破壊靭性値の板厚効果のT33-stressによる表現; 試験片構造の差異
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
き裂前縁上の点 A の面外(sy 軸方向)拘束について検 ・ き裂先端の応力状態については,応力拡大係数 K 討が行なわれ, 面外拘束係数 T, = 033/(01+Ozz) (Oi, i = 値やJ積分のような単一のパラメータのみで表現す。 1~3, は x, 軸方向の主応力)が提唱されているがこの るには限界があるということが,古くから知られてT,が材料強度に及ぼす影響が実験により明示されて いる[1], [2]. このような課題を克服するべく,き裂 いるわけではない. 先端の応力,ひずみ状態を2種類のパラメータを用 いて表現する試み(2 パラメータ法)が,過去 30 年間 にわたって行われてきた.そして,この2パラメー タ法における2番目のパラメータとして, T-stress と
of the crack 呼ばれる Williams 級数展開[3]における第2項が有力 な候補の一つとして検討されてきた. Larsson と Carlsson[2]や Rice[4]は平面ひずみ状態の塑性域寸法 や形状が,たとえ K値が同じであっても T-stress の 符号や絶対値の違いにより変わりうることを示した. また,Bilby[S]らは T-stress がき裂先端近傍弾塑性応 力場の静水圧成分に大きな影響を及ぼすことを示し た具体的には,T>0のとき,き裂先端の応力三軸 度が増加する結果き裂先端の拘束が強まり,T<0 のときは逆にき裂先端の拘束が弱くなるというもの であった.Fig. 1 Three dimensional stress field in the crack tip * この T-stress は弾性パラメータであるが,その後 Al-Ani 5 [6], Betegon[7], Du 5[8], O'Dowd[9] 563 一方,著者らは面外応力成分の非特異項 T33-stress より, J と T-stress により平面ひずみ状態下の弾塑性 (以下,前出の面内 T-stress を Tu と称し, T1, T33 を 応力問題を実用的な精度で扱いうることが示されて まとめて T-stress と呼ぶことにする)に着目し,CT 試 いる.たとえば,破壊靭性試験片のき裂深さが遷移 験片の公称 K 値(ASTM E399[14]の計算式による二 温度域における破壊靭性値 Jに及ぼす影響を 次元 K値)と板幅 W を一定とし,板厚比 B/W を変化 T-stress を用いて表す試みが行われている[10]. 近年 させた場合の板厚中央における T33 の変化について では Guo ら[11]~[13]により, Fig. 1 に示すような 検討した[15]. その結果,B/W = 0.25~0.5 の範囲でT33(<0)B/W の関係が得られた.また同様にして公 田中 智大,〒910-8507 福井県福井市文京3丁目9-1, 称最大 K値 Kmax と W を一定とし,CT 試験片の B/W 福井大学大学院, (0776)27-9764, in090153@u-fukui.ac.jp = 0.25~0.5 と変化させた弾塑性解析を S55Cに対し行 飯井俊行,〒910-8507 福井県福井市文京3丁目9-1. なった結果,最大のJ積分値 JC FEAについてはJc FEA 福井大学大学院, (0776)27-8468, meshii@u-fukui.ac.jp““ x(B/W)-1/2, そして結局 JEFEA CIT sl1/2 という結果がTomohiro TANAKA Toshiyuki MESHIIMember Member
得られた.そして S55C, W = 25 mm の CT 試験片に 対し,常温(遷移温度域)にて破壊靭性試験を B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させて行なったところ, B/W によ らず,破壊時の最大 K 値 K。がほぼ一定という結果 と同時に解析結果と同様に破壊靭性値 J. CB-112) xlTasl2 との結果が得られた.この JC CB-1)という結果については,最弱リン クモデル[16]から予測される関係ではあるが,最弱 リンクモデルでは i) B/W → で Je→0 と予測される [16], ii) 寸法がパラメータなので,Jの試験片構造 (たとえば,CT, 3 点曲げ)による差異については当 然のことながら表しえないという限界があるという 課題がある.そこで,本研究では ii)の課題を解決するべく3点 曲げ試験片に対し,先の CT 試験片[15]同様, (1)W と公称K値を一定としB/W を変化させた弾性有限要 素解析(FEA), (2)W と Kimasを一定とし B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させた弾塑性 FEA, (3)S55C, W = 25 mm の破壊靭性試験を常温にて行なうことにした.2. T-stressモード I型荷重を受ける,き裂を有する等方弾性 体中き裂先端における応力分布を級数展開すると, 各応力成分が次式のように表されることが知られて いる[17]. ただし,ここではき裂前縁上の評価を行 うA点を原点とし,その点に対する接線を x3軸,33 軸に直交する平面上,原点を含みき裂深さ方向をx、 軸,これに直交する方向を x2 軸としている(Fig. 1).
