電動弁診断技術の高度化への取り組み

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
を踏まえ、定期的な性能確認のガイダンスとして安全 原子力発電所では、新検査制度の定着に伴い、振動系の電動弁に対する設計性能保証要求(GL 89-10, 診断、潤滑油診断、赤外線サーモグラフィ等の設備診 96-05) [1]を発行した。これにより、米国電力会社は、 断技術が積極的に導入されている。定検期間の短縮と運転中に弁棒のスラスト・トルク等の性能に係るデー 保全物量の適正化の観点から、状態監視保全の対象機タの測定及び評価を要求されることとなり、各メーカ 器の拡大が求められており、海外の動向から電動弁にーにより診断技術の実用化が図られた。その後の診断 対する診断技術の適用が進むことが予想される。技術の高精度化に伴い、米国電力会社は、分解点検周 電動弁診断技術は、多様な方式が各メーカーにより期の最適化による信頼性向上と保全コスト低減を目 開発されており、欧州・米国等海外では、緊急時の作的に、診断技術の積極的な導入を行って来た。そして 動保証が必要となる重要な弁に対して電動弁診断技 現在、電動弁の保全では、分解点検は減少し、電動弁極的に導入され、定検中の分解点検を主体とし 診断装置による性能診断が大半を占めている状況で た保全(時間計画保全)から、運転中の状態監視保全あり、その中でも本報で説明する性能診断技術は米国 に移行している。国内の原子力発電所では、現状、電 で主流となっている技術である。 動弁の状態監視保全は実用的な運用には至っていな いが、近年、保全物量の適正化等に向けて、高精度か 3.電動弁診断技術の有効性 つ現場作業が簡便で、非分解・非破壊で実施できる電
3.1 経年劣化事象に対する診断の有効性 動弁診断技術の開発及び実機適用が要望されている。
電動弁の経年劣化事象は、動作部及びその摺動部 本報では、これらの要望に対応し、米国の規制や保(電動駆動部のギア部・モータ部・トルクスイッチ・ 全実績に基づき開発した性能診断技術と、国内の弁トリミットスイッチ、弁棒、弁体、弁座、グランドパッ ラブル経験に基づき開発した弁棒の疲労・亀裂診断技キン部)で発生する摩耗等の劣化事象と、静止部(弁 時、及びこれらの診断技術の有効性について説明する。箱、弁蓋、ボルト・ナット等)で発生する腐食等の劣化事象に大別される。 2. 米国での電動弁の保全前者の動作部及びその摺動部の劣化事象について 米国では、過去、電動弁の保護スイッチ設定不良やは、4.1 項で概要を説明する性能診断技術により、弁 過負荷等のトラブル事象が多発し、これらの事象に対駆動時の弁棒スラストやモータ電流等の性能に係わ 応した修理が行われて来た。米国 NRC は、この状況るデータを測定し、劣化に起因する性能低下を評価す 連絡先:幸太郎,〒235-8523 神奈川県横浜市磯子ることで検知が可能である。 区新杉田町 8, (株)東芝 電力システム社,電話:後者の静止部の劣化事象については、性能診断技術 045-770-2431, E-mail: kotaro.hegi@toshiba.co.jpでの検知は困難であり、目視点検や分解点検での対応501が必要となる。特に、使用流体が海水等の腐食性流体 の場合は、劣化の進行が速いため目視点検や分解点検 が重要となる。しかし、腐食性流体でない場合は、劣 化の進行には非常に長期間を要するため、長い周期で の点検で対応すればよく、前者の動作部及びその摺動 部の診断を行えば、主要な経年劣化事象を検知するこ とが可能である。以上のように、性能診断技術により、動作部及びそ の摺動部で発生する主要な経年劣化事象を検知する ことが可能であり、分解点検の可否判断に有効に活用 できる。3.2 国内トラブル事象に対する診断の有効性国内原子力発電所で発生している電動弁故障の内、 約 60%が保守不良等に起因する初期故障となってい る[2]。電動弁の組立・調整は、作業性の低い現場で、 ギア装置、及びリミットスイッチ・トルクスイッチの 精密な組立・調整が行われるため、作業ミスに起因す る初期故障が発生しやすい。性能診断技術は、スイッ チ接点間の電流・電圧等の測定により、駆動部の組立 状態やスイッチの設定状態の診断を可能とし、これら の故障を未然に防ぐことができる。また、国内原子力発電所では、弁棒の折損事象が発 生している3。これらの事象は、弁棒の製造不良等の 要因に、運転中の弁棒の振動の発生が重なり、弁棒に 疲労亀裂が発生・進展し、折損に至る故障である。 4.2 項及び 4.3 項で概要を説明する弁棒の疲労・亀裂診断 技術は、弁棒の初期亀裂、及び弁棒の疲労の要因とな る振動の発生の検知を可能とし、これらの故障を未然 に防ぐことができる。以上のように、性能診断技術及び弁棒疲労・亀裂診 断技術により、国内原子力発電所で多く発生している 故障を未然に防ぐことが可能であり、トラブルの低減 に有効に活用できる。4.電動弁診断技術の概要 4.1 性能診断技術 * 性能診断技術は、弁の駆動時の、弁棒のスラスト・ トルク、モータの電流・電圧、リミットスイッチ・ト ルクスイッチの接点間電流・電圧の測定により、電動 弁の駆動性能の診断を可能とし、米国 NRC の設計性 能保証要求及び国内の運転保守指針4に対応するも のである。 * Fig.1 及び Table1 に示す部位にセンサを仮設で外付 けし、電動弁を開閉動作させた際の上記データを測定 する。