高速噴霧流による液滴衝撃エロージョンに関する研究(減肉速度の評価と速度依存性)
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
原子力発電プラントの配管における配管減肉量の予測 技術は、プラントの安全性の確保の上で重要な課題であ る。このような配管減肉の原因の一つとして、液滴衝撃 エロージョンが挙げられるが、発生のメカニズムや減肉 速度の正確な予測法など不明の点が多く残されているの が現状である。 - 発電プラントの配管における液滴衝撃エロージョンは、 実機配管(炭素鋼あるいはステンレス鋼)の内部を流れ る高速の蒸気流(速度 100-200 m/s)が配管壁面に衝突す る際に、飛翔する微小液滴の衝撃圧により、配管内部に 減肉を引き起こす現象として知られている。過去の減肉 発生事象を模擬した実験によると、予期される液滴径は 数十μm 程度である [1]。 - 液滴衝撃エロージョンに関する過去の実験では,回転 アーム式の実験装置を用い、比較的大きな液滴(直径 1 mm 以上)を対象とした減肉実験 [2] が行われてきた。 しかしながら、このような大きな液滴を対象とした液滴 衝撃エロージョン実験結果から得られる減肉予測式には 限界があり、ここで対象とする原子力発電プラントの配管減肉に適用できるかどうか不明である。このため、最 近になって,高速却噴霧流を用いた液滴衝撃エロージョン 実験 [3-6] が報告されている。高速噴霧流を用いた実験 によると、得られる液滴の直径は、数十から数百 um 程 度と報告されており、先の回転アーム式実験装置で得ら れる液滴径より小さく、実験条件によっては実機で予期 される液滴径(数十um)にも近づけることが可能である [6]。しかしながら、減肉特性の評価をするために必要な 液滴パラメータ(液滴速度、液滴径、液適度など)の高 精度評価 [がなされている実験データはほとんどない のが現状である。液滴パラメータの計測が行われた高速噴霧流による減 肉実験 [0] では、高速噴霧を得るため扇形ノズルが使用 された。この種のノズルから得られる噴霧流の厚さは比 較的薄く数 mm 以下であり、過去の実験ではそれより十 分大きな試験片が用いられてきた。このため、試験片に 生じる減肉部位の断面形状は時間ともに変化し、また、 作動流体によるクッション効果もあるため、減肉深さの 時間変化は一定とはならない。この結果として、材料の 減肉曲線の勾配として得られる減肉速度は、実験者ごと に大きなばらつきを示すことになり、現在のところ、減 肉速度の速度依存性を示すべき乗数nは、-3-7 と実験結 果ごとに大きくばらつくことが報告されている [2-6)。こ のことは、液滴衝撃エロージョン実験法自体が確立され ていないことを示唆している。 本研究では、扇形ノズルの先端に円筒を取り付けることで、円形断面の高速噴霧流を作成し、試験片より十分 大きな噴霧流による新たな液滴衝撃エロージョン実験法 を示した。また、減肉実験と併せて液滴パラメータ(速 度、径、数)の計測を行うことで、より高精度の減肉予 測式の提案を行った結果を報告する。
2. 実験装置Fig.1 は、本実験で用いた液滴衝撃エロージョン実験装 置である。この装置は、高圧プランジャーポンプ(最大 噴霧圧力 35 MPa、設計流量 10 /min)、噴霧ノズル、試験 部、タンク(直径 0.6 m、高さ 0.8 m)からなる。また、 ポンプとノズルの間にはフィルタを設け、作動流体であ る水道水に含まれる塵粉を極力除去している。実験に使 用したノズルは、最小口径 0.7 mm の楕円形ノズルである が、ノズル先端に長さ 30 mm、穴径 3mm の流路を取り 付け、円筒形噴霧とした。なお、試験片には直径 5 mm のアルミニウム材料を用いた。Fig.2は、LDI を関係する液滴パラメータである液滴速 度、液滴径、液滴数を計測するための実験装置である。 ここに、液滴速度は PIV、液滴径はシャドウグラフ、そ して液滴数はサンプリングプローブを用いて計測した。液滴速度の計測に使用した PIV システムは、Nd:YAG パルスレーザー (光波長 532 mm、発光時間 5ns、出力 50 ml/pulse)、フレームストラドリング機能を有する高速度 CMOS カメラ (1280×1024 pixels)、パルスジェネレータ からなる。