原子炉炉内構造物に対する水中遠隔検査技術の開発

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カテゴリ: 第7回
1. 諸言
2. 水中遠隔検査技術の開発 原子炉炉内構造物にひびが発見された場合、ひび2.1 ゲル電極を用いた電解エッチング技術 の発生位置や進展経路を確認することは、ひびの発 2.1.1 技術の概要 生原因の究明にとって重要である。ひびが発見され ・ ゲル電極の概略図を Fig.1 に示す。ゲル電極は電 た場合の詳細調査については、ひび位置周辺のボー解エッチング液を形状追従性に優れた多孔質材に含 トサンプル採取やレプリカ採取が従来の詳細調査と浸させた後でゲル状に固めたもので、多孔質材の内 して行われてきたい。ボートサンプルやレプリカに部に陰極が配置されている。多孔質材の周囲には、 よる詳細調査は、試料の採取やホットラボでの拡大調査対象面に電気的に接触する陽極が配置されてい 観察に長時間を要する。また、表面形状をレプリカる。ゲル電極を接触させることでエッチング液上調 に転写するには、調査対象の形状に合わせたレプリ査対象面が接触し、ゲル電極内部の陰極と調査対象 カ採取容器の製作が必要であるため、装置の設計製面が通電可能な状態となる。これにより、直流電流 作時間が長時間となる。このため、ひびが発見されを通電して調査対象面を電解エッチングすることが た場合に迅速に詳細調査が可能な検査技術が求めら可能となる。 れている。そこで本研究では、水中に位置する原子液状のエッチング液を使用する従来の電解エッチ 炉炉内構造物の表面を簡易に詳細調査することを目ング方法に比べて、エッチング液を調査対象面に保 的に、水中遠隔検査技術の開発を行った。持する容器やエッチング液の供給および回収系統が ひびの発生位置や進展経路の詳細調査については、 不要となるため、検査装置の設計製作時間が短縮で 電解エッチングにより溶接境界や結晶粒界を視認可きる。さらに、ゲルと多孔質材は形状追従性に優れ 能とする技術として、電解エッチング液をゲル状にていることから、制御棒駆動機構ハウジング溶接部 固めた「ゲル電極」を用いることでエッチング液のに代表される炉底部の曲面形状構造物に対しても、 供給回収系統が不要な検査装置を開発した。個々の電極形状を変更せずに適用することができる。 ひびの拡大観察については、最大 800 倍の拡大観 察が可能な水中高倍率カメラを開発し、調査対象表Anode (+)Anode (+) 面の直接観察により結晶粒界に対するひびの進展経 路を確認できる検査装置を開発した。Cathode (-) 本報では、ゲル電極を用いた電解エッチングによ(Stainless Plate) り溶接境界や結晶粒界を視認可能とした試験結果おPower Source よび水中高倍率カメラによるひび位置周辺の拡大観(DC) 察結果について報告する。Anode (+)Porous Material (Gel Etching Solution Containing)
Fig. 1 Schematic of Gel Electrode4372.1.2 溶接境界および結晶粒界の視認化 -ゲル電極を用いた電解エッチングにより溶接境界 や結晶粒界が視認できるかを試験により確認する。 試験体の概略図を Fig.2 に示す。試験体は縦 150mm 幅 200mm の 600 合金(JISG4902) 鋼板中央に 182 合金(JISZ3224) と 82 合金(JISZ3334)を肉盛溶接 したもので、中央付近は鏡面に磨いている。ゲル電 極を用いた電解エッチングは、試験体を水中に配置 した後、縦 50mm 幅 70mm の範囲にゲル電極を接触 させ、ゲル電極(陰極)と試験体(陽極)間に直流 電流を通電して試験体表面の電解エッチングを実施した。ゲル電極を用いた電解エッチング後の試験体の外 観を Fig.3 に示す。電解エッチングされた試験体表 面は色調の差異により、600 合金と 182 合金、182 合金と 82 合金、82 合金と 600 合金の境界が明瞭に 視認できる。 182 合金と 82 合金の境界を拡大観察し た結果を Fig.4 に示す。結晶粒界が選択的にエッチ ングされており、182 合金と 82 合金の結晶粒界や溶 接境界が明瞭に視認できる。以上の結果より、ニッケル基合金の母材(600 合 金)や溶接金属(182 合金や 82 合金)の電解エッチ ングにゲル電極を適用した場合でも、溶接境界や結 晶粒界を視認することが可能であると考えられる。
Fig.8 Example of Crack (Near V8 Vertical Weld Line)3.2 電解エッチング手順および結果 - ゲル電極を用いたシュラウドサポートシリンダ内 面 V8 縦溶接線の電解エッチング手順について、概 略図をFig.9 に示す。V8 縦溶接線に対する電解エッ チングでは、まず、施工領域の表面に付着している 酸化皮膜を表面研磨により除去した。その後、縦 50mm 幅 70mm の範囲にゲル電極を接触させて、ゲ ル電極(陰極)とシュラウドサポートシリンダ(陽 極)間に直流電流を通電して V8 縦溶接線近傍の電 解エッチングを実施した。 -ゲル電極を用いた電解エッチングを適用した後の V8 縦溶接線の溶接境界を Fig.10 に示す。電解エッ チング後のシュラウドサポートシリンダ内面は、や や白色を呈しており、電解エッチングした範囲が容易に視認できる。電解エッチングした範囲を詳細に 確認した結果、V8縦溶接線の境界が明瞭に確認でき た (Fig.10)。確認した V8 縦溶接線の境界に基づき、 ひびの位置を再確認した結果、ひびの位置は V8 縦 溶接線内部であることを確認した。
4.結言 「原子炉炉内構造物に対する水中遠隔検査技術とし てゲル電極を用いた電解エッチング技術と水中高倍 率カメラによる拡大観察技術を開発し、以下に挙げ! る成果を試験により確認した。 ・ ゲル電極を用いて電解エッチングすることで溶 - 接境界や結晶粒界を視認することができる。 ・ 水中高倍率カメラでニッケル基合金の結晶粒界と粒界型のき裂を直接確認することができる。 本研究で開発した技術は、装置の設計製作や実機 調査に要する時間を軽減できることから、実機調査 こ適用することで迅速な詳細調査が可能になると考 えられる。参考文献 1] 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会,““ レプリカ観察によるひび割 れ部調査結果,““原子力発電設備の健全性評価 等に関する小委員会(第7回)配付資料, 参考7-5, pp.90-94, (2003). 2] 日本原子力発電株式会社,“東海第二発電所 第24 回定期検査の状況について シュラウドサポ ート溶接線付近のひび状の指示模様(その3),““ (2009).“ “原子炉炉内構造物に対する水中遠隔検査技術の開発“ “青池 聡,Satoru AOIKE,黒澤 孝一,Koichi KUROSAWA,大森 信哉,Shinya OHMORI,田中 賢彰,Masaaki TANAKA
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