超音波ショットピーニングのBWR炉内構造物への適用に向けた取り組み
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カテゴリ: 第7回
1.はじめに
- 沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWR)にお いては、プラントの経年劣化対策及び長寿命化へ向 けた種々の保全技術が適用されている。炉内構造物 の取替工事は最大規模の保全技術であり、応力腐食 割れ(以下、SCC)の一要因である材料の改善を実 施することが可能である。一方、原子炉圧力容器(以下、RPV)のように取 替が困難な構造物については既存溶接部近傍の SCC 対策として種々の応力改善技術が適用されて いる。超音波ショットピーニング (Ultrasonic Shot Peening 以下、USP)はそのひとつであり、原子炉 底部の溶接部に対して、炉内構造物取替工事と併せ て行うことを検討している。 USP の施工原理を図1 に示す。本報では USP 適用に当たっての残留応力改善確 認試験結果と現地における作業性検討結果につい て紹介する。
2.原子炉底部への USP 適用検討 - 炉内構造物取替工事と同時に実施を計画してい る原子炉底部の溶接部は図2に示すように多様で 複雑な形状となっている。また、対象溶接部の材料 はニッケル基合金及びステンレス鋼の2種類があ る。本項では、実機への USP の適用性を検証すべく 実施した試験項目とその結果について述べる。572原子炉 圧力容器シュラウド サポート狭隘施工部位(例)原子炉底部 溶接線図2 RPV 炉底部 USP 施工対象部2.1 基礎試験による適用性検証 ・ピーニングによる応力改善では、少なくとも ニ ッケル基合金においては 200 μm、ステンレス鋼に おいては 100 um の深さで圧縮残留応力層を形成す ることが求められる[1]。 USP 施工で管理すべき項目 について、実機での施工性(施工ヘッドの設置性、 投射距離等)を考慮した条件にて確認試験を行い、 その効果を検証した。図3、4にはそれぞれ NCF600 及び SUS316L の平板試験片について USP 施工を行 った部位の残留応力測定結果を示す。本結果より USP はいずれの材料に対しても深さ 500 u m 以上の 圧縮応力層が形成されており有効性を確認できた。800| USP施工範囲6000-0x(施工部) |-10y(施工部)400K120200残留応力(MPa)-200-400-600-800 1 0_100700800900200 300 400 500 600表面からの距離(y m) 図3 残留応力測定結果 (NCF600 材 深さ方向応力分布)800| USP 施工範囲6000-0x施工部) 15-0」(施工部)400120残留応力(MPa)-200-400-600-800 1 0_700800900100 200 300 400 500 600表面からの距離(J m) 図4 残留応力測定結果 (SUS316L 材 深さ方向応力分布)8002.2 実機形状模擬試験による適用性検証 * 実機における対象部位は溶接ビードの凹凸や狭 陰部等があり様々な形状となっているが、USP 施工 は図2に示す全ての対象部位について確実に実施 する必要がある。このため、形状や表面の特徴を考 慮した試験片を用いて模擬試験を実施し、各部位に 最適な施工条件を確立する必要がある。施工ヘッド の設置が困難な狭隘部位のうち、図2に示す施工部 位を対象に実機形状を模擬し試験を行った結果を 以降に示す。本試験においては図5に示す実機形状 を模擬した試験片と、形状に合わせて設計した施工 ヘッドを使用して USP の適用性検証を行うと同時 に、実機向けの施工装置設計に必要な施工ヘッドの アクセス性や可動範囲等の条件についても確認を 実施した。本試験で使用した試験設備及び試験装置 を図6に示す。図5 実機形状模擬試験片(NCF600/機械加工試験片)施工試驗裝置詳細炉底部模擬体施工試験装置施工ヘッド試験片 取付け部試驗?象 溶接線位置図6 USP 実機形状模擬試験設備本試験にて対象とした部位は V 字形状になって おり、施工時にはヘッドの位置や角度を形状に合わ せて変更する必要がある。このため、施工条件のう ち施工距離と角度は対象試験片内でも位置により 異なっているが、その他の施工条件、例えばショッ トの材質や数量、超音波の周波数等は実機での作業 性を考慮し同一条件とした。本試験で得られる応力 改善効果は、施工距離と角度の違いにより傾向が異 なると推定されるため、位置ごとの形状特性を反映 した複数の代表点を抽出して測定を行った。測定位 置と測定の結果を図7及び8に示す。573これらの結果から複雑形状においても深さ 200 μm 以上の圧縮残留応力層が形成されていることが確 認でき、応力改善の効果が検証できた。