地震発生後の保全【駿河湾地震の対応】

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
中部電力浜岡原子力発電所は、2009 年8月11日 の駿河湾を震源とする地震(以下本地震という)の 発生に伴い、4,5 号機が地震加速度大により自動停止 した。中央制御室に表示された地震加速度は3号機 147 ガル、4号機 163 ガル、5 号機 426 ガルであった。 運転再開に向け、社内ルールに基づき、地震発生直 後に確認した被害状況等を勘案し、3,4,5 号機の設備 健全性に係る保全計画を策定し、点検を実施した。 2. 点検評価の位置づけ - 本地震発生直後の対応として、現場の巡視点検や 非常用炉心冷却系等の確認試験等を実施した。地震 発生からプラントの運転再開までのプロセスは図 1 の通り。
発生直後の対応地震発生【特別な保全計] プラントは止中のかも安全・安定運転に必要な設備 ■機器単位の点検・評価観点味えい 基礎ボルトの打点検 ポンプ、モータの運転時の振動データ価等 ■系統単位の点検・評価 運転による系統の確認 安全上要な技能の認※1確認にあたっては、 子を運転し、気を使 用してや系統の を したり、ブラント 全体の運転状態を認 する場合がある。ブラント停止タービン設備において中間軸受箱に損傷が確認され るなど、耐震設計上重要な設備(耐震 As, A クラス (新耐震指針上 Sクラス))を除く耐震 B,C クラス の機器について一部に損傷が確認された。これらを踏まえ、以下の考え方で保全計画を策定 した。 ・既に確認されている設備の不具合、本地震後の 機器の運転状態を踏まえつつ、個別の設備 (機器 レベル)の損傷の有無、原因について確認を行う こと ・機器レベルの健全性の確認および系統レベルの 健全性を確認し、機器、系統に要求される機能が 正常に発揮されることを確認すること ・地震観測記録による設備健全性評価により、耐震上重要な設備の健全性を確認すること 3. 機器レベルの点検 3.1 点検対象設備 (1)機器の分類における点検方法安全・安定運転に必要な設備を対象とし,具体 的には保全重要度AおよびBの設備 (保全重要度 Bの設備のうち,運転再開に支障のない設備は除 く)とした。機種ごとに設備点検および追加点検の手法は異 なるが、運転状態の確認による点検が有効な動的 機器、構造強度の確認および一般に地震による影 響が考慮され各機種全般にわたる共通的な確認が 必要な支持構造物等が主体となる静的機器および 建物・構築物について、設備点検、追加点検の概 要を整理すると下記のとおりとなる。 1 動的機器動的機器は、地震力による軸受、基礎ボルト /基礎台、軸封部等の損傷等が想定されるが、 これらの兆候の確認には、地震発生前後におけ る振動データ等があるものについては、これら を活用し外観点検を主体とした設備点検を実施 した。その後、系統レベルの点検において運転 状態を確認した。中央制御室での状況確認配線安全上重要な について地蔵」 記録を用いた設 健全性の評価巡視点? 異音・異臭・漏えい・破損の確認 結格納容器内冷静土100°C)藤島く設計の売内か結果からにし状のないことを認冷温停止(100°C) ■保安規定に定める運転上の制限を確認会いから ブラント過程での初に応じ見直し。2期記録と基地 たとの比較により時記■動作確認験 ・非常用炉心冷却系 ・非常用ディーゼル発電機ブラントの「結梨から ンに応募言し通常運転 図1 地震発生後から運転再開までのプロセス 地震発生直後の対応として実施した巡視点検など この結果、「止める」「冷やす」「閉じこめる」機能を有する安全上重要な系統には、機能、性能に影響する ような異状は認められなかった。一方、5号機では、
349また、設備点検の結果および既に確認されて いる設備の不具合の水平展開評価において詳細 点検が必要と判断した設備については追加点検 を実施した。 2 静的機器配管、熱交換器には耐圧、強度等の機能が要 求されており、地震力による変形、割れ等の発 生が想定されるが、これらの確認には、外観の 確認や通水状態における漏えいの有無の確認が 有効であると考えられるため、外観点検、漏え い点検を主体とした設備点検を実施した。計測 器類、電気設備等についても外観点検、漏えい 点検を実施した。支持構造物等は、地震力により支持構造物本 体の変形や固着等が想定されるが、これらの確 認には、外観上の確認が有効であると考えられ るため、外観点検を主体とした設備点検を実施 した。