保全最適化に向けた仮想プラント構想

公開日:
カテゴリ: 第7回
1.緒言
「我が国の原子力発電所の安全性は、非常に高いレベ ルに維持されているものと考えられるが、その事は誰 にでも明らかだという訳では無い。今後はこれを客観 的に評価して、一般公衆に対し分かりやすく伝達する 技術が望まれる。 - 仮想プラント構想は、計算機上に構築したプラント に、実際の保全活動によって得られる各種データや、 運転実績に基づく指標を取り込んで、既存の知見や確 率論を基にプラントの弱点部を発見し、安全性・信頼 性を客観的に評価しようとするものである。一方、平成 20 年度から導入されている新検査制度 では、それまで一律だった検査からそれぞれのプラン トの運転期間とその経過状況を考慮し、きめ細かい検 査を行うこととしている。また各事業者は、保全デー タの評価に基づき、他プラントの経験、技術的知見等 を考慮して、保全の方式、頻度等を見直して定め保全 プログラムに規定する。この様な状況の中、今後構築していく仮想プラント は、原子力発電所の保全関係者が対外的な説明責任を 果たすのに、有用なツールとしての性質を持つことが 望まれる。 1. 本稿では仮想プラント構想の提唱と、それを構成す る各要素について、断片的では有るがイメージ化を試 み、関連する IIU の研究活動についても一部紹介する。
2. 仮想プラントを取り巻くデータベース * 原子力発電所の保全に関するデータベースは膨大 である。それらは事業者毎に異なる構成を持ち、日々 の保全活動の中で運用されている。
仮想プラントへの入力としてのデータベース構築 に際しては、これらの既存の資源の有効活用が望まれ るが、ここでは概念としてのデータベース構成を示す (Fig.1)。保全設計設計系統・機器重要度 P&ID(配管計装図) ECWD(制御装置展開接続図) 機器・部品情報保全指針・要領書 保安規定 運転・トラブル最歴 PI-SDP作業手順書・要領書 機器・部品の劣化特性・故障率 保全計画・履歴 状態監視データ・As Found Datal仮想プラント蓄積型のデータFig. 1 Database for a Virtual PlantFig.1 の構成では、データベースは「設計」「運転」 「保全」に関する情報から成り、これらのデータベー スは静的なタイプのデータと蓄積されるタイプのデ ータを持っている。設計に関する情報としては、P&ID(配管計装図) やECWD (制御装置展開接続図)といったプラントの 物理的な構成情報や、系統・機器重要度といった安全 上の機能に関する情報等がある。これらは基本的には 静的な情報であるが、プラントの運用に伴って新しく 得られる知見に基づいて、機器の材料・構成を変更す る等の更新が行われる事もある。 - 運転に関する情報としては、運転マニュアルや遵守- 536 -すべき保安規定等のルールが静的情報としてあるが、 特に重要なのは、プラント運用に伴って初めて得る事 が出来る、運転実績・トラブル経験等に関する情報で ある。ここには、PI (Performance Indicator, 安全実績指 標)や SDP (Significance Determination Process, 重要度 決定手法)といった一般公衆に公開され、客観的に評 価する事の出来る情報があり、これらの情報を総合的 に分析する手法の開発が望まれる。保全は対象となるプラント(設計)と、劣化を引き 起こす運転があって初めて存在することから、Fig.1 では、保全に関する情報は運転情報と対をなす存在と して位置付けられている。ここでは機器に対する主要 な劣化モードが整理され(例:経年劣化メカニズムま とめ表)、保全計画立案の際の基本的な情報として利 用される。機器・部品の劣化特性・故障率等のデータ はプラント運用経験に伴って更新されていく/され るべき情報であり、データ蓄積の為の体系的な取り組 みが重要である。また、平成 20 年度の新検査制度の 導入以降、状態監視技術の適用、As Found データの 有効活用の重要性が高まっており、保全学会において も広く議論されている所である。3. 仮想プラントの役割 3.1 仮想プラント構築の意義 1 仮想プラントは前節の様なデータベースをインプ ットとして、何をアウトプットとするのか、それは従 来運用されている設備管理システムと何が異なるの か。 - 各事業者が現在運用、あるいは構築しようとしてい る設備管理システムは、プラント運用の為のシステム であり、資産の効率的な利用を目的とする。一方、仮想プラントの意義は、一般公衆に対する説 明能力の強化と、関係者が保全のあるべき姿を議論す るための共通基盤を提供することにある。プラント情報の可視化仮想プラント保全リソースの適正分配保全計画の評価Fig.2 Purposes of Virtual PlantFig.2 は仮想プラントが有するべき情報処理機能 の例である。ここで示したのは「プラント情報の可 視化」「保全リソースの適正分配」「保全計画の評価」 であり、以下それぞれのイメージを述べる。3.2 プラント情報の可視化本稿冒頭でも述べた様に、プラントの安全性に関す る情報を客観的に評価して、一般公衆に対し分かりや すく伝達する技術が望まれている。原子力発電所はその潜在的に有する危険性から、 現在のプラントの状態がいかに安全であるか、また 今後それをどの様に維持していくかについて、一般 公衆に対して説明責任があると考えられる。仮想プ ラントはその一助となることを目的とする。 - Fig.3 に示す様に原子力発電所の安全性について は社会的な要求がある。一方、電力供給は公共性の 高い、我が国の生産活動の根幹をなすものであるこ とと、そもそも経済活動の一環でもあることから、 当然経済的な目標も存在する。Fig.3 ではこれらの 目標をそれぞれ安全性目標、及び経済性目標として いる。これらは、保全学会の「保全法則」に合致し ている。社会的な要求安全性目標」経済性目標目標を達成する為の保全計画を立案保全の実施フィードバック 保全計画への安全水準・保全水準の評価対外的な説明へ。Fig.3 Safety and Maintenance Level現在、保全学会では保全水準の検討が行われてお り、それは安全性目標と経済性目標の両立を目指す ものである。ここでは、安全水準及び保全水準の定 量化が望まれている。それらの評価手法としては、PSA (Probabilistic Safety Assessment, 確率論的安全評価)等の確率 論的手法に基づくリスク評価手法や、運転実績に対 して点数を設定する等の決定論的手法の適用が考 えられるが、いずれにしても数値化して議論できる 環境を整備することが重要である。原子力発電所の安全性に関する社会的な要求は、 際限の無いものでは無く、現実的な範囲にてなされ るべきである。「角を矯めて牛を殺す」(少々の欠点 を直そうとしてかえって全体を駄目にするの意)と いうことわざがあるが、例えば、安全上問題の無い 事象を殊更大げさに扱うことで、事業者の活動を硬537直化してしまえば、人材・資源の有効的な活用が阻 害される事に成りかねず、さらには我が国の体力、 国際的競争力を削ぐ事にも繋がりかねない。 - 安全・保全水準の定量化は、保全をどこまでやれ ば良いかを議論するための土台であり、その目標が 定量化され、それを満足していることが明らかであ れば、それ以上の詳細は事業者の裁量に委ねられる べきである。 - 仮想プラントでのプラント情報の可視化は、PI やSDP といった実績や、CDF 等の評価データをも とに、安全水準・保全水準を示す各種指標を整理し て提示し、或いは故障事例の分析等でプラントの弱 点部分を発見するものである。さらに理想をいえば、古典力学の質点運動におけ る、現在の位置と速度(加速度)から将来の位置を 予測する運動方程式とのアナロジーより、事業者の 安全性向上に資する取り組みについても定量化可 能ならば、それは将来の安全性の予測にも繋がる。3.3 保全リソースの適正分配 - 仮想プラントの第 2 の目標として保全リソースの 適正分配に資する情報の提示が挙げられる。先に述べ た様に安全性目標が満足されているという条件下で、 事業者は保全リソースの分配について裁量を持つも のと考える。事業者が有する人的・物的な保全リソースは有限で あるので、「いつ」「どこで」「どのように」保全タス クを行うべきか、リソースの適正分配が望まれる。同 じ保全リソースでも、適切な分配によって保全の効率 化、設備信頼度の向上やコストの削減が期待出来る (Fig.4)。このような考え方を延長したものとして、システム 化規格がある。システム化規格は、材料、設計、検査、 保全等に関する規格基準に含まれる技術項目間での 裕度分配を可能にすることで、全体として過剰な裕度 を削減し、真に合理的な設計を実現するための柔軟な 技術体系である。