オーステナイト系ステンレス鋼の高ひずみ速度による微視的残留応力
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
原子力発電設備は高経年化時代を迎え,オーステナ イト系ステンレス鋼の応力腐食割れ (SCC) は重要な課 題である.その一環として,オーステナイト系ステン レス鋼の残留応力特性についての知見を拡充しなけれ ばならない.これまで,引張り試験過程中のオーステナイト系ス テンレス鋼の弾・塑性異方性について中性子回折法に より研究されてきた [1-3]. 著者らは,高エネルギー放 射光を利用して静的に塑性引張りを受けたオーステナ イト系ステンレス鋼の微視的残留応力と回折面依存性 について研究した [49. これらの研究は,準静的な引張 り塑性による弾塑性異方性や微視的残留応力を対象と している. オーステナイト系ステンレス鋼の機械加工 をはじめ,レーザーピーニング (LP)5] およびウォータ ジェットピーニング (WJP)Oによる応力改善を考える と,これらは高速塑性変形により導入された残留応力 である. 高ひずみ速度による塑性変形を受けたオース テナイト系ステンレス鋼の微視的残留応力と回折面依 存性についての研究は重要であるにもかかわらず,そ れらに関する研究は見あたらない. * 本研究では,高速引張り,衝撃引張りおよびピーニン グによる微視的残留応力を高エネルギー放射光X線を 用いて測定した,そして,オーステナイト系ステンレ ス鋼の微視的残留応力のひずみ速度依存性および回折 面依存性について検討する. 2. 実験方法 2.1 試験片および引張試験 1本実験の試験片材料としてオーステナイト系ステン レス鋼 SUS316L を用いた.試験片は放電加工で切り出 した平板を図1に示す寸法に機械加工した後,表面を バフ研磨にて仕上げた.さらに,機械加工の残留応力 除去として913 K, 10分加熱後,炉冷のひずみ取り焼き なましを行った.この試験片の引張試験を行い,耐力二臨10.2 = 202 MPa, 引張強さ OB = 523 MPa, 伸び 81%を 得た,ヤング率は,Kroner モデル (7) から機械的ヤング 率を計算し 194.7 GPa を得た.なお,Kroner モデルに よる立方晶の理論的弾性定数を計算するシステムを構 築した [8] . 試験片の結晶粒径は,実測した 55 um を得た.万能引張試験機 (UTM) にて試験片に種々の変位速度 で引張り塑性変形を与えた.目標とする塑性ひずみ ED を約2%とし,変位-荷重線図のレコーダを目視しなが ら予定の E, 値に達したところで引張試験を中断した. 各試験片のひずみ速度eは, 6.67 x 10-5 ~ 6.67 x 10-2 s-1 の範囲となった.また,これらの引張り塑性試験片 のひずみ ED は 2.1 ~ 2.8 %の範囲であった.UTM の引張速度には限界があり,より大きいひずみ 速度を与えるために,衝撃引張り試験としてホプキン ソン棒法 (SHBT: split-Hopkinson bar test)9] を採用した. SHBT試験片は,引張試験片と同じ材料から切り出し, 図2 (a) に示す形状・寸法に加工した後,913 K, 10分 加熱後,炉冷のひずみ取り焼き鈍しを行った. - ホプキンソン棒法の概略を図 2 (6) に示す。図の右側 よりコンプレッサを利用したエアガンで打撃棒 (striker bar) により出力棒に衝撃圧縮波を与える.衝撃圧縮波 は, 出力棒(output bar)を伝播し,試験片外側の間座(shoulder) から入力棒 (input bar) へ伝わる.このとき,衝撃圧 縮波は試験片に作用せず間座を介して入力棒に伝わる. その結果,試験片の両端に荷重が作用し,衝撃引張が 生じる.両端から引張力が作用すると間座は分離して,
(a) SHBT specimen.ShoulderSpecimen- input bar...Input bar1. Outer bar. Outer barStriker bar | Air gunStriker bar. | air gun.7(b) Impact testting machineFig. 2. Split-Hopkinson bar test.その衝撃引張力は,そのまま試験片に作用する.入・出 力棒に貼ったひずみゲージ(両ゲージとも試験片端から 500 mm の位置) からひずみの信号を測定・解析し,ひ ずみ速度eを求めた.また,塑性変形量を測定するた めに試験片に標点を印して、衝撃引張後に標点間距離 を顕微鏡で測定して,塑性ひずみとりを求めた,製作し た衝撃引張り試験片は,それぞれ塑性ひずみ Ep が 6.3 および 7.6%,ひずみ速度e が 500 および 670 s-1 の2 本である. 2.2 ピーニング試験片 - 原子力発電設備の応力腐食割れを防ぐため,残留応 力改善法としてレーザピーニングおよびウォータジェッ トピーニングが実機に適用されている[10,11] . これら のピーニング面は高ひずみ速度で塑性変形を受けるの で,それらの処理面の微視的残留応力は,静的塑性引 張りの結果と異なることが懸念される.試験片は前述と同一のSUS316L材であり,板厚8mm, 長さおよび幅が 20 × 20 mm2 の平板である.この試験 片の片面にレーザピーニングを施した。図 3 (a) に,連 続蛇行したレーザピーニングの方向と座標の定義を示 す. レーザピーニング条件は, パルスエネルギー 60 mJ, スポット径 0.7 mm, 照射回数 70 pulse/mm2 である.本 研究では,レーザーピーニング材を LP材と称する.PulselaserI toOyNozzle4545145W450SON(a) LP(b) WJPFig. 3. Peening direction and coordinate system.一方,ウォータジェットピーニングは,同一のSUS 316L の板厚8mm, 大きさ 0.2 x2 m の平板(研削加工面)の 中心線に沿って施工された後,施工方向に 20×20 mm2 の寸法に放電加工にて切り出した.図3 (6) に施工方向 (破線矢印) と座標の取り方を示した.本研究では,ウ ォータジェット ピーニング材を WJP材と称する. ウォー タジェットピーニングの条件は,1パスで噴射距離 140 mm, 噴射流量48L/min, 噴射角度90°, 噴射時間40 min/m である。 2.3 X線応力測定 - 所定のひずみ速度による引張塑性試験の前後でラボ X線による応力測定を行った.X線応力測定の条件を 表1にまとめた.回折条件として Mn-Ka 線による YFe の 311 回折を利用した,X線応力測定標準 [12]で推 奨する Cr-KB線に比較して,Mn-Ka 線はピーク強度が 大きく,高い回折角を持つために、迅速かつ高精度の 測定が可能である. 