、“人々”、“国民”などを記入し、主なメリッ トには電気の安定供給、電気料金の値下がり・安定が あげられた。“電力会社”を記入した人は調査対象者の 3割程度で、主なメリットには発電の経済性向上があ げられた。「電力会社に経済的なメリットがある」と考 える人が大多数を占めるのではなく、「自分たちにメリ ットがある」と考える人が大半を占めた。【さらなる活用】の目的や理由を提示し共感できる 程度をそれぞれ5段階評定で求めたところ、「電気を安 定的に供給するため」、「価格の安定した安い電気を供 給するため」、「地球温暖化の防止に貢献するため」に は調査対象者の8割前後が「共感できる」あるいは「や や共感できる」と回答した。 3.2 安全性に関する認知【さらなる活用」について心配に思うことの有無を たずねたところ、「特に心配に思うことはない」が3割、 「心配に思うことがある」が6割であった。心配事の 自由記述には、“事故”“放射能漏れ”のほかに、安全 性に問題ないか、メンテナンスをミスなく完全にでき るか、不都合を隠したり安全をないがしろにしないか、 古くなることやさらに使うことでリスクが高まるので はないか、等があげられた。【さらなる活用】を安全に実現するために電力会社をはじめ産業界が行なっているメンテナンスの取り組 みや国の規制に関する文章 (6項目)、【さらなる活用】 が技術的に実現可能であることを示す文章(3項目) を提示し、これらを聞いた場合に「安全にできそう」 という気持ちになる程度をそれぞれ5段階評定で求め た。「心配に思うことがある」人にとっては、技術的な 実現可能性に関する情報(海外ですでに実績がある、 安全評価の結果問題ない、等)よりも、メンテナンス の取り組みや規制に関する情報(電力会社に専門のチ ームがある、産業界は情報の共有、新しい技術の開発、 教育や訓練を行なっている、国は電力会社の計画や実 施状況をチェックしている、等)のほうが「安全にで きそう」という気持ちになる程度は大きかった。 3.3 推進の意向【さらなる活用」について、調査対象者の8割は「慎 重に推進していくほうがよい」と回答し、「積極的に推 進していくほうがよい」をあわせると9割が肯定的な 態度を示した。「推進しないほうがよい」は1割に留ま った。「心配に思うことがある」人でも、否定的な態度 を持つ人は1割に留まり、8割は慎重な推進を求めた。 【さらなる活用の推進の意向には、今後の原子力発 電の利用に対する態度との強い相関がみられた。4.結言 -- 京阪神地域の 306 人を対象に、既設の原子力発電プ ラントを適切にメンテナンスし有効に活用する取り組 みについて、質問紙調査を実施した。 1) 多くの人々は、プラントの有効活用の推進について 心配に思うことはあっても肯定的な態度を示した。 2) 大半の人々は、プラントの有効活用は自分たちにメ リットがあると認識した。 3) プラントの有効活用が安全にできるという認知に は、技術的な実現可能性に関する情報よりもメンテナ ンスの取り組みや規制に関する情報の寄与が大きかっ た。参考文献 [1] 例えば、電気事業連合会、原子力 2010[コンセンサス]、pp.23-24.; 電気事業連合会ホームページ、電 気事業のいま>原子力発電所の安全確保>検査・点 検によって安全を守るhttp://www.fepc.or.jp/present/safety/kensa/index.html [2] 経済産業省、原子力発電推進強化策1900/09/30“ “既設原子力発電プラントの有効活用に関する質問紙調査“ “酒井 幸美,Yukimi SAKAI,上田 宜孝,Yoshitaka UEDA,後藤 学,Manabu GOTO
一般の人々を対象とした原子力広報において、機器 や設備のメンテナンスは、プラントの安全対策の一環 や安全・安定運転への取り組みとして紹介されること が多い!!。しかしながら、適切なメンテナンスによっ てプラントを効率的に運用し生産性を高める、という 観点を含めた説明はあまり見当たらない。昨今では、エネルギーの安定供給や地球温暖化問題 に対応するために、既設の原子力発電プラントを適切 にメンテナンスし、有効に活用することが求められて いる。主な方策には、長期サイクル運転、高経年化 プラントの継続運転、出力の向上があげられる。これ らに関する制度のしくみやメンテナンスの情報を一般 の人々に提供する場合には、プラントの生産性向上と いう観点を含めて包括的に説明することも必要と考え られる。プラントの安全対策の観点だけで個別に説明 した場合、プラントを有効に活用する本来の意義や目 的が明確に伝わりにくく、安全性の認知によって各方 策の受容性が規定される可能性は否定できない。 そこで、長期サイクル運転、高経年化プラントの継続運転、出力の向上に関する制度のしくみやメンテナ ンスの内容を、プラントを有効に活用する取り組みと して包括的に説明する情報文を試作し、これに対する 人々の受けとめ方を質問紙調査により検討した。
2. 方法 2.1 調査方法 - 京都市・大阪市・神戸市に在住する 20 歳以上の男女 306 人を対象に、訪問留置法による質問紙調査を実施 した。調査時期は、平成 21 年 11月 12 日から11月26 一日であった。 2. 2提示情報