測定データは、Fig.2 に示すように、1電動弁 のモータ起動後の駆動装置のギアによる負荷伝達状 態、2弁棒に力が伝達された後の弁棒の挙動、3保護 スイッチによる弁動作停止等、電動弁の動作に応じて 変化する。診断ソフトでは、測定データに対して、電 動弁の各動作イベントをマーキングし、各イベント時 のデータ値を記録・演算することにより、Table2 に示す評価レポートを作成する。診断は、1電動弁の新設または分解点検・組立直後 のベースライン試験による基準データの測定(直接診 断)、2その後の定期試験によるベースライン試験デ ータとの比較及び傾向監視(間接診断)、3定期試験 でデータに異常が確認された場合は再度直接診断、と いう流れで行う。ベースライン試験では、直接測定により、弁棒のス ラスト・トルク、モータの電流・電圧、リミットスイ ッチ・トルクスイッチの接点間電流・電圧を測定し、 Table2 に示す評価レポートによる直接診断を行う。こ の際、弁棒のスラストまたはトルクと、モータ電流・ 電圧により演算したモータトルクとの間の相関関係 の導出、及び設計データを基にした判定基準の設定を行う。その後の定期試験では、モータコントロールセンタ ー (MCC)でモータ電流・電圧、及びスイッチの接点 間電流・電圧を測定する。これらの測定値からモータ トルクを演算し、ベースライン試験で求めた相関関係 を基に弁棒のスラストまたはトルクを推定する。この 推定値と、あらかじめ設定した判定基準との比較によ り、良否判定(間接診断)を行う。ここで、異常と判 定された場合は、再度直接診断を行い、異常の原因究 明を行う。Gear box Motor 1Motor feeder linealTorque spring pack Optical DMT (Torque spring displacement, i.e. actuator torque measurement)Motor current/voltage probeLimit switchTorque switchC-clamp or ETT (Stem thirust or torque measurement)Switch monitoring probeStemDisk- Body|C-clamp (Stem thrust measurement)Optical DMT (Torque spring displacement, i.e. actuator torque measurement)Motor current/voltage probeSwitch monitoring probeFig. 1 Sensors and measurement points502Table1 A list of sensors and measurement data Measurement MeasurementBaseline Periodic Sensors data Ipoints Evaluation datatest (*1) test (*1) C-Clamp or Stem thrust or・ Valve Actuator ETT (strain Stemola torqueload condition gage)|Motorom1. Valve Actuator Optical DMTOutside of Torque springload condition (displacement |torque spring|| a displacementト・Torque switch transducer)packoperating condition- Motor load Motorcurrent/voltage Motor feeder condition current/voltage (by measurement lineMotor operating probe at valve or MCC)condition Current through Switch or voltage across Contacts of J.Limit/Torque monitoring control switches limit/torque switch operating probe(by measurement switches conditionat valve or MCC) (Note) (*1) O: Indispensable measurement, A: Arbitrary measurement(*2) Measurement at MCC|oa|2345678910101213Opening stroke load Max.compressive force on stemClosing stroke loadIIIIIMotor current (rms)[A] Stem thrust [N]Inrysh cutrentInrush currentOpening stroke currentClosing stroke current。