加圧水型原子炉(PWR)主要機器の保全活動と学協会への期待

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
2. 主要機器の保全活動に有効な技術 温室効果ガス排出量を削減するために、原子力をは 原子力発電所の運転に直接関わる主要機器について、 じめとする非化石燃料の利用比率を高め、既設原子力き裂等の経年劣化事象の発生可能性評価を行い、検査、 発電所では安全最優先に設備利用率を向上させること。 評価、補修・取替・予防保全の技術を適切に組合せ、 がのぞましい。原子力発電所の設備利用率は、運転期保全計画を立案、実施、評価、見直しを行うこと(P 間と停止期間(定期検査期間、計画外停止期間)でほ。 DCA)が重要である。以下にそれぞれの技術分野に ぼ決まる。主要機器の事故、故障は、計画外停止期間おける現状を述べる。 や定期検査期間の長期化につながる。国内の加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor: 2.1 事象発生可能性評価 PWR)は、昭和 45 年美浜1号機運開以来、現在 24 基が主要機器で発生するき裂等の経年劣化事象について、 運転中である。過去には蒸気発生器伝熱管(600 系 Ni_プラントの運転経験や研究成果等から対象機器に対し 基合金製)の損傷をはじめとする種々の事故、故障をて発生可能性を評価し、点検計画等の保全計画を策定 経験し、設備利用率が低迷したが、最新の蒸気発生器 している。時間依存性のある経年劣化事象に対しては への取替により改善が図られた。近年、600 系 Ni 基合 加速試験結果等から発生時期の予測を行っている。日 金溶接部(原子炉容器上蓋管台・出口管台、加圧器管本原子力学会が作成している原子力発電所の高経年化 台、蒸気発生器入口管台)で応力腐食割れ(PWSCC : 対策実施基準(機器・部位毎に想定される経年劣化事 Primary Water Stress Corrosion Crack)が顕在化象を劣化メカニズムまとめ表を含む)は、事業者の保 しており、種々の保全技術により対応している。 全計画のインプットとして有効に活用されている。機器の事故、故障を未然に防止するには先手の保全 が重要である。国内外プラントの運転経験や研究知見 2.2 検査技術 等を共有し、同種事象の発生可能性を評価し、検査、近年、原子力用機器の超音波探傷技術、渦流探傷 評価、補修・取替・予防保全技術をもって適切な時期 技術等の非破壊検査技術の革新はめざましい。特に、 に適切な保全を行うことが重要である。これを達成す 高線量下の検査においては、欠陥の検出性に加えて、 るための技術や情報基盤を整備し、実機への円滑な適 遠隔操作性、耐久性等も重要な要素となる。想定さ 用を行うために、産学官、学協会が各々重要な役割を れるき裂の形態に対して最適な検査技術を選定し、 果たしている。検査装置、検査員、検査手順を規定することで検査品質が確保できることから、日本電気協会で各種検 連絡先:松永知也、〒919-1141 福井県三方郡美浜町査技術の規格化が進められている。 郷市 13 号横田8番 電話: 0770-32-3699渦流探傷技術は表面近傍のき裂の検出に適してお- 331 -連絡先:松永知也、〒919-1141 福井県三方郡美浜町 郷市 13 号横田8番 電話: 0770-32-3699 き裂等の経年劣化事象の発生可能性評価を行い、 1 事象発生可能性評価 主要機器で発生するき裂等の経年劣化事象について、 加速試験結果等から発生時期の予測を行っている。 本原子力学会が作成している原子力発電所の高経年化 技術等の非破壊検査技術の革新はめざましい。特に、 高線量下の検査においては、欠陥の検出性に加えて、 れるき裂の形態に対して最適な検査技術を選定り、超音波探傷技術はき裂の検出やき裂深さの測定 に適している。き裂深さの測定では、き裂先端位置 を同定するが、き裂の形態や金属組織、超音波の特 性等が評価精度へ及ぼす影響を考慮する必要がある。2.3 評価技術 - 検査でき裂が検出され、き裂の長さ、深さが測定で きた場合、以降のプラント運転でのき裂の進展予測を 行い、一定期間経過後の技術基準適合性評価を行う。 