4次元(リアルタイム3次元)超音波探傷技術
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
* フェーズドアレイ UT 法は、アレイセンサ内の複数 の圧電素子によって送受信される超音波に遅延時間を 与えて位相を制御することで、任意位置に超音波ビー ムを集束させると共に、任意方向のビーム走査を可能 とする検査技術である。単一素子センサによる探傷法 に比べ高 SN 比で高速な検査が可能であり、様々な工 業分野で適用が広がりつつある。現在、一般的に普及 しているフェーズドアレイ UT 法は、リニアアレイセ ンサによるセクタ走査等で検査体内部の断面画像を用 いて検査を行う方法である。我々はこの方法を拡張し、 2次元アレイセンサ(マトリクスアレイセンサ)で生 成される集束ビームを3次元走査する3次元フェーズ ドアレイ (3D-PA) 法をこれまで開発してきた[1][2][3]。3D-PA 法では、計測データに内挿処理を施してボク セルデータに変換し、それをボリュームレンダリング 法でディスプレイ上に表示する。探傷結果の3次元表 示により、データ収録だけでなく評価時間も短縮する のが狙いである。しかし、これまでの 3D-PA 法は計測 データ収録後にオフラインで画像化処理を行っており、 表示までに数秒を要していたため、検査時に即時に探 傷結果を確認することはできなかった。我々は、画像 化処理を高速にし、さらに収録から表示までをオンラ インで連続的に行うことで、リアルタイムで3次元探 傷可能なシステムを新たに開発した。空間の3次元に時間の1次元を加える意味合いで、これを4次元フェ ーズドアレイ (4D-PA) 超音波探傷システムと呼ぶこ ととする。
2.4D-PA システム
Fig.1 に 4D-PA システムの概念図を示す。処理は大き く分けると3次元走査によるデータ収録と、内挿処理 を中心とする3次元画像生成から成る。データ収録か ら画像表示までの基本的なプロセスはこれまでの 3D-PA 法[1][3]と同様であるが、4D-PA システムでは探3D Scanning Matrix Array Probe (256 elements)Interpolation I(;, 0, の → I(x,y,z)3D ImagingRepetitive ProcessingカップルVoxel Data Fig.1 Schematic diagram of the 4D-PA system.14傷面上でマトリクスアレイセンサを動かすと、それに 追従して3次元画像もリアルタイムで変化するのが大 きな特徴である。3次元画像を更新しながら、PC のマ ウス操作で視線方向や色調を任意に変化させることが できる。画像処理にはマルチコア CPU のワークステー ション(IntelR XeonRプロセッサ X5680、6 コア 3.33GHz)を使用しており、OpenMP[4]による並列計算 で処理を高速化している。これにより1秒間に5回程 度の画像更新が可能である。必要に応じてボクセルデ ータとセクタ画像やAスコープ波形を同時に画面に表 示させて探傷することもできる。また、一時停止の状 態で、ボクセルデータを用いたサイジング作業も可能 である。 3.探傷例3-1. SCC 付与テストピース人工的に応力腐食割れ (SCC: Stress Corrosion Cracking)を付与したニッケル基合金のテストピース (厚さ 23mm) を SCC 開口の裏面から探傷した例を Fig.2 に示す。SCC の長さは Fig.2(b)の PT 結果に示すよ うに約 30mm であり、深さは約5mm である。紙面では リアルタイム性を伝えることができないため、本稿で はセンサの移動と共に変化した3次元画像を Fig.2(c) に示す。ここで用いているマトリクスアレイセンサは 2MHz、256 素子であり、接触媒質を介してテストピー ニスに直接接触させ、縦波による3次元走査を行っている。本システムは任意の3次元走査に対応しているが、 この例では頂角 60°のセクタをセンサ鉛直方向を軸に 7.5°ピッチで回転させている。底面エコーが表示され ている範囲が走査範囲に相当する。センサを SCC 近傍 に移動させると、センサの動きに追随して、Fig.2(c)の ように SCC のエコー信号が立体的に画面上に現れ、 SCC の分布状況が即座に把握できる。3-2. アクリルテストピース - 空間分解能を確認するためにアクリル板(厚さ 40mm)の裏面に「4D」という文字を刻印したテスト ピースを刻印の裏面から探傷した例を Fig.3 に示す。文 字の寸法は Fig.3(b)に示した通りであり、テストピース 底面から 10mm の位置まで文字が彫り込まれている。 