Ni基合金溶接金属/低合金鋼境界部における組織的特徴とSCC進展挙動

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
近年、国内の沸騰水型軽水炉(BWR)の下部シュラウ ドサポートと原子炉圧力容器との溶接線上において応 力腐食割れ(SCC)が顕在化している。敦賀発電所1号機 の事例に依れば、インコネル 182 溶接金属から発生・ 進展したき裂はいずれも圧力容器(低合金鋼)に至る
2. 試験方法
近年、国内の沸騰水型軽水炉(BWR)の下部シュラウ 2.1 供試材 ドサポートと原子炉圧力容器との溶接線上において応 供試材は Ni 基合金溶接金属/低合金鋼(LAS)の異材 力腐食割れ(SCC)が顕在化している。敦賀発電所1号機 溶接試料(溶接後熱処理条件:615°C・25 時間)を用 の事例に依れば、インコネル 182 溶接金属から発生いた。Ni 基合金溶接金属は Alloy182(溶接棒は2種類) 進展したき裂はいずれも圧力容器(低合金鋼)に至る を用いた。LAS は S含有量の異なる2種類の圧力容器 ものではないことが確認されている。一方で BWR プ用調質型マンガンモリブデンニッケル鋼(SQV2AO)を ラントが高経年化しつつある現状を鑑みれば、その健用いた。低 S材(0.002 wt%)を LS 材、中S材(0.004 wt%) 全性を評価する上で Ni 基合金溶接金属/低合金鋼溶 を MS 材と呼ぶことにした。Alloy182 と LAS の化学組 接境界におけるSCC進展挙動を明らかにすることが重成を表 1, 2 にそれぞれ示す。 要である。Ni基合金溶接金属/低合金鋼境界部のSCC 進展に関する知見は限られているが、Ni 基合金溶接金 2.2 溶融境界近傍における組織観察 属と希釈領域(dilution zone)のき裂進展速度に大きな違 溶融境界近傍の組織的特徴をミリメートル~マイク いはなく、き裂は溶接線において停留するとの報告がロメートルスケールで明らかにするため、光学顕微鏡 ある 2)。これは低合金鋼の SCC 感受性の低さに起因す _ を用いて組織観察を行った。LAS 側には 5%ナイタル るものと考えられるが、SCC 進展・停留挙動に及ぼすエッチング、Alloy182 側には 10%シュウ酸電解エッチ 溶接境界近傍のミクロ領域) (例えば、unmixed zone、 ングをそれぞれ施した。 partially melted zone、HAZ 等)の影響については、不明 な点が多い。本研究では、Ni 基合金溶接金属/低合金 2.3 高温水中 SCC 試験 鋼溶接境界近傍における組織的特徴を調査すると共に、 LAS材および Alloy182/LAS 溶接材について高温水 それが SCC進展・停留挙動に及ぼす影響を評価し、き 中隙間付き低ひずみ曲げ(CBB)試験を行い、LAS およ 裂停留をもたらす要因を考察する。び Alloy182 の SCC 感受性、ならびに溶接境界近傍の * 連絡先: 阿部 博志、〒980-8579 仙台市青葉区荒SCC 挙動について評価することとした。Alloy182/ 巻字青葉 6-6-01-2 東北大学 大学院工学研究科LAS 溶接材と LAS 材のそれぞれに LS 材と MS 材を用 量子エネルギー工学専攻、電話:022-795-7911、 意したため、計4種類の試験片を用いて CBB 試験を行 e-mail : hiroshi.abe@qse.tohoku.ac.jp- 558 - 属と希釈領域(dilution zone)のき裂進展速度に大き いはなく、き裂は溶接線において停留するとの報 ある 2)。これは低合金鋼の SCC 感受性の低さに起 裂停留をもたらす要因を考察する。 連絡先:阿部 博志、〒980-8579 仙台市青葉区荒 巻字青葉 6-6-01-2 東北大学 大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻、電話:022-795-7911、 e-mail : hiroshi.abe@qse.tohoku.ac.jp 1 供試材 供試材は Ni 基合金溶接金属/低合金鋼(LAS)の異材 三接試料(溶接後熱処理条件:615°C・25 時間)を用 -た。Ni 基合金溶接金属は Alloy182(溶接棒は2種類) -用いた。LASはS含有量の異なる2種類の圧力容器 2.3 高温水中 SCC試験LAS材および Alloy182/LAS溶接材について高温水 中隙間付き低ひずみ曲げ(CBB)試験を行い、LAS およ び Alloy182 の SCC 感受性、ならびに溶接境界近傍の SCC 挙動について評価することとした。Alloy182/ LAS 溶接材と LAS 材のそれぞれに LS 材と MS 材を用Table 1 Chemical compositions of Alloy182 weld metals, wt%溶接棒