-A-...!....TimeFull Opening stroke FullClosing strokeFull close openclose Typical MOV significant events Motor starts8 Hammerblow 2 Hammerblow9 Stem compression fully relieved 3 Stem compression fully relieved Ostem starts to move Stem starts to move1 Disk motion stops 5 Disk pullout12 Close torque switch opens 6Motor stops(13 Maximum compressive force put on stem Motor starts Fig.2 Typical MOV significant events on signaturetraces (example)Table2 Analysis report (example)Test DescriptionClose Test Case Test Date1995/10/31 16:26:36CLOSE Thrust Data:Open Thrust DataValue at C3 Value at C20 (Avg Run Thrust Value at C19 (Max Run Thrust Thrust at CST Maximum Thrust Closing Thrust Margin Inertial ThrustZZZZZZZValue at 04 Value at 022 (Avg Run Thrust Value at 021 (Max Run Thrust Thrust at Disc Pullout Offset between C3 and 04ZZZZZClose Stem Torque DataOpen Stem Torque DataAvg Running Torque Torque at C14 Maximum TorqueNm Nm NmAvg Open Running Torque Max Torque at Disc PulloutNm NmClose Power DataOpen Power DataPeak Close Inrush Power Avg. Running Power Close Power at C14 Max Closing Powerwatt watt watt wattPeak Open Inrush Power Avg running Power Open Power at Disc Pulloutwatts watt wattClose Motor Current DataOpen Motor Current DataName Plate Running Curren Max Close Inrush Current Avg Close Running Current Current at CST Current at Motor Cutoff Close Contactor Dropout TinAmps Amps Amps Amps Amps SecsMax Open Inrush Current Avg Open Running Current Max Current at Disc PulloutAmps Amps AmpsOpen Contactor Dropout TireSecs4.2 弁棒疲労診断技術国内原子力発電所で、弁体及び弁棒の流力振動によ り、Fig.3 に示す弁棒の一部分で応力が集中し、疲労 亀裂が発生・進展し、折損に至る事象が発生している (3)。このため、弁棒の疲労の要因となる振動の発生の 検知を目的に、弁棒疲労診断技術を開発した。系統運 転中に弁棒の振動を直接測定する。弁箱内は流れがあ ること、及び弁の開閉動作により弁捧が上下すること から、センサを直接設置することは困難である。そこ で、弁箱の外側から弁捧の振動を直接測定するため、 Fig.3 に示す超音波振動計5を用いる。弁棒の振動応答解析による振動振幅と応力の関係 を予め算出しておき、測定した振動値から発生してい る応力を推定する。振動解析モデルは、Fig.4 に示す ように、弁棒をはり要素とし、駆動部との取合点と、 グランドパッキン(ばね要素)で支持したモデルであ る。弁捧は1次の振動モードで振動すると予想される ため、1次モードでの変形量と応力評価点の応力の関 係を予め算出しておき、測定した弁捧の振動値(変形 量)から発生する応力を評価する。応力評価点は、亀 裂が発生した場所または応力が集中すると予想され る場所とする。測定された弁捧の振動から振動周波数 を求め、運転時間から、振動の繰返し回数を算出し、 弁棒の疲労評価を行う。疲労評価の結果は分解点検の 有無を判断するデータとして使用される。Fig.5 に試験弁での弁棒の振動と応力を測定した結 果を示す。流量を増加させ 1.1m2/min 付近から急激に 応力が増加しており、弁捧に曲げ応力が発生する状態、 すなわち振動が発生していると考えられる。振動につ いても 1.2m2/min 付近から急激に増加しており、曲げ 応力と同等な結果を示しており、振動測定により応力 の発生を検知できることが確認できた。