マニピュレータ型ロボットを適用したプラント保全技術
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
原子力発電所では定期的に各種保全工事を行なっ ている。保全工事は主として検査と補修であり,専用 工具(例えばカメラや溶接装置)を対象箇所ヘアクセ スさせ,その目的作業を実施する。 - 対象箇所の中には,狭い・水中・放射線量が高いと いった物理的環境条件から,人による作業が困難又は 不可能な場所も多く,人に代わってロボットに作業を 行なわせる技術を開発し,実工事で使用している。し かし,保全作業の種類・対象は多種多様で,さらに今 後も増えると考えられる。作業毎にロボットを設計開 発すると,製作期間、費用面で非効率であり,信頼性 低下の原因となるため, 共通のロボットで種々の作業 を行ないたい。その解決策として,人の腕のように自 由度が高く,可動範囲が広い多関節マニピュレータ型 ロボット(以降マニピュレータと略称する)を専用工 具のアクセス手段として応用することが考えられる。 * 本稿では原子力発電所の保全工事に適用する装置 に求められる仕様, 弊社で開発したマニピュレータの 特長, マニピュレータ型ロボットを応用した保全工事 の適用事例及びマニピュレータの適用の有効性につ いて紹介する。
2. マニピュレータ 11|2|1318 2.1 特長マニピュレータとは、モータ,減速器,角度検出セ ンサで構成される回転リンクを積み上げて配置した 構造で,人の腕のような動きが可能なロボットである。 マニピュレータの例として弊社 PA10 の鳥瞰図を図1 に示す。Mechanical Interlar? icordinate SistreMand FctatianlayFace!Arne11/01 121RotajonsStude!thant fgatternal Stylee図1 多関節マニピュレータ PA10マニピュレータ(PA10)は,以下のような特徴を有 ている。 1 比較的小型で,他機構の装置より広い可動範囲と高い自由度が得られる。 2 自重に対する可搬質量の比率が大きい。ピュレ3 制御ソフトの変更で動作を自由に変更できる。4 冗長自由度を有する7軸構成であるため, 障害物回避に有効である。 これらのメリットを生かし, 各方面でマニピュレー タが活躍している。[9] 2.2 プラント保全へのマニピュレータ適用検討保全工事に用いられる工具は、 大きさや形が様々で, その使い方(動かし方)も異なる。可動範囲が広く, 自由度が高いマニピュレータは, 高い汎用性を有する ため、複雑な動作要求に対応可能であり,保全工事に 用いるロボットの共通化を考えた場合, 非常に有効で ある。また,同一箇所へ多種の作業を行なう場合,先端工 具と制御ソフトを変えるだけで, 全ての作業を同一ロ ボットで行なえる利点もある。このため,工具の開発 を行えば,新知見を早期に保全工事に適用することが 可能になる。2.3 プラント保全へのマニピュレータ適用検討原子力発電所の各種保全工事ヘロボットを適用す るためには、使用環境や作業の特徴を考慮し,以下の 要求を満たす必要がある。 ・ 人手の作業と同等または, それ以上の精度を有すること。 ・ 耐放射線性を有すること。防滴 (除染時に水洗いができること), 防水 (水 中の場合)であること。 狭隘部への搬入出を考慮し, 小型軽量であること。 ・ マニピュレータと制御装置の接続を一時的に外しても,原点復帰等のイニシャライズ作業無く、瞬時に起動すること。 これら要求仕様を元に, 原子力発電所での保全工事に 適用できるマニピュレータを設計・開発した。表1に 主な仕様を示す。表1 マニピュレータ型ロボット ベース仕様 | 軸数、17軸 アクチュエータAC サーボモータ 繰返し位置決め精度1 ±0.1 [mm] 角度センサレゾルバ(絶対角度) 耐放射線性集積線量 10 [Gy] 耐環境性防滴 IP54(防水IP67 も可)3.