ニッケル基600合金用被覆アーク溶接金属の高温高圧純水中の応力腐食割れ感受性に及ぼすC、Nb濃度の影響
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カテゴリ: 第7回
1.緒言
響を受けるかについて,これまでにほとんど書 られない近年では溶接金属の SCC 予防対象1 原子力発電プラントの原子炉炉内構造物の一部に用 いられているニッケル基 600 合金の被覆アーク溶接金 属における応力腐食割れ(SCC)の発生が,これまで に沸騰水型原子炉(BWR) りおよび加圧水型原子炉 (PWR))ともに定期検査等で検出されている. 600 合金 溶接金属は Cr より炭化物形成傾向の強いND, Ti を添加 することで,これらの炭化物を形成させ,Cr 炭化物と なるCの固溶濃度を減少させてCr炭化物の粒界析出を 抑制する.これにより, BWR においては,炉水環境下 で SCC 感受性を高める要因とされている粒界の Cr 欠 乏層の形成を抑制している.このような NG, Ti の効 果を定量的に表わすために,山内ら は C, Nb, Ti 濃度 から構成される安定化パラメータを提案し,600 合金 溶接金属の SCC 発生を防止するためには,このパラメ ータを制御することが有効と述べている.しかしなが ら,個々の化学成分の含有量を単独で変化させた場合 に, 高温高圧純水環境下の SCC 感受性がどのような影Member Member Member 響を受けるかについて,これまでにほとんど報告が見 られない近年では溶接金属の SCC 予防対策として Nb 濃度が従来材より高く, 4mass%程度まで含まれる 改良材が用いられる傾向がある.しかし,このような 高濃度域まで高温高圧純水環境下での SCC 感受性と NB 濃度との関係を系統的に調査した研究は少ない. 特 に溶接金属は凝固偏析により化学成分の不均一を生じ るが 5,凝固偏析が SCC 感受性に及ぼす影響に着目し た研究は過去にほとんど報告が無い.そこで本研究では,600 合金被覆アーク溶接金属に おいて, 粒界の Cr 欠乏層の形成に強い影響を及ぼすと されている C, Nb 濃度を変化させた溶接金属を作製し て,原子炉圧力容器の製造時の応力除去焼鈍を模擬し た熱履歴と,長期間運転時の熱履歴の加速条件に相当 する熱処理を施した.そして,高温高圧純水中の SCC 感受性に及ぼす C, Nb 濃度の影響をCBB試験により把 握し,その原因について主に金属組織学的な観点から 調査した.さらに,SCC 感受性に及ぼす力学的要因に ついて, FEM 解析を用いて詳細に検討した. - 550 -
2. 実験方法
2.1 評価試験体の作製 - 製作した試験体の溶接金属の化学組成を供試母材と ともに Table 1 に示す.標準材(Standard)の化学成分 を基本として,SCC 感受性に影響を及ぼすと考えられ る C, Nb 濃度を,被覆材の化学成分を調整して変化さ せた合計七種類の 600 合金用被覆アーク溶接試験体を 製作した.ここで,低C材は原子力用の 182 合金を, 低 C/Nb 材は原子力用の改良 182 合金の化学組成を 模擬している.溶接試験体の製作条件,および溶接後 に施した熱処理(SR+LTA) 条件は,別報のと同じであTable 1 Chemical compositions of the weld metals andthe base metal used (mass%).T120Materials C Si Mn P SNi Cr Fe N b Ti N (ppn) (ppa) Standard1 0.069 | 0.48 15.39 | 0.012 | 0.005 169.33 | 14.80 16.59 1.24 10,621 228Low C 10.030 0.4815.75 10.011 10.00569.28 14.85 16.641.3210,42 High C 0.110 | 0.4415.27 10.022 | 0.009 | 69.16 | 15.10 17.06 | 1.23 10.38 High No1 10.074 | 0.4914.97 | 0.016 | 0.005168.92 14.00 17.21 2.59 10,61 High Nb210.069 | 0.4314.86 0.01310.00565.95 15.0618.71 14.0110.54115912 205High Nb310.076 | 0.5514.87 10.017 | 0.004 | 68.39 | 14.3217.23 14.390.50 | 234 239 Low C/high kb 0.037 0.57 14.77 10.018 | 0.005 168.65 13.81 | 1.31 | 3.96 10.41 Base matal 0.120 | 0.36 10.28 | 0.005 0.008 172.69 | 17.37 16.03 11 10.21 | 11 1 52.2 応力腐食割れ試験SCC 試験は、試験片表面に 1%曲げひずみを付与し た隙間付き定ひずみ曲げ(Creviced bent beam: 以下 CBB)試験により評価した.試験条件は別報 と同様 とし,試験後の溶接金属における最大割れ深さと,深 さ 30 μm 以上の平均割れ個数を求めた. 2.3 硬さ測定 - 2.2 節の応力腐食割れ試験後の CBB 試験片表面近傍 の硬さをマイクロビッカース硬さ計で測定した.測定 荷重は 0.098 N とした. 2.4 引張試験 * 製作した評価試験体から別報 ので示した小型の引張 試験片を採取し,精密万能試験機を用いて大気中で試 験温度 561 K, 標点間ひずみ速度 5×10' s'で引張試験 を行った. 2.5 金属組織評価 - 電界放出型透過型電子顕微鏡 (FE-TEM) を用いて組 織観察を行った.また,薄膜試験片による柱状晶粒界 近傍の元素分析を行った.組織観察,および元素分析 時の加速電圧は 200 kV で,元素分布の調査のための EDS 分析時のビーム径は約 1 nm である.また,次節 に示す FEM 解析に用いるため,CBB 試験片表面を EBSD 測定して結晶方位図を求めた.結晶方位は,電 界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)に取り付けた結晶方位解析装置(Tex SEM Laboratory 製)を用いて, 加速電圧 25 kV,計測ステップ 2 um で測定した. 2.6 FEM 解析による微視的応力分布の導出CBB試験時の試験片表面に負荷されている微視的応 力分布を把握するため,三上ら ”が報告している手法 で数値解析を行った.本研究では,応力が負荷された ときの各結晶のすべり変形の相違が微視的応力分布に 影響を及ぼすと考え,結晶塑性論に基づいて各結晶の すべり変形をモデルに組み込み,解析を行った. * 数値解析コードは ABAQUS を用いた.5×5×5の立 方体の形状を呈する要素モデルを作製し, 2.5 節の CBB 試験片表面の EBSD 測定で得られた結晶方位を各要素 モデルにランダムに与え,さらに 2.4 節で求めた引張 試験で得られた応力ひずみ関係を参照して,解析に必 要な材料定数を求めた. * Fig.1に微視的応力分布を求める FEM 解析モデルの 一例を示す. (a)に示す CBB 試験片表面の EBSD 測定 で得られた結晶方位図より,黒線で示す大傾角粒界の 結晶粒形状に対応した(b)に示す二次元モデルを作製し て,結晶方位に応じたすべり変形を各結晶粒に設定し た. そして, CBB 試験時の試験片表面に付与される 1% の引張ひずみを負荷したときの応力分布を求めた.中出(a)(b) Fig. 1 Finite element model reflecting IPF map: (a) IPFmap, (b) FEM model3.実験結果及び考察3.1 応力腐食割れ感受性 3.1.1 C濃度の影響 - Nb 濃度が 1.2mass%の溶接金属における最大割れ深 さのC濃度に伴う変化を Fig. 2 に,平均割れ個数の変 化を Fig. 3 に示す. 発生する SCC のほとんどは柱状晶 粒界を起点として進展する IGSCC であった. 溶接のま551ま (AW)の溶接金属は, C 濃度の増加に対して最大割 れ深さと割れ個数は大きな変化を示さない.しかし, SR+LTA 処理を受けた溶接金属では, C 濃度の増加に 伴い著しく増加する傾向が見られ, C 濃度が高いほど AW より最大割れ深さと割れ個数の差が顕著になった. これは, SR+LTA 処理により柱状晶粒界に Cr を主体と する M,C,炭化物が析出して Cr 欠乏層が形成され,耐 粒界腐食性が低下したためと考えられる.1600巨14001200・・・AWO-SR+LTA0| NB: 1.2mass% ||Maximum crack depth (m)8001 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 .12C content (mass%) Fig. 2 Effect of C contents on the maximum crack depthobserved after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTA treatment.●・AW S-SR+LTANb: 1.2mass%Number of crack more than 30 um depth- 0_ 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12C content (mass%) Fig. 3 Effect of C contents on the number of SCCs morethan 30 u m in depth observed after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjectedto the SR+LTA treatment. 3.1.2 Nb 濃度の影響C 濃度が 0.07mass%の溶接金属における最大割れ深 さの NB 濃度による変化を Fig. 4 に, 平均割れ個数の変化を Fig. 5 に示す.なお,比較のため低 C/高 NB 材の 結果も図中に記した. 溶接金属の一部に深さ 100 um 未満の浅い TGSCC や IDSCC と思われる割れが観察さ れたが,深さ 100 μm 以上の深い割れは IGSCC にな る傾向が見られた. AW では, Nb 濃度の増加とともに 最大割れ深さと割れ個数はわずかに増加する傾向を示 した.-SR+LTA A Low C/High Nb (AW) ■ Low C/High Nb (SR+LTA)| C: 0.07mass% ]Maximum crack depth cum)10 1234Nb content (mass%). Fig. 4 Effect of Nb contents on the maximum crack depthobserved after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTAtreatment....AW ●-SR+LTA」 A Low C/High Nb (AW)Low C/High Nb (SR+LTA)Number of crack more than 30 um depth| C: 0.07mass%1 2 34Nb content (mass%) Fig. 5 Effect of Nb contents on the number of SCCs morethan 30 u m in depth observed after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTA treatment. 一方,SR+LTA 処理をした溶接金属では,ND 濃度の 増加とともに 2.6mass%までは最大割れ深さと割れ個 数は減少したが,これ以上に濃度が高くなると,逆に 最大割れ深さと割れ個数は増加し, Nb 濃度が 4.4mass%552の高 NB 材 3 では標準材よりも SCC 感受性が大幅に上 昇した.すなわち, Nb 濃度の増加は Cr 欠乏層の形成 を抑制してSCC感受性を低下させると言われているが, 2.6mass%以上では逆に SCC 感受性の上昇を招く可能 性が示唆された.ただし, Fig. 4, および Fig. 5 に示さ れるように Nb 濃度が 4mass%程度であっても, C濃度 が 0.03mass%の低 C/高 Nb 材では SCC 感受性が低下し ており,C濃度を低下させることにより Nb の高濃度化 による SCC 感受性の増加は抑制できた.以上より,実プラントに用いられている原子力用の 182 合金と原子力用の改良 182 合金の化学成分を模擬 した低 C 材と低 C/F Nb 材は,AW,および SR+LTA 処理を受けた場合でも SCC 感受性は低いと言える. 3.2 Nb 濃度が 2. 