高速炉用 9Cr フェライト系耐熱鋼における溶接 HAZ 部の組織解析
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
60 年設計を掲げる高速増殖炉では、溶接部を含めて材 料の健全性を保証することが要求されており、短時間側 のクリープ試験情報から長時間側の強度を予測すること が重要な課題である。特に、クリープ中のミクロ組織変 化に起因する高 Cr フェライト系耐熱鋼の溶接熱影響部 (HAZ部)におけるクリープ強度の著しい低下は大きな 問題であり[1]、その強度変化に直接影響を及ぼすミクロ 組織変化を調べることは極めて重要である。このミクロ 組織には、母相のマルテンサイト相の回復、転位の減少、 MX 炭窒化物、M25C炭化物よび Laves 相などの析出粗大 化など、様々な因子が含まれる[2-5]。これまでに我々は 改良 9CF-1Mo 鋼母材部のクリープ進行に伴う組織変化を 組織自由エネルギー[6,7に基づいて定量的に評価してき た[8]。本研究では同材料の溶接模擬熱処理材を用いて、 転位密度、析出相の析出量、粒径などの実験データを基 に組織自由エネルギーを評価し、クリープ損傷の進行に 伴う細粒 HAZ 部の組織変化を定量的に評価し、破断時の 組織自由エネルギーを用いることによって、長時間後の 寿命予測式を提案することを目的とする。組織自由エネ ルギーの良い点は材料平衡状態に基づいて、任意の状態 を表現できることであり、これにより、従来にはない平 衡状態を考慮した寿命予測式を提案する。
2. 実験方法2.1 供試材およびクリープ条件 1. 本研究で用いた改良9Cr-1Mo 鋼の化学成分を Tablel に 示す。1333K からの焼入れ後、1053K、1時間の焼戻し熱 処理を施し調質材とした。その後 1163K への急熱急冷の 熱処理を施し、細胞 HAZ部の熱履歴を模擬した。模擬熱 処理後、PWHT に相当する 1033K で 8.4 時間の熱処理を施 した後、873K にて,75,95 および 105MPa の応力条件でク リープ試験を行った。このクリープ破断材および中断材 を用いて、以下に示す方法で応力負荷部のゲージ部と無 負荷部のグリップ部を区別して組織自由エネルギーを評 価した。-12.2 組織自由エネルギー 1. 本研究では、鋼 1mol あたりの組織自由エネルギー Gus は「化学的自由エネルギー(Go)」、「歪エネルギー (E)」および「界面エネルギー (End)」の総和として次 式によって求めた。Gus = Go + Ear + Euro-1材料の組織変化はこのGが低下する方向に変化する というのが組織自由エネルギーの考え方であり、実際に ニッケル基超合金の組織変化や鋼中のLaves相の形態変 化はこの考え方でよく説明できることが知られている [12-13]。この組織自由エネルギーを種々の組織形態に対 して算出することによって、組織の変化過程を予測し、108Table.1 Chemical compositions of Mod.9Cr-1Mo steels examined (mass%). Mo V Nb Si Mn Ni N S P 0.96 0.22 0.08 0.26 0.42 0.10 0.06770,0060.001Fe bal.C 0.10Cr 8.84長時間強度を予測することが可能であると考えられる。 本研究では以下に示すような組織解析実験により、組織 自由エネルギーを評価した。2.3 化学的自由エネルギー評価法化学的自由エネルギーは以下の式により求められる。 Go = Geo . Myte + Ghan. Mywor Gow. Mit ++GM3366. M 12 + GMass ? MyaSo + Gh a ““.*My q^ (2) ここで、Goはi相の自由エネルギー、Moはi相のモル分率 であり、今回、対象相として母相であるフェライト相、 MX型炭窒化物、MasC炭化物およびLaves相を考慮した。 各相のモル分率は抽出残査定量分析により求め、各相の 自由エネルギー値は、Thermo-Calcのデータベースを用い て副格子モデルに基づいて計算した[14]。この際、各析 出相の組成が必要となる。クリープ中における組成変化 が少ないMX型炭窒化物およびLaves相では、平衡相組成 を用いてその析出量を見積もった。それに対してMasCs 炭化物ではクリープ中の組成変化が大きいことが報告さ れている[15,16]。そこでその組成をPWHT温度である 1033Kの平衡相組成から、クリープ試験温度である873K の平衡相組成へと時間とともに変化するものとして解析 した[17]。2.4 弾性歪エネルギー評価法 1. 本研究では、マルテンサイト変態に伴って鋼に蓄えら れる歪エネルギーを、鋼中に存在する転位の歪エネルギ ーを見積もることで評価した。 これは、改良9Cr-1Mo銅で は炭素量が少なく(-0.1mass%、そのマルテンサイト相は 双晶を含まず転位のみを含むラスマルテンサイトである ことによる。 1 X線回折データをModified Williamson-Hall および Modified Warren-Averbach式に基づいて解析することで転 位密度の導出を行った[18]。転位はその周りの弾性場 の存在によって、歪エネルギーを蓄える [19]。そこで、 得られた転位密度から、マルテンサイト相に蓄積されて いる歪エネルギーを以下の式から見積もった。-3En = en in *
