電磁診断技術による転がり軸受の劣化進展過程の計測及び診断
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カテゴリ: 第7回
1.緒言
保全合理化の観点からCBM(Condition Based Maintenance: 状態監視保全)の重要性が高まる中、 設備の劣化とその進展過程を正確に診断する技術が 求められている。従来の振動診断や油分析等を補完 する新たな技術として、電磁診断技術が挙げられる [1-5] 原子力施設を含むプラントでは、ポンプをはじ めとする種々の回転機器が存在するが、電磁診断技 術はそれらを振動とは全く異なる原理で測定出来る ことに特徴がある。 - 本研究は、電磁診断技術の劣化診断への適用性研 究の一環として実施したもので、回転機器の主要な 劣化部位の1つである軸受に対し、損傷量の定量的 評価手法の確立と劣化特性の把握を目的として行わ れた。電磁診断技術は、転がり玉軸受の内外輪に人 工的に付与したスリット傷について、その傷幅を正 確に推定できることが示されている。この成果を 踏まえ本研究では、健全な軸受を用いて劣化加速試 験を行い、損傷を発生、進展させ、その過程の損傷 量を推定することで損傷の進展状況の可視化を行っ た。この際、傷のサイジング手法として、6で用い られた「自己相関法」とともに、特定周波数帯のRMS
(Root-Means-Square value :実効値)の増減から傷の 長さを推定する「RMS法」を新たに考案し適用した。 2.電磁診断技術の原理電磁センサは、永久磁石等の静磁場印加部とコイ ル等の変動磁場検出部よりなる。静磁場中を導電体 が通過したとき、導電体に誘導起電力が生じ発生す る渦電流を捉える(Fig.1)。連絡先: 馬渡慎吾,〒039-3212 青森県上北郡六 ヶ所村大字尾駿字沖付、日本原燃株式会社、再処理 事業部、電話:0175-71-2335, shingo.mawatari@jnfl.co.jp周期性を有する回転体のベアリングやインペラに、 外部から電磁センサを当てることで、誘導起電力の 変化を捕捉し、劣化診断するものである。 Ball bearingStatic magnetic fieldEddy currentEM sensor (Coil + Magnet)周期性を有する回転体のベアリングやインペラに、 外部から電磁センサを当てることで、誘導起電力の 変化を捕捉し、劣化診断するものである。 Ball bearingStatic magnetic fieldEddy currentEM sensor (Coil + Magnet)Fig. 1 Principle of Electromagnetic Detection3.劣化加速試験、 3.1 試験方法* Fig.2 に劣化加速試験装置を示す。試験方法として、 劣化加速試験機を用いて新品の自動調心玉軸受(複 列) 1204 に 1200kgf の荷重をかけて運転し、初期損 傷を発生させる。その時点で一度試験機を止め軸受 を取り外し、損傷の状態を確認する。次に再び軸受 を試験機に戻し、荷重を下げて運転し、損傷を進展 させる。振動加速度が 5G に到達した時点で試験終 了とする。試験開始から終了まで、軸受ケーシング 部に設置した電磁センサにより信号を取得する。損 傷発生後の荷重を4通り変えて試験を行った (Fig.3)。Fig.2 に劣化加速試験装置を示す。試験方法として、 劣化加速試験機を用いて新品の自動調心玉軸受(複 列)1204 に 1200kgf の荷重をかけて運転し、初期損 傷を発生させる。その時点で一度試験機を止め軸受 を取り外し、損傷の状態を確認する。次に再び軸受 を試験機に戻し、荷重を下げて運転し、損傷を進展 させる。振動加速度が 5G に到達した時点で試験終 了とする。試験開始から終了まで、軸受ケーシング 部に設置した電磁センサにより信号を取得する。損 傷発生後の荷重を4通り変えて試験を行った (Fig.3)。