6mass%以上で SCC 感受性が高くなる理由 Nb 濃度が 2.6mass%以上でSCC 感受性が高くなる理 由を明らかにするため, 柱状晶粒界近傍の Cr 濃度分布 を測定した. Fig. 6 に SR+LTA 処理を受けた標準材, 高 Nb材 1,および高 NB 材3の Cr 濃度分布を,FE-TEMにより EDS 分析した結果を示す. 標準材では,柱状晶 一粒界からおよそ150 nm の領域でCr欠乏層が形成され, 柱状晶粒界では Cr 濃度が 3mass%と, マトリックスの Cr濃度の 1/5 にまで低下していた.しかし, Nb 濃度が 2.6mass%の高 Nb 材1は,明瞭な Cr 欠乏層は見られな かった. これは,山内らが指摘しているように,Nb 濃度の増加で Nb 炭化物の量が増えて固溶 C 濃度が低 下し,これに伴い Cr 炭化物の析出量が減少して Cr 欠 乏層の形成が抑制されるためと考えられる.そして, Nb 濃度が 4.4mass%の高 NB 材3では,高 Nb 材1と同・会」。----Cr (wt%)------Standard A High Nb 1 ? High Nb 3-150 -100 -50_ 0_ 50_ 100 150Distance from the grain boundary (nm) Fig. 6 Distribution of Cr contents across a grainboundary in weld metals subjected to the SR+LTA treatment of a standard, a high Nb 1 and a high Nb 3.様に明瞭な Cr 欠乏層は見られなかった.したがって, SR+LTA 処理を受けた高 NB 材3が標準材より SCC 感 受性が大幅に高くなったのは,柱状晶粒界の Cr 欠乏層 に起因する耐粒界腐食性の低下によるのでは無く,そ れ以外の要因が影響を及ぼしていると言える.この点 を明らかにするため,溶接金属の機械的性質を金属組 ■織との関係に着目しながら調査した. 3.3 機械的性質と金属組織との関係CBB試験時に試験片表面に負荷されていた応力を把 握するため,引張試験を行った. Fig.7 に SR+LTA 処理 を受けた標準材, 高 Nb 材 1, 高 Nb 材 3, および AW での高 Nb 材3について, 561 K で行った引張試験結果 を示す. CBB 試験時の試験片表面は 1%の引張ひずみ が付与されており,SR+LTA 処理を受けた高 Nb材3は 502 MPa であるが,AW ではそれより大幅に低い 287 MPa であった.また, SR+LTA 処理を受けた標準材は 273 MPa で, 高 Nb 材 3 の 54%であった.一般に,600 合金は負荷応力が高いほどSCC感受性が高くなること が示されている 3). したがって, SR+LTA 処理を受けた 高Nb材3が標準材より高い SCC 感受性を示した一因 として,CBB 試験時の負荷応力が高いことを挙げるこ とができる.なお,高 Nb 材1の1%ひずみでの応力は 343 MPa であり,高 Nb 材3より標準材に近い応力値で あった.そのため,Nb 濃度が 2.6mass%までの増加で SCC 感受性が低下したのは, CBB 試験時の試験片表面 に負荷される応力の上昇に伴うSCC感受性の増加より も, Fig. 6 で示した Cr 欠乏層の形成が抑制されること に伴うSCC感受性の低下の方が大きいためと考えられる.ooverythiro[roooooooyal vecogpareeeoooooooStress (MPa)modersontense~Standard (SR+LTA) ......High Nb 1 (SR+LTA) --High Nb 3 (AW) -High Nb 3 (SR+LTA)100.5 11.512Strain (%) Fig. 7 Stress-strain curves of weld metals at 561 K in airatmosphere.553SR+LTA 処理を受けると高Nb材3の応力が上昇する 理由を明らかにするため,硬さ測定を行った. Fig. 8 に高 Nb 材 3 のデンドライトとデンドライト境界部の 硬さ測定結果を示す. デンドライトの硬さは、SR+LTA処理を受けてもほぼ同じであるが, デンドライト境界 一部の硬さは上昇した. したがって,高Nb材3が SR+LTA処理を受けると負荷応力が上昇するのは、デンドライ ト境界部の硬さが上昇するためと考えられる. デンド ライト境界部の硬さが SR+LTA 処理により上昇する理 由を明らかにするため,組織観察を行った. Fig. 9 に SR+LTA 処理を受けた高 Nb 材3の柱状晶粒界の TEM 観察結果を示す.実線の矢印に示すように, 10 nm 程 度の微細な析出物が観察され,電子線回折像より NigNb(y相)と同定された. 高 NB 材 3 の AW, および SR+LTA 処理を受けた標準材に y '相は観察されないこ とから, SR+LTA 処理により、相が微細析出したため に硬さが上昇したものと考えられる.しかし, y相の 分布には不均一性があり, Fig. 9の点線で示すように析 出している領域としていない領域とに分かれていた. Ni-NB 状態図によれば,y'相は Nb 濃度が約 Smass%以 上で,かつ 808 K 以上で析出することから,凝固偏析 により Nb が濃化したデンドライト境界部にSR処理が 施されてご相が析出したと考えられる. 高 Nb 材3の Nb 濃度は Smass%に達してはいないが,凝固偏析によ り Nb 濃度が 5mass%以上の領域が生じ,893 K で施し たSR 時にy'相が析出したと考えられる. *以上より, SR+LTA 処理を受けた高 Nb 材3が標準材 より SCC 感受性が高くなる要因の一つに,CBB 試験時 に負荷されていた応力が高くなることが考えられた.500Dendrite core Dendrite boundaryHardness (Hv 0.098N)High Nb 3High Nb 3 (AW)(SR+LTA) Fig. 8 Vickers hardness of the dendrite core and thedendrite boundary in weld metals.Grain boundaryPrecipitation area of y' phase1m Fig. 9 NizNb ( y') of a high Nb 3 weld metal subjected tothe SR+LTA treatment by TEM observation. 