保全工事への適用事例マニピュレータを保全工事へ応用した事例を以下 に紹介する。3.1 原子炉容器の非破壊検査] -PWR型原子力発電所の原子炉容器(以下 RV) 溶接た事例を以下RV) 溶接*1- 401 -部の健全性をUT による非破壊検査で確認する検査工 事へマニピュレータを適用した。RV は検査時に水没 した状態であるため,ロボットは完全防水構造とし, スラスタ(プロペラ)推力で RV 内を自由に移動でき る水中自航型台車にマニピュレータを搭載した構造 とした。検査対象箇所の溶接線近傍まで台車で移動後, マニピュレータで検査用先端工具を動かし,検査を行 う(図2)。先端工具は,RV の検査対象箇所毎に複数 種類必要であるが, 全ての先端工具をマニピュレータ に装着可能で,順次交換することで RV 溶接線全ての 検査を1台のロボットで可能とした。複数の大掛かり な装置を使っていた従来に比べて, 大幅な検査期間の 短縮をこのロボットで実現した。水中自航型台車 |7軸マニピュレータ23RV 本体及びノズル内 面溶接線をマニピュ レータ先端に搭載し た検査工具で探傷。RV図2 原子炉容器非破壊検査装置3.2 再処理工場内自動分析マニピュレータ 6]再処理工場内の分析ボックス内で,ビーカや試験管 を用いて試験体の分析を行なう作業は,試験体が少量 の場合,繊細で正確な作業が要求され,また,化学反 応の待ち時間が多い理由から, ロボットによる自動化 が要望されている。ロボットに要求される仕様は,分 析ボックス内に入る大きさで、故障に対するメンテナ ンス性が考慮されていることであり,分割モジュール 設計を取り入れ,故障モジュールのみ交換可能なマニ ピュレータを開発した(図 3)。マニピュレータの制 御やメカ部の設計思想は先行ロボットを踏襲しつつ, 耐食性を考慮したオールステンレス仕様とし, MSM*1 による手動操作でモジュール分割及び復旧が 可能なよう設計した。このマニピュレータにより,再 処理工場での 24 時間連続分析作業が可能となった。MSM (Master Slave Manipulator) 再処理工場の設備クジュール化図3 分析用マニピュレータ3.3 原子力防災支援ロボット14115)1999 年に発生した JCO 事故を教訓に,放射線環境 下で事故収束作業支援を行なう作業用ロボットを開 発した(図 4, 図 5)。このロボットは、階段や不整地 を走行できる台車に作業用マニピュレータ(先端にツ ールチェンジャを搭載し, 各種工具をワンタッチで取 り付け可能)とカメラマニピュレータを搭載し,遠隔 操作でドア/弁の開閉,配管開孔,現場の状況把握が 可能なロボットである。本ロボットは保全工事とは直 接関係が無いが,この時に開発したマニピュレータ技 術がベースとなり,保全工事の高度化に大きく貢献し ている。カメラマニピュレータ作業用マニピュレータ図4 原子力防災支援ロボットと操作卓図5 マニピュレータ操作によるドア開け通過3.4 蒸気発生器出入口ノズル保全工事PWR型原子力発電所の蒸気発生器(以下 SG)の水 室 1 次系出入口ノズル溶接部の健全性検査及び応力緩和と, 各種補修を行なう工事にマニピュレータを適 用した(図 6)。 SG 水室内は放射線量が極めて高く, 人の作業は数分が限度であり,仮に人の作業を想定し た場合は,人海戦術にならざるを得ない。 保全工事が 必要な SG の台数を考えると,作業者の被ばくは膨大 な量となり,現実問題としてロボット化無しでは保全 工事が成り立たない状況にある。この工事へ適用した ロボットは,SG 水室内にマニピュレータのベースと なる旋回支柱とスライドテーブルを設置し,そこヘマ ニピュレータ(先端にはツールチェンジャを搭載)を 取り付ける構造で, 保全対象箇所の出入口ノズル部に 各種先端工具をアクセスさせることが可能である。