回折装置は,島津 XD-610,X線検 出器はシンチレーションカウンターを利用した. 半価 幅法によりピークを決定し, 20-sinp線図から応力を 求めた.前述した種々のひずみ速度で引張塑性変形させた各 試料の残留応力を多数の回折面を利用して測定した. 高 い指数の回折を測定するには、波長の短い高エネルギー X線を必要とするので,大型放射光施設 SPring-8 にて 高エネルギー放射光X線による応力測定を行った. ビー ムライン BL22XU は、日本原子力研究開発機構の専用 ビームラインであり,挿入光源(アンジュレータ)によ る高輝度かつ高エネルギーX線を利用できるビームラ インである. 高エネルギーシンクロトロン放射光によ る残留応力測定のX線条件を表2に示す.残留応力の 測定方法は,透過法である cos2 x 法 [4] を用いた. - 応力測定に用いた回折弾性定数は SUS316 の単結晶ここ二等ムビるConditions for stress measurement with laboratoryTable 1. Conditions for stress measurement with laboX-rays.Radiations DiffractionTube voltage Tube current Method Irradiated area Diffraction angle 200 Scanning Scanning step Preset time siny Stress constant K Peak determinationMn-Ka Y-Fe, 311 30kV10 mA Iso-inclination 4×8mm152.313 deg 149 ~ 156 deg 0.1 deg/step1 sec 0.0 ~ 0.6 (step 0.1)-301 MPa/deg Half value breadth563、Table 2. Conditions for stress measurements using hard synchrotron X-rays.Beam lineBL22XUWavelength Divergent slit (h x W) Receiving slit 1, 2 (h x w) Rotation speed66.40 keV (18.66 pm)1.0×0.2 mm 1.0×0.2 mm20.2 Hz cost x = 0.4 ~1MethodTable 3. Conditions for constant penetration depth method.Beam lineBLO2B1 Wavelength| 72.312 keV (17.183 pm) Divergent slit (h x w) 0.5×5 mm Receiving slitSoller slit Penetration depth30 umのスティフネス c を文献 [13] から引用し, C11 = 206, C12 = 133 および c44 = 119 GPa の値を用いて Kroner モデルにより計算した.本実験では,測定に十分な回 折強度が得られる単一回折のピークを利用した.例え ば,511 回折と 333 回は回折強度が得られるが,二重線 になるので,本測定ではそのような回折を除外した. * 一方,ピーニングされた表面の残留応力についても 回折面依存性を調べるために,高エネルギー放射光を 利用して各回折面による残留応力測定を行った. LP材 および WJP材の残留応力は,表面から内部に向かい残 留応力に勾配があるので,本研究では,侵入深さ一定法 [14] を用いて残留応力を測定した.表3に侵入深さ一定 法の測定条件を示す.使用したビームラインは BLO2B1 である.このビームラインでは,偏向電磁石の光源と 分光器から高エネルギーX線を利用でき,ソーラスリッ トを利用できる5軸回折計が用意されている.本実験 では,有効X線侵入深さ T を 30um に設定して, ピー ニング方向に対して 0° (x 方向), 45° および 90° につい て残留応力を測定した。 3. 実験結果および考察 3.1 ひずみ速度と巨視的残留応力 - 各ひずみ速度で引張り塑性を与えた UTM 試験片の 残留応力を -Fe の 311 回折で測定した結果を図4に示 す. また,衝撃引張り塑性変形させたSHBT試験片の結 果も図4に併せて示す。図に示した残留応力は,引張り 軸方向の応力である.図中のエラーバーは,20-sin 線図の 68.3%信頼限界を示している.図からわかるように引張塑性を受ける前は,やや圧 縮または小さい引張りであった残留応力が,塑性変形 後はすべて引張りへと変化する. ひずみ速度の大きい SHBT 試験片の方が,低ひずみ速度の結果と比較して500Axial diectiony-Fe (311) by Mn-Ka O Before tension ? After tensionedResidual stres0UTMSHBT-200 LILL1005 10310310510' 10' Strain rate, s'Fig. 4. Residual stresses measured by Mn-Ka.バラツキがあるものの塑性変形前後の残留応力の変化 が少なく,衝撃的塑性変形により残留応力が大きくな ることはない。衝撃引張りでない場合は,塑性変形前 後の残留応力の変化に明確な差異がなく,引張り側に 変化する傾向がみられる. 3.2 微視的残留応力のひずみ速度依存性塑性変形方向に対して微視的残留応力に差が生じて いないか,またそれがひずみ速度に依存しないかを検 討する.種々のひずみ速度で引張塑性を与えた試験片 の残留応力を高エネルギー放射光にて各回折面を利用 して測定した.その一例として,最も遅いひずみ速度 の結果を図5(a) に示す。他方,高ひずみ速度で塑性変 形させた SHBT法についての同様の結果を図5 (6) に示 す.測定した応力は,引張軸方向の残留応力である. 横 軸は,各回折面の Kronerモデルによるヤング率である. * 図5(a) からわかるように,ひずみ速度 e の小さい UTM 試験片の場合, ハードな回折面では圧縮,ソフト な回折面では引張りの残留応力が生じている.これに 対して,ひずみ速度eの大きい SHBT の試験片では,残 留応力の傾向はUTM試験片と同じであるが,微視的残 留応力の差が小さくなっている.このことから,微視的 残留応力の回折面依存性には,ひずみ速度が影響して いることが伺える.図5(a) および(b) の311回折の残留応力を図4の MnKa X線で測定した値と比較すると,高エネルギー放射 光で測定した方が小さい結果となっている.高エネル ギー放射光で測定した残留応力は,表面よりも試験片 を透過した板厚全体の平均としての値である.