ポンプ軸受の不具合の大きさと電磁診断技術の信号との相関関係
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カテゴリ: 第7回
1. 緒言
電力自由化を迎え、発電設備の保守業務は、設備の 信頼性維持と経済性の同時追求が求められており、保 全方式も TBM(Time Based Maintenance:時間基準保全) に CBM(Condition Based Maintenance :状態監視保全) を複合させるなど、最適な保全方式が検討されている。 最適な保全方式を実施するためには、設備の劣化状態 を的確に把握できる設備診断技術が必要である。現在、 原子力発電所を含む原子力施設の保守現場では、振動 測定による機器の異常診断法が導入されつつある。振 動測定による機器監視は長い歴史を持っており、その データベースは膨大な量が蓄積され、カテゴリ化され ており、言わば、成熟した技術である。 * しかしながら、回転機器を対象とした振動測定では、 複数の回転体・欠陥が存在した場合の診断が困難であ ること、また、部位によっては振動測定データに異常 状態が反映されない場合もあること、等の課題に対し て解決に限界があると認識されている。そのため、こ れらの課題を解決できる回転機器に対する新たな状態 監視技術の開発が望まれている。新たな状態監視技術 である電磁診断技術を原子力発電所の回転機器に適用ファすることによって、早期に対策が可能となり、安全性 の確保のみならず、大きな経済的効果が期待されている。I-6電磁診断技術によって、ポンプ等の回転機の状態を 診断するためには、実際の不具合や欠陥と電磁診断技 術で得られる信号との相関関係のデータベースが不可 欠である。この論文では、まず電磁診断技術の基本的 な原理を述べ、電磁診断装置の構成について簡単に紹 介する。次に、電磁診断及び振動診断により、実機ポ ンプ(横型渦巻きポンプ)に 1.2mm~4.5mm の範囲で スリット加工を付与した軸受を装着したデータを取得 し、傷幅と信号の相関関係を明確化する。本電磁診断 技術の有効性を示し、実際に適用したこれらの経験か ら明らかになった本装置を高度化するための課題につ いて整理する。
2. 装置概要
2.1 測定の原理 電磁診断技術は、磁場中を導体が運動するとその導 体を含む閉回路に起電力が発生するという原理を応用 したものである。発生した起電力によって生ずる渦電 流が作る磁場をピックアップコイルで起電力として検 出する。その導体に不具合があると、この渦電流の流 れが正常の場合と異なるので、回転体等の異常を定量 的に検出することができる。-89電磁診断技術の測定原理原理-UxB%3D起電力。ピックアップコイルKenビンズインターンクリートve/clined weationeman日:磁石による磁束密度回転軸U:回転体の回転速度J:BとUによる渦電流回転体・姫号中を導体が回転・導体内に誘導起電力を生し為電流が活専 ・振動や欠陥による渦電流の変化ー場センサで計測。図1 原理図1に示すように導電体が静磁場を横切ることで導 電体表面に渦電流が発生する。回転機器に外部より静 磁場が加えられている場合、ベアリングやインペラな どの回転体においても材質が導電体であれば回転体の 表層に渦電流が発生する。この渦電流は回転体の振動 や回転体のブレによって変化するので、この渦電流の 変化を磁場センサで捉えることで回転機の回転状態の わずかな変動をも診断することができる。2.2 電磁設備診断装置の概要 1電磁設備診断装置は、図2 に示すセンサと、図3 に 示す信号処理回路及び AID 変換カードを内蔵した PC から構成されている。電磁センサは、静磁場を与える ための永久磁石と回転体表面に発生した渦電流を捉え るためのコイルからなる。一般的な回転機における導 電体の回転は低周期なので表皮効果が小さい場合が多 く、導電体ケーシングの外側から磁場信号を通して回 転体の回転状態を検出することができる。軸受部の磨 耗・フレーキング・粉末固着といった異常を軸受部の 公転周期の変化や回転体の回転周期の変化として測定 することができる。回転異常を電磁信号として取り出 すことによって高精度で高度な設備診断が可能となる。 - 測定方法は、測定者が電磁センサを対象物である回 転体の回転部付近に配置し、アンプとフィルタを用い て検出コイルに誘導される電圧を加工し、その電圧を AD 変換器によって PC に取り込む。PC に取り込んだ データを精密診断(時間波形分析、周波数分析等)す ることで異常の有無、異常個所の特定が可能となる。 計測システムは信号を取り込むセンサであるプローブ、 DC アンプ及びアナログ信号をデジタル信号に変換する A/D 変換機、データ処理及びデータ蓄積用のパソコ ンから成り、そのブロック図を図4 に示す。図2 電磁センサの写真図3 電磁設備診断装置AnalogDigitalProbe...... PCDC AmplifierLow Pass | FiterRave DetaAND ConverterData File図4 計測システムブロック図903.実験結果3.1 試験軸受スリット加工した軸受はポンプのインペラ側の深溝 玉軸受 6306 で、スリット加工は内輪の1ヶ所である。 図5に軸受スリットの例を示す。スリットの加工には ダイヤモンドビットを用い、試験時に転動体がスリッ ト上を確実に通過するよう内輪転動面の軸方向に幅を 持たせた。Bearing111,42380m図5 軸受スリット(例)- スリットの転動面中心付近の幅は 1.2mm~4.5mm で、 計9個の試験軸受の測定を行った。表1に試験軸受と スリットの転動面中心付近の幅を纏めたものを示す。 また、傷の中心付近だけを見ても傷幅は一様ではなく、 バラツキがあり、正確に傷幅が何 mm とはいうことが 出来ない。- R1 試験軸受とスリット幅 試験軸受番号 スリットの転動面中心付近の幅 Bearing11.42mm Bearing21.95mm Bearing34.50mm Bearing41.54mm Bearing52.22mm Bearing3.86mm Bearing71.25mm Bearing8|2.14mm Bearing94.29mm3.2 測定位置及び測定条件試験用ポンプ (図 6) は一般的な横型ポンプであり、 インペラと回転軸、それらを支える軸受とモータから なる。図7にセンサの設置位置を示す。図に示すように試 験軸受はインペラ側の軸受であるので、その軸受の円 周上で軸受までの距離が近い側面に電磁センサ及び振 動加速度センサを設置し測定を行った。モータカップリングポンプ図6 試験用ポンプ外観10,00000002 sensorBearing 5Impeller図7 センサ設置位置- 測定条件に関して、サンプリングレートは 20kHzで、 1回の測定時間は 10秒間である。LPF は 10kHz とし、 ゲインは 100 倍とした。- 91 -生信号-2000.050.10.15| 自己相関法 |-150.050.10.150.20.25図8 自己相関法を用いた傷の長さの推定MeasuredSignal| FFT ] | Band Pass Filter | FFFT |Filtered SignalFiltered Signalabsolute valueEnvelopeautocorrelationAutocorrelationcoefficients図9 信号処理手順3.3 信号処理及び分析手法図8に自己相関法を用いた傷の長さの推定方法の概 念図を示す。図に示すように軸受転動面に傷が発生し、 転動体がその傷上を通過する際に、傷の入口と出口で 軸受は大きく振動する。傷の入口及び出口と転動体が 衝突する際の電磁及び振動加速度信号は数 kHz の信号 で、軸受の固有振動数に対応している。傷の長さを推 定する為には傷の入口から出口までの時間差を特定で きれば良いが、実際の測定結果の生信号には電源ノイ ズや他の振動ノイズが含まれており特定し辛い。その 為、測定された生信号からノイズ等を取り除き、その 信号の包絡線を取り、その包絡線処理した結果の自己相関係数を算出することで傷信号を確認し易くする。 軸回転周波数が一定であれば、内輪の回転速度や転動 体の公転速度等は幾何学的に算出可能であり、その傷 を通過する時間を推定することで、軸受転動面の傷の 幅を推定することが可能となる。 . 次に、信号処理の流れを説明する。図9に示すよう に電磁センサ及び振動加速度の生信号を FFT 処理し、 バンドパスフィルタにより傷信号を取り出す。