60 年設計を掲げる高速増殖炉では、溶接部を含めて材 料の健全性を保証することが要求されており、短時間側 のクリープ試験情報から長時間側の強度を予測すること が重要な課題である。特に、クリープ中のミクロ組織変 化に起因する高 Cr フェライト系耐熱鋼の溶接熱影響部 (HAZ部)におけるクリープ強度の著しい低下は大きな 問題であり[1]、その強度変化に直接影響を及ぼすミクロ 組織変化を調べることは極めて重要である。このミクロ 組織には、母相のマルテンサイト相の回復、転位の減少、 MX 炭窒化物、M25C炭化物よび Laves 相などの析出粗大 化など、様々な因子が含まれる[2-5]。これまでに我々は 改良 9CF-1Mo 鋼母材部のクリープ進行に伴う組織変化を 組織自由エネルギー[6,7に基づいて定量的に評価してき た[8]。本研究では同材料の溶接模擬熱処理材を用いて、 転位密度、析出相の析出量、粒径などの実験データを基 に組織自由エネルギーを評価し、クリープ損傷の進行に 伴う細粒 HAZ 部の組織変化を定量的に評価し、破断時の 組織自由エネルギーを用いることによって、長時間後の 寿命予測式を提案することを目的とする。組織自由エネ ルギーの良い点は材料平衡状態に基づいて、任意の状態 を表現できることであり、これにより、従来にはない平 衡状態を考慮した寿命予測式を提案する。
2. 実験方法2.1 供試材およびクリープ条件 1. 本研究で用いた改良9Cr-1Mo 鋼の化学成分を Tablel に 示す。1333K からの焼入れ後、1053K、1時間の焼戻し熱 処理を施し調質材とした。その後 1163K への急熱急冷の 熱処理を施し、細胞 HAZ部の熱履歴を模擬した。模擬熱 処理後、PWHT に相当する 1033K で 8.4 時間の熱処理を施 した後、873K にて,75,95 および 105MPa の応力条件でク リープ試験を行った。このクリープ破断材および中断材 を用いて、以下に示す方法で応力負荷部のゲージ部と無 負荷部のグリップ部を区別して組織自由エネルギーを評 価した。-12.2 組織自由エネルギー 1. 本研究では、鋼 1mol あたりの組織自由エネルギー Gus は「化学的自由エネルギー(Go)」、「歪エネルギー (E)」および「界面エネルギー (End)」の総和として次 式によって求めた。Gus = Go + Ear + Euro-1材料の組織変化はこのGが低下する方向に変化する というのが組織自由エネルギーの考え方であり、実際に ニッケル基超合金の組織変化や鋼中のLaves相の形態変 化はこの考え方でよく説明できることが知られている [12-13]。この組織自由エネルギーを種々の組織形態に対 して算出することによって、組織の変化過程を予測し、108Table.1 Chemical compositions of Mod.9Cr-1Mo steels examined (mass%). Mo V Nb Si Mn Ni N S P 0.96 0.22 0.08 0.26 0.42 0.10 0.06770,0060.001Fe bal.C 0.10Cr 8.84長時間強度を予測することが可能であると考えられる。 本研究では以下に示すような組織解析実験により、組織 自由エネルギーを評価した。2.3 化学的自由エネルギー評価法化学的自由エネルギーは以下の式により求められる。 Go = Geo . Myte + Ghan. Mywor Gow. Mit ++GM3366. M 12 + GMass ? MyaSo + Gh a ““.*My q^ (2) ここで、Goはi相の自由エネルギー、Moはi相のモル分率 であり、今回、対象相として母相であるフェライト相、 MX型炭窒化物、MasC炭化物およびLaves相を考慮した。 各相のモル分率は抽出残査定量分析により求め、各相の 自由エネルギー値は、Thermo-Calcのデータベースを用い て副格子モデルに基づいて計算した[14]。この際、各析 出相の組成が必要となる。クリープ中における組成変化 が少ないMX型炭窒化物およびLaves相では、平衡相組成 を用いてその析出量を見積もった。それに対してMasCs 炭化物ではクリープ中の組成変化が大きいことが報告さ れている[15,16]。そこでその組成をPWHT温度である 1033Kの平衡相組成から、クリープ試験温度である873K の平衡相組成へと時間とともに変化するものとして解析 した[17]。2.4 弾性歪エネルギー評価法 1. 本研究では、マルテンサイト変態に伴って鋼に蓄えら れる歪エネルギーを、鋼中に存在する転位の歪エネルギ ーを見積もることで評価した。 これは、改良9Cr-1Mo銅で は炭素量が少なく(-0.1mass%、そのマルテンサイト相は 双晶を含まず転位のみを含むラスマルテンサイトである ことによる。 1 X線回折データをModified Williamson-Hall および Modified Warren-Averbach式に基づいて解析することで転 位密度の導出を行った[18]。転位はその周りの弾性場 の存在によって、歪エネルギーを蓄える [19]。そこで、 得られた転位密度から、マルテンサイト相に蓄積されて いる歪エネルギーを以下の式から見積もった。-3En = en in *