3.4 柱状晶粒界の微視的応力に関する検討 - SCC 感受性に及ぼす負荷応力の影響は,Fig. 7 で示 した引張試験によるマクロ応力の差異で説明できた. しかし, 3.1 節で述べたように,発生する SCC のほと んどは IGSCC になることから,本節では CBB 試験時 において各溶接金属の柱状晶粒界に負荷されるミクロ 応力に着目し, SCC 感受性との関係について検討した. - Fig. 10 に, SR+LTA 処理を受けた標準材と高 Nb 材3 の 1%引張ひずみでの FEM 解析による微視的残留応力 分布を示す.引張試験では,1%ひずみでの負荷応力は 標準材より高 Nb 材 3 の方が高いため、全体的に標準 材より高い応力が負荷されている.また,柱状晶粒界 近傍に応力集中する傾向が見られた. 一般的に,柱状 晶は母材結晶粒から[100]を優先方位としてエピタキシ ャル成長するため,各溶接金属の結晶方位分布は,広Tensile direction(MPa) +6.000e-02 +5.500e+02 +5,000e+02 +4.500e402 +4.000e-02 +3,500e+02 +3,000e+02 +2.500e-02 +2,000e-02 +1,500e-02 +1,000e+02(a)100um300mm 500um-700mm(b) Fig. 10 Stress distribution of tensile direction by FEManalysis weld metals subjected to the SR+LTA treatment :(a) a standard, (b) a high Nb3.554範囲で見た場合に顕著な差は無いものと考えられる. そこで,標準材の結晶方位モデルを代表例に用いて, 引張特性を SR+LTA 処理を受けた高 NB 材 1, および高 Nb材3とした場合の 1%ひずみでの微視的残留応力分 布を求めた.そして, Fig. 10(a)に示す左端から 100,300, 500,700 um離れた線上における柱状晶粒界の応力値 を導出した. Fig. 11 に引張試験の 1%ひずみでの応力と, そのときに柱状晶粒界に負荷される応力との関係を示 す.標準材(引張試験で 274 MPa)の柱状晶粒界に負 荷される応力の平均値は,マクロ応力と比較して特に 大きな差は見られない.しかしマクロ応力の上昇に 伴い柱状晶粒界に負荷される応力の平均値は上昇し, 高NB 材3(引張試験で 502 MPa) はマクロ応力より 63 MPa 高く,ほとんどの粒界にマクロ応力以上の応力が 負荷されていた. このため,マクロ応力が上昇した場 合,柱状晶粒界に負荷される応力の平均値はマクロ応 力の上昇量以上に高くなることが示唆された。 - 以上より,高 Nb 材3の SCC 感受性がより顕著に上 昇(Fig. 4,5) するのは,CBB 試験時に負荷されていた 平均応力が高く,SCC の起点である柱状晶粒界はこれ よりさらに高い応力が負荷されるためと推察される.Stress at grain boundary by FEM analysis (MPa)1% tensile strain- 200 300 400 500 600 700Stress by tensile test (MPa) Fig. 11 Relationship between stress during 1% tensilestrain by testing and stress at grain boundary by FEM analysis.4.結論1) AW では C, Nb 濃度の増加で SCC 感受性に大きな変化は見られないが, SR+LTA 処理を施した場合は C, Nb 濃度の増加で SCC感受性は著しく変化する.2) SR+LTA 処理を施した場合は,N6 濃度の増加により 2.6mass%までは Cr 欠乏層の形成抑制のために SCC 感受性は低下するが,さらに Nb 濃度が増加 して 4.4mass%になると, 明瞭な Cr 欠乏層が形成さ れていないにもかかわらず SCC 感受性が大幅に上 昇した.これは,凝固偏析でデンドライト境界部 の Nb 濃度が高くなり,SR+LTA 処理で NisNb(y, 相)が微細析出して材料が硬化し,SCC 試験時に負荷されていた応力が高くなるためと考えられる. (3) マクロ応力が上昇した場合,柱状晶粒界に負荷される応力の平均値はマクロ応力の上昇量以上に高 くなることが FEM 解析により示唆された.このこ とが, Nb 濃度が 4.4mass%になると SCC 感受性が 大幅に高くなる要因の一つだと考えられた.参考文献1) 青木孝行,服部成雄,安齋英哉, 住本秀樹,“BWR環境下で長期間使用されたニッケル基合金の応力 腐食割れ,““保全学,4[1], 34-41(2005). 福村卓也, 戸塚信夫,“原子炉容器上蓋管台部の 1 次冷却材漏洩経路等調査,““Journal of the Institute ofNuclear Safety System, 15, 113-124(2008). 3) N. Saito, S. Tanaka and H. Sakamoto, “Effect ofCorrosion Potential and Microstructure on the Stress Corrosion Cracking Susceptibility of Nickel-Base Alloys in High-Temperature Water,” Corrosion 59[12],1064-1074(2003). 4) 山内清,浜田幾久,岡崎朝彰,横野智美,“安定化パラメータのコントロールによるニッケル基溶接」 金属の耐粒界腐食性並びに耐粒界型応力腐食割れ性の向上,” 防食技術, 35, 605-615(1986). 5) J. S. Ogborn, D. L. Olson and M. J. Cieslak, “Influenceof Solidification on the Microstructural Evolution of Nickel Base Weld Metal,” Materials Science andEngineering, A203, 134-139(1995). 6) 西川聡,大北茂,山口篤憲,池内建二,“ニッケル基 600 合金用被覆アーク溶接金属の高温高圧純水 中の応力腐食割れ感受性に及ぼす Cr 濃度の影響,保全学会第7回学術講演会要旨集(2010). 7) 三上欣希, 曽我部恵典, 浦口良介, 望月正人, “結晶方位分布を考慮した数値解析による応力腐食割れ 試験片における微視的応力分布の評価,” 第 197 回 溶接冶金研究委員会資料555“ “?ニッケル基 600 合金用被覆アーク溶接金属の高温高圧純水中の応力腐食割れ感受性に及ぼす C, Nb 濃度の影響 “ “西川 聡,Satoru NISHIKAWA,山口 篤憲,Atsunori YAMAGUCHI,曽我部 恵典,Keisuke SOGABE,三上 欣希,Yoshiki MIKAMI,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI
響を受けるかについて,これまでにほとんど書 られない近年では溶接金属の SCC 予防対象1 原子力発電プラントの原子炉炉内構造物の一部に用 いられているニッケル基 600 合金の被覆アーク溶接金 属における応力腐食割れ(SCC)の発生が,これまで に沸騰水型原子炉(BWR) りおよび加圧水型原子炉 (PWR))ともに定期検査等で検出されている. 600 合金 溶接金属は Cr より炭化物形成傾向の強いND, Ti を添加 することで,これらの炭化物を形成させ,Cr 炭化物と なるCの固溶濃度を減少させてCr炭化物の粒界析出を 抑制する.これにより, BWR においては,炉水環境下 で SCC 感受性を高める要因とされている粒界の Cr 欠 乏層の形成を抑制している.このような NG, Ti の効 果を定量的に表わすために,山内ら は C, Nb, Ti 濃度 から構成される安定化パラメータを提案し,600 合金 溶接金属の SCC 発生を防止するためには,このパラメ ータを制御することが有効と述べている.しかしなが ら,個々の化学成分の含有量を単独で変化させた場合 に, 高温高圧純水環境下の SCC 感受性がどのような影Member Member Member 響を受けるかについて,これまでにほとんど報告が見 られない近年では溶接金属の SCC 予防対策として Nb 濃度が従来材より高く, 4mass%程度まで含まれる 改良材が用いられる傾向がある.しかし,このような 高濃度域まで高温高圧純水環境下での SCC 感受性と NB 濃度との関係を系統的に調査した研究は少ない. 特 に溶接金属は凝固偏析により化学成分の不均一を生じ るが 5,凝固偏析が SCC 感受性に及ぼす影響に着目し た研究は過去にほとんど報告が無い.そこで本研究では,600 合金被覆アーク溶接金属に おいて, 粒界の Cr 欠乏層の形成に強い影響を及ぼすと されている C, Nb 濃度を変化させた溶接金属を作製し て,原子炉圧力容器の製造時の応力除去焼鈍を模擬し た熱履歴と,長期間運転時の熱履歴の加速条件に相当 する熱処理を施した.そして,高温高圧純水中の SCC 感受性に及ぼす C, Nb 濃度の影響をCBB試験により把 握し,その原因について主に金属組織学的な観点から 調査した.さらに,SCC 感受性に及ぼす力学的要因に ついて, FEM 解析を用いて詳細に検討した. - 550 -
2. 実験方法
2.1 評価試験体の作製 - 製作した試験体の溶接金属の化学組成を供試母材と ともに Table 1 に示す.標準材(Standard)の化学成分 を基本として,SCC 感受性に影響を及ぼすと考えられ る C, Nb 濃度を,被覆材の化学成分を調整して変化さ せた合計七種類の 600 合金用被覆アーク溶接試験体を 製作した.ここで,低C材は原子力用の 182 合金を, 低 C/Nb 材は原子力用の改良 182 合金の化学組成を 模擬している.溶接試験体の製作条件,および溶接後 に施した熱処理(SR+LTA) 条件は,別報のと同じであTable 1 Chemical compositions of the weld metals andthe base metal used (mass%).T120Materials C Si Mn P SNi Cr Fe N b Ti N (ppn) (ppa) Standard1 0.069 | 0.48 15.39 | 0.012 | 0.005 169.33 | 14.80 16.59 1.24 10,621 228Low C 10.030 0.4815.75 10.011 10.00569.28 14.85 16.641.3210,42 High C 0.110 | 0.4415.27 10.022 | 0.009 | 69.16 | 15.10 17.06 | 1.23 10.38 High No1 10.074 | 0.4914.97 | 0.016 | 0.005168.92 14.00 17.21 2.59 10,61 High Nb210.069 | 0.4314.86 0.01310.00565.95 15.0618.71 14.0110.54115912 205High Nb310.076 | 0.5514.87 10.017 | 0.004 | 68.39 | 14.3217.23 14.390.50 | 234 239 Low C/high kb 0.037 0.57 14.77 10.018 | 0.005 168.65 13.81 | 1.31 | 3.96 10.41 Base matal 0.120 | 0.36 10.28 | 0.005 0.008 172.69 | 17.37 16.03 11 10.21 | 11 1 52.2 応力腐食割れ試験SCC 試験は、試験片表面に 1%曲げひずみを付与し た隙間付き定ひずみ曲げ(Creviced bent beam: 以下 CBB)試験により評価した.試験条件は別報 と同様 とし,試験後の溶接金属における最大割れ深さと,深 さ 30 μm 以上の平均割れ個数を求めた. 2.3 硬さ測定 - 2.2 節の応力腐食割れ試験後の CBB 試験片表面近傍 の硬さをマイクロビッカース硬さ計で測定した.測定 荷重は 0.098 N とした. 2.4 引張試験 * 製作した評価試験体から別報 ので示した小型の引張 試験片を採取し,精密万能試験機を用いて大気中で試 験温度 561 K, 標点間ひずみ速度 5×10' s'で引張試験 を行った. 2.5 金属組織評価 - 電界放出型透過型電子顕微鏡 (FE-TEM) を用いて組 織観察を行った.また,薄膜試験片による柱状晶粒界 近傍の元素分析を行った.組織観察,および元素分析 時の加速電圧は 200 kV で,元素分布の調査のための EDS 分析時のビーム径は約 1 nm である.また,次節 に示す FEM 解析に用いるため,CBB 試験片表面を EBSD 測定して結晶方位図を求めた.