った。CBB 試験片の採取方向を図1に示す。Alloy182 /LAS 溶接材は試験片全体が試験液に接液するものの、 試験面(引張り応力が付与される面)は Alloy182 のみで ある。そして試験面から溶接境界の距離を数十~数百 um 程度に調整した。LAS 材についても同様に、溶接 線に対して長手方向が平行になるよう板状試験片を採 取した。試験片表面を湿式エメリー紙で#600 研磨仕上 げとし、最終的な寸法を L35×W8×T2 mm とした。これ ら2種類の試験片について、1%曲げひずみを負荷し グラファイトウールで隙間を付け、高温高圧水(温 度:288°C、圧力:9MPa、溶存酸素濃度:8ppm、入口電気 伝導度:約 2.2μS/cm(1.0ppm Na2SO2添加))中に 750h 浸 漬した。Alloy182/LAS dissimilar weldspecimenLAS bulk specimen182WeldLAS2mmFig. 1 Schematic of sampling direction ofCBB specimens3. 試験結果および考察3.1 溶融境界近傍の組織的特徴 - 光学顕微鏡による溶融境界近傍観察写真を図2に示す。Alloy182 側ではデンドライト境界と柱状晶の粒界 が明瞭に観察された。一方LAS 側では、溶接熱影響を 受けた粗粒 HAZ 部で旧オーステナイト粒界が観察さ れた。また、観察部位により Alloy182 粒界と旧オース テナイト粒界(LAS)の対向性の有無が異なっていた。溶 融境界近傍の SCC 進展挙動を評価する上で、き裂進展 経路と組織的特徴の関連を明らかにすることが重要と 考えられた。さいこAlloy182LASAlloy182125pm125pm50pm50μmFig.2 Optical microscope images of the etched weldspecimen3.2 SCG 感受性ならびにき裂進展・停留挙動Alloy182/LAS 溶接材においては、試験面である Alloy182 側からき裂が発生・進展していた。断面方向 からの観察結果に基づき、き裂の様相を Type-1 :溶融 境界まで到達せず、Ni 基合金溶接金属内に留まってい るき裂、Type-2:先端が溶接境界直上に位置している き裂、Type-3 : 先端そのものは溶接境界直上に位置し ているものの、低合金鋼内にて球状の酸化物を生成し559ているき裂、の3種類に分類して図3に示す。LAS 内 における損傷は全て球状の酸化物として存在しており、 き裂の形成は認められなかった。次に、CBB 試験後の LAS 材における断面方向からの観察結果を図4に示す。 Alloy182 と比較して酸化皮膜が比較的厚く形成されて おり、耐全面腐食の観点からは、Alloy182 より劣るこ とが分かる。さらに、LS/MS 材間で酸化挙動に差異が 見られた。 LS 材では、試験面全域に数 um オーダーの 酸化皮膜が生成していることが確認された。一方 MS 材では、深さ約 30~50 um の局所的な酸化が確認され た。いずれの試験片においてもき裂は一切確認されず、 Alloy182 と比較して低い SCC 感受性を示した。Type-1:Crack tip at Alloy182CrackAlloy182L?SAlloy182/LAS dissimilar weld specimen50umType-2:Crack tip at F.L.Type-3:Oxidized LASAlloy182LASFig.3 Three types of SCC cracks found in the weldspecimensOxide layerNon-uniform corrosion125μm125μmFig.4 Cross-sectional view of LAS specimens(Left: low sulfur, Right: medium sulfur)3.3 き裂停留支配因子の考察Alloy182/LAS 溶接材について、溶接境界を基準と したき裂先端位置のヒストグラムを図 5 に示す。これ はき裂深さが 20 um 以上のものを対象とし、溶接境界 線をゼロとして、先端が Alloy182 内に留まっているき 裂を負値、酸化が LAS 内に及んでいるき裂を正値としMS(Medium Sulfur)LAS (Type3) W FL (Type2) ID Ni (Type1)Number of cracks20-140 -120 -100 -80 -60 -40 -20_0_ Distance from fusion line, um(a)14'' | LS(Low Sulfur)LAS (Type3) N FL (Type2) 10000 Ni (Typel)Number of cracks-140 -120 -100 -80 -60 -40 -20 0_ 20 Distance from fusion line, um(b) Fig.5 Number of crack tips sorted by distance fromfusion line (a: medium sulfur, b: low sulfur)Alloy182Isoy120)100km10mLAS16mm104mFig.6 Back-scattered electron images of the crackreached LAS560 て表している。