Hectromagnetic sensorVibration sensorEM sensorLoadBaring caFig.2 Accelerated aging test machine and sensor placement軸受仕樣種類:複列自動調心玉軸受1204 動定格荷重:1020kgf 強制潤滑方式の循環給油潤滑方式軸回転周波数40Hz荷重純ラジアル荷重 初期損傷発生までは全て1200kgf 試験No.1: 1125kgf 試験No.2: 975kgf 試験No.3: 825kgf 試験No.4: 450kgf 直径:20mm 巻き数、 :500ターン 磁束密度:0.5T電磁センサ仕様Fig.3 EM(Electromagnetic) sensor and details of test conditions3.2 試験結果試験 No.1(初期損傷後荷重 1125kgf) を例に試験 結果を示す。荷重 1200kgf で運転を開始、60 分後に 初期損傷が発生した。その後荷重を 1125kgf に下げ 運転を再開し、40 分後に振動加速度が 5G に達した 後、試験を終了した。Fig 4 に電磁信号の RMS を示 す。尚、RMS は、損傷発生前の平均値を1とした比 で表している。試験結果から、初期損傷の発生後、 RMS が急激に増加しており、損傷の発生を検知して いることが確認できる。また、この傾向は、全ての 試験条件にて同様の結果を得ている。 * Fig 5 に初期損傷発生時と試験終了時の軸受外輪 の損傷状況を示す。初期損傷は外輪のスポット状の 傷が確認できるが、試験終了時には 42.5° (以下傷 の長さは角度を用いて表す)まで進展し、さらに 2 列目にも剥離が発生していた。また、外輪以外の軸 受の構成部品にて損傷が確認されなかった。その他 の試験条件についても、最終的な損傷量の違いはあるものの、初期損傷時に外輪のスポット傷が発生し その後大きく進展するという損傷形態は共通であた。電磁AMSRMS(ratio)初期損傷発生1.0~Vレーベルリン・インタMiwaが・・・・
(b) at the end of the test Fig.5 Defects of outer race (Test No.1)3.3 自己相関法による傷の長さ推定Fig.6 に外輪剥離が発生した軸受の模式図を示す。 傷上を転動体が通過する際、傷の入口(a)と出口(b) で振動が発生する。この時得られる信号は Fig 7-1 の模式図のようになる。a と b の振動の時間差が分 かれば、転動体の公転速度を乗じることにより傷の 長さを定量的に評価することが出来る。 - aとbの時間差を求めるには、まず envelope 処理 により波形を単純化する(Fig.7-2)。さらに自己相関 係数をとることにより、周期性のない信号を除去し、 aとbの時間差を明瞭化することができる(Fig.7-3)。 自己相関係数は、信号を時間方向にシフトさせ、元 の信号と比較することにより、信号自体の周期性、 類似性を評価する指標である。横軸はシフトした時 間を表し、=0では元の波形と完全に一致するため、 当然のことながら最大値となる。模式図の包絡線を シフトしていった場合、=0 の次に大きくなるのは 傷入口に対応したピークが傷出口に対応したピーク と重なる時である。よって =0 のピークと次に現れ るピークの差から傷の長さに対応した時間間隔が求 められる。
Fig.8 (Test No.1) Autocorrelation methodFig.9 に試験 No.1 における自己相関法により得ら れた外輪傷進展曲線を示す。損傷発生後のどの時間 の信号についても自己相関法が適用できるわけでは なく、明瞭なピークが得られない場合もある。特に 傷が大きく成長した場合や複列に傷が発生した場合 は、波形が複雑になり、傷のサイジングが困難であ る。自己相関法は損傷の初期段階に適した推定手法 であると言える。97自己相関法による推定値35実測値外輪損傷量()・実測値一回+10017080 190 1時間(分) Fig.9 Evaluated damage progress by autocorrelation method (test No.1)3.4 RMS による傷の長さ推定-RMS 法自己相関法は損傷の初期段階で有用であるが、損 傷が大きく進展した場合、適用が困難である。より 大きなスケールの損傷量の推定法として、外輪傷の 固有周波数帯の RMS の増減により傷の進展を推定 する手法(RMS 法)を考案した。外輪島の固有周波 数とは、外輪の1点を転動体が通過する周波数であ り、外輪に傷が発生した場合、転動体が傷を通過す る度に振動が発生することにより、この周波数成分 が大きくなる。3.4.1 理論の仮定傷の長さが転動体間の距離に比べて十分に小さい 場合、Fig.10 上図に示す様に傷の内部に位置する転 動体は内輪の回転に伴って0個→1個と変動する。 