曲面を持つ配管ノズル部から探傷可能なフェーズドアレイ超音波技術の開発

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
そこで、検査対象面が曲面を有していても高精度 原子力プラントにおいては、構造物の応力腐食割 で超音波の送受信が可能であり、かつ探傷結果を表 れ(SCC)への対策が重要である。特に構造健全性面形状に応じて再構成する技術を開発した。また、 の評価のためには、き裂の有無や寸法を検査するこ 検査環境が気中の場合に、局所的に水浸環境を製作 とが必要である。一方、構造物には一部形状が複雑 することなく曲面から超音波の送受信を実現するこ なものがあり、超音波の探触子を検査対象へ接触さ とが可能な超音波の減衰が低く、柔軟性を持ち、曲 せることが出来ず、探傷が困難な箇所が存在する。面に密着可能な遅延材を開発した。 例えば、ノズル管台の一部は、要求検査範囲である これらの要素技術を活用し、ノズル管台を模擬し 溶接金属近傍に曲率が存在する場合がある。このよ た曲面付き試験体に対する探傷性能を確認すると共 うな箇所は、配管内面から探傷するなどの代替検査 に、実機適用における課題として挙げられる耐放射 が必要になる場合もあり、定検工期の長期化が避け 線性の影響確認と、溶接金属部のうねりなどの As られない。そこで、ノズル管台の外面から探傷がで Build 形状に対する適用性の検証したので報告する。 きれば、定検工期への影響を低減することが可能に
2. 探傷原理なる。しかし、当該箇所から超音波探傷を実施する場合、 超音波を被検査対象へ入射する場合、入射角度に 曲面から超音波を入射する必要がある。今まで我々 応じて探傷屈折角が変化する。探触子を被検査対象 が開発・適用してきたフェーズドアレイ(PA) [1]-[4]は に直接接触させず、水浸法等の探傷方法を使用する 水浸法を用いているため、接触が困難な形状に適用 場合、被検査対象である鋼材音速と水の音速差が大 可能である。しかし、曲面を持つ検査対象では超音 きいため、入射角の変化以上に探傷屈折角が変化す 波の探傷屈折角が大きく変化するために、探傷が困る。そのため、正確に被検査対象の形状を計測し、形状に応じた入射角を計算する必要がある「5J-17],[10]。 形状を計測する。ここで、被検査対象が単純な表面Takahiro MIURA Setsu YAMAMOTO Makoto OCHIAI Tadahiro MITSUHASHI Hiroyuki ADACHI Satoshi YAMAMOTO Nobuichi SUEZONO50Set PA probeMeasure surface profile by PA probeCalculate delay time depending on surface profileInspectionReconstruct UT result depending on surface profileFig.1 diagram for surface measurement形状である場合は一般的な飛行時間法を用い、詳細 な表面形状計測が必要な場合には、開口合成法(SAFT: Synthetic Aperture Focusing Technique) 10-19 使用する。計測した表面形状に応じて、PAプローブ の遅延時間を計算した後、探傷を行う。その後、表 面形状に応じてB-scope等で得られる探傷結果を実 際の形状寸法・位置に対応するように再構成する。 更に、必要であれば次の探傷位置へ移動し、再度 Fig.1 のフローを実施する。 1 本手法により、表面が複雑な形状を持つ対象でも 超音波探傷が可能になる。また、探傷結果を再構成 することで、検査員の評価が容易且つ短時間で実施 することが可能になり、定検工期短縮が可能になる。2. 試験結果試験体系図を Fig.2 に示す。ノズル管台を模擬し た試験体を作製し、PA プローブを曲面上部設置した。 ここで、PA プローブは周波数 5MHz、素子ピッチ 0.85mm、素子幅 10mm のものを使用した。試験体と PAプローブの間の空間には、水または開発したゲル 状の遅延材(詳細は 2.4 項にて説明)をそれぞれ適 用した。試験体の平坦部厚さは 20mm、曲率半径は 60mm とし、深さ d=5mm、8mm、11mm の EDM ス リットをそれぞれ付与している。本構成により、表 面形状計測、形状に応じた遅延時間計算、形状に応PA probewater / gelR60| |20ultrasonicFig.2 Experimental setupじた再構成技術をそれぞれ実施した。2.1 表面形状計測結果 、曲面へ超音波を入射するためには、フェーズドア レイ探触子を用い、検査対象表面の形状を開口合成 法にて計測した。飛行時間法と開口合成法のそれぞ れの手法で計測した結果を Fig.3 に示す。飛行時間 測定法では、曲面部分の誤差が大きくなるが、開口 合成法では表面の形状を黒線で示した真値と誤差 0.04mm 以内で計測できることを確認した。PA position (mm)-25 -20 -151940/01/01-351899/11/30-10-5014-.-TOF --SAFT .... Nominal16PA position (mm)-25 -20 -151940/01/01-351899/11/30-10-50Distance from PA probe (mm)--.