基礎ボルトの減肉検査技術開発

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カテゴリ: 第7回
1.緒言
そこで本研究では,模擬減肉部を有する基礎ボルト試験体を製作し,超音波による減肉部の検出性試 原子力発電所ではタンクやポンプ等の機器・構造 験ならびに最大減肉深さの特定試験を実施したので 物をコンクリート基礎に固定するために基礎ボルト報告する。 を用いている。この基礎ボルトは地震時の負荷荷重2. 試験と結果に耐えることができるよう,建設時に耐震計算を行 った上で仕様が決定されている。さらに,運転開始 2.1 現場調査 後に健全性を確認する必要が生じた場合には,打音基礎ボルトの現場設置状況を確認するため,浜岡 検査等を実施し,運転を継続してきているのが現状、原子力発電所1号機の屋内タンクの基礎ボルトを対 である。象に現場調査を行った(図1参照)。その結果,当 近年,地震後に基礎ボルトの健全性が損なわれて 該タンクの基礎ボルトの径は M24~36 で,ボルト いないことを確認する目的で基礎ボルトの検査手法 露出部(頭)が短いものが含まれること,およびボ の技術開発が行われてきている[1]。そこでは,疲 ルト周辺には検査スペースの制約があること等が分 労き裂のような比較的シャープな形状の欠陥に対すかった。 る超音波検査方法の開発が試みられている。一方, 原子力発電所の 30 年を超える高経年化に際しては、 基礎ボルトの埋設部分の減肉が想定される。基礎ボ ルトの健全性を確認するためには,減肉の有無を非 破壊で確認でき,かつ,減肉検出時に耐震性に影響 を及ぼさないことを評価できるように,減肉深さを 精度よく把握できる技術を開発しておくことが望ま しい。
2.2 測定装置および試験体の製作現場調査の結果を受けて基礎ボルトの減肉部測定 に適する手法を文献[2]を参考に探索し,超音波探 傷試験の中でフェーズドアレイ法(PA-UT)を選定 した。同文献の手法は超音波探触子をボルト頭部に 置き,探触子を回転させて取得した画像から減肉状 況が把握できる。本研究においても探触子は同文献 を参考に周波数 5MHz, エレメント数 32 を主に使 用することとした。また,探触子はエレメントパタ ーンが 1D リニアであったため,ボルトの周方向の 情報を取得するにはボルト頭部上で回転させ,現在 位置(回転角度)を正確に把握する必要があるため, エンコーダーの付きの回転治具を製作した。また, 回転治具は異なる基礎ボルト径(M24~36)に対応 できるように工夫した。さらに回転治具は,現場に 少数ではあるが存在する頭部の露出が少ないボルト にも対応できるよう設計した。図2(左)に測定装 置の外観写真を示す。 * 測定装置を設計・製作した後,フェーズドアレイ 法の測定性能を確認するため,減肉部を有する基礎 ボルト試験体を製作した。試験体の製作にあたって は,まず M24~36 の炭素鋼製棒鋼を用意し,これ に実機模擬のために頭部から 110~130mm 長さのネ ジ部を付与した。さらに減肉部模擬のために,表面 積で約 20×20mm, 深さ約 4~10mm の模擬減肉をグ ラインダで付与した。ここで,模擬減肉の深さは、 減肉の初期段階を想定して決定した。実際の減肉状 況を想像すると, グラインダ加工のみでは加工した 表面が過度に平滑である可能性があるため,グライ ンダ加工後にさらに表面凹凸付与のためのサンドブ ラスト処理を行った。図2(右)に試験体の外観写 真を示す。図2 測定治具(左上部)と試験体(右)2.3 超音波測定試験作製した測定装置ならびに減肉模擬試験体を用い, フェーズドアレイ超音波法の適用性を評価した。なお,試験前には最適な測定条件の探索を行った。 (1) 減肉の検出性 局部減肉を付与した M30 ボルト試験体にフェー ズドアレイ法を適用した結果の一例を図3に示す。 なお,グラインダ加工のみ付与した試験体に対し, ブラスト処理した試験体の方がより明瞭に減肉部が 観測できたため、以下はブラスト処理した試験体の 測定結果である。図3左はセクタースキャン,右は Bスキャンである。左右の画像を見ると,ボルト頭 部から内部へ発信された超音波は,ネジ部の凸凹形 状をよく捉えていることが分かる。模擬減肉部はネ ジ部の凹凸が無いことから,凹凸からのエコーが消 失しており,その消失状況から周方向の減肉形状を よく捉えることができている。 - 図中には減肉部の存在を示す,「遅れエコー」が 現れている。これは,減肉部から反射された超音波 が直接探触子に戻る経路とは異なる経路をたどって 探触子に戻ったエコーである。この遅れエコーは減 肉部から反射されているため、探触子の回転により 出現・消失し,減肉の有無や周方向分布を判断する 際に便利である。ボルト頭部コット局部演時Hana20減肉長さネジの終端位置。遅れエコー フォーカス位置|Bスキャン:横軸は回転角度を示すLSスキャン図3測定画像(例)(2)減肉深さの定量性図3左図の詳細観察から減肉深さを推定すること も可能であるものの,より合理的な推定方法を確立 するため、まず遅れエコーの発生機構の評価を目的 に有限要素法による超音波伝搬解析を実施した。解 析の結果,遅れエコーは図4に示すような伝搬経路 を経て受信されることが分かった。すなわち,入射59探触子L記号種類 縱波 MS |横波モード変換波 RS 「横波反射波 ML 縦波モード変換波減肉↑ネジ部 | ボルト試験体図4 遅れエコー発生機構波である縦波が,まず減肉部で横波にモード変換さ れ,反対側の側面で反射された後,減肉部で再び縦 波にモード変換するため遅れエコーとして観測され ることが分かった。図4から推測できるように,遅れエコーの強度 (ML波の強度)は超音波の入射角度により変化す る。ML波強度が最大となるのは,RS波が最も探 触子に帰り易い幾何学的伝搬条件である。入射角度 を変化させてゆくと,RS波は最大減肉部近傍では 約半分が散逸すると予想される。すなわち,遅れエ コー強度の最大値が半分になる入射角度から最大の 減肉深さが推定できる。模擬減肉を有する M30.36 ボルト試験体を用い,本手法の減肉深さ推定精度を 確認した結果を図5に示す。最大誤差 1.84mm およ び平均2 乗誤差 1.06mm で減肉深さを推定できるこ とが分かった。
・直径30mm ○ 直径36mm
減肉深さの推定値(mm) 48 12
最大誤差=1.84 mm 平均2乗誤差=1.06mm-・48 11216実際の減肉深さ(mm) 図5滅肉深さ測定結果2.3 実機測定試験以上のとおり本研究で開発した手法を用い,浜岡 原子力発電所1号機の屋内タンクを対象に実機測定 試験を行った。その結果,測定した全ての基礎ボル トで遅れエコーは確認されず,減肉が起きていない ことが分かった。3.結論現場調査,減肉部を人工的に付与した基礎ボルト 試験体によるフェーズドアレイ超音波測定試験およ び実機測定試験を行い,以下の結果を得た。 1) 探触子をボルト頭部で回転させる治具を用いた フェーズドアレイ法により減肉の位置や形状の把握が可能である。 2) 遅れエコーの有無の確認により,減肉の有無が判断できる。 3) 超音波入射角度と遅れエコー強度の関係から, 最大減肉深さが推定できる。4. まとめフェーズドアレイ超音波探傷手法の基礎ボルト減 肉事象への適用性について,現場調査,模擬減肉ボ ルト試験体製作および測定試験により評価し,一定 の検出性ならびに測定精度を有する測定手法を開発 した。また,発電所での測定により実機基礎ボルト の健全性も確認できた。参考文献[1] 小平小治郎他,“柏崎刈羽原子力発電所における中越沖地震後の原子力機器の健全性評価-基 礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発-”, 日本非破壊検査協会平成20年度秋季大会講演概要集 Vol.2008, pp.33-36, (2008) [2] 城下 悟,永井辰之,“超音波探傷試験による基礎ボルトの腐食検査に関する検討”,日本非 破壊検査協会平成20年度春季大会講演概要集 Vol.2008, pp.163-164, (2008)160“ “基礎ボルトの減肉検査技術開発“ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,伊藤 圭介,Keisuke ITOU,山本 千秋,Chiaki YAMAMOTO,加古 晃弘,Akihiro KAKO,藤尾 武成,Takenari FUJIO,林 山,Shan LIN,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI
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