これに 対して,Mn-Ka 特性X線の侵入深さは数 um 程度であ り,試験片の極表面の残留応力を測定している. 試験 片の表面は結晶が変形しやすく,試験片内部と比較し て残留応力が生じやすい.その結果,図4と図5のよ うに残留応力の値に差が生じたと考えられる.-564F400SUS316L, #6L07P02, 2=18.66pm Strain rate=6.67x100s', e = 2.1%511_311531 422Residual streResidual stress o., MPa420.331 222」220240-200 140 160 180 200 220Young's modulus, GPa (a) e = 6.67 × 10-5 s-1 (UTM)uazuFig. 6. Residual stresses with increase in strain rate.SUS316L, #A1, 2%3D18.66pmStrain rate=67620311222 )Residual stress on, MPa420531331し,本実験の微視的残留応力は、除荷状態で測定して いることに注意する必要がある.例えば、ピーニング のようにマクロな残留応力が働いているときについて は,さらに検討する必要がある. 3.3 ピーニング面の微視的残留応力表面における引張り残留応力を改善するために, LP および WJP などのピーニング処理が採用されている。 これらのピーニングは,水中にて試料表面から衝撃波 により試料表面層を塑性変形させ,引張りから圧縮の 残留応力へと変化させる. ピーニングは高速変形によ 2迫性ホルた和田112ので当然なEh組は小-150-200 LLLLLLLLL」-200 ,140240160 180 200 220Young's modulus, GPa (b) = 670 s-1 (SHBT)Fig. 5. Residual microstresses with low and Residual microstresses with low and high strain rate. * 微視的残留応力とひずみ速度との関係を整理するた め,微視的残留応力が引張側の回折面として 400,620 回折,圧縮側の回折面として 220, 331, 222 回折および やや機械的側の回折として 422 回折についてプロット した結果を図6に示す。図からわかるように,衝撃塑性 を受けた SHBT 試験片の場合は,微視的残留応力の差 が小さいこれらの残留応力測定は,平板の軸方向の 一様な引張塑性変形であること,完全に除荷して測定 していることから,巨視的残留応力は存在しない。こ こで測定される残留応力は,結晶粒間の塑性変形で生 じた粒間の残留ひずみであり,第二種残留応力に分類 される微視的残留応力 [15] である.本研究で結晶粒の 変形異方性が高ひずみ速度で現れにくいのは,高ひず み速度では降伏点がハードおよびソフトな結晶方位の 両者で上昇し,結果的に静的塑性変形より異方性の影 響が小さくなるためと考えられる.以上のことから,衝撃的塑性変形は静的塑性変形よ り結晶異方性の影響が小さく,微視的残留応力の差が 小さい。ゆえに,高ひずみ速度による塑性変形で,微 視的残留応力が大きくなる危険性はより少ない。ただSUS316L, =18.66pm0 4000 220 D422 日 620 0331 0 222Tensile test%SHBT-100of1 1x100 1x10+ 1x10 1x10° 1x102 1x10de/dt, s? し,本実験の微視的残留応力は、除荷状態で測定 いることに注意する必要がある.例えば,ピーニ のようにマクロな残留応力が働いているときにつ は,さらに検討する必要がある. 3.3 ピーニング面の微視的残留応力表面における引張り残留応力を改善するために, LP および WJP などのピーニング処理が採用されている. これらのピーニングは,水中にて試料表面から衝撃波 により試料表面層を塑性変形させ,引張りから圧縮の 残留応力へと変化させる. ピーニングは高速変形によ る塑性変形を利用しているので,単純な引張り塑性変 形と異なる.レーザーショックによるひずみ速度eの測 定例では,107~ 102 s-1 の値となり,本実験の SHBT 試験片よりもさらに大きいひずみ速度に相当する [16]. ゆえに,ピーニングによる微視的残留応力についても 検討する必要がある. ・ピーニングによる微視的残留応力について検討する ために、LP材および WJP 材を対象に各回折面の残留 応力を測定した.測定した各回折面の微視的残留応力 を Kroner モデルによるヤング率で整理した結果を図7 (a) および (6) に示す.まず,両ピーニング面は回折面 に関係なく圧縮の残留応力を持ち,応力改善が期待で きる. LP 材は施工方向 (p = 0) に大きな圧縮が形成 されるが,施工方向垂直 (p = 90°)では,施工方向よ り 200 MPa以上も圧縮残留応力が小さい. これに対し, WJP材の圧縮残留応力は小さいが,施工方向による差 はLPと比較してあまり大きくないこれらの結果は表 面の残留応力ではなく,表面から 30 um の重み付き平 均としての残留応力である.一方,LP材および WJP 材の微視的残留応力に注目 すると,ソフトな回折面で大きな圧縮残留応力,逆に ハードな回折面では小さな圧縮残留応力が導入される 傾向が伺えるこの微視的残留応力の傾向は,図5に 示す引張り塑性の微視的残留応力の傾向と逆になって いる.また, WJP 材と比較して, LP材は微視的残留応 する - 565 -| ? p=0degA =45deg 0 %90deg-200- '6““-4006420 4403 422-60014420620222311-800 Fo140072.312keV. slit=5.0x0.5mm#LP2, SUS316L laser peened -1000 LL140 160_ 180 200 220 240 Young's modulus E., GPaYoung's modu(a) LP(b) WJPFig. 7. Residual stresses on peened surface.残留応力が,これに相当する.strain EAToncion Applied strain EATension- Hard ---- Mechanical - SoftPlastic strainX-ray strain- ExPeeningCompression我的心力および LP および WJPによる収祝日目 Fig. 8. Mechanical model for plastic deformation.力について検討した.得られた結果をまとめると,下の通りである. の差が大きく現れている. LP材は,WJP材より大き(11)塑性変形前後における Mn-Ka特性X線による31 力の差が大きく現れているLP材は,WJP材より大き なマクロの圧縮残留応力を持つ。