作業線量低減に向けた格納容器内線量率評価ツールの開発

公開日:
カテゴリ: 第7回
1. 緒言
様ではないため、原子炉水中の放射能濃度比だけで評価する方法には限界がある。放射能蓄積メカニズ 沸騰水型原子力発電所(BWR)の定期点検期間中 ムを考慮して個々の配管に適切に放射線源を設定で における放射線被ばくの多くは、原子炉格納容器内きる評価ツールが有効と考える。 部の作業で生じる。格納容器内部は、作業場所とし これらの点を踏まえ、格納容器内線量率評価ツー て、狭く線量率が高いという特徴を有する。作業線 ルを開発した。このツールは、プラントの定期点検 量を低減するためには、配管内面への放射能蓄積抑 停止前に、作業環境となる格納容器内部の放射線分 制による放射線源の低減や放射線管理面(時間、距 布を計算により予測評価するもので、被ばく低減の 離、遮蔽) による対策が有効である。これに加えて、検討に本ツールを活用するメリットとして、以下の 狭く高線量率であるという特徴から、作業環境の放 点が挙げられる。 射線分布を把握することも重要である。
【事前予測】定期点検開始前の作業計画段階におい - 格納容器内の放射線分布を把握する方法としては、て、作業環境の詳細な放射線分布(平面分布、立 各フロアに数点定めた場所の線量率を測定し、その体分布)を把握できるため、有効な被ばく低減策 測定値から簡易的に平面分布図を作成することが一を立案できる。 一般的である。しかし、格納容器内部には放射線源と
【対策評価】水質管理面(亜鉛注入や化学除染等) なる配管が入り組んでおり、遮蔽計算が複雑になるや放射線管理面(仮設・恒久遮蔽設置等)の効果 ため、平面分布図が正確に作成されているとは言いを定量的に計算評価できるため、被ばく低減対策 難い。また、作業内容や遮蔽設置の検討には、当該の導入を支援できる。 フロアの放射線源だけでなく上下階の放射線源の考
【情報共有】格納容器内部の構造物と放射線分布を 慮が不可欠であり、平面分布図だけでは十分でない。3次元で感覚的に確認できるため、被ばく低減に 作業線量低減に取り組むために、格納容器内部にあ関する放射線管理側と保修側あるいは作業者間 る全ての放射線源、構造物や遮蔽物を対象とした3での情報共有を支援できる。 次元での計算が可能な評価ツールが有効と考える。 プラント運転中には、格納容器内に立ち入ること格納容器内線量率評価ツールは、放射能蓄積の計 ができないため、定期点検時の作業計画段階で放射 算を行う水化学コード(ACTTUBE)と線量率分布 線分布を把握する方法としては、前回の定期点検時 の計算を行う線量率コード(RADTUBE)で構成さ の線量率に、今回/前回の運転中の原子炉水放射能 れる。いずれも核となる部分の開発は終わっており 濃度比を乗じることが一般的である。配管への放射 (詳細はそれぞれ文献[1]、[2]を参照されたい。)、実 能蓄積は、材質や表面処理など系統によって、また機データを用いた PDCA により、評価精度の向上や 同じ系統であっても水平/垂直/曲部等で異なり一 機能改良を図っている。本稿では、作業線量低減に向けた取り組みの支援ツールとして、RADTUBEの結果表示機能の改善を図った RADTUBE-3D を中心に、その概要・評価制度と、被ばく低減活動における評価事例について述べる。ールの開発
2. RADTUBE-3D の概要RADTUBE-3D の構成を Fig.1 に示す。主要配管の 放射能蓄積量をもとに放射線源分布を設定し、構造 物データを用いて遮蔽計算を行い、計算結果を2次 元あるいは3次元の放射線分布で表示する。 水化学コード線量率コード (ACTTUBE)(RADTUBE-3D)放射線源の設定主要配管代表点の 放射能付着量」+構造物データ放射線量率分布表示遮蔽計算フロア定点 平面分布? 3D分布等値曲面表示 断面移動表示 空間粒子表示Fig.1 RADTUBE-3D の構成 2.1 放射線源の設定 - 格納容器内の放射線環境は、再循環系や冷却材浄 化系等の配管の内表面に放射性腐食生成物が蓄積し、 それが複数の放射線源となって形成される。放射線 源として最も影響の大きい再循環系配管の模式図を Fig.2 に示す。