基調講演: 保全技術の世界の動向 - OECD/NEA SCAPの成果を通じて -
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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
軽水炉は典型的な巨大複雑系社会経済システムであ り、その安全で効率的な長期間にわたる運用には、体 系的な保全技術の適用が必要である。ここでは、17 カ 国が参加した OECD/NEA のプロジェクトである SCAP (SCC and Cable Ageing Project)における推奨実務 抽出に至る検討成果に基づき、各国の保全技術動向を 議論する。また当該国際プロジェクトを進める過程で白 得られた我が国の産官学連携の成果とその新検査制度 への適用に関する今後のあり方についても議論する。
2.保全技術適用のための技術情報基盤
SCAP は 2006 年から4年間に渡る原子力安全・保安J 院の拠出金プロジェクトであり、本年5月に最終運営 会議と海外からの45名を含む 240名ほどの参加者を得 たワークショップを国内で開催した。これらを受けて 取りまとめられた最終報告書は、6月の OECD/NEA の CSNI 会合において承認されている。質の異なる2つの 劣化事象としての応力腐食割れとケーブル劣化を対象 として、損傷事例等のデータベースと構造化した知識 ベース、さらに各国での保全と劣化管理プログラムへ の適用を意図した推奨実務(Commendable Practice) の3段階の知識の構造化を目的とした。表1及び2に、 SCAP のデータベースに格納された参加各国の保全技術 の整理例として、PWSCC 対策としての保全技術の適用 並びにケーブル類供用期間中検査・状態監視手法の適 用国数を示した。このようなデータベースの収集整理 の積み重ねに基づいた知識ベースの構築と推奨実務の自
抽出作業を通じて、各国間での保全技術と経年劣化管 理プログラム構築に関する共通的なコミュニケーショ ンツールを構成することができたと考えている。 1保全技術の適用に関する推奨実務とは、劣化メカニ ズムの整理、各種予防保全技術や検査・評価手法とそ の適用性検討とこれらに基づいた安全性と健全性評価、 さらに補修・取替技術開発、技術開発課題の設定その 解決への取り組みに関する広範な基盤について、科学 的合理性のもとに提示する技術情報基盤の形成そのも のであるとの共通認識を構築することもできた。保全技術の適用性については、JANTI の炉内構造物 点検評価ガイドライン検討会において、保全技術の適 用プロセスに関するガイドラインが取りまとめられ、 JNES の RNP を含む規制要求適合性確認のプロセスが明 確化されている。一方で、学協会における規格化や技 術開発ロードマップ創りには、産官学のコミュニケー ションの場の維持発展が必須であると考えられる。3.今後の発展に向けて技術情報基盤整備については、より具体的な保全技 術の適用性に関する国際的な標準を目指した iGALL (International Generic Ageing Lessons Learned) 0) 策定作業が IAEA において進んでいる。また、リスクの 時間的変化を取り込んだ保全適正化と重点化への基盤 整備も進められようとしている。新検査制度構築を通じた我が国の産官学の協調体制 が、既設プラントの安全安定運転はもとより国内外の 新規プラント建設に貢献するとともに、戦略的な国際 的な知見の獲得と国際貢献につながることが望まれる。表1 各国の PWSCC 対策としての補修、取換、予防保全技術(OECD/NEA SCAP 最終報告書)Spool piecereplacement Cutting, drilling,grinding Temper bead weldingMSIP Overlay clad (external, fullstructural) Overlay clad (internal) Inlay clad(internal) Half nozzle repairSeal weldingShot peening Water jet peeningLaser stress improvementJSJUF: France, G: Germany, J: Japan, K: Korea, S: Sweden, U: USA 表2 ケーブル類供用期間中検査・状態監視手法と適用国数(OECD/NEA SCAP 最終報告書)No. ofCable Types Methodscountries Power Control Inst. Coaxial Fiber Opt. | HybridCombined AS High Potential and PartialDischarge Extinction Level TestsCurrent leak rate testingElongation at breakIndenterInsulation resistanceLine resonance analysis (LIRA)Oxidation induction temperature (OITP)Oxidation induction time (OIT)Potential decaySystem of electrical characterization anddiagnosisTangent deltaThermogravimetryVisual/tactile inspection324