探傷面からの文字までの距離は 30mm である。用いて いるマトリクスアレイセンサは 2MHz、256 素子であり、 接触媒質を介してテストピースに直接接触させ、縦波15による3次元走査を行った。ここでは頂角 60°のセク タを 1° ピッチで煽るように走査している。センサの 移動と共に変化した3次元画像を Fig.3(c)に示す。 セン サの移動に応じて刻印文字表面からの反射信号がリア ルタイムで立体表示される。 4 と D の間の約 2mm の隙 間も明瞭に分離できている。また、底面エコーにも D の文字が影のように現れており、超音波が刻印文字の 上方から入射されている様子が明瞭に可視化されてい る。4.結言これまでに開発した 3D-PA システムの画像化処理を 高速にし、さらに収録から表示までをオンラインで連 続的に行うことで、リアルタイムで3次元探傷が可能 な 4D-PA システムを開発した。4D-PA システムでは検 査対象内のきず全体の分布状況をリアルタイムで把握 しながら探傷できるため、従来のセクタ画像による探 傷に比べて検査を効率良く実施でき、ひいては検査時 間の短縮と信頼性向上に寄与することができると考え ている。今後、本技術を様々な対象部位に適用し、そ の有効性を検証していく予定である。参考文献 [1]馬場淳史、北澤聡、河野尚幸、安達裕二、小田倉満、菊池修:“3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」 の開発”、日本保全学会 第5回学術講演会 要旨集、 155(2008). [2] 北澤聡、河野尚幸、馬場淳史、安達裕二、小田倉満:“3次元フェーズドアレイ法による超音波探傷技 術”、日本保全学会 第7回学術講演会 要旨集、55 (2010). [3] 北澤聡、河野尚幸、馬場淳史、安達裕二、小田倉満、 菊池修: “3次元フェーズドアレイ超音波探傷システ ム”、日本工業出版社 検査技術、23 Vol. 14 No.2 (2009). [4] http://openmp. org.16“ “4次元(リアルタイム3次元)超音波探傷技術 “ “北澤 総,So KITAZAWA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,馬場 淳史,Atsushi BABA,安達 裕二,Yuji ADACHI,小田倉 満,Mitsuru ODAKURA
* フェーズドアレイ UT 法は、アレイセンサ内の複数 の圧電素子によって送受信される超音波に遅延時間を 与えて位相を制御することで、任意位置に超音波ビー ムを集束させると共に、任意方向のビーム走査を可能 とする検査技術である。単一素子センサによる探傷法 に比べ高 SN 比で高速な検査が可能であり、様々な工 業分野で適用が広がりつつある。現在、一般的に普及 しているフェーズドアレイ UT 法は、リニアアレイセ ンサによるセクタ走査等で検査体内部の断面画像を用 いて検査を行う方法である。我々はこの方法を拡張し、 2次元アレイセンサ(マトリクスアレイセンサ)で生 成される集束ビームを3次元走査する3次元フェーズ ドアレイ (3D-PA) 法をこれまで開発してきた[1][2][3]。3D-PA 法では、計測データに内挿処理を施してボク セルデータに変換し、それをボリュームレンダリング 法でディスプレイ上に表示する。探傷結果の3次元表 示により、データ収録だけでなく評価時間も短縮する のが狙いである。しかし、これまでの 3D-PA 法は計測 データ収録後にオフラインで画像化処理を行っており、 表示までに数秒を要していたため、検査時に即時に探 傷結果を確認することはできなかった。我々は、画像 化処理を高速にし、さらに収録から表示までをオンラ インで連続的に行うことで、リアルタイムで3次元探 傷可能なシステムを新たに開発した。空間の3次元に時間の1次元を加える意味合いで、これを4次元フェ ーズドアレイ (4D-PA) 超音波探傷システムと呼ぶこ ととする。
2.4D-PA システム
