音響診断によるCBMの作業安全性と信頼性の向上

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
CBM(状態基準保全)における回転機器の診断を、 振動診断法により行っているが、機器から異音が発生 していても診断結果には異常が認められず、異音の発 生原因が解らないことがある。そこで我々は昨年、回 転機器の診断に音響診断法を試みた。その方法は、加 速度ピックアップで機器の振動データーを採取し音 響解析ソフトで音として再現して解析をするもので あった。正常な音のする機器について診断を行った結 果、音響診断は回転機器の異常兆候を捉える有効な手 段であることが解った。[1]その後、現場を巡回し機器の音響診断を行っている と、異音を発する機器を発見し異常兆候を捉えた。し かし、同機器の振動診断の結果は、異常兆候を示していなかった。この結果を整理すると、音響診断で分解 点検の要否を判断することは現段階では難しいが、初 期の異常兆候を捉えることに関しては振動診断より も適した技術であると考えることができる。また、音響診断のデーターを、マイクロホンで採取 してみたところ、加速度ピックアップで採取した結果 と同等の結果が得られた。振動診断のデーターの採取 は、現場を巡回して行っている。加速度ピックアップ を回転している軸の近くにマグネットを利用し手で 取付けてデーターの採取を行う。この作業には回転軸 に手を巻き込まれる等の危険が常につきまとう。振動 診断を、マイクロホンを使った音響診断に置き換えれ ば非接触な作業となり、巻き込まれ災害などのリスク を大幅に下げることができる。 - 今回は、異音を発している機器に対する音響診断の 結果を評価すると共に、振動診断と音響診断の特徴を 整理し、音響診断をどのようにCBMへ活用すると効 果があるのか検討した結果を報告する。
2. 音響診断の適用結果 - 巡回点検により発見した異音を発している機器を、 振動診断と音響診断によって解析を行った。音響診断 は、マイクロホンにより異音を採取した。振動診断の 結果を図1に、音響診断の結果を図2及び図3に示す。 機器は横軸単段遠心型ポンプで、仕様は口径 200× 150A・全揚程 45m・流量 280m2/h・回転数 1800rpm で ある。解析の結果、以下に示すように振動診断の結果には 異常兆候が顕著に現れていなかったが、音響診断の結 果には異常兆候がはっきりと現れていた。(1) 図1(a)の速度オーバーオールの値に、大きな変化は見られない。値は異常判定基準値以下である。 (2) 図1 (b)の加速度オーバーオールの値に、大きな変化は見られない。 (3) 図2の 1, 2 に正常音の機器よりも音圧レベルの上昇が顕著に見られ、異常兆候があると判断で きるが、図1には、それに相当する周波数の振動 値の上昇は顕著に見られない。3.音響診断の活用方法3.1 振動診断の特徴回転機器の劣化はまず軸受に現れ、異音が発生する。 この早期に現れた異音の原因は、軸受転走面のキズや 剥離であることが多い。その後、軸受の磨耗が進み、 ラジアル隙間が増大しガタが出てミスアライメント やアンバランスが発生する。キズや剥離が生じなくて も異物の混入により先に磨耗が発生する場合もある。 このような劣化の経緯をたどることが広く知られて いる[2]。軸受の劣化による振動は、加速度帯(注) か ら速度帯(社)へと、図4のように推移していく。すな わち、異常の兆候は加速度帯にまず現れるため、加速 度帯に着目して振動値を監視すれば異常兆候を早期 に捉えることができる。ところが、振動診断では以下 の(1)および(2)に示すように加速度帯の振動値が定常 的でないため異常判定が難しい。一方、速度帯の振動 値は定常的な値であり、異常判定が容易にできる。そ のため、振動診断では速度帯に異常判定基準値を設け るのが妥当とされている。(注)本稿において、振動診断における振動値の 1KHz 以上の周波数帯を加速度帯、1kHz 未満を速度帯と呼-1(1) 加速度帯の振動は広範囲に現れ、また振動レベルの大きさが短時間で変動する場合が多く、初 期の異常兆候はオーバーオール値に現れにくい [4]。 (2) FFT解析はもともと定常状態の信号を分析することが前提となっているため変動する振動の 分析には適さない [3]。3.2 音響診断の特徴 * 2.に示した結果から、音響診断は振動診断よりも、 初期の異常兆候を捉えやすいことが解った。また、以 下に示すように、オクターブバンド解析と時間周波数 解析の手法で診断を行うことで、より明瞭に判別する ことができ、定量化が図れることが解った。(1) 図2に示すように、音圧レベルをオクターブ解析により、周波数のオクターブバンドごとに束 ねた形で表現すると、変動している振動でも数 値でレベルの大小を表しやすい。 (2) 図3に示すように、振動音の周波数と音圧レベルが時間の経過と共にどの様に変化するのかを 表す時間周波数解析により、振動音の変動現象 を視覚と数値で表現すると、劣化の進行具合を 捉えることができる。異常兆候の定量的な判定としては、聴感で異常と判 断した音圧値を異常判定基準値とする考え方がある [3]。我々は、採取した音のうち、いずれかのオクタ ーブバンドの音圧値が概ね 60~80dB 以上あると異常 兆候があると判断した。しかし、速度帯の振動音は耳 の感度が急激に下がる[5]と言われており、この領域 では、上記異常兆候の判断基準を適用することは難し い。そのため、音響診断では、速度帯ではなく、加速 度帯に異常判定基準値を設けるのが妥当と考える。3.3 音響診断を取り入れた回転機診断回転機器においては、速度帯に異常振動が現れると 急速に劣化が早まり、故障までの時間が短い場合があ ることが知られている[2]。異常兆候の検出が遅けれ ば保全アクションを取るまでに故障が発生してしま う場合も想定される。従って、図4に示すように、加 速度帯の異常判定に有効な音響診断を回転機器の状 態監視に取り入れることで、より早期に異常兆候を把 握することが望ましい。具体的には、回転機器の試運転時に振動診断を行い、 アンバランスやミスアライメントがないことを確認4901ロホンを使った音響診断で状態 マイクロ した後、まずはマイクロホンを使った音響診断で状態 監視を行う。その後、異常兆候が現れたらピックアッ プによる速度帯の振動診断に切り替え、監視を強化す る。このような状態監視を行い、監視を強化した時点 で保修計画を立てれば、以前にも増して早期に保全ア クションを取ることができCBMの信頼性が向上す るものと考える。加えて、加速度ピックアップを回転 中の機器へ手で取り付ける頻度が格段に少なくなる」 ため、作業安全性が向上する。 3.4 原子力発電所への音響診断適用について値の検証が 運転中の回転機器に異常兆候もなく突如アンバラ ンスやミスアライメントが発生する場合がある。原因 参考文献根が流体の作用により破損すること[1] 神保吉秀 他, 「回転機器への音響診断適用につい ることが一般的であると認識してい て」,日本保全学会 第6回学術講演会論文集 本に不純物が含まれておらず、流量が (2009) 化もなく安定していてキャビテーシ [2] 日本鉄鋼協会, 「設備診断技術ハンドブック」, くい機器は、インペラや羽根が破損す。pp.82-93(1986) ほとんど起きない。従ってこのような [3] 日本音響学会, 「音・振動による診断工学」, アンバランスやミスアライメントがpp.58-74(2000) 軸受の劣化によるものがほとんどと [4] 井上紀明,「実践 振動法による設備診断」, える。原子力発電所の回転機器は、ほ - pp160(1998) ースに該当すると思われる。[5] 鈴木昭次、西村正治、雉本信哉、御法川学,「機械 ったる原子力発電所の保修経験におい 音響工学」,pp8-11(2004) インペラや羽根に、回転体のバランス ャビテーションや破損を発見した経運転中の回転機器に異常兆候もなく突如アンバラ ンスやミスアライメントが発生する場合がある。原因 は、インペラや羽根が流体の作用により破損すること」 によるものであることが一般的であると認識してい る。しかし、流体に不純物が含まれておらず、流量が 定値制御され変化もなく安定していてキャビテーシ ョンが発生しにくい機器は、インペラや羽根が破損す るようなことはほとんど起きない。従ってこのような 機器に運転中にアンバランスやミスアライメントが 発生する原因は軸受の劣化によるものがほとんどと 言って良いと考える。原子力発電所の回転機器は、ほ とんどがこのケースに該当すると思われる。また、長年にわたる原子力発電所の保修経験におい て、回転機器のインペラや羽根に、回転体のバランス が崩れる程のキャビテーションや破損を発見した経 験はない。 * 振動診断による状態監視が適用される以前は、聴診 棒を使った聴診による機器の診断が主流であった。聴 診によって異常兆候を見つけ、保修アクションを取り 振動監視を定期的に行い、値が増加傾向にあったなら ば点検を行う、という方法で対処してきた。しかし人 間の感性による聴診は個人差があり、経験によって結 果が違う。音響診断はこの経験値を数値として表すこ| とができる利点がある。以上の観点から、前述の音響診断と振動診断を組み 合わせた状態監視の方法は、原子力発電所の回転機器 の状態監視に適用可能であり有効であると考える。 4.結言 ロホンとモジュール今回の報告は、原子力発電所の回転機器の状態監視 に音響診断と振動診断の組み合わせの有効性を示し、 適用を提案するものである。なお、音響診断機器は、マイクロホンとモジュール を組み合わせパソコンで解析をする形式のものが主 流であり、携帯を意識した形式のものは今現在見当た らない。騒音計にもオクターブ分析が可能なものが出 回るようになったが、騒音を測定するための規定上、 マイクロホンが指向性のものは見当たらない。機器の 診断に際しては、振動対象ではない音を拾って異常で はない機器を異常であると判断しないようにする配 慮が必要である。マイクロホンは指向性で、オクター ブ分析と時間周波数分析がリアルタイムで出来る携 帯型の音響診断機器の開発が望まれる。 ・ また、音響診断の異常判定基準値は、多くの統計を 取ることによってより確実な判断基準値となって行 く可能性はあるが、測定距離や角度などによって測定 結果にばらつきが生じる。実験室レベルでの判定基準 値の検証が期待される。 神保吉秀 他, 「回転機器への音響診断適用につい て」,日本保全学会 第6回学術講演会論文集- 491 -(se/s)2.96異常判定基準ライン更Lo-RMS70809・10(a) 【速度オーバーオール】16.37異音が発生しているが、 値に変化なし。更新Md-RMS(b) 【加速度オーバーオール】図2の1に相当図2の2に相当Md0.93% m/s2)2 Avg: 4回)016.371 15.46(m/s2)10kHz)Rus2.31(c) 【FFT解析】図1 振動診断結果1通常音2キズ音2000マ イルくんかく-m 音圧).asakiaや9かんたんフレッスンBONGO!18001250125020001905/06/223150500080005000 周波数(Hz]8000125001250020000 25000図2 音響オクターブ解析結果異音のする機器正常音の同型機器49210000(dBPa) 音圧900080007000した6000500040003000200010002.54.56.51900/01/07 12:00:0010時間[s](a) 正常音の同型機器10000(dBPa) 音圧9000 1.18000 7170001600050004000300020001000102.54.56.58.510時間[s](b) 異音のする機器時間[s]図3 音響時間周波数解析結果音色] (推定原因)【カリカリ】 (キズ)[キーン] (通常音)聴感による 判定は困難493回転機器の 振動周波数軸受の劣化【速度帯】【加速度帯】0 100 200_4001K10KHアンバランス ミスアライメント劣化の順番機器本体の固有振動(軸受の磨耗により軸受内部にガタ が出ることで発生)軸受の傷、剥離振動診断(異常兆候を捉えやすい)(異常兆候を捉えにくい)contrem emoreimpensomentroup・定常的な振動値のためFFTで現象を的確に捉えることができる。 ・異常値がオーバーオール値に現れやすい。・定常的でない振動値のためFFTでは現象を捉えきれない。 ・初期の異常兆候はオーバーオール値に現れ にくい。音響診断(異常兆候を捉えにくい)(異常兆候を捉えやすい)・400Hz以下は耳の感度が急激に・時間周波数解析により、定常的でない現象を捉えられる。 ・オクターブ分析により、定量的に数値で表現しやすい。 ・音色を聴いて、感性で確認できる。下がるため感性による判定は困難。診断の特徴図4回転機の軸受劣化と診断技術の特徴の関係494“ “?音響診断によるCBMの作業安全性と信頼性の向上,“ “神保 吉秀,Yoshihide JIMBO,岸田 光博,Mitsuhiro KISHIDA,黒柳 克巳,Katsumi KUROYANAGI,堀田 治,Osamu HOTTA,肥田 茂,Shigeru HIDA
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