取り出 した傷信号に対して絶対値処理をし、包絡線(エンベ ロープ)を取る。包絡線を取った信号には傷信号以外 の相関性の無いノイズが含まれている。この包絡線の 自己相関係数を算出することで相対的に相関性の無い-92ノイズは小さくなり、傷入り口と傷出口の信号の変化 が見やすくなる。傷幅の推定次に、深溝玉軸受 6306 の内輪に傷がある場合に傷幅 を推定するのに必要な内輪上を転動体が進む距離と時 間の関係を算出する。深溝玉軸受 6306 内輪転動面直径 39.8mm 玉数 8個 軸回転周波数 29.4Hz1 内輪転動面 円周39.8mm × 元%3D125.04 mm 2 内輪と転動体が接触している点と点との 円周上の距離125.04 mm/8個= 15.63 mm 38個の転動体が内輪の一点と接触する周波数FFT 結果の傷信号から 144 Hz 4 転動体が内輪上を 15.63 mm 進む時間は1/144Hz=0.0069 sec 5転動体が内輪上を 1.0mm 進む時間は10,0069sec / 15.63 =0.00044 sec以上の内輪上を転動体が進む距離と時間の関係と自 己相関法により、実際のスリット幅と電磁信号及び振 動加速度信号から推定されるスリット幅の関係を整理する。3.3 スリット幅と自己相関分析結果自己相関分析結果の例としてベアリング3(スリッ トの転動面中心付近の幅 4.50mm)の結果を示す。図 10、図 11 に試験軸受 3のスリット拡大写真と自己相関 分析結果を示し、表2にその自己相関分析によるスリ ット幅の推定値を示す。試験軸受 3の場合、人工傷幅(図 10)は約 4.50mm であり、電磁信号、振動加速度の自己相関分析結果 (図 11) は 1.9msec と 1.95msec で、その時の傷幅の推定値 (表2)はそれぞれ 4.28mm、4.39 となる。どちらの試 験軸受の推定値は電磁信号、振動加速度ともに多少の 誤差はあるものの実際の傷幅と良く一致する。Bearing314,5033mm、図 10 スリット拡大写真(bearing3)Normalized-envelope-autocorrelation1.0T~BPF 500Hz-5kHzMag- Vib0.84.........Autocorrelation coefficientsLILLI-0.410.030.0320.0360.0380.040.034Delay time(sec) 図 11 自己相関分析結果(bearing3)図11表2 自己相関分析推定値(bearing3) Bearing3 | 電磁振動加速度 時間差 1.9msec1.95msec 推定幅 4.28mm4.39mm以上の試験軸受 1~試験軸受 9 の試験結果を表3に 纏め、図 12 に電磁信号による推定値および振動加速度 による推定値と人工傷幅との比較した図を示す。電磁 信号による傷幅の推定値と振動加速度による推定値に 若干のずれはあるが、どちらも実際の傷幅と比較して 10%程度の誤差範囲内でよく一致した。93推定値(mm)ム振動加速度 ---実際の価格00 0.5 11.5 22.5 33.544.515人工傷幅(mm) 図 12 推定値と実際の傷幅の比較謝 本タ表3 推定値と実際の傷幅の比較 試驗軸受 電磁推定?」振動推定?」 人工傷幅(mm) (mm) (mm) Bearing1 1.24mm 1.58mm1.42mm Bearing2 1.80mm 1.80mm 1.95mm Bearing3 4.28mm 4.39mm 4.50mm Bearing4 1.69mm 1.69mm1.54mm Bearing5 2.03mm 2.03mm 2.22min Bearing6 特定できず 4.28mm3.86mmBearing71.01mm特定できず1.25mmBearing82.14mm2.25mm2.14mmBearing94.28mm4.28mm4.29mm4.まとめ以上の電磁及び振動加速度による軸受けに施したス リット幅の推定実験により、以下のことが分かった。傷幅が 1.25mm~4.50mm の範囲で電磁及び振動加 速度の推定値と実際の傷幅は高い相関性を示した。 電磁信号、振動加速度信号に対し自己相関法を用 いることにより軸受転動面の傷幅を推定できる。 