この T , は3次元き裂では,Eをヤング率,vをポ アッソン比として,式(2)のような関係があることが 知られている[17].
3. FEA 3.1 弾性解析 - 実験による確認も行なうことを念頭に置き, ASTM E399[14]に準拠した Fig. 2 のような試験片に 対する弾性 FEA を行った.板幅 W についてはすべ ての場合に 25 mm とし,板厚 B については ASTM 標準の B/W = 0.5 以外に, B/W = 0.25, 0.4 の合計3種 類の試験片形状(サイドグルーブ付き;正味板厚 By = 0.8 B)を検討した.き裂長さ a についてはすべての
Eをヤング率,vをポ うな関係があることが+ VT(2) 試験片について, ASTM 標準通り, a/W = 0.5 とした. - 解析には 20節点六面体のメッシュを使用し,対称 性を考慮し 1/4 領域の解析を行った(Fig. 3(a)). き 裂先端には特異要素を使用し,その寸法A/ はAlla = 0.001 とし,き裂先端のスパイダウェブの半径を 20A/ とした(Fig. 3(b)). 材料定数については, E = 206 GPa, V=0.3 とした.
Detail of A(2:1) Fig. 2 3PB test specimen configuration
(a) Global meshaへ(b) Detail of crack tip(c) Detail of crack tip for elastic analysisfor elastic-plastic analysis Fig. 3 Finite element model of 3PB test specimen
* 荷重については,B/W によらず,ASTM E399[14] に与えられている次式により求まる公称(二次元)K 値 Ko = 1 MPa m2 となるよう定めた. Ko = 1 MPa m2 となるよう定めた.
あり,具体的には B/W = 0.5, 0.4, 0.25 に対応し,P 3.17, 0.14, 0.09 kN とした. K 値については FEA 結果をもとに領域積分法, i-stress については Nakamura らが提案している領
#ハンド1. T止位ハロー、ALュエ11711-Lーーーー 199-(91-9) 215-399% + 2 (9)] (45)であり,具体的には B/W = 0.5, 0.4, 0.25 に対応し,P = 0.17, 0.14, 0.09 kN とした.K値については FEA 結果をもとに領域積分法, Tin-stress については Nakamura らが提案している領 域積分法と干渉積分法を組み合わせた手法[17]によ り評価した.Fig. 4 に板厚中央における無次元 K, TI, T33(それ ぞれ KIKO, B, B,3)の B/W による変化を示す.Fig.4 より,三次元解析結果であっても, KIKO, B. につい ては,面内パラメータであり当然予想されたように B/W の影響をほとんど受けていないことが読み取れ る.一方,B,3は B/W の増加に対応し有意な変化を示 しており,板厚の増加に対応してき裂先端の面外拘 束が増加していく様子が読み取れた. そこで,破壊 靭性値に対する板厚効果を表現する力学パラメータ としてこの T33-stress を使用することを念頭に置き, 新たに B/W = 0.6, 0.8, 1.0 についても解析を行い,板 厚中央のB33の絶対値と B/W の関係を両対数表示し, Fig. 5 に示した. Fig.5 を見ると, B/W = 0.5(標準) よりも板厚が薄くなるとB.3 が直線的に大きくなり (負の値で絶対値は増加), 概略 18,31 x B'-'のよう な関係が読み取れ,逆に厚くなると B/W がある値以 上で一定値(零)に収束していきそうであるという 傾向が読み取れた.これは,板厚が小さくなると破 壊靭性値が大きくなり,一方ある一定値以上の板厚 で破壊靭性値が一定になるという,周知の傾向と対 応しているように思われた.上記の傾向について CT 試験片に対しても見受けられたものである[15].従って,破壊靭性値の板厚依存性について, J. & BI-1/2)のような関係があり[16], IT | x B-1) (T33 <0) が成り立つ範囲においては JC C IT3 Iの ような表現が可能であろうと考えた.ただ,今回の Tag-stress 解析は,前述のように B/W によらず公称 K, をそろえたものであり,式(5)のよ うな表現が可能であるためには公称最大 K 値 Kmas をそろえた条件での弾塑性解析結果でJFEA CB-1) のような関係が得られることが必要であると考えた. そこで,以下のような弾塑性解析を行うことにした. x B-1) 1T3311/20)うに B/W 式(5)のよ - 値 Kanas
B/WOCR-1/2)KIK, T, VTTPS VoFig. 4 Comparison of normalized K, T11 and T33 at3PB test specimen thickness center for a load corresponding to nominal SIF of Ko = 1 MPa m12
0.01 Fig. 5 Relationship between 1B33) at 3PB test specimen thickness center and B/W, for a load corresponding tonominal SIF of Ko = 1 MPa m2 (v = 0.3) - 602 -3.2 弾塑性解析 - 弾塑性解析に用いたモデルは,基本的に弾性解析 に使用したもの同じであるが,大ひずみ解析を行う べく,き裂先端については Fig.3(c)に示す半径 p = 0.0125 mm の円弧を入れた. - 材料の応力,ひずみ関係を,供試材の引張試験の データより式(5)に示すRamberg-Osgood近似を行い, 式中の定数 a = 1.61, n = 6.90 を使用した.
E。 。 (0) 荷重については, CT 試験片の破壊靭性試験結果よ り, B/W によらず破断時の公称 Komax = 66 MPa m'2 で あった[15]ことも参考とし,今回の 3 点曲げ試験に ついてもまずは B/W によらず,式(3)にて Kore = 66 MPa m““ となるように設定した. 具体的には, B/W = 0.5, 0.4.0.25 に対応し,Pmax = 11, 8.8, 5.5 kN とした. - 弾塑性解析で得られた破壊靭性値 J.FEAを Kimmas, E' = E/(1-V)で無次元化したものと B/W の変化を両対 数表示させたものを Fig.6に示す. CT 試験片につい ての解析結果[15]も併せて示した. Fig.6を見ると, 3点曲げ,CT 試験片ともに J.FEA B-IP)のような 関係が読み取れ, 公称 Kmar 一定の条件がほぼ満足さ れるならば解析によっても破壊靭性値の板厚効果が J-X BI-1/2) ^ IT, 112 (0.25Fig. 6 Relationship between normalized Jc Fea and B/W4. 破壊靭性試験 4.1 破壊靭性試験片形状 - Fig.2に示すような ASTM E399[14]で規定される3 点曲げ試験片形状を基本とし, 板幅 W についてはす べての場合に 25 mm とし, 板厚 Bについては ASTM標準の B/W = 0.5 以外に,B/W = 0.25, 0.4 の合計3種 類の試験片形状(サイドグルーブ付き;正味板厚 By = 0.8 B)を用意した. き裂長さ a についてはすべての試 験片について,ASTM 標準通り,疲労予き裂を導入 することにより alW = 0.45~0.55 に入るように準備し た.各試験片形状につき,5本の試験を行った.4.2 供試材CT 試験片にて破壊靭性試験を行なった同ロット の JIS S55C材を用いた[15]. これは常温にて遷移温 度域にあることを念頭に置き, JIS S55C材を 850 °C で焼入れ,650 °Cで焼戻し,試験に供したものであ る. 供試材の成分分析結果は,C: 0.54 %, Si: 0.18 %, Mn: 0.64 %, P: 0.018 %, S: 0.002 %, そして Cu, Ni, Crはともに 0.01%であった, 機械的性質については、 BETET HJ Oys = 428 MPa, 51 52 5B OB = 691 MPa, tist 断伸びは 26.5 %である. 試験温度は 20 °C(遷移温度 域)とした.4.3 実験結果 * 実験結果を Table 1 に示す.また,Fig.7に典型的 な荷重,荷重線上開口変位曲線を示す.いずれの場 合も,この図に示すように,最大荷重 P. と ASTM E399[14]で定義される Poが PSPo < 1.1 の条件を満 足せず, ASTM E399[14]での平面ひずみ破壊靭性値 としては扱えなかった.そこで, 破壊靭性値を ASTM E1820[18]に従い, 荷重-荷重線上開口変位曲線から 算出される Joにより整理した.表中の K は P.に対 応する K値を先の式(3)により算出したものである.