試験片鳥瞰図les per a展開a側)b側-USP施工範囲a側未施工部b側図7 試験片測定位置1000 800今0x◆0y残留応力(MPa)-200-400 -600 -8001100200300400500 深さ方向距離(m)1000800残留応力(MPa)-400-600 -800 10 1100200300400 深さ方向距離(m)5001000800600900残留応力(MPa)200-400-600-8004005001100200300深さ方向距離(m)未施工部1000 80040× Oy(機械加工面)600400200残留応力(MPa)-200 -400 -600500-800 1 100 200300400深さ方向距離(m) 図8 残留応力測定結果(深さ方向応力分布)3. 実機適用時の作業性検討 - 炉内構造物取替工事は長期の定期事業者検査期 間に実施されるが、プラントの停止期間を最短とす るためには、工事期間を可能な限り短くすることが 望まれる。特に取替工事の付随作業となる原子炉底 部の応力改善工事については、取替工事の工程への 影響を最小限にできる工法が望ましい。そこで炉内構造物取替における応力改善工法と して USP を適用した場合の工事期間の短縮方法に ついて検討を行った。工程を短縮するためには、 1炉内構造物取替作業と同時に USP を実施する 2USP の施工を複数箇所同時に行う という二つの方法が考えられる。USP は、例えば従 来実施されてきた応力改善工法のひとつであるシ ョットピーニングと比較して、エアによるショット の搬送・回収系統等が不要なためシステムがコンパ クトである。これを踏まえ施工手順や機材配置の検 討を行った結果、上記12のいずれの方法も適用可 能であることが確認できた。検討結果の一例を図9 に示す。図に示すような並行作業の実現により、応 力改善工事の期間は従来工法と比較して約2割に削 減することが可能であると考えている。USPIE*構造物取替作業図9 並行作業検討結果 4. おわりに炉内構造物取替工事における USP の適用性検討 を実施した。施工の有効性を検証し、実機相当の形 状に対しても USP が可能であることを確認した。ま た、実機での炉内構造物取替工事期間の短縮の観点 から並行作業の検討を行った結果、応力改善作業期 間の大幅な短縮が実現可能である見込みを得るこ とができた。参考文献 [1] 有限責任中間法人 日本原子力技術協会:JANTI-VIP-03 第2版 予防保全工法ガイド ライン[ピーニング工法] 平成 20年1月 (添 付3 予防保全工法ガイドライン[レーザピ ーニング工法] (解説 4-1) p.3-8)574“ “超音波ショットピーニングの BWR炉内構造物への適用に向けた取組み“ “亀山 育子,Ikuko KAMEYAMA,大坪 徹,Toru OHTSUBO,須藤 和雄,Kazuo SUDO,桝田 祐貴,Yuuki MASUDA,山本 智,Satoshi YAMAMOTO
- 沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWR)にお いては、プラントの経年劣化対策及び長寿命化へ向 けた種々の保全技術が適用されている。炉内構造物 の取替工事は最大規模の保全技術であり、応力腐食 割れ(以下、SCC)の一要因である材料の改善を実 施することが可能である。一方、原子炉圧力容器(以下、RPV)のように取 替が困難な構造物については既存溶接部近傍の SCC 対策として種々の応力改善技術が適用されて いる。超音波ショットピーニング (Ultrasonic Shot Peening 以下、USP)はそのひとつであり、原子炉 底部の溶接部に対して、炉内構造物取替工事と併せ て行うことを検討している。 USP の施工原理を図1 に示す。本報では USP 適用に当たっての残留応力改善確 認試験結果と現地における作業性検討結果につい て紹介する。
2.原子炉底部への USP 適用検討 - 炉内構造物取替工事と同時に実施を計画してい る原子炉底部の溶接部は図2に示すように多様で 複雑な形状となっている。また、対象溶接部の材料 はニッケル基合金及びステンレス鋼の2種類があ る。本項では、実機への USP の適用性を検証すべく 実施した試験項目とその結果について述べる。572原子炉 圧力容器シュラウド サポート狭隘施工部位(例)原子炉底部 溶接線図2 RPV 炉底部 USP 施工対象部2.1 基礎試験による適用性検証 ・ピーニングによる応力改善では、少なくとも ニ ッケル基合金においては 200 μm、ステンレス鋼に おいては 100 um の深さで圧縮残留応力層を形成す ることが求められる[1]。 USP 施工で管理すべき項目 について、実機での施工性(施工ヘッドの設置性、 投射距離等)を考慮した条件にて確認試験を行い、 その効果を検証した。図3、4にはそれぞれ NCF600 及び SUS316L の平板試験片について USP 施工を行 った部位の残留応力測定結果を示す。本結果より USP はいずれの材料に対しても深さ 500 u m 以上の 圧縮応力層が形成されており有効性を確認できた。