- TOF-SAFT .... NominalFig.3 result of surface measurement2.2 遅延時間計算 - 計測した表面形状に応じ、PA の遅延時間を計算す るコードを開発した。平面と曲面が混在していても、 被検査対象内における探傷屈折角および焦点位置が 任意の位置に指定可能なコードとしている。ここで、 本コードは単純な曲面形状だけでなく、自由曲面に 対応することが可能であり、実機における余盛やう ねりなどにも適用することが可能である。 - 計算した曲面対応遅延計算コードの結果の妥当性 を確認するために、超音波シミュレーションソフト ウェア CIVA を用い、音場の確認を行った。探傷屈 折角 45 度、フォーカス深さ 12mm とした場合、曲 面に非対応の遅延条件で入射した場合と曲面に応じ た遅延条件で入射した場合の比較を Fig.4,5 に示す。 Fig.4 では曲面部分から超音波が入射されてないが、 Fig.5 に示す曲面を考慮した遅延計算の場合は曲面 からも超音波が入射し、被検査対象内で音場が形成 されていることが確認できる。PA probewaterR60steelDelay without surface correctionFig.4 Result of sound field simulation51PA probewaterR60steelDelay with surface correction Fig.5 Result of sound field simulation縮となり、た。2.4 曲 検査対象2.3 探傷画像再構成手法 - 曲面から超音波の入射を行った後、得られる指示 エコーの解釈は重要である。一般的な探傷において 2.3 探傷画像再構成手法 - 曲面から超音波の入射を行った後、得られる指示 エコーの解釈は重要である。一般的な探傷において は、表面形状の影響で生じる屈折率変化を音線追跡 し補正しないと、正確な指示エコーの位置を特定す ることが出来ない。しかしこの解析評価は時間がか る作業であった。そこで、形状に応じて探傷画面を 再構成する技術を開発した。 表面の形状を考慮し超音波を入射した後、形状の補 正を行わずに探傷結果(B-scope) を表示させた結果 を Fig.6(a)に、形状を考慮し再構成した結果を Fig.6(b)に示す。本試験体ではコーナーエコー部が曲 面から探傷することになるが、Fig.6(a)ではコーナー エコー指示が広がりを持って検出されていること、 エコー指示が広がりを持って検出されているこ - 日ハム・リと付い山CAL L'eと、tip echos lit positioncorner echo(a) Without surface correctiontip echoslit positioncorner echo...(b) With surface correction Fig.6 Result of inspection for curvature- 52 - 及び EDM スリットの位置に対して 1mm 以上外れて いることが確認できる。そのため、従来は得られた 指示を表面形状で補正し、指示位置の補正を実施し ていたため、解析に多くの時間を要していた。一方、 Fig.6(b)ではコーナーエコー指示の広がりが抑えら れ、指示位置が明確になっていることが確認できる。 EDM スリット位置とコーナーエコー指示の位置が ほぼ一致しており、誤差は 1mm 未満である。このように、形状を考慮して探傷結果を再構成す ると、エコー指示が明確化することが確認できる。 更に、B-scope 上の指示位置がそのままエコー位置を 反映するため、検査員の負荷低減および評価時間短 縮となり、検査工期を短縮させることが可能となっ た。 2.4 曲面対応遅延材 * 検査対象が炉内等の水中環境下である場合は、水 を遅延材とすることが可能なため、曲面形状でも超 音波の送受信が可能である。しかし、気中環境下で は局所的に水浸環境を形成する必要がある。これは、 装置への負荷が大きく、また工期にも影響を及ぼす 場合がある。一方、従来のアクリルやポリスチレン を用いた遅延材の場合、検査対象の表面形状に対し て正確な形状を持つ遅延材を製作する必要がある。 曲面に接触させるために、幾つかの手法が報告され ているが7(11)、ここでは柔軟性を持ち、超音波の送 受信が可能なゲル材を開発した。 * ポリスチレン系ゲルを素材とし、Fig.1 に示す形状 に対応できる遅延材を製作した。外観写真を Fig.7 に示す。ゲル材は平坦部で厚さ約 20mm であり、R60 の曲面に適用させるために R 形状を設け、全体とし て船形の形状を持たせている。 Fig.7 より、局所水浸 無しで、曲面に密着できることが確認できる。本ゲ ル材を用いた場合と、水浸環境で計測した場合の探 傷結果はほぼ同等であり、開発したゲル材により気 中環境下で曲率を持った対象に局所水浸なしでも適 用可能であることが確認できた。PA probeアレイセンサgelソフトシュEDM slitFig.7 PA probe and gel3. 実機適用へ向けた課題検証 3.1 耐放射線確認試験probegelMsurface echo「20steel B1 echoFig.8 Experimental setup開発したゲル材を原子力プラントで適用する場合、 耐放射線性が問題になる。そこで、コバルト 60 をy 線源として照射試験を行ったゲル材に対して、超音 波の伝播特性変化を確認した。