一方、傷の長さが丁度転動体間の距離に等しい場合、 Fig.10 下図の様に、傷の内部に位置する転動体の数 は常に1個である。 * 外輪傷中に転動体が位置した場合、その転動体は 外輪との接触面積が減少するため、荷重を受ける割 合が減少する。その結果、その転動体と外輪傷の接 触部の縁の部分や、他の転動体に余分な荷重が加わ る事になる。このような応力分布の変動は転動体の 周期的な運動に影響を与えるものと考えられる。従 って、外輪傷中に転動体がある状態と無い状態の間 の遷移が、外輪傷の固有周波数程度で現れると考え られる。しかし、傷の長さが丁度転動体間の距離に等しい 場合には、傷内部に常に1つの転動体が位置する様 になり、軸受全体として見た場合の応力分布は安定 する事が予想される。従って先に述べた外輪傷の固 有周波数成分は減少する事になる。この仮説に基づけば、傷の長さが丁度転動体間の 距離に等しい時に、外輪傷の固有周波数帯 RMS は 極小値をとる。本試験に使用している軸受 1204 の場 合、傷の長さが 30°になった時がこれにあたる。ま た、傷の長さが倍の 60°になった場合についても、 傷上に存在する転動体が常に2つになることにより 極小値が現れ、以下同様に傷の長さが30°の整数倍 になるごとに同様の現象が起こるものと考えられる。傷の長さが小さい時には転動体の位置により、 「傷の中に位置する転動体の数」が変動する。1個0個傷の長さが丁度転動体の間の長さに達すると、 「傷の中に位置する転動体の数」は常に一定(1個)になる。Fig. 10 Relation between the length of the outer racedefect and the location of rotation elementsFig.11 に試験 No.1 における外輪傷固有周波数帯 (190-195Hz)の RMS を示す。試験開始 90 分に初 期損傷発生後の RMS にて極小値を示しており、こ の時点で傷が 30°に達したと推定できる。これは Fig.9 に示した自己相関法による外輪傷進展曲線に おいて傷が 30°に達する時間(推定値)と一致して いる。また試験終了時は2つ目の極大値の手前であ ることから、損傷量は45°より小さい程度と推定さ れるが、実際の外輪傷の長さは 42.5°であり (Fig.5)、 主要な傷の長さについて正しく推定できていること が分かる。
Fig. 11 RMS of the outer race defect frequency(test No.1, bandpass 190-195Hz)次に、その他の試験条件についても RMS 法から 試験終了時の損傷量を推定し、実際の損傷量と比較 することで本手法の適用性を検証する。
Fig. 12 RMS of the outer race defect frequency and Pictures after the test (190-195Hz)験 No.2~No.4 の外輪傷固有周波数帯 1験終了時の外輪傷の長さは60°程度と推定でき、実 _MSと試験終了時の外輪の様子を示す。 際の損傷量と比較して正しく推定出来ていることが 195Hz 帯 RMS(Fig11(a))から、試験終 分かる。 言の長さは60°程度と推定でき、実際の 以上のように全ての試験について RMS 法から試 して正しく推定出来ていることが分か 験終了時のおおよその損傷量が正しく推定できており、本手法が大きく進展した外輪剥離の長さを推定 の 195Hz 帯 RMS(Fig.12(b))から、試 する、有用な手法があることが示された。 →輪傷の長さは90°を越えた程度であ -、実際の損傷量と比較して、2列ある =損傷について正しく推定出来ているこFig.12 に試験 No.2~No.4 の外輪傷固有周波数帯(195Hz帯)RMSと試験終了時の外輪の様子を示す。 試験 No.2 の 195Hz帯 RMS (Fig11(a))から、試験終 了時の外輪傷の長さは60°程度と推定でき、実際の 損傷量と比較して正しく推定出来ていることが分かる。試験 No.3 の 195Hz 帯 RMS(Fig.12(b))から、試 験終了時の外輪傷の長さは90°を越えた程度であ ると推定でき、実際の損傷量と比較して、2列ある うちの主要な損傷について正しく推定出来ているこ とが分かる。試験 No.4 の 195Hz 帯 RMS (Fig.12(c))から、試 の 195Hz 帯 RMS (Fig.12(c))から、試
