固相接合を用いた電磁非破壊検査のための模擬応力腐食割れ試験体製作
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カテゴリ: 第7回
1.はじめに
本研究は以上の背景により実施されたものであり、 電磁非破壊検査の観点から応力腐食割れと等価とみ 原子力プラントの高経年化対策において、応力腐。 なすことができる模擬試験体を、固相接合を用いて 食割れ対策は最重要課題の一つに挙げられている。製作する技術の開発に関するものである。 応力腐食割れ対策として、応力腐食割れの発生メカ2.固相接合による模擬応力腐食割れ試験 ニズムの解明および耐応力腐食性の高い材料開発の体作成の試み 「重要性は言うまでもないが、それらと併せて、応力 腐食割れを早期に発見し、その形状を評価するため 腐食環境下で人工的に応力腐食割れを導入するこ の非破壊検査技術の開発もまた、欠かすことができ とには、形状の制御が困難、必ずしも実機のきずと ない研究課題である。は似通っていない、必要費用が大である等の問題が 1 現状、応力腐食割れの形状評価には超音波探傷技あることが指摘されている。そのため、その形状そ 術が用いられているが、高効率保全活動という観点 のものは必ずしも実機応力腐食割れと同一ではなく から、他の物理現象に立脚した非破壊検査技術、そとも、ほぼ同様の非破壊検査信号を与える模擬試験 の中でも特に超音波技術とは相互補完関係にあると体について多くの検討がなされてきた。その一つに 考えられる電磁現象を利用した非破壊検査技術に関 スリットや疲労割れなどの形状制御が容易であるき する検討が多く行われている。しかしながら、実機ずを圧縮する[1] というものがある。きずの開口幅 適用に向けては依然として課題が多いというのが実 を狭めることにより、超音波探傷という観点からは 情である。応力腐食割れに近い信号が得られるようになるとの その理由の一つとして、電磁非破壊検査の観点か報告もあるが、電磁非破壊検査の観点からは必ずし らの応力腐食割れの適切なモデルが十分には解明さ も同様の結果にはならないこともまた指摘されてい れていないということが挙げられる。そのため、開る[3] [4] 。固相接合を用いていわばきわめて幅の狭 発された技術に対して実用上観点からの評価が難し い空隙を設けるという試みもなされているが[5] 、 く、またより現実的な観点からは、作業員の技術研 これも主として超音波探傷法の観点からの模擬試験 鑽も必ずしも容易ではないという問題が存在してい体である。 る。近年の研究により、電磁非破壊検査の観点からは応力腐食割れはその導電率が母材に比べ低い領域と 連絡先:遊佐訓孝, 〒980-8579 宮城県仙台市青葉して模擬されることが明らかとなっており、またそ 区荒巻字青葉 6-6-01-2, 東北大学大学院工学研究の際の導電率の値についてもある程度定量的に明ら 科量子エネルギー工学専攻,電話:022-795-6319,かとなってきている[6] 。それらの知見に基づき、 本研究においては、固相接合技術を用いて材料内部
にある適当な電気的抵抗値を有する領域を設けるこ とにより、応力腐食割れを模擬する。通常固相接合 においては接合面全体を鏡面程度に平滑化するが、 ここでは接合面に局所的に凹凸を有する領域を設け た後に接合することで、局所的に接合が不十分な面 を導入し、電気的抵抗を発生させる。試験には厚み 20mm の SUS316L ブロックを用い、 接合は温度約 1000°Cで行った。接合面に表面長さ方 向 20mm、深さ方向 5mm の領域に人工的に Ry=90 um の凹凸を導入した。接合終了後、端部の接合が 不完全な部分を削除することを目的として、試験体 表面を約 2mm 切削した。 * 製作した模擬応力腐食割れ試験体の表面を、自己 誘導差動型プラスポイントプローブを用い、励磁周 波数 100kHz で探傷した時に得られた信号強度分布 をFig. 1(a)に示す。接合面は図中 Y=0 に位置して おり、当該部で探傷信号が得られていることが確 認できる。単独のきずにもかかわらず信号が2山 となっているが、これは対象が体積状かつ低電気 抵抗であるときに得られる特徴である[7] [8] 。Fig. 1(b)は接合面全面を鏡面とした接合試験体の探傷 試験結果であるが、有意な信号は得られておらず、 固相接合による接合面自体の電磁気的特性は母 材と同一であるということができる。試験体中央 部を走査した場合のきず信号リサージュを、深さ 3mm、長さ 10mm、幅 0.3mm の矩形人工スリット からのものと併せて Fig. 2 に示す。ほぼ同一深さ のスリットからの信号と比べ、本試験体からの信 号はその振幅が 1/4 程度であること、その一方信 号の位相角には差は僅かであることが確認できY(mm)X(mm)110.15-10-5 0.5Y(mm)10(b)15 )1 xmm) 510130 Fig. 1 Spatial distribution of the amplitude ofmeasured eddy current signalsX signal (V)Testpiece (a) ・・・・...... EDM 3mm (c)1-4-3Y signal (V) Fig.2 Trajectory of the measured eddy current signals3.結言固相接合を用いて電磁非破壊検査の観点からの模 擬応力腐食割れ製作技術を提唱し、渦電流探傷法に よりその妥当性を確認した。本技術は試験体に導入 する模擬応力腐食割れの形状を高精度で制御しつつ も、従来技術と比べて遥かに安価かつ短時間で試験 体の製作を可能とするものであり、保全活動に対す る貢献は大であると考えられる。