軸受内で転動体と傷が衝突する現象を電磁と振動 で測定した結果、非常に似た信号が得られたが、 電磁と振動では測定手法が異なるため、推定値に 若干の違いが見られた。また、一方の測定手法で は傷幅を推定できない場合でも、もう一方の測定手法によって特定出来るケースもあった。このこ とから電磁と振動を同時に測定し比較検討するこ とでより高い信頼性を持って軸受傷の診断が可能 となる。 今回の実験に用いたポンプは訓練用のポンプであ るが、仕様等において実機ポンプと同等であると 考えられ、実機においても電磁と振動による複合 センサの適用により傷幅が推定出来る可能性は高 いと言える。「謝辞 本文中の試験結果に関して、電磁設備診断によるデー タ取得実験に全面的なご協力を頂きました四国電力株 式会社殿に感謝いたします。参考文献[1]黄皓宇, 宮健三, 遊佐訓孝, 小阪大吾. 回転体異常の電磁検出, 日本非破壊検査協会第 10 回表面探傷シンポジウ ム,東京都城南地域中小企業振興センター,2007/01/25-26. [2]小坂大吾、黄皓宇、遊佐訓孝、回転機器の電磁非破壊評価手法の検討 、日本保全学会第4回学術講演会、福井大学、2007/07/02-03. [3] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,2007/09/09-12. [4] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. Science and Technologyof Maintenance (Under review). [5] 萱田良、黄皓宇、遊佐訓孝、電磁診断技術による異物混入ベアリングの挙動測定、日本保全学会 第5回学術講演会 水戸市民会館 2008/7/10-12、産学・7 [6] 菅田良、石川達也、堀内隆夫、真木紘一、遊佐訓孝、ポンプ軸受及びインペラの不具合の大きさと電磁診断技 術の信号との相関関係、日本保全学会 第6回学術講演 会 ホテルニューオータニ札幌 2009/8/3-5、A-4-3.94“ “?ポンプ軸受の不具合の大きさと電磁診断技術の信号との相関関係“ “萱田 良,Ryo KAYATA,三好 剛正,Takemasa MIYOSHI,藤原 英起,Hideki FUJIWARA
電力自由化を迎え、発電設備の保守業務は、設備の 信頼性維持と経済性の同時追求が求められており、保 全方式も TBM(Time Based Maintenance:時間基準保全) に CBM(Condition Based Maintenance :状態監視保全) を複合させるなど、最適な保全方式が検討されている。 最適な保全方式を実施するためには、設備の劣化状態 を的確に把握できる設備診断技術が必要である。現在、 原子力発電所を含む原子力施設の保守現場では、振動 測定による機器の異常診断法が導入されつつある。振 動測定による機器監視は長い歴史を持っており、その データベースは膨大な量が蓄積され、カテゴリ化され ており、言わば、成熟した技術である。 * しかしながら、回転機器を対象とした振動測定では、 複数の回転体・欠陥が存在した場合の診断が困難であ ること、また、部位によっては振動測定データに異常 状態が反映されない場合もあること、等の課題に対し て解決に限界があると認識されている。そのため、こ れらの課題を解決できる回転機器に対する新たな状態 監視技術の開発が望まれている。新たな状態監視技術 である電磁診断技術を原子力発電所の回転機器に適用ファすることによって、早期に対策が可能となり、安全性 の確保のみならず、大きな経済的効果が期待されている。I-6電磁診断技術によって、ポンプ等の回転機の状態を 診断するためには、実際の不具合や欠陥と電磁診断技 術で得られる信号との相関関係のデータベースが不可 欠である。この論文では、まず電磁診断技術の基本的 な原理を述べ、電磁診断装置の構成について簡単に紹 介する。次に、電磁診断及び振動診断により、実機ポ ンプ(横型渦巻きポンプ)に 1.2mm~4.5mm の範囲で スリット加工を付与した軸受を装着したデータを取得 し、傷幅と信号の相関関係を明確化する。本電磁診断 技術の有効性を示し、実際に適用したこれらの経験か ら明らかになった本装置を高度化するための課題につ いて整理する。
2. 装置概要
