流れ加速腐食を想定した配管厚さ測定への電磁超音波探触子の適用について

公開日:
カテゴリ: 第7回
1.緒言
発電プラントには、高温、高圧にさらされる配管が あり、減肉が生じる恐れがある[1]。そこで、日本機械 学会が定める減肉管理規定[2]に基づき、定期的に配管 の肉厚測定を行って配管の健全性を担保している。科 学的見地と経験から、オリフィス下流には流れ加速型 腐食(以下、FAC)が発生する恐れがあることがわかっ ており、定期点検時に超音波探触子を用いた厚さ測定 を行っている。今後のプラントのより安全で効率的な運転のために 状態監視保全が求められており、定期点検だけではな く、供用期間中の常時監視が可能な測定技術が求めら れている。そこで、高温環境に強いと言われる、電磁 超音波探触子(以下、EMAT)の使用が検討されている。 EMAT は静磁場を発生させる磁石と、交流磁場を送受 信するコイルによって構成されている[3][4][5][6][7]。 板厚の評価はもちろん、材質の疲労評価などにも用い られている[8]。カプラントが必要なく、耐高温特性、 コスト的な利点から、探触子を断熱材の内側に常時配 置することが原理的に可能である。また、共鳴を利用 連絡先:小島史男 神戸大学大学院 工学研究科 情報知能学専攻 〒657-8501 神戸市灘区六甲台町 1-1 E-mail: kojima@koala.kobe-u.ac.jpすることで、高い分解能を得ることができる [9][10]。一方で、これまで報告されている EMAT を用いた研 究において、実機に生じる減肉の形状についての考察 を行っているものは多くない。そこで本報告では、最 初に FAC による減肉の形状を円弧で模擬した試験体 を作成し、EMAT を用いて測定を行った。次に、FAC 表面に生じる鱗片模様を模擬した試験体を作成し、測 定に与える影響について検討を行った。最後に、実機 模擬環境によって作成した FAC試験体を測定し、超音 波法と比較して十分な精度で厚さを測定できることを 確認した。
2.実験方法2.1 原理EMAT はコイルと静磁場を作る磁石によって構成さ れる探触子である。本報告では横波垂直型の EMAT を 用いた。その構造を Fig. 1に、装置全体の校正を Fig.2 に示す。コイルに任意の周波数のバースト波を印加す ることで、適用する試験体の材質が非磁性体の場合は ローレンツ力、強磁性体の場合はローレンス力と磁歪 によって試験体表面に任意の周波数の振動を送信する ことができる。発生した振動は試験体内を超音波とし て伝播する。受信は送信と逆のプロセスで行い、磁石 の作る静磁場と裏面で反射して入射面まで戻ってきた527振動により、渦電流が発生、それによる磁束の変化が一体である。これは、オリフィス下流に生じる FAC を模 EMAT のコイルに誘導起電力として現れる。EMATは擬している。旋盤を用いて配管内側を切削し、配管と 超音波の変換に電磁場を用いることから、カプラント 同軸の減肉を加工した。 FAC の減肉カーブを軸方向の を必要としない厚さ測定が可能である。円弧で模擬している。この試験体を円弧減肉試験体と 配管厚さの測定には共鳴法を用いた。バースト波の呼ぶ。材質は SS400、配管呼び径は 2B で、健全部の 周波数を掃引すると、厚さに対してユニークな周波数 配管厚さは5mm である。円弧のパラメータは a=60mm、 間隔で Fig. 3(a)のような共鳴が起こる。共鳴状態でな b=0.5,1.0mm である。 いセンサ出力を Fig. 3(b)に示す。周波数間隔af から厚 Fig. 3(b) は FAC のミクロ的な形状を模擬した試験 さTを得るには、配管材料の音速 vから、以下の式で 体である。これは、減肉面に生じる鱗片模様を模擬し 求めることができる。ている。平板にボールエンドミルで隙間なく半球状の窪みを加工した。この試験体を模擬鱗片試験体と呼ぶ。 TE材質は SS400、健全部の厚さは 10mm で、使用したエ 23fンドミルは半径 1,50mm、切削深さ 1mm である。した 共鳴状態の判定は、同期検波法によって定量的に評価がって、減肉部の最小厚さは9mm である。 した。本装置を用いた平板の実験では、分解能が 0.1mm また、実機環境を模擬した減肉環境において作成し 以下であることを確認した。た試験体の測定を行った。この試験体はオリフィスを 2.2 試験体持っており、オリフィス下流に FAC が存在している。 Fig. 3(a) は FAC のマクロ的な形状を模擬した試験 この試験体を FAC試験体と呼ぶ。-1共鳴状態の判定は、同期検波法によって定量的 した。本装置を用いた平板の実験では、分解能がMagnetN10mmSLCoilEddy currentUltrasonic wave Lorents force Fig. 1 Principle of EMATFig. 2 Experimental setup」d= 11|t=9 -admmmmmmmmm下 1140140 (a) Arc test sample(b) Test Fig. 3 Test samples of mock FAC 体である。これは、オリフィス下流に生じる FAC を模 擬している。旋盤を用いて配管内側を切削し、配管と 同軸の減肉を加工した。 FAC の減肉カーブを軸方向の がって、減肉部の最小厚さは9mm である。また、実機環境を模擬した減肉環境において作成し た試験体の測定を行った。この試験体はオリフィスを 持っており、オリフィス下流に FAC が存在している。