現在、日本がリードする形で活発な 検討が進められている。設計保全異なる技術項目間での裕度分配重要度の低い保全タスク。| 重要度の高い保全タスク対象・手法・頻度等の見直しFig.4 Optimization of Resource Managementまた、LRFD (Load and Resistance Factor Design) 法という設計手法がある。従来の決定論的設計手法で は、材料や構造の持つ強度、及びそれに係る荷重につ いてのバラつきに対して、経験的な安全率を用いるこ とで、安全裕度を担保してきた。 LRFD 法では確率論 を利用し、強度や荷重のそれぞれを確率変数と見なし、 それらの分布関数を考慮することで、構造物の信頼性 を破損確率という概念によって評価する。例えば、強 度のバラつきが小さい材料ならば、部材の厚さを低減 出来る等の効果が得られる。IIU では、配管系に対し て LRFD 法を適用し、検査頻度と設計のバランスを 最適化する手法の開発を行っている。3.4 保全計画の評価 1仮想プラントの第 3 の目標は保全計画の評価であ る。 Fig.5 に示す仮想保全の概念は、計算機上で機器・ 系統に関するデータベースを活用して、保全の効果と プラントの弱点部を予測するというものである。ここ での予測は、必ずしも正確である必要は無く、充分保 守的に評価されていることが保証されていれば良い。仮想保全PDCA保全計画への フィードバック保全計画・プラントの弱点はどこか? ・保全リソースの分配は適切か?保全仮想プラント評 個劣化・故障に関する| 点検・補修等に関する データベースデータベース設計情報等安全水準に 関する検討AF(As Found)データ」AFデータの 活用方法の検討Fig.5 Image of Virtual MaintenanceIIU では定検工事実施計画の自動作成ツールの開 発を行っている (Fig.6はその出力例)。その目的の 一つは、例えば作業員がスキルアップすることで複 数機器を保全出来る様になれば(多能工化)、どの 様に保全コストの低減や作業効率化に効果がある かといったことを仮想的に評価することである。Fig.6 Example of Maintenance Scheduleまた、Fig.7 はソフトウェア化した仮想プラントの イメージ例である。 P&ID 上で、或いはユーザが自由538 -に移動できる 3D 化したプラント上で保全作業の進行 状況を表示している。定検工事中のプラント内部の作 業の様子を(公開できる範囲で) 可視化することで、 関係者が保全計画に関して議論するのに有用なツー ルとなることが期待できる。これは 3.2 節で述べたプ ラント情報の可視化の一環でもある。EBminal asakihannerationstalkinarchirands1.日本全国MOHパーク・13日本/6/21Fig.7 GUI Image of Virtual Plant 4.結言我が国の国際的競争力の確保において、原子力エネ ルギーの効率的な利用は重要である。 状態監視技術の 積極的な適用や As Found Data の有効活用に向けた 動きなど、保全の高度化は絶えず進められているもの の、保全リソースの有効活用という観点において未だ 改善の余地は大きい。今後のスムーズな保全高度化のためには、安全性の 確保に対して明確な基準が設定されることが必要で ある。そのための安全水準・保全水準に関する定量化 については保全学会において議論が進められている ところである。その様な背景の下、一般公衆に対する説明能力の強 化と、関係者が保全のあるべき姿を議論するための共 通基盤を提供するための仮想プラント構想について 提唱した。また、「プラント情報の可視化」「保全リソースの適 正分配」「保全計画の評価」といったテーマについて 断片的ではあるが、そのイメージを示した。今後は、全体の方向性についてのさらなる検討と、 必要とされる個別の要素技術の開発を進めて行きた い。 リソースの適 ーマについて た。 なる検討と、 - 539“ “保全最適化に向けた仮想プラント構想“ “高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,児玉 典子,Noriko KODAMA,宮 健三,Kenzo MIYA
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)