2.1 測定の原理 電磁診断技術は、磁場中を導体が運動するとその導 体を含む閉回路に起電力が発生するという原理を応用 したものである。発生した起電力によって生ずる渦電 流が作る磁場をピックアップコイルで起電力として検 出する。その導体に不具合があると、この渦電流の流 れが正常の場合と異なるので、回転体等の異常を定量 的に検出することができる。-89電磁診断技術の測定原理原理-UxB%3D起電力。ピックアップコイルKenビンズインターンクリートve/clined weationeman日:磁石による磁束密度回転軸U:回転体の回転速度J:BとUによる渦電流回転体・姫号中を導体が回転・導体内に誘導起電力を生し為電流が活専 ・振動や欠陥による渦電流の変化ー場センサで計測。図1 原理図1に示すように導電体が静磁場を横切ることで導 電体表面に渦電流が発生する。回転機器に外部より静 磁場が加えられている場合、ベアリングやインペラな どの回転体においても材質が導電体であれば回転体の 表層に渦電流が発生する。この渦電流は回転体の振動 や回転体のブレによって変化するので、この渦電流の 変化を磁場センサで捉えることで回転機の回転状態の わずかな変動をも診断することができる。2.2 電磁設備診断装置の概要 1電磁設備診断装置は、図2 に示すセンサと、図3 に 示す信号処理回路及び AID 変換カードを内蔵した PC から構成されている。電磁センサは、静磁場を与える ための永久磁石と回転体表面に発生した渦電流を捉え るためのコイルからなる。一般的な回転機における導 電体の回転は低周期なので表皮効果が小さい場合が多 く、導電体ケーシングの外側から磁場信号を通して回 転体の回転状態を検出することができる。軸受部の磨 耗・フレーキング・粉末固着といった異常を軸受部の 公転周期の変化や回転体の回転周期の変化として測定 することができる。回転異常を電磁信号として取り出 すことによって高精度で高度な設備診断が可能となる。 - 測定方法は、測定者が電磁センサを対象物である回 転体の回転部付近に配置し、アンプとフィルタを用い て検出コイルに誘導される電圧を加工し、その電圧を AD 変換器によって PC に取り込む。PC に取り込んだ データを精密診断(時間波形分析、周波数分析等)す ることで異常の有無、異常個所の特定が可能となる。 計測システムは信号を取り込むセンサであるプローブ、 DC アンプ及びアナログ信号をデジタル信号に変換する A/D 変換機、データ処理及びデータ蓄積用のパソコ ンから成り、そのブロック図を図4 に示す。図2 電磁センサの写真図3 電磁設備診断装置AnalogDigitalProbe...... PCDC AmplifierLow Pass | FiterRave DetaAND ConverterData File図4 計測システムブロック図903.実験結果3.1 試験軸受スリット加工した軸受はポンプのインペラ側の深溝 玉軸受 6306 で、スリット加工は内輪の1ヶ所である。 図5に軸受スリットの例を示す。スリットの加工には ダイヤモンドビットを用い、試験時に転動体がスリッ ト上を確実に通過するよう内輪転動面の軸方向に幅を 持たせた。Bearing111,42380m図5 軸受スリット(例)- スリットの転動面中心付近の幅は 1.2mm~4.5mm で、 計9個の試験軸受の測定を行った。表1に試験軸受と スリットの転動面中心付近の幅を纏めたものを示す。 また、傷の中心付近だけを見ても傷幅は一様ではなく、 バラツキがあり、正確に傷幅が何 mm とはいうことが 出来ない。- R1 試験軸受とスリット幅 試験軸受番号 スリットの転動面中心付近の幅 Bearing11.42mm Bearing21.95mm Bearing34.50mm Bearing41.54mm Bearing52.22mm Bearing3.86mm Bearing71.25mm Bearing8|2.14mm Bearing94.29mm3.2 測定位置及び測定条件試験用ポンプ (図 6) は一般的な横型ポンプであり、 インペラと回転軸、それらを支える軸受とモータから なる。図7にセンサの設置位置を示す。図に示すように試 験軸受はインペラ側の軸受であるので、その軸受の円 周上で軸受までの距離が近い側面に電磁センサ及び振 動加速度センサを設置し測定を行った。