Oscilloscope00○○00gOoooWOODBurst power supplyDiplexer input outpuAmp. input outpuBPinput outp その[000 000?EMATTest sample(b) Test sample with Surface like scales - 528 -3.実験結果3. 1 円弧試験体 1. 健全部と減肉部の差が““b““である。試験体の測定結果 を Fig.4に示す。配管軸方向に 13 点測定した。減肉は 配管と同軸に加工しているため、測定点を周方向に動 かした時の厚さ同一である。横軸は軸方向位置、縦軸 は共鳴周波数と音速から求めた配管の厚さである。減 肉部はグラフの中央に存在している。グラフの両端は 健全部である。超音波の反射が困難になる、軸方向 50mm において、十分な SN 比で共鳴周波数を測定す ることができた。b=0.5, 1.0mm ともに、全領域におい て““b““を正確に評価できている。また超音波を用いた測 定結果とよく一致している。同じ減肉形状でも、小口 径管になるほど減肉面が急になり、測定が困難になる と考えられるが、今回用いた 2B 配管で十分な SN 比で UT と同様の測定結果が得られたことから、2B 配管以 上で同様な結果が得られることが期待できる。Wall thickness (mm)Wall thickness (mm)AUT ローEMATAUT BEMAT10 20 40 60 80 100 120 1402 0 20 Axis position (mm) (a) a=0.5mmFig. 4 Results of arc test samples40 60 80 100 120 140 Axis position (mm)(b) b=1.0mm350350-t10 -t9R1r1300-t10 -t9R50r100Sensor outputSensor output500.511. 52100. 51 1.52 Freq. (MHz)Frea. (MHz) (a) t9R1r1(b) t9R50r10 Fig. 5 Results of test sample with Surface like scales3.2 模擬鱗片試験体 模擬鱗片試験体の減肉面は球状の加工面を持ち、球 の径を R、加工面直上から見たときの加工穴の半径を r、加工穴の最も深い位置の板厚をt とした。実際の鱗 片はr=1mm 程度である。 - 測定結果を Fig. 5 に示す。Fig. 5(a) に示す通り、 t09R0101 は厚さが明確に確認できる一方、Fig.5(b) に 示す 109R50r10では確認できない。t09R50r10 のように 全体にわたって傾きが緩やかな場合は、厚さの異なる 位置で、広い周波数帯で超音波が入射面まで戻ってき ており、共鳴しにくい状態になっていることが予想さ れる。一方で、t09R01:01 が厚さを明確に確認できる のは、減肉の凸部以外では超音波は散乱するので、凸 部のみの共鳴を得られるからだと考えられる。このこ とから、鱗片模様においては、超音波がより反射しや すい減肉の凸部、すなわち配管厚さの最薄部の厚さを 得られる。厚さの評価結果は 9.0mm であり、最薄部の 厚さ 9.0mm と一致した。
O Measurement pointFAC test sample0.00012 0.00010 0.00008Thickness (mm)2000006AEMAR 30,00004 B-UT0.000020.00000 0510_152010 1 .5 2.0. 25 3.0 Axis directionFreq. (MHz) (a) Thickness profile on “a” axis(b) Waveform on “a04” pointFig. 7 Results of mock FAC test sample 3.3 FAC試験体実機への適用を見据えた、複数のセンサの配置および - 試験体の測定位置を Fig. 6に、測定結果を Fig.7に信号処理方法について検討を行う。 示す。通常小口径管は周方向に4点の測定であるが、謝辞 本報告では、より多くのデータを得るため、周方向に 8点測定した。Fig.7(a) の a軸 3-9 付近に減肉が確認で 本研究は経済産業省原子力安全・保安院の「平成21年度高経年化 きる。減肉部においては減全部と比較すると SN 比が 対策強化基盤整備事業」において実施した研究である。FAC試験体 悪化するが、この試験体においては Fig. 7(b)のように、 は東京電力(株)様に提供いただいた。関係各位に感謝申し上げる。 十分な SN 比で厚さを評価することができた。また UT参考文献 の測定結果とよく一致している。宮澤正純:「化学プラントでのエロージョン・コロージョン事例」、材料と環境, Vol.57, No.3, 2008, pp.118-121日本機械学会,““発電用設備配管減肉管理に関する規格”, 日本 4.結言機械学会,2005B.W. Maxfield and C.M. Fortunko, The design and use of FAC を模擬した円弧状の減肉において、EMAT によelectromagnetic acoustic wave transducers, in: Material Evaluation,Vol.41, 1983, pp. 1399-1408. る測定は UT と同様の測定結果を得られた。鱗片を模[4] R.B. Thompson, Physical principles of measurements with EMAT 擬した r=1mm の試験体において、最薄部の厚さを精度transducers, in: Physical Acoustics, Vol.19, Academic Press, NewYork, 1990, pp. 157-200 よく得ることができた。