Fig.1 に 4D-PA システムの概念図を示す。処理は大き く分けると3次元走査によるデータ収録と、内挿処理 を中心とする3次元画像生成から成る。データ収録か ら画像表示までの基本的なプロセスはこれまでの 3D-PA 法[1][3]と同様であるが、4D-PA システムでは探3D Scanning Matrix Array Probe (256 elements)Interpolation I(;, 0, の → I(x,y,z)3D ImagingRepetitive ProcessingカップルVoxel Data Fig.1 Schematic diagram of the 4D-PA system.14傷面上でマトリクスアレイセンサを動かすと、それに 追従して3次元画像もリアルタイムで変化するのが大 きな特徴である。3次元画像を更新しながら、PC のマ ウス操作で視線方向や色調を任意に変化させることが できる。画像処理にはマルチコア CPU のワークステー ション(IntelR XeonRプロセッサ X5680、6 コア 3.33GHz)を使用しており、OpenMP[4]による並列計算 で処理を高速化している。これにより1秒間に5回程 度の画像更新が可能である。必要に応じてボクセルデ ータとセクタ画像やAスコープ波形を同時に画面に表 示させて探傷することもできる。また、一時停止の状 態で、ボクセルデータを用いたサイジング作業も可能 である。 3.探傷例3-1. SCC 付与テストピース人工的に応力腐食割れ (SCC: Stress Corrosion Cracking)を付与したニッケル基合金のテストピース (厚さ 23mm) を SCC 開口の裏面から探傷した例を Fig.2 に示す。SCC の長さは Fig.2(b)の PT 結果に示すよ うに約 30mm であり、深さは約5mm である。紙面では リアルタイム性を伝えることができないため、本稿で はセンサの移動と共に変化した3次元画像を Fig.2(c) に示す。ここで用いているマトリクスアレイセンサは 2MHz、256 素子であり、接触媒質を介してテストピー ニスに直接接触させ、縦波による3次元走査を行っている。本システムは任意の3次元走査に対応しているが、 この例では頂角 60°のセクタをセンサ鉛直方向を軸に 7.5°ピッチで回転させている。底面エコーが表示され ている範囲が走査範囲に相当する。センサを SCC 近傍 に移動させると、センサの動きに追随して、Fig.2(c)の ように SCC のエコー信号が立体的に画面上に現れ、 SCC の分布状況が即座に把握できる。3-2. アクリルテストピース - 空間分解能を確認するためにアクリル板(厚さ 40mm)の裏面に「4D」という文字を刻印したテスト ピースを刻印の裏面から探傷した例を Fig.3 に示す。文 字の寸法は Fig.3(b)に示した通りであり、テストピース 底面から 10mm の位置まで文字が彫り込まれている。 探傷面からの文字までの距離は 30mm である。用いて いるマトリクスアレイセンサは 2MHz、256 素子であり、 接触媒質を介してテストピースに直接接触させ、縦波15による3次元走査を行った。ここでは頂角 60°のセク タを 1° ピッチで煽るように走査している。センサの 移動と共に変化した3次元画像を Fig.3(c)に示す。 セン サの移動に応じて刻印文字表面からの反射信号がリア ルタイムで立体表示される。 4 と D の間の約 2mm の隙 間も明瞭に分離できている。また、底面エコーにも D の文字が影のように現れており、超音波が刻印文字の 上方から入射されている様子が明瞭に可視化されてい る。4.結言これまでに開発した 3D-PA システムの画像化処理を 高速にし、さらに収録から表示までをオンラインで連 続的に行うことで、リアルタイムで3次元探傷が可能 な 4D-PA システムを開発した。4D-PA システムでは検 査対象内のきず全体の分布状況をリアルタイムで把握 しながら探傷できるため、従来のセクタ画像による探 傷に比べて検査を効率良く実施でき、ひいては検査時 間の短縮と信頼性向上に寄与することができると考え ている。今後、本技術を様々な対象部位に適用し、そ の有効性を検証していく予定である。参考文献 [1]馬場淳史、北澤聡、河野尚幸、安達裕二、小田倉満、菊池修:“3次元超音波探傷システム「3D Focus-UT」 の開発”、日本保全学会 第5回学術講演会 要旨集、 155(2008). [2] 北澤聡、河野尚幸、馬場淳史、安達裕二、小田倉満:“3次元フェーズドアレイ法による超音波探傷技 術”、日本保全学会 第7回学術講演会 要旨集、55 (2010). [3] 北澤聡、河野尚幸、馬場淳史、安達裕二、小田倉満、 菊池修: “3次元フェーズドアレイ超音波探傷システ ム”、日本工業出版社 検査技術、23 Vol. 14 No.2 (2009). [4] http://openmp. org.16“ “4次元(リアルタイム3次元)超音波探傷技術 “ “北澤 総,So KITAZAWA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,馬場 淳史,Atsushi BABA,安達 裕二,Yuji ADACHI,小田倉 満,Mitsuru ODAKURA