モータカップリングポンプ図6 試験用ポンプ外観10,00000002 sensorBearing 5Impeller図7 センサ設置位置- 測定条件に関して、サンプリングレートは 20kHzで、 1回の測定時間は 10秒間である。LPF は 10kHz とし、 ゲインは 100 倍とした。- 91 -生信号-2000.050.10.15| 自己相関法 |-150.050.10.150.20.25図8 自己相関法を用いた傷の長さの推定MeasuredSignal| FFT ] | Band Pass Filter | FFFT |Filtered SignalFiltered Signalabsolute valueEnvelopeautocorrelationAutocorrelationcoefficients図9 信号処理手順3.3 信号処理及び分析手法図8に自己相関法を用いた傷の長さの推定方法の概 念図を示す。図に示すように軸受転動面に傷が発生し、 転動体がその傷上を通過する際に、傷の入口と出口で 軸受は大きく振動する。傷の入口及び出口と転動体が 衝突する際の電磁及び振動加速度信号は数 kHz の信号 で、軸受の固有振動数に対応している。傷の長さを推 定する為には傷の入口から出口までの時間差を特定で きれば良いが、実際の測定結果の生信号には電源ノイ ズや他の振動ノイズが含まれており特定し辛い。その 為、測定された生信号からノイズ等を取り除き、その 信号の包絡線を取り、その包絡線処理した結果の自己相関係数を算出することで傷信号を確認し易くする。 軸回転周波数が一定であれば、内輪の回転速度や転動 体の公転速度等は幾何学的に算出可能であり、その傷 を通過する時間を推定することで、軸受転動面の傷の 幅を推定することが可能となる。 . 次に、信号処理の流れを説明する。図9に示すよう に電磁センサ及び振動加速度の生信号を FFT 処理し、 バンドパスフィルタにより傷信号を取り出す。取り出 した傷信号に対して絶対値処理をし、包絡線(エンベ ロープ)を取る。包絡線を取った信号には傷信号以外 の相関性の無いノイズが含まれている。この包絡線の 自己相関係数を算出することで相対的に相関性の無い-92ノイズは小さくなり、傷入り口と傷出口の信号の変化 が見やすくなる。傷幅の推定次に、深溝玉軸受 6306 の内輪に傷がある場合に傷幅 を推定するのに必要な内輪上を転動体が進む距離と時 間の関係を算出する。深溝玉軸受 6306 内輪転動面直径 39.8mm 玉数 8個 軸回転周波数 29.4Hz1 内輪転動面 円周39.8mm × 元%3D125.04 mm 2 内輪と転動体が接触している点と点との 円周上の距離125.04 mm/8個= 15.63 mm 38個の転動体が内輪の一点と接触する周波数FFT 結果の傷信号から 144 Hz 4 転動体が内輪上を 15.63 mm 進む時間は1/144Hz=0.0069 sec 5転動体が内輪上を 1.0mm 進む時間は10,0069sec / 15.63 =0.00044 sec以上の内輪上を転動体が進む距離と時間の関係と自 己相関法により、実際のスリット幅と電磁信号及び振 動加速度信号から推定されるスリット幅の関係を整理する。3.3 スリット幅と自己相関分析結果自己相関分析結果の例としてベアリング3(スリッ トの転動面中心付近の幅 4.50mm)の結果を示す。図 10、図 11 に試験軸受 3のスリット拡大写真と自己相関 分析結果を示し、表2にその自己相関分析によるスリ ット幅の推定値を示す。試験軸受 3の場合、人工傷幅(図 10)は約 4.50mm であり、電磁信号、振動加速度の自己相関分析結果 (図 11) は 1.9msec と 1.95msec で、その時の傷幅の推定値 (表2)はそれぞれ 4.28mm、4.39 となる。どちらの試 験軸受の推定値は電磁信号、振動加速度ともに多少の 誤差はあるものの実際の傷幅と良く一致する。