き裂進展評価は、板厚方向の応力分布解析結果とき裂 進展解析により行う。き裂進展式は、日本機械学会で 疲労き裂やPWSCC について規格化済みまたは作成中で ある。2.4 補修・取替・予防保全技術補修技術とは、き裂等が検出された時に必要な技術 であり、機器の材料、周辺環境等によっては、新しい 技術を適用しなければならないことがある。過去には、 海外で既に実機適用されている技術であっても、国内 では技術基準に記載がないことから適用できない、ま たは許認可手続きに時間がかかるという課題があった。 省令 62 号の一部改正により(平成18年1月施行)、技 術基準が性能規定化され、性能規定化された規制基準 に対し、容認可能な仕様等について、学協会等の民間 規格を規制当局が技術評価、エンドースすることで、 民間規格が積極的に活用できるようになった。また、 新たな保全技術については、民間で必要な技術評価を 行い、規制側が新保全技術適合性作業会で技術基準適 合性を確認し、その後、「法令適合用事前確認手続き照 会書」(ノーアクションレター)制度を活用して、実機 に適用するしくみが構築されている。原子炉容器出口 管台の補修あるいは予防保全時にはこの手続きが有効 に活用された。 * 取替技術とは、機器一体または部分的に取り替える 技術である。施工性、製作期間、工事期間等を考慮し て、実施時期や取替範囲の決定を行う。これまでのP WR主要機器の取替例として、蒸気発生器、原子炉容 器上蓋、炉内構造物、ポンプ/タンク、タービン、発 電機、主変圧器、熱交換器等、多岐に渡る。予防保全技術とは、き裂等の経年劣化事象の発生を 防止する技術であり、計画外の運転停止や補修による 定期検査期間の長期化の回避に有効である。き裂の発 生原因が材料、環境、応力の重畳である場合、材料面では接液部を耐食性の高い別の材料で覆たり、応力面 では材料表面に圧縮残留応力を付与する等、発生条件 のひとつ以上を除去するという方法が一般的である。 ただし、検査では検出限界以下の微小なき裂が残存す るという前提で、予防保全対策の有効性を評価する必 要がある。また、その後のプラント運転で対策の効果 の持続性を長期的な視点で検証することも重要である。3. 学協会への期待 * 産業界は、安全性・信頼性・経済性の確保・向上を 目的とした保全活動を実施しており、これに必要な、 事故故障対応の妥当性研究、民間規格の技術根拠を提 供する研究、保全技術の開発研究等を実施している。日本機械学会等による民間規格策定作業については、 官学、学協会、産業界等の有識者による議論や、公衆 審査等、公平、公正、公開を重視しながら作業が進め られている。規制当局のエンドース後、事業者は規格 に従い、実機の保全活動へ技術の適用が可能となる。 規格の迅速な整備は、産業界の技術開発のインセンテ ィブ付与、有効な国内技術の充実の観点から意義が大 きい。また、事故・故障や保全品質の情報は保全計画への インプットとして重要であり、日本原子力技術協会が 運営するニューシア (原子力施設情報公開ライブラリ ー)や、JPOG (Japan PWR Owners Group)等が 情報源として利用されている。今後とも、学協会によ る技術情報基盤の充実を期待したい。学協会は、産学官の関係者が多数集まることにより、 ニーズシーズの発掘や技術の方向性についての自由な 議論ができる場を提供しており、大学や研究機関が参 画した基礎研究や人材の育成にもつながると考えられ る。また、アジア等原子力発電新興国で新規発電所建 設が急ピッチで進むことから、学協会も国内の運転経 験や有効な保全技術を広く紹介する等、国際貢献して いくことが考えられる。4. 結言事業者としては、今後とも産学、学協会と連携をと りながら、主要機器等の保全活動の充実を図り、既設 原子力発電所の安全安定運転及び効率的な保全技術の 商用により設備利用率を向上し、国の原子力政策を推 進し、低炭素社会へ貢献していく。532“ “加圧水型原子炉(PWR)主要機器の保全活動と学協会への期待“ “松永 知也,Tomoya MATSUNAGA
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