これら配管への放射能蓄積量は、水 化学コード ACT-TUBE で計算する。 (※ 放射性核種はCo,5°Co, “Mn, Zn, Fe, ““Cr を考慮) PLR system Inlet RPVRPV OutletDistribution coefficientO Representative piping point Other piping pointFig.2 分配係数 格納容器内部の全体にわたる放射線分布を計算す るためには、放射線源となる全ての配管内面の放射 能蓄積に関するデータが必要であるが、ACT-TUBE で計算されるのは Fig.1 に示すように代表位置のみ のデータである。そこで、次のような仮定をおいて、 “分配係数”の概念を導入し、代表位置以外の全て の配管位置に対して設定した。- 当該位置の放射能蓄積量 分配係数 =代表位置の放射能蓄積量 分配係数導入にあたっての仮定 1 配管内面の放射能蓄積量と配管表面の線量率の比は、 ー どの場所でも同じ。放射性核種の組成比も同じ。 2 分配係数は、プラント運転によって変化しない。(前回定期点検時と同じ)浜岡原子力発電所では、プラントの試運転以降の 格納容器内部を含む放射線サーベイによる配管線量 率の測定データがある。仮定1のもと、これらの配 管線量率の測定データを配管位置と履歴で整理して、 全ての配管位置について分配係数を設定した。測定 データのない配管位置については、系統・材質・配 管径・水平/垂直別・位置関係から、類似した配管位 置と同じ分配係数を設定した。 1 以上のようにして、ACTTUBE から得られる代表 位置の放射能蓄積量と分配係数から、放射線源デー タを作成した。なお、仮定2では分配係数は不変で あるとしているが、実際にはプラントの状況によっ ては変わる可能性もある(例えば、配管へのクラッ ド堆積あるいは除去)。この場合、最新の配管線量率 の測定データとこれまでの履歴を確認して、必要に 応じて分配係数を見直すことで対応する。 2.2 構造物の設定 ・ 格納容器内の放射線分布の計算には、前項の放射 線源に加え、放射線の遮蔽物となる構造物のデータ (位置、材質、厚み、水の有無)が必要となる。こ れらの情報について、プラント建設時の図面や系統 設計仕様書(新しいプラントでは CAD データ)お よび建設後の工事仕様書等を調査して、構造物デー タを作成した。格納容器内部の構造物は膨大で全て を対象とするのは不可能であるため、放射線分布の 計算に必要と思われる仮設・恒久遮蔽(鉛毛マット、 鉄板)、ある程度の大きさ・厚みを有する配管・構造 物(弁、ポンプ、ローカルクーラ)と床面・階段を 対象とした。 - 構造物データは、円柱や球、直方体などの単純な 幾何モデルの組み合わせとして作成される。例とし て、格納容器内部の3次元モデルを Fig.3 に示す。 このようなモデルを用いて、現場写真との比較や、 作業者へのインタビューを行い、データを確認した。Fig.3 格納容器の3次元モデル1901/03/262.3 放射線分布の計算方法 格納容器内部の放射線分布は、次の手順で計算する。 i.格納容器内部をメッシュに分割する。各分割点が、線量率の評価位置となる。 ii. ある配管位置の内面の放射性物質を、長さ・角 度で“要素”に分割する。ここで放射性物質は、配管内面に一様に分布していると仮定する。 iii. 放射線源の各要素と評価位置の間に存在する構造物の材質(鉄・鉛・コンクリート・水)・ 厚みを考慮して放射線遮蔽計算を行い、線量率寄与を求める。 iv. 全要素の線量率寄与を足し合わせ、その配管位置の線量率寄与とする。 v. 全ての配管位置について i mivを繰り返し、全ての配管位置の線量率寄与を足し合わせ、評価 位置の線量率を求める。 vi. 計算対象とする範囲の全ての評価位置について、i ~vを繰り返す。 放射線遮蔽計算は、放射線源、遮蔽物、評価位置が 多数あることから、計算時間を考慮して、一般的な 点減衰核法で行うこととした。ビルドアップ係数や 換算定数は「放射線施設のしゃへい計算実務マニュ アル 2000 年度版(原子力安全技術センター)」を参 照した。