Bearing314,5033mm、図 10 スリット拡大写真(bearing3)Normalized-envelope-autocorrelation1.0T~BPF 500Hz-5kHzMag- Vib0.84.........Autocorrelation coefficientsLILLI-0.410.030.0320.0360.0380.040.034Delay time(sec) 図 11 自己相関分析結果(bearing3)図11表2 自己相関分析推定値(bearing3) Bearing3 | 電磁振動加速度 時間差 1.9msec1.95msec 推定幅 4.28mm4.39mm以上の試験軸受 1~試験軸受 9 の試験結果を表3に 纏め、図 12 に電磁信号による推定値および振動加速度 による推定値と人工傷幅との比較した図を示す。電磁 信号による傷幅の推定値と振動加速度による推定値に 若干のずれはあるが、どちらも実際の傷幅と比較して 10%程度の誤差範囲内でよく一致した。93推定値(mm)ム振動加速度 ---実際の価格00 0.5 11.5 22.5 33.544.515人工傷幅(mm) 図 12 推定値と実際の傷幅の比較謝 本タ表3 推定値と実際の傷幅の比較 試驗軸受 電磁推定?」振動推定?」 人工傷幅(mm) (mm) (mm) Bearing1 1.24mm 1.58mm1.42mm Bearing2 1.80mm 1.80mm 1.95mm Bearing3 4.28mm 4.39mm 4.50mm Bearing4 1.69mm 1.69mm1.54mm Bearing5 2.03mm 2.03mm 2.22min Bearing6 特定できず 4.28mm3.86mmBearing71.01mm特定できず1.25mmBearing82.14mm2.25mm2.14mmBearing94.28mm4.28mm4.29mm4.まとめ以上の電磁及び振動加速度による軸受けに施したス リット幅の推定実験により、以下のことが分かった。傷幅が 1.25mm~4.50mm の範囲で電磁及び振動加 速度の推定値と実際の傷幅は高い相関性を示した。 電磁信号、振動加速度信号に対し自己相関法を用 いることにより軸受転動面の傷幅を推定できる。 軸受内で転動体と傷が衝突する現象を電磁と振動 で測定した結果、非常に似た信号が得られたが、 電磁と振動では測定手法が異なるため、推定値に 若干の違いが見られた。また、一方の測定手法で は傷幅を推定できない場合でも、もう一方の測定手法によって特定出来るケースもあった。このこ とから電磁と振動を同時に測定し比較検討するこ とでより高い信頼性を持って軸受傷の診断が可能 となる。 今回の実験に用いたポンプは訓練用のポンプであ るが、仕様等において実機ポンプと同等であると 考えられ、実機においても電磁と振動による複合 センサの適用により傷幅が推定出来る可能性は高 いと言える。「謝辞 本文中の試験結果に関して、電磁設備診断によるデー タ取得実験に全面的なご協力を頂きました四国電力株 式会社殿に感謝いたします。参考文献[1]黄皓宇, 宮健三, 遊佐訓孝, 小阪大吾. 回転体異常の電磁検出, 日本非破壊検査協会第 10 回表面探傷シンポジウ ム,東京都城南地域中小企業振興センター,2007/01/25-26. [2]小坂大吾、黄皓宇、遊佐訓孝、回転機器の電磁非破壊評価手法の検討 、日本保全学会第4回学術講演会、福井大学、2007/07/02-03. [3] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,2007/09/09-12. [4] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. Science and Technologyof Maintenance (Under review). [5] 萱田良、黄皓宇、遊佐訓孝、電磁診断技術による異物混入ベアリングの挙動測定、日本保全学会 第5回学術講演会 水戸市民会館 2008/7/10-12、産学・7 [6] 菅田良、石川達也、堀内隆夫、真木紘一、遊佐訓孝、ポンプ軸受及びインペラの不具合の大きさと電磁診断技 術の信号との相関関係、日本保全学会 第6回学術講演 会 ホテルニューオータニ札幌 2009/8/3-5、A-4-3.94“ “?ポンプ軸受の不具合の大きさと電磁診断技術の信号との相関関係“ “萱田 良,Ryo KAYATA,三好 剛正,Takemasa MIYOSHI,藤原 英起,Hideki FUJIWARA