高速増殖炉原子炉容器のクリープ疲労に関する信頼性評価手法の開発
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
規格基準に含まれる技術項目間での重複を避け、裕度 を適切に設定することを目標として、システム化規格概 念が提案されている[1]。異なる技術項目間で裕度を比較 する際の候補指標としては破損確率(信頼度)が考えら れる。したがって、信頼性評価手法の開発がシステム化 規格概念実現のために重要である。本研究では、高速炉原子炉容器の主要な破損モードで ある液面近傍でのクリープ疲労によるき裂の発生から貫 通に関する信頼性評価手法を検討し、試評価を実施した。
2. 評価方法
2.1 き裂の発生及び貫通評価法「実用高速炉の高温構造設計方針(暫定案)」[2] に基づ きクリープ損傷量(D)及び疲労損傷量(D)を評価し、(1)式 を満たす場合に、深さ1 mm の全周き裂が発生すると仮定し た。__D. +30, = 1(0, <0.3} 70 + D, = , > 0.3) (1)き裂進展は、「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に連絡先:高屋 茂、〒311-1393 大洗町成田町 4002、日本 原子力研究開発機構 次世代原子力システム研究開発部 門 構造材料評価 Gr.、E-mail: takaya.shigeru@jaea.go.jpda関する指針(案)」 [3]に基づき、(2)式を用いて評価した。 GN=C,AI,” +CA ““(2) a: き裂深さ、 A, ANE: 疲労及びクリープに関するJ 積分範囲 CComme: 材料定数本研究では、き裂深さが板厚の 0.8倍に達した時点を貫 通と見なした。2.2 評価条件及び計算方法試評価の概要を表1に示す。液面近傍部に縦溶接を有 する原子炉容器を想定した。溶接部が存在する場合、溶 接部近傍での応力増加や、溶接金属部での疲労寿命及び クリープ緩和速度の低下により、き裂は溶接金属部に発 生し、その後、溶接金属部と母材部にまたがって進展す ると予想される。しかし本試評価では、そのような詳細 な進展挙動のモデル化は行わず、全周き裂の発生を仮定 することでき裂進展速度を保守的に評価し、モデルの簡 略化を行った。表2に入力条件を示す。発生応力及び主な材料特性を 確率変数とした。 発生応力の平均値は、「実用高速炉の高 温構造設計方針(暫定案)」に従って評価し、ばらつきは 工学的判断により設定した。また運転中のプロセス量監 視等を実施することから、発生応力が平均値から大きく 外れることはないと考え、確率分布に足切を設けた。材 料特性の平均値は、「実用高速炉の高温構造設計方針(暫1900/06/13定案)」及び「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用にTable 1 Outline of the example problem Material316FR Manufacturing method | Longitudinal welding of curvedplatesOuter diameter, mm1926/04/131900/02/18Wall thickness, mm Steady-state operating temp., °C Design life time, year Start-up times, n/60 year| 550 601900/05/29Table 2 Input dataParameterDistributionValueAxial stress due toNormalMean | 7.1 COV* | 0.1292 Cut-off | +66.6%inner pressure, MPaMean| 12.9Axial stress due to dead weight, MPaNormalCOV1.93981481481481E-02Cut-off | ±10%Mean256.53Thermal stress for fatigue damageNormalCOV0.03evaluation, MPaCut-off | ±10%Thermal stress forcreepdamageConstant1900/05/10 19:26:24evaluation, MPaMