欠陥を有する配管へのIHSIの有効性確認

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カテゴリ: 第7回
1.はじめに
沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉再循環系配管等 の応力腐食割れ(以下 SCC と称す)の予防保全技術 の一つである高周波誘導加熱応力改善法(Induction Heating Stress Improvement 以下 IHSI と称す)は、 過去に確性試験等において溶接残留応力を改善する 効果が確認され,多くのプラントに適用されている。 この予防保全工法としての IHSI は,欠陥が存在しな い状態で適用することとしており,事前検査にて欠陥 が確認された場合には,現状,継続使用・補修・取替 の選択肢の中から状況に応じた IHSI 以外の手法が適 用されている。欠陥が存在する状態で IHSI を施工す ることで欠陥の進展を抑制させる効果が確認される 場合には,補修工法としての選択肢が増え,作業環境 等に配慮した補修工法のひとつとして適用できるこ とから, プラントの保全,補修計画を合理的に検討で きる。 - 以上の背景より、欠陥を有する配管への IHSI(以 下対策 IHSI と称す)の有効性を確認した。
2. IHSI の概要
IHSI は配管外面側に高周波加熱コイルを設置して 加熱を行い,内面は水冷することで板厚方向に温度分 布を形成し,その発生する熱応力で配管内面の残留応 力を改善する工法である。IHSI は Fig.1 に示す様に,板厚内の温度分布がほ ぼ直線的になるように施工条件:エッセンシャルバリ アブルスを設定し加熱・冷却を行う。IHSI の加熱中 の配管内面側は引張応力となり,加熱終了後の冷却過 程で配管内面側では圧縮応力場が形成される。さらに
欠陥を有する場合は,IHSI 加熱中の配管内面側の引 張応力により,欠陥先端部も引張荷重を受け,延性破 壊には至らない程度の塑性変形を与えられて欠陥先 端部は鈍化するとともに, 加熱終了後には欠陥先端部 に圧縮応力場が形成される。これらの効果により,欠 陥の進展が抑制されるものである。3.予防保全 IHSI と対策 IHSI の差異 - 従来より施工されている予防保全工法としての IHSI と本試験にて検討した対策工法としての IHSI の 差異を以下に示す。 (1) 予防保全工法としての IHSI予防保全工法としての IHSI は,SCC 発生要因の1 一つである管内面の引張応力を改善させ,SCC 発生を防止することを目的としている。従って,欠陥が存在し ないことを前提としており, 施工前のUT検査で欠陥 の存在が確認された場合には施工を実施していない。 尚, 過去の検証で欠陥を付与した確認が行われている が,それらはUT検出限界以下の微小な欠陥が存在し た場合を想定して実施しているものである。(2)対策工法としての THSI 本試験において検証を行う対策工法としての IHSI は,施工前のUT検査において,明確にき裂の存在が 確認された継手に対して施工することを想定してお り,確認されたき裂の進展性を抑制させるとともに, 予防保全工法としての効果も期待するものである。4.試験での確認項目試験では対策工法としての IHSI 効果の確認として 以下の観点に着目して検討した。 (1)対策 IHSI 特有の確認項目 1き裂及び継手に対して悪影響を及ぼさないこと。 2き裂先端部での応力が改善され,き裂の進展性が抑制されること。 (2) 予防保全 IHSI としての確認項目 3き裂の近傍における IHSI による残留応力改善効果を確認する。 4き裂の存在しない健全部においては予防保全工 法 THSI と同等の効果があること。5. 試験結果 5.1 対策 IHSI としての確認項目 1き裂及び継手に対して悪影響を及ぼさないこ との確認 - き裂を有する配管に IHSI を施行することで,き裂 が THSI 加熱中に有意に進展しないこと,材料の機械 的性質に悪影響が生じてないことを試験により確認 した。試験条件及び試験結果を以下に示す。試驗条件 ・試験体:口径 600A,厚さ 38.9mm,材質 SUS316(LC) ・付与き裂の形態:EDM 初期ノッチ+疲労き裂(深さ:3/8t, 長さ:内面 90°) ・IHSI 条件:最高加熱温度 650°Cを超える加熱を3回 実施(1) 断面観察結果 IHSI 施工後の付与き裂先端分の断面ミクロ観察結クロ観察結- 380,果を Fig. 2 に示す。これらに示す様に、付与き裂先端部が IHSI 施工過 程において延性破壊に至ったと考えられる形跡は確 認されなかった。No ductile fractureFig.2 Cross-sectional observation of the crack tip(2) 断面硬さ計測結果THSI 施工後の同付与き裂先端部の硬さ計測結果を Fig.3 に示す。これらに示す様に,き裂先端周辺で 270~296HV 程 度の硬さの領域が確認されたが,異常な硬さ上昇があ ることは確認されなかった。Fig.3 Hardness measurements of the crack tip以上よりき裂深さ:3/8t, 長さ:内面 90°範囲程 度のき裂を有する配管に THSI を施工しても,き裂及 び継手に悪影響を及ぼさないことが確認された。2き裂先端部での応力が改善され,き裂の進展性 が抑制されることの確認 _MgC1, 浸漬により SCC を模擬した深いき裂を強制的 に付与した試験体に IHSI を施行し,再度 MgCl, 浸漬 を行い,き裂が有意に進展しないことを試験により確 認した。試驗条件 ・試験体:口径 300A,厚さ 19.75mm,材質 SUS316LTP ・付与き裂の形態:MgCl2 き裂(深さ:3/8t, 長さ:内面 90°) ・IHSI 条件:施工パラメータ ATreq の約 1.5 倍の温 度差での IHSI を1回実施材質 SUS316LTPき裂導入 120 時間,IHSI 後再浸漬・MgCl2 浸漬時間:き裂導入 120 時間,IHSI 後再浸漬 120 時間(1) IHSI 後 MgCl, 浸漬前後のUTサイジング結果IHSI 施工後の MgCl,再浸漬後のき裂深さの変化有無 をフェーズドアレイ UT により確認し, IHSI によりき 裂の進展が抑制されることを確認した。Fig. 4 に THSI 施工後, Fig.5 に再 MgCl2 浸漬後のき裂深さ分布を示 す。これらに示す様に IHSI 施工後にき裂導入時と同様 の環境での MgCl, 浸漬を約 120 時間実施したが,再浸 漬前の平均深さが 5.25mm に対し,再浸漬後の平均深 さは 5.22mm であり,顕著なき裂深さの変化は認めら れなかった。Average:5.25mmUT測定結果[mm]フランス000 07+ .09+ 0+ 0 06+ 0 001+ Os+,0|0|S01+0.0+25 0°+125 0°+135 0°+145 180°+50 180°+75 180°+95 180°+115 180°+135 180°+145 180°+180 180° +190 180°+200 180““ +230 180° +240 180Fig.4 Ultrasonic Test result before MgCl2メインの| Average:5.22mmUT測定結果[mm]コミがたいで、13(2010| OL+ 00+0S+0 09420 06+20 001+20 2014 00°+125 0““ +1350180°+25 180°+50 180°+75 180+95 180°+115 180°+135 180°+145 180°+180 180°+190 180°+200 180°+230 180°+240Fig.5 Ultrasonic Test result after MgCl2(2) 断面観察結果(再 MgCl 浸漬後)THSI 施工後の再 MgCl, 浸漬後の断面観察結果を Fig.6 に示す。これらに示す様に,主き裂は全般的に太く, IHSI 施工により,き裂先端部が拡幅され鈍化していること が確認された。また,主き裂以外に比較的浅いき裂(副 次き裂と称す)についても確認され,これらは総じて, 主き裂ほどの明瞭な先端部の拡幅はなく,き裂幅は狭 いことが確認された。以上より,主き裂は先端の応力が低減され,き裂の 進展性が抑制されることを確認したが,浅いき裂は IHSI 施工の効果が明確には確認できなかった。本試 験では深い主き裂を導入するため, As Welded 状態か ら応力分布を強制的に変化させたため, 実機 SCC 事例 に比べ広範囲で複数のき裂が付与されたものと考え られる。StretchedNon stretchedMein DsubCrackCrackFig.6 Cross-sectional observationそのため、深い主き裂に隠れる浅いき裂の先端での拡 幅が明確に確認出来ないものが多く, THSI による応 力低減効果が明確には確認されなかったものと考え られる。 - 尚, 本試験結果は実機環境より厳しい条件で得られ たものであるが,保守的にこれらの浅いき裂は THSI 施工後に発生した可能性は否定できないと解釈する こととした。5.2 予防保全 THSI としての確認項目 3き裂の近傍における THSI による残留応力改善 効果の確認 * 管内表面の主き裂近傍の IHSI 効果確認のため, EDM き裂を有する試験体に IHSI 施工したもの,IHSI 施工 してないもの(As Weld) を MgCl, 浸漬し,新たなき裂の 発生有無を確認した。●試験条件 ・試験体:口径 300A, 厚さ 19.75mm, 材質 SUSF316(LC) ・付与き裂の形態:EDM き裂(深さ:3/8t, 長さ:内面 90°) ・IHSI 条件:施工パラメータ ATreq の約 1.5 倍の温度差での THSI を1回実施 ・MgCl, 浸漬時間:IHSI 後浸漬 120 時間(1) 内面 PT 観察結果IHSI 施工なしで MgCl,浸漬したもの及び IHSI 施工 後に MgCl, 浸漬したものの配管内表面の PT 観察結果 を Fig.7 に示す。これらに示す様に IHSI 施工をしていない場合, EDM き裂の有無に関わらず, 溶接部近傍のほぼ全周に新た なひびが確認された。一方,IHSI 施工していたものは EDM き裂近傍のみ に新たなひびが発生していることが確認された。この ことから, THSI 施工によりき裂部以外は溶接残留応 力が改善され予防保全 IHSI と同様の効果が得られて いると考えられる。5倍の温381As weldedEDM NotchLEDM NotchCrched all around~2509527.9.1 IHSI2.11111EDM NotchEDM NotchCracked on near the EDMFig.7 Penetrant test results inside surface after MgCl2(2) 断面観察結果IHSI 施工なしで MgCl, 浸漬したもの及び IHSI 施工 後に MgCl, 浸漬したものの EDM き裂先端部の断面観察 結果を Fig.8に示す。これらに示す様に IHSI 施工なしの場合,先端部か ら微細なき裂が発生しているのが確認できるが,IHSI 施工したものは同様のき裂は確認されなかった。この ことから,き裂先端部においても IHSI 施工による応 力改善効果があるものと考えられる。100μmIHSIAs Welded Fig.8 Cross-sectional observation of the crack tipafter MgCl2以上より,き裂近傍での IHSI 効果は,き裂がない 部分に比べ低下する傾向を示した。但し,新たなき裂 の発生の可能性は IHSI 未施工状態よりは大きく改善 されることが分かった。4き裂の存在しない健全部において予防保全 THSI と同等の効果があることの確認 - 管内表面のき裂部以外の IHSI 効果確認のため, EDM き裂を有する試験体に THSI 施工後 MgCl 浸漬し,き裂 部以外の新たなき裂の発生有無を確認した。會試驗条件 ・試験体:口径 300A, 厚さ 19.75mm, 材質 SUSF316(LC) ・付与き裂の形態:EDM き裂(深さ :3/8t, 長さ:内面 90°)材質 SUSF316(LC)1.5 倍の温・IHSI 条件:施工パラメータ ATreq の約 1.5 倍の温度差での IHSI を1回実施 ・MgCl 浸漬時間:IHSI 後浸漬 120 時間(1) 内面 PT 観察 |IHSI 施工後に MgCl浸漬したものの配管内表面の PT 観察結果を Fig.9 に示す。これらに示す様に,き裂がない部分では新たなき裂 の発生は確認されなかったが,き裂部については新た なき裂が発生していることが確認された。このことか ら,き裂がない箇所は予防保全 IHSI と同等の効果が」 得られるものと考えられる。Non crack area002m12322OOMAround EDM notch912 1190001-3RFig.9 Penetrant test results inside surface after MgCl2(3) 残留応力測定結果同一継手上の EDM き裂あり部となし部の内面軸方 向溶接残留応力分布図を Fig. 10 に示す。