ピーニングメカニズ ムにおけるプラズマ発生の有無から考えると,巨視的 残留応力における LP 材と WJP 材との差は,温度が影 響している可能性もある. LP材の残留応力の方向によ る残留応力の大小関係については,どの回折面でも同 一傾向を持つ. *以上の結果を説明するモデルを図8 を示す.X線的 ひずみ EXとマクロの負荷ひずみ EAとの関係を各軸に とり, ハードな面とソフトな面を考える.また,それら のバランスが機械的面となる。ハードな面が圧縮ひず みを受け,やがて塑性変形を始めるとX線的ひずみ EX は一定となり,その負担がソフトな面が受け持つこと になる.このような状態から除荷されれば,機械的ひ ずみが零のところで停止する.前節の除荷後の微視的-200F642 422 440331-4000620311222-600-1000 L L LLLL IIIIスフ? O=Odeg △ =45degop=390deg -80072.312keV, slit=5.0x0.5mmWJP2, SUS316L water jet peened -1000 140 160_ 180 200 220 240Young's modulus Ebi GPa 残留応力が,これに相当する.しかし,圧縮塑性がそ のまま残るピーニング面の場合は,部材のバランスに より図中のピーニングのどこかで留まっている.つま り, ピーニングにより大きな圧縮が生じたとしても,回 折面依存性が大きいことを十分に熟知する必要がある. また,引張り塑性と圧縮塑性では,微視的残留応力の 傾向が逆になることも,この図に示したモデルから容 易に想像できる.ここでは,ひずみ一定のモデルを示 しているが,実際の結晶の挙動は応力一定とひずみ一 定の中間的な動きをするので,より複雑である.正確 には, in-situ 実験によりそれぞれの回折を測定する必 要がある。 4. 結言 * 本研究では,低速から高速のひずみ速度で塑性変形 させたオーステナイト系ステンレス鋼 SUS316Lの微視 的残留応力および LP および WJP による微視的残留応 力について検討した.得られた結果をまとめると,以 下の通りである. 1)塑性変形前後における Mn-Ka 特性X線による311回 折の残留応力の変化は,放射光で測定したものより大 きい,Mn-Ka 特性X線による測定は試験片の表面の測 定であり,放射光による測定は試験片の透過による測 定であるので,両者の測定には試験片の表面と内部の ひずみによる差異が影響している. 2) 衝撃引張り塑性により形成された微視的残留応力の 差は,低いひずみ速度に比較して小さく,微視的残留 応力の形成には,ひずみ速度依存性が認められた. 3) 塑性引張りによる残留応力は,ハードな回折面では 圧縮,ソフトな回折面では引張りの残留応力を持つ, LP 材および WJP 材では,これと逆にハードな回折面では 引張りソフトな面では圧縮の残留応力を持つ,このメ カニズムについて,引張・圧縮の結晶の弾塑性異方性 によるモデルで説明した.カニズムについて,引張・ 的によるモデルで説明した.- 566 -4) LP 材および WJP 材ともに,いずれの回折面でも表 面に圧縮残留応力が形成された. LP材は,WJP に比較 して大きな圧縮残留応力が形成されるが,施工方向平 行と垂直で圧縮残留応力の差が大きく,かつ微視的残 留応力の差も大きい. * シンクロトロン放射光の実験は,原子力研究開発機 構の施設供用課題 (No. 2008A-E12) および高輝度光科 学研究センター共用課題 (No. 2008A1766) の援助によ るものである.本研究は文部科学省科学研究補助金基 盤研究 (C) No. 21560081 の支援を得た.以上,ここに 記して感謝の意を表します. 参考文献 [1] B. Clausen, T. Lorentzen and T. Leffers, ”Selfconsistent model of the plastic deformation of f.c.c. polycrystals and its implications for diffraction measurements of internal stresses”, Acta Metalludica,Vol. 46, 1998, pp.3087-3098. [2] B. Clausen, T. Lorentzen, M.A.M. Brourke and M.R.Daymond, ““Lattice strain evolution during uniaxial tensile loading of stainless steel”, Meterial Science& Engineering, Vol. A259, 1999, pp. 17-24. [3] R. Lin Peng, M.Dden, Y.D. Wang and S. Johansson,”Intergranular strains and plastic deformation of an austenitic stainless steel”, Material Science & Engineering, A334, 2002, pp. 215-222. [4] 鈴木賢治,菖蒲敬久,““オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形による微視的残留応力”,保全学,Vol. 6, No. 2, 2010, 掲載予定. [5] Y. Sano, N. Mukai, M. Yoda, K. Ogawa and N. Suezono, ”Underwater laser Shock Processing to Introduce Residual Compressive Stress on Metals”, Materials Science Research International, STP, Vol. 2,2001, pp. 453-458. [6] 榎本邦雄,平野克彦, 望月正人,黒沢孝一, 斉藤英世, 林 英策,““ウォータージェットピーニング による材料表面の残留応力改善効果の検討”,材 料, Vol. 45, No.7, 1996, pp. 734-739.[7]
p. 17.M. Zhou, Y.K. Zhang and L. Cai, ”Ultrahigh-strainrate plastic deformation of a stainless-steel sheet with TiN coatings driven by laser shock waves”, Applied Physics, A, Vol. 77, 2003, pp. 549-554.567
