ニッケル基合金溶接部の欠陥深さサイジングに対するフェーズドアレイUT法の適用性評価

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カテゴリ: 第7回
1.緒言
近年、国内外の加圧水型原子力発電プラント(以 下、PWR)の 600 系ニッケル基合金溶接部におい て、PWSCC(一次冷却水環境下での応力腐食割れ) の発生が報告されており [1]、これらのき裂深さを高 精度に測定することは、機器の健全性評価にとって 重要である。原子炉容器管台溶接部に発生した SCC き裂は、表面長さが短く深い形状であったため、超 音波探傷試験 (UT) でき裂先端からの端部エコーが 検出できず、深さ測定が困難であった[2]。従来、ニッケル基合金溶接部は、溶接金属組織 (柱」 状晶組織)の異方性から超音波難探傷材と言われて いる。これは、溶接金属組織により超音波の屈曲、 減衰が生じ、さらに溶接金属組織からの材料ノイズ エコーの発生により、端部エコーの検出性が低下し、 欠陥深さ測定が困難となるためである。フェーズドアレイ UT は、探傷条件の最適化、探 傷データの画像化などの特徴を有する技術として、 近年国内外で注目され、ニッケル基合金溶接部を対 象に、多くの機関で研究開発が行なわれている[3]。
そこで、本研究では、600 系ニッケル基合金溶接 部の SCC き裂に対して、UT による高精度な深さサ イジング技術を確立することを目的とし、本報告で はその第1報として、ニッケル基合金溶接部(突合 せ溶接部とバタリング部を有する異種金属溶接部) に付与した EDM ノッチ試験体を用い、欠陥開口面 側からフェーズドアレイ UT 法を適用し、深さサイ ジングに対する適用性を明らかにしたので報告する。2. 試験方法 2.1 供試体、 - 試験体は、ニッケル基合金溶接部試験体で、突合 せ溶接部およびバタリング部の溶接線直交方向に EDM ノッチが付与されている。突合せ溶接部に EDM ノッチを付与した試験体の形状、寸法を Fig.1 に、その外観を Fig.2 に示す。また、Table 1 に、 EDM ノッチ付与条件を示す。突合せ溶接部および バタリング部ともに4個の EDM ノッチが付与され、 深さは 2,5, 10,20mm の 4 種類、長さはすべて 10mm である。2.2 試験方法 - 試験に用いた探傷装置は、フェーズドアレイ UT 装置(Tomoscan III : Zetec社製)である。
用いたアレイ探触子は 2 種類で、1公称周波数 2MHz、振動子寸法 10mm×0.8mm、チャンネル数 64ch(以下、略号 2L(10))、2、公称周波数 2MHz、 振動子寸法 20mm×0.6mm、チャンネル数 64ch(以 下、略号 2L(20))で、1は深さの浅いき裂の探傷用 (深さ 10mm 程度)、2は深さの深い欠陥(深さ 20mm 程度)を対象として選定した。探傷条件の選定にあたり、アレイ探触子 2L(10) および 2L(20)について、開口寸法、集束位置に関す る探傷条件の選定を行った。探傷条件の選定は、 Fig.3 に示す横穴試験片を用い、横穴からの反射エ コー分布を測定して各パラメータの影響を評価した。 なお試験片には、直径 3.2mm の横穴が板厚方向の 深さ位置 Z=5, 10, 15, 20mm に付与されている。
3.1 探傷条件の選定横穴試験片に対して、アレイ探触子 2L(10)を用い た探傷結果を Fig.4 に示す。図は、開口寸法 (a)10mm×6.4mm (8ch)、(b)10mm×12.8mm (16ch) に対して、探傷屈折角 45°、集束位置 F=10mm、探 傷感度 42dB で試験した時の探傷断面画像(図の上 段)および横穴からの反射エコー高さ分布(図の下 段)である。図より、深さ位置 Z=5~20mm のいず れの横穴についても、開口寸法(a)10mm×12.8mm の方が、(b)10mm×6.4mm に比べて、エコー高さ分 布の広がりが小さく集束効果が良好であった。この 結果から、開口寸法として 10mm×12.8mm を選定 した。また、アレイ探触子 2L(10)の集束効果については、 開口寸法 10mm×12.8mm を一定とし、集束位置を F=5, 10,20mm と変えたときの横穴からの反射エ コー分布を調べた結果、いずれの集束位置でも超音 波の広がりが小さく、エコー高さ分布に大きな差異 は認められなかったため、集束位置は、アレイ探触 子 2L(10)の適用目的である深さの浅い欠陥(深さ 10mm)と同じ F=10mm を選定した。次に、アレイ探触子 2L(20)の探傷条件の選定を行 った。開口寸法は、探触子の適用目的である深さの 深い欠陥(深さ 20mm)である 20mm×19.2mm とし、 集束位置の選定を行った。Fig.5に、集束位置を F=10、 20、30mm と変えたときの探傷結果を示す。図は、
用いたアレイ探触子は 2 種類で、1公称周波数 2MHz、振動子寸法 10mm×0.8mm、チャンネル数 64ch(以下、略号 2L(10))、2、公称周波数 2MHz、 振動子寸法 20mm×0.6mm、チャンネル数 64ch(以 下、略号 2L(20))で、1は深さの浅いき裂の探傷用 (深さ 10mm 程度)、2は深さの深い欠陥(深さ 20mm 程度)を対象として選定した。 3.1 探傷条件の選定 . 横穴試験片に対して、アレイ探触子 2L(10)を用い た探傷結果を Fig.4 に示す。図は、開口寸法 (a)10mm×6.4mm (8ch)、(b)10mm×12.8mm (16ch) に対して、探傷屈折角 45°、集束位置 F=10mm、探 傷感度 42dB で試験した時の探傷断面画像(図の上 段)および横穴からの反射エコー高さ分布(図の下 段)である。図より、深さ位置 Z=5~20mm のいず れの横穴についても、開口寸法(a)10mm×12.8mm 10mm)と同じ F=10mm を選定した。 - 次に、アレイ探触子 2L(20)の探傷条件の選定を行 った。開口寸法は、探触子の適用目的である深さの 深い欠陥(深さ 20mm)である 20mm×19.2mm とし、 集束位置の選定を行った。Fig.5に、集束位置をF=10、 20、30mm と変えたときの探傷結果を示す。図は、 - 62 - 探傷屈折角 45°、探傷感度 34dBにおける探傷断面 画像(図の上段)および横穴からの反射エコー高さ 分布(図の下段)である。図より、横穴からの反射 エコー高さ分布に大きな違いは認められなかったた め、アレイ探触子の適用目的である欠陥深さ 20mm と同一の集束位置 F=20mm を選定した。 *以上より、アレイ探触子 2L(20)の条件は、開口寸 法 20mm×19.2mm、集束位置 F=20mm とした。 探傷屈折角 45°、探傷感度 34dBにおける探傷断面ニッケル基合金溶接部試験体に対するフェーズ 画像(図の上段)および横穴からの反射エコー高さドアレイ UT 条件を以下に示す。探傷方法は自動走 分布(図の下段)である。図より、横穴からの反射査による直接接触法とし、探傷面は欠陥開口面側(内 エコー高さ分布に大きな違いは認められなかったた 面UT)、探傷方向は欠陥に対して両側から行った。 め、アレイ探触子の適用目的である欠陥深さ 20mm_ 探傷における超音波走査方式はセクタ走査(扇形 と同一の集束位置 F=20mm を選定した。走査)とし、探傷屈折角範囲は、30°から 80°、走査 *以上より、アレイ探触子 2L(20)の条件は、開口寸ピッチは 1°とした。 法 20mm×19.2mm、集束位置 F=20mm とした。 アレイ探触子の機械的走査は、X-Y スキャナによる矩形走査(自動探傷)とし、走査範囲は、溶接線 Array probe イコー Scan平行方向(Y 方向)は Y=80mm 以上、溶接線直交 方向(X 方向)は欠陥がその中央になるようにX=30mm とし、走査ピッチは、Y方向で 0.5mm、 (a) Active element size:10x6.4 (b) Active element size : 10x12.8X方向で 1mm とした。データ解析は、セクタ走査で収録したデータをリ ニア走査の表示に変換して行った。基本となる探傷屈折角データは、45°および 60°とし、その他の屈折 Z%3D20mm角は適宜解析に用いることした。欠陥深さ測定は、 探傷波形データから端部エコーを検出して測定する 端部エコー法にて行った。
Fig.5 Effect of focal depth of phased array probe 2L(20) ェーズニッケル基合金溶接部試験体に対するフェーズ ドアレイ UT 条件を以下に示す。探傷方法は自動走 査による直接接触法とし、探傷面は欠陥開口面側(内 面UT)、探傷方向は欠陥に対して両側から行った。探傷における超音波走査方式はセクタ走査(扇形 走査)とし、探傷屈折角範囲は、30°から80°、走査 ピッチは 1°とした。アレイ探触子の機械的走査は、X-Y スキャナによ る矩形走査(自動探傷)とし、走査範囲は、溶接線 平行方向(Y 方向)は Y=80mm 以上、溶接線直交 方向(X 方向)は欠陥がその中央になるように X=30mm とし、走査ピッチは、Y方向で 0.5mm、 X方向で 1mm とした。データ解析は、セクタ走査で収録したデータ ニア走査の表示に変換して行った。基本となる 屈折角データは、45°および 60°とし、その他の 角は適宜解析に用いることした。欠陥深さ測定 探傷波形データから端部エコーを検出して測定 端部エコー法にて行った。 - 63 - 3.2 突合せ溶接部への適用突合せ溶接部に EDM ノッチを付与した試験体 (試験体名: EDM-1)に対してフェーズドアレイ UT を適用した結果を、Fig.6に示す。図は、各ノッ チ深さに対する探傷断面画像であり、ノッチ開口部 および先端部からの開口部エコーおよび端部エコー を矢印および丸印で示してある。 - Fig.6 から、深さ 2,5, 10,20mm のノッチのい ずれの欠陥においても開口部エコーが観察されてい る。深さ 2mm の欠陥では、ノッチ深さが 2mm と 浅いため、端部エコーが不感帯(試験体表面で探傷 不可能な範囲)に埋もれたことによる。一方、深さ 5, 10,20mm のノッチでは、端部エ コーが明瞭に認められている。これらの探傷データ から端部エコー法による深さ測定を行い、その結果 を、Fig.7 に示す。図より、ノッチ深さ5~20mm の 範囲で、深さは誤差3mm 以内で評価された。
3.5 金属組織エコーの発生状況 - 一般に、ニッケル基合金溶接部は超音波難探傷材 と言われている。これは、溶接金属組織(柱状品組 織)からの金属組織エコーが疑似エコー(材料ノイ ズエコー)として発生し、欠陥先端からの端部エコ ーが材料ノイズエコーに埋もれ、検出性が低下する ためである。そこで、突合せ溶接部とバタリング部における材 料ノイズエコーの発生状況を調べた。Fig.11 に、ア レイ探触子 2L(10)を用いて探傷したときの突合せ 溶接部およびバタリング部の探傷画像を並べて示す。 両者は同一探傷条件の結果であり、突合せ溶接部では材料ノイズエコーが小さく、バタリング部では明 瞭な材料ノイズエコー(図中の矢印近傍)が全体に わたって認められる。Fig.12 は、アレイ探触子 2L(20)を用いたときの探傷画像を示しており、突合 せ溶接部では、探傷感度が 58dB と大きいため、材 料ノイズエコーが若干認められるが、バタリング部 では、探傷感度が 48dB と突合せ溶接部に比べて 10dB 低いにも拘わらず、材料ノイズエコーが全体 に大きく検出されている。一般に、SCC き裂の端部エコーは微弱な信号であ るとされており、ニッケル基合金溶接部の探傷では、 材料ノイズエコーが発生するため、端部エコーを高 感度で検出するには、SN 比の向上、材料ノイズエ コーとの識別が重要となる。 - 本研究では、フェーズドアレイ UT の探傷条件の 最適化で、EDM ノッチからの端部エコーの検出が 可能であったが、SCC き裂の探傷では、SN 比の低 下が懸念されるため、SN 比をさらに向上させるた めの手法の検討も必要である。
1. 本研究では、600系ニッケル基合金溶接部のSCC き裂に対して、UT による高精度な深さサイジング 技術を確立するための第一段階として、ニッケル基 合金溶接部試験体の突合せ溶接部およびバタリング 部に付与した EDM ノッチに対して、フェーズドア レイ UT 法を適用し、深さサイジング性を評価した。 4.結言参考文献1本研究では、600 系ニッケル基合金溶接部のSCC き裂に対して、UT による高精度な深さサイジング 技術を確立するための第一段階として、ニッケル基 合金溶接部試験体の突合せ溶接部およびバタリング 部に付与した EDM ノッチに対して、フェーズドア レイ UT 法を適用し、深さサイジング性を評価した。 それらの結果を以下にまとめる。[1] 原子力・安全保安院:加圧水型軽水炉の一次冷却材圧力バウンダリにおける Ni基合金使用部位 に係る検査等について,NISA-163a05-2(2005) [2] 関西電力(株)プレスリリース:大飯発電所3号機の定期検査状況について(原子炉容器 A ループ出口管台溶接部の傷の原因と対策), (2008.9.26) [3] 平澤泰治:原子力プラント用フェーズドアレイ超音波探傷技術, 東芝レビュー, Vol.60, No.10, pp.48(2005)(1) 半楕円状の EDM ノッチを付与したニッケル合金溶接部試験体を用い、欠陥開口面側からのフ ェーズドアレイ UT を適用するため、超音波送 受信時のアレイ探触子の開口寸法、集束位置等 の探傷条件を最適化した。 フェーズドアレイ UT を突合せ溶接部およびバ タリング部に付与した EDM ノッチ試験体に適 用した結果、ノッチ深さ 5mm~20mm の範囲 で深さ測定が可能であり、深さは、誤差平均 0.92mm、RMS 誤差 1.58mm と良好な精度で評価できた。 (3)上記の結果から、フェーズドアレイ UT 法は、ニッケル基合金溶接部の欠陥深さ測定法として 有効な手法であることが明らかとなった。 半楕円状の EDM ノッチを付与したニッケル合 金溶接部試験体を用い、欠陥開口面側からのフ ェーズドアレイ UT を適用するため、超音波送 受信時のアレイ探触子の開口寸法、集束位置等 の探傷条件を最適化した。 フェーズドアレイ UT を突合せ溶接部およびバ タリング部に付与した EDM ノッチ試験体に適 用した結果、ノッチ深さ 5mm~20mm の範囲 で深さ測定が可能であり、深さは、誤差平均 0.92mm、RMS 誤差 1.58mm と良好な精度で評 0.92mm、RMS 誤差 1.58mm と良好な精度で言 価できた。 上記の結果から、フェーズドアレイ UT 法は、 ニッケル基合金溶接部の欠陥深さ測定法として 有効な手法であることが明らかとなった。 NISA-163a05-2(2005) 関西電力(株)プレスリリース:大飯発電所3号機 の定期検査状況について(原子炉容器 A ループ 出口管台溶接部の傷の原因と対策), (2008.9.26) 平澤泰治:原子力プラント用フェーズドアレイ 超音波探傷技術, 東芝レビュー, Vol.60, No.10, pp.48(2005) - 66 -“ “?ニッケル基合金溶接部の欠陥深さサイジングに対するフェーズドアレイ UT 法の適用性評価 “ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI
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