“ “保全技術の世界の動向 - OECD/NEA SCAP の成果を通じて -“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA
軽水炉は典型的な巨大複雑系社会経済システムであ り、その安全で効率的な長期間にわたる運用には、体 系的な保全技術の適用が必要である。ここでは、17 カ 国が参加した OECD/NEA のプロジェクトである SCAP (SCC and Cable Ageing Project)における推奨実務 抽出に至る検討成果に基づき、各国の保全技術動向を 議論する。また当該国際プロジェクトを進める過程で白 得られた我が国の産官学連携の成果とその新検査制度 への適用に関する今後のあり方についても議論する。
2.保全技術適用のための技術情報基盤
SCAP は 2006 年から4年間に渡る原子力安全・保安J 院の拠出金プロジェクトであり、本年5月に最終運営 会議と海外からの45名を含む 240名ほどの参加者を得 たワークショップを国内で開催した。これらを受けて 取りまとめられた最終報告書は、6月の OECD/NEA の CSNI 会合において承認されている。質の異なる2つの 劣化事象としての応力腐食割れとケーブル劣化を対象 として、損傷事例等のデータベースと構造化した知識 ベース、さらに各国での保全と劣化管理プログラムへ の適用を意図した推奨実務(Commendable Practice) の3段階の知識の構造化を目的とした。表1及び2に、 SCAP のデータベースに格納された参加各国の保全技術 の整理例として、PWSCC 対策としての保全技術の適用 並びにケーブル類供用期間中検査・状態監視手法の適 用国数を示した。このようなデータベースの収集整理 の積み重ねに基づいた知識ベースの構築と推奨実務の自
抽出作業を通じて、各国間での保全技術と経年劣化管 理プログラム構築に関する共通的なコミュニケーショ ンツールを構成することができたと考えている。 1保全技術の適用に関する推奨実務とは、劣化メカニ ズムの整理、各種予防保全技術や検査・評価手法とそ の適用性検討とこれらに基づいた安全性と健全性評価、 さらに補修・取替技術開発、技術開発課題の設定その 解決への取り組みに関する広範な基盤について、科学 的合理性のもとに提示する技術情報基盤の形成そのも のであるとの共通認識を構築することもできた。保全技術の適用性については、JANTI の炉内構造物 点検評価ガイドライン検討会において、保全技術の適 用プロセスに関するガイドラインが取りまとめられ、 JNES の RNP を含む規制要求適合性確認のプロセスが明 確化されている。一方で、学協会における規格化や技 術開発ロードマップ創りには、産官学のコミュニケー ションの場の維持発展が必須であると考えられる。3.今後の発展に向けて技術情報基盤整備については、より具体的な保全技 術の適用性に関する国際的な標準を目指した iGALL (International Generic Ageing Lessons Learned) 0) 策定作業が IAEA において進んでいる。また、リスクの 時間的変化を取り込んだ保全適正化と重点化への基盤 整備も進められようとしている。新検査制度構築を通じた我が国の産官学の協調体制 が、既設プラントの安全安定運転はもとより国内外の 新規プラント建設に貢献するとともに、戦略的な国際 的な知見の獲得と国際貢献につながることが望まれる。表1 各国の PWSCC 対策としての補修、取換、予防保全技術(OECD/NEA SCAP 最終報告書)Spool piecereplacement Cutting, drilling,grinding Temper bead weldingMSIP Overlay clad (external, fullstructural) Overlay clad (internal) Inlay clad(internal) Half nozzle repairSeal weldingShot peening Water jet peeningLaser stress improvementJSJUF: France, G: Germany, J: Japan, K: Korea, S: Sweden, U: USA 表2 ケーブル類供用期間中検査・状態監視手法と適用国数(OECD/NEA SCAP 最終報告書)No. ofCable Types Methodscountries Power Control Inst. Coaxial Fiber Opt. | HybridCombined AS High Potential and PartialDischarge Extinction Level TestsCurrent leak rate testingElongation at breakIndenterInsulation resistanceLine resonance analysis (LIRA)Oxidation induction temperature (OITP)Oxidation induction time (OIT)Potential decaySystem of electrical characterization anddiagnosisTangent deltaThermogravimetryVisual/tactile inspection324
“ “保全技術の世界の動向 - OECD/NEA SCAP の成果を通じて -“ “関村 直人,Naoto SEKIMURA