“ “?オーステナイト系ステンレス鋼の高ひずみ速度による“ “鈴木 賢治,Kenji SUZUKI,菖蒲 敬久,Takahisa SHOBU
原子力発電設備は高経年化時代を迎え,オーステナ イト系ステンレス鋼の応力腐食割れ (SCC) は重要な課 題である.その一環として,オーステナイト系ステン レス鋼の残留応力特性についての知見を拡充しなけれ ばならない.これまで,引張り試験過程中のオーステナイト系ス テンレス鋼の弾・塑性異方性について中性子回折法に より研究されてきた [1-3]. 著者らは,高エネルギー放 射光を利用して静的に塑性引張りを受けたオーステナ イト系ステンレス鋼の微視的残留応力と回折面依存性 について研究した [49. これらの研究は,準静的な引張 り塑性による弾塑性異方性や微視的残留応力を対象と している. オーステナイト系ステンレス鋼の機械加工 をはじめ,レーザーピーニング (LP)5] およびウォータ ジェットピーニング (WJP)Oによる応力改善を考える と,これらは高速塑性変形により導入された残留応力 である. 高ひずみ速度による塑性変形を受けたオース テナイト系ステンレス鋼の微視的残留応力と回折面依 存性についての研究は重要であるにもかかわらず,そ れらに関する研究は見あたらない. * 本研究では,高速引張り,衝撃引張りおよびピーニン グによる微視的残留応力を高エネルギー放射光X線を 用いて測定した,そして,オーステナイト系ステンレ ス鋼の微視的残留応力のひずみ速度依存性および回折 面依存性について検討する. 2. 実験方法 2.1 試験片および引張試験 1本実験の試験片材料としてオーステナイト系ステン レス鋼 SUS316L を用いた.試験片は放電加工で切り出 した平板を図1に示す寸法に機械加工した後,表面を バフ研磨にて仕上げた.さらに,機械加工の残留応力 除去として913 K, 10分加熱後,炉冷のひずみ取り焼き なましを行った.この試験片の引張試験を行い,耐力二臨10.2 = 202 MPa, 引張強さ OB = 523 MPa, 伸び 81%を 得た,ヤング率は,Kroner モデル (7) から機械的ヤング 率を計算し 194.7 GPa を得た.なお,Kroner モデルに よる立方晶の理論的弾性定数を計算するシステムを構 築した [8] . 試験片の結晶粒径は,実測した 55 um を得た.万能引張試験機 (UTM) にて試験片に種々の変位速度 で引張り塑性変形を与えた.目標とする塑性ひずみ ED を約2%とし,変位-荷重線図のレコーダを目視しなが ら予定の E, 値に達したところで引張試験を中断した. 各試験片のひずみ速度eは, 6.67 x 10-5 ~ 6.67 x 10-2 s-1 の範囲となった.また,これらの引張り塑性試験片 のひずみ ED は 2.1 ~ 2.8 %の範囲であった.UTM の引張速度には限界があり,より大きいひずみ 速度を与えるために,衝撃引張り試験としてホプキン ソン棒法 (SHBT: split-Hopkinson bar test)9] を採用した. SHBT試験片は,引張試験片と同じ材料から切り出し, 図2 (a) に示す形状・寸法に加工した後,913 K, 10分 加熱後,炉冷のひずみ取り焼き鈍しを行った. - ホプキンソン棒法の概略を図 2 (6) に示す。図の右側 よりコンプレッサを利用したエアガンで打撃棒 (striker bar) により出力棒に衝撃圧縮波を与える.衝撃圧縮波 は, 出力棒(output bar)を伝播し,試験片外側の間座(shoulder) から入力棒 (input bar) へ伝わる.このとき,衝撃圧 縮波は試験片に作用せず間座を介して入力棒に伝わる. その結果,試験片の両端に荷重が作用し,衝撃引張が 生じる.両端から引張力が作用すると間座は分離して,
(a) SHBT specimen.ShoulderSpecimen- input bar...Input bar1. Outer bar. Outer barStriker bar | Air gunStriker bar. | air gun.7(b) Impact testting machineFig. 2. Split-Hopkinson bar test.その衝撃引張力は,そのまま試験片に作用する.入・出 力棒に貼ったひずみゲージ(両ゲージとも試験片端から 500 mm の位置) からひずみの信号を測定・解析し,ひ ずみ速度eを求めた.また,塑性変形量を測定するた めに試験片に標点を印して、衝撃引張後に標点間距離 を顕微鏡で測定して,塑性ひずみとりを求めた,製作し た衝撃引張り試験片は,それぞれ塑性ひずみ Ep が 6.3 および 7.6%,ひずみ速度e が 500 および 670 s-1 の2 本である. 2.2 ピーニング試験片 - 原子力発電設備の応力腐食割れを防ぐため,残留応 力改善法としてレーザピーニングおよびウォータジェッ トピーニングが実機に適用されている[10,11] . これら のピーニング面は高ひずみ速度で塑性変形を受けるの で,それらの処理面の微視的残留応力は,静的塑性引 張りの結果と異なることが懸念される.試験片は前述と同一のSUS316L材であり,板厚8mm, 長さおよび幅が 20 × 20 mm2 の平板である.この試験 片の片面にレーザピーニングを施した。図 3 (a) に,連 続蛇行したレーザピーニングの方向と座標の定義を示 す. レーザピーニング条件は, パルスエネルギー 60 mJ, スポット径 0.7 mm, 照射回数 70 pulse/mm2 である.本 研究では,レーザーピーニング材を LP材と称する.PulselaserI toOyNozzle4545145W450SON(a) LP(b) WJPFig. 3. Peening direction and coordinate system.一方,ウォータジェットピーニングは,同一のSUS 316L の板厚8mm, 大きさ 0.2 x2 m の平板(研削加工面)の 中心線に沿って施工された後,施工方向に 20×20 mm2 の寸法に放電加工にて切り出した.図3 (6) に施工方向 (破線矢印) と座標の取り方を示した.本研究では,ウ ォータジェット ピーニング材を WJP材と称する. ウォー タジェットピーニングの条件は,1パスで噴射距離 140 mm, 噴射流量48L/min, 噴射角度90°, 噴射時間40 min/m である。 2.3 X線応力測定 - 所定のひずみ速度による引張塑性試験の前後でラボ X線による応力測定を行った.X線応力測定の条件を 表1にまとめた.回折条件として Mn-Ka 線による YFe の 311 回折を利用した,X線応力測定標準 [12]で推 奨する Cr-KB線に比較して,Mn-Ka 線はピーク強度が 大きく,高い回折角を持つために、迅速かつ高精度の 測定が可能である. 