ここで、ゲル材の厚 さは20mm、y線照射は積算線量 0Gy、100Gy、200Gy、 300Gy とした。試験体系を Fig.8 に示す。ここでは周波数 5MHz、 素子寸法小1/2inch の超音波探触子を使用し、菱電三 三菱製の超音波探傷器 UI-25 を用い、いずれのグル材 もゲイン 34.4dB にて計測した。板厚 18mm の試験体 からの A-scope を Fig.8 に示す。また、OGy 時の B1 エコーのピーク値にて規格化した B1、B2、B3 エコ ーの振幅変化を Table.1 に示す。今回開発したゲル材 は、照射線量 300Gy のゲルでピーク値の低下が見ら れるが、200Gy までは大きな変化がないことが確認 できる。また、300Gy 照射時は感度の低下が見られNL surface : B1 echo : B2 echo echoA1300Gyhamplitude (a.u.)__ 200GYA_ AAA 100GyhOGY 50.012106020.0 30.0 40.0distance(cm) Fig.9 A-scopeTable1 Bottom echo amplitudeNormalized Amplitude (%)B1 B2 B3 0Gy_ 100.0 68.0 47.4 100Gy_ 101.0 71.1 50.5 200Gy_ 101.0 67.0 45.4 300Gy69.1 47.4 34.0PA probewater / geltype 304EDM slit 1140 10' Fig. 10 Experimental setupるが、探傷に問題が生じる程の影響は見られない。 これらの結果から、適切な放射線環境下において、 開発したゲル材の適用が可能であることが確認でき た。3.2 溶接うねり影響確認結果 - 実機への適用において、検査対象となる溶接部は 余盛や熱影響による歪などの形状変化が生じている 可能性がある。そのため、Fig.10 に示す試験体を試 作し、検出性を確認した。溶接部近傍に生じるうね りを模擬するため、幅40mm、深さ w=1、3mm の回 一面を付与した。更に、図中に示すように欠陥深さ d=5、 8、11mm の EDM を付与した。本試験体に対して、 PA プローブを水浸法またはゲル材を遅延材として それぞれ計測を行った。深さ w=3mm、欠陥深さ d=8mm における探傷結果を Fig.11 に示す。Fig.11(a)concavesurfacetip echobottomcorner echo(a) Without surface correctionconcavesurfacetip echobottomcorner echo (b) With surface correctionFig.11 Result of inspection for curvature1900/02/21は凹面を考慮せず、45 度の探傷屈折角でフォーカス を試験体表面から 12mm の位置となる条件で探傷し た結果、Fig.11(b)は凹面を形状計測し、その結果に 応じて遅延時間を計算し、且つ再構成を行った結果 である。Fig.11(a)では、EDMからのコーナーエコー、 および端部エコーの指示位置が傾いて検出されてい る。また、形状影響によるノイズがコーナーエコー 近傍に出現し、端部エコーやコーナーエコーの指示 部との判別が困難になっている。一方、凹面の補正 を行った Fig.11(b)においては、形状影響のノイズは 確認されるものの、端部やコーナーエコーには影響 を受けないように抑制されていることが確認できる。 更に端部とコーナーの位置および検出感度に関して も向上していることが確認できる。 - 以上の結果より、実機の検査対象で問題となる余 盛やうねりによる凹凸変化に対しても、本技術が有 効であることが確認できた。4. 結言 - 定検工期の短縮を目指し、ノズル管台のような曲 面を有するために超音波探傷が困難な検査対象に対 して、形状影響を補正し超音波を入射し、得られた エコーの評価を容易にするために探傷結果を形状に 応じて再構成する技術を開発した。また、本手法を 水中だけでなく気中環境下でも適用できるように、 曲面に柔軟に適用可能なゲル材による遅延材を開発 した。本ゲル材により、ノズル管台を模擬した試験 体において、局所的な水浸環境を作製することなく 曲面から探傷が可能であることを確認した。更に、 ゲル材は耐放射線性に問題がないことを確認した。 また、余盛やうねりなどの As Build な形状変化に対 しても水浸法とゲル材の両手法で探傷が可能である ことを確認した。 - 今後は、SCC を用いた探傷精度の検証や、実機形 状における性能を検証していく。また、本開発シス テムで検査工期をより短縮するために、表面形状計 測の高速化を行うと共に、検査可能な部位拡大のた め、2 次元の PA アレイを用い3次元形状への適用技 術の開発を進めていく。参考文献 [1] 古村一朗、平澤泰治,“多機能フェーズドアレイ超音波探傷技術の開発”,検査技術,(2002) [2] 平澤泰治, 原子力プラント用フェーズドアレイ超音波探傷技術,東芝レビュー, 60[10], 48-49(2005) [3] 平澤泰治,湯口康弘,村上功治,千星淳,大坪徹, 成瀬克彦, “フェーズドアレイ UT による炉 内配管への適用”, 日本保全学会 第5回学術講演会予稿集,147-151(2008) [4] T. 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