ま た, マニピュレータ先端をマンホール(直径 400mm) から水室外に出すことで,作業者が水室に入らなくて も先端工具を容易に交換でき, 作業者の被ばく低減に 寄与している。この蒸気出コノズル分分上部幅し気水分離器給水入口ノスルオへとUT工具みんな給水リング伝熱管管轄外崎12下部開管支持板管板検査穴ピーニング工具水室鏡1次冷却材入口ノズル1次冷却材出口ノズル旋回支柱スライドテーブル \7・マニピュレータズル部SG水室谷女派マンホール・ピーニング工具(先端工具) 図6 蒸気発生器出入口ノズル保全装置4023.5 原子炉容器出入口ノズル保全工事PWR 型原子力発電所の原子炉容器(以下 RV)の出 入口ノズル溶接部管台内面 INLAY 工事*2 に, マニピ ュレータ技術を適用している(図7)。 - 定期検査中は、炉内構造物からの放射線を遮断する ため,原子炉キャビティを水で満たしている。そのた め,工事対象のノズルは水中であり,工事を実施する ため、円筒容器を用いて気中環境を創出している。ノズル内は放射線量が極めて高く,人の作業を想定 した場合,十分な除染作業が必要となる。また,円筒 容器内は狭隘な作業環境であるため,同時稼働機材や 人員にも制約がある。これら課題を解決し,被ばく低減,複数ノズル同時 施工による高速化などを実現するため,各作業の自動 化を行った。自動化にあたっては,装置構成が最小と なるよう検討を行い,切削など専用装置で行う作業と 溶接,検査等マニピュレータで行う作業とを区分した。マニピュレータ, マニピュレータベース(マニピュ レータを出入口ノズルの間で移動させる), ターンテ ーブル(切削装置など大型工具をノズルに搬入出す る)を円筒容器底面のプラットフォームに常設し,切 削装置などの専用装置は使用時に都度搬入出する構 成としている。マニピュレータで作業を行う際は, 作業に応じた工 具をツールマガジンに載せ, ターンテーブル上に設置 し, マニピュレータ自身で先端の工具を交換している。 これにより,段取り替え時に人が介在する必要が無く, 各種作業の完全遠隔化を実現した。 主要な全作業を遠 隔で行うことで,従来工法と比較し,大幅な被ばく低 減が図れ,複数管台同時施工による高速化の実現で, 工期の短縮も図れる。また,この工事へ適用したマニピュレータは前項の 工事に適用したものと設計コンセプトを共有してお り,設計のモジュール化により,設計,製作期間を削 減している。3.6 蒸気発生器出入口ノズルの非破壊検査 -PWR 型原子力発電所の蒸気発生器(以下 SG)の水 室 1 次系出入口ノズル溶接部の健全性検査を行なう 工事に, マニピュレータを適用した(図 8, 図 9)。 3.4 項の保全装置は,放射線量の高い SG 水室内作業とし て旋回支柱の設置, スライドテーブルの搬入及び設置 が必要であった。今回の装置は、 水室外部より管板面歩行型ロボット (マニピュレータベース)を取付け,その後マニピュ レータをマニピュレータベースに搭載する手順とし, 完全遠隔で作業を行い,SG 水室内作業を排除した。 これにより,SG 出入口管台溶接部の非破壊検査にお ける大幅な被曝低減を可能とした。*2:INLAY 工事 管台内面の 600 合金を削り取り,耐PWSCC 性に優れる 690 合金を溶接 し,一次冷却材と接する管台内面 料を置き換える工事-403マニピュレータベースは,管板面を歩行し,管板面 の任意の位置に移動できるため、ノズル部の検査だけ でなく, 水室内の他の保全工事に適用することも可能 となっている。また,狭隘な SG ループ室への機材搬入を容易にす るため, 3.4 項のマニピュレータに 3.2 項のマニピュ レータ分割機構を採用し, マグネシウム合金,チタン 合金等の軽量材を採用することで,装置の可搬性を向 上させた。