水中レーザによるテンパービード溶接技術の開発

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カテゴリ: 第7回
1.緒言
Welding direction 東芝は、これまで原子炉内構造物の予防保全、補Shielding gasWelding wire 修工法として、工期短縮、作業者被ばく低減の効果 が大きい水中レーザ溶接技術の開発に取り組み、オ ーステナイ系材料のクラッド溶接や、き裂封止溶接03 技術を開発してきた[1]。ool 近年、加圧水型原子炉(PWR)の圧力容器管台Base metal の溶接部において、SCCの発生事例報告がある。Cladding layer この部位を代表とするSCC対処を目的とした予 防保全、補修溶接では、熱影響が低合金鋼に及び、Fig.1 Schematic illustration of under water 通常溶接後熱処理が必要である。しかしながら実機laser beam welding での溶接後熱処理は構造上困難であり、熱影響で脆 化した硬化層を焼き戻しながら溶接し、後熱処理と レーザ光を照射しながら溶加材を供給してクラッ 同様の効果を得るテンパービード溶接を適用する ド層を形成する溶接技術であるIII。 必要がある。Fig.2 に水中レーザ溶接の適用箇所の代表例であ 水中レーザ溶接法を原子炉圧力容器に適用するる、PWR冷却材出入口管台の異材溶接継手部の模 ため、新たに水中レーザによるテンパービード溶接 式図を示す。本部位では、600 合金溶接部の耐 SCC 工法を開発した。本報告では、PWRの原子炉冷却性改善を目的に、高Cr濃度を有する 690 合金をク 材出入口管台を対象とした、水中レーザによるテン ラッド溶接する。クラッド溶接部が低合金鋼に近接 パービード溶接部の材料評価の結果を報告する。 する場合には、テンパービード溶接が必要となる。水中レーザ溶接によるテンパービード溶接は、施 2. 水中レーザ溶接方法の概要と適用箇所工環境が水中であるために溶接時の冷却速度が速 水中レーザ溶接法の原理を図1に示す。施工部に く、気中環境に比べてテンパービード溶接が難しい 設置した溶接ヘッドからシールドガスを噴射し、施と考えられてきた。 工対象面に局所的な空洞を形成する。その空洞中で そこで、水中レーザによるテンパービード溶接の適正条件の確認と、溶接部の断面観察、硬さ、衝撃 試験をはじめとした材料評価試験を行い、水中レーザによるテンパービード溶接部の健全性を評価した。
Laser cladding layer(Alloy690)Stainless steel claddingSafe end (Stainless steel)Nozzle (Low alloy steel)Alloy600 weld metalAlloy600 weld butterFig.2 Schematic illustration of cladding layer on dissimilar weld between reactor vessel and safe end3.試験方法供試材はPWRの冷却材出入口管台を想定し、母 材は低合金鋼(SA-533 TypeB Cl.1、SQV2A 相当)、 溶加材は ErNiCrFe-7A(690 合金)を用いた。テンパービード溶接は、初層溶接で焼入れ硬化し た溶接熱影響部が、後続溶接でピーク温度600°C ~Ac1 温度の熱サイクルによる焼戻しを受けて、 硬化部の靭性が改善 [2] する工法である。効率的に テンパービード溶接を行うためには、初層および2 層目で生じる硬化層が小さく、次層以降の焼戻し層 が広くなる条件が望ましいため、初層~2層目は小 入熱条件、3~6層目は大入熱条件を選定した。このような溶接条件で、先ず低合金鋼から成る平 板に対して溶接施工を行い、テンパービード溶接部 の健全性評価を目的として、断面マクロ・ミクロ組 織、硬さ測定、シャルピー衝撃試験、さらに溶接部 の強度試験として側曲げ試験と引張試験を実施した。その後、実機のPWR冷却材出入口管台への適用 性確認を目的に、実機施工部を模擬した深さ 4mm の溝加工を有する 700mm のパイプ内面にテンパ ービード溶接を行い、溶接部の外観と断面マクロ・ ミクロ組織、および硬さ評価を行った。さらに、同 部位での補修溶接に対する適用性確認を目的に、深 さ 40mm の溝加工部に対してテンパービード溶接 を行い、断面マクロ・ミクロ組織観察、硬さ評価、 および衝撃試験を行った。4.試験結果 4.1 平板による溶接部の健全性評価 Fig.3 に平板に対して溶接施工したテンパービード 溶接部の断面組織を示す。断面マクロ観察では、割れ、 ブローホール等の溶接欠陥がないことが確認できた。 また、ミクロ組織観察から、溶融境界付近の熱影響部 は微細な金属組織となっていることが確認できた。Weld metalFusion lineBase metalmmFusion linetemperletaltFusion lineBase metalコローFig.3 Cross-sectional observation of temper bead weldFig.4 には、初層と6層積層後の溶接部およびそ の近傍の硬さを示す。低合金鋼の硬さに変化が認め られた熱影響部の範囲は溶融境界から約 1mm であ った。初層溶接後、溶融境界から 0.25mm の熱影響 部硬さは470HV であり、焼入れによる著しい硬化が 認められたが、低温割れ等の欠陥は認められなかっ た。一方、6層のテンパービード溶接後は、溶融境 界から 0.25mm の熱影響部の硬さは 300HV 以下に低 下しており、初層の溶接による硬化部が、後続の溶 接の焼き戻しの熱影響により軟化していることが 確認できた。o 1st layered 一日6th layeredHAZWeld metalBase metalVickes's hardness (HV1)Goalg- Yage81g-2-1.0 0. 