東海再処理施設における海中放出管からの漏えいについて -海中放出管の漏えい原因究明(その3)再発防止対策及び管理方法-

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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
平成21年4月に確認された東海再処理施設の海中放 出設備の漏えい事象は、漏えい箇所が海底埋設の放出 管であった。漏えいの原因は、放出管の施工時に損傷 し、経年変化として損傷箇所に電気防食で発生した水 素が影響したことで水素脆性割れが起こり、き裂が発 生、さらには水素誘起割れによりき裂が進展し貫通し たことによるものと推定した。損傷箇所に水素脆性割れが生じる原因となった水素 は電気防食によるものであり、このときの防食電位と 水素発生の関係等の調査を行った。この結果、損傷が 素が影響したことで水素脆性割れが起こり、き裂が発図1海中放出管の電気防食装置設置概要図 生、さらには水素誘起割れによりき裂が進展し貫通し たことによるものと推定した。これを概略的に表したものを図2に示す。外部電 損傷箇所に水素脆性割れが生じる原因となった水素 源方式は、直流電源装置により電流を陽極(磁性酸 は電気防食によるものであり、このときの防食電位と 化鉄)を通じて海中、土中に流し、陰極となる金属 水素発生の関係等の調査を行った。この結果、損傷が 面に流れ込むようにして金属が持つ自然電位を防 あったとしても水素脆性割れを生じさせない適正な電食できる電位 (防食電位) に下げる防食方法である。 位で管理する対策をとることとした。このように防食対象である陰極に、電流を流入させる方式をカソード防食という)。 2. 電気防食の概要電位計(V)(1) 海中放出管の電気防食の方法
海中放出管の電気防食は、図1に示すように外 部電源方式で行っている。直流電源......25 ........海 中....盛性酸化鉄 陽極海中放出管陸戦部配管へ連絡先:西田 恭輔 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33 日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 施設管理部 施設保全第2課 E-mail:nishida.kyosuke@jaea.go.jp TEL:029-282-1111 (内 73321)基準電極 海水塩化銀電極 AglAgCl(海水、土中図 2. 海中放出管の電気防食電位測定概要図method部;海成部直流電源装置 DC60V/10A ||(外部電源)橋極越性酸化鉄)面に流れ込むようにして金属が持つ自然電位を防 食できる電位 (防食電位) に下げる防食方法である。 * このように防食対象である陰極に、電流を流入さ せる方式をカソード防食という)。電位計(V)直流電源..... さん............強中盛性酸化鉄 陽極海中放出管陸域部配管へ「基準電極 海水塩化銀電極 AglAgCl水““図2. 海中放出管の電気防食電位測定概要図 - 142. 表 1. 放出管の各部位における防食電位測定値測定電位測定箇所陸域部と海域部の境界部-1.28 漏えい箇所の切断回収部-1.26 放出口部----1.25 - 漏えい原因(経年的な変化)における電所において-1.26V であり、ほぼ同じ値であった。 また、陸域部と海域部の境界部は-1.28V であり、 海中放出管の海域部全経路にわたり防食電位に大 きな変化はなく、ほぼ一定であった。表 1. 放出管の各部位における防食電位測定値また、ポリエチレン被覆がはがれていない箇所 でも、過防食であると水素が発生し、被覆がはが れることを防止する必要がある。以上のことを踏まえ、防食電位に関する文献調 査を行った。その結果、図5に示すとおり炭素鋼 の腐食に対する有効な防食電位は-0.78~1.26V であるが、水素による割れを考慮した防食 電位は、図6に示すように、含水率 30%の海底粘 士では約-1.33V より貴側(+側)、含水率 14%の真 砂士では約-1.13V より貴側(+側)である。海中 放出管の設置環境としては、含水率 30%の海底粘 土の方が近いが、保守的に考えると約-1.13V よ り貴側(+側)が望ましい。一方、土中に含まれる細菌による腐食を防止す るには、鉄細菌の場合が-0.78V より卑側(一側)、 硫酸塩還元菌の場合が-0.88V より卑側(一側) である。したがって、被覆と電気防食を併用する 場合の防食電位は-0.8~ -1.1V が適正であると考える。(ppm)marine clay (30%) ? marine clay (20 %) Asand(14)測定電位 測定箇所(V) 陸域部と海域部の境界部 -1.28 漏えい箇所の切断回収部 -1.26 放出口部-1.25 4.漏えい原因(経年的な変化)における電気防食装置による水素の発生 (1)経年的な変化が生じた推定原因漏えいが生じた原因として、打痕により鋼材表面 が硬化し水素に対する感受性が高くなった状態に おいて、電気防食に伴う海水の電気分解により生成 した水素が、硬化した箇所に水素脆性割れを引き起 こしたと推定された。