仮設ブリッジ切削装置特殊クレーン (機材搬出入)円筒容器プラットフォームマニピュレータツールマガジンノズル工具ターンテーブルマニピュレータベース図7 原子炉容器出入口ノズル保全工事マニピュレータベース管板面?行管板マニピュレータ図8 蒸気発生器出入口ノズルの非破壊検査装置マニピュレータベースマニピュレータ(根本側)結合機構| マニピュレータ (先端側)図9 マニピュレータ設置状況4.結言 1) 原子力発電所での各種保全工事に,人に代わって 作業を行なうロボットを開発し,適用してきた。しか し,保全工事の種類は多種多様であり,保全工事ごと に専用ロボットを設計製作することは非効率であり, かつ信頼性向上が困難になるため, ロボットの共通化 が要望された。 2) 汎用性の高いロボット(可動範囲・動作自由度) として,多関節マニピュレータ型ロボットが挙げられ る。制御ソフトの変更により,多種多様な動きを1台 のロボットで実現できることが最大の利点であり,複 雑な動作を作業毎に要求される保全工事のロボット 化には,非常に有効な解決手段となる。 3) 原子力発電所内での適用を考慮した仕様を検討し, ベースとなるマニピュレータを開発した。保全工事で 用いる専用工具の対象箇所へのアクセス手段として、 このマニピュレータを用いることで, ロボットの共通 化と共に,信頼性の高い保全工事を実現している。 4) 本稿で紹介したマニピュレータ技術をはじめ, 様々なロボット技術を応用し, 原子力発電所において, 現在は未着手の領域の保全工事に取り組んで行きた い。更に, 放射線環境下全般(再処理施設や核融合炉, 宇宙等)で必要な各種作業のロボット化へも応用可能 であると考えている。参考文献 [1] 大西,大西,““ 可搬式汎用知能アーム オープンロボットの提案一““, 1994,日本ロボット学会誌,Vol.12No.8. [2] 大西, ““可搬式汎用知能アーム PA-10 のオープンコントローラ”, 1998,日本ロボット工業会誌, No.121. [3] OONISHI, “The Open Manipulator System of theMHI PA-10 Robot““, 1999, 30th ISR 予稿集, [4] ISOZAKI, NAKAI, “Development of a work robot with a manipulator and a transport robot for nuclear facility emergency preparedness”, Advanced Robotics,Vol. 16, No.5, PP. 371-375(2002). [5] 今村,磯崎,小華和,中井“原子力防災支援システム開発-作業ロボット及び重量物運搬用ロボッ トの開発-”日本原子力学会秋の大会予稿集 Vol.2001 第2冊分 311 頁. [6] 柴山・林原・大西 “再処理施設における自動分析用ロボットアームの開発”, 日本原子力学会 1997秋の大会予稿集 [7] 日本ロボット学会実用化技術賞:大道・本村・深川・西原・小西・谷口・青山・吉岡 “改良型原 子炉容器超音波探傷装置の開発” 日本ロボット学会誌 Vol.12 No3,1994 [8] 日本ロボット学会実用化技術賞:大西・時岡・大西・弘津・大道・白須 “可搬式汎用知能アーム の実用化” 日本ロボット学会誌 Vol.18- 404 -No1,2000 [9] 藤田・大西 “マニピュレータ型ロボットのプラント保全への適用” 日本保全学会 第6回学術講 演会予稿集、- 405 -“ “?マニピュレータ型ロボットを適用したプラント保全技術“ “光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,藤田 淳,Jun FUJITA,大西 献,Ken ONISHI,津張 博之,Hiroyuki TSUHARI,細江 文弘,Fumihiro HOSOE
