リスクと保全:諸外国における原子力への適用実績
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カテゴリ: 第7回
1.はじめに
欧米主要国の原子力発電所におけるリスク情報活 用の実態を、特に、運転・保守分野について、関連 規制を含めて概説する。2. 米国の関連規制 米国では TMI 事故のあと確率論的リスク解析 (PRA)技術が進展し、規制面においても従来の決 定論的なアプローチを補完するものとして、リスク 情報の利用が進められるようになった。1995年8月には、原子力規制委員会(NRC)の規 制において確率論的リスク解析(PRA)をより一層 活用していく方針が表明されたい。そこでは、全て の規制上の問題において、深層防護の原理を支持し、 従来の決定論的なアプローチを補完するよう、そし て最新の技術でサポートされる範囲で、PRA で得ら れる洞察をより多く使用していく、とされた。また、 ? PRA は現行の要件の不必要な保守性を低減する ために、また、追加の規制要件の提案をサポートするために使用されること、 ・ 可能な限り現実的な評価とすること、そして、新しい要件の提案及びバックフィットの必要性 について規制上の判断を行う際には、不確かさ を適切に考慮して、NRC の安全目標及び補助的 な数値目標を用いること、 という方針が示された。 現行の規則の多くは決定論に基づく規範的な要求 事項からなっており、直ちに置き換え可能なもので はない。従って、現行の規制要件を維持しつつ、一 一方でリスク情報を活用したパフォーマンスベースの 規制を検討し導入していく、との考えの下で、リス ク情報を活用した規制が進められてきている。 1998年には、リスク情報活用の規制ガイダンスとスと
して、Reg.Guide 1.174(許認可ベース変更の全般的 基準)の他に、Reg.Guide 1.175(ポンプ、弁の供用 期間中試験(IST))、Reg.Guide 1.176(グレード別品 質保証)、Reg.Guide 1.177 (Tech. Spec.)、Reg.Guide 1.178(配管の供用期間中検査 (ISI))が公表された。 そこでは、以下の原則を満たせば、リスク情報を活 用して各発電所の認可ベースを修正できることにな った23。 ・ 提案された認可ベースの変更が、現在の規制に適合していること ? 深層防護の概念を維持していること ・ 十分な安全裕度を維持していること 認可ベースの変更による炉心損傷頻度やリスク の増加は小さく、NRC の安全目標政策声明書の 主旨に合致していること 認可ベースの変更による影響は、パフォーマンス の測定により監視されること リスクの増分に関する許容ガイドラインは、炉心 損傷頻度(CDF)と早期大規模放出頻度(LERF)に ついて規定される(CDF については図1参照)。そ して、リスク評価と工学的評価から、総合的に評価 され、認可ベースの変更の可否が最終決定される(図 2参照)。OF→Region IRegion I? No Changes Allowed Region II ?SmallChanges ? Track Cumulativo Impacts Region III ? Very Small Changes ? More Flexibility withRespect to Baseline CDF ? Track Cumulative Impacts2019/10/05Region II 10-6Region III1 104 CDF 図1 炉心損傷頻度(CDF)に関する 許容ガイドライン(Reg. Guide 1.174) 12]105→459従来の 決定論的解析従来の 決定論的解析PRA提案する 変更点の抽出総合的な 工学的解析の実態実施及び監視ブログ グラム(パフォー マンスペース)の決定変更案の文書化 及び提出図2 リスク情報に基づくプラント個別の 意思決定プロセス (Reg. Guide 1.174) 131リスク情報の適用分野としては、NRC による原子 炉監視プロセス(ROP)、保守規則対応、Tech. Spec.(サーベイランス試験間隔、許容待機除外時間など)、 供用期間中検査(ISI)、格納容器漏洩率試験、品質 保証要件/安全クラス分類などがある。また、関連 規制として、以下のものが制定されてきている。 ・ 保守規則 (原子力発電所の保守の有効性を監視するための要件) (10CFR50.65 : 1991 年制定、1999 年改訂) . 可燃性ガス制御要件(10CFR50.44:2003 年改訂) ・ 機器の重要度分類(特別な取り扱い要件)(10CFR50.69 : 2004年公表) ? 格納容器漏洩率試験 (10CFR50 附則 J : 1995 年改訂) ・ 火災防護規則(10CFR50.48 (c) : 2004 年改訂) ・ ECCS 規則(10CFR50.46 : 検討中)未実施のサーベイランス試験について、 リスク評価及び管理した上で次回の試 験時まで延期する。 設備が故障した場合に、リスク評価及び 管理した上で、運転モードを下げずに復 旧措置を実施できるようにする。リスク情報を活用して許容待機除外時 Tech. Spec.間(AOT)を延長する(例、非常用 DG (主要な適用上の AOTを3日から14日に延長)。 例)LCO 逸脱時に、コンフィグレーションに (続き)応じたリスク評価モデルを使用して、 AOT の延長の適否を判断。リスク管理 Tech. Spec.と呼ばれる。 リスク情報に基づいてサーベイランス 試験間隔を延長する。 サーベイランス頻度を事業者管理文書 に移す。頻度はリスク情報に基づき設定 し、NRC の事前承認を不要とする。 配管溶接部の検査箇所を、従来の決定論ではなく、リスクの大きさに基づいて選 供用期間中検)定することで、検査箇所/被ばく線量の 査(ISI)低減につなげる。EPRI手法と WOG の手 法がある。1995 年に規則が改定され、過去のパフォ 格納容器漏洩ーマンスに応じて試験頻度が延長でき 率試驗るようになった。 従来の安全関連という分類に加えて、リスク重要度に応じた設備の重要度分類 品質保証要を認める。安全上の重要度が低ければ、 件・安全クラス安全関連の設備でも、特別な取り扱い要 分類件(供用期間中試験(IST)、品質保証な ど)が免除される。リスク情報の適用分野ごとに、リスク情報がどの ように活用されているかについて以下の表に取りま とめた3]。表1 運転保守分野でのリスク情報の活用方法 適用分野リスク情報の活用方法NRC による規制検査では、リスク上重要な設備状態や事象に主眼が置かれる。指 NRC による原|摘事項の重要性は、リスク重要度に応じ 子炉監視プロ て色分けされる(重要度決定プロセス セス(ROP) (SDP))。パフォーマンス指標(PI)のしきい値設定にリスク情報を活用。事業 者側は、SDP クロスチェックを実施。リスク上重要な設備 (SSC)に対しては、 保守規則対応:運転パフォーマンスの監視単位を細か (a)(2) 項くする(SSC レベルでの監視) 保守に伴うリスクを評価し管理することが要求されている。設備の待機除外に 保守規則?心|伴うリスクの評価(定性的あるいは定量 (a)(4) 項的)とリスク管理措置が必要。これを満たせば、運転中保全が実施可能。 Tech. Spec. 最終状態の変更:運転制限条件(LCO) (主要な適用|逸脱時に、冷態停止ではなく、リスク評 例)価した上で温態停止に移行可とする。3.米国の適用状況保守分野へのリスク情報活用の実践として、保守 規則への対応とリスク情報を活用した供用期間中検 査(RI-ISI)を取り上げた4,S)。事業者の保守規則への対応においては、リスク上 重要な設備(構築物、系統、機器:SSC)の確認と パフォーマンスの監視に、リスク情報が利用されて おり、(運転中、停止中ともに)保守作業時のリスク の評価と管理のために、定性的/定量的リスク評価 が利用されている。停止時保守のリスク評価は、深 層防護(DID)の観点から定性的評価が、また運転 中の保守作業のリスク評価ではコンフィグレーショ ンに応じたリスクを計算するモデル(リスクモニタ ー、図3 参照)が使用されている。安全系の設備の 場合、許容待機除外時間(AOT)の制限を遵守する ことは言うまでも無いが、計画段階では AOT の概ね 50%以内で作業を計画するのが慣例である。運転中の保守作業時にリスク管理措置(RMA)が 必要になるかどうかの判断は表 2 に示すしきい値が 使用される。460-----------------------図3 リスクモニターの画面表示例表2 リスク管理措置(RMA) アクションのしきい値(NUMARC 93-01) 141 炉心損傷確早期大規模放対策 率の増分出確率の増分> 1E-5自主的には保守を実施しない>1E-60~1E-5定量化できない要因を評価 リスク管理措置の実施1E-7 ~ 1E-6<1E-6通常の保守作業管理<1E-7リスク管理措置(RMA)としては、作業スケジュ ールの短縮、再調整、ヒューマンエラー発生確率の 低減(特別な訓練や手順書の作成、管理者の関与) といったリスク低減措置や、不測事態対応計画の作 成(例、代替系統の使用計画、代替措置のための運 転員の配備、待機設備の事前試験)、あるいは運転状 態の変更(例、バックアップ系統の運転、リスクを 増大させる可能性のある作業の最小化)といったリ スク相殺措置が、リスク増分の大きさに応じて取ら れる。米国ではこのような保守規則への対応によって、 発電所の関係者全体で保守作業のリスク影響への注 目が増加するとともに、運転中保全の活用によって、 柔軟な保守作業スケジュールの立案、停止時の複雑 な作業の低減、保守作業の品質向上といった便益が 得られている。