参考文献 [1] PH. Savahn, K. Hogberg, “Defect simulation forinterdendritic stress corrosion cracks in Alloy 182 welds, CD-ROM Proceedings of the 16th WorldConference on NDT (available at NDT.net) [2] R. Clark, et al., “The effect of crack closure on theNDT predictions of crack size”, NDT International,20,269-275 (1987). [3] N. Yusa, et al., “Eddy current inspection of closedfatigue and stress corrosion cracks”, Measurement Science and Technology, 18,3403-3408 (2007). CCH. Lo, and N. Nakagawa, “Effects of dynamic and static loading on eddy current NDE of fatiguecracks““, AIP Conf. Proc., 1096,355-362 (2009). [5] 松井ら, 超音波探傷試験のための模擬欠陥試験体の製作”,軽金属溶接, 28, 431-438 (1990). [6] N. Yusa, H. Hashizume, “Evaluation of stresscorrosion cracking as a function of its resistance to eddy currents”, Nuclear Engineering and Design,239, 2713-2718 (2009). [7] Z. Chen, et al., “A nondestructive strategy fordistinction of natural fatigue and stress corrosion cracks based on signals of the eddy current testing”,J. Pressure Vessel Technology, 129, 719-728 (2007). [8] S. Perrin, et al., “Automatic discrimination of stresscorrosion and fatigue cracks using eddy current testing. Electromagnetic Nondestructive Evaluation (X), 91-98 (2007).557“ “固相接合を用いた 電磁非破壊検査のための模擬応力腐食割れ試験体製作“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME
本研究は以上の背景により実施されたものであり、 電磁非破壊検査の観点から応力腐食割れと等価とみ 原子力プラントの高経年化対策において、応力腐。 なすことができる模擬試験体を、固相接合を用いて 食割れ対策は最重要課題の一つに挙げられている。製作する技術の開発に関するものである。 応力腐食割れ対策として、応力腐食割れの発生メカ2.固相接合による模擬応力腐食割れ試験 ニズムの解明および耐応力腐食性の高い材料開発の体作成の試み 「重要性は言うまでもないが、それらと併せて、応力 腐食割れを早期に発見し、その形状を評価するため 腐食環境下で人工的に応力腐食割れを導入するこ の非破壊検査技術の開発もまた、欠かすことができ とには、形状の制御が困難、必ずしも実機のきずと ない研究課題である。は似通っていない、必要費用が大である等の問題が 1 現状、応力腐食割れの形状評価には超音波探傷技あることが指摘されている。そのため、その形状そ 術が用いられているが、高効率保全活動という観点 のものは必ずしも実機応力腐食割れと同一ではなく から、他の物理現象に立脚した非破壊検査技術、そとも、ほぼ同様の非破壊検査信号を与える模擬試験 の中でも特に超音波技術とは相互補完関係にあると体について多くの検討がなされてきた。その一つに 考えられる電磁現象を利用した非破壊検査技術に関 スリットや疲労割れなどの形状制御が容易であるき する検討が多く行われている。しかしながら、実機ずを圧縮する[1] というものがある。きずの開口幅 適用に向けては依然として課題が多いというのが実 を狭めることにより、超音波探傷という観点からは 情である。応力腐食割れに近い信号が得られるようになるとの その理由の一つとして、電磁非破壊検査の観点か報告もあるが、電磁非破壊検査の観点からは必ずし らの応力腐食割れの適切なモデルが十分には解明さ も同様の結果にはならないこともまた指摘されてい れていないということが挙げられる。そのため、開る[3] [4] 。固相接合を用いていわばきわめて幅の狭 発された技術に対して実用上観点からの評価が難し い空隙を設けるという試みもなされているが[5] 、 く、またより現実的な観点からは、作業員の技術研 これも主として超音波探傷法の観点からの模擬試験 鑽も必ずしも容易ではないという問題が存在してい体である。 る。近年の研究により、電磁非破壊検査の観点からは応力腐食割れはその導電率が母材に比べ低い領域と 連絡先:遊佐訓孝, 〒980-8579 宮城県仙台市青葉して模擬されることが明らかとなっており、またそ 区荒巻字青葉 6-6-01-2, 東北大学大学院工学研究の際の導電率の値についてもある程度定量的に明ら 科量子エネルギー工学専攻,電話:022-795-6319,かとなってきている[6] 。それらの知見に基づき、 本研究においては、固相接合技術を用いて材料内部