原子力発電所では定期的に各種保全工事を行なっ ている。保全工事は主として検査と補修であり,専用 工具(例えばカメラや溶接装置)を対象箇所ヘアクセ スさせ,その目的作業を実施する。 - 対象箇所の中には,狭い・水中・放射線量が高いと いった物理的環境条件から,人による作業が困難又は 不可能な場所も多く,人に代わってロボットに作業を 行なわせる技術を開発し,実工事で使用している。し かし,保全作業の種類・対象は多種多様で,さらに今 後も増えると考えられる。作業毎にロボットを設計開 発すると,製作期間、費用面で非効率であり,信頼性 低下の原因となるため, 共通のロボットで種々の作業 を行ないたい。その解決策として,人の腕のように自 由度が高く,可動範囲が広い多関節マニピュレータ型 ロボット(以降マニピュレータと略称する)を専用工 具のアクセス手段として応用することが考えられる。 * 本稿では原子力発電所の保全工事に適用する装置 に求められる仕様, 弊社で開発したマニピュレータの 特長, マニピュレータ型ロボットを応用した保全工事 の適用事例及びマニピュレータの適用の有効性につ いて紹介する。
2. マニピュレータ 11|2|1318 2.1 特長マニピュレータとは、モータ,減速器,角度検出セ ンサで構成される回転リンクを積み上げて配置した 構造で,人の腕のような動きが可能なロボットである。 マニピュレータの例として弊社 PA10 の鳥瞰図を図1 に示す。Mechanical Interlar? icordinate SistreMand FctatianlayFace!Arne11/01 121RotajonsStude!thant fgatternal Stylee図1 多関節マニピュレータ PA10マニピュレータ(PA10)は,以下のような特徴を有 ている。 1 比較的小型で,他機構の装置より広い可動範囲と高い自由度が得られる。 2 自重に対する可搬質量の比率が大きい。ピュレ3 制御ソフトの変更で動作を自由に変更できる。4 冗長自由度を有する7軸構成であるため, 障害物回避に有効である。 これらのメリットを生かし, 各方面でマニピュレー タが活躍している。[9] 2.2 プラント保全へのマニピュレータ適用検討保全工事に用いられる工具は、 大きさや形が様々で, その使い方(動かし方)も異なる。可動範囲が広く, 自由度が高いマニピュレータは, 高い汎用性を有する ため、複雑な動作要求に対応可能であり,保全工事に 用いるロボットの共通化を考えた場合, 非常に有効で ある。また,同一箇所へ多種の作業を行なう場合,先端工 具と制御ソフトを変えるだけで, 全ての作業を同一ロ ボットで行なえる利点もある。このため,工具の開発 を行えば,新知見を早期に保全工事に適用することが 可能になる。2.3 プラント保全へのマニピュレータ適用検討原子力発電所の各種保全工事ヘロボットを適用す るためには、使用環境や作業の特徴を考慮し,以下の 要求を満たす必要がある。 ・ 人手の作業と同等または, それ以上の精度を有すること。 ・ 耐放射線性を有すること。防滴 (除染時に水洗いができること), 防水 (水 中の場合)であること。 狭隘部への搬入出を考慮し, 小型軽量であること。 ・ マニピュレータと制御装置の接続を一時的に外しても,原点復帰等のイニシャライズ作業無く、瞬時に起動すること。 これら要求仕様を元に, 原子力発電所での保全工事に 適用できるマニピュレータを設計・開発した。表1に 主な仕様を示す。表1 マニピュレータ型ロボット ベース仕様 | 軸数、17軸 アクチュエータAC サーボモータ 繰返し位置決め精度1 ±0.1 [mm] 角度センサレゾルバ(絶対角度) 耐放射線性集積線量 10 [Gy] 耐環境性防滴 IP54(防水IP67 も可)3.