Attachment of ultrasonic sensorStemUltrasonic vibrometerCrack point of stemUltrasonic sensorDiscUltrasonic pulser & Ultrasonic receiver pulser & receiverVibration Ultrasonic sensor~Body Fig.3 Ultrasonic vibrometer and measurement point503Actuator supported point-ww PackingStress evaluation pointVibration measurement point IO DiscVibration VibrationFig.4 Vibration response analysis model40|-- VibrationStrainVibration (0-Peak evalue) [rum]Strain amplitudes (O_Peak value) [M]VibrationStrain-- VibrationStrainVibration、さ Vibration (0-Peak evalue) [m] Vibration (errs5Strain1905/08/016081VibrationStrain amplitudStrain* 0.00204 0.6 0.8 10 12 14Flow Rate[m/min] Fig.5 Stem vibration and strain data4.3 弁棒亀裂診断技術弁棒の初期亀裂の検知を目的に、弁棒亀裂診断技術 を開発した。Fig.6 に示すように弁棒頭頂部に超音波 センサを設置し、垂直探傷によって非分解で亀裂を検 知する。亀裂が存在する場合、亀裂箇所からのエコー が得られるため、この亀裂エコーから診断を行う。 垂直探傷では弁棒底部や弁体からの形状エコーも検 出されるが、弁棒サイズから形状エコーの発生位置 (=時間)が得られることから、亀裂発生が予想され る領域に時間ゲートを設定することで亀裂エコーと 形状エコーとを分離する。上記探傷法に基づき開発した診断装置を Fig.7 に示 す。亀裂診断装置は、センサ及び保持具、超音波送受 信器、ノート PC から構成される。センサの電動弁へ の取り付けは保持具内のマグネットにて吸着する方 式としており着脱可能である。性能検証として、模擬亀裂(スリット)を付与した 弁棒を電動弁に組み込み、弁閉状態で非分解診断を行 った。弁棒には 606mm、940mm の2サイズを用いた。 結果、いずれも亀裂深さが弁棒直径の 10%以上(亀 裂長さは弁棒直径の 30%)から亀裂エコーが検出で きることを確認した。Fig.8 に 940mm サイズの観測信 号を示す。また、弁開状態の流量 1.3m2/min 下で同様 の測定を行ったが、弁閉状態と同等の信号が得られ、 停止中に加えて系統運転中でも診断が可能なことを 確認した。Ultrasonic sensor (2~5MHz)SensorUltrasonic echoTransmissionStemStemCrackCracktoDiscArea of crack detection> EdgeBodyBodyFig.6 Measurement areaNote PCSensor attachment mounted on valveUltrasonic pulser & receiverMagnetMagnetSensorSensor and its attachmentFig. 7 Diagnostic systemStemCrackSensorDisc1900/01/104mmHI」Ultrasonic echo40mm12mmSignal level[V]Echo from crack-0.10100 200 300 400 500 600 700 800 900Depth[mm] Fig.8 Measurement result of stem5.結言以上のように、米国の規制や保全実績に基づき開発 した、電動弁の主要な経年劣化事象及び組立・調整状 態を簡便に診断可能とする性能診断技術と、国内の弁 トラブル経験に基づき開発した、弁棒の疲労・亀裂診 断技術により、電動弁の総合的な設備診断技術を確立 した。 * 本技術を実機に対して適用し、状態監視保全を運用 していけば、原子力発電所に多数ある電動弁の信頼性 向上と保全コスト低減に大きな効果が期待できる。504参考文献 [1] NRC, Generic Letter 89-10 及び 96-05 [2] 原子力安全基盤機構, 運転管理年報(1966 年~2005年) [3] 日本原子力技術協会ホームページ, 原子力施設情報公開ライブラリー「ニューシア」 [4] 日本電気協会, 軽水型原子力発電所の運転保守指t JEAG4803-1999 [5] 荒川他, D&D2002,203(2002) [2] 原子力安全基盤機構, 運転管理年報(1966 年~2005年) [3] 日本原子力技術協会ホームページ, 原子力施設情報公開ライブラリー「ニューシア」 [4] 日本電気協会, 軽水型原子力発電所の運転保守指針 JEAG4803-1999 [5] 荒川他, D&D2002,203(2002)- 505 -“ “?電動弁診断技術の高度化への取り組み“ “松 幸太郎,Kotaro HEGI,清水 俊一,Shunichi SHIMIZU,日隈 幸治,Koji HIGUMA,西野 浩二,Koji NISHINO,尾崎 健司,Kenji OSAKI,渡部 和美,Kazumi WATANABE,濱野 文一,Frank HAMANO
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