オリフィス下流における流れ加速腐食機構に関する実験的研究
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カテゴリ: 第7回
1.緒言
試験部には流れ方向に入り口か 2004年に発生した美浜3号機2次系配管破断事故 において破断の主たる原因とされている流れ加速腐 食(FAC)は、配管内に設置されたオリフィス下流部な どで発生した偏流部が腐食現象を加速させるという 現象である。現在、原子炉配管の安全管理手法の向 上を目的として FACのモデル化の研究が進められて いる。しかし、流れ加速腐食(FAC)には流体力学、水 化学、材料科学など様々な因子が絡み合っており、 現象の理解は非常に複雑なものである。今後、原子炉 の高効率化を目的とした高温高圧プラントの設計が 見込まれるため、配管の安全管理は従来以上に重要 になると考えられる。FAC に関して流体力学の分野 では、配管壁面からのイオンの輸送、すなわち物質 伝達率の測定が非常に重要と考えられている。特に 壁面に生じた粗面形状が物質伝達に与える影響につ いてはほとんど知見が得られていない。本研究では 直管と粗い形状をもつ壁面での物質伝達の測定を行 った。 2. 物質伝達率の測定実験 物質伝達の測定には電気化学法を用いた。この手法 を用いることで物質伝達を直接測定することができ る。配管内に電解液を循環させ、流れを十分に発達 させた後、試験部を通過させた。試験装置を以下の 図1に示す。配管流路は管内径 D=44mm の塩ビ製で 各接続部は段差が生じないような工夫を施してある。 試験部には流れ方向に入り口から x/D=3 の位置まで に作用極を設置する。その電極に電圧をかけ電極表 面で電解液の酸化還元反応をおこす(x は流れ方向の 距離)。本実験では作動流体に拡散係数が鉄イオンに 近く安定な錯イオンであるフェリシアン化カリウム を用い、作用極に負の電圧を与え、鉄(II)イオンから 鉄(II)イオンへの還元反応をおこした。その際電極に 流れる電流(限界電流)の測定を行った。電流測定の際、 電極が常に一定のポテンシャルをたもつようポテン ショスタットを用いて電圧を制御した。作用極の還 元反応と対を成す酸化反応は試験部下流に設置した 対極にて生じる。反応が生じている電極の電位を正 確に測定するため、塩橋をもちいて電位の基準とな る参照極を水路と電通する位置に設置してある。作 用極上で反応するイオンの量は一定以上の電圧を加 えると拡散によって律則されるようになる。この電 流iはj=An FN であらわされる(Aは電極表面積、 nは酸化還元を行うイオンの価数、F はファラデー 定数、N は質量流速である)。また、壁面からの物質 伝達率 k は k=N-(Co-C;)と近似的に表される(C)はバ ルク濃度、C;は壁面での濃度)。よって限界電流を測 定することで物質伝達率を測定することが可能とな る。また試験部壁面には波長 16mm、振幅 0.8mm の 正弦波の粗面形状を作成し、正弦波の山、谷、両中 腹に直径 1mm 金製の電極を設置し、物質伝達率の測 定を行った(以降では、各電極をそれぞれ [top],[down],[up],[bottom)と呼ぶこととする、下図 3 参照)。
図 3.正弦波をもつ壁面上の電極名称3.実験結果限界電流平均値の空間分布を図4に示す。横軸は 主流方向への距離を管直径で無次元化したものであ り、Re 数は 25000、55000 である。直管形状の場合、 流れ方向に一様な空間分布を持つのに対し、粗面形 状の場合、粗面形状の影響を受けて空間的なかたよ りを持つ。また、物質伝達が最大となる位置は谷と 山の中腹[up]の位置であることがわかった。これは 粗面をもつ壁面が流動場に影響を及ぼしたため、物 質伝達率にも空間的な分布が生じたものと考えられ る。また、図5に各位置の電極における物質伝達率 と Re 数の関係を示す。各箇所によって物質伝達率は Re 数に対して異なるべき乗則を持つことがわかる。 各位置でのべき指数は [down] : 1.03,[bottom] : 0.44,[up] : 0.55, [top]: 0.51 となった。このことから 壁面形状の影響は物質伝達のべき指数に影響を与え る、すなわち[up]と[top]の位置における減肉が大きく なることがわかる。