験終了時の外輪傷の長さは 60°程度と推定でき、実 際の損傷量と比較して正しく推定出来ていることが 分かる。 * 以上のように全ての試験について RMS 法から試 験終了時のおおよその損傷量が正しく推定できてお り、本手法が大きく進展した外輪剥離の長さを推定 する、有用な手法があることが示された。
初期損傷発生後の時間(分) Fig.13 Evaluated damage progressFig.13 に全ての試験について、自己相関法と RMS 法による推定値から作成した外輪傷進展曲線を示す。 図は各試験について初期損傷発生時を0分とし、初 期損傷発生後の傷の進展の様子を示している。複列 に損傷が発生した試験もあるが、はじめに発生した 片列のみを評価している。30°より小さい部分につ いては自己相関法による推定、30°以上の部分につ いては RMS 法による推定である。また各試験の右 端の点は試験終了時の実測値である。このように自己相関法と RMS 法により外輪傷の 進展状況を定量的に可視化することができた。傷の 進展は、試験 No.3 でやや加速度的に進展する傾向が 見られるものの、全体的には線形的な傾向にあるこ とが確認できる。次にこの曲線を線形近似した直線の傾きから、外 輪傷の進展速度を求める。Fig.14 に各試験の外輪傷 進展速度と荷重の関係を示す。
図から荷重が低くなるほど損傷進展速度が小さく なる傾向があることが分かる。これらの点の適切な 近似曲線をとることにより、荷重0に近い領域の損 傷進展速度を求めることができると考えられるが、 適切な近似曲線を定めるには、より低荷重領域で多 くのデータが必要であり、今後の研究課題と言える。4.まとめ * 転がり軸受の劣化加速試験を行い、軸受近傍に設 置した電磁センサで測定した。得られた電磁信号に 対し、自己相関法を適用し、損傷の初期段階におけ る傷のサイジングを行った。また、大きく進展した 外輪傷に対しては、外輪傷の固有周波数帯の RMS の増減に着目する手法(RMS 法)を構築し、これに より大きく進展した外輪傷のおおよその長さを推定 出来ることが示された。以上の手法から各試験の外 輪傷進展曲線を描くことにより、損傷の進展状況を 可視化することができた。損傷の進展は時間に対し て比較的直線的な傾向にあり、進展速度は荷重が低 くなるほど小さくなる傾向が見られた。より低荷重 におけるデータをとることにより、荷重0における 損傷進展速度を推定できると考えられる。 - 今後さらに複合的な損傷の評価手法や潤滑方式の 違いによる影響、軸受の種類の違いによる影響等に ついて検証する必要があるが、本研究で開発、適用 した損傷の評価手法と、軸受の損傷の進展特性に対 する知見は、余寿命評価手法を構築する上での基礎 になると考えられる。参考文献 [1] 黄皓宇、宮健三、遊佐訓孝、小坂大吾,回転体 - 異常の電磁検出, 日本非破壊検査協会第 10 回表面探傷シンポジウム、東京都城南地域中小企 業振興センター、2007/01/25-26 小坂大吾、黄皓宇、遊佐訓孝、回転機器の電磁 非破壊評価手法の検討、日本保全学会第4回学術講演会、福井大学、2007/07/02-03 [3] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,2007/09/09-12. [4] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. Science andTechnology of Maintenance (Under review). [5] 萱田良、黄皓宇、遊佐訓孝、電磁診断技術による異物混入軸受の挙動測定、日本保全学会 第 5回学術講演会 水戸市民会館 2008/7/10-12、産学-7 [6] 菅田良、馬渡慎吾、黄皓宇、ペランステファン、真木紘一、電磁診断技術による傷付与転がり軸 受の測定及び信号処理による傷大きさの推定 法、日本保全学会 第6回学術講演会 ホテル ニューオータニ札幌2009/8/3-5“ “?電磁診断技術による転がり軸受の劣化進展過程の計測及び診断“ “馬渡 慎吾,Shingo MAWATARI,角皆 学,Manabu TSUNOKAI,髙瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,萱田 良,Ryo KAYATA