回折装置は,島津 XD-610,X線検 出器はシンチレーションカウンターを利用した. 半価 幅法によりピークを決定し, 20-sinp線図から応力を 求めた.前述した種々のひずみ速度で引張塑性変形させた各 試料の残留応力を多数の回折面を利用して測定した. 高 い指数の回折を測定するには、波長の短い高エネルギー X線を必要とするので,大型放射光施設 SPring-8 にて 高エネルギー放射光X線による応力測定を行った. ビー ムライン BL22XU は、日本原子力研究開発機構の専用 ビームラインであり,挿入光源(アンジュレータ)によ る高輝度かつ高エネルギーX線を利用できるビームラ インである. 高エネルギーシンクロトロン放射光によ る残留応力測定のX線条件を表2に示す.残留応力の 測定方法は,透過法である cos2 x 法 [4] を用いた. - 応力測定に用いた回折弾性定数は SUS316 の単結晶ここ二等ムビるConditions for stress measurement with laboratoryTable 1. Conditions for stress measurement with laboX-rays.Radiations DiffractionTube voltage Tube current Method Irradiated area Diffraction angle 200 Scanning Scanning step Preset time siny Stress constant K Peak determinationMn-Ka Y-Fe, 311 30kV10 mA Iso-inclination 4×8mm152.313 deg 149 ~ 156 deg 0.1 deg/step1 sec 0.0 ~ 0.6 (step 0.1)-301 MPa/deg Half value breadth563、Table 2. Conditions for stress measurements using hard synchrotron X-rays.Beam lineBL22XUWavelength Divergent slit (h x W) Receiving slit 1, 2 (h x w) Rotation speed66.40 keV (18.66 pm)1.0×0.2 mm 1.0×0.2 mm20.2 Hz cost x = 0.4 ~1MethodTable 3. Conditions for constant penetration depth method.Beam lineBLO2B1 Wavelength| 72.312 keV (17.183 pm) Divergent slit (h x w) 0.5×5 mm Receiving slitSoller slit Penetration depth30 umのスティフネス c を文献 [13] から引用し, C11 = 206, C12 = 133 および c44 = 119 GPa の値を用いて Kroner モデルにより計算した.本実験では,測定に十分な回 折強度が得られる単一回折のピークを利用した.例え ば,511 回折と 333 回は回折強度が得られるが,二重線 になるので,本測定ではそのような回折を除外した. * 一方,ピーニングされた表面の残留応力についても 回折面依存性を調べるために,高エネルギー放射光を 利用して各回折面による残留応力測定を行った. LP材 および WJP材の残留応力は,表面から内部に向かい残 留応力に勾配があるので,本研究では,侵入深さ一定法 [14] を用いて残留応力を測定した.表3に侵入深さ一定 法の測定条件を示す.使用したビームラインは BLO2B1 である.このビームラインでは,偏向電磁石の光源と 分光器から高エネルギーX線を利用でき,ソーラスリッ トを利用できる5軸回折計が用意されている.本実験 では,有効X線侵入深さ T を 30um に設定して, ピー ニング方向に対して 0° (x 方向), 45° および 90° につい て残留応力を測定した。 3. 実験結果および考察 3.1 ひずみ速度と巨視的残留応力 - 各ひずみ速度で引張り塑性を与えた UTM 試験片の 残留応力を -Fe の 311 回折で測定した結果を図4に示 す. また,衝撃引張り塑性変形させたSHBT試験片の結 果も図4に併せて示す。図に示した残留応力は,引張り 軸方向の応力である.図中のエラーバーは,20-sin 線図の 68.3%信頼限界を示している.図からわかるように引張塑性を受ける前は,やや圧 縮または小さい引張りであった残留応力が,塑性変形 後はすべて引張りへと変化する. ひずみ速度の大きい SHBT 試験片の方が,低ひずみ速度の結果と比較して500Axial diectiony-Fe (311) by Mn-Ka O Before tension ? After tensionedResidual stres0UTMSHBT-200 LILL1005 10310310510' 10' Strain rate, s'Fig. 4. Residual stresses measured by Mn-Ka.バラツキがあるものの塑性変形前後の残留応力の変化 が少なく,衝撃的塑性変形により残留応力が大きくな ることはない。衝撃引張りでない場合は,塑性変形前 後の残留応力の変化に明確な差異がなく,引張り側に 変化する傾向がみられる. 3.2 微視的残留応力のひずみ速度依存性塑性変形方向に対して微視的残留応力に差が生じて いないか,またそれがひずみ速度に依存しないかを検 討する.種々のひずみ速度で引張塑性を与えた試験片 の残留応力を高エネルギー放射光にて各回折面を利用 して測定した.その一例として,最も遅いひずみ速度 の結果を図5(a) に示す。他方,高ひずみ速度で塑性変 形させた SHBT法についての同様の結果を図5 (6) に示 す.測定した応力は,引張軸方向の残留応力である. 横 軸は,各回折面の Kronerモデルによるヤング率である. * 図5(a) からわかるように,ひずみ速度 e の小さい UTM 試験片の場合, ハードな回折面では圧縮,ソフト な回折面では引張りの残留応力が生じている.これに 対して,ひずみ速度eの大きい SHBT の試験片では,残 留応力の傾向はUTM試験片と同じであるが,微視的残 留応力の差が小さくなっている.このことから,微視的 残留応力の回折面依存性には,ひずみ速度が影響して いることが伺える.図5(a) および(b) の311回折の残留応力を図4の MnKa X線で測定した値と比較すると,高エネルギー放射 光で測定した方が小さい結果となっている.高エネル ギー放射光で測定した残留応力は,表面よりも試験片 を透過した板厚全体の平均としての値である.これに 対して,Mn-Ka 特性X線の侵入深さは数 um 程度であ り,試験片の極表面の残留応力を測定している. 