これは 2500~4500 の Re 数におい ては「down]の位置で、5500 以上の Re 数では「bottom] の位置で減肉が最も進むと予測される。発表では実 験の詳細、他にとり行った物質伝達率の測定結果に 関して発表をする。o Re=5500(Rough) e Re-5500(Flat) 0 Re=2500(Rough) a Re-2500(Flat)「x101 | TTTT TTTTT 11.1k[m/s]0. 60.811. 21 .41.6x/D図 4. 粗面形状上における物質伝達率の空間分布10.05k [m/s]4.0-1? [bottom][down][top] A [up][×10°」k [m/s]2.0120340 5.0 6.0 7.0Re[x104] 図 5. 各位置における物質伝達率の Re 数依存性4.結言 ・物質伝達率は直管の場合、流れ方向に一様な空間 分布を持つのに対し、粗面形状の場合は粗面形状の 影響を受けて空間的なかたよりを示す。 ・粗面形状をもつ壁面において、物質伝達が最大とな る位置は谷と山の中腹で流れ方向に上昇する位置、 すなわち[up]の位置である。 壁面形状による流れ場の影響は 2500~4500のRe数に おいては「down]の位置で、5500 以上の Re 数では 「bottom]の位置で減肉が最も進むと予測される。「謝辞謝辞:本研究は、原子力安全・保安院の高経 年化対策強化基盤整備事業からの援助を受け、 INSS からの受諾研究として実施しました。5844method in幾「2次系 について 参考文献 [1] T. Mizushina, The electrochemical method intransport phenomena. (1971) [2] 関西電力株式会社,美浜発電所3号機「2次系配管破断事故」発生原因の調査について(2004) [3] 米田公俊,森田良,流れ加速型腐食に対する 影響因子の定量的な評価(その1)-流体力学因子 と減肉率との相関(平成 22年6月11日)- 585 -“ “オリフィス下流における流れ加速腐食機構に関する実験的研究“ “小城 烈,Retsu KOJO,黒田 祐志,Yuji KURODA,近藤 昌也,Masaya KONDO,辻 義之,Yoshiyuki TSUJI
試験部には流れ方向に入り口か 2004年に発生した美浜3号機2次系配管破断事故 において破断の主たる原因とされている流れ加速腐 食(FAC)は、配管内に設置されたオリフィス下流部な どで発生した偏流部が腐食現象を加速させるという 現象である。現在、原子炉配管の安全管理手法の向 上を目的として FACのモデル化の研究が進められて いる。しかし、流れ加速腐食(FAC)には流体力学、水 化学、材料科学など様々な因子が絡み合っており、 現象の理解は非常に複雑なものである。今後、原子炉 の高効率化を目的とした高温高圧プラントの設計が 見込まれるため、配管の安全管理は従来以上に重要 になると考えられる。FAC に関して流体力学の分野 では、配管壁面からのイオンの輸送、すなわち物質 伝達率の測定が非常に重要と考えられている。特に 壁面に生じた粗面形状が物質伝達に与える影響につ いてはほとんど知見が得られていない。本研究では 直管と粗い形状をもつ壁面での物質伝達の測定を行 った。 2. 物質伝達率の測定実験 物質伝達の測定には電気化学法を用いた。この手法 を用いることで物質伝達を直接測定することができ る。配管内に電解液を循環させ、流れを十分に発達 させた後、試験部を通過させた。試験装置を以下の 図1に示す。配管流路は管内径 D=44mm の塩ビ製で 各接続部は段差が生じないような工夫を施してある。 試験部には流れ方向に入り口から x/D=3 の位置まで に作用極を設置する。その電極に電圧をかけ電極表 面で電解液の酸化還元反応をおこす(x は流れ方向の 距離)。本実験では作動流体に拡散係数が鉄イオンに 近く安定な錯イオンであるフェリシアン化カリウム を用い、作用極に負の電圧を与え、鉄(II)イオンから 鉄(II)イオンへの還元反応をおこした。その際電極に 流れる電流(限界電流)の測定を行った。電流測定の際、 電極が常に一定のポテンシャルをたもつようポテン ショスタットを用いて電圧を制御した。作用極の還 元反応と対を成す酸化反応は試験部下流に設置した 対極にて生じる。