保全合理化の観点からCBM(Condition Based Maintenance: 状態監視保全)の重要性が高まる中、 設備の劣化とその進展過程を正確に診断する技術が 求められている。従来の振動診断や油分析等を補完 する新たな技術として、電磁診断技術が挙げられる [1-5] 原子力施設を含むプラントでは、ポンプをはじ めとする種々の回転機器が存在するが、電磁診断技 術はそれらを振動とは全く異なる原理で測定出来る ことに特徴がある。 - 本研究は、電磁診断技術の劣化診断への適用性研 究の一環として実施したもので、回転機器の主要な 劣化部位の1つである軸受に対し、損傷量の定量的 評価手法の確立と劣化特性の把握を目的として行わ れた。電磁診断技術は、転がり玉軸受の内外輪に人 工的に付与したスリット傷について、その傷幅を正 確に推定できることが示されている。この成果を 踏まえ本研究では、健全な軸受を用いて劣化加速試 験を行い、損傷を発生、進展させ、その過程の損傷 量を推定することで損傷の進展状況の可視化を行っ た。この際、傷のサイジング手法として、6で用い られた「自己相関法」とともに、特定周波数帯のRMS
(Root-Means-Square value :実効値)の増減から傷の 長さを推定する「RMS法」を新たに考案し適用した。 2.電磁診断技術の原理電磁センサは、永久磁石等の静磁場印加部とコイ ル等の変動磁場検出部よりなる。静磁場中を導電体 が通過したとき、導電体に誘導起電力が生じ発生す る渦電流を捉える(Fig.1)。連絡先: 馬渡慎吾,〒039-3212 青森県上北郡六 ヶ所村大字尾駿字沖付、日本原燃株式会社、再処理 事業部、電話:0175-71-2335, shingo.mawatari@jnfl.co.jp周期性を有する回転体のベアリングやインペラに、 外部から電磁センサを当てることで、誘導起電力の 変化を捕捉し、劣化診断するものである。 Ball bearingStatic magnetic fieldEddy currentEM sensor (Coil + Magnet)周期性を有する回転体のベアリングやインペラに、 外部から電磁センサを当てることで、誘導起電力の 変化を捕捉し、劣化診断するものである。 Ball bearingStatic magnetic fieldEddy currentEM sensor (Coil + Magnet)Fig. 1 Principle of Electromagnetic Detection3.劣化加速試験、 3.1 試験方法* Fig.2 に劣化加速試験装置を示す。試験方法として、 劣化加速試験機を用いて新品の自動調心玉軸受(複 列) 1204 に 1200kgf の荷重をかけて運転し、初期損 傷を発生させる。その時点で一度試験機を止め軸受 を取り外し、損傷の状態を確認する。次に再び軸受 を試験機に戻し、荷重を下げて運転し、損傷を進展 させる。振動加速度が 5G に到達した時点で試験終 了とする。試験開始から終了まで、軸受ケーシング 部に設置した電磁センサにより信号を取得する。損 傷発生後の荷重を4通り変えて試験を行った (Fig.3)。Fig.2 に劣化加速試験装置を示す。試験方法として、 劣化加速試験機を用いて新品の自動調心玉軸受(複 列)1204 に 1200kgf の荷重をかけて運転し、初期損 傷を発生させる。その時点で一度試験機を止め軸受 を取り外し、損傷の状態を確認する。次に再び軸受 を試験機に戻し、荷重を下げて運転し、損傷を進展 させる。振動加速度が 5G に到達した時点で試験終 了とする。試験開始から終了まで、軸受ケーシング 部に設置した電磁センサにより信号を取得する。損 傷発生後の荷重を4通り変えて試験を行った (Fig.3)。
Hectromagnetic sensorVibration sensorEM sensorLoadBaring caFig.2 Accelerated aging test machine and sensor placement軸受仕樣種類:複列自動調心玉軸受1204 動定格荷重:1020kgf 強制潤滑方式の循環給油潤滑方式軸回転周波数40Hz荷重純ラジアル荷重 初期損傷発生までは全て1200kgf 試験No.1: 1125kgf 試験No.2: 975kgf 試験No.3: 825kgf 試験No.4: 450kgf 直径:20mm 巻き数、 :500ターン 磁束密度:0.5T電磁センサ仕様Fig.3 EM(Electromagnetic) sensor and details of test conditions3.2 試験結果試験 No.1(初期損傷後荷重 1125kgf) を例に試験 結果を示す。