【現在運転している原子力発電所のさらなる活用】 と題するA4×1頁 (800 字程度)の文字情報(以下、 【さらなる活用」とよぶ)を提示した。まず、日本の 総発電電力量に占める原子力発電比率、運転中の原子 力発電プラントの基数と運転開始から 30 年以上を経 たプラントの基数などの基本情報を示した。続いて、 「1発電所によっては、これまでよりも長い期間連続 して運転します」、「2長い年数、安定的に運転できる ようにします」、「3発電所の発電能力(発電できる電 気の量)を増やします」というリード文を提示し、1 については、国の定期検査の間隔の設定が変わったこ と(一律に 13 ヵ月以内→適切な間隔をプラント毎に評 価し、13 ヵ月以内、18 ヵ月以内、24 ヵ月以内のうち273から個別に設定)、2については、機器の劣化状態を調 べたり機器を交換したりしていること、高経年化技術 評価を行うとともに長期保守管理方針を策定している こと、3については、機器や設備の改良によって5% 程度の出力の向上が検討されていることを、それぞれ 平易な言葉で説明した。 2.3 質問内容【さらなる活用】の印象、誰にどのようなメリット があると思うかの自由記述、目的や理由に対する共感 の程度、心配事の有無とその理由、「安全にできる」と いう気持ちになる程度、推進の意向などをたずねた。3.結果 3.1 メリットや目的に関する認知 1 【さらなる活用】の印象について5段階評定を求め たところ、「必要なことだ」に肯定的な回答は8割近く であった。「なんとなく気が進まない」「慎重さに欠け る気がする」に肯定的な回答は2割~3割であった。【さらなる活用】は誰にどのようなメリットがある と思うか自由記述を求めたところ、調査対象者の半数 は“私”、“人々”、“国民”などを記入し、主なメリッ トには電気の安定供給、電気料金の値下がり・安定が あげられた。“電力会社”を記入した人は調査対象者の 3割程度で、主なメリットには発電の経済性向上があ げられた。「電力会社に経済的なメリットがある」と考 える人が大多数を占めるのではなく、「自分たちにメリ ットがある」と考える人が大半を占めた。【さらなる活用】の目的や理由を提示し共感できる 程度をそれぞれ5段階評定で求めたところ、「電気を安 定的に供給するため」、「価格の安定した安い電気を供 給するため」、「地球温暖化の防止に貢献するため」に は調査対象者の8割前後が「共感できる」あるいは「や や共感できる」と回答した。 3.2 安全性に関する認知【さらなる活用」について心配に思うことの有無を たずねたところ、「特に心配に思うことはない」が3割、 「心配に思うことがある」が6割であった。心配事の 自由記述には、“事故”“放射能漏れ”のほかに、安全 性に問題ないか、メンテナンスをミスなく完全にでき るか、不都合を隠したり安全をないがしろにしないか、 古くなることやさらに使うことでリスクが高まるので はないか、等があげられた。【さらなる活用】を安全に実現するために電力会社をはじめ産業界が行なっているメンテナンスの取り組 みや国の規制に関する文章 (6項目)、【さらなる活用】 が技術的に実現可能であることを示す文章(3項目) を提示し、これらを聞いた場合に「安全にできそう」 という気持ちになる程度をそれぞれ5段階評定で求め た。「心配に思うことがある」人にとっては、技術的な 実現可能性に関する情報(海外ですでに実績がある、 安全評価の結果問題ない、等)よりも、メンテナンス の取り組みや規制に関する情報(電力会社に専門のチ ームがある、産業界は情報の共有、新しい技術の開発、 教育や訓練を行なっている、国は電力会社の計画や実 施状況をチェックしている、等)のほうが「安全にで きそう」という気持ちになる程度は大きかった。 3.3 推進の意向【さらなる活用」について、調査対象者の8割は「慎 重に推進していくほうがよい」と回答し、「積極的に推 進していくほうがよい」をあわせると9割が肯定的な 態度を示した。「推進しないほうがよい」は1割に留ま った。「心配に思うことがある」人でも、否定的な態度 を持つ人は1割に留まり、8割は慎重な推進を求めた。 【さらなる活用の推進の意向には、今後の原子力発 電の利用に対する態度との強い相関がみられた。4.結言 -- 京阪神地域の 306 人を対象に、既設の原子力発電プ ラントを適切にメンテナンスし有効に活用する取り組 みについて、質問紙調査を実施した。 1) 多くの人々は、プラントの有効活用の推進について 心配に思うことはあっても肯定的な態度を示した。 2) 大半の人々は、プラントの有効活用は自分たちにメ リットがあると認識した。 3) プラントの有効活用が安全にできるという認知に は、技術的な実現可能性に関する情報よりもメンテナ ンスの取り組みや規制に関する情報の寄与が大きかっ た。参考文献 [1] 例えば、電気事業連合会、原子力 2010[コンセンサス]、pp.23-24.; 電気事業連合会ホームページ、電 気事業のいま>原子力発電所の安全確保>検査・点 検によって安全を守るhttp://www.fepc.or.jp/present/safety/kensa/index.html [2] 経済産業省、原子力発電推進強化策1900/09/30“ “既設原子力発電プラントの有効活用に関する質問紙調査“ “酒井 幸美,Yukimi SAKAI,上田 宜孝,Yoshitaka UEDA,後藤 学,Manabu GOTO