小口径配管の残留応力改善手法の開発

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
必要に応じて材料表面の応力改善を行うこと等が要 求されている[4]. - 沸騰水型軽水炉に採用されていたオーステナイト 配管溶接部の引張残留応力の低減方法については, 系ステンレス鋼 SUS304 製の配管では,1970年代後 これまでに多くの研究が開発されている. 代表的な 半頃から溶接熱影響部で,応力腐食割れ(Stress ものが熱ひずみを利用した高周波誘導加熱応力改善 Corrosion Cracking:SCC)が発生した. SCCは3要 E (Induction Heating Stress Improvement : IHSI) [5][6] 因が重畳したときに発生することが知られている。 や水冷溶接 (Heat Sink Welding: HSW) [7][8]である. [1]. 1つは溶接による溶接部近傍の Cr 欠乏による これらの工法は SCC の事例が確認されている大口 材料劣化,次に高温純水中の腐食環境,そして溶接 径配管を中心に適用されている.一方,公称外径 部の引張残留応力である. オーステナイト系ステン 60.5mm 以下の小口径配管は板厚が薄いため,これ レス鋼製配管での SCC 対策としては, 材料要因の改らの工法では板厚内に温度勾配を発生させるのが困 善として耐鋭敏化特性に優れた低炭素系ステンレス 難であり,十分な効果が得られない、さらに原子力 鋼(SUS316L および SUS316NG)が耐 SCC 材料と プラントの小口径配管は,狭隘なルートで敷設され して開発され,実機に採用された.ていることが多く,大規模な装置を使用することが また近年では,製造時の材料表面の強加工による 難しい.従って,小口径配管に対する残留応力改善 硬化層が低炭素系ステンレス鋼の SCC の発生に影 工法は現状確立されていない. 響すると考えられていることから[2], 2006年には経* 本研究では,公称外径 60.5mm 以下の小口径配管 済産業省 原子力安全・保安院により省令の解釈の一 の溶接部に適用可能な引張残留応力改善手法として 部が改正され[3],製作時の機械加工や溶接等におい溶接部近傍の配管外表面を強制的に加熱した後,配 て SCC 発生の可能性が高くなるような施工方法を管内表面を冷却水にて急冷し,配管の内外面に大き 避けるよう考慮し,高い残留応力がある場合には な温度差を与えて発生する熱応力により,残留応力を改善する手法を開発した.以後,デルタT工法と称す.試験によりデルタT工法の効果を確認した.
2. 小口径配管溶接部の残留応力改善手法- デルタT工法は,配管溶接後に溶接部近傍の配管 外表面を強制的に加熱した後,配管内表面を冷却水 にて急冷することで,配管内外面に過渡的に大きな 温度差が発生し,その時に生じる高い熱応力により 内面を引張降伏させ,残留応力を改善する手法であ る.加熱温度の調整により温度差,即ち,熱応力を 調整することが可能であるため,板厚が薄い小口径 配管でも容易に残留応力の改善が可能である. デ ルタT工法の施工概要図を図1に示す.図2には,デルタT工法中における一連の配管外 表面と内表面の応力・ひずみ履歴を模式的に示す. デルタT工法中の応力ひずみ変化は,加熱,冷却, 定常の3つの工程に分類される. 加熱中は,加熱温 度に起因する熱膨張分伸び,この段階では,配管内 外面関係なく均一に伸びる. 配管内面に冷却水を通 水すると,外表面は高温,内表面は低温になり配管 の板厚方向に温度勾配が発生する. 配管外面では高 温状態が維持されるため伸びたままであるが,配管 内面が縮むため圧縮方向の熱応力が発生し降伏する. 一方,配管内面では冷却水により冷却されるため縮 もうとするが,配管外面が伸びた状態であるため引 張り方向の熱応力が発生し降伏する. 冷却水を流し 続け配管内外面の温度差がなくなると,冷却時に発 生した降伏のスプリングバックにより,外面では引 張り,内面では圧縮の応力が発生する. * デルタT工法により配管内面で塑性変形が発生す るのに十分な配管内外面の温度差について検討する. 内半径a, 外半径bの中空円筒にAT の温度勾配が 存在するときの配管内表面に発生する周(on),軸 (on)方向応力は以下の式で求められる [9].100=0a = A TAT.B、・・(1) ここで, a は線膨張率,Eは縦弾性係数,Vはポ アソン比, B, は以下の式で表される. 12621 P-52-a-ln(bla)・・・(2) 図3は,50A sch80 配管(a:24.75 mm, b : 30.25 mm)を例に(1)式を解いた結果を示す.ここではa は 15.14×10-6 mm/mmC, E は 195 GPa, v は 0.3 と した.図3より,配管内外面に板厚方向の温度差AT を与えた場合,周軸方向に熱応力が付与され,配管 内面に塑性変形を与え,溶接部近傍の引張残留応力 を圧縮方向に改善にすることが可能である.