試験 片の表面は結晶が変形しやすく,試験片内部と比較し て残留応力が生じやすい.その結果,図4と図5のよ うに残留応力の値に差が生じたと考えられる.-564F400SUS316L, #6L07P02, 2=18.66pm Strain rate=6.67x100s', e = 2.1%511_311531 422Residual streResidual stress o., MPa420.331 222」220240-200 140 160 180 200 220Young's modulus, GPa (a) e = 6.67 × 10-5 s-1 (UTM)uazuFig. 6. Residual stresses with increase in strain rate.SUS316L, #A1, 2%3D18.66pmStrain rate=67620311222 )Residual stress on, MPa420531331し,本実験の微視的残留応力は、除荷状態で測定して いることに注意する必要がある.例えば、ピーニング のようにマクロな残留応力が働いているときについて は,さらに検討する必要がある. 3.3 ピーニング面の微視的残留応力表面における引張り残留応力を改善するために, LP および WJP などのピーニング処理が採用されている。 これらのピーニングは,水中にて試料表面から衝撃波 により試料表面層を塑性変形させ,引張りから圧縮の 残留応力へと変化させる. ピーニングは高速変形によ 2迫性ホルた和田112ので当然なEh組は小-150-200 LLLLLLLLL」-200 ,140240160 180 200 220Young's modulus, GPa (b) = 670 s-1 (SHBT)Fig. 5. Residual microstresses with low and Residual microstresses with low and high strain rate. * 微視的残留応力とひずみ速度との関係を整理するた め,微視的残留応力が引張側の回折面として 400,620 回折,圧縮側の回折面として 220, 331, 222 回折および やや機械的側の回折として 422 回折についてプロット した結果を図6に示す。図からわかるように,衝撃塑性 を受けた SHBT 試験片の場合は,微視的残留応力の差 が小さいこれらの残留応力測定は,平板の軸方向の 一様な引張塑性変形であること,完全に除荷して測定 していることから,巨視的残留応力は存在しない。こ こで測定される残留応力は,結晶粒間の塑性変形で生 じた粒間の残留ひずみであり,第二種残留応力に分類 される微視的残留応力 [15] である.本研究で結晶粒の 変形異方性が高ひずみ速度で現れにくいのは,高ひず み速度では降伏点がハードおよびソフトな結晶方位の 両者で上昇し,結果的に静的塑性変形より異方性の影 響が小さくなるためと考えられる.以上のことから,衝撃的塑性変形は静的塑性変形よ り結晶異方性の影響が小さく,微視的残留応力の差が 小さい。ゆえに,高ひずみ速度による塑性変形で,微 視的残留応力が大きくなる危険性はより少ない。ただSUS316L, =18.66pm0 4000 220 D422 日 620 0331 0 222Tensile test%SHBT-100of1 1x100 1x10+ 1x10 1x10° 1x102 1x10de/dt, s? し,本実験の微視的残留応力は、除荷状態で測定 いることに注意する必要がある.例えば,ピーニ のようにマクロな残留応力が働いているときにつ は,さらに検討する必要がある. 3.3 ピーニング面の微視的残留応力表面における引張り残留応力を改善するために, LP および WJP などのピーニング処理が採用されている. これらのピーニングは,水中にて試料表面から衝撃波 により試料表面層を塑性変形させ,引張りから圧縮の 残留応力へと変化させる. ピーニングは高速変形によ る塑性変形を利用しているので,単純な引張り塑性変 形と異なる.レーザーショックによるひずみ速度eの測 定例では,107~ 102 s-1 の値となり,本実験の SHBT 試験片よりもさらに大きいひずみ速度に相当する [16]. ゆえに,ピーニングによる微視的残留応力についても 検討する必要がある. ・ピーニングによる微視的残留応力について検討する ために、LP材および WJP 材を対象に各回折面の残留 応力を測定した.測定した各回折面の微視的残留応力 を Kroner モデルによるヤング率で整理した結果を図7 (a) および (6) に示す.まず,両ピーニング面は回折面 に関係なく圧縮の残留応力を持ち,応力改善が期待で きる. LP 材は施工方向 (p = 0) に大きな圧縮が形成 されるが,施工方向垂直 (p = 90°)では,施工方向よ り 200 MPa以上も圧縮残留応力が小さい. これに対し, WJP材の圧縮残留応力は小さいが,施工方向による差 はLPと比較してあまり大きくないこれらの結果は表 面の残留応力ではなく,表面から 30 um の重み付き平 均としての残留応力である.一方,LP材および WJP 材の微視的残留応力に注目 すると,ソフトな回折面で大きな圧縮残留応力,逆に ハードな回折面では小さな圧縮残留応力が導入される 傾向が伺えるこの微視的残留応力の傾向は,図5に 示す引張り塑性の微視的残留応力の傾向と逆になって いる.また, WJP 材と比較して, LP材は微視的残留応 する - 565 -| ? p=0degA =45deg 0 %90deg-200- '6““-4006420 4403 422-60014420620222311-800 Fo140072.312keV. slit=5.0x0.5mm#LP2, SUS316L laser peened -1000 LL140 160_ 180 200 220 240 Young's modulus E., GPaYoung's modu(a) LP(b) WJPFig. 7. Residual stresses on peened surface.残留応力が,これに相当する.strain EAToncion Applied strain EATension- Hard ---- Mechanical - SoftPlastic strainX-ray strain- ExPeeningCompression我的心力および LP および WJPによる収祝日目 Fig. 8. Mechanical model for plastic deformation.力について検討した.得られた結果をまとめると,下の通りである. の差が大きく現れている. LP材は,WJP材より大き(11)塑性変形前後における Mn-Ka特性X線による31 力の差が大きく現れているLP材は,WJP材より大き なマクロの圧縮残留応力を持つ。