定電位エッチングを用いたオーステナイト系ステンレス鋼の塑性予ひずみ検出手法

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
- 機械部品や構造物の健全性を保証するため、感度良 く塑性予ひずみを検出・定量化する手法が求められて いる。中越沖地震後の原子力発電所機器の健全性確認 において、塑性予ひずみ検出手法の候補として、音速 比法、磁歪法、バルクハウゼンノイズ法、表面金相法、 エッチング法、硬さ測定法、マルテンサイト検出法を 検討し、硬さ測定法を採用している(1)、しかしながら、 よりヒート依存性が小さく、より感度の高い方法の開 発が望まれている。 1. 初期損傷を含めた広い範囲で金属の材質劣化評価が 出来る手法として、アノード分極あるいは電気化学工 ッチングを利用した電気化学的な手法が提案されてい る(2)-(5)。電気化学的手法は測定原理が明確で、材質劣 化の直接的原因となる組織変化(粒界偏析、炭化物・ 金属間化合物の析出・粗大化、転位の増殖など)を選 択的溶解性の変化として検出するものである。本研究では塑性予ひずみの検出手法として定電位エ ッチング法を適用し、その検出原理を解明した。
2. 研究内容2.1 実験方法 - 供試材にはオーステナイト系低炭素ステンレス鋼 SUS316L および SUS316NG を用いた。化学組成を Tablel に示す。供試材は溶体化処理後、平板試験片に 加工した。溶体化条件は、それぞれ 1150°C/30min (SUS316L)、1050°C/60min (SUS316NG)である。Table 1 Chemical compositions of stainless steels (wt%) Alloy C Si Mn P S Ni Cr Mo Fe SUS316L 0.012 0.67 1.19 0.027 0.001 11.93 17.25 2.04 Bal. SUS316NG 0016 0.51 1.36 0.025 0.001 11.30 17.51 2.05 Bal.単軸引張りにより試験片に塑性予ひずみを付与した。 付与した予ひずみはそれぞれ SUS316L:真ひずみで 1, 3, 11, 18.5, 26%(公称ひずみ:1, 3, 12, 21, 30%)、 SUS316NG:真ひずみで 1, 3, 8.5, 15, 25.5% (公称ひず み : 1, 3, 9, 16, 29%)である。初期ひずみ速度は 0.1%/s である。その後、溶体化材と塑性予ひずみ付与材を定 電位エッチング用の試験片に加工し、試験溶液:1N594HNO,,電位:-600mVsce,エッチング時間:20min, 温度:35°C、 の条件で定電位エッチングを施した。参照電極には飽 和カロメル電極を用い、電位は SCE 基準で表す。 エッ チング後、金属顕微鏡を用いて表面の観察を行い、単 位面積当たりに現出したエッチング痕の計測を行った。 また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてエッチング痕 断面の組織観察と結晶方位解析を行った。2.2 実験結果 - 定電位エッチングを施した材料の組織写真を Fig.1 に示す。塑性予ひずみを加えた試験片には、結晶粒内 に無数の線状のエッチング痕が確認された。また、溶 体化材にはこのようなエッチング痕はほとんど確認さ れなかった。50um(a) 18.5% Plastic strain50um(b) As solution treated (No plastic strain) Fig. 1 Optical micrographs after potentiostatic etching(SUS316L)2.2.1 予ひずみとエッチング痕密度の関係単位面積当たりのエッチング痕密度と塑性予ひずみ の関係を Fig.2 に示す。ひずみとエッチング痕密度の間 には明確な一対一の相関性が認められた。 - 予ひずみを与えていない溶体化材においてもわずか にエッチング痕が確認された。これは試料作成時の切 断や表面研磨などの影響が現れている可能性が考えら れる。しかしながら、予ひずみ 1%との間には明確な相 違が確認されたため、少なくとも1%の塑性予ひずみを 明確に検出する感度を有していることが示された。|| ■ SUS316L]
Fig.2 Number of etched linear grooves per unit area versusplastic strain of the specimens2.2.2. 検出原理の解明 - 定電位エッチング後の試験片表面を Fig.3 に示す。結 晶粒内に線状のエッチング痕が確認された。Fig.3 中に 示す四角部分を深さ方向に切り出し TEM 観察を行っ た。 Fig.4 にエッチング痕断面の TEM 写真と電子回折 像を示す。 TEM 像中央部のエッチング痕から右下方向 に母材とは様相の異なる帯状の部位が確認された。 Fig.4 の TEM 像中の○および口の位置で得られた電子 線回折像を示す。母材部(○印)は[-110]晶帯軸を向いた FCC 構造の結晶であった。また、帯部(口印)では大き なスポットと小さなスポットの2種類が確認された。 母材部の回折像と比較すると、大きなスポットが母材 に対応し、小さなスポットが帯部に対応していると考 えられる。帯部のスポットは母材部のスポットに対し、 (111)面(点線)で鏡面対称となっている。これより、帯 部が変形双晶であることが判明した。つまり、変形双 晶を起点としてエッチング痕が形成されたことがわか った。結晶方位の異なる変形双晶が溶解速度の方位依 存性により優先溶解することによりこの現象が起こる と考えられる。1901/08/17Etching groovesTEM Observation2015.94 15:00:15 720mm)Fig.3 SEM micrograph after potentiostatic etching (16% uniaxial strain in SUS316NG)IU1U Unaral Juant I WOWIN)参考文献[1]. 日本原子力技術協会、平成 21 年4月、平成 20年度中間報告 [2]. Yutaka Watanabe, Tetsuo Shoji, MetallurgicalTransactions A, Vol. 22A, (1991), pp.2097-2106 [31. 庄子哲雄、河守裕二、渡辺豊、深倉寿一、材料、41-469(1992)、pp.1558-1564 [4]. Tetsuo Shoji, Yuji Kawamori, and Yutaka Watanabe:、Proceedings of the 6th International Symposium on Environmental Degradation of Materials in NuclearPower Systems Water Reactors(1993) pp.433-441 [5]. 駒崎慎一、渡辺豊、庄子哲雄、日本機械学会論文集(A編)、63-611(1997)、pp.1481-1488500nmB-3D-110100-21900/01/01FCCFig.4TEM micrograph of etched groove in cross sectionand electron diffraction images3.結言硝酸を用いた定電位エッチングにより、オーステナ イト系ステンレス鋼に導入された変形双晶が溝状のエ ッチング痕として現出することが明らかとなった。こ のことから定電位エッチングによる塑性予ひずみ検出 手法の原理がより明確となった。塑性予ひずみと双晶 エッチング痕密度の間には一対一の相関性が認められ 少なくとも1%の塑性予ひずみに対し検出感度を有す ることを示し、定電位エッチング手法による塑性予ひ ずみ検出の基盤を確認した。 ッチング痕密度の間には一対一の相関性が認められ、 謝辞1. 本研究の一部は、東京電力(株)、北海道電力(株)、東北 電力(株)、中部電力(株)、北陸電力(株)、関西電力(株)、中国 電力(株)、四国電力(株)、九州電力(株)、日本原子力発電(株)、 電源開発(株)からの受託研究として(社)日本溶接協会 原子力研究委員会 LCF 小委員会で行われた成果であ る。ここに記して感謝の意を表します。 Proceedings of the 6th International Symposium on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems Water Reactors(1993) pp.433-441 駒崎慎一、渡辺豊、庄子哲雄、日本機械学会論文 - 596 -“ “定電位エッチングを用いたオーステナイト系ステンレス鋼の塑性予ひずみ検出手法“ “帆加利 翔太,Shota HOKARI,鈴木 明好,Akiyoshi SUZUKI,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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