保全工事への適用事例マニピュレータを保全工事へ応用した事例を以下 に紹介する。3.1 原子炉容器の非破壊検査] -PWR型原子力発電所の原子炉容器(以下 RV) 溶接た事例を以下RV) 溶接*1- 401 -部の健全性をUT による非破壊検査で確認する検査工 事へマニピュレータを適用した。RV は検査時に水没 した状態であるため,ロボットは完全防水構造とし, スラスタ(プロペラ)推力で RV 内を自由に移動でき る水中自航型台車にマニピュレータを搭載した構造 とした。検査対象箇所の溶接線近傍まで台車で移動後, マニピュレータで検査用先端工具を動かし,検査を行 う(図2)。先端工具は,RV の検査対象箇所毎に複数 種類必要であるが, 全ての先端工具をマニピュレータ に装着可能で,順次交換することで RV 溶接線全ての 検査を1台のロボットで可能とした。複数の大掛かり な装置を使っていた従来に比べて, 大幅な検査期間の 短縮をこのロボットで実現した。水中自航型台車 |7軸マニピュレータ23RV 本体及びノズル内 面溶接線をマニピュ レータ先端に搭載し た検査工具で探傷。RV図2 原子炉容器非破壊検査装置3.2 再処理工場内自動分析マニピュレータ 6]再処理工場内の分析ボックス内で,ビーカや試験管 を用いて試験体の分析を行なう作業は,試験体が少量 の場合,繊細で正確な作業が要求され,また,化学反 応の待ち時間が多い理由から, ロボットによる自動化 が要望されている。ロボットに要求される仕様は,分 析ボックス内に入る大きさで、故障に対するメンテナ ンス性が考慮されていることであり,分割モジュール 設計を取り入れ,故障モジュールのみ交換可能なマニ ピュレータを開発した(図 3)。マニピュレータの制 御やメカ部の設計思想は先行ロボットを踏襲しつつ, 耐食性を考慮したオールステンレス仕様とし, MSM*1 による手動操作でモジュール分割及び復旧が 可能なよう設計した。このマニピュレータにより,再 処理工場での 24 時間連続分析作業が可能となった。MSM (Master Slave Manipulator) 再処理工場の設備クジュール化図3 分析用マニピュレータ3.3 原子力防災支援ロボット14115)1999 年に発生した JCO 事故を教訓に,放射線環境 下で事故収束作業支援を行なう作業用ロボットを開 発した(図 4, 図 5)。このロボットは、階段や不整地 を走行できる台車に作業用マニピュレータ(先端にツ ールチェンジャを搭載し, 各種工具をワンタッチで取 り付け可能)とカメラマニピュレータを搭載し,遠隔 操作でドア/弁の開閉,配管開孔,現場の状況把握が 可能なロボットである。本ロボットは保全工事とは直 接関係が無いが,この時に開発したマニピュレータ技 術がベースとなり,保全工事の高度化に大きく貢献し ている。カメラマニピュレータ作業用マニピュレータ図4 原子力防災支援ロボットと操作卓図5 マニピュレータ操作によるドア開け通過3.4 蒸気発生器出入口ノズル保全工事PWR型原子力発電所の蒸気発生器(以下 SG)の水 室 1 次系出入口ノズル溶接部の健全性検査及び応力緩和と, 各種補修を行なう工事にマニピュレータを適 用した(図 6)。 SG 水室内は放射線量が極めて高く, 人の作業は数分が限度であり,仮に人の作業を想定し た場合は,人海戦術にならざるを得ない。 保全工事が 必要な SG の台数を考えると,作業者の被ばくは膨大 な量となり,現実問題としてロボット化無しでは保全 工事が成り立たない状況にある。この工事へ適用した ロボットは,SG 水室内にマニピュレータのベースと なる旋回支柱とスライドテーブルを設置し,そこヘマ ニピュレータ(先端にはツールチェンジャを搭載)を 取り付ける構造で, 保全対象箇所の出入口ノズル部に 各種先端工具をアクセスさせることが可能である。