よって、今回漏えいがみつか った箇所以外にも同様な損傷箇所があった場合を 想定し、今後の管理として、防食ができる電位を維 持しつつ、水素発生量を極力抑える必要があること がわかった。 (2) 腐食、水素の影響等を考慮した防食電位の調査 海中放出管の適正な防食電位を選定する場合、炭素 鋼の腐食に対する有効な防食電位、電気防食に伴い 生成される水素による脆性割れを考慮した防食電位 及び土中に含まれる細菌による腐食を防ぐ防食電位 がわかった。 (2) 腐食、水素の影響等を考慮した防食電位の調査 海中放出管の適正な防食電位を選定する場合、炭素 鋼の腐食に対する有効な防食電位、電気防食に伴い 生成される水素による脆性割れを考慮した防食電位 及び土中に含まれる細菌による腐食を防ぐ防食電位 及び土中に含まれる細菌によ を考慮する必要がある。水素濃度23(V)電位 図 6. 土の性状毎の水素濃度と電位との関係6)防食電位(V)-0.5 防食電位(V)-1-151.72015海中放出管の現状約-1.5 防食電位範囲(V).........漏えい時の防食電位約-1.3....... ◎有効防食電位(V) 約-0.78-978 - -126【海水機器の腐食より】 5) 2水素による割れを約-1.13【カソード防食下における埋設鋼管の 考慮した推奨範囲(V)水装れ感受性評価より】 6) 3好気性環境指標(V) (鉄細菌: -0.78)【腐食事例解析と腐食診断法より】 0嫌気性環境指標(V) (硫酸塩還元菌: -0.88)【腐食事例解析と腐食診断法より】---------- -0.88-0.88-5被覆を考慮した電位(V)【港湾の施設の技術上の基準より】Commeのボード5被覆を考慮した電位(V) 図 5. 適正な防食電位の調査結果- 144 -・約51:30... 【海水機器の腐食より】 59 【カソード防食下における埋設鋼管の - 水割れ感受性評価より】 6) 【腐食事例解析と腐食診断法より】 7)【腐食事例解析と腐食診断法より】 7)【港湾の施設の技術上の基準より】8)*2,3,4は、文献では標準電極として硫酸銅電極を使用しているた め-66mV、1は飽和カロメル電極を使用しているため6mVを海水塩化銀電極の値に補正している。 ・防食電位は、直流電源装置の出力電流により調 整している。防食電位の変化量は、陰極電流密度 の対数とほぼ直線的関係にあり、Tafel の式 AE = a + b On (I) で表される。この関係を (3)防食電位と出力電流の関係による管理-1.1V へ変更することは、漏えい部のようにエレ ・防食電位は、直流電源装置の出力電流により調クトロコーティングが生成されていない箇所にお 整している。防食電位の変化量は、陰極電流密度いても、水素の影響を抑制することができるもの の対数とほぼ直線的関係にあり、Tafel の式 AEと考える。 = a + b On (I) 9)で表される。この関係を以上のことから、海中放出管の防食電位は、腐 利用し、これまでの防食電位の測定値と電流値か ら a、b の値を算出した。この結果、AE = 0.46 + 0.20食、水素の影響等を考慮し、貴側を約-0.9V、卑 On (I) となり、図7に示すとおりほぼ直線的側を約-1.1V の範囲で管理する。これらを出力電 な関係で表すことができる。このことから、-1.3V流に換算すると約-0.9V のとき 0.7A、約-1.1V のときAEは、海中放出管の自然電位が-0.5Vで のとき 2.1A となる。 あるからAE1.3-0.8V、1≒4.8Aである。また、防食電位については、今後も年1回の測定を行う -1.0V のときは、AE 1.= -5.0V、I≒1.1 A で とともに、直流電源装置の点検を実施する。また、 ある。したがって、防食電位を-1.3V から-1.0V週1回直流電源装置の出力を確認する。なお、出力 に調整する場合、出力電流を 4.8A から約 1. 1A に電流が管理範囲から外れた場合、出力電流を調整す すれば良いこととなり、放出口部での防食電位は、るとともに、放出口部の防食電位の測定を実施し、 直流電源装置の出力電流を調整することにより管防食電位を管理範囲内に維持していく。 理できる。(注)電位の表示については、特に記載がない場合には、照合電極に海水塩化銀を使用した場合 __ AE-04 +0.zoom _の値を示す。(V)AE%3D0.46 +0.202n(1))防食電位と出力電流の関係による管理 ・防食電位は、直流電源装置の出力電流により調 整している。防食電位の変化量は、陰極電流密度 の対数とほぼ直線的関係にあり、Tafel の式 AE = a + b On (I) 9)で表される。この関係を 利用し、これまでの防食電位の測定値と電流値か ら a、b の値を算出した。この結果、AE = 0.46 + 0.20 ln(I) となり、図7に示すとおりほぼ直線的 な関係で表すことができる。このことから、-1.3V のとき AEは、海中放出管の自然電位が-0.5V で あるからAE = -0.8V、I≒4.8A である。また、 -1.0V のときは、AE_= -5.0V、I≒1.1 A で ある。したがって、防食電位を-1.3V から-1.0V に調整する場合、出力電流を 4.8A から約 1. 1A に すれば良いこととなり、放出口部での防食電位は、 直流電源装置の出力電流を調整することにより管 理できる。