0 1 .0 2 .0 Distance from fusion boundary (mm)3Fig.4 Vicker's hardness profiles (1st and 6th layered)hardness profiles (1st and 6th374Tablel には、熱影響部および母材のシャルピー 衝撃試験(試験温度-23°C、繰り返し数 3)での吸 収エネルギーの値を示す。水中テンパービード溶接 後の熱影響部の吸収エネルギーは、母材の吸収エネ ルギーを上回り、溶接部が母材と同等以上の靭性を 有していることが確認できた。水中テンパービード 溶接後の熱影響部の硬さは母材よりもやや高い値 を示すが、Fig.3 に示したように金属組織が微細化 されているため、母材よりの靭性が向上したと考え られる。Table1 Absorbed energy of heat affected zone after temper bead welding and base metalHeat affected zone (After temperBase metal bead welding) 213J1465209J1585162J144JTest temperature: -23°CFig.5 には溶接部の曲げ試験後の外観を示す。溶 接金属、熱影響部ともに欠陥の発生はなく、熱影響 部は十分な延性を有することが確認できた。 * Fig.6 には溶接部の引張試験後の外観を示す。破 断位置は低合金鋼母材であり、溶接部は母材を上回 る引張強度を有することが確認できた。以上に示したように、水中テンパービード溶接部 は、硬さ、衝撃特性、延性、引張強度といった材料 評価試験の結果、テンパービード溶接としての機能 を満足し、健全な溶接が可能であることが確認できBase metal-Weld metalFig.5 Appearance of test coupon after side bending testTensile strength : 614MPa Breaking position : Base metalFig:6 Appearance of test coupon after tensile test4.2 実機施工部を模擬したパイプ内面の溝に対するテンパービード溶接部の評価 Fig.7 に示すようなPWR冷却材出入口管台へ適 用するため、パイプ内面に水中レーザ溶接可能な装 置の開発と水中テンパービード溶接性の評価を行 った。Fig.8 はパイプ内面を溶接可能な溶接装置の 外観であり、溶接ヘッドから配管内面にレーザ光を 出射しながら回転することで、パイプ内面を溶接す ることができる。 - 水中テンパービード溶接試験は施工部形状を模 擬して、深さ 4mm の溝加工部を有する内径の700mm のパイプ内面に対して実施した。Fig.9 にパイプ内 面施工部の外観観察結果を示す。溶接部表面には有 害な欠陥は認められず、良好な溶接状態であった。 浸透探傷試験でも指示模様は認められなかった。 Fig.10 に溶接部の断面マクロ観察結果を示す。溶接 金属及び熱影響部ともに有害な欠陥は認められず、 曲率を有するパイプ内面への施工でも、健全な溶接 が可能であることが確認できた。Welding HeadUnder water Laser Welding EquipmentTINALACCAm.jpしますFig. 7 Under water laser welding for PWR RCS primary nozzleFig.8 Appearance of under water laser welding equipment375Fig. 9 Appearance of weld bead on inner surface of $ 700 diameter test pipe| Weld metal(Alloy 690)Inner surfaceBase metal (low alloy steel)13040150001010 2013年115016年11:30Fig. 10 Cross-sectional observation of temper bead weld on inner surface groove of 0700 diameter test pipe (groove depth : 4mm)- Fig.11 には溝加工部の船底部 (Fig.10A部)の断面 ミクロ観察結果を示す。熱影響部は平板を用いた試 験と同様に微細な金属組織を呈しており、テンパー ビード溶接による多重熱サイクルを受けて、組織変 化を起こしたと考えられる。Weld metal a504mBase metalFig.11 Microstructure of A area in Figurell* Fig.12 には、溝加工部の舟底部近傍の溶接部の硬 さ分布を示す。低合金鋼の熱影響部の硬さは、平板 施工時と同様、最大で 300HV 以下であった。曲率を 有するパイプ内面施工を行っても、平板に対する施 工と同様に、初層溶接時の硬化層が焼き戻しの熱影 響を受けて、硬さが低下したと考えられる。Weld metal(Alloy 690)Inner surface:\Fusion lineBase metal (Low alloy steel).. Hardness measured lineWeld metalHAZBase metalVickes's hardness (HV1)gooool-2.0 -1.0 0.01. 02.03.0 Distance from fusion boundary (mm) Fig.12 Vicker's hardness profiles of temperbead weld on inner surface groove of 0 700 diameter test pipe以上の結果より、曲率を有するPWR冷却材出入 口管台の溶接施工部形状を模擬した深さ 4mm の溝加 工を有する。700mm のパイプ内面に対して水中テン パービード溶接を行い、溶接部が健全な断面組織と 硬さを有することが確認できた。