ま た, マニピュレータ先端をマンホール(直径 400mm) から水室外に出すことで,作業者が水室に入らなくて も先端工具を容易に交換でき, 作業者の被ばく低減に 寄与している。この蒸気出コノズル分分上部幅し気水分離器給水入口ノスルオへとUT工具みんな給水リング伝熱管管轄外崎12下部開管支持板管板検査穴ピーニング工具水室鏡1次冷却材入口ノズル1次冷却材出口ノズル旋回支柱スライドテーブル \7・マニピュレータズル部SG水室谷女派マンホール・ピーニング工具(先端工具) 図6 蒸気発生器出入口ノズル保全装置4023.5 原子炉容器出入口ノズル保全工事PWR 型原子力発電所の原子炉容器(以下 RV)の出 入口ノズル溶接部管台内面 INLAY 工事*2 に, マニピ ュレータ技術を適用している(図7)。 - 定期検査中は、炉内構造物からの放射線を遮断する ため,原子炉キャビティを水で満たしている。そのた め,工事対象のノズルは水中であり,工事を実施する ため、円筒容器を用いて気中環境を創出している。ノズル内は放射線量が極めて高く,人の作業を想定 した場合,十分な除染作業が必要となる。また,円筒 容器内は狭隘な作業環境であるため,同時稼働機材や 人員にも制約がある。これら課題を解決し,被ばく低減,複数ノズル同時 施工による高速化などを実現するため,各作業の自動 化を行った。自動化にあたっては,装置構成が最小と なるよう検討を行い,切削など専用装置で行う作業と 溶接,検査等マニピュレータで行う作業とを区分した。マニピュレータ, マニピュレータベース(マニピュ レータを出入口ノズルの間で移動させる), ターンテ ーブル(切削装置など大型工具をノズルに搬入出す る)を円筒容器底面のプラットフォームに常設し,切 削装置などの専用装置は使用時に都度搬入出する構 成としている。マニピュレータで作業を行う際は, 作業に応じた工 具をツールマガジンに載せ, ターンテーブル上に設置 し, マニピュレータ自身で先端の工具を交換している。 これにより,段取り替え時に人が介在する必要が無く, 各種作業の完全遠隔化を実現した。 主要な全作業を遠 隔で行うことで,従来工法と比較し,大幅な被ばく低 減が図れ,複数管台同時施工による高速化の実現で, 工期の短縮も図れる。また,この工事へ適用したマニピュレータは前項の 工事に適用したものと設計コンセプトを共有してお り,設計のモジュール化により,設計,製作期間を削 減している。3.6 蒸気発生器出入口ノズルの非破壊検査 -PWR 型原子力発電所の蒸気発生器(以下 SG)の水 室 1 次系出入口ノズル溶接部の健全性検査を行なう 工事に, マニピュレータを適用した(図 8, 図 9)。 3.4 項の保全装置は,放射線量の高い SG 水室内作業とし て旋回支柱の設置, スライドテーブルの搬入及び設置 が必要であった。今回の装置は、 水室外部より管板面歩行型ロボット (マニピュレータベース)を取付け,その後マニピュ レータをマニピュレータベースに搭載する手順とし, 完全遠隔で作業を行い,SG 水室内作業を排除した。 これにより,SG 出入口管台溶接部の非破壊検査にお ける大幅な被曝低減を可能とした。*2:INLAY 工事 管台内面の 600 合金を削り取り,耐PWSCC 性に優れる 690 合金を溶接 し,一次冷却材と接する管台内面 料を置き換える工事-403マニピュレータベースは,管板面を歩行し,管板面 の任意の位置に移動できるため、ノズル部の検査だけ でなく, 水室内の他の保全工事に適用することも可能 となっている。また,狭隘な SG ループ室への機材搬入を容易にす るため, 3.4 項のマニピュレータに 3.2 項のマニピュ レータ分割機構を採用し, マグネシウム合金,チタン 合金等の軽量材を採用することで,装置の可搬性を向 上させた。