-1.1V へ変更することは、漏えい部のようにエレ クトロコーティングが生成されていない箇所にお いても、水素の影響を抑制することができるもの と考える。以上のことから、海中放出管の防食電位は、腐 食、水素の影響等を考慮し、貴側を約-0.9V、卑 側を約-1.1V の範囲で管理する。これらを出力電 流に換算すると約-0.9V のとき 0.7A、約 1.1V のとき 2.1A となる。防食電位については、今後も年1回の測定を行う とともに、直流電源装置の点検を実施する。また、 週1回直流電源装置の出力を確認する。なお、出力 電流が管理範囲から外れた場合、出力電流を調整す るとともに、放出口部の防食電位の測定を実施し、 防食電位を管理範囲内に維持していく。 (注)電位の表示については、特に記載がない場合には、照合電極に海水塩化銀を使用した場合 の値を示す。AE%3D0.46 +0.202n(1)E%3D13-1.45. まとめ『E=1.01放出口部 防食電位の変化量 ““放出口部防食電位E従来防食電位は、防食域の電位ではあるが管理 値を高く(卑側)設定していた。損傷箇所のよ うに被覆がはがれた箇所では、電位が高いと水 素の発生が大きい。このため、損傷箇所のよう に打撃により硬化した部分では水素感受性が高 いため、水素の影響を大きく受けたと思われる。-0.6AE0. 50.71. 12.12.74.80.110(A)出力電流(ID6.結言37. 出力電流と放出口防食電位変化量との関係 )今後の管理防食電位の調査の結果、放出管に損傷があった 場合を想定した望ましい防食電位は、最貴値(+ 側)が約-0.9V、最卑値(一側)が約-1, 1V であっ た。このことから、海中放出管の卑側の防食電位 を-1.3V から - 1.1V へ変更した場合、出力電流 (防食電流)は 4.8A から 2. 1A に低減され、生成さ れる水素量が減少するため、水素の影響を抑制す る効果が期待できる。この効果は、エレクトロコ ーティングの生成により防食電流が約 1/3~1/2 に低下されることに伴い生成する水素量の減少と 同様の効果である。このことから、防食電位を電気防食を用いて防食管理する場合には、防食電 位を維持すると共に水素による影響を考慮する必 要がある。漏えい原因を調査した結果、放出管のよ うな軟鋼の場合、強い打撃で表面が硬化した箇所は 水素感受性が高くなり、水素が存在すると水素脆性 割れが生じる可能性があることが分かった。この結 果を踏まえ、海中放出管では、防食の維持とともに 水素の影響を緩和する必要があるため、防食電位に ついては貴側を約-0.9V、卑側を約-1. 1V の範囲で 管理することとした。これにより漏えい箇所以外に 海中放出管に強い打撃による損傷があったとして も、水素脆性割れを生じさせず、かつ腐食を防止す ることができると考える。-145AE%3D0.46 +0.202n(1)E=1放出口部防食電位の変化量放出口部防食電位 日-0.1-0.6(E)-0.5 10 (A)(A E0.50.7 1.10.12.1 2.74.8出力電流()図7. 出力電流と放出口防食電位変化量との関係 (4)今後の管理防食電位を管理範囲内に維持していく。 (注)電位の表示については、特に記載がない場合 - 145 -松島 巌:腐側方食の知識 オーム社 p. 72-74(2002). 日本エルガード協会 http://www. elgard, com/index. html |最終アクセス2010年11月25日) 3) 骸学会、 電創止の院委員会:初版 電食・土壌食パン コードブック, コロナ社 p.213(1996). 4) 腐倒防食協会:防戦術便覧 日刊工業新聞社p. 702(1986). 5) 尾崎 敏範ほか:海水機器の腐食, 技術評論 参考文献1) 松島 巌:腐倒防食の実識 オーム社 p. 72-74(2002). 2) 日本エルガード協会 http://www.elgard com/index.html最終アクセス2010年11月25日) 3) 気学会電創左止研究委員会:初版電食・土壌腐食ンドブック, コロナ社 p.213(1986). 4) 腐倒防食協会:防戦術便覧 日刊工業新聞社 p. 702(1986). 5) 尾崎 敏範ほか:海水機器の腐食, 技術評論社, p170(2002). 6)山口 祐一郎ほか:鉄と鋼 第78年第 12 号 カソード防食下における埋設鋼管の水素割れ感 受性評価,日本鉄鋼協会, p.70(1992). 7) 石原 只雄:最新腐食事例解析と腐食診断法,テクノシステム, p. 957-958 (2008). 8) 港湾の施設の技術上の基準・同解説(上巻),日本港湾協会, p. 440(2007). 9)電気学会、電食防止研究委員会:新版 電食・土壌腐食ハンドブック, コロナ社, p. 214(1986).-146“ “東海再処理施設における海中放出管からの漏えいについて -海中放出管の漏えい原因究明(その3)再発防止対策及び管理方法-“ “西田 恭輔,Kyosuke NISHIDA,鋤柄 光二,Kouji SUKIGARA,照沼 朋広,Tomohiro TERUNUMA,岩﨑 省悟,Shogo IWASAKI,伊波 慎一,Shinichi INAMI
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