音源探査装置の開発とその活用

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
設備が故障に至る前には、その予兆が音の変化と して現れることが多い。そのため、設備が運転中に 生じる音や振動の状態監視を行い、設備の異常を早 期に検知することが重要である。しかし、音や振動 で異常を検知したとしても、設備を構成している部 位が多い場合や大型設備の場合は異常箇所を特定す ることは困難である。そのため音源の特定が必要と なっている。音源を特定する場合、指向性マイクロホンを用れ ば比較的安価に探査が可能であるが、音響パワーレ ベルの卓越周波数が低音域にある場合、音源の指向 性が低く音源の特定が困難である場合が多い。また、音源探査手法として音響インテンシティ法 やマイクロホンアレーによる推定が広く用いられて いるが測定機材が多く測定準備に時間を要する。筆者らは、5 本のマイクロホンを用いて音の位相 差から音の到来方向を計算し、同時に小型カメラで 撮影される画像上に音情報を重ね合わせることで、 音の発生状況を視覚的に表示させる音源探査装置 「音カメラ」の開発を進めている[1] [2] [3] [4]。本報では、音源探査装置「音カメラ」の推定理論 と装置の概要、設備の異常音探査例を報告する。ま た、この技術を応用した振動源探査装置や透明ディ スプレイを用いた音源探査装置「音メガネ」の概要 についても報告する。
Direction of soundOM. (0, 0, L/2)T-M10, L10・MS (F/L/2, 0, 0)MS、/M3(L/2,0,0)2. 音源方向推定式M4 (0, - L/2,000音源位置を計算するために用いる5 個のマイクロ ホンの位置関係をFig.1 に示す。M1~M5 はマイクロFig.1 Position of microphones
- 443 - 音源位置を計算するために用いる5 個のマイクロ ホンの位置関係をFig.1 に示す。M1~M5 はマイクロFig.1 Position of microphones連絡先:和田浩之,〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561, 中部電力(株)浜岡原子力発電所保修部建築課,電話:0537-85-2524, E-mail: Wada.Hiroyuki@chuden.co.jp 但し、DijはFig.1 においてMi に対するMj の時間の 遅れ(sec)であり、2 個のマイクロホンに入力される 信号のクロススペクトルPij(f)を求め、対象とする 周波数の位相角情報““ (rad)から求める。なお、f は周波数とする。 れる。0 = tan““ Pass ・・・(1)so = tan | Da + Da + Da + Das ・ ・ ・ (2)| 2030/D3 + D3 )但し、DijはFig.1 においてMi に対するMj の時間の 遅れ(sec)であり、2 個のマイクロホンに入力される 信号のクロススペクトルPij(f)を求め、対象とする 周波数の位相角情報(rad)から求める。なお、f は周波数とする。D = -VIP, 0)) ・・(3)(1)、(2)式は、音源と受音点間で平面波が仮定でき、 マイクロホン間の距離を半波長とする周波数以下で 成立する。Direction of soundOM』 (0, 0, L/2)MQ, L1202. Ms (fL/ 2, 0, 0)MS/M3(L/2,0,0)MA(0, - L/2, otFig. 1 Position of microphones* 1 中部電力(株)近岡原子力発電所保修部建筑課(1)、(2)式は、音源と受音点間で平面波が仮定でき、 マイクロホン間の距離を半波長とする周波数以下で 成立する。3.音源探査装置の構成音源探査装置の外観および収録部の拡大写真を Fig.2 に示す。マイクロホンの間隔を35(mm) として、 4500(Hz)まで解析できるようにした。A/D 変換は、 多チャンネルA/D カードを使用し、サンプリング周 波数は、10(kHz) と した。なお、チャンネル間変換速 度が10(u sec)あるため、解析時に時間の補正を行 っている。また、ローパスフィルタは、遮断周波数 1.6(kHz), 40 (dB /oct)とした。 一目で音の到来方向がわかるように音情報を小型 CCD カメラで捉えた画像上(PC モニター上)に座標 を合わせ表示させている(Fig.3)。Fig.2 Sound camera31日1000Antom74.5dBがたさ 現場をあまりにも74.5dBFig.3 display of sound camera画像上における音の到来方向の表示は、音圧レベ ルの大小を点(円)の大小で表し、周波数は色の違 いで表示している。これによりどちらの方向からど のような周波数の音が到来しているかを判別するこ とができる。また、表示設定で音圧レベルや周波数 範囲を指定することで、特定の音圧レベル以上の音 のみを表示させることや、特定の周波数範囲のみを 表示させることができる。この機能を駆使すれば、 通常と異なる音だけを表示させることができる。4. 異常音探査事例変電所内にある変圧器ファンの異常音探査事例を 紹介する。複数あるファンから通常とは異なる周波ァンの異常音探査事例を から通常とは異なる周波-444音が出ていた場合、何らかの異常が想定されるため、 故障に至る前に点検、修理を行う必要がある。