照明には、シリンドリカルレンズを用いて、 ビーム状のレーザーライトシートにした。ただし、シー ト厚さは、1 mm 程度である。なお、本計測では、噴霧 液滴の示す濃淡パターンの類似性に基づいてパターンの 移動量を相互相関解析によって決定するため、トレーサ 粒子は用いていない。ここに、計測対象領域は、噴流軸 を含む 50mmx50mm である。 - 液滴径計測は、Fig.2 に示したように、レーザーとカメ ラをインライン配置し、平行光を用いたシャドウグラフ 法で可視化した。ただし、撮影に用いた CCDカメラ(1008 × 1018 pixels、8bit)に長焦点レンズを用いることで、噴霧 軸を含む 3mmx3mm の領域の可視化画像を取得した。な お、被写界深度は 200um である。さらに、得られた画像 から液滴輪郭を画像解析によって抽出して、液滴径を算 出した。液滴数の計測に用いたサンプリングプローブは、内 径 1.12 mm のステンレス製の円管である。液滴数 n は、単位時間単位面積当りの衝突液滴数であるが、これは採 取した水の体積と実験時間を計測し、シャドウグラフ法 で得られた平均液滴体積で除することで評価した。3. 実験結果および考察3.1 噴霧ノズル - Fig.3 は、扇形ノズル(a)と円形ノズル(b)から噴射した噴 霧の広がりパターンの直接撮影結果である。ただし、上 段は垂直断面、下段は水平断面を示す。Fig.3 (a) の扇形 ノズルの噴霧パターンによると、噴霧は垂直方向には 25 度の角度で大きく広がるが、水平方向にはほとんど広が らない。これに対し、円形ノズル(Fig.3 (6) )では、噴 霧は水平、垂直のいずれの断面においてもほぼ同程度の 広がりを示す。また、その広がり角度も扇形ノズルの場 合より小さい。このため、高圧噴霧に適した扇形ノズル に円筒を用いるという、比較的簡単な手段で、噴霧の下 流方向の発達を制御できることが分かった。
(a) Fan spray nozzle (b) Circular spray nozzleFig.3 Direct observation of spray jet3.2 液滴パラメータの計測 * Fig.4 (1) は、PIV によって計測した噴霧の最大速度とポ ンプ圧力の関係を示す。ただし、速度計測位置は、扇形 ノズルではノズルから 80mm、円形ノズルではノズルか ら 150 mm 離れた位置である。実験結果によると、いず れのノズルにおいても、液滴速度はポンプ圧力の増加と ともに、大きくなる。また、本実験の円形ノズルでは、 扇形ノズルと同程度の噴霧速度を得るには、より大きな ポンプ圧力が必要であることがわかる。これは、本実験 の円形ノズルでは、扇形ノズルからの噴霧を整形するた めに、より大きな圧力損失がノズル部で発生するためで ある。Fig.4 (6) は、シャドウグラフ法によって計測した体積 メジアン液滴径 d と噴霧速度 V の関係を示す。実験結果 よると、いずれのノズルにおいても、液滴速度が増加す るにつれ、液滴径は減少する傾向にある。また、本実験 の液滴速度範囲では液滴径は 70 um 程度から 40 um 程 度まで減少することがわかる。ただし、扇形ノズルに比 ベ円形ノズルでは、液滴径の減少勾配は小さい。これは、 円形ノズルからの噴霧流の拡散が小さいためであると考 えられる。 - Fig.4 (c) は、サンプリングプローブで計測した単位面 積・単位時間あたりの液滴数 nmであるが、液滴数nmは液 滴速度 V が増大するとともに増大する。この関係は、い ずれのノズルの場合もほぼ同様であるが、円形ノズルの 液滴数は扇形ノズルのそれより多少大きい傾向にある。3.3 減肉特性 - Fig.5 (a) は、扇形ノズルと円形ノズルを用いて実施し た減肉実験結果であり、減肉体積 E,と実験時間との関係 で示した。ただし、扇形ノズルでは、ノズル下流 80 mm
“ “高速噴霧流による液滴衝撃エロージョンに関する研究(減肉速度の評価と速度依存性)“ “林 貫人,Kanto HAYASHI,濱 大地,Daichi HAMA,山縣 貴幸,Takayuki YAMAGATA,高野 剛,Tsuyoshi TAKAMO,藤澤 延行,Nobuyuki FUJISAWA
原子力発電プラントの配管における配管減肉量の予測 技術は、プラントの安全性の確保の上で重要な課題であ る。このような配管減肉の原因の一つとして、液滴衝撃 エロージョンが挙げられるが、発生のメカニズムや減肉 速度の正確な予測法など不明の点が多く残されているの が現状である。 - 発電プラントの配管における液滴衝撃エロージョンは、 実機配管(炭素鋼あるいはステンレス鋼)の内部を流れ る高速の蒸気流(速度 100-200 m/s)が配管壁面に衝突す る際に、飛翔する微小液滴の衝撃圧により、配管内部に 減肉を引き起こす現象として知られている。過去の減肉 発生事象を模擬した実験によると、予期される液滴径は 数十μm 程度である [1]。 - 液滴衝撃エロージョンに関する過去の実験では,回転 アーム式の実験装置を用い、比較的大きな液滴(直径 1 mm 以上)を対象とした減肉実験 [2] が行われてきた。 しかしながら、このような大きな液滴を対象とした液滴 衝撃エロージョン実験結果から得られる減肉予測式には 限界があり、ここで対象とする原子力発電プラントの配管減肉に適用できるかどうか不明である。このため、最 近になって,高速却噴霧流を用いた液滴衝撃エロージョン 実験 [3-6] が報告されている。高速噴霧流を用いた実験 によると、得られる液滴の直径は、数十から数百 um 程 度と報告されており、先の回転アーム式実験装置で得ら れる液滴径より小さく、実験条件によっては実機で予期 される液滴径(数十um)にも近づけることが可能である [6]。しかしながら、減肉特性の評価をするために必要な 液滴パラメータ(液滴速度、液滴径、液適度など)の高 精度評価 [がなされている実験データはほとんどない のが現状である。液滴パラメータの計測が行われた高速噴霧流による減 肉実験 [0] では、高速噴霧を得るため扇形ノズルが使用 された。この種のノズルから得られる噴霧流の厚さは比 較的薄く数 mm 以下であり、過去の実験ではそれより十 分大きな試験片が用いられてきた。このため、試験片に 生じる減肉部位の断面形状は時間ともに変化し、また、 作動流体によるクッション効果もあるため、減肉深さの 時間変化は一定とはならない。この結果として、材料の 減肉曲線の勾配として得られる減肉速度は、実験者ごと に大きなばらつきを示すことになり、現在のところ、減 肉速度の速度依存性を示すべき乗数nは、-3-7 と実験結 果ごとに大きくばらつくことが報告されている [2-6)。こ のことは、液滴衝撃エロージョン実験法自体が確立され ていないことを示唆している。 本研究では、扇形ノズルの先端に円筒を取り付けることで、円形断面の高速噴霧流を作成し、試験片より十分 大きな噴霧流による新たな液滴衝撃エロージョン実験法 を示した。また、減肉実験と併せて液滴パラメータ(速 度、径、数)の計測を行うことで、より高精度の減肉予 測式の提案を行った結果を報告する。
2. 実験装置Fig.1 は、本実験で用いた液滴衝撃エロージョン実験装 置である。この装置は、高圧プランジャーポンプ(最大 噴霧圧力 35 MPa、設計流量 10 /min)、噴霧ノズル、試験 部、タンク(直径 0.6 m、高さ 0.8 m)からなる。また、 ポンプとノズルの間にはフィルタを設け、作動流体であ る水道水に含まれる塵粉を極力除去している。実験に使 用したノズルは、最小口径 0.7 mm の楕円形ノズルである が、ノズル先端に長さ 30 mm、穴径 3mm の流路を取り 付け、円筒形噴霧とした。なお、試験片には直径 5 mm のアルミニウム材料を用いた。Fig.2は、LDI を関係する液滴パラメータである液滴速 度、液滴径、液滴数を計測するための実験装置である。 ここに、液滴速度は PIV、液滴径はシャドウグラフ、そ して液滴数はサンプリングプローブを用いて計測した。液滴速度の計測に使用した PIV システムは、Nd:YAG パルスレーザー (光波長 532 mm、発光時間 5ns、出力 50 ml/pulse)、フレームストラドリング機能を有する高速度 CMOS カメラ (1280×1024 pixels)、パルスジェネレータ からなる。