また、設備点検の結果および既に確認されて いる設備の不具合の水平展開評価において詳細 点検が必要と判断した設備については追加点検 を実施した。 3 建物・構築物建物・構築物は地震の影響でひび割れおよび 剥離、剥落が想定され、外観による確認が有効 であると考えられるため外観点検を主体とした 点検を実施した。また、設備点検の結果および既に確認されて いる設備の不具合の水平展開評価において詳細 点検が必要と判断した設備については追加点検を実施した。 (2)確認方法設備点検の手順および判定基準については、原 則として、これまでの保守点検において用いられ る社内手引である点検計画を準用して策定した。 追加点検等により、準用が困難である場合には技 術的に妥当であると確認されたものを採用するな ど、各点検対象設備ごとに手順および判定基準を 適切に策定した。 3.2 5号機における耐震B,Cクラス機器に対する追加点検 5号機においては、耐震 B,C クラス機器について*1:原子力安全の見地からの原子力施設の重要度を示 す「安全重要度」,原子力施設の機能喪失によって安 定した発電継続に与える影響の度合いを示す「供給信 頼度」,および確率論的安全評価から得られる原子力 施設のリスクに対する寄与割合を用いて定めた建 物・構築物,系統および機器の定量的な重要度を示す 「リスク重要度」の3つの指標を基に,社内手引にて 各機器に対する保全重要度を A,B,Cの3段階で定めて いる。保全重要度 A,B に該当する設備には、安全・安 定運転に影響のある設備はすべて包含される。 一部に損傷が確認されたことおよび、今回の地震による発生応力に対して機器設計時の許容応力の耐震 裕度が小さいものがあることから、保全重要度 A お よび B の設備※(保全重要度 B の設備のうち、運転 再開に支障のない設備は除く)のうち、耐震クラス B,C 機器について、以下のとおり追加点検を実施し、 設備の健全性を確認した。 (1)損傷形態からのアプローチ各設備の種類、設置方法等により地震時に想定 される損傷の形態が異なることから、日本電気協 会技術指針「原子力発電所耐震設計技術指針」 (JEAG4601) を基に対象設備を地震による機能・ 構造への影響が類似していると考えられる機 種ごと(立形ポンプ、横形ポンプ等)に分類を行 い、さらに、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電 所における新潟県中越沖地震後の点検状況を参考 に、機種ごとに地震による損傷の発生の可能性が 高い形態を想定して、損傷を検知するために有効 な方策を検討した。容器などの静的機器について は、支持部(支持脚や基礎ボルト)の損傷が支配 的な損傷形態であり、また、ポンプ、ファンなど の動的機器については、支持部(基礎ボルト)に 加え、軸受、ローターなどの回転機に関連する部 品の損傷が支配的になる。これらをふまえ、以下 の点検を実施することとした。 1打診点検動的および静的機器(配管含む)は、一般的に 地震力による荷重を基礎ボルトで支持する構造の ため、外観点検に加えて、基礎ボルトの打診点検 を行った。これにより基礎ボルトの締結力の喪失 が検知可能であり、基礎部の健全性が確認できる。 点検対象は、工事計画書認可申請書本文に記載(以 下、「工認対象」という。)のポンプ、タンク、熱 交換器、主配管の支持構造物等とした。これに加えて、主配管の支持構造物のうち、メ カニカルスナッバおよびハンガについては、地震 により熱移動機能に影響の無いことを、インジケ ータ指示位置を地震前データと比較し、外観点検 結果も含めて評価することにより健全性を確認した。2状態監視による振動診断データの詳細評価 * 動的機器の回転機能等の喪失要因としては、軸 受、ローターなど機器内部の部材の損傷が想定さ れる。これら機器内部の損傷の検知には、設備診 断技術を用いた状態監視の活用が有効と考えられ ることから、状態監視保全の一環として振動デー タを採取している機器を対象として、これまでに 採取した振動データについて、従来から実施して いる簡易評価(速度成分による評価)に加え、簡 易評価には用いていない指標(加速度、変位)を 含めた詳細評価を行い、地震前後の評価結果を比 較することにより、経年劣化の傾向監視に加え、 地震の影響による設備の健全性を評価した。 (2)耐震評価結果からのアプローチ350・ 地震観測記録に基づき耐震評価(応答倍率法) を実施し、地震による発生応力に対して機器設計 時の許容応力の裕度(耐震裕度)が小さい機器を 抽出し、保温材を取り外した状態やシールドプラ グを開放した状態で直接目視点検を実施した。耐 震評価は、耐震 B クラスの工認対象設備および、 耐震Cクラス設備のうちその損傷により大規模な 溢水(機器冷却水系)、火災(潤滑油系)、可燃性 ガス漏れ(発電機水素ガス系)等を起こす可能性 のある設備に対し実施し、地震による発生応力に 対して機器設計時の許容応力の耐震裕度が小さい 機器(設計における耐震裕度 1.25 未満、今回の地 震により算定した耐震裕度 2.00未満) を追加点検 の対象機器として抽出した。なお、算定の結果、 耐震裕度が 1.0 を下回る機器はなかった。 4. 系統レベルの点検 1. 系統の運転確認を行いインターロック、警報の作動、弁の作動、系統流量等の状況を確認し、系統全 体の機能が正常に発揮されることを総合的に確認し た。また、「止める」「冷やす」「閉じこめる」機能 を有する設備で、系統レベルの点検で健全性が確認 できない原子炉圧力容器、原子炉格納容器および原 子炉建屋の機能確認ならびにインターロック等の総 合的な機能の確認が必要な系統については、「定期 事業者検査」の機能検査に準じた確認を行った。さらに5号機においては、タービン設備において プラントの安定運転に影響を与える損傷が確認され たことから、主タービン保安装置の機能確認および、 プラントの総合的な性能確認についても、定期事業 者検査に準じた確認を行うこととしている。 5. 地震観測記録による健全性確認 (1)評価対象および評価方法の概要耐震設計上重要な設備(耐震 As, A クラス(新 耐震指針上Sクラス)の設備)について、地震観 測記録と基準地震動 S1 による応答を比較し、地 震時に設備が弾性状態であったことを確認するこ とにより、設備の健全性を評価した。 (2)評価方法」図2に示す地震観測記録による設備健全性の評 価フローに従い、耐震設計上重要な建物・構築物 および機器・配管系について以下のとおり評価を 行った。 1耐震設計上重要な建物・構築物地震観測記録における最大加速度と基準地震動 S1による最大応答加速度との比較を行う。地震観 測記録における最大加速度が基準地震動S1によ る最大応答加速度を上回る場合は、地震観測記録 をもとに建物・構築物の発生値を算定し、弾性状 態にあることを確認した。 発生値が弾性状態の許容値を超える場合は、詳細な断面評価を行い弾性状態にあることを確認し* 詳細な断面評価を行った結果が弾性状態の許容 値を超える場合は、追加点検を実施することによ り健全性を確認した。 2耐震設計上重要な機器・配管系原子炉建屋の地震観測記録による床応答スペク トル(以下「観測記録のスペクトル」という。) と、基準地震動S1による床応答スペクトル(以下 「S1床応答スペクトル」という。)との比較を行 い、観測記録のスペクトルがS1床応答スペクトル 以下であることを確認した。一部の周期帯において観測記録のスペクトルが S1床応答スペクトルを上回る場合は、当該の周期 帯に固有周期を持つ機器・配管系の有無を確認し た。当該の周期帯に固有周期を持つ機器・配管系 が有る場合は、応答比(当該の固有周期における 観測記録のスペクトルとS1床応答スペクトルと の加速度比)を設計時の発生値に乗じることによ り発生値を算出し、弾性状態の許容値(「原子力 発電所耐震設計技術指針JEAG4601-補・1984、 JEAG4601-1987、JEAG4601-1991 追補版」に規定 される許容応力状態II Asにおける許容応力)以下 であることを確認した。上記の発生値が許容値を上回る場合は、設計時 の評価方法等を参考に詳細評価を行い、弾性状態 の許容値以下であることを確認した。許容値を超 える場合は追加点検を実施することにより健全性 を確認した。地質調設計上望な物・構築物投上重要な機器・配管系Yes地震による。 最大応答加速度よりも小さいかYes基準地震動による 床応答スペクトルよりも小さいかまたは機器・配管系の 、国有用から外れているか建物・構築物の先生の算定機器・配管系の発生値での算定きせんか??力,整天整因?弾性状態かNo1詳細評価Yes弾性状態か昇性状態か映教評価・認終了図2 地震観測記録による設備健全性の評価フロー 6. 