800| USP施工範囲6000-0x(施工部) |-10y(施工部)400K120200残留応力(MPa)-200-400-600-800 1 0_100700800900200 300 400 500 600表面からの距離(y m) 図3 残留応力測定結果 (NCF600 材 深さ方向応力分布)800| USP 施工範囲6000-0x施工部) 15-0」(施工部)400120残留応力(MPa)-200-400-600-800 1 0_700800900100 200 300 400 500 600表面からの距離(J m) 図4 残留応力測定結果 (SUS316L 材 深さ方向応力分布)8002.2 実機形状模擬試験による適用性検証 * 実機における対象部位は溶接ビードの凹凸や狭 陰部等があり様々な形状となっているが、USP 施工 は図2に示す全ての対象部位について確実に実施 する必要がある。このため、形状や表面の特徴を考 慮した試験片を用いて模擬試験を実施し、各部位に 最適な施工条件を確立する必要がある。施工ヘッド の設置が困難な狭隘部位のうち、図2に示す施工部 位を対象に実機形状を模擬し試験を行った結果を 以降に示す。本試験においては図5に示す実機形状 を模擬した試験片と、形状に合わせて設計した施工 ヘッドを使用して USP の適用性検証を行うと同時 に、実機向けの施工装置設計に必要な施工ヘッドの アクセス性や可動範囲等の条件についても確認を 実施した。本試験で使用した試験設備及び試験装置 を図6に示す。図5 実機形状模擬試験片(NCF600/機械加工試験片)施工試驗裝置詳細炉底部模擬体施工試験装置施工ヘッド試験片 取付け部試驗?象 溶接線位置図6 USP 実機形状模擬試験設備本試験にて対象とした部位は V 字形状になって おり、施工時にはヘッドの位置や角度を形状に合わ せて変更する必要がある。このため、施工条件のう ち施工距離と角度は対象試験片内でも位置により 異なっているが、その他の施工条件、例えばショッ トの材質や数量、超音波の周波数等は実機での作業 性を考慮し同一条件とした。本試験で得られる応力 改善効果は、施工距離と角度の違いにより傾向が異 なると推定されるため、位置ごとの形状特性を反映 した複数の代表点を抽出して測定を行った。測定位 置と測定の結果を図7及び8に示す。573これらの結果から複雑形状においても深さ 200 μm 以上の圧縮残留応力層が形成されていることが確 認でき、応力改善の効果が検証できた。試験片鳥瞰図les per a展開a側)b側-USP施工範囲a側未施工部b側図7 試験片測定位置1000 800今0x◆0y残留応力(MPa)-200-400 -600 -8001100200300400500 深さ方向距離(m)1000800残留応力(MPa)-400-600 -800 10 1100200300400 深さ方向距離(m)5001000800600900残留応力(MPa)200-400-600-8004005001100200300深さ方向距離(m)未施工部1000 80040× Oy(機械加工面)600400200残留応力(MPa)-200 -400 -600500-800 1 100 200300400深さ方向距離(m) 図8 残留応力測定結果(深さ方向応力分布)3. 実機適用時の作業性検討 - 炉内構造物取替工事は長期の定期事業者検査期 間に実施されるが、プラントの停止期間を最短とす るためには、工事期間を可能な限り短くすることが 望まれる。特に取替工事の付随作業となる原子炉底 部の応力改善工事については、取替工事の工程への 影響を最小限にできる工法が望ましい。そこで炉内構造物取替における応力改善工法と して USP を適用した場合の工事期間の短縮方法に ついて検討を行った。工程を短縮するためには、 1炉内構造物取替作業と同時に USP を実施する 2USP の施工を複数箇所同時に行う という二つの方法が考えられる。USP は、例えば従 来実施されてきた応力改善工法のひとつであるシ ョットピーニングと比較して、エアによるショット の搬送・回収系統等が不要なためシステムがコンパ クトである。これを踏まえ施工手順や機材配置の検 討を行った結果、上記12のいずれの方法も適用可 能であることが確認できた。検討結果の一例を図9 に示す。図に示すような並行作業の実現により、応 力改善工事の期間は従来工法と比較して約2割に削 減することが可能であると考えている。USPIE*構造物取替作業図9 並行作業検討結果 4. おわりに炉内構造物取替工事における USP の適用性検討 を実施した。施工の有効性を検証し、実機相当の形 状に対しても USP が可能であることを確認した。ま た、実機での炉内構造物取替工事期間の短縮の観点 から並行作業の検討を行った結果、応力改善作業期 間の大幅な短縮が実現可能である見込みを得るこ とができた。参考文献 [1] 有限責任中間法人 日本原子力技術協会:JANTI-VIP-03 第2版 予防保全工法ガイド ライン[ピーニング工法] 平成 20年1月 (添 付3 予防保全工法ガイドライン[レーザピ ーニング工法] (解説 4-1) p.3-8)574“ “超音波ショットピーニングの BWR炉内構造物への適用に向けた取組み“ “亀山 育子,Ikuko KAMEYAMA,大坪 徹,Toru OHTSUBO,須藤 和雄,Kazuo SUDO,桝田 祐貴,Yuuki MASUDA,山本 智,Satoshi YAMAMOTO