3. 実機模擬試験による施工効果の検証デルタT工法による残留応力改善効果について, 溶接部にデルタT工法を施工した配管試験体につい て,残留応力測定を行い,溶接ままの試験体との残 留応力の比較を行い、検証を行った. 3.1 試験方法試験ケースおよび試験体一覧を表1に示す.試験 体は,公称外径 60.5mm,公称板厚 5.5mm の小口径 配管を選定した.また継手形状は原子力プラントの SCC対策範囲の配管溶接部として最も多い直管同士 の突合せ溶接部,およびエルボと直管の突合せ溶接 部とした.試験体の材質は SUS304TP とした. - 試験方法としては, TP-1, TP-2 の試験体に加熱ヒー タを用いて溶接部近傍の配管外表面を規定加熱温度 まで加熱後,冷却水を配管内に通水し急冷させた.デルタ T工法の応力低減効果の確認として,デル タT施工後の試験体についてひずみゲージを用いた 切断法による溶接部近傍の残留応力測定を行い,溶 接ままの試験体の結果と比較した.残留応力測定要 領について以下に示す. (1) 各試験体を,溶接止端から 3D離れた位置で切断する.(ここでDは配管外径寸法) (2) 配管溶接部近傍の内外面にひずみゲージを取付ける (3) 初期値のひずみを測定する. (4) ひずみゲージを中心に配管を細断する (5) 切断後のひずみ測定を行い,測定した周方向の開放ひずみ と軸方向の開放ひずみ 6,か-2について以下に小y. (1) 各試験体を,溶接止端から 3D離れた位置で切断する.(ここでDは配管外径寸法) - (2) 配管溶接部近傍の内外面にひずみゲージを取付ける (3) 初期値のひずみを測定する. (4) ひずみゲージを中心に配管を細断する (5) 切断後のひずみ測定を行い,測定した周方向の開放ひずみと。と軸方向の開放ひずみ8,か ら,周方向の残留応力 0 と軸方向の残留応力 o, を式(3)と式 (4)により求める.Hoop residual stress on inner surfaceMPa ?MPa Hoop residual stress on innersOoooo150配管溶接部近傍の内外面にひずみゲージを取 付ける 初期値のひずみを測定する. ひずみゲージを中心に配管を細断する 切断後のひずみ測定を行い,測定した周方向 の開放ひずみ Eと軸方向の開放ひずみ 6, か ら,周方向の残留応力 0 と軸方向の残留応力 o, を式(3) と式 (4)により求める.
式驗結果タT工法を施工した 50A 直管 -直管(TP-1) 二験体の配管内面の残留応力測定結果を図4になお図中には,施工効果の比較として溶接ま -Weld)の試験体の残留応力測定結果も記載し デルタT工法未施工の溶接試験体では溶接部近 周軸ともに引張残留応力であるのに対して, -T工法を施工した試験体においては溶接部近300 5周軸方向ともに圧縮方向に改善されており,-20 -15 -10 -5_ 0_ 5_ 10 15 20 ご力となっている.Distance from the center of welding area, mm - 50A 直管-エルボ試験体(TP-2)の残留応力測定Fig. 4 Distribution of Residual Stress 50A PIPES 図5に示す. エルボ試験体においては,軸方(TP-1) 言干引張残留応力が残る結果となったが,溶接 っ計輪休ハビ跡オスト周軸方向に圧縮方 3.2 試験結果デルタT工法を施工した 50A 直管-直管(TP-1) 溶接試験体の配管内面の残留応力測定結果を図4に 示す.なお図中には,施工効果の比較として溶接ま ま(As-Weld)の試験体の残留応力測定結果も記載し た. デルタT工法未施工の溶接試験体では溶接部近 傍では周軸ともに引張残留応力であるのに対して, デルタT工法を施工した試験体においては溶接部近 傍でも周軸方向ともに圧縮方向に改善されており, 圧縮応力となっている.また 50A 直管 エルボ試験体(TP-2)の残留応力測定 結果を図5に示す. エルボ試験体においては,軸方 向で若干引張残留応力が残る結果となったが,溶接 ままの試験体と比較すると,周軸方向ともに圧縮方 向に改善されている.従って,デルタT工法を施工 することにより,溶接部の引張残留応力は,周軸方 向ともに圧縮方向に改善できることが確認できた. Table. 1 The Cases of Experiment and Specimens Test Piece
ルボの突合せ溶接部に適用することで,溶接 部の引張残留応力を圧縮方向に低減できる. 本工法により残留応力を低減できることから 本工法の適用により, SCC の発生および進展 を抑制する効果が期待できる.Hoop residual stress on inner surfaceMPa6000450Axial residual stress on inner surfaceMPa参考文献 [1] 経済産業省原子力安全・保安院, 炉心シュラウドおよび再循環系配管の健全性評価について -検討結果の整理一(案) ““ 原子力発電設備の使 全性評価等に関する小委員会(第 10 回)配布資料, 資料 10-3 (2004)[2] M. Tsubota, Y.Kanazawa, H.Inoue, “The Effect of -300Cold Work on SCC Susceptibility of Austenitic -20 -15 -10 - 5 0_ 5_ 10_1520Stainless Steel” Proceeding of the SeventhInternational Symposium Distance from the center of welding