結晶方位は,電 界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)に取り付けた結晶方位解析装置(Tex SEM Laboratory 製)を用いて, 加速電圧 25 kV,計測ステップ 2 um で測定した. 2.6 FEM 解析による微視的応力分布の導出CBB試験時の試験片表面に負荷されている微視的応 力分布を把握するため,三上ら ”が報告している手法 で数値解析を行った.本研究では,応力が負荷された ときの各結晶のすべり変形の相違が微視的応力分布に 影響を及ぼすと考え,結晶塑性論に基づいて各結晶の すべり変形をモデルに組み込み,解析を行った. * 数値解析コードは ABAQUS を用いた.5×5×5の立 方体の形状を呈する要素モデルを作製し, 2.5 節の CBB 試験片表面の EBSD 測定で得られた結晶方位を各要素 モデルにランダムに与え,さらに 2.4 節で求めた引張 試験で得られた応力ひずみ関係を参照して,解析に必 要な材料定数を求めた. * Fig.1に微視的応力分布を求める FEM 解析モデルの 一例を示す. (a)に示す CBB 試験片表面の EBSD 測定 で得られた結晶方位図より,黒線で示す大傾角粒界の 結晶粒形状に対応した(b)に示す二次元モデルを作製し て,結晶方位に応じたすべり変形を各結晶粒に設定し た. そして, CBB 試験時の試験片表面に付与される 1% の引張ひずみを負荷したときの応力分布を求めた.中出(a)(b) Fig. 1 Finite element model reflecting IPF map: (a) IPFmap, (b) FEM model3.実験結果及び考察3.1 応力腐食割れ感受性 3.1.1 C濃度の影響 - Nb 濃度が 1.2mass%の溶接金属における最大割れ深 さのC濃度に伴う変化を Fig. 2 に,平均割れ個数の変 化を Fig. 3 に示す. 発生する SCC のほとんどは柱状晶 粒界を起点として進展する IGSCC であった. 溶接のま551ま (AW)の溶接金属は, C 濃度の増加に対して最大割 れ深さと割れ個数は大きな変化を示さない.しかし, SR+LTA 処理を受けた溶接金属では, C 濃度の増加に 伴い著しく増加する傾向が見られ, C 濃度が高いほど AW より最大割れ深さと割れ個数の差が顕著になった. これは, SR+LTA 処理により柱状晶粒界に Cr を主体と する M,C,炭化物が析出して Cr 欠乏層が形成され,耐 粒界腐食性が低下したためと考えられる.1600巨14001200・・・AWO-SR+LTA0| NB: 1.2mass% ||Maximum crack depth (m)8001 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 .12C content (mass%) Fig. 2 Effect of C contents on the maximum crack depthobserved after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTA treatment.●・AW S-SR+LTANb: 1.2mass%Number of crack more than 30 um depth- 0_ 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12C content (mass%) Fig. 3 Effect of C contents on the number of SCCs morethan 30 u m in depth observed after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjectedto the SR+LTA treatment. 3.1.2 Nb 濃度の影響C 濃度が 0.07mass%の溶接金属における最大割れ深 さの NB 濃度による変化を Fig. 4 に, 平均割れ個数の変化を Fig. 5 に示す.なお,比較のため低 C/高 NB 材の 結果も図中に記した. 溶接金属の一部に深さ 100 um 未満の浅い TGSCC や IDSCC と思われる割れが観察さ れたが,深さ 100 μm 以上の深い割れは IGSCC にな る傾向が見られた. AW では, Nb 濃度の増加とともに 最大割れ深さと割れ個数はわずかに増加する傾向を示 した.-SR+LTA A Low C/High Nb (AW) ■ Low C/High Nb (SR+LTA)| C: 0.07mass% ]Maximum crack depth cum)10 1234Nb content (mass%). Fig. 4 Effect of Nb contents on the maximum crack depthobserved after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTAtreatment....AW ●-SR+LTA」 A Low C/High Nb (AW)Low C/High Nb (SR+LTA)Number of crack more than 30 um depth| C: 0.07mass%1 2 34Nb content (mass%) Fig. 5 Effect of Nb contents on the number of SCCs morethan 30 u m in depth observed after the CBB test in the as-welded specimens and specimens subjected to the SR+LTA treatment. 一方,SR+LTA 処理をした溶接金属では,ND 濃度の 増加とともに 2.6mass%までは最大割れ深さと割れ個 数は減少したが,これ以上に濃度が高くなると,逆に 最大割れ深さと割れ個数は増加し, Nb 濃度が 4.4mass%552の高 NB 材 3 では標準材よりも SCC 感受性が大幅に上 昇した.すなわち, Nb 濃度の増加は Cr 欠乏層の形成 を抑制してSCC感受性を低下させると言われているが, 2.6mass%以上では逆に SCC 感受性の上昇を招く可能 性が示唆された.ただし, Fig. 4, および Fig. 5 に示さ れるように Nb 濃度が 4mass%程度であっても, C濃度 が 0.03mass%の低 C/高 Nb 材では SCC 感受性が低下し ており,C濃度を低下させることにより Nb の高濃度化 による SCC 感受性の増加は抑制できた.