にある適当な電気的抵抗値を有する領域を設けるこ とにより、応力腐食割れを模擬する。通常固相接合 においては接合面全体を鏡面程度に平滑化するが、 ここでは接合面に局所的に凹凸を有する領域を設け た後に接合することで、局所的に接合が不十分な面 を導入し、電気的抵抗を発生させる。試験には厚み 20mm の SUS316L ブロックを用い、 接合は温度約 1000°Cで行った。接合面に表面長さ方 向 20mm、深さ方向 5mm の領域に人工的に Ry=90 um の凹凸を導入した。接合終了後、端部の接合が 不完全な部分を削除することを目的として、試験体 表面を約 2mm 切削した。 * 製作した模擬応力腐食割れ試験体の表面を、自己 誘導差動型プラスポイントプローブを用い、励磁周 波数 100kHz で探傷した時に得られた信号強度分布 をFig. 1(a)に示す。接合面は図中 Y=0 に位置して おり、当該部で探傷信号が得られていることが確 認できる。単独のきずにもかかわらず信号が2山 となっているが、これは対象が体積状かつ低電気 抵抗であるときに得られる特徴である[7] [8] 。Fig. 1(b)は接合面全面を鏡面とした接合試験体の探傷 試験結果であるが、有意な信号は得られておらず、 固相接合による接合面自体の電磁気的特性は母 材と同一であるということができる。試験体中央 部を走査した場合のきず信号リサージュを、深さ 3mm、長さ 10mm、幅 0.3mm の矩形人工スリット からのものと併せて Fig. 2 に示す。ほぼ同一深さ のスリットからの信号と比べ、本試験体からの信 号はその振幅が 1/4 程度であること、その一方信 号の位相角には差は僅かであることが確認できY(mm)X(mm)110.15-10-5 0.5Y(mm)10(b)15 )1 xmm) 510130 Fig. 1 Spatial distribution of the amplitude ofmeasured eddy current signalsX signal (V)Testpiece (a) ・・・・...... EDM 3mm (c)1-4-3Y signal (V) Fig.2 Trajectory of the measured eddy current signals3.結言固相接合を用いて電磁非破壊検査の観点からの模 擬応力腐食割れ製作技術を提唱し、渦電流探傷法に よりその妥当性を確認した。本技術は試験体に導入 する模擬応力腐食割れの形状を高精度で制御しつつ も、従来技術と比べて遥かに安価かつ短時間で試験 体の製作を可能とするものであり、保全活動に対す る貢献は大であると考えられる。参考文献 [1] PH. Savahn, K. Hogberg, “Defect simulation forinterdendritic stress corrosion cracks in Alloy 182 welds, CD-ROM Proceedings of the 16th WorldConference on NDT (available at NDT.net) [2] R. Clark, et al., “The effect of crack closure on theNDT predictions of crack size”, NDT International,20,269-275 (1987). [3] N. Yusa, et al., “Eddy current inspection of closedfatigue and stress corrosion cracks”, Measurement Science and Technology, 18,3403-3408 (2007). CCH. Lo, and N. Nakagawa, “Effects of dynamic and static loading on eddy current NDE of fatiguecracks““, AIP Conf. Proc., 1096,355-362 (2009). [5] 松井ら, 超音波探傷試験のための模擬欠陥試験体の製作”,軽金属溶接, 28, 431-438 (1990). [6] N. Yusa, H. Hashizume, “Evaluation of stresscorrosion cracking as a function of its resistance to eddy currents”, Nuclear Engineering and Design,239, 2713-2718 (2009). [7] Z. Chen, et al., “A nondestructive strategy fordistinction of natural fatigue and stress corrosion cracks based on signals of the eddy current testing”,J. Pressure Vessel Technology, 129, 719-728 (2007). [8] S. Perrin, et al., “Automatic discrimination of stresscorrosion and fatigue cracks using eddy current testing. Electromagnetic Nondestructive Evaluation (X), 91-98 (2007).557“ “固相接合を用いた 電磁非破壊検査のための模擬応力腐食割れ試験体製作“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME