漏えい磁束密度による照射損傷評価のための測定技術の改良

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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
現在、独立行政法人日本原子力研究開発機構で開 発中である高速増殖炉の原子炉容器や冷却系機器 (配管等)の構造材料は、設計寿命が 60年と長期間 使用され交換が困難なものである。構造材料の特性 の経年評価や健全性確保のためには、照射等による 損傷の進行を監視し、適切な管理を行うことが重要 となる。これまでの研究により、原子炉容器に用い られるオーステナイト系ステンレス鋼(常磁性体) について、変形の初期や照射下で変化した磁気特性 を試験片表面から漏えいする磁束密度で検出し、材 「料の特性変化を評価できる可能性が示されている [1-3]。一方、冷却系機器には強磁性体である高クロ ム鋼が用いられていることから、強磁性体に対する 従来着磁技術の適用性及び材料の特性変化による磁 気特性変化の検出可能性を確認する必要がある。そこで、本研究では、強磁性体の非照射試験片を 用いて、測定対象物の磁性に影響されない新たな着 磁器及び適切な着磁方法の開発を行った。また、磁 束密度を測定するセンサの測定精度を保証するため に、センサの較正方法の開発を行った。併せて、高 クロム鋼の中性子照射材へ開発した技術を適用し、 漏えい磁束密度の測定を行った。
2. 着磁方法の開発 2.1 供試材 * 供試材には、強磁性体である高クロム系フェライ ト鋼の HCM12A を用いた。化学組成を表1に示す。 また、試験片形状を図1に示す。試験片は3種類調 製しており、後述する 2.2.1 に用いた試験片1は 17 ×5×t0.3mm、2.2.2 に用いた試験片2は 6.9×4.8× t1.7mm、試験片3は 21.3×20.2×t1.7mm である。ま た、試験片2及び3は、焼きならしとして 1050°Cで 1.05 時間保持後空冷、焼き戻しとして 770°Cで 7.03 時間保持後空冷を行った。
Fig. 1 Dimensions of the sample.2.2 着磁方法の開発 2.2.1 従来の着磁方法従来の方法による着磁は、以下の手順で行ってい る。まず、試験片を変動交流磁場により消磁する。 次に、上下一対の永久磁石で構成された着磁器の間 に試験片を差し込み、着磁器の中心で保持する。着 磁の際の模式図を図2に、着磁器の写真を図3に示 す。保持位置における磁場強度は、約 0.3/ u o Alm で ある。これにより、漏えい磁束密度の測定面に対して垂 直方向に着磁する。垂直方向に着磁することで、材 料表面から漏えいする磁束密度の検出値を高めるこ とができ、また、試験片の着磁方向を同一に揃える ことで漏えい磁束密度の定量的な比較が可能となる。上記の方法で着磁を行った試験片の漏えい磁束密 度分布は、フラックスゲートセンサ(以下、「FG セ ンサ」という。)を取り付けた磁束密度測定装置によ り、試験片の測定面にセンサを近接させ、走査させ て測定した。測定の際の模式図を図4に示す。Z軸 の近接間隔(Lift off) は 0.5~数 mm、XY 軸走査間 隔は 0.1~1.0 mm で測定を行った。FG センサは、外 筒内の端部に1ヶ収納されており、サイズが 1.0×0.3 ×0.9 mm、分解能が 1 T のものを用いた。また、 測定の際は、磁気シールドで装置全体を覆い外部磁 場を遮断した - 強磁性体の試験片1に着磁した際の漏えい磁束密 度の測定結果を図5に、模式図を図6に示す。図5 より、試験片が垂直方向に着磁されていないことが わかる。これは、図6に示したように、従来法は強 磁性体である試験片を磁力線に直交して移動させる ため、試験片を着磁器から引き出す際に着磁方向が 変化したと考えられる。なお、これまで行ってきた、 オーステナイト系ステンレス鋼(常磁性体)の試験 片に対しては、従来の着磁方法を適用しても、顕著 に着磁方向が変化する問題は生じていない。以上のように従来の着磁方法では強磁性体への適 切な着磁が困難であることから、強磁性体に対して も適切な着磁が可能な新たな着磁方法の開発を行った。
ferromagnetic specimen.2.2.2 着磁方法の改良 - 従来の着磁方法に替わる方法として、開発した新 たな着磁器(以下、「点状着磁器」という。)を図 7 に、着磁の際の模式図を図8に示す。点状着磁器は、 樹脂の先端に小2×H2.3 mm の円柱形永久磁石を埋 め込み製作したものであり、その表面の磁場強度は 従来と同様の約 0.3/ uo A/m である。点状着磁器は、 測定対象物表面に近接させることで局所的な着磁 (以下、「点状着磁」という。)が可能であり、且つ 測定対象物表面に対して垂直に動かすことで磁力線 に沿った動きとなるため、着磁方向の変化を小さく することができる。非照射試験片2の測定面中心の 垂直方向に点状着磁を行った際の漏えい磁束密度の 測定結果を図 9 に示す。測定には、2.2.1 で述べた FG センサを使用する方式を適用した。先に示した従 来の着磁結果(図 5)と異なり、適切に測定面の垂 直方向に着磁することができた。これにより、強磁 性体について、漏えい磁束密度が測定可能であるこ とを確認できた。ここで、点状着磁により着磁される範囲が試験片 サイズよりも広い場合、試験片のサイズにより磁化 量が異なるため、漏えい磁束密度測定結果の相互比 較が困難となる。そこで、点状着磁による着磁範囲を把握するため、サイズの異なる非照射試験片3に ついても測定面中心に点状着磁を行い、漏えい磁束 密度の測定を行った。点状着磁した結果は図 10 に示 す。図9と図 10 の比較からわかるように、大片であ る試験片3は、点状着磁による着磁範囲に比べて十 分に大きいことから、無限平板状態として取扱可能 であると考えられる。Permanent magnet | Fig. 7 Newly developed magnetizer.Lift up magnetizer after magnetizingMZ-axisNew magnetizerClose to specimenートするTest specimenV-axisX-axis Fig. 8 Schematic diagram of new magnetizing method.-100 -125 --150Y-axis(0.2mm/div) X-axis (0.2mm/div) Fig.9 Leakage magnetic flux density offerromagnetic specimen by new magnetizing method.
Leak magnetic flux density (uT)Y-axis (1mm/div)X-axis (Imm/div)Fig. 10 Leakage magnetic flux density oflarge test specimen.ここまた、測定した大小の試験片の漏えい磁束密度に ついて、そのピーク位置における断面図を図 11 に示 す。大小の試験片の漏えい磁束密度ピーク値が等し いことから、磁化量が等しいことが示唆された。こ のことから、着磁範囲は、試験片2の短辺を直径と する円と同じ範囲か、もしくは狭い範囲であると考 えられる。よって、小5 mm 以上の試験片の中心に 着磁することで試験片サイズに依存せず、漏えい磁 束密度の相互比較が可能であることが示唆される。 また、小5 mm の微小な試験片を活用することによ り、原子炉内等の照射スペースの有効利用及び照射 後の取扱い放射能量の低減を図ることが可能となる。 1 将来的に目指している、実機の漏えい磁束密度の 直接測定に対する点状着磁器の適用性を考えると、 点状着磁器の特長である着磁範囲 (小5 mm 未満) 及び永久磁石サイズ ( 2 mm)が小さいこと並びに 片面から近接させるだけで簡便に着磁できることか ら、従来に比較して適用の可能性は高く、特に、配 管等の曲面箇所、従来の着磁器が入らない狭隘箇所 及び溶接部等の局部的検査を要する箇所への適用が 想定される。また、小型永久磁石は安価に入手可能 であることから、実機への着磁についても、開発し た着磁方法を用いれば安価に実現可能と思われる。
Small test specimenLeak magnetic flux density (uT)日 -120 意 -140 -10.0 -7.5 -5.0 -2.5 0.0 2.5 5.0 7.5 10.0Measurement position (mm) Fig. 11 Comparison of leakage magnetic flux density between large and small test specimenat peak position.3. FG センサの較正方法の開発漏えい磁束密度の測定に用いる FG センサは、検 知した磁束密度を電圧として出力することから、FG センサの出力電圧を磁束密度に変換するための検量 線を構築する必要がある。そのため、任意の均一な 磁場領域を発生させることができるヘルムホルツコ イル及びゼロ点較正時の地磁気や外部磁場の影響を 可能な限り低く抑えるためのパーマロイ製のチャン バー(以下、「ゼロ磁場チャンバー」という。)を製 作した。それぞれの外観写真を図 12 に示す。これら の装置は、ホットセル内で使用するため、マニピュ レータを用いた遠隔操作で簡便な取り扱いが可能な ように、吊り紐や把持用の面取り部及び専用架台等 を有した構造とした。また、ヘルムホルツコイルの 電源ユニットは、放射線による劣化抑制、操作の容 易さ、廃棄の際の放射性廃棄物量の低減のために、 ホットセル外の操作室に設置した。 - 検量線は、線形範囲内について一次式「Y(UT)= aX(mV)-b」 で構築した。検量線の傾き a は、ヘル ムホルツコイルに線形範囲限界の磁場±150 μT を 印加した際のセンサ出力電圧から求めた。また、切 片bは、ゼロ磁場チャンバーを用いて磁場ゼロの際 のセンサ出力電圧から求めた。地磁気等、その時々 で変化する環境の磁場は予め測定しておき、試験片 の測定結果から減算することでその影響を除いて評 価することができる。併せて、FGセンサ製造時に構築した検量線 (2004 年)と新たに構築したものとの差異を確認するため、 検量線の比較を行った。図 13 に比較結果を示す。検 量線の±150 μT の範囲において、製造時のものは 新たに構築したものに比べ、+側で 3 μT、一側で 11 μT の差があった。一般に、センサの感度は使用 しているうちに製作当初とのズレが生じることが知 られている。FG センサ感度のズレに備えて、適宜、 検量線を更新することが必要である。 - 今回開発した FG センサの較正方法は、比較的簡 便な手法である。従って、磁束密度測定の精度向上 のために FG センサの較正頻度を高めることは、合 理的である。また、本較正方法は、ホットセル外に 設置されている FG センサにも適用可能であること を確認できており、汎用性が高いといえる。Fig. 12 Photograph of helmholtz coil (left) andzero magnetic field chamber (right).861
Output voltage of flux gate sensor (mV) Fig.13 Comparison of new and manufactured calibration curve.4.照射材の漏えい磁束密度測定結果 * 上記の改良手法を用いて、照射試験片の中心に点 状着磁を行い、漏えい磁束密度の測定を行った。 - 試験片の中性子照射試験は、独立行政法人日本原 子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」及び研究用 実験炉「JRR-3」を用いて、各炉での単独照射及び 両炉を用いた組み合わせ照射を実施したものである。 照射試験の雰囲気は、不活性ガス(Ar、He)中とし た。弾き出し損傷量は、0.11~1.54 dpa であり、照射 温度は、約 450~600 °Cである。試験片の組成、形 状は、2.1 項の試験片2に示すものと同様である。 - 弾き出し損傷量と漏えい磁束密度ピーク値との関 係を図 14 に示す。弾き出し損傷量が増加するに伴い、 漏えい磁束密度ピーク値が低下する傾向であること が有意に確認できる。Leak magnetic flux density
Dose (dpa) Fig.14 Relation between dose and leakage magnetic flux density.ここで、高橋ら[4]は、材料の磁気特性を示す磁化 曲線について、強磁性体である A533B 鋼(改良 Mn-Mo 鋼、軽水炉の代表的な圧力容器鋼)の試験片 に0MPa、550 MPa 及び 663 MPa の引張応力を生じ させて、それぞれの磁化曲線を測定しており、引張 応力による材料内の微視的な変化で残留磁化が低下 する傾向を示している。残留磁化は着磁後の材料の磁化量であり、一方、 漏えい磁束密度は着磁後の材料から漏えいする磁束 密度であることから両者には密接に関係があり、漏えい磁束密度も磁化曲線同様に材料内の微視的な変 化と関係していると考えられる。このことから、デ ータ数は限られているものの、図 14 は、照射下での 微視的な変化を新たに開発した漏えい磁束密度測定 手法を用いて検知できたことを示唆している可能性 がある。以上のことから、強磁性体の漏えい磁束密 度を測定することにより、常磁性体と同様に、照射 下での材料特性変化の評価が可能であると考えられる。今後は、漏えい磁束密度からの損傷評価方法の確 立に向けて、漏えい磁束密度の変化と損傷量との定 量的相関関係を記述するモデルの開発を進めていく 予定である。5.結言現在開発中である高速増殖炉の冷却系機器に用い られる強磁性体に対して、その漏えい磁束密度測定 が可能な点状着磁器及び点状着磁方法を新たに開発 した。点状着磁器は、測定対象物表面に近接させる ことで局所的に着磁し、且つ測定対象物表面に対し て垂直に動かすことで強磁性体に対しても適切に着 磁することができる。これにより、強磁性体に対し ても漏えい磁束密度の測定が可能となった。また、 05 mm 以上の試験片の中心に点状着磁することで 試験片サイズに依存せず、漏えい磁束密度の相互比 較が可能であることが示唆された。さらに、5mm の微小な試験片を活用することにより、原子炉内等 の照射スペースの有効利用及び照射後の取扱い放射 能量の低減を図ることが可能となる。将来的に目指 している実機の漏えい磁束密度の直接測定について、 点状着磁器は、着磁範囲及び永久磁石サイズが小さ いこと並びに片面から近接させるだけで簡便に着磁 できる特長を有していることから、従来に比較して 適用の可能性は高い。 - 併せて、磁束密度を測定する FG センサの較正に ついて、ホットセルでの遠隔操作性を有した較正用 装置(ヘルムホルツコイル及びゼロ磁場チャンバー) を用いた、比較的簡便で汎用性が高い較正方法も開 発した。開発した手法を用いて、強磁性体の照射試験片へ 点状着磁した結果、弾き出し損傷量が増加するに伴 い漏えい磁束密度ピーク値が低下する傾向が得られ た。一方、高橋らは引張応力を生じさせた強磁性体 の磁化曲線を測定しており、応力の発生により残留 磁化が低下する傾向を示している。漏えい磁束密度 と残留磁化は密接に関係していると考えられること から、前述の傾向は、照射下での特性変化を検知で きたことを示唆していると考えられる。このことか ら、強磁性体の漏えい磁束密度を測定することによ *り、照射下での材料特性変化の評価が可能であると 考えられる。[2]87 [2] 参考文献 [1] 永江ら,“オーステナイト系ステンレス鋼を対象とした損傷非破壊検出技術の開発”, サイク ル機構技報, No.14, p125-135, (2002.3)S.Takaya et al.:“Nondestructive Evaluation of neutron irradiation damage on austenitic stainless steels by measurement of magnetic flux density”, Proc. of the 17th International Conference onNuclear Engineering (2009) ICONE17-75215. [3] 上野ら,“原研-サイクル機構融合研究成果報告書 照射環境における原子炉構造材料の劣 化現象に関する研究”, JAERI-Research 2005-023,JNC TY9400 2005-013, (2005.9) [4] S.Takahashi et al.:“Magnetization curves ofplastically deformed Fe metals and alloys”, J. Appl. Phys. 87 (2000) 805.“ “?漏えい磁束密度による照射損傷評価のための測定技術の改良“ “今野 将太郎,Shotaro KONNO,高屋 茂,Shigeru TAKAYA,永江 勇二,Yuji NAGAE,山県 一郎,Ichiro YAMAGATA,小川 竜一郎,Ryuichiro OGAWA,赤坂 尚昭,Naoaki AKASAKA,西野入 賢治,Kenji NISHINOIRI
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