計算時間は、評価対象範囲や分割数による が、格納容器全体(うち高線量率エリアの B2~3 階) を対象とした場合の標準条件である Table 1 で実施 する場合、Core2Quad Q9450 2.66GHz のパソコンで、 平面分布図で10時間、3次元表示で3日程度である。Table 1 格納容器内全体計算の対象数 種別メッシュ間隔 | 「総数 放射線源 軸方向 1.7~7.1 cm (配管・弁) 周方向 0.5~1.5 cm980,000 構造物・遮蔽物500 径方向 25cm 平面分布? 周方向 26~31cm18,000 (r, 0,z)高さ方向 5(各階)縦方向50cm 3次元表示 横方向50cm97,000 (x,y,z)高さ方向 30cm 2.4 放射線分布の表示方法RADTUBE-3D では、計算結果である放射線分布を、 以下の方法で出力・表示できる。 a. フロア特定点の数値 b. 平面分布図(線量率マップ) (Fig.4) c. 3次元分布表示 ○表示方法 ・等値曲面表示 (Fig.5 (a)) ・移動断面表示」 (Fig.5 (b)) ・空間粒子表示 (Fig.5 (c)) ○表示モード ・全体表示モード ・作業者視点モード(Fig.6)評?位置フロア特定点の線量率の計算値は、実測値である 放射線サーベイ記録の値と比較するための出力であ」 る。(浜岡3号機の定期点検停止時サーベイでは、格 納容器内に 40 点程度設定されている。)また、Fig.4 に示す平面分布図は、発電所の放射線管理区域内に 掲示される等、一般的な放射線管理に用いられる線 量率マップを作成するための表示方法である。これ らに加え、RADTUBE-3D では、格納容器内の放射線 環境を把握しやすいように、放射線分布を配管・構 造物と3次元画面で重ねて表示するため、3種類の 表示方法(等値曲面表示、移動断面表示、空間粒子 表示)と2種類の表示モード(全体表示モード、作 業者視点モード)を有している。1900/02/07B2Fig.4 計算結果(平面分布図)の表示例 星印は放射線サーベイ位置。色は線量率区分に対応(寒色から暖色にかけて線量率が高くなる)(a) 等値曲面表示4 (b) 移動断面表示(c) 空間粒子表示Fig.5 計算結果(3次元表示)の表示例 色は(a)では同一線量、(b)(c)では線量率区分に対応452- 等値曲面表示は、同一線量率の点を結ぶ曲面を表 示する表示方法で (Fig.5(a))、例えば 1mSv/h となる 範囲がなくなるよう仮設遮蔽の場所・位置を検討す る場合に利用できる。移動断面表示は、平面分布図 を垂直方向に移動させる表示方法で (Fig.5(b))、作 業場所の放射線分布を詳細に確認できる。空間粒子 表示は、分散させた評価位置の線量率の点を微小距 離だけランダムな方向に動かす表示方法で (Fig.5(c))、特に作業者視点モードで表示すること により、作業環境の放射線分布を感覚的に理解する ことができる。 - 全体表示モードでは、格納容器の3次元モデルを 上下左右移動・回転や拡大縮小することが可能で、 前述の3種類の表示方法を用いることで、任意の場 所の放射線分布を把握することができる。局所的な 放射線分布情報が得られることで、化学除染や遮蔽 強化の対象場所をより明確化できるなど、被ばく低 減対策の計画検討時に有効なツールになると考えて いる。作業者視点モードでは、Fig.6 に示すように、実際 の格納容器内に入った場合の視野で、作業環境を確 認することができる。前述の放射線分布の代わりに、 放射線源である配管等表面線量率を、色別あるいは 発生粒子量で表示することもでき、作業時に注意す べき放射線源を視覚的に確認することができる。RADTUBE-3D では、市販のゲーム用コントローラ による画面移動操作を採用し、線量率のメーター表 示や格納容器内の現在位置のナビ画面を表示するこ とで、格納容器内のウォークスルー機能を強化して いる。これにより、作業線量低減への取り組みにお いて、放射線管理部門での計画検討時だけでなく、 保修部門での作業計画や作業打合せの際の情報共有 ツールとしても活用できると考えている。