評価結果 (1)機器レベルの点検の評価結果機器レベルの点検は、対象 121 系統の約 25,000 機器に対して実施した結果、タービン設備におい てプラントの安定運転に影響を与える損傷が確351認されるなど、耐震 B,C クラスの機器について、 一部に損傷が見られたものの、「止める」「冷やす」 「閉じこめる」機能を有する安全上重要な系統に 影響を与える異状は確認されなかった。なお、基本点検および地震発生直後の対応とし て実施した巡視点検などにより確認された異状 については、分解点検等の追加点検を実施した。 ただし、通常の保全において確認される経年劣化 事象等、地震の影響でないもの、あるいは直接機 能に影響を及ぼさない軽微な異状であって部品 の交換等で直ちに復旧可能な事象については、追加点検は不要と判断した。 (2)系統レベルの点検の評価結果系統レベルの点検は、プラント停止中のプラン ト起動準備段階前までに確認できる 69 系統につ いて点検を実施し、そのすべての系統について判 定基準を満足しており、異状のないことを確認した。・ また、「止める」「冷やす」「閉じこめる」機能 を有する安全上重要な系統について、プラント停 止中に確認できる6項目の機能確認を実施し、す べてについて判定基準を満足しており、異状のな いことを確認した。これにより、系統に要求される機能への地震に よる影響はなく、機能は正常に発揮されるものと 評価した。 (3)地震観測記録による健全性確認の評価結果地震観測記録による設備健全性評価の結果、地 震時に耐震設計上重要な設備が弾性状態にあり、 同評価に基づく追加点検の必要がないことを確認した。7.考察 (1)地震加速度の大きさと耐震クラスから見た被害 状況について今回の保全計画に基づく点検の結果等を踏まえ、 3~5 号機の地震動における損傷度合いの差異 (3,4 号機と5号機)は、以下の通りである。 ・耐震 C クラス機器については不適合が確認され たが、1/2S1 以下の地震加速度(3,4 号機)では 運転再開に支障となるようなものはなかった。 ・軽微な事象を含め、1/2S1 以下の地震加速度では 耐震 B クラス機器について不適合は確認されて いない。・耐震 As, A クラス機器には S1 以下の地震加速度(5号機)においても不適合は確認されていない。 (2)保全計画に基づく点検の最適化について今回の保全計画に基づく点検の結果等から、点 検の最適化については、以下の通りである。 ・3~5 号機の「機器レベルの点検」は、保全重要 度 A,B(運転再開に支障が無いものを除く)の全 機器を対象としたが、今回確認された不適合から 地震の加速度と耐震クラスに見合った点検対象 とする事が可能。 ・「系統レベルの点検」は、「機器レベルの点検」に おいて不適合の有無を確認し必要な補修をした 後の点検であり、今回の点検結果からこの段階で 不適合は確認されていないため、起動過程での系 統確認にて補完が可能。 ・1/2S1 以下の地震加速度での「定期事業者検査に 準じた機能確認」は、発生した不適合が耐震 C クラス機器の軽微なものだけであることから実 施の必要性はない。 ・S1以下であって 1/2S1 を超える地震加速度の「定 期事業者検査に準じた機能確認」は、発生した不 適合が耐震 B,C クラス機器であり、安全設備に 係わるものではないことから、総合性能確認以外 は実施の必要性はない。 ・地震観測装置の地震観測記録を用いたプラント健 全性の詳細評価については、1/2S1 以下の地震加 速度では耐震 Cクラス機器における軽微な事象 のみであり実施の必要性は低い。また S1 以下で あって 1/2S1 を超える地震加速度については耐 震 B クラス機器について不適合が確認されたこ と、および 450 ガル近傍の地震においては基準地 震動 S1 による応答を上回る可能性があることから、詳細評価の必要性は高い。 8. まとめ今回実施した保全内容は、現行の社内ルールでは、 同じクラス (120~450 ガル) として分類しているが、 今回の経験を踏まえると、各機器の設計加速度を超 えた機器に対して点検を実施すればよく、地震の加 速度と耐震クラスによる点検対象範囲の見直しを行 うことで、より効率的な点検が可能である。今後は 今回の保全結果を踏まえ、社内ルール等の見直しを 行っていく。352“ “?地震発生後の保全【駿河湾地震の対応】“ “古谷 佳貴,Yoshiki FURUTANI
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