しか し、すべてのファンを分解点検していては多くの時 間と労力を要する。実際に異常音が観測された状態 と修理後の音の変化を Fig.4,5 に示す。Fig.4 Spectrum before repair LFig.5 Spectrum after repairこれらの周波数特性を比較すると 1.2~1.5(kHz) の周波数で音圧レベルに顕著な差が出ている。音カメラは画面設定で、画面に表示させる周波数 および音圧レベルの範囲を指定することが可能であ る。そこで、1.2~1.5(kHz)かつ 50(dB)以上の周波 数のみ表示させると Fig.6(右上)のように表示され、 特異な周波数を出しているファンを特定することが できる。実際にこのファンを分解点検した結果、ベ アリング部に不具合があることが発覚した (Fig.7)。 修理を行い再度測定した結果、特異な周波数が出て いないことを確認した(Fig.6 右下)。このような異常音探査に限らず、騒音対策として 防音壁を設置した場合、音カメラを用いることで防 音効果を目で見て確認することができる。Fig. 6 Measurement situation and result of a measurementFig. 7 Abnormal part ;bearing of motor5. 振動方向推定理論設備が運転中に生じる音や振動には固有の周波数 を持っている。同じ固有周波数を持つ設備が複数設 置されている場所においては、音が共鳴しうなり音 を発生させることがあるが、振動の場合、設備の振 動が増幅(共振)することで疲労破壊を引き起こす 場合がある。そこで、振動の発生方向を画像上に表 示させる振動源探査装置「振動カメラ」の開発を行 った。Fig.8 に 4 個の振動センサーの位置関係を示す。 ただし、M1~M4 は振動センサー、Lはセンサー間距 離 (m) とする。また、Dij は Mi に対する Mj の時間遅 れ (sec)であると仮定し、cは振動の伝播速度(m/s) であるとする。なお、振動源は、振動センサー位置 から十分離れており、平面波として入射すると仮定 する。このとき、平面波の進行距離を表すことを考 える。例えば、Fig. 9 に示すような振動センサーMi, Mj があるとき、通過する平面波の進行距離は Dij?c (m) と表される。このとき水平角 ()は以下の式で 表される。tano = Pa..(4)Direction of vibrationDirection of vibrationメMM.MRM1Fig.8,9Position of Vibration sensorsサンプリング間隔は、波動の伝搬速度が最大 1000(m/s)と仮定すれば、センサーの間隔が 60(cm) の場合、通過時間は 0.0006(sec)となる。安定した位 相差時間を得るためサンプリング周波数を 160kHz)、 記録長は 1(sec)以上とした。対象とする環境振動の 振動レベルは、常時微動よりやや大きい振動である ため、振動の信号を増幅する必要があるため、入力 信号を ×1, ×5, × 10, × 50, × 100, ×500, ×2000, ×5000 の8段階の増幅切替えを可能とした。システ ム構成を Fig.10 に示す。振動到来方向の解析にあたっては、センサー間距 離と伝搬振動のデータ収録サンプリング間隔が重要 な要素となる。しかし、各センサーを固定した場合、 地盤面ではなく固定治具を振動が伝わり、正確な振 動到来方向が算出できない。そこで、センサー固定 のための治具については振動センサーが接地するま では位置が固定され、接地と同時に縁が切れる仕組 みとした。(Fig.11,12) また、可搬性および操作性 を考え折り畳み式とした。(Fig.13,14)Sensor amplifierCD cameraLow-pass filter10000000000000000 |Vibration sensorVideo capture unitPCA/D conversion unitFig.10 System configurationTIMETIT - Fig.11 State of lifted .Fig. 12 State of putFig.13 Fixed hardwareFig.14 State of fold4456. 振動源探査事例水力発電所では、水車や放水路につながるドラフ トトンネルなどで、様々な振動が発生している。ま た、振動を発生する設備が強固な鉄筋コンクリート 製の壁や基礎で固定され、それらの振動が伝搬しや すい状況下にある。通常、このような場所で振動発 生状況を評価することは非常に困難であるが、「振動 カメラ」を用いて振動を可視化する実験を試みた (Fig.15)。測定結果を Fig.16,17 に示す。(Fig.17 は Fig.16 の裏側から計測)Fig.16 では画面右側、Fig.17 では画面左側から振 動レベルの大きな振動が到来していることが確認で きる。振動探査では構造物や埋設物等による反射の 影響を受ける場合があるため、このように多角的に 測定し確認することが望ましい。そして振動レベル の大きな表示に向かって測定位置をずらしていき、 最終的な振動源を特定する。Fig. 15 Measurement situationFig.16 display of vibration cameraa0780Soit300 21 10枚12 10000101枚3000000Fig. 17 display of vibration camera ;the other side7.