area, mmon Environmental Degradation of Materials in Nuclear PowerSystems -- Water Reactors, Vol.1, p519-528 (1995) [3] 経済産業省原子力安全・保安院, “発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈の一部改正について”NISA-322c-06-5, (2006) [4] 日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 設計・建設規格」(JSME S NC1-2001) 及び (JSME S NC1-2005) 【事例規格】 発電用原子力設備に おける「応力腐食割れ発生の抑制に対する考慮」 ““ NC-CC-002, (2005) [5] 清水翼, 榎本邦夫, “原子力プラントにおけるステンレス鋼配管溶接部の局所高周波加熱によ -300る健全性向上に関する研究”溶接学会論文集, -20 -15 -10 - 5 0_5 10 1520Vol.5 [No.3], p335-341 (1987) Distance from the center of welding area, mm日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 維持 規格(2004年版)」 ““JSME S NA1-2004, RB-2420,-2004「7) 桐原誠信ら,“複管内水冷溶接による SUS 304 Fig. 5 Distribution of Residual Stress 50A ELBOW and PIPE (TP-2)鋼管溶接部の残留応力および鋭敏化軽減法” 溶接学会論文集,Vol.48 [No.10], p756-762 |(1979). [8] 日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 維持規格 (2004年版)」 ““ JSME S NA1-2004, RB-2440,-2004[9] 日本機械学会, “機械工学便覧 材料力学基礎 4. 結言 1. 本研究では、デルタT工法という新たな残留応力 改善手法を開発した.本研究における成果を以下に まとめる. ・ デルタT工法を,小口径配管の直管およびエルボの突合せ溶接部に適用することで,溶接部の引張残留応力を圧縮方向に低減できる. ・ 本工法により残留応力を低減できることから 本研究では,デルタT工法という新たな残留応力 改善手法を開発した. 本研究における成果を以下に まとめる.デルタT工法を,小口径配管の直管およびエ ルボの突合せ溶接部に適用することで,溶接 部の引張残留応力を圧縮方向に低減できる. 本工法により残留応力を低減できることから, 本工法の適用により,SCC の発生および進展 を抑制する効果が期待できる.[3]・保安院, 参考文献 [1] 経済産業省原子力安全・保安院, “炉心シュラウドおよび再循環系配管の健全性評価について -検討結果の整理一(案)” 原子力発電設備の健 全性評価等に関する小委員会(第 10 回)配布資料, 資料 10-3 (2004) [2] M.Tsubota, Y.Kanazawa, H.Inoue, “The Effect ofCold Work on SCC Susceptibility of Austenitic Stainless Steel” Proceeding of the Seventh International Symposium on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems - Water Reactors, Vol.1, p519-528 (1995) 経済産業省原子力安全・保安院, 発電用原子力 設備に関する技術基準を定める省令の解釈の一部改正について”NISA-322c-06-5, (2006) [4] 日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 設計・建設規格」(JSME S NC1-2001) 及び (JSME S NC1-2005) 【事例規格】 発電用原子力設備に おける「応力腐食割れ発生の抑制に対する考慮」 ““ NC-CC-002, (2005) [5] 清水翼,榎本邦夫, “原子力プラントにおけるステンレス鋼配管溶接部の局所高周波加熱によ る健全性向上に関する研究”溶接学会論文集,Vol.5 [No.3], p335-341 (1987) [6] 日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 維持規格 (2004 年版)」 ““ JSME S NA1-2004, RB-2420,(2004) [7] 桐原誠信ら,“複管内水冷溶接による SUS 304鋼管溶接部の残留応力および鋭敏化軽減法““ 溶接学会論文集,Vol.48 [No.10], p756-762(1979). [8] 日本機械学会, “「発電用原子力設備規格 維持規格(2004 年版)」 ““ JSME S NA1-2004, RB-2440,(2004) [9] 日本機械学会, “機械工学便覧 材料力学基礎編” (1994). - 436 -“ “?小口径配管の残留応力改善手法の開発“ “福田 ゆか,Yuka FUKUDA,折谷 尚彦,Naohiko ORITANI,大城戸 忍,Shinobu OKIDO
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