ピーニングメカニズ ムにおけるプラズマ発生の有無から考えると,巨視的 残留応力における LP 材と WJP 材との差は,温度が影 響している可能性もある. LP材の残留応力の方向によ る残留応力の大小関係については,どの回折面でも同 一傾向を持つ. *以上の結果を説明するモデルを図8 を示す.X線的 ひずみ EXとマクロの負荷ひずみ EAとの関係を各軸に とり, ハードな面とソフトな面を考える.また,それら のバランスが機械的面となる。ハードな面が圧縮ひず みを受け,やがて塑性変形を始めるとX線的ひずみ EX は一定となり,その負担がソフトな面が受け持つこと になる.このような状態から除荷されれば,機械的ひ ずみが零のところで停止する.前節の除荷後の微視的-200F642 422 440331-4000620311222-600-1000 L L LLLL IIIIスフ? O=Odeg △ =45degop=390deg -80072.312keV, slit=5.0x0.5mmWJP2, SUS316L water jet peened -1000 140 160_ 180 200 220 240Young's modulus Ebi GPa 残留応力が,これに相当する.しかし,圧縮塑性がそ のまま残るピーニング面の場合は,部材のバランスに より図中のピーニングのどこかで留まっている.つま り, ピーニングにより大きな圧縮が生じたとしても,回 折面依存性が大きいことを十分に熟知する必要がある. また,引張り塑性と圧縮塑性では,微視的残留応力の 傾向が逆になることも,この図に示したモデルから容 易に想像できる.ここでは,ひずみ一定のモデルを示 しているが,実際の結晶の挙動は応力一定とひずみ一 定の中間的な動きをするので,より複雑である.正確 には, in-situ 実験によりそれぞれの回折を測定する必 要がある。 4. 結言 * 本研究では,低速から高速のひずみ速度で塑性変形 させたオーステナイト系ステンレス鋼 SUS316Lの微視 的残留応力および LP および WJP による微視的残留応 力について検討した.得られた結果をまとめると,以 下の通りである. 1)塑性変形前後における Mn-Ka 特性X線による311回 折の残留応力の変化は,放射光で測定したものより大 きい,Mn-Ka 特性X線による測定は試験片の表面の測 定であり,放射光による測定は試験片の透過による測 定であるので,両者の測定には試験片の表面と内部の ひずみによる差異が影響している. 2) 衝撃引張り塑性により形成された微視的残留応力の 差は,低いひずみ速度に比較して小さく,微視的残留 応力の形成には,ひずみ速度依存性が認められた. 3) 塑性引張りによる残留応力は,ハードな回折面では 圧縮,ソフトな回折面では引張りの残留応力を持つ, LP 材および WJP 材では,これと逆にハードな回折面では 引張りソフトな面では圧縮の残留応力を持つ,このメ カニズムについて,引張・圧縮の結晶の弾塑性異方性 によるモデルで説明した.カニズムについて,引張・ 的によるモデルで説明した.- 566 -4) LP 材および WJP 材ともに,いずれの回折面でも表 面に圧縮残留応力が形成された. LP材は,WJP に比較 して大きな圧縮残留応力が形成されるが,施工方向平 行と垂直で圧縮残留応力の差が大きく,かつ微視的残 留応力の差も大きい. * シンクロトロン放射光の実験は,原子力研究開発機 構の施設供用課題 (No. 2008A-E12) および高輝度光科 学研究センター共用課題 (No. 2008A1766) の援助によ るものである.本研究は文部科学省科学研究補助金基 盤研究 (C) No. 21560081 の支援を得た.以上,ここに 記して感謝の意を表します. 参考文献 [1] B. Clausen, T. Lorentzen and T. Leffers, ”Selfconsistent model of the plastic deformation of f.c.c. polycrystals and its implications for diffraction measurements of internal stresses”, Acta Metalludica,Vol. 46, 1998, pp.3087-3098. [2] B. Clausen, T. Lorentzen, M.A.M. Brourke and M.R.Daymond, ““Lattice strain evolution during uniaxial tensile loading of stainless steel”, Meterial Science& Engineering, Vol. A259, 1999, pp. 17-24. [3] R. Lin Peng, M.Dden, Y.D. Wang and S. Johansson,”Intergranular strains and plastic deformation of an austenitic stainless steel”, Material Science & Engineering, A334, 2002, pp. 215-222. [4] 鈴木賢治,菖蒲敬久,““オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形による微視的残留応力”,保全学,Vol. 6, No. 2, 2010, 掲載予定. [5] Y. Sano, N. Mukai, M. Yoda, K. Ogawa and N. Suezono, ”Underwater laser Shock Processing to Introduce Residual Compressive Stress on Metals”, Materials Science Research International, STP, Vol. 2,2001, pp. 453-458. [6] 榎本邦雄,平野克彦, 望月正人,黒沢孝一, 斉藤英世, 林 英策,““ウォータージェットピーニング による材料表面の残留応力改善効果の検討”,材 料, Vol. 45, No.7, 1996, pp. 734-739.[7]
p. 17.M. Zhou, Y.K. Zhang and L. Cai, ”Ultrahigh-strainrate plastic deformation of a stainless-steel sheet with TiN coatings driven by laser shock waves”, Applied Physics, A, Vol. 77, 2003, pp. 549-554.567
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