仮設ブリッジ切削装置特殊クレーン (機材搬出入)円筒容器プラットフォームマニピュレータツールマガジンノズル工具ターンテーブルマニピュレータベース図7 原子炉容器出入口ノズル保全工事マニピュレータベース管板面?行管板マニピュレータ図8 蒸気発生器出入口ノズルの非破壊検査装置マニピュレータベースマニピュレータ(根本側)結合機構| マニピュレータ (先端側)図9 マニピュレータ設置状況4.結言 1) 原子力発電所での各種保全工事に,人に代わって 作業を行なうロボットを開発し,適用してきた。しか し,保全工事の種類は多種多様であり,保全工事ごと に専用ロボットを設計製作することは非効率であり, かつ信頼性向上が困難になるため, ロボットの共通化 が要望された。 2) 汎用性の高いロボット(可動範囲・動作自由度) として,多関節マニピュレータ型ロボットが挙げられ る。制御ソフトの変更により,多種多様な動きを1台 のロボットで実現できることが最大の利点であり,複 雑な動作を作業毎に要求される保全工事のロボット 化には,非常に有効な解決手段となる。 3) 原子力発電所内での適用を考慮した仕様を検討し, ベースとなるマニピュレータを開発した。保全工事で 用いる専用工具の対象箇所へのアクセス手段として、 このマニピュレータを用いることで, ロボットの共通 化と共に,信頼性の高い保全工事を実現している。 4) 本稿で紹介したマニピュレータ技術をはじめ, 様々なロボット技術を応用し, 原子力発電所において, 現在は未着手の領域の保全工事に取り組んで行きた い。更に, 放射線環境下全般(再処理施設や核融合炉, 宇宙等)で必要な各種作業のロボット化へも応用可能 であると考えている。参考文献 [1] 大西,大西,““ 可搬式汎用知能アーム オープンロボットの提案一““, 1994,日本ロボット学会誌,Vol.12No.8. [2] 大西, ““可搬式汎用知能アーム PA-10 のオープンコントローラ”, 1998,日本ロボット工業会誌, No.121. [3] OONISHI, “The Open Manipulator System of theMHI PA-10 Robot““, 1999, 30th ISR 予稿集, [4] ISOZAKI, NAKAI, “Development of a work robot with a manipulator and a transport robot for nuclear facility emergency preparedness”, Advanced Robotics,Vol. 16, No.5, PP. 371-375(2002). [5] 今村,磯崎,小華和,中井“原子力防災支援システム開発-作業ロボット及び重量物運搬用ロボッ トの開発-”日本原子力学会秋の大会予稿集 Vol.2001 第2冊分 311 頁. [6] 柴山・林原・大西 “再処理施設における自動分析用ロボットアームの開発”, 日本原子力学会 1997秋の大会予稿集 [7] 日本ロボット学会実用化技術賞:大道・本村・深川・西原・小西・谷口・青山・吉岡 “改良型原 子炉容器超音波探傷装置の開発” 日本ロボット学会誌 Vol.12 No3,1994 [8] 日本ロボット学会実用化技術賞:大西・時岡・大西・弘津・大道・白須 “可搬式汎用知能アーム の実用化” 日本ロボット学会誌 Vol.18- 404 -No1,2000 [9] 藤田・大西 “マニピュレータ型ロボットのプラント保全への適用” 日本保全学会 第6回学術講 演会予稿集、- 405 -“ “?マニピュレータ型ロボットを適用したプラント保全技術“ “光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,藤田 淳,Jun FUJITA,大西 献,Ken ONISHI,津張 博之,Hiroyuki TSUHARI,細江 文弘,Fumihiro HOSOE