800600Non Crack areaStress[MPal-400-8001251 -125 -100 -75 -50 -250_ 25 50 75 100Distance from Weld center [mm] 800600Around EDM Notch1-Crack4001900/07/18Stress[MPal-600-800 -125 -100 -75 -50 -250_ 25 50 75 100 125Distance from Weld center [mm] Fig. 10 Residual Stress distribution for inside surface382これらに示す様にき裂あり部はき裂近傍で十分に は圧縮側へ改善されてないが,き裂なし部は溶接部近 傍においても約-100MPaの圧縮応力へ十分改善されて おり,予防保全効果があることを確認した。 * 以上より,同一継手上のき裂がない健全部は予防保 全工法 IHSI と同等の効果があることを確認した。 6. 試験結果まとめ - 試験により以下の結論を得た。 1き裂を有する継手への IHSI 施工がき裂及び継手に 対し悪影響を及ぼさないことを確認した。 2き裂先端部での応力が改善され,き裂の進展性が抑 制されることを確認した。副次き裂の発生は実機環境 より厳しい条件で実施したため発生したと考えられ るが,実機運用に当たっては、保守的に新たなき裂発 生の可能性を考慮する。 3き裂の近傍における IHSI による残留応力改善効果 は,き裂がない部分に比べ低い傾向を示した。但し, 新たなき裂の発生の可能性は IHSI 未施工状態よりは 大きく改善されることが分かった。@き裂の存在しない健全部においては予防保全工法 IHSI と同等の効果があることを確認した。 7.結論 確認試験結果より以下の結論を得た。・深さ 3/8t 程度のき裂を有する配管へ ・深さ 3/8t 程度のき裂を有する配管への THSI 施工は 技術的には問題無く,その有効性(深いき裂の進展性 を抑制すること)が確認された。・試験は実機より厳しい環境条件のため,IHSI 施工 後の副次き裂が確認されたと考えられるが,実機では 同様の事象は発生しないと考えられる。また,仮に発 生したとしても主き裂を検査することで,これらの発 生有無は十分確認可能と考える。 * 尚,これらの検討内容については,第三者有識者の 意見を求めるため,財団法人発電設備技術検査協会殿 へ依頼し「き裂を有する継手への THSI 適用に関する 確性試験委員会」にて審議いただき,技術的に問題な いことを確認した。 また,実機適用についても(独)原子力安全基盤機 構(JNES)内に設けられている「新保全技術適合性検 討作業会」にて技術的に問題ないことを確認いただいた。今後,実機へ適用されることを期待する。 実機へ適用されることを期待する。謝辞 1. 本技術確立のため、確性試験にてご指導いただいた 東京大学野本名誉教授をはじめ,確性委員会委員の 先生,(財)発電設備技術検査協会殿,また,実機適 用検討にあたり,ご助言,ご指導をいただいた関係各 位へ厚く御礼申し上げます。 参考文献 (1) 19 確 S1 号 : 欠陥を有する配管系に対する高周波 誘導加熱の有効性の確性試験報告書 (2) 16 確 S3 号 : オーステナイト系ステンレス鋼管等 の高周波加熱による応力緩和方法確性試験報告書 (3) 「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1-2008) 日本機械学会」 (4) 日本機械学会発電用原子力設備規格維持規格 (JSME S NA1-2002) 【事例規格】周方向欠陥に対する 許容欠陥角度制限の代替規定 (NA-CC-002) (5) JANTI-VIP-02-第1版 予防保全工法ガイドライ ン 外面からの入熱による応力改善方法ート系ステンレス鋼管等 方法確性試驗報告書 各 維持規格(JSME S子力設備規格維持規格 各】周方向欠陥に対する (NA-CC-002) 予防保全工法ガイドライ 力改善方法(平成 22 年5月31日)- 383 -
“ “?欠陥を有する配管へのIHSIの有効性確認“ “笹山 隆生,Takao SASAYAMA,本郷 智,Satoshi HONGO
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