Clip gage displacement V, mm Fig. 7 Typical load-displacement (P-V) curvefor 3PB specimen (B/W = 0.5, test piece no.4)Jo, JcFEA N/mm1. 次に, 破壊靭性値 J.と公称 K.mac = 66 MPa m' に対 する弾塑性解析からの JC FEA と B/W の関係を両対数 表示させ, Fig. 8 に示す. このJCについては, Table 1 の実測き裂長さを反映したものになっている. Fig.8 より, J.のばらつきは大きいものの CT 試験片同様, S55C の破壊靭性値 Jeeso及びJEFEAが板厚 B の(-1/2) 乗に比例していると言えそうである.なお, Table 1 の Keに着目すると,CT 試験片と同 様に, B/W によらず(J.は変化しているが), Kの差 異は総じて小さいという結果が得られた. 100
B/W Fig. 8 Relationship between JC, Jc Fea and B/Wfor 3PB specimen (S55C)Fig. 9 17, Fig. 8 Offih ? Kmax = 66 MPa m““21*17 る試験片板厚中央の T33 で書き直し,併せて CT 試験 片に対する実験結果[15]を追記したものである. Fig. 10 は Fig. 9 の縦軸を公称 Kimax に対する弾性 J = (Kmas/E') に よ り 無次元化し,横軸を1B33= ITagl(wa) / Komac として無次元化したものである.こ こでは公称き裂長さ an = 12.5 mm とした. Fig. 9, 10より Jの試験片構造の差異(CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の 差 を と もに加味して , J. CIT331““ (0.25IT 33 | MPaFig. 9 Relationship between Jc, Jc Fea and T33 for 3PB specimen (S55C)
Fig. 10 Relationship between Jc and 1333| for 3PB and CT specimen (S55C)
5. 考察Fig. 9, 10 より,現時点では S55C,そして B/W=0.25~0.5 という制約付きではあるが,破壊靭性 値Jの試験片構造の差異 (CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の差をともに加味して, JCIT33とし て表しうる可能性を指摘した.今後,他の材料,他 の試験片形状,そしてITIC B/W の直線関係から外 れるような領域についての検討が必要となるが, IT,IはJの試験片構造,板厚依存性を包括して表現 しうる可能性を示すことができたと考える.ところで, TasがJの試験片構造,板厚依存性を包 括して表しうる根拠として, T33 を評価する式 (2) にて, i) TIは二次元構造のみに依存する面内パラメ ータであり, B/W によらずほぼ一定である (Fig. 11 および [15]), 一方 ii) EE3 は平面ひずみ状態では零 に近づくものであり, Fig. 12 に示すように二次元構 造によらず, B/W に依存する,ことから説明できる と考える.Jの試験片構造依存性については,Tに 着目した研究が多数行われていることから,今後は 試験片板厚中央のEsとJの関係に着目した解析的な 研究も必要となろう.6.結言 1. 本研究では破壊靱性値に対する板厚効果の表現を 試みるために,き裂先端の板厚方向の弾性力学パラ メータ T33-stress に着目した.そして,3点曲げ試験 片に対し,先の CT 試験片[15]同様, (1) W と公称K値を一定としB/W を変化させた FEA (2) W と Kmacを一定とし B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させた弾塑性 FEA」 (3) S55C, W = 25 mm の破壊靭性試験を常温にて実した.その結果,現時点では S55C, そして B/W=0.25~0.5 という制約付きではあるが,破壊靭性 値Jの試験片構造の差異 (CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の差をともに加味して, Je = 3?IT3112 とし て表しうることを示した.今後,他の材料,他の試 験片形状,そしてIT IX B/W の直線関係から外れる ような領域についての検討が必要となるが, IT RIは JCの試験片構造,板厚依存性を包括して表現しうる 可能性を示すことができたと考える.謝辞この研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤構| の原子力安全基盤調査提案公募研究の一環として実 施された.ここに記して感謝する.参考文献 省略
“ “?破壊靭性値の板厚効果のTag-stress による表現試験片構造の差異“ “田中 智大,Tomohiro TANAKA,飯井 俊行,Toshiyuki MESHII