荷重 1200kgf で運転を開始、60 分後に 初期損傷が発生した。その後荷重を 1125kgf に下げ 運転を再開し、40 分後に振動加速度が 5G に達した 後、試験を終了した。Fig 4 に電磁信号の RMS を示 す。尚、RMS は、損傷発生前の平均値を1とした比 で表している。試験結果から、初期損傷の発生後、 RMS が急激に増加しており、損傷の発生を検知して いることが確認できる。また、この傾向は、全ての 試験条件にて同様の結果を得ている。 * Fig 5 に初期損傷発生時と試験終了時の軸受外輪 の損傷状況を示す。初期損傷は外輪のスポット状の 傷が確認できるが、試験終了時には 42.5° (以下傷 の長さは角度を用いて表す)まで進展し、さらに 2 列目にも剥離が発生していた。また、外輪以外の軸 受の構成部品にて損傷が確認されなかった。その他 の試験条件についても、最終的な損傷量の違いはあるものの、初期損傷時に外輪のスポット傷が発生し その後大きく進展するという損傷形態は共通であた。電磁AMSRMS(ratio)初期損傷発生1.0~Vレーベルリン・インタMiwaが・・・・
(b) at the end of the test Fig.5 Defects of outer race (Test No.1)3.3 自己相関法による傷の長さ推定Fig.6 に外輪剥離が発生した軸受の模式図を示す。 傷上を転動体が通過する際、傷の入口(a)と出口(b) で振動が発生する。この時得られる信号は Fig 7-1 の模式図のようになる。a と b の振動の時間差が分 かれば、転動体の公転速度を乗じることにより傷の 長さを定量的に評価することが出来る。 - aとbの時間差を求めるには、まず envelope 処理 により波形を単純化する(Fig.7-2)。さらに自己相関 係数をとることにより、周期性のない信号を除去し、 aとbの時間差を明瞭化することができる(Fig.7-3)。 自己相関係数は、信号を時間方向にシフトさせ、元 の信号と比較することにより、信号自体の周期性、 類似性を評価する指標である。横軸はシフトした時 間を表し、=0では元の波形と完全に一致するため、 当然のことながら最大値となる。模式図の包絡線を シフトしていった場合、=0 の次に大きくなるのは 傷入口に対応したピークが傷出口に対応したピーク と重なる時である。よって =0 のピークと次に現れ るピークの差から傷の長さに対応した時間間隔が求 められる。
Fig.8 (Test No.1) Autocorrelation methodFig.9 に試験 No.1 における自己相関法により得ら れた外輪傷進展曲線を示す。損傷発生後のどの時間 の信号についても自己相関法が適用できるわけでは なく、明瞭なピークが得られない場合もある。特に 傷が大きく成長した場合や複列に傷が発生した場合 は、波形が複雑になり、傷のサイジングが困難であ る。自己相関法は損傷の初期段階に適した推定手法 であると言える。97自己相関法による推定値35実測値外輪損傷量()・実測値一回+10017080 190 1時間(分) Fig.9 Evaluated damage progress by autocorrelation method (test No.1)3.4 RMS による傷の長さ推定-RMS 法自己相関法は損傷の初期段階で有用であるが、損 傷が大きく進展した場合、適用が困難である。より 大きなスケールの損傷量の推定法として、外輪傷の 固有周波数帯の RMS の増減により傷の進展を推定 する手法(RMS 法)を考案した。外輪島の固有周波 数とは、外輪の1点を転動体が通過する周波数であ り、外輪に傷が発生した場合、転動体が傷を通過す る度に振動が発生することにより、この周波数成分 が大きくなる。3.4.1 理論の仮定傷の長さが転動体間の距離に比べて十分に小さい 場合、Fig.10 上図に示す様に傷の内部に位置する転 動体は内輪の回転に伴って0個→1個と変動する。 一方、傷の長さが丁度転動体間の距離に等しい場合、 Fig.10 下図の様に、傷の内部に位置する転動体の数 は常に1個である。 * 外輪傷中に転動体が位置した場合、その転動体は 外輪との接触面積が減少するため、荷重を受ける割 合が減少する。