透明ディスプレイを用いた音源探査設備機器の異常音探査では他の設備や床・壁面等 の反射の影響を受けることが多いため、対象設備か らの距離や方向を変えながら多角的に測定を行うこ とで反射の影響を確認しながら測定を行ってきた。 しかし、従来の「音カメラ」はマイクロホンと小型 カメラが一体となった収録部と、音を表示するディ スプレイ部が離れていたため、ディスプレイで音の 発生状況を確認しながら収録部を移動させることは 困難であった。また、音の到来方向を解析し、画像 情報と合成させる処理で負荷がかかっていた。そこで、透明なディスプレイ上に音の情報を表示 させる「音メガネ」を開発した。これは透明ディス プレイの上部に小型マイクロホンが付いており、音 源対象物に本機をかざすことで、透明ディスプレイ 上に音の表示が現れる仕組みになっている。本機は ディスプレイが透明であるため、小型カメラから画 像を取り込む必要がなく、ディスプレイ越しに見て いる対象設備からどのような音が出ているか判別す ることができる。また、画像処理も不要となる。 (Fig.18,19)Fig.19 display of sound glass46Fig.18 Sound glass音メガネのシステム構成図を Fig.20 に示す。基本 成は、マイクロホン5本、無機ELディスプレイ、 ーーパスフィルタ、アンプ、解析器(パソコン)かなる。サンプリング周波数は 16(kHz)、測定対象 コ波数帯は 100(Hz) から 4,500 (Hz)、音圧レベルは(dB)から 110(dB)、A/D 変換は、多チャンネル A/D コードを使用している。無機ELディスプレイの有 ■表示部は 108(mm) ×230(mm)、表示色はアンバー4調、輝度は 150(cd)、ドットピッチは 0.9(mm) × 9(mm) である。マイクロホン群は、小型マイクロホ を採用したことに加え、マイクロホン間隔も従来が 35(mm) であったのに対し、2(mm)に改良した。 これにより小型軽量化を実現した。Sensor amplifierLow-pass filter5 microphonsOooooo/ 00000 00000/norganic electro uminescence display 4A/D conversion cardPC Fig.20 System configuration従来の音カメラは、水平 360(°)方向の発生音を イクロホン群により捉え、デジタルカメラの画角 合わせ画面表示を行っており、音情報と画像の合 範囲は、デジタルカメラの画角に合わせ画面表示 行っている。一方、音メガネの測定範囲(表示可 毛範囲)は、測定者がディスプレイ越しに視認でき範囲内の音情報のみとし、ディスプレイを持って、 を探すという使用方法になる。 音メガネは、反射の影響を受けやすい場所や設備 構成している部位が多い場合での測定を前提とし おり、対象設備に本ディスプレイを近接させて音 「見る」ことで異常音を探査する。状態監視にお て特異な周波数もしくは音圧レベルを把握できれ 、画面設定を行うことで対象の音だけが表示され ため、より異常部位を特定しやすくなる。3. おわりに設備の異常を早期に発見するため、平成 11 年より 一の発生状況を可視化する装置「音カメラ」の開発 行い、平成 13 年に初号機を開発した。その後、実 の設備を対象として異常音探査を積み重ね、低周 音探査装置や振動探査装置の機器開発も行ってき 。現在では火力設備、水力設備、変電設備、送電 備など多くの設備の異常音探査を行っている。 適用範囲を広げるため、更なる小型軽量化、測定 こ囲(周波数帯域)の拡大、測定精度の向上など更 る改良が求められている。 今後も、設備保守のニーズを把握しながら技術開 をすすめ、電力の安定供給に貢献できるよう努め いきたい。考文献 ] 上明戸昇,山下恭弘,財満健史,大脇雅直,杉 ■武:画像情報を組み合わせた音源方向推定システ の開発一野外実験による方向推定精度の検討一, 本音響学会講演論文集,p689-690, 2001 年3 月三]大脇雅直,財満健史,上明戸昇,野上英和,山 恭弘,杉山 武, 和田浩之:音源探査システムを利 した遮音効果の可視化への適用,日本音響学会建 音響研究会資料,AA2001-25, 2001 年8 月3] 野上英和,上明戸昇,山下恭弘,大脇雅直,財 青健史,杉山 武,和田浩之 :音情報と画像を組み込 だ音源探査システムの開発移動音源への適用一 本音響学会講演論文集,p843-844, 2002 年3 月] 上明戸昇,野上英和,富永大祐, 山下恭弘,財 方健史,大脇雅直,杉山 武,和田浩之:画像に音 報を組み込んだ音源探査システムの開発一反射影 の低減に関する検討一,日本建築学会計画系論文 集,第 564号, p1-7, 2003年2月5] 富永大祐,野上英和,山下恭弘,財満健史,大雅直,杉山 武,和田浩之:音情報と画像を組み っんだ音源探査システムの開発―パッシブ制御によ -反射影響の低減に関する検討一, 日本音響学会講 貢論文集,p889-890, 2003年3月“ “?音源探査装置の開発とその活用“ “和田 浩之,Hiroyuki WADA,大脇 雅直,Masanao OWAKI,山下 恭弘,Yasuhiro YAMASHITA
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