き裂前縁上の点 A の面外(sy 軸方向)拘束について検 ・ き裂先端の応力状態については,応力拡大係数 K 討が行なわれ, 面外拘束係数 T, = 033/(01+Ozz) (Oi, i = 値やJ積分のような単一のパラメータのみで表現す。 1~3, は x, 軸方向の主応力)が提唱されているがこの るには限界があるということが,古くから知られてT,が材料強度に及ぼす影響が実験により明示されて いる[1], [2]. このような課題を克服するべく,き裂 いるわけではない. 先端の応力,ひずみ状態を2種類のパラメータを用 いて表現する試み(2 パラメータ法)が,過去 30 年間 にわたって行われてきた.そして,この2パラメー タ法における2番目のパラメータとして, T-stress と
of the crack 呼ばれる Williams 級数展開[3]における第2項が有力 な候補の一つとして検討されてきた. Larsson と Carlsson[2]や Rice[4]は平面ひずみ状態の塑性域寸法 や形状が,たとえ K値が同じであっても T-stress の 符号や絶対値の違いにより変わりうることを示した. また,Bilby[S]らは T-stress がき裂先端近傍弾塑性応 力場の静水圧成分に大きな影響を及ぼすことを示し た具体的には,T>0のとき,き裂先端の応力三軸 度が増加する結果き裂先端の拘束が強まり,T<0 のときは逆にき裂先端の拘束が弱くなるというもの であった.Fig. 1 Three dimensional stress field in the crack tip * この T-stress は弾性パラメータであるが,その後 Al-Ani 5 [6], Betegon[7], Du 5[8], O'Dowd[9] 563 一方,著者らは面外応力成分の非特異項 T33-stress より, J と T-stress により平面ひずみ状態下の弾塑性 (以下,前出の面内 T-stress を Tu と称し, T1, T33 を 応力問題を実用的な精度で扱いうることが示されて まとめて T-stress と呼ぶことにする)に着目し,CT 試 いる.たとえば,破壊靭性試験片のき裂深さが遷移 験片の公称 K 値(ASTM E399[14]の計算式による二 温度域における破壊靭性値 Jに及ぼす影響を 次元 K値)と板幅 W を一定とし,板厚比 B/W を変化 T-stress を用いて表す試みが行われている[10]. 近年 させた場合の板厚中央における T33 の変化について では Guo ら[11]~[13]により, Fig. 1 に示すような 検討した[15]. その結果,B/W = 0.25~0.5 の範囲でT33(<0)B/W の関係が得られた.また同様にして公 田中 智大,〒910-8507 福井県福井市文京3丁目9-1, 称最大 K値 Kmax と W を一定とし,CT 試験片の B/W 福井大学大学院, (0776)27-9764, in090153@u-fukui.ac.jp = 0.25~0.5 と変化させた弾塑性解析を S55Cに対し行 飯井俊行,〒910-8507 福井県福井市文京3丁目9-1. なった結果,最大のJ積分値 JC FEAについてはJc FEA 福井大学大学院, (0776)27-8468, meshii@u-fukui.ac.jp““ x(B/W)-1/2, そして結局 JEFEA CIT sl1/2 という結果がTomohiro TANAKA Toshiyuki MESHIIMember Member
得られた.そして S55C, W = 25 mm の CT 試験片に 対し,常温(遷移温度域)にて破壊靭性試験を B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させて行なったところ, B/W によ らず,破壊時の最大 K 値 K。がほぼ一定という結果 と同時に解析結果と同様に破壊靭性値 J. CB-112) xlTasl2 との結果が得られた.この JC CB-1)という結果については,最弱リン クモデル[16]から予測される関係ではあるが,最弱 リンクモデルでは i) B/W → で Je→0 と予測される [16], ii) 寸法がパラメータなので,Jの試験片構造 (たとえば,CT, 3 点曲げ)による差異については当 然のことながら表しえないという限界があるという 課題がある.そこで,本研究では ii)の課題を解決するべく3点 曲げ試験片に対し,先の CT 試験片[15]同様, (1)W と公称K値を一定としB/W を変化させた弾性有限要 素解析(FEA), (2)W と Kimasを一定とし B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させた弾塑性 FEA, (3)S55C, W = 25 mm の破壊靭性試験を常温にて行なうことにした.2. T-stressモード I型荷重を受ける,き裂を有する等方弾性 体中き裂先端における応力分布を級数展開すると, 各応力成分が次式のように表されることが知られて いる[17]. ただし,ここではき裂前縁上の評価を行 うA点を原点とし,その点に対する接線を x3軸,33 軸に直交する平面上,原点を含みき裂深さ方向をx、 軸,これに直交する方向を x2 軸としている(Fig. 1).