以上より,実プラントに用いられている原子力用の 182 合金と原子力用の改良 182 合金の化学成分を模擬 した低 C 材と低 C/F Nb 材は,AW,および SR+LTA 処理を受けた場合でも SCC 感受性は低いと言える. 3.2 Nb 濃度が 2. 6mass%以上で SCC 感受性が高くなる理由 Nb 濃度が 2.6mass%以上でSCC 感受性が高くなる理 由を明らかにするため, 柱状晶粒界近傍の Cr 濃度分布 を測定した. Fig. 6 に SR+LTA 処理を受けた標準材, 高 Nb材 1,および高 NB 材3の Cr 濃度分布を,FE-TEMにより EDS 分析した結果を示す. 標準材では,柱状晶 一粒界からおよそ150 nm の領域でCr欠乏層が形成され, 柱状晶粒界では Cr 濃度が 3mass%と, マトリックスの Cr濃度の 1/5 にまで低下していた.しかし, Nb 濃度が 2.6mass%の高 Nb 材1は,明瞭な Cr 欠乏層は見られな かった. これは,山内らが指摘しているように,Nb 濃度の増加で Nb 炭化物の量が増えて固溶 C 濃度が低 下し,これに伴い Cr 炭化物の析出量が減少して Cr 欠 乏層の形成が抑制されるためと考えられる.そして, Nb 濃度が 4.4mass%の高 NB 材3では,高 Nb 材1と同・会」。----Cr (wt%)------Standard A High Nb 1 ? High Nb 3-150 -100 -50_ 0_ 50_ 100 150Distance from the grain boundary (nm) Fig. 6 Distribution of Cr contents across a grainboundary in weld metals subjected to the SR+LTA treatment of a standard, a high Nb 1 and a high Nb 3.様に明瞭な Cr 欠乏層は見られなかった.したがって, SR+LTA 処理を受けた高 NB 材3が標準材より SCC 感 受性が大幅に高くなったのは,柱状晶粒界の Cr 欠乏層 に起因する耐粒界腐食性の低下によるのでは無く,そ れ以外の要因が影響を及ぼしていると言える.この点 を明らかにするため,溶接金属の機械的性質を金属組 ■織との関係に着目しながら調査した. 3.3 機械的性質と金属組織との関係CBB試験時に試験片表面に負荷されていた応力を把 握するため,引張試験を行った. Fig.7 に SR+LTA 処理 を受けた標準材, 高 Nb 材 1, 高 Nb 材 3, および AW での高 Nb 材3について, 561 K で行った引張試験結果 を示す. CBB 試験時の試験片表面は 1%の引張ひずみ が付与されており,SR+LTA 処理を受けた高 Nb材3は 502 MPa であるが,AW ではそれより大幅に低い 287 MPa であった.また, SR+LTA 処理を受けた標準材は 273 MPa で, 高 Nb 材 3 の 54%であった.一般に,600 合金は負荷応力が高いほどSCC感受性が高くなること が示されている 3). したがって, SR+LTA 処理を受けた 高Nb材3が標準材より高い SCC 感受性を示した一因 として,CBB 試験時の負荷応力が高いことを挙げるこ とができる.なお,高 Nb 材1の1%ひずみでの応力は 343 MPa であり,高 Nb 材3より標準材に近い応力値で あった.そのため,Nb 濃度が 2.6mass%までの増加で SCC 感受性が低下したのは, CBB 試験時の試験片表面 に負荷される応力の上昇に伴うSCC感受性の増加より も, Fig. 6 で示した Cr 欠乏層の形成が抑制されること に伴うSCC感受性の低下の方が大きいためと考えられる.ooverythiro[roooooooyal vecogpareeeoooooooStress (MPa)modersontense~Standard (SR+LTA) ......High Nb 1 (SR+LTA) --High Nb 3 (AW) -High Nb 3 (SR+LTA)100.5 11.512Strain (%) Fig. 7 Stress-strain curves of weld metals at 561 K in airatmosphere.553SR+LTA 処理を受けると高Nb材3の応力が上昇する 理由を明らかにするため,硬さ測定を行った. Fig. 8 に高 Nb 材 3 のデンドライトとデンドライト境界部の 硬さ測定結果を示す. デンドライトの硬さは、SR+LTA処理を受けてもほぼ同じであるが, デンドライト境界 一部の硬さは上昇した. したがって,高Nb材3が SR+LTA処理を受けると負荷応力が上昇するのは、デンドライ ト境界部の硬さが上昇するためと考えられる. デンド ライト境界部の硬さが SR+LTA 処理により上昇する理 由を明らかにするため,組織観察を行った. Fig. 9 に SR+LTA 処理を受けた高 Nb 材3の柱状晶粒界の TEM 観察結果を示す.実線の矢印に示すように, 10 nm 程 度の微細な析出物が観察され,電子線回折像より NigNb(y相)と同定された. 高 NB 材 3 の AW, および SR+LTA 処理を受けた標準材に y '相は観察されないこ とから, SR+LTA 処理により、相が微細析出したため に硬さが上昇したものと考えられる.しかし, y相の 分布には不均一性があり, Fig. 9の点線で示すように析 出している領域としていない領域とに分かれていた. Ni-NB 状態図によれば,y'相は Nb 濃度が約 Smass%以 上で,かつ 808 K 以上で析出することから,凝固偏析 により Nb が濃化したデンドライト境界部にSR処理が 施されてご相が析出したと考えられる. 高 Nb 材3の Nb 濃度は Smass%に達してはいないが,凝固偏析によ り Nb 濃度が 5mass%以上の領域が生じ,893 K で施し たSR 時にy'相が析出したと考えられる. *以上より, SR+LTA 処理を受けた高 Nb 材3が標準材 より SCC 感受性が高くなる要因の一つに,CBB 試験時 に負荷されていた応力が高くなることが考えられた.500Dendrite core Dendrite boundaryHardness (Hv 0.098N)High Nb 3High Nb 3 (AW)(SR+LTA) Fig. 8 Vickers hardness of the dendrite core and thedendrite boundary in weld metals.Grain boundaryPrecipitation area of y' phase1m Fig. 9 NizNb ( y') of a high Nb 3 weld metal subjected tothe SR+LTA treatment by TEM observation. 