運転中保全の社会的説明性

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カテゴリ: 第7回
1. はじめに
り上がり、技術開発に弾みが付いた。世界的な原子 2005年11月から原子力安全・保安部会「検査 カルネッサンスの隆盛と低炭素化社会の認識が深ま の在り方に関する検討会」が再開され、日本機械るにつれ、国民の原子力に対する理解も好転してき 学会は長期運転サイクルの導入も可能とする5 ていると思われる。 パターンの新検査制度の提案を、保全学会は状態 監視や運転中保全(オンラインメンテナンス)を 可能とする新規技術の紹介と採用提案を行なっ た。また、これらをきっかけとして、多くの学協 会の連携の基に、基準の策定作業が開始された。 2009年1月には新検査制度開始に向けた省令の 改正が行われ、新検査制度が開始された。プラン ト毎の状況を適切に把握し、これを踏まえた保全 計画を届出ることが求められる。既に全国の発電 所の保全計画が提出され、新検査制度のもとで、 状態監視や信頼性重視保全が開始され、適宜立ち 入り検査も行われている。*75 '80 '85 '90 '95 0 0 - 近年、わが国の原子力発電所の設備利用率は60%図1 設備利用率の日米の比較 台に低下し、90%台に向上した欧米の原子力発電所 に大きく水を開けられてしまった(図1)。10 年間 で大きく低下している。これは、定期検査時に実施2. 運転中保全の社会的説明性 される開放点検・分解点検といった旧来の点検方法 にしばられ、欧米が進んで行った状態監視保全や運機器の異常が検知された場合、適切な手順の基 転中保全といった新しい概念に基づく保全技術の開 で運転中保全が実施される。運転中保全の実施が 発が長らく実施されていなかったことによる。この プラントの安全性・信頼性確保に特に効果的であ 他にも各種の不祥事や不具合事象が国民やマスコミ るが、定期検査時に集中していた保全作業が運転 の批判を浴び、地元の了解が得られないと運転を再 中にも分散されることから、作業員の作業時間設 開できないといったことも、欧米に比べてトラブル 定のフレキシブル化や雇用の安定が期待できる。 後の停止期間が異常に長いという具体的な数値デー 一方、地元では、保全や検査方法が変わることに タとなって現れている。このほか、中越沖地震被災伴うリスク発生の有無、長期サイクル運転に移行 後の集中点検や耐震補強工事の全国水平展開などもした場合の作業量や雇用の減少、地元経済への影 大きく影響している。ようやく昨年、省令が改正さ響などが懸念されている。 れ、13 ヶ月毎の定期検査から、長期サイクルへの移運転中保全のスムーズな導入のためには、国民 行が可能となった。これに伴い状態監視保全や運転や地元に運転中保全の意義やメリットわかりや 中保全 (OLM: Online Maintenance)の実施機運が盛すく説明する必要がある。図2は航空機と自動車の保全の概念を示した図である。航空機ではジェットエンジンの軸振動などは航行中にデータが1 地上に送られ、軸振動の増大やエンジン温度の異
常が検知されれば、着陸した空港でエンジンの交 換などが速やかに行われる。身近な例では、自動 車も運転中にエンジン音などでエンジンが順調 か否かすぐ判断できる。運転中の状態監視保全が 有効な例である。車検はいわば原子力発電所の年 次点検に相当する。すでに 24 ヶ月点検が先取り されている。原子力発電所の運転中保全の概念を 図3に示す。航空機や自動車と異なるのは、100% 定格出力運転中も極めて安全に設計されている ことである。炉心の流量は確保され、炉心の除熱 はしっかり行われている。多重性と多様性を有す る系統設計が成されているので、わざわざ原子炉 の運転を停止する必要は無い。リスクを有為に上 昇させない運転中保全の手順をしっかり定めて おけば、安全を維持して運転中保全は可能である。航空機の場合自動車の場合飛行中にジェットエンジンの 振動・温度を遠隔監視運転中にエンジン音の異常が あれば、ガソリンスタンドや 自動車整備工場で修理こん 異常があれば着陸後エンジンを交換燃両者とも停止(着陸・停車)してから保全(修理)を行う 移動中は衝突回避が必要で、停止している状態が安全航空機の場合自動車の場合、飛行中にジェットエンジンの 振動・温度を遠隔監視運転中にエンジン音の異常が あれば、ガソリンスタンドや 自動車整備工場で修理異常があれば着陸後 エンジンを交換両者とも停止(着陸・停車)してから保全(修理)を行う 移動中は衝突回避が必要で、停止している状態が安全図2 航空機と自動車の保全の概念 新検査制度・原子戸運転中MT110004「新検査制度・状態監視保全中」図3 原子力発電所の運転中保全の概念 (三菱重工 濱本和子氏・JNES 小林正英氏との共同作品)「新検査制度・状態監視保全中」図3 原子力発電所の運転中保全の概念 (三菱重工 濱本和子氏・JNES 小林正英氏との共同作品)4.まとめ新検査制度 に先進的な なった。運転 最小限にした 要がある。運3.欧米の運転中保全 欧米の原子力発電所の検査を調査する機会に恵ま れたので、グッドプラクティスとして紹介する。 例えば、フィンランドの原子力発電所の保全活動は、 主に運転中に実施され、原子炉の停止期間はわずか 7日余りである。設備利用率は米国を上回り 96%台 に達している。図4は米国サウステキサスプロジェ クトの運転中保全を見学した際の写真である。状態監視保全と併用され、緻密な計画の基に運転中保全 が実施されている。例えば非常用 DG のメンテナン スではこの期間だけセキュリティレベルを緩和し、 作業員の出入と機材の搬出入を迅速に実施している。 ポンプの点検は建屋の上からインペラと主軸を一体 としてクレーンで吊り上げ、メンテナンスの済んだ 予備品と速やかに交換している。図5は米国リバー ベントでの保全の社内誌である。「ゼロ災」と ALARA を旗印に、保全作業をする人を顔写真入り で紹介している。「我々の任務は保全作業」といった 内容である。作業する人がみな誇りと気概に満ちて 活き活きと保全活動していることが印象に残った。PWR 1315 kW EDG 6MW 2A Streng Nuclear図4 米国サウステキサス PJでの運転中保全Our Mission Is Our Job It Is What We Doaty CultureOur Missies ““We safely, reliably and affordably generate electricitythrough our mastery of fundamentals.““This care of the Hand ~ OF100万kW図5 米国リバーベントでの保全の社内誌より 新検査制度の導入により、我が国も欧米のよう に先進的な状態監視保全や運転中保全が可能と なった。運転中保全は、炉心損傷リスクの上昇を 最小限にした上で、適切な手順の基に実施する必 要がある。運転中保全が1安定運転の確保(事業 者)、2地元雇用の安定化、3安全性・信頼性の 確保(国民)、4設備利用率向上による CO2排出 削減(地球)と4方得となる。これらを地元や国 民に地道に説明していくことが我が国の発展に 必要である。運転中保全を実施するにも新たな保全 技術の開発が必要である。安全性を確保しつつ、運 転中保全を推進することが必要である。 - 458 -
“ “運転中保全の社会的説明性“ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI
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