なお、市 販の3Dテレビや3Dキット・対応モニタを用いれ ば、配管や構造物の3次元立体視、いわゆる3D 映 像を表示できるようにした。放射線分布の詳細を確 認するような検討には不要であるが、格納容器内に 入ったことのない新規作業者への教育等において、 感覚的な理解の手助けになると思われる。0.21Fig.6 計算結果(作業者視点モード)の表示例3. RADTUBE-3D の評価精度 3.1 計算条件RADTUBE-3D の評価精度を確認するため、浜岡4 号機第10回定期点検停止時を対象として、停止2 か月前に評価計算を実施して、計算値と実測値との 比較を行った。評価計算では、格納容器内のフロア 特定点(B2~3階の 26 ポイント)における線量率 を計算値として求め、プラント停止直後に行われた 放射線サーベイの結果を測定値とした。ACTTUBE の計算では、放射性物質の移行挙動を 規定するパラメータを過去の水質データ等から最適 化した後、前回の配管代表位置における放射能蓄積 量の測定値と当該運転サイクルの水質データから、 今回停止時における代表位置の放射能蓄積量が出力 される。RADTUBE-3D では、ACTTUBE の計算結果 を入力値として、過去の放射線サーベイ記録から設 定した分配係数と構造物データから、フロア特定点 における線量率が出力される。 - 浜岡4号機での評価計算は、両計算コードの開発 中に実施した仮計算から数えて3回目(定期点検毎 に実施、3号機でも同様に3回実施済)であり、プ ログラムエラーや構造物データの入力ミス等の根本 的な誤りはすでに解消しており、両計算コードの調 整要素である水化学挙動パラメータや分配係数等も 一度最適化を行って再度微調整したものを用いてい る。つまり、今回の評価計算は、PDCA による評価 精度向上の取り組みの一過程である。 3.2 評価精度 * フロア特定点の線量率の計算値と実測値の比較を Fig.7 に示す。計算値と実測値の線量率の高低の傾向 は概ね一致している。特に、被ばく低減の検討を行 う上で重要な 1.0mSv/h を超えるポイントで良く一 致しており、実用上問題のない結果と思われる。口計算? 口実測値放射線量率 [mSv/h]Bradla taradln in lashine, nanonlin1FB23F 2FB1 測定ポイント Fig.7 計算値と測定値の比較 次式で定義した計算値と実測値の計算誤差のばら つきのヒストグラムを Fig.8 に示す。計算誤差[%]=(計算値一実測値)÷実測値 × 100 計算誤差のばらつきの中心は0ではなく 30%にシフ トしている。今回の評価計算では、ACTTUBE によ る放射能蓄積量(≒PLR 配管線量率) の結果も、30% 程度高めにずれており、そのずれをそのまま反映す453る結果となった。逆にいえば、RADTUBE-3D ではほ とんどずれなかったと見ることができる。 1 評価精度としては、化学・放射線管理部門で古く から言われている“倍・半分の世界”を参考に、当 面の目標を+50%に置いている。この観点からは、 0.1 mSv/h 以下の低い線量率で大きく外れたポイン トが2つあるものの、+50%以内に8割近くのポイ ントが収まっており、良好な結果が得られたと考え ている。 - なお、前回・前々回の定期点検停止時に行った 1,2 回目の評価計算では、±50%以内に入ったポイント は各々3, 5 割程度であった。これより、PDCA によ る評価精度向上の取り組みが着実に効果をあげてい ると言うことができる。■ > 1.0 [mSv/h] 10.1~1.0 ■<0.1---------------1900/01/01測定ポイント数、------- L LIインンのベランLINE1900/01/101900/01/02
“ “?作業線量低減に向けた格納容器内線量率評価ツールの開発“ “稲垣 博光,Hiromitsu INAGAKI,葛谷 敏男,Toshio KUZUYA
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)