反応が生じている電極の電位を正 確に測定するため、塩橋をもちいて電位の基準とな る参照極を水路と電通する位置に設置してある。作 用極上で反応するイオンの量は一定以上の電圧を加 えると拡散によって律則されるようになる。この電 流iはj=An FN であらわされる(Aは電極表面積、 nは酸化還元を行うイオンの価数、F はファラデー 定数、N は質量流速である)。また、壁面からの物質 伝達率 k は k=N-(Co-C;)と近似的に表される(C)はバ ルク濃度、C;は壁面での濃度)。よって限界電流を測 定することで物質伝達率を測定することが可能とな る。また試験部壁面には波長 16mm、振幅 0.8mm の 正弦波の粗面形状を作成し、正弦波の山、谷、両中 腹に直径 1mm 金製の電極を設置し、物質伝達率の測 定を行った(以降では、各電極をそれぞれ [top],[down],[up],[bottom)と呼ぶこととする、下図 3 参照)。
図 3.正弦波をもつ壁面上の電極名称3.実験結果限界電流平均値の空間分布を図4に示す。横軸は 主流方向への距離を管直径で無次元化したものであ り、Re 数は 25000、55000 である。直管形状の場合、 流れ方向に一様な空間分布を持つのに対し、粗面形 状の場合、粗面形状の影響を受けて空間的なかたよ りを持つ。また、物質伝達が最大となる位置は谷と 山の中腹[up]の位置であることがわかった。これは 粗面をもつ壁面が流動場に影響を及ぼしたため、物 質伝達率にも空間的な分布が生じたものと考えられ る。また、図5に各位置の電極における物質伝達率 と Re 数の関係を示す。各箇所によって物質伝達率は Re 数に対して異なるべき乗則を持つことがわかる。 各位置でのべき指数は [down] : 1.03,[bottom] : 0.44,[up] : 0.55, [top]: 0.51 となった。このことから 壁面形状の影響は物質伝達のべき指数に影響を与え る、すなわち[up]と[top]の位置における減肉が大きく なることがわかる。これは 2500~4500 の Re 数におい ては「down]の位置で、5500 以上の Re 数では「bottom] の位置で減肉が最も進むと予測される。発表では実 験の詳細、他にとり行った物質伝達率の測定結果に 関して発表をする。o Re=5500(Rough) e Re-5500(Flat) 0 Re=2500(Rough) a Re-2500(Flat)「x101 | TTTT TTTTT 11.1k[m/s]0. 60.811. 21 .41.6x/D図 4. 粗面形状上における物質伝達率の空間分布10.05k [m/s]4.0-1? [bottom][down][top] A [up][×10°」k [m/s]2.0120340 5.0 6.0 7.0Re[x104] 図 5. 各位置における物質伝達率の Re 数依存性4.結言 ・物質伝達率は直管の場合、流れ方向に一様な空間 分布を持つのに対し、粗面形状の場合は粗面形状の 影響を受けて空間的なかたよりを示す。 ・粗面形状をもつ壁面において、物質伝達が最大とな る位置は谷と山の中腹で流れ方向に上昇する位置、 すなわち[up]の位置である。 壁面形状による流れ場の影響は 2500~4500のRe数に おいては「down]の位置で、5500 以上の Re 数では 「bottom]の位置で減肉が最も進むと予測される。「謝辞謝辞:本研究は、原子力安全・保安院の高経 年化対策強化基盤整備事業からの援助を受け、 INSS からの受諾研究として実施しました。5844method in幾「2次系 について 参考文献 [1] T. Mizushina, The electrochemical method intransport phenomena. (1971) [2] 関西電力株式会社,美浜発電所3号機「2次系配管破断事故」発生原因の調査について(2004) [3] 米田公俊,森田良,流れ加速型腐食に対する 影響因子の定量的な評価(その1)-流体力学因子 と減肉率との相関(平成 22年6月11日)- 585 -“ “オリフィス下流における流れ加速腐食機構に関する実験的研究“ “小城 烈,Retsu KOJO,黒田 祐志,Yuji KURODA,近藤 昌也,Masaya KONDO,辻 義之,Yoshiyuki TSUJI