この T , は3次元き裂では,Eをヤング率,vをポ アッソン比として,式(2)のような関係があることが 知られている[17].
3. FEA 3.1 弾性解析 - 実験による確認も行なうことを念頭に置き, ASTM E399[14]に準拠した Fig. 2 のような試験片に 対する弾性 FEA を行った.板幅 W についてはすべ ての場合に 25 mm とし,板厚 B については ASTM 標準の B/W = 0.5 以外に, B/W = 0.25, 0.4 の合計3種 類の試験片形状(サイドグルーブ付き;正味板厚 By = 0.8 B)を検討した.き裂長さ a についてはすべての
Eをヤング率,vをポ うな関係があることが+ VT(2) 試験片について, ASTM 標準通り, a/W = 0.5 とした. - 解析には 20節点六面体のメッシュを使用し,対称 性を考慮し 1/4 領域の解析を行った(Fig. 3(a)). き 裂先端には特異要素を使用し,その寸法A/ はAlla = 0.001 とし,き裂先端のスパイダウェブの半径を 20A/ とした(Fig. 3(b)). 材料定数については, E = 206 GPa, V=0.3 とした.
Detail of A(2:1) Fig. 2 3PB test specimen configuration
(a) Global meshaへ(b) Detail of crack tip(c) Detail of crack tip for elastic analysisfor elastic-plastic analysis Fig. 3 Finite element model of 3PB test specimen
* 荷重については,B/W によらず,ASTM E399[14] に与えられている次式により求まる公称(二次元)K 値 Ko = 1 MPa m2 となるよう定めた. Ko = 1 MPa m2 となるよう定めた.
あり,具体的には B/W = 0.5, 0.4, 0.25 に対応し,P 3.17, 0.14, 0.09 kN とした. K 値については FEA 結果をもとに領域積分法, i-stress については Nakamura らが提案している領
#ハンド1. T止位ハロー、ALュエ11711-Lーーーー 199-(91-9) 215-399% + 2 (9)] (45)であり,具体的には B/W = 0.5, 0.4, 0.25 に対応し,P = 0.17, 0.14, 0.09 kN とした.K値については FEA 結果をもとに領域積分法, Tin-stress については Nakamura らが提案している領 域積分法と干渉積分法を組み合わせた手法[17]によ り評価した.Fig. 4 に板厚中央における無次元 K, TI, T33(それ ぞれ KIKO, B, B,3)の B/W による変化を示す.Fig.4 より,三次元解析結果であっても, KIKO, B. につい ては,面内パラメータであり当然予想されたように B/W の影響をほとんど受けていないことが読み取れ る.一方,B,3は B/W の増加に対応し有意な変化を示 しており,板厚の増加に対応してき裂先端の面外拘 束が増加していく様子が読み取れた. そこで,破壊 靭性値に対する板厚効果を表現する力学パラメータ としてこの T33-stress を使用することを念頭に置き, 新たに B/W = 0.6, 0.8, 1.0 についても解析を行い,板 厚中央のB33の絶対値と B/W の関係を両対数表示し, Fig. 5 に示した. Fig.5 を見ると, B/W = 0.5(標準) よりも板厚が薄くなるとB.3 が直線的に大きくなり (負の値で絶対値は増加), 概略 18,31 x B'-'のよう な関係が読み取れ,逆に厚くなると B/W がある値以 上で一定値(零)に収束していきそうであるという 傾向が読み取れた.これは,板厚が小さくなると破 壊靭性値が大きくなり,一方ある一定値以上の板厚 で破壊靭性値が一定になるという,周知の傾向と対 応しているように思われた.上記の傾向について CT 試験片に対しても見受けられたものである[15].従って,破壊靭性値の板厚依存性について, J. & BI-1/2)のような関係があり[16], IT | x B-1) (T33 <0) が成り立つ範囲においては JC C IT3 Iの ような表現が可能であろうと考えた.ただ,今回の Tag-stress 解析は,前述のように B/W によらず公称 K, をそろえたものであり,式(5)のよ うな表現が可能であるためには公称最大 K 値 Kmas をそろえた条件での弾塑性解析結果でJFEA CB-1) のような関係が得られることが必要であると考えた. そこで,以下のような弾塑性解析を行うことにした. x B-1) 1T3311/20)うに B/W 式(5)のよ - 値 Kanas