照明には、シリンドリカルレンズを用いて、 ビーム状のレーザーライトシートにした。ただし、シー ト厚さは、1 mm 程度である。なお、本計測では、噴霧 液滴の示す濃淡パターンの類似性に基づいてパターンの 移動量を相互相関解析によって決定するため、トレーサ 粒子は用いていない。ここに、計測対象領域は、噴流軸 を含む 50mmx50mm である。 - 液滴径計測は、Fig.2 に示したように、レーザーとカメ ラをインライン配置し、平行光を用いたシャドウグラフ 法で可視化した。ただし、撮影に用いた CCDカメラ(1008 × 1018 pixels、8bit)に長焦点レンズを用いることで、噴霧 軸を含む 3mmx3mm の領域の可視化画像を取得した。な お、被写界深度は 200um である。さらに、得られた画像 から液滴輪郭を画像解析によって抽出して、液滴径を算 出した。液滴数の計測に用いたサンプリングプローブは、内 径 1.12 mm のステンレス製の円管である。液滴数 n は、単位時間単位面積当りの衝突液滴数であるが、これは採 取した水の体積と実験時間を計測し、シャドウグラフ法 で得られた平均液滴体積で除することで評価した。3. 実験結果および考察3.1 噴霧ノズル - Fig.3 は、扇形ノズル(a)と円形ノズル(b)から噴射した噴 霧の広がりパターンの直接撮影結果である。ただし、上 段は垂直断面、下段は水平断面を示す。Fig.3 (a) の扇形 ノズルの噴霧パターンによると、噴霧は垂直方向には 25 度の角度で大きく広がるが、水平方向にはほとんど広が らない。これに対し、円形ノズル(Fig.3 (6) )では、噴 霧は水平、垂直のいずれの断面においてもほぼ同程度の 広がりを示す。また、その広がり角度も扇形ノズルの場 合より小さい。このため、高圧噴霧に適した扇形ノズル に円筒を用いるという、比較的簡単な手段で、噴霧の下 流方向の発達を制御できることが分かった。
(a) Fan spray nozzle (b) Circular spray nozzleFig.3 Direct observation of spray jet3.2 液滴パラメータの計測 * Fig.4 (1) は、PIV によって計測した噴霧の最大速度とポ ンプ圧力の関係を示す。ただし、速度計測位置は、扇形 ノズルではノズルから 80mm、円形ノズルではノズルか ら 150 mm 離れた位置である。実験結果によると、いず れのノズルにおいても、液滴速度はポンプ圧力の増加と ともに、大きくなる。また、本実験の円形ノズルでは、 扇形ノズルと同程度の噴霧速度を得るには、より大きな ポンプ圧力が必要であることがわかる。これは、本実験 の円形ノズルでは、扇形ノズルからの噴霧を整形するた めに、より大きな圧力損失がノズル部で発生するためで ある。Fig.4 (6) は、シャドウグラフ法によって計測した体積 メジアン液滴径 d と噴霧速度 V の関係を示す。実験結果 よると、いずれのノズルにおいても、液滴速度が増加す るにつれ、液滴径は減少する傾向にある。また、本実験 の液滴速度範囲では液滴径は 70 um 程度から 40 um 程 度まで減少することがわかる。ただし、扇形ノズルに比 ベ円形ノズルでは、液滴径の減少勾配は小さい。これは、 円形ノズルからの噴霧流の拡散が小さいためであると考 えられる。 - Fig.4 (c) は、サンプリングプローブで計測した単位面 積・単位時間あたりの液滴数 nmであるが、液滴数nmは液 滴速度 V が増大するとともに増大する。この関係は、い ずれのノズルの場合もほぼ同様であるが、円形ノズルの 液滴数は扇形ノズルのそれより多少大きい傾向にある。3.3 減肉特性 - Fig.5 (a) は、扇形ノズルと円形ノズルを用いて実施し た減肉実験結果であり、減肉体積 E,と実験時間との関係 で示した。ただし、扇形ノズルでは、ノズル下流 80 mm
“ “高速噴霧流による液滴衝撃エロージョンに関する研究(減肉速度の評価と速度依存性)“ “林 貫人,Kanto HAYASHI,濱 大地,Daichi HAMA,山縣 貴幸,Takayuki YAMAGATA,高野 剛,Tsuyoshi TAKAMO,藤澤 延行,Nobuyuki FUJISAWA