その結果、その転動体と外輪傷の接 触部の縁の部分や、他の転動体に余分な荷重が加わ る事になる。このような応力分布の変動は転動体の 周期的な運動に影響を与えるものと考えられる。従 って、外輪傷中に転動体がある状態と無い状態の間 の遷移が、外輪傷の固有周波数程度で現れると考え られる。しかし、傷の長さが丁度転動体間の距離に等しい 場合には、傷内部に常に1つの転動体が位置する様 になり、軸受全体として見た場合の応力分布は安定 する事が予想される。従って先に述べた外輪傷の固 有周波数成分は減少する事になる。この仮説に基づけば、傷の長さが丁度転動体間の 距離に等しい時に、外輪傷の固有周波数帯 RMS は 極小値をとる。本試験に使用している軸受 1204 の場 合、傷の長さが 30°になった時がこれにあたる。ま た、傷の長さが倍の 60°になった場合についても、 傷上に存在する転動体が常に2つになることにより 極小値が現れ、以下同様に傷の長さが30°の整数倍 になるごとに同様の現象が起こるものと考えられる。傷の長さが小さい時には転動体の位置により、 「傷の中に位置する転動体の数」が変動する。1個0個傷の長さが丁度転動体の間の長さに達すると、 「傷の中に位置する転動体の数」は常に一定(1個)になる。Fig. 10 Relation between the length of the outer racedefect and the location of rotation elementsFig.11 に試験 No.1 における外輪傷固有周波数帯 (190-195Hz)の RMS を示す。試験開始 90 分に初 期損傷発生後の RMS にて極小値を示しており、こ の時点で傷が 30°に達したと推定できる。これは Fig.9 に示した自己相関法による外輪傷進展曲線に おいて傷が 30°に達する時間(推定値)と一致して いる。また試験終了時は2つ目の極大値の手前であ ることから、損傷量は45°より小さい程度と推定さ れるが、実際の外輪傷の長さは 42.5°であり (Fig.5)、 主要な傷の長さについて正しく推定できていること が分かる。
Fig. 11 RMS of the outer race defect frequency(test No.1, bandpass 190-195Hz)次に、その他の試験条件についても RMS 法から 試験終了時の損傷量を推定し、実際の損傷量と比較 することで本手法の適用性を検証する。
Fig. 12 RMS of the outer race defect frequency and Pictures after the test (190-195Hz)験 No.2~No.4 の外輪傷固有周波数帯 1験終了時の外輪傷の長さは60°程度と推定でき、実 _MSと試験終了時の外輪の様子を示す。 際の損傷量と比較して正しく推定出来ていることが 195Hz 帯 RMS(Fig11(a))から、試験終 分かる。 言の長さは60°程度と推定でき、実際の 以上のように全ての試験について RMS 法から試 して正しく推定出来ていることが分か 験終了時のおおよその損傷量が正しく推定できており、本手法が大きく進展した外輪剥離の長さを推定 の 195Hz 帯 RMS(Fig.12(b))から、試 する、有用な手法があることが示された。 →輪傷の長さは90°を越えた程度であ -、実際の損傷量と比較して、2列ある =損傷について正しく推定出来ているこFig.12 に試験 No.2~No.4 の外輪傷固有周波数帯(195Hz帯)RMSと試験終了時の外輪の様子を示す。 試験 No.2 の 195Hz帯 RMS (Fig11(a))から、試験終 了時の外輪傷の長さは60°程度と推定でき、実際の 損傷量と比較して正しく推定出来ていることが分かる。試験 No.3 の 195Hz 帯 RMS(Fig.12(b))から、試 験終了時の外輪傷の長さは90°を越えた程度であ ると推定でき、実際の損傷量と比較して、2列ある うちの主要な損傷について正しく推定出来ているこ とが分かる。試験 No.4 の 195Hz 帯 RMS (Fig.12(c))から、試 の 195Hz 帯 RMS (Fig.12(c))から、試
験終了時の外輪傷の長さは 60°程度と推定でき、実 際の損傷量と比較して正しく推定出来ていることが 分かる。 * 以上のように全ての試験について RMS 法から試 験終了時のおおよその損傷量が正しく推定できてお り、本手法が大きく進展した外輪剥離の長さを推定 する、有用な手法があることが示された。