LS・MS 材双方において、高い割合で き裂先端が溶接境界近傍に位置しており、LAS 内への 酸化深さは 30 um 以内に収まっていた。き裂が溶融境 界近傍で停留あるいは進展遅延することが示唆された。酸化が LAS 内に及んでいるき裂(Type-3)の反射電子 像を図6に示す。Alloy182 内において、き裂が溶接境 進展したものと予想される。しかし、き裂が LAS に達 すると、深さ方向に酸化が局在化する経路を失うため、 き裂先端が鈍化し、停留すると考えられた。以上の結果から、溶融境界近傍のき裂停留は低合金 鋼のSCC感受性の低さの観点から説明できると判断さ て表している。LS・MS 材双方において、高い割合で参考文献 き裂先端が溶接境界近傍に位置しており、LAS 内への 酸化深さは 30 um 以内に収まっていた。き裂が溶融境 [1] ““敦賀発電所1号機のシュラウドサポート損傷に係 界近傍で停留あるいは進展遅延することが示唆された。 る原因と対策について”, 日本原子力発電株式会社,酸化が LAS 内に及んでいるき裂(Type-3)の反射電子 (2000). 像を図6に示す。Alloy182 内において、き裂が溶接境 [2] Q.J. Peng, T. Shoji, S. Ritter and H.P. Seifert : Proc. 12 h 界に近づくに従い、き裂の幅が太くなっていることが I nt. Conf. on Environmental degradation of Materials 確認できる。これは dilution zone において、組成が LAS in Nuclear Power Systems-Water Reactors, TMS 寄りに遷移することで、粒内の酸化速度が増大したた (2005). めと考えられるが、依然としてデンドライト界面にお [3] W.F. Savage, E.F. Nippes and E.S. Szekeres : ける酸化速度が桁違いに大きかったため、き裂として Welding J., 55(9), pp.260s-268s, (1976). 進展したものと予想される。しかし、き裂が LAS に達 すると、深さ方向に酸化が局在化する経路を失うため、 き裂先端が鈍化し、停留すると考えられた。 * 以上の結果から、溶融境界近傍のき裂停留は低合金 鋼のSCC感受性の低さの観点から説明できると判断さ れた。4.結言Ni基合金溶接金属/低合金鋼溶接境界近傍における 組織的特徴を調査すると共に、それが SCC 進展・停留 挙動に及ぼす影響を評価し、き裂停留をもたらす要因 を考察した。得られた結果は以下の通り; (1) LAS 材では MS 材においてのみ深さ約 30~50umの局所的な酸化が確認されたものの、いずれの試 験片においてもき裂は一切確認されなかった。 Alloy182/LAS 溶接材では、き裂先端の多くが溶融 境界近傍に留まっており、酸化が低合金鋼まで及 んでいた。き裂は低合金鋼に達すると鈍化し、停留すると考えられた。 (3) Ni基合金溶接金属/低合金鋼境界部について、溶融境界近傍のき裂停留が低合金鋼の SCC 感受性 の低さの観点から説明できることを、半定量的な 評価に基づき具体的に指摘した。謝辞本研究は、BWR 7電力からの(社)腐食防食協会受託 研究の一環として実施されたものである。 ・Ni基合金溶接金属/低合金鋼溶接境界近傍における 組織的特徴を調査すると共に、それが SCC 進展・停留 験片においてもき裂は一切確認されなかった。 Alloy182/LAS 溶接材では、き裂先端の多くが溶融 境界近傍に留まっており、酸化が低合金鋼まで及 んでいた。き裂は低合金鋼に達すると鈍化し、停 んでいた。き裂は低合金鋼に達すると鈍化し、 留すると考えられた。 Ni 基合金溶接金属/低合金鋼境界部について、 融境界近傍のき裂停留が低合金鋼の SCC 感受 の低さの観点から説明できることを、半定量的1 - 561 -“ “Ni 基合金溶接金属/低合金鋼境界部における組織的特徴と SCC 進展挙動“ “阿部 博志,Hiroshi ABE,石澤 允,Makoto ISHIZAWA,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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