なお、運転中保全に伴うリスク影響に関する NRC の規制上の見解は以下のような経緯をたどっている。 ・ 運転中に実施される保全の量と頻度が増加して いることが、NRC の調査から判明 (1994年)。特 に、Tech. Spec.の許容待機除外時間(AOT)を守 った上で、複数の設備を同時に保守のために供用 外にしている事例が見られた。AOT は、一つの 系統内でランダムな単一故障の発生を想定した ものであって、同時に複数の装置が供用外にされ る場合の条件を規定するものではない、と認識。 1994年 10月、事業者に対して、「Tech. Spec.に従 って系統の保全を行っても良いが、同時に複数の 系統に保全を行う場合には、安全性への影響を総 合的に評価する必要がある。」との通知を発行。 ? 1991 年制定の保守規則で、保守作業時のリスク推奨評価・管理の要件を規定(1999年の改訂で、推奨 ベースの記述を変更し、義務付け)。RI-ISI は、従来の ASME Sec XI に基づく決定論的 なアプローチではなく、配管の破損確率と破損時の 安全上の重要度に応じて検査方法を設定するもので、 EPRI(米国電力研究所)手法と WOG(Westinghouse 社製 PWR のオーナーズグループ)手法が開発されて いる。WOG 手法は EPRI手法に比べてより定量的な 評価手法を、特に配管の破損確率評価について採用 している。WOG によるリスク情報に基づく配管 ISI の見直しプロセスについて、図4に示す。 1 評価対象系統に含まれる配管セグメントは、破損 による安全上の影響と、破損確率の二つの視点から 4グループに分類される(図5参照)。第1グループ は安全上の影響が大きく、破損確率も高い第1象限 の部分である。第2グループは安全上の影響は大き いが、破損確率の低いグループであり第II象限の部 分。第III象限は安全上の影響は小さいが破損確率の 高いグループ。第IV象限は両者とも小さい、もしく は低いグループである。なお第I象限は更に、破損 確率が特に高いと評価されたグループ(A)とそれ 以外のグループ(B)の二つに分けられる。各象限で ( )で示した数字は、サリー発電所1号機で分類した 場合のセグメント数である。この 4 分類にあたって は、社内エキスパートチームが定量的な検討をベー スに定量的検討では考慮されなかった様々な事項を 含めた総合的な検討を加えている。WOG 資料によれば、WOG 手法の適用によって検 査の件数が、約 65%~80%削減される(図6)。ま た、それに伴って作業時の被ばく線量も低減でき、 10年間の検査間隔にわたって合計で、60~75 レムの 節約につながるとされている。安全上の意要 度の評価エキスパート チームによる ??評価対象系統 とセグメント の決定リスクの評価検査方法等の 決定新方式での 検査の実施」配管破損確率 の評価フィードバック 活動図4 WOG によるリスク情報に基づく配管 ISI の見直しプロセス(ICONE 10-22732) 51事業者が検査ブログ ラムの中で決定(A)全数検査破損確率(B)サンプリング検査 「第1象限(70 セグメント)第III象限(153 セグメント)破損確率耐圧試験、目視検査のみサンプリング検査| 第IV象限 (254 セグメント) 「第1象限 (38 セグメント)破損の安全影響:小破損の安全影響:大図5 検査方針検討マトリックス(数字は、Surry-1 のセグメント数) (ICONE 10-22732) [6]1901/04/05■ 左:従来(ASME XI)の方式 口右: WOG のリスク情報に基づく ISI6001 500 400 3001 20041 100611Asco 1Asco 2McGuire 1McGuire 2Millstone 3North Anna 1North Anna 2PalisadesSequoyah 1Sequoyah 2Surry 1Surry 2 Turkey Point 3Turkey Point 4Watts Bar 1図6 配管溶接部の検査件数の削減例(ICONE 10-22732) [5]4. 欧州の状況スウェーデン、フィンランド、スペインなどで RI-ISI の導入が進んでいる。スウェーデンでは、1988 年の規則で定性評価を導入し、5 年後に義務化され た。2000 年には定量評価も導入された。フィンラン ドでは、2003 年に指針を改定し導入された。新設炉 に対しては義務付け、既設炉はオプションという扱 いである。なおフィンランドではリスク情報を活用 した規制の導入が進められていて、ISI 以外にも、IST や Tech. Spec.への適用についての検討も進んでいる。 スペインでは 2000 年に米国流の指針が採用されて おり(オプション)、いくつかの事業者は WOG の手 法を適用し承認を受けている。フランスの規制側は 全般的にリスクの活用の導入に慎重な立場である。 事業者は構造物に対する RCM(信頼性重視保全)手 法をパイロット適用しているが、RI-ISI は導入され ていない。スイスではパイロット研究が実施された。 英国、ドイツ、ベルギーでは、RI-ISI は適用されて はいない。欧州のプラントは、フランス、スペイン等を除き、 いわゆる N+2 基準(50%容量×4系統;単一故障&1 つの冗長トレインが保守中と想定)で設計されてい るものが多い。その場合、安全系の冗長性が高く、 運転中保全を実施しやすい状況にある。特にドイツ、 フィンランド、スペインでは安全系設備の運転中保 守について規制要件が設けられている)。ドイツで は、運転中保全の実施を認める政府の勧告が出され ており、手順書あるいは保全計画書に記載の待機系 について1度に1トレインの実施が認められている。 フィンランドにはN+2 設計と N+1 設計の発電所があ るが、それぞれ Tech. Spec.の制限内で運転中保全が 実施可能である。その場合、予防保全によるリスク 重要度の検討が必要である。スウェーデンの N+2 設 計の発電所は運転中保全が可能であるが、N+1 設計 の発電所ではその実施はかなり限定される。スイス では 2001 年の NEA 報告の段階では、2プラント(ラ イブシュタット、ゲスゲン)で運転中保全が適用され ている。米国や我が国と同じ N+1 設計の発電所を持 のスペインでは、米国の保守規則が導入され、運転中保全が可能である。ただし、その実施は限定的で あり、発電所によっても実施の程度に差がある。例 えば、コフレンテス発電所(BWR)では、許容待機除 外時間 (AOT) が 72 時間以上、作業時の最大許容時 間はその 60%に限定、年1回で1トレインのみ、と している。N+1 設計のフランスでは、Tech. Spec.の制 限に基づく運転中保全の実施はかなり限定されてい る。N+2 設計の英国では運転中保全の実施計画が策 定されている。5. まとめと課題欧米諸国、特に米国ではリスク情報の活用が進ん でいる。運転保守面へのリスク情報活用によって、 柔軟な運転保守が可能になり、(規制側・事業者側と もに)不要な負荷が低減し、安全性の向上にもつな がっている。なお、リスク情報の更なる活用に向け ては、PRA の品質向上の必要性が認識されており、 そのためのスタンダードが NRC において作成され ている(Reg. Guide 1.200「リスク情報に基づく活動 のための PRA 結果の技術的妥当性決定のアプロー チ」、2009年3月、改訂2版)。このように、特に米国において、リスク情報は規 制面においても積極的に活用されているが、あくま でもリスクベースの規制ではないことに留意が必要 である。リスクは測定できない(モデルを使った評 価にならざるを得ない)、モデルは完全ではない、と いった理由から、不完全な知識を補うために、深層 防護や安全マージンといった従来の決定論的なアプ ローチも、パフォーマンスの監視とあわせて使用し ていく、というのが NRC の考えである。NRC では この考え方に基づいて、リスク情報を活用したパフ ォーマンスベースのアプローチを導入している。参考文献 [1] US NRC, “Use of Probabilistic Risk AssessmentMethods in Nuclear Regulatory Activities”, 60 FR42622; August 16, 1995 [2] US NRC, “An Approach for Using Probabilistic RiskAssessment in Risk-Informed Decisions on Plant -Specific Changes to the Licensing Basis““,Regulatory Guide 1.174, Revision 1, November 2002 [3] EPRI White Paper, “Safety and Operational Benefitsof Risk-Informed Initiatives”, February 2008 [4] 伊藤邦雄,“米国原子力発電所の保全とその安全管理- (2) オンライン保守とその安全管理”, 保全学, Vol.7, No.4(2009年1月) [5] Boggess C. L. et. al., “Developments onImplementation of WOG Risk-informed Inservice Inspection Methodology”, ICONE 10-22732, April14-18, 2002. [6] NEA/CNRA/R(2001)6, Inspection of Maintenance onSafety systems during NPP operation, Aug. 20011901/04/06“ “リスクと保全 :諸外国における原子力への適用実績“ “伊藤 邦雄,Kunio ITO
欧米主要国の原子力発電所におけるリスク情報活 用の実態を、特に、運転・保守分野について、関連 規制を含めて概説する。2. 米国の関連規制 米国では TMI 事故のあと確率論的リスク解析 (PRA)技術が進展し、規制面においても従来の決 定論的なアプローチを補完するものとして、リスク 情報の利用が進められるようになった。1995年8月には、原子力規制委員会(NRC)の規 制において確率論的リスク解析(PRA)をより一層 活用していく方針が表明されたい。そこでは、全て の規制上の問題において、深層防護の原理を支持し、 従来の決定論的なアプローチを補完するよう、そし て最新の技術でサポートされる範囲で、PRA で得ら れる洞察をより多く使用していく、とされた。また、 ? PRA は現行の要件の不必要な保守性を低減する ために、また、追加の規制要件の提案をサポートするために使用されること、 ・ 可能な限り現実的な評価とすること、そして、新しい要件の提案及びバックフィットの必要性 について規制上の判断を行う際には、不確かさ を適切に考慮して、NRC の安全目標及び補助的 な数値目標を用いること、 という方針が示された。 現行の規則の多くは決定論に基づく規範的な要求 事項からなっており、直ちに置き換え可能なもので はない。従って、現行の規制要件を維持しつつ、一 一方でリスク情報を活用したパフォーマンスベースの 規制を検討し導入していく、との考えの下で、リス ク情報を活用した規制が進められてきている。 1998年には、リスク情報活用の規制ガイダンスとスと
して、Reg.Guide 1.174(許認可ベース変更の全般的 基準)の他に、Reg.Guide 1.175(ポンプ、弁の供用 期間中試験(IST))、Reg.Guide 1.176(グレード別品 質保証)、Reg.Guide 1.177 (Tech. Spec.)、Reg.Guide 1.178(配管の供用期間中検査 (ISI))が公表された。 そこでは、以下の原則を満たせば、リスク情報を活 用して各発電所の認可ベースを修正できることにな った23。 ・ 提案された認可ベースの変更が、現在の規制に適合していること ? 深層防護の概念を維持していること ・ 十分な安全裕度を維持していること 認可ベースの変更による炉心損傷頻度やリスク の増加は小さく、NRC の安全目標政策声明書の 主旨に合致していること 認可ベースの変更による影響は、パフォーマンス の測定により監視されること リスクの増分に関する許容ガイドラインは、炉心 損傷頻度(CDF)と早期大規模放出頻度(LERF)に ついて規定される(CDF については図1参照)。そ して、リスク評価と工学的評価から、総合的に評価 され、認可ベースの変更の可否が最終決定される(図 2参照)。OF→Region IRegion I? No Changes Allowed Region II ?SmallChanges ? Track Cumulativo Impacts Region III ? Very Small Changes ? More Flexibility withRespect to Baseline CDF ? Track Cumulative Impacts2019/10/05Region II 10-6Region III1 104 CDF 図1 炉心損傷頻度(CDF)に関する 許容ガイドライン(Reg. Guide 1.174) 12]105→459従来の 決定論的解析従来の 決定論的解析PRA提案する 変更点の抽出総合的な 工学的解析の実態実施及び監視ブログ グラム(パフォー マンスペース)の決定変更案の文書化 及び提出図2 リスク情報に基づくプラント個別の 意思決定プロセス (Reg. Guide 1.174) 131リスク情報の適用分野としては、NRC による原子 炉監視プロセス(ROP)、保守規則対応、Tech. Spec.(サーベイランス試験間隔、許容待機除外時間など)、 供用期間中検査(ISI)、格納容器漏洩率試験、品質 保証要件/安全クラス分類などがある。また、関連 規制として、以下のものが制定されてきている。 ・ 保守規則 (原子力発電所の保守の有効性を監視するための要件) (10CFR50.65 : 1991 年制定、1999 年改訂) . 可燃性ガス制御要件(10CFR50.44:2003 年改訂) ・ 機器の重要度分類(特別な取り扱い要件)(10CFR50.69 : 2004年公表) ? 格納容器漏洩率試験 (10CFR50 附則 J : 1995 年改訂) ・ 火災防護規則(10CFR50.48 (c) : 2004 年改訂) ・ ECCS 規則(10CFR50.46 : 検討中)未実施のサーベイランス試験について、 リスク評価及び管理した上で次回の試 験時まで延期する。 設備が故障した場合に、リスク評価及び 管理した上で、運転モードを下げずに復 旧措置を実施できるようにする。リスク情報を活用して許容待機除外時 Tech. Spec.間(AOT)を延長する(例、非常用 DG (主要な適用上の AOTを3日から14日に延長)。 例)LCO 逸脱時に、コンフィグレーションに (続き)応じたリスク評価モデルを使用して、 AOT の延長の適否を判断。リスク管理 Tech. Spec.と呼ばれる。 リスク情報に基づいてサーベイランス 試験間隔を延長する。 サーベイランス頻度を事業者管理文書 に移す。頻度はリスク情報に基づき設定 し、NRC の事前承認を不要とする。 配管溶接部の検査箇所を、従来の決定論ではなく、リスクの大きさに基づいて選 供用期間中検)定することで、検査箇所/被ばく線量の 査(ISI)低減につなげる。EPRI手法と WOG の手 法がある。1995 年に規則が改定され、過去のパフォ 格納容器漏洩ーマンスに応じて試験頻度が延長でき 率試驗るようになった。 従来の安全関連という分類に加えて、リスク重要度に応じた設備の重要度分類 品質保証要を認める。安全上の重要度が低ければ、 件・安全クラス安全関連の設備でも、特別な取り扱い要 分類件(供用期間中試験(IST)、品質保証な ど)が免除される。リスク情報の適用分野ごとに、リスク情報がどの ように活用されているかについて以下の表に取りま とめた3]。表1 運転保守分野でのリスク情報の活用方法 適用分野リスク情報の活用方法NRC による規制検査では、リスク上重要な設備状態や事象に主眼が置かれる。指 NRC による原|摘事項の重要性は、リスク重要度に応じ 子炉監視プロ て色分けされる(重要度決定プロセス セス(ROP) (SDP))。パフォーマンス指標(PI)のしきい値設定にリスク情報を活用。事業 者側は、SDP クロスチェックを実施。リスク上重要な設備 (SSC)に対しては、 保守規則対応:運転パフォーマンスの監視単位を細か (a)(2) 項くする(SSC レベルでの監視) 保守に伴うリスクを評価し管理することが要求されている。設備の待機除外に 保守規則?心|伴うリスクの評価(定性的あるいは定量 (a)(4) 項的)とリスク管理措置が必要。これを満たせば、運転中保全が実施可能。 Tech. Spec. 最終状態の変更:運転制限条件(LCO) (主要な適用|逸脱時に、冷態停止ではなく、リスク評 例)価した上で温態停止に移行可とする。3.米国の適用状況保守分野へのリスク情報活用の実践として、保守 規則への対応とリスク情報を活用した供用期間中検 査(RI-ISI)を取り上げた4,S)。事業者の保守規則への対応においては、リスク上 重要な設備(構築物、系統、機器:SSC)の確認と パフォーマンスの監視に、リスク情報が利用されて おり、(運転中、停止中ともに)保守作業時のリスク の評価と管理のために、定性的/定量的リスク評価 が利用されている。停止時保守のリスク評価は、深 層防護(DID)の観点から定性的評価が、また運転 中の保守作業のリスク評価ではコンフィグレーショ ンに応じたリスクを計算するモデル(リスクモニタ ー、図3 参照)が使用されている。安全系の設備の 場合、許容待機除外時間(AOT)の制限を遵守する ことは言うまでも無いが、計画段階では AOT の概ね 50%以内で作業を計画するのが慣例である。運転中の保守作業時にリスク管理措置(RMA)が 必要になるかどうかの判断は表 2 に示すしきい値が 使用される。460-----------------------図3 リスクモニターの画面表示例表2 リスク管理措置(RMA) アクションのしきい値(NUMARC 93-01) 141 炉心損傷確早期大規模放対策 率の増分出確率の増分> 1E-5自主的には保守を実施しない>1E-60~1E-5定量化できない要因を評価 リスク管理措置の実施1E-7 ~ 1E-6<1E-6通常の保守作業管理<1E-7リスク管理措置(RMA)としては、作業スケジュ ールの短縮、再調整、ヒューマンエラー発生確率の 低減(特別な訓練や手順書の作成、管理者の関与) といったリスク低減措置や、不測事態対応計画の作 成(例、代替系統の使用計画、代替措置のための運 転員の配備、待機設備の事前試験)、あるいは運転状 態の変更(例、バックアップ系統の運転、リスクを 増大させる可能性のある作業の最小化)といったリ スク相殺措置が、リスク増分の大きさに応じて取ら れる。米国ではこのような保守規則への対応によって、 発電所の関係者全体で保守作業のリスク影響への注 目が増加するとともに、運転中保全の活用によって、 柔軟な保守作業スケジュールの立案、停止時の複雑 な作業の低減、保守作業の品質向上といった便益が 得られている。なお、運転中保全に伴うリスク影響に関する NRC の規制上の見解は以下のような経緯をたどっている。 ・ 運転中に実施される保全の量と頻度が増加して いることが、NRC の調査から判明 (1994年)。特 に、Tech. Spec.の許容待機除外時間(AOT)を守 った上で、複数の設備を同時に保守のために供用 外にしている事例が見られた。AOT は、一つの 系統内でランダムな単一故障の発生を想定した ものであって、同時に複数の装置が供用外にされ る場合の条件を規定するものではない、と認識。 1994年 10月、事業者に対して、「Tech. Spec.に従 って系統の保全を行っても良いが、同時に複数の 系統に保全を行う場合には、安全性への影響を総 合的に評価する必要がある。」との通知を発行。 ? 1991 年制定の保守規則で、保守作業時のリスク推奨評価・管理の要件を規定(1999年の改訂で、推奨 ベースの記述を変更し、義務付け)。RI-ISI は、従来の ASME Sec XI に基づく決定論的 なアプローチではなく、配管の破損確率と破損時の 安全上の重要度に応じて検査方法を設定するもので、 EPRI(米国電力研究所)手法と WOG(Westinghouse 社製 PWR のオーナーズグループ)手法が開発されて いる。WOG 手法は EPRI手法に比べてより定量的な 評価手法を、特に配管の破損確率評価について採用 している。WOG によるリスク情報に基づく配管 ISI の見直しプロセスについて、図4に示す。 1 評価対象系統に含まれる配管セグメントは、破損 による安全上の影響と、破損確率の二つの視点から 4グループに分類される(図5参照)。第1グループ は安全上の影響が大きく、破損確率も高い第1象限 の部分である。第2グループは安全上の影響は大き いが、破損確率の低いグループであり第II象限の部 分。第III象限は安全上の影響は小さいが破損確率の 高いグループ。第IV象限は両者とも小さい、もしく は低いグループである。なお第I象限は更に、破損 確率が特に高いと評価されたグループ(A)とそれ 以外のグループ(B)の二つに分けられる。各象限で ( )で示した数字は、サリー発電所1号機で分類した 場合のセグメント数である。この 4 分類にあたって は、社内エキスパートチームが定量的な検討をベー スに定量的検討では考慮されなかった様々な事項を 含めた総合的な検討を加えている。WOG 資料によれば、WOG 手法の適用によって検 査の件数が、約 65%~80%削減される(図6)。ま た、それに伴って作業時の被ばく線量も低減でき、 10年間の検査間隔にわたって合計で、60~75 レムの 節約につながるとされている。安全上の意要 度の評価エキスパート チームによる ??評価対象系統 とセグメント の決定リスクの評価検査方法等の 決定新方式での 検査の実施」配管破損確率 の評価フィードバック 活動図4 WOG によるリスク情報に基づく配管 ISI の見直しプロセス(ICONE 10-22732) 51事業者が検査ブログ ラムの中で決定(A)全数検査破損確率(B)サンプリング検査 「第1象限(70 セグメント)第III象限(153 セグメント)破損確率耐圧試験、目視検査のみサンプリング検査| 第IV象限 (254 セグメント) 「第1象限 (38 セグメント)破損の安全影響:小破損の安全影響:大図5 検査方針検討マトリックス(数字は、Surry-1 のセグメント数) (ICONE 10-22732) [6]1901/04/05■ 左:従来(ASME XI)の方式 口右: WOG のリスク情報に基づく ISI6001 500 400 3001 20041 100611Asco 1Asco 2McGuire 1McGuire 2Millstone 3North Anna 1North Anna 2PalisadesSequoyah 1Sequoyah 2Surry 1Surry 2 Turkey Point 3Turkey Point 4Watts Bar 1図6 配管溶接部の検査件数の削減例(ICONE 10-22732) [5]4. 欧州の状況スウェーデン、フィンランド、スペインなどで RI-ISI の導入が進んでいる。スウェーデンでは、1988 年の規則で定性評価を導入し、5 年後に義務化され た。2000 年には定量評価も導入された。フィンラン ドでは、2003 年に指針を改定し導入された。新設炉 に対しては義務付け、既設炉はオプションという扱 いである。なおフィンランドではリスク情報を活用 した規制の導入が進められていて、ISI 以外にも、IST や Tech. Spec.への適用についての検討も進んでいる。 スペインでは 2000 年に米国流の指針が採用されて おり(オプション)、いくつかの事業者は WOG の手 法を適用し承認を受けている。フランスの規制側は 全般的にリスクの活用の導入に慎重な立場である。 事業者は構造物に対する RCM(信頼性重視保全)手 法をパイロット適用しているが、RI-ISI は導入され ていない。