4.3 補修溶接を模擬したテンパービード溶接部の評価」 補修溶接を模擬した試験体は、実機継手構造にな らい、低合金鋼(圧力容器側)とステンレス鋼(セ 一フェンド側)を、600 合金で溶接した後、溶接継 手部に深さ 40mm の溝加工したもの用いた。溝加工 部のうち低合金鋼に近接する部分のみテンパービ ード溶接を行い、他の部分は施工効率の高い条件で 容接施工した。Fig.13 には、溶接部の断面マクロ組織を示す。溶 接金属及び熱影響部ともに有害な欠陥は認められ ず、深さ 40mm の溝加工部に対しても、健全な溶接 が可能であることが確認できた。Fig.14 には、低合金鋼と溶接金属の溶融境界近傍 部(Fig.13 B 部)のミクロ観察結果を示す。熱影響 部は平板を用いた試験と同様に微細な金属組織を 呈しており、テンパービード溶接による多重熱サイ クルを受けて、組織変化を起こしたと考えられる。576Stainless steel CladdingLaser cladding layerStainless steelLow alloyAlloySteel1. Temper bead welded area Fig.13 Cross-sectional observation of 40mm Hepth groove simulated repair welding for RCS primary nozzle・ Weld metalBase metal50 umMicrostructure of B areaFig.14 Microstructure of B area in Figure12Fig.15 には、低合金鋼と溶接金属の溶融境界近傍 の硬さ分布を示す。低合金鋼の熱影響部の硬さは、 最大で 330HV であり、深さ 40mm の溝加工部の傾斜 面に対する施工でも、平板に対する施工と同様に、 初層溶接時の硬化層が焼き戻しの熱影響を受けて、 硬さが低下したと考えられる。衝撃試験は、Fig.16に示した位置、方向で採取し たシャルピー試験片で行った。Table2 に結果を示 す。平板に対する試験と同様、低合金鋼の吸収エネ ルギーは母材の吸収エネルギーを上回り、溶接部が 母材と同等以上の靭性を有していることが確認できた。以上の結果より、補修溶接を模擬した深さ 40mm の溝加工部に対して水中テンパービード溶接を行 い、溶接部が健全な断面組織、硬さ、衝撃特性を有 することが確認できた。Jeld metal(Alloy690)Stainless steel claddingStainless steelLow alloy steelAlloy | 600... Hardness measured lineWeld metalHAZBase metalchageBokod150 1 -2.0-1.0 0. 0 1.02 .0 Distance from fusion boundary (mm)ig.15 Vicker's hardness profiles of 40mm depth roove simulated repair welding for RCS rimary nozzleStainless steel Weld metal (Alloy690) claddingStainless steelAlloy V Low alloy steel 600Charpy impact test specimenig.16 Charpy impact test location from temper ead welded test pieceTable2 Absorbed energy of heat affected zone after temper bead welding and base metalHeat affected zone (After temperBase metal bead welding) 219J1904/01/04164J15851665144JTest temperature: -23°C- まとめ 水中テンパ 条件、3~ , まとめ 水中テンパービード溶接を、初層~2層目を低入 条件、3~6層目を大入熱条件として、低合金鋼 ら成る平板に対して溶接施工を行った。断面観察、 さ測定、衝撃特性の評価から、母材と同等以上の 性を有する健全なテンパービード溶接部が得ら ることを確認した。また、曲げ試験・引張試験の 価により、テンパービード溶接部は十分な延性と 張強度を有することを確認した。 また、同等の溶接条件で、PWR冷却材出入口管台 溶接施工部形状を模擬した深さ 4mm の溝加工部を する。700mm のパイプ内面に対して、テンパービー 溶接を行った結果、平板に対する施工と同様、溶接 は健全な断面組織と硬さを有しており、実機を模擬 た曲率を有するパイプ内面の溝に対しても、テンパ ビード溶接が可能であることが確認できた。 さらに、補修溶接を模擬した深さ 40mm の溝加工部 対してテンパービード溶接を行った場合でも、平板 対する施工と同様、溶接部は健全な断面組織と硬さ、 撃特性を有しており、実機の補修溶接部を模擬した 加工部でもテンパービード溶接が可能であること 確認できた。考文献 | M. TAMURA, et al., “Development of nderwater Laser Cladding and Underwater ser Seal Welding Techniques for Reactor mponents”, ICONE13 -50141, Beijing, China, ay, 2005. 水野,松田,「原子力圧力容器鋼(SQV2A) テンパービード溶接法に関する研究」,溶接学会 台金研究委員会, (2005)78“ “水中レーザによるテンパービード溶接技術の開発“ “福田 健,Takeshi FUKUDA,頓宮 雄一,Masataka TAMURA,依田 正樹,Yuichi TONGU,森島 康雄,Wataru KONO,田村 雅貴,Masaki YODA,河野 渉,Minoru OBATA,小畑 稔,Yasuo MORISHIMA
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