円管内オリフィス背後の物質輸送現象に関する研究 -シュミット数の影響-
公開日:
カテゴリ: 第8回
1. 緒言
発電プラントの各種配管における減肉量予測技術の高 精度化は、プラントの安全性確保,長寿命化および点検 管理作業の効率化のために必要不可欠な課題である. 2004年に発生した美浜3号機での配管破損事故において は、オリフィス下流の1 - 2d (d. 配管直径) において強い 配管減肉が観察された [1]. 一方、該当のオリフィス(絞 り比0.6) 背後における再付着点位置は 2.5d と予測されて おり,最大の配管減肉ははく離領域で発生したと考えら れる.その後,オリフィス背後の速度場に関して LDAや PIV を用いた流れの乱流特性の評価 [2-3] や旋回流とオ リフィス偏心の組み合わせ効果による偏流の発生 [3] な どが検討されている.しかしながら,速度場に関する研 究だけでは、実際のプラントにおける配管減肉のメカニ ズムを解明することは困難である.現在のところ、発電プラントにおける配管減肉の発生 原因は、流動加速腐食(以下 FAC という)[S] が知られ ている. FAC による配管減肉現象は、配管材料から作動 流体中へ鉄イオンが溶解する拡散現象が配管内の乱流流連絡先:山縣貴幸,〒950-2181 新潟市西区五十嵐 2 の町 8050, 新潟大学可視化情報研究センター E-mail: yamagata@eng.niigata-u.ac.jp動現象によって加速される物質輸送現象と考えられてい る.しかし,実際の配管内における物質輸送のメカニズ ムに関しては、流速,乱流強度,温度,pH,配管材質な ど多くのパラメータが関係するため十分に明らかになっ ていない。配管減肉現象を作動流体中へ鉄イオンが溶解する拡散 現象と考えると,減肉速度は物質移動係数により決定す ることができる 「. これまでにステンレスの減肉速度の 計測がいくつか行われている [6]. 最近では、電気化学的 手法 [7] やナフタリン昇華法 [8] を用いた物質移動係数 の評価が行われている.しかし,両手法により計測され た物質移動係数には大きな差異が見られる. これは,物 質輸送に関係する無次元数であるシュミット数 SC (= w/D; v動粘度, D: 拡散係数)やレイノルズ数 Re (= Udv; U; 平均流速)の影響と推定される.ここで, 各手法のシュミ ット数は電気化学的手法が Sc = 1460,ナフタリン昇華法 がSc=2.2 程度である.一方,実機配管におけるシュミッ ト数は、高温であることから数 100 程度と予想されてお り,既存の実験方法では十分に実機条件を再現できてい ないのが実情である. - 以上のことから,本研究では、FAC による配管減肉の 発生メカニズムを理解する上で重要な物質輸送現象を詳 細に評価するため、安息香酸を用いた評価法を提案し、
実機に近いシュミット数条件において円管内オリフィス 背後の物質移動係数の計測を行う.さらに, シュミット 数およびレイノルズ数が物質移動係数に及ぼす影響を標 準k-E モデルを用いた数値シミュレーションにより評価 する.2. 実験装置および方法Fig. 1 は、実験装置の模式図である。装置は、ポンプ, タンク,流量計,計測部により構成されており,インバ ータおよび計測部後方に設置されたバルブにより流量を ・調節する. 円管の直径はd=51.4 mm であり,オリフィス の絞り比は美浜3号機の配管破損事故該当箇所と同様に 0.6 とした. * オリフィス背後の物質移動係数の計測には安息香酸を 用いた,安息香酸は水に可溶であり,温度により拡散係 数が変化するためシュミット数を変えた実験が可能であ る.本実験では、シュミット数 300 (50 °C) と 700 (30 °C) で実験を行った [97. レイノルズ数は Re = 3, 4, 5 × 104 の条件で実験を行い,Re= 3 × 10““, Sc%3D300 における管 内平均流速はU=0.32 m/s とした. - 計測部の詳細および測定方法を Fig. 2 に示す. オリフィ ス背後の計測部はアルミニウム製の半割り構造とし、機 械加工により作成した.その内表面に深さ 2 mm の段差 を設けて,そこに溶融した安息香酸を流し込んだのち、 装置を自然冷却することで安息香酸の内壁を作成した. ただし,実験前にエメリー紙により研磨することで、壁 面状態を均一にした. Fig.3 は、安息香酸を流し込んだあ との測定部の状態である.物質移動量の計測では,Fig.2 に示すトラバース装置と差動トランス式変位センサ (LVDT)を組み合わせた装置により、実験前後のオリフ ィス背後の安息香酸の壁面位置を 10 mm 間隔で計測し た. LVDTセンサの計測誤差は ± 0.1 um.である.回流水 樹による実験時間は安息香酸の減肉量が約 300 yum にな るように,条件に応じて 10~20 分とした.計測した減肉 量から、以下の式によりオリフィス背後の物質移動係数k を算出した:k_pt18-1KCu-C、ここで, &clot は単位時間あたりの減肉深さ,pは安息香酸 の密度Cwは壁面での濃度, C.は流体中の濃度である.た だし、壁面での安息香酸濃度には溶解度から算出した飽 和濃度を用いた.最終的な評価には,実験結果から算出した物質移動係数 k から求められる無次元数であるシャ ーウッド数 Sh = kalD を用いた.本実験における計測精度 は、偶然誤差が 4.2 %, LVDT センサによる測定誤差が 0.49%,減肉により生じる直径誤差が 1.4 %, 実験条件の 温度誤差が 0.22 %となり, Sh 計測の不確かさは95%の不 確かさで8.6%である.2500 1400210350turge tan! LTTest sectionOrice1150ValveValveFlow meterFig. 1 Experimental apparatus for mass transfer measurement (unit in mm)Linear variable differential transformerBenzonic acidMeasurement pointX=27/27141314051.4Traverse deviceSweam200 210Fig. 2 Details of test section (unit in mm)っさらに、ネットダーFig. 3 Appearance of test section3. 数値シミュレーション物質移動係数に及ぼすシュミット数とレイノルズ数の-1123影響を考察するため、数値シミュレーションによりオリ フィス背後の物質輸送係数を求めた.支配方程式はレイ ノルズ平均したナビエ・ストークス方程式と濃度の輸送 方程式である. レイノルズ応力項のモデルには,標準ke モデルを用いた.ら物質輸送のスタントン数 SI を求め式 (9), (10) から Sh を算出する。響を考察するため、数値シミュレーションによりオリ ニィス背後の物質輸送係数を求めた. 支配方程式はレイ ルズ平均したナビエ・ストークス方程式と濃度の輸送 =程式である. レイノルズ応力項のモデルには、標準K-E ーデルを用いた.sr = _- PU(CW-C)Sh=St* .Sc. Re-10W + TSU - - 10P 1 0 (201pur) (2) artlax, pax, ““pax, ax,4.結果および考察apc apu,c of ' ax,a .ac -(D -pu'C') ax, ax,オリフィス背後における物資移動係数に及ぼすシュミ ット数の影響に関して,安息香酸を用いた実験と数値シ ミュレーションにより検討した. Fig. 4 は Re= 3 × 10““ で, シュミット数を変化させた場合のオリフィス背後のシャ ーウッド数分布である.実験は Sc = 300,700 の条件で行 い, 比較のためSc = 50, 100, 300, 700 の数値シミュレーシ- pa; C - / C- Sc, ox,ただし、乱流拡散係数は、一般的に用いられている乱流 シュミット数 Sc = 0.9 を仮定した.計算は実験と同じ形 状のオリフィスの下で,オリフィスの上流側 5d,下流側 10dまでを 48 x 18 × 86 (半径方向 × 周方向 × 軸方向) の計算格子を用い,汎用熱流体解析ソフト CFD2000 によ り行った.壁面での物質移動係数の評価では,低レイノルズ数型 の ke モデルを用いて直接算出する方法 [12] も検討され ているが,本研究では壁法則を用いていることから,計 算で得られた速度場・濃度場から以下の関係式を用いて 物質移動係数を算出した.C““ (Cw -C, persar*+ (3.85 Se!3 - 1.3} + 2.12 In Scyaw = 'lny + Aここで,: 壁面から第一格子点での乱流エネルギ,C. 壁面濃度, C: 壁面から第一格子点での濃度, 定数x=0.4, A = 5.5 である. シャーウッド数の評価法としては、まず, 式 (0) により壁面からの物質流速を求める. その際、),* は、式 (7), (8) から算出した.次に,得られた物質流束か4.結果および考察オリフィス背後における物資移動係数に及ぼすシュミ ット数の影響に関して,安息香酸を用いた実験と数値シ ミュレーションにより検討した. Fig. 4 は Re=3 × 10*で, シュミット数を変化させた場合のオリフィス背後のシャ ーウッド数分布である。実験は Sc = 300, 700 の条件で行 い, 比較のため Sc = 50, 100, 300, 700 の数値シミュレーシ5000400030002000100010245000・・・・・・Sc=50CFD)2000000----・・・Sc-100(CFD)40003000Sc=300(CFD) ・Sc=““700(CFD) ◆ Sc=300(Exp.) oSc=700(Exp.) a Sc-2.28 [8] ナフタリン(Exp.)2000F10000_2468Fig. 4 Distributions of Sherwood number behind the orifice (Re = 30,000)5000もここで一つるー・ー・ー・ー・4000ーRe=30,000 ・・Re-140,000Re50,000Re-30,000(Exp.) D Re-40,000K Exp.) o Re-50,000(Exp.)30002000100010246810x/dFig. 5 Distributions of Sherwood number under various Reynolds number (Sc = 300 )124600054.55000- Orifice flow(CFD)Orifice flow(EXP.) - - Pipe flow(CFD)A Pipe flow(EXP.)-Sc%3D300 ・ Sc=700 ? Exp. Sc% 300 o Exp. Sc = 700400013000kiko20001.510001 0.5200400600800い123.xldFig. 6 Relationship between Sc and Shmax(Re = 30,000)ョンを行った.実験結果は,測定部の上側と下側の平均 値を示している. 実験および計算共にxId=1-2 の位置に おいて,減肉量が最大となっており,過去のナフタリン 昇華法による計測結果と一致している [8], また, シュミ ット数の増加に伴いシャーウッド数も増加しており、実 験と計算とでほぼ同様の傾向を示している. - Fig.5は、レイノルズ数を変えたときのシャーウッド数 の変化を示している. シュミット数は、実機条件に近い Sc = 300 とし, レイノルズ数を Re = 3,4, 5 × 10* とした. 最大シャーウッド数は,本実験でのレイノルズ数範囲 では xld=1-2 の位置に見られた.実験、計算いずれの 場合においても、レイノルズ数の増加に伴い, シャー ウッド数に増加傾向が見られる. これは、オリフィス 背後における増速や乱流強度の増加により物質輸送が 促進されていることを示している.Fig. 6 は、オリフィス背後における最大シャーウッ ド数とシュミット数の関係を示している.また,比較 のためオリフィスがない円管の場合のシャーウッド数を 同図に示す. オリフィス背後および円管ともにシュミッ ト数の増加によりシャーウッド数が増加しいる、オリフ ィス背後では、円管と比べて大きくシャーウッド数が増 加しており,物質輸送が加速されていることを示している.オリフィス背後の物質輸送を評価する指標の一つに, 円管における物質移動係数 ん との比であるケラー係数 kikoがある[10]. Fig. 7 はオリフィス背後におけるケラ 一係数に対するシュミット数の影響を示している. 過去 の研究によると,絞り比 0.6 のオリフィス背後のケラー 係数は,klk = 3.8 [6] や 5 [8] であり,本計算結果と比較 的近い値である.計算結果では、シュミット数を変えた.xldFig. 7 Distributions of Keller coefficient behind the orificeテーラーパー・ディー:S.. base8859686・Re%3D30,000 ・・Re%3D140,000- Re%3D50,000 ◆Exp. Re%3D30,000 D Exp. Re = 40,000 0 Exp. Re = 50,000k/ko12xldFig. 8 Effect of the Reynolds number on the Keller coefficient distributionson the Keller場合の結果がほぼ一致しており,ケラー係数はシュミッ ト数に影響されないことを示唆している.一方,実験結 果はケラー係数が 3.3 程度であり,こちらもシュミット 数の影響はほとんど見られない. - Fig. 8 はレイノルズ数によるケラー係数の変化を示し ている. 実験および計算結果で,レイノルズ数の増加に よりわずかにケラー係数が減少している. この傾向は、 電気化学的手法を用いた過去の研究結果 [11] と一致し ている.ただし,過去の研究とはオリフィス形状が異な っている.しかし、計算結果では,各条件において実験 よりも大きなケラー係数を示している.5.結言本研究では、FAC によるオリフィス背後の物質輸送現125 -象のメカニズムの解明を目的として,実験による物質移 動係数の計測および標準 k-E モデルを用いた数値シミュ レーションによる物質移動係数の評価を行った.安息香 酸を用いることで,実機条件に近いシュミット数 Sc = 300, 700 での実験が可能となった.その結果,オリフィ ス背後のシャーウッド数は、シュミット数やレイノルズ 数の増加により上昇した.しかし,ケラー係数による評 価では、シュミット数およびレイノルズ数による変化は ほとんど見られないことを示した.参考文献[1] 経済産業省, ““配管破損メカニズムの調査結果について ““, http://www.meti.go.jp/committee/materials/g41213aj.html, (Accessed on July 30, 2010). [2] 米田公俊, 森田良,““配管減肉現象に関わる流動特性の解明(その1) , 単相流中のオリフィス下流域の乱 流特性““, 電力中央研究所報告, 2006, LOS007, pp.1-23.. [3] 中村晶, 村瀬道雄 歌野原陽一, 長屋行則, ““流れ加速型腐食に及ぼす局所的流況の影響, 研究の背景とオ リフィス下流の腐食速度の計測““, INSS Journal, 15,2008, pp. 78-87. [4] 大久保雅一,山系貴幸, 菅野翔, 藤澤延行, ““流動加速腐食による配管減肉に関する研究(旋回流とオリフ ィス偏心の組み合わせ効果による非対称流の発生)““,日本機械学会論文集(B編), Vol. 77, 2011,pp. 386-394. [S] 日本機会学会, ““発電用設備規格, 配管減肉管理に関する規格(2005)““, JSMES CA1-2005, 2005, pp. 13-47.[刀[0] 米田公俊, 森田良, 佐竹正哲, 藤原和俊, ““流れ加速型腐食に対する影響因子の定量的な評価(その3) , 減 肉予測モデルの提案““, 電力中央研究所報告, 2009,L08016, pp. 1.42. [7] M. Kondo, Y. Kuroda, R. Kojyo, Y. Tsuji, ““ On theEvaluation of Mass Transfer Coefficient behind the Orifice in Pipe Flow““, Proceedings of the 11th AsianSymposium on Visualization, 2011, ASV11-13-03. [8] 高野剛, 山縣貴幸, 伊藤嘉人, 藤澤延行, ““流動加速腐食による配管減肉に関する研究(旋回流とオリフィ ス偏心の組み合わせ効果による物質輸送現象)““, 保全学, Vol. 10, No. 2, 2011, pp.30-35. [9] J. Lozar, C. Laguerie and J.P. Couderc, ““ Diffusivity ofbenzoic acid in water: Influence of the temperature““, Canadian Journal of Chemical Engineering, 53, 1975, pp.200-203. [10] H. Keller; ““Erosions corrosion an Nassdampftwbien““,VGB-Kraftwerkstechnik, 54, 1974, 292. [11] T. Sydberger and U. Lotz, ““Relation between mass transfer andcondsion in a tubulent pipe flow““, Journal of theElectrochemical Society, 129, 1982, pp. 276-283. [12] J. Xiong, S. Koshizuka and M. Sakai, ““Turbulencemodeling for mass transfer enhancement by separation and reattachment with two-equation eddy-viscosity models““, Nuclear Engineering and Design, 241, 2011, pp. 2190-3200,126、“ “円管内オリフィス背後の物質輸送現象に関する研究 -シュミット数の影響- “ “佐藤 祐紀,Yuki SATO,山縣 貴幸,Takayuki YAMAGATA,伊藤 晃宏,Akihiro ITO,藤澤 延行,Nobuyuki FUJISAWA,高野 剛,Tsuyoshi TAKANO
発電プラントの各種配管における減肉量予測技術の高 精度化は、プラントの安全性確保,長寿命化および点検 管理作業の効率化のために必要不可欠な課題である. 2004年に発生した美浜3号機での配管破損事故において は、オリフィス下流の1 - 2d (d. 配管直径) において強い 配管減肉が観察された [1]. 一方、該当のオリフィス(絞 り比0.6) 背後における再付着点位置は 2.5d と予測されて おり,最大の配管減肉ははく離領域で発生したと考えら れる.その後,オリフィス背後の速度場に関して LDAや PIV を用いた流れの乱流特性の評価 [2-3] や旋回流とオ リフィス偏心の組み合わせ効果による偏流の発生 [3] な どが検討されている.しかしながら,速度場に関する研 究だけでは、実際のプラントにおける配管減肉のメカニ ズムを解明することは困難である.現在のところ、発電プラントにおける配管減肉の発生 原因は、流動加速腐食(以下 FAC という)[S] が知られ ている. FAC による配管減肉現象は、配管材料から作動 流体中へ鉄イオンが溶解する拡散現象が配管内の乱流流連絡先:山縣貴幸,〒950-2181 新潟市西区五十嵐 2 の町 8050, 新潟大学可視化情報研究センター E-mail: yamagata@eng.niigata-u.ac.jp動現象によって加速される物質輸送現象と考えられてい る.しかし,実際の配管内における物質輸送のメカニズ ムに関しては、流速,乱流強度,温度,pH,配管材質な ど多くのパラメータが関係するため十分に明らかになっ ていない。配管減肉現象を作動流体中へ鉄イオンが溶解する拡散 現象と考えると,減肉速度は物質移動係数により決定す ることができる 「. これまでにステンレスの減肉速度の 計測がいくつか行われている [6]. 最近では、電気化学的 手法 [7] やナフタリン昇華法 [8] を用いた物質移動係数 の評価が行われている.しかし,両手法により計測され た物質移動係数には大きな差異が見られる. これは,物 質輸送に関係する無次元数であるシュミット数 SC (= w/D; v動粘度, D: 拡散係数)やレイノルズ数 Re (= Udv; U; 平均流速)の影響と推定される.ここで, 各手法のシュミ ット数は電気化学的手法が Sc = 1460,ナフタリン昇華法 がSc=2.2 程度である.一方,実機配管におけるシュミッ ト数は、高温であることから数 100 程度と予想されてお り,既存の実験方法では十分に実機条件を再現できてい ないのが実情である. - 以上のことから,本研究では、FAC による配管減肉の 発生メカニズムを理解する上で重要な物質輸送現象を詳 細に評価するため、安息香酸を用いた評価法を提案し、
実機に近いシュミット数条件において円管内オリフィス 背後の物質移動係数の計測を行う.さらに, シュミット 数およびレイノルズ数が物質移動係数に及ぼす影響を標 準k-E モデルを用いた数値シミュレーションにより評価 する.2. 実験装置および方法Fig. 1 は、実験装置の模式図である。装置は、ポンプ, タンク,流量計,計測部により構成されており,インバ ータおよび計測部後方に設置されたバルブにより流量を ・調節する. 円管の直径はd=51.4 mm であり,オリフィス の絞り比は美浜3号機の配管破損事故該当箇所と同様に 0.6 とした. * オリフィス背後の物質移動係数の計測には安息香酸を 用いた,安息香酸は水に可溶であり,温度により拡散係 数が変化するためシュミット数を変えた実験が可能であ る.本実験では、シュミット数 300 (50 °C) と 700 (30 °C) で実験を行った [97. レイノルズ数は Re = 3, 4, 5 × 104 の条件で実験を行い,Re= 3 × 10““, Sc%3D300 における管 内平均流速はU=0.32 m/s とした. - 計測部の詳細および測定方法を Fig. 2 に示す. オリフィ ス背後の計測部はアルミニウム製の半割り構造とし、機 械加工により作成した.その内表面に深さ 2 mm の段差 を設けて,そこに溶融した安息香酸を流し込んだのち、 装置を自然冷却することで安息香酸の内壁を作成した. ただし,実験前にエメリー紙により研磨することで、壁 面状態を均一にした. Fig.3 は、安息香酸を流し込んだあ との測定部の状態である.物質移動量の計測では,Fig.2 に示すトラバース装置と差動トランス式変位センサ (LVDT)を組み合わせた装置により、実験前後のオリフ ィス背後の安息香酸の壁面位置を 10 mm 間隔で計測し た. LVDTセンサの計測誤差は ± 0.1 um.である.回流水 樹による実験時間は安息香酸の減肉量が約 300 yum にな るように,条件に応じて 10~20 分とした.計測した減肉 量から、以下の式によりオリフィス背後の物質移動係数k を算出した:k_pt18-1KCu-C、ここで, &clot は単位時間あたりの減肉深さ,pは安息香酸 の密度Cwは壁面での濃度, C.は流体中の濃度である.た だし、壁面での安息香酸濃度には溶解度から算出した飽 和濃度を用いた.最終的な評価には,実験結果から算出した物質移動係数 k から求められる無次元数であるシャ ーウッド数 Sh = kalD を用いた.本実験における計測精度 は、偶然誤差が 4.2 %, LVDT センサによる測定誤差が 0.49%,減肉により生じる直径誤差が 1.4 %, 実験条件の 温度誤差が 0.22 %となり, Sh 計測の不確かさは95%の不 確かさで8.6%である.2500 1400210350turge tan! LTTest sectionOrice1150ValveValveFlow meterFig. 1 Experimental apparatus for mass transfer measurement (unit in mm)Linear variable differential transformerBenzonic acidMeasurement pointX=27/27141314051.4Traverse deviceSweam200 210Fig. 2 Details of test section (unit in mm)っさらに、ネットダーFig. 3 Appearance of test section3. 数値シミュレーション物質移動係数に及ぼすシュミット数とレイノルズ数の-1123影響を考察するため、数値シミュレーションによりオリ フィス背後の物質輸送係数を求めた.支配方程式はレイ ノルズ平均したナビエ・ストークス方程式と濃度の輸送 方程式である. レイノルズ応力項のモデルには,標準ke モデルを用いた.ら物質輸送のスタントン数 SI を求め式 (9), (10) から Sh を算出する。響を考察するため、数値シミュレーションによりオリ ニィス背後の物質輸送係数を求めた. 支配方程式はレイ ルズ平均したナビエ・ストークス方程式と濃度の輸送 =程式である. レイノルズ応力項のモデルには、標準K-E ーデルを用いた.sr = _- PU(CW-C)Sh=St* .Sc. Re-10W + TSU - - 10P 1 0 (201pur) (2) artlax, pax, ““pax, ax,4.結果および考察apc apu,c of ' ax,a .ac -(D -pu'C') ax, ax,オリフィス背後における物資移動係数に及ぼすシュミ ット数の影響に関して,安息香酸を用いた実験と数値シ ミュレーションにより検討した. Fig. 4 は Re= 3 × 10““ で, シュミット数を変化させた場合のオリフィス背後のシャ ーウッド数分布である.実験は Sc = 300,700 の条件で行 い, 比較のためSc = 50, 100, 300, 700 の数値シミュレーシ- pa; C - / C- Sc, ox,ただし、乱流拡散係数は、一般的に用いられている乱流 シュミット数 Sc = 0.9 を仮定した.計算は実験と同じ形 状のオリフィスの下で,オリフィスの上流側 5d,下流側 10dまでを 48 x 18 × 86 (半径方向 × 周方向 × 軸方向) の計算格子を用い,汎用熱流体解析ソフト CFD2000 によ り行った.壁面での物質移動係数の評価では,低レイノルズ数型 の ke モデルを用いて直接算出する方法 [12] も検討され ているが,本研究では壁法則を用いていることから,計 算で得られた速度場・濃度場から以下の関係式を用いて 物質移動係数を算出した.C““ (Cw -C, persar*+ (3.85 Se!3 - 1.3} + 2.12 In Scyaw = 'lny + Aここで,: 壁面から第一格子点での乱流エネルギ,C. 壁面濃度, C: 壁面から第一格子点での濃度, 定数x=0.4, A = 5.5 である. シャーウッド数の評価法としては、まず, 式 (0) により壁面からの物質流速を求める. その際、),* は、式 (7), (8) から算出した.次に,得られた物質流束か4.結果および考察オリフィス背後における物資移動係数に及ぼすシュミ ット数の影響に関して,安息香酸を用いた実験と数値シ ミュレーションにより検討した. Fig. 4 は Re=3 × 10*で, シュミット数を変化させた場合のオリフィス背後のシャ ーウッド数分布である。実験は Sc = 300, 700 の条件で行 い, 比較のため Sc = 50, 100, 300, 700 の数値シミュレーシ5000400030002000100010245000・・・・・・Sc=50CFD)2000000----・・・Sc-100(CFD)40003000Sc=300(CFD) ・Sc=““700(CFD) ◆ Sc=300(Exp.) oSc=700(Exp.) a Sc-2.28 [8] ナフタリン(Exp.)2000F10000_2468Fig. 4 Distributions of Sherwood number behind the orifice (Re = 30,000)5000もここで一つるー・ー・ー・ー・4000ーRe=30,000 ・・Re-140,000Re50,000Re-30,000(Exp.) D Re-40,000K Exp.) o Re-50,000(Exp.)30002000100010246810x/dFig. 5 Distributions of Sherwood number under various Reynolds number (Sc = 300 )124600054.55000- Orifice flow(CFD)Orifice flow(EXP.) - - Pipe flow(CFD)A Pipe flow(EXP.)-Sc%3D300 ・ Sc=700 ? Exp. Sc% 300 o Exp. Sc = 700400013000kiko20001.510001 0.5200400600800い123.xldFig. 6 Relationship between Sc and Shmax(Re = 30,000)ョンを行った.実験結果は,測定部の上側と下側の平均 値を示している. 実験および計算共にxId=1-2 の位置に おいて,減肉量が最大となっており,過去のナフタリン 昇華法による計測結果と一致している [8], また, シュミ ット数の増加に伴いシャーウッド数も増加しており、実 験と計算とでほぼ同様の傾向を示している. - Fig.5は、レイノルズ数を変えたときのシャーウッド数 の変化を示している. シュミット数は、実機条件に近い Sc = 300 とし, レイノルズ数を Re = 3,4, 5 × 10* とした. 最大シャーウッド数は,本実験でのレイノルズ数範囲 では xld=1-2 の位置に見られた.実験、計算いずれの 場合においても、レイノルズ数の増加に伴い, シャー ウッド数に増加傾向が見られる. これは、オリフィス 背後における増速や乱流強度の増加により物質輸送が 促進されていることを示している.Fig. 6 は、オリフィス背後における最大シャーウッ ド数とシュミット数の関係を示している.また,比較 のためオリフィスがない円管の場合のシャーウッド数を 同図に示す. オリフィス背後および円管ともにシュミッ ト数の増加によりシャーウッド数が増加しいる、オリフ ィス背後では、円管と比べて大きくシャーウッド数が増 加しており,物質輸送が加速されていることを示している.オリフィス背後の物質輸送を評価する指標の一つに, 円管における物質移動係数 ん との比であるケラー係数 kikoがある[10]. Fig. 7 はオリフィス背後におけるケラ 一係数に対するシュミット数の影響を示している. 過去 の研究によると,絞り比 0.6 のオリフィス背後のケラー 係数は,klk = 3.8 [6] や 5 [8] であり,本計算結果と比較 的近い値である.計算結果では、シュミット数を変えた.xldFig. 7 Distributions of Keller coefficient behind the orificeテーラーパー・ディー:S.. base8859686・Re%3D30,000 ・・Re%3D140,000- Re%3D50,000 ◆Exp. Re%3D30,000 D Exp. Re = 40,000 0 Exp. Re = 50,000k/ko12xldFig. 8 Effect of the Reynolds number on the Keller coefficient distributionson the Keller場合の結果がほぼ一致しており,ケラー係数はシュミッ ト数に影響されないことを示唆している.一方,実験結 果はケラー係数が 3.3 程度であり,こちらもシュミット 数の影響はほとんど見られない. - Fig. 8 はレイノルズ数によるケラー係数の変化を示し ている. 実験および計算結果で,レイノルズ数の増加に よりわずかにケラー係数が減少している. この傾向は、 電気化学的手法を用いた過去の研究結果 [11] と一致し ている.ただし,過去の研究とはオリフィス形状が異な っている.しかし、計算結果では,各条件において実験 よりも大きなケラー係数を示している.5.結言本研究では、FAC によるオリフィス背後の物質輸送現125 -象のメカニズムの解明を目的として,実験による物質移 動係数の計測および標準 k-E モデルを用いた数値シミュ レーションによる物質移動係数の評価を行った.安息香 酸を用いることで,実機条件に近いシュミット数 Sc = 300, 700 での実験が可能となった.その結果,オリフィ ス背後のシャーウッド数は、シュミット数やレイノルズ 数の増加により上昇した.しかし,ケラー係数による評 価では、シュミット数およびレイノルズ数による変化は ほとんど見られないことを示した.参考文献[1] 経済産業省, ““配管破損メカニズムの調査結果について ““, http://www.meti.go.jp/committee/materials/g41213aj.html, (Accessed on July 30, 2010). [2] 米田公俊, 森田良,““配管減肉現象に関わる流動特性の解明(その1) , 単相流中のオリフィス下流域の乱 流特性““, 電力中央研究所報告, 2006, LOS007, pp.1-23.. [3] 中村晶, 村瀬道雄 歌野原陽一, 長屋行則, ““流れ加速型腐食に及ぼす局所的流況の影響, 研究の背景とオ リフィス下流の腐食速度の計測““, INSS Journal, 15,2008, pp. 78-87. [4] 大久保雅一,山系貴幸, 菅野翔, 藤澤延行, ““流動加速腐食による配管減肉に関する研究(旋回流とオリフ ィス偏心の組み合わせ効果による非対称流の発生)““,日本機械学会論文集(B編), Vol. 77, 2011,pp. 386-394. [S] 日本機会学会, ““発電用設備規格, 配管減肉管理に関する規格(2005)““, JSMES CA1-2005, 2005, pp. 13-47.[刀[0] 米田公俊, 森田良, 佐竹正哲, 藤原和俊, ““流れ加速型腐食に対する影響因子の定量的な評価(その3) , 減 肉予測モデルの提案““, 電力中央研究所報告, 2009,L08016, pp. 1.42. [7] M. Kondo, Y. Kuroda, R. Kojyo, Y. Tsuji, ““ On theEvaluation of Mass Transfer Coefficient behind the Orifice in Pipe Flow““, Proceedings of the 11th AsianSymposium on Visualization, 2011, ASV11-13-03. [8] 高野剛, 山縣貴幸, 伊藤嘉人, 藤澤延行, ““流動加速腐食による配管減肉に関する研究(旋回流とオリフィ ス偏心の組み合わせ効果による物質輸送現象)““, 保全学, Vol. 10, No. 2, 2011, pp.30-35. [9] J. Lozar, C. Laguerie and J.P. Couderc, ““ Diffusivity ofbenzoic acid in water: Influence of the temperature““, Canadian Journal of Chemical Engineering, 53, 1975, pp.200-203. [10] H. Keller; ““Erosions corrosion an Nassdampftwbien““,VGB-Kraftwerkstechnik, 54, 1974, 292. [11] T. Sydberger and U. Lotz, ““Relation between mass transfer andcondsion in a tubulent pipe flow““, Journal of theElectrochemical Society, 129, 1982, pp. 276-283. [12] J. Xiong, S. Koshizuka and M. Sakai, ““Turbulencemodeling for mass transfer enhancement by separation and reattachment with two-equation eddy-viscosity models““, Nuclear Engineering and Design, 241, 2011, pp. 2190-3200,126、“ “円管内オリフィス背後の物質輸送現象に関する研究 -シュミット数の影響- “ “佐藤 祐紀,Yuki SATO,山縣 貴幸,Takayuki YAMAGATA,伊藤 晃宏,Akihiro ITO,藤澤 延行,Nobuyuki FUJISAWA,高野 剛,Tsuyoshi TAKANO