スイスではパイロット研究が実施された。 英国、ドイツ、ベルギーでは、RI-ISI は適用されて はいない。欧州のプラントは、フランス、スペイン等を除き、 いわゆる N+2 基準(50%容量×4系統;単一故障&1 つの冗長トレインが保守中と想定)で設計されてい るものが多い。その場合、安全系の冗長性が高く、 運転中保全を実施しやすい状況にある。特にドイツ、 フィンランド、スペインでは安全系設備の運転中保 守について規制要件が設けられている)。ドイツで は、運転中保全の実施を認める政府の勧告が出され ており、手順書あるいは保全計画書に記載の待機系 について1度に1トレインの実施が認められている。 フィンランドにはN+2 設計と N+1 設計の発電所があ るが、それぞれ Tech. Spec.の制限内で運転中保全が 実施可能である。その場合、予防保全によるリスク 重要度の検討が必要である。スウェーデンの N+2 設 計の発電所は運転中保全が可能であるが、N+1 設計 の発電所ではその実施はかなり限定される。スイス では 2001 年の NEA 報告の段階では、2プラント(ラ イブシュタット、ゲスゲン)で運転中保全が適用され ている。米国や我が国と同じ N+1 設計の発電所を持 のスペインでは、米国の保守規則が導入され、運転中保全が可能である。ただし、その実施は限定的で あり、発電所によっても実施の程度に差がある。例 えば、コフレンテス発電所(BWR)では、許容待機除 外時間 (AOT) が 72 時間以上、作業時の最大許容時 間はその 60%に限定、年1回で1トレインのみ、と している。N+1 設計のフランスでは、Tech. Spec.の制 限に基づく運転中保全の実施はかなり限定されてい る。N+2 設計の英国では運転中保全の実施計画が策 定されている。5. まとめと課題欧米諸国、特に米国ではリスク情報の活用が進ん でいる。運転保守面へのリスク情報活用によって、 柔軟な運転保守が可能になり、(規制側・事業者側と もに)不要な負荷が低減し、安全性の向上にもつな がっている。なお、リスク情報の更なる活用に向け ては、PRA の品質向上の必要性が認識されており、 そのためのスタンダードが NRC において作成され ている(Reg. Guide 1.200「リスク情報に基づく活動 のための PRA 結果の技術的妥当性決定のアプロー チ」、2009年3月、改訂2版)。このように、特に米国において、リスク情報は規 制面においても積極的に活用されているが、あくま でもリスクベースの規制ではないことに留意が必要 である。リスクは測定できない(モデルを使った評 価にならざるを得ない)、モデルは完全ではない、と いった理由から、不完全な知識を補うために、深層 防護や安全マージンといった従来の決定論的なアプ ローチも、パフォーマンスの監視とあわせて使用し ていく、というのが NRC の考えである。NRC では この考え方に基づいて、リスク情報を活用したパフ ォーマンスベースのアプローチを導入している。参考文献 [1] US NRC, “Use of Probabilistic Risk AssessmentMethods in Nuclear Regulatory Activities”, 60 FR42622; August 16, 1995 [2] US NRC, “An Approach for Using Probabilistic RiskAssessment in Risk-Informed Decisions on Plant -Specific Changes to the Licensing Basis““,Regulatory Guide 1.174, Revision 1, November 2002 [3] EPRI White Paper, “Safety and Operational Benefitsof Risk-Informed Initiatives”, February 2008 [4] 伊藤邦雄,“米国原子力発電所の保全とその安全管理- (2) オンライン保守とその安全管理”, 保全学, Vol.7, No.4(2009年1月) [5] Boggess C. L. et. al., “Developments onImplementation of WOG Risk-informed Inservice Inspection Methodology”, ICONE 10-22732, April14-18, 2002. [6] NEA/CNRA/R(2001)6, Inspection of Maintenance onSafety systems during NPP operation, Aug. 20011901/04/06“ “リスクと保全 :諸外国における原子力への適用実績“ “伊藤 邦雄,Kunio ITO