初期損傷発生後の時間(分) Fig.13 Evaluated damage progressFig.13 に全ての試験について、自己相関法と RMS 法による推定値から作成した外輪傷進展曲線を示す。 図は各試験について初期損傷発生時を0分とし、初 期損傷発生後の傷の進展の様子を示している。複列 に損傷が発生した試験もあるが、はじめに発生した 片列のみを評価している。30°より小さい部分につ いては自己相関法による推定、30°以上の部分につ いては RMS 法による推定である。また各試験の右 端の点は試験終了時の実測値である。このように自己相関法と RMS 法により外輪傷の 進展状況を定量的に可視化することができた。傷の 進展は、試験 No.3 でやや加速度的に進展する傾向が 見られるものの、全体的には線形的な傾向にあるこ とが確認できる。次にこの曲線を線形近似した直線の傾きから、外 輪傷の進展速度を求める。Fig.14 に各試験の外輪傷 進展速度と荷重の関係を示す。
図から荷重が低くなるほど損傷進展速度が小さく なる傾向があることが分かる。これらの点の適切な 近似曲線をとることにより、荷重0に近い領域の損 傷進展速度を求めることができると考えられるが、 適切な近似曲線を定めるには、より低荷重領域で多 くのデータが必要であり、今後の研究課題と言える。4.まとめ * 転がり軸受の劣化加速試験を行い、軸受近傍に設 置した電磁センサで測定した。得られた電磁信号に 対し、自己相関法を適用し、損傷の初期段階におけ る傷のサイジングを行った。また、大きく進展した 外輪傷に対しては、外輪傷の固有周波数帯の RMS の増減に着目する手法(RMS 法)を構築し、これに より大きく進展した外輪傷のおおよその長さを推定 出来ることが示された。以上の手法から各試験の外 輪傷進展曲線を描くことにより、損傷の進展状況を 可視化することができた。損傷の進展は時間に対し て比較的直線的な傾向にあり、進展速度は荷重が低 くなるほど小さくなる傾向が見られた。より低荷重 におけるデータをとることにより、荷重0における 損傷進展速度を推定できると考えられる。 - 今後さらに複合的な損傷の評価手法や潤滑方式の 違いによる影響、軸受の種類の違いによる影響等に ついて検証する必要があるが、本研究で開発、適用 した損傷の評価手法と、軸受の損傷の進展特性に対 する知見は、余寿命評価手法を構築する上での基礎 になると考えられる。参考文献 [1] 黄皓宇、宮健三、遊佐訓孝、小坂大吾,回転体 - 異常の電磁検出, 日本非破壊検査協会第 10 回表面探傷シンポジウム、東京都城南地域中小企 業振興センター、2007/01/25-26 小坂大吾、黄皓宇、遊佐訓孝、回転機器の電磁 非破壊評価手法の検討、日本保全学会第4回学術講演会、福井大学、2007/07/02-03 [3] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. The 13th International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics, Michigan State University, USA,2007/09/09-12. [4] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. Science andTechnology of Maintenance (Under review). [5] 萱田良、黄皓宇、遊佐訓孝、電磁診断技術による異物混入軸受の挙動測定、日本保全学会 第 5回学術講演会 水戸市民会館 2008/7/10-12、産学-7 [6] 菅田良、馬渡慎吾、黄皓宇、ペランステファン、真木紘一、電磁診断技術による傷付与転がり軸 受の測定及び信号処理による傷大きさの推定 法、日本保全学会 第6回学術講演会 ホテル ニューオータニ札幌2009/8/3-5“ “?電磁診断技術による転がり軸受の劣化進展過程の計測及び診断“ “馬渡 慎吾,Shingo MAWATARI,角皆 学,Manabu TSUNOKAI,髙瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,萱田 良,Ryo KAYATA