B/WOCR-1/2)KIK, T, VTTPS VoFig. 4 Comparison of normalized K, T11 and T33 at3PB test specimen thickness center for a load corresponding to nominal SIF of Ko = 1 MPa m12
0.01 Fig. 5 Relationship between 1B33) at 3PB test specimen thickness center and B/W, for a load corresponding tonominal SIF of Ko = 1 MPa m2 (v = 0.3) - 602 -3.2 弾塑性解析 - 弾塑性解析に用いたモデルは,基本的に弾性解析 に使用したもの同じであるが,大ひずみ解析を行う べく,き裂先端については Fig.3(c)に示す半径 p = 0.0125 mm の円弧を入れた. - 材料の応力,ひずみ関係を,供試材の引張試験の データより式(5)に示すRamberg-Osgood近似を行い, 式中の定数 a = 1.61, n = 6.90 を使用した.
E。 。 (0) 荷重については, CT 試験片の破壊靭性試験結果よ り, B/W によらず破断時の公称 Komax = 66 MPa m'2 で あった[15]ことも参考とし,今回の 3 点曲げ試験に ついてもまずは B/W によらず,式(3)にて Kore = 66 MPa m““ となるように設定した. 具体的には, B/W = 0.5, 0.4.0.25 に対応し,Pmax = 11, 8.8, 5.5 kN とした. - 弾塑性解析で得られた破壊靭性値 J.FEAを Kimmas, E' = E/(1-V)で無次元化したものと B/W の変化を両対 数表示させたものを Fig.6に示す. CT 試験片につい ての解析結果[15]も併せて示した. Fig.6を見ると, 3点曲げ,CT 試験片ともに J.FEA B-IP)のような 関係が読み取れ, 公称 Kmar 一定の条件がほぼ満足さ れるならば解析によっても破壊靭性値の板厚効果が J-X BI-1/2) ^ IT, 112 (0.25Fig. 6 Relationship between normalized Jc Fea and B/W4. 破壊靭性試験 4.1 破壊靭性試験片形状 - Fig.2に示すような ASTM E399[14]で規定される3 点曲げ試験片形状を基本とし, 板幅 W についてはす べての場合に 25 mm とし, 板厚 Bについては ASTM標準の B/W = 0.5 以外に,B/W = 0.25, 0.4 の合計3種 類の試験片形状(サイドグルーブ付き;正味板厚 By = 0.8 B)を用意した. き裂長さ a についてはすべての試 験片について,ASTM 標準通り,疲労予き裂を導入 することにより alW = 0.45~0.55 に入るように準備し た.各試験片形状につき,5本の試験を行った.4.2 供試材CT 試験片にて破壊靭性試験を行なった同ロット の JIS S55C材を用いた[15]. これは常温にて遷移温 度域にあることを念頭に置き, JIS S55C材を 850 °C で焼入れ,650 °Cで焼戻し,試験に供したものであ る. 供試材の成分分析結果は,C: 0.54 %, Si: 0.18 %, Mn: 0.64 %, P: 0.018 %, S: 0.002 %, そして Cu, Ni, Crはともに 0.01%であった, 機械的性質については、 BETET HJ Oys = 428 MPa, 51 52 5B OB = 691 MPa, tist 断伸びは 26.5 %である. 試験温度は 20 °C(遷移温度 域)とした.4.3 実験結果 * 実験結果を Table 1 に示す.また,Fig.7に典型的 な荷重,荷重線上開口変位曲線を示す.いずれの場 合も,この図に示すように,最大荷重 P. と ASTM E399[14]で定義される Poが PSPo < 1.1 の条件を満 足せず, ASTM E399[14]での平面ひずみ破壊靭性値 としては扱えなかった.そこで, 破壊靭性値を ASTM E1820[18]に従い, 荷重-荷重線上開口変位曲線から 算出される Joにより整理した.表中の K は P.に対 応する K値を先の式(3)により算出したものである.
Clip gage displacement V, mm Fig. 7 Typical load-displacement (P-V) curvefor 3PB specimen (B/W = 0.5, test piece no.4)Jo, JcFEA N/mm1. 次に, 破壊靭性値 J.と公称 K.mac = 66 MPa m' に対 する弾塑性解析からの JC FEA と B/W の関係を両対数 表示させ, Fig. 8 に示す. このJCについては, Table 1 の実測き裂長さを反映したものになっている. Fig.8 より, J.のばらつきは大きいものの CT 試験片同様, S55C の破壊靭性値 Jeeso及びJEFEAが板厚 B の(-1/2) 乗に比例していると言えそうである.なお, Table 1 の Keに着目すると,CT 試験片と同 様に, B/W によらず(J.は変化しているが), Kの差 異は総じて小さいという結果が得られた. 100
B/W Fig. 8 Relationship between JC, Jc Fea and B/Wfor 3PB specimen (S55C)Fig. 9 17, Fig. 8 Offih ? Kmax = 66 MPa m““21*17 る試験片板厚中央の T33 で書き直し,併せて CT 試験 片に対する実験結果[15]を追記したものである. Fig. 10 は Fig. 9 の縦軸を公称 Kimax に対する弾性 J = (Kmas/E') に よ り 無次元化し,横軸を1B33= ITagl(wa) / Komac として無次元化したものである.こ こでは公称き裂長さ an = 12.5 mm とした. Fig. 9, 10より Jの試験片構造の差異(CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の 差 を と もに加味して , J. CIT331““ (0.25IT 33 | MPaFig. 9 Relationship between Jc, Jc Fea and T33 for 3PB specimen (S55C)
Fig. 10 Relationship between Jc and 1333| for 3PB and CT specimen (S55C)
5. 考察Fig. 9, 10 より,現時点では S55C,そして B/W=0.25~0.5 という制約付きではあるが,破壊靭性 値Jの試験片構造の差異 (CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の差をともに加味して, JCIT33とし て表しうる可能性を指摘した.今後,他の材料,他 の試験片形状,そしてITIC B/W の直線関係から外 れるような領域についての検討が必要となるが, IT,IはJの試験片構造,板厚依存性を包括して表現 しうる可能性を示すことができたと考える.ところで, TasがJの試験片構造,板厚依存性を包 括して表しうる根拠として, T33 を評価する式 (2) にて, i) TIは二次元構造のみに依存する面内パラメ ータであり, B/W によらずほぼ一定である (Fig. 11 および [15]), 一方 ii) EE3 は平面ひずみ状態では零 に近づくものであり, Fig. 12 に示すように二次元構 造によらず, B/W に依存する,ことから説明できる と考える.Jの試験片構造依存性については,Tに 着目した研究が多数行われていることから,今後は 試験片板厚中央のEsとJの関係に着目した解析的な 研究も必要となろう.6.結言 1. 本研究では破壊靱性値に対する板厚効果の表現を 試みるために,き裂先端の板厚方向の弾性力学パラ メータ T33-stress に着目した.そして,3点曲げ試験 片に対し,先の CT 試験片[15]同様, (1) W と公称K値を一定としB/W を変化させた FEA (2) W と Kmacを一定とし B/W = 0.25, 0.4, 0.5 と変化させた弾塑性 FEA」 (3) S55C, W = 25 mm の破壊靭性試験を常温にて実した.その結果,現時点では S55C, そして B/W=0.25~0.5 という制約付きではあるが,破壊靭性 値Jの試験片構造の差異 (CT, 3 点曲げ),そして 板厚比 B/W の差をともに加味して, Je = 3?IT3112 とし て表しうることを示した.今後,他の材料,他の試 験片形状,そしてIT IX B/W の直線関係から外れる ような領域についての検討が必要となるが, IT RIは JCの試験片構造,板厚依存性を包括して表現しうる 可能性を示すことができたと考える.謝辞この研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤構| の原子力安全基盤調査提案公募研究の一環として実 施された.ここに記して感謝する.参考文献 省略
“ “?破壊靭性値の板厚効果のTag-stress による表現試験片構造の差異“ “田中 智大,Tomohiro TANAKA,飯井 俊行,Toshiyuki MESHII