また、実機模擬環境において [5] K. Mirkhani et al. Optimal design of EMAT transmitters, in: NDT&EInternational, Vol. 37, 2004, pp. 181-193. 作成した FAC 試験体において、UT と同等の測定結果[6] .山崎友祐, 河部大輔, 大谷俊博,平尾雅彦、電磁超音波センサ を得ることができた。を用いた最適波形法による鋼管の減肉検査““, 日本機械学会論文誌(A編), Vol. 67, No.659, 2001, pp. 169-174 以上のことから EMAT は FAC を対象にした測定にSmith, B.J., Martin, R. and Holt, R.P., “The use of EMATs for wall おいて、UT と同等の性能を持っており、UT で測定がthickness measurements on corroded pipes” Proc 6th Int Conf onNDT Methods, Strasbourg, p. 49, 1986 困難である測定箇所への補完(例えば常時監視システ平尾雅彦、荻博次, ““電磁超音波共鳴による疲労過程の非接触 ムのセンサ等)として、検討に値する手法だといえる。モニタリング““,非破壊検査, Vol.51, No. 2, pp.79-82, 2002[9] K. Kawashima, Very high frequency EMAT for resonant - 今回の FAC 試験体においては測定可能であったが、measurement, in: Proc IEEE Ultrasonic Symposium, No. 2, 1994,pp.1111-1119. 減肉部において信号の減衰がみられることから、今後[10] H. Ogi, ““Field dependence of coupling efficiency betweenelectromagnetic field and ultrasonic bulk waves““, J. Appl. Phys. 82 (8), は FAC における鱗片状の凹凸と測定信号との関係や、15, pp.3940-3949, 1997 困難である測定箇所への補完(例えば常時監視システ ムのセンサ等)として、検討に値する手法だといえる。 ムのセンサ等)として、検討に値する手法だといえる。 * 今回の FAC 試験体においては測定可能であったが、 宮澤正純:「化学プラントでのエロージョン・コロージョン事例」、材料と環境, Vol.57, No.3, 2008, pp.118-121 日本機械学会,““発電用設備配管減肉管理に関する規格”, 日本 機械学会,2005 B.W. Maxfield and C.M. Fortunko, The design and use of electromagnetic acoustic wave transducers, in: Material Evaluation, Vol.41, 1983, pp. 1399-1408, R.B. Thompson, Physical principles of measurements with EMAT transducers, in: Physical Acoustics, Vol.19, Academic Press, New York, 1990, pp. 157-200 K. Mirkhani et al. Optimal design of EMAT transmitters, in: NDT&E International, Vol. 37, 2004, pp. 181-193. ・山崎友祐, 河部大輔, 大谷俊博,平尾雅彦, “電磁超音波センサ を用いた最適波形法による鋼管の減肉検査““, 日本機械学会論 文誌(A編), Vol.67, No.659,2001,pp.169-174 Smith, B.J., Martin, R. and Holt, R.P., “The use of EMATs for wall thickness measurements on corroded pipes” Proc 6th Int Conf on NDT Methods, Strasbourg, p. 49, 1986 平尾雅彦,荻博次,““電磁超音波共鳴による疲労過程の非接触 モニタリング““, 非破壊検査, Vol.51, No. 2, pp. 79-82, 2002 K. Kawashima, Very high frequency EMAT for resonant measurement, in: Proc IEEE Ultrasonic Symposium, No. 2, 1994, pp.1111-1119. H. Ogi, ““Field dependence of coupling efficiency between electromagnetic field and ultrasonic bulk waves”, J. Appl. Phys. 82 (8), 15, pp.3940-3949, 1997 - 530 -[8]“ “流れ加速腐食を想定した配管厚さ測定への電磁超音波探触子の適用について“ “小坂 大吾,Daigo KOSAKA,小島 史男,Fumio KOJIMA,梅谷 浩介,Kousuke UMETANI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)