3.4 柱状晶粒界の微視的応力に関する検討 - SCC 感受性に及ぼす負荷応力の影響は,Fig. 7 で示 した引張試験によるマクロ応力の差異で説明できた. しかし, 3.1 節で述べたように,発生する SCC のほと んどは IGSCC になることから,本節では CBB 試験時 において各溶接金属の柱状晶粒界に負荷されるミクロ 応力に着目し, SCC 感受性との関係について検討した. - Fig. 10 に, SR+LTA 処理を受けた標準材と高 Nb 材3 の 1%引張ひずみでの FEM 解析による微視的残留応力 分布を示す.引張試験では,1%ひずみでの負荷応力は 標準材より高 Nb 材 3 の方が高いため、全体的に標準 材より高い応力が負荷されている.また,柱状晶粒界 近傍に応力集中する傾向が見られた. 一般的に,柱状 晶は母材結晶粒から[100]を優先方位としてエピタキシ ャル成長するため,各溶接金属の結晶方位分布は,広Tensile direction(MPa) +6.000e-02 +5.500e+02 +5,000e+02 +4.500e402 +4.000e-02 +3,500e+02 +3,000e+02 +2.500e-02 +2,000e-02 +1,500e-02 +1,000e+02(a)100um300mm 500um-700mm(b) Fig. 10 Stress distribution of tensile direction by FEManalysis weld metals subjected to the SR+LTA treatment :(a) a standard, (b) a high Nb3.554範囲で見た場合に顕著な差は無いものと考えられる. そこで,標準材の結晶方位モデルを代表例に用いて, 引張特性を SR+LTA 処理を受けた高 NB 材 1, および高 Nb材3とした場合の 1%ひずみでの微視的残留応力分 布を求めた.そして, Fig. 10(a)に示す左端から 100,300, 500,700 um離れた線上における柱状晶粒界の応力値 を導出した. Fig. 11 に引張試験の 1%ひずみでの応力と, そのときに柱状晶粒界に負荷される応力との関係を示 す.標準材(引張試験で 274 MPa)の柱状晶粒界に負 荷される応力の平均値は,マクロ応力と比較して特に 大きな差は見られない.しかしマクロ応力の上昇に 伴い柱状晶粒界に負荷される応力の平均値は上昇し, 高NB 材3(引張試験で 502 MPa) はマクロ応力より 63 MPa 高く,ほとんどの粒界にマクロ応力以上の応力が 負荷されていた. このため,マクロ応力が上昇した場 合,柱状晶粒界に負荷される応力の平均値はマクロ応 力の上昇量以上に高くなることが示唆された。 - 以上より,高 Nb 材3の SCC 感受性がより顕著に上 昇(Fig. 4,5) するのは,CBB 試験時に負荷されていた 平均応力が高く,SCC の起点である柱状晶粒界はこれ よりさらに高い応力が負荷されるためと推察される.Stress at grain boundary by FEM analysis (MPa)1% tensile strain- 200 300 400 500 600 700Stress by tensile test (MPa) Fig. 11 Relationship between stress during 1% tensilestrain by testing and stress at grain boundary by FEM analysis.4.結論1) AW では C, Nb 濃度の増加で SCC 感受性に大きな変化は見られないが, SR+LTA 処理を施した場合は C, Nb 濃度の増加で SCC感受性は著しく変化する.2) SR+LTA 処理を施した場合は,N6 濃度の増加により 2.6mass%までは Cr 欠乏層の形成抑制のために SCC 感受性は低下するが,さらに Nb 濃度が増加 して 4.4mass%になると, 明瞭な Cr 欠乏層が形成さ れていないにもかかわらず SCC 感受性が大幅に上 昇した.これは,凝固偏析でデンドライト境界部 の Nb 濃度が高くなり,SR+LTA 処理で NisNb(y, 相)が微細析出して材料が硬化し,SCC 試験時に負荷されていた応力が高くなるためと考えられる. (3) マクロ応力が上昇した場合,柱状晶粒界に負荷される応力の平均値はマクロ応力の上昇量以上に高 くなることが FEM 解析により示唆された.このこ とが, Nb 濃度が 4.4mass%になると SCC 感受性が 大幅に高くなる要因の一つだと考えられた.参考文献1) 青木孝行,服部成雄,安齋英哉, 住本秀樹,“BWR環境下で長期間使用されたニッケル基合金の応力 腐食割れ,““保全学,4[1], 34-41(2005). 福村卓也, 戸塚信夫,“原子炉容器上蓋管台部の 1 次冷却材漏洩経路等調査,““Journal of the Institute ofNuclear Safety System, 15, 113-124(2008). 3) N. Saito, S. Tanaka and H. Sakamoto, “Effect ofCorrosion Potential and Microstructure on the Stress Corrosion Cracking Susceptibility of Nickel-Base Alloys in High-Temperature Water,” Corrosion 59[12],1064-1074(2003). 4) 山内清,浜田幾久,岡崎朝彰,横野智美,“安定化パラメータのコントロールによるニッケル基溶接」 金属の耐粒界腐食性並びに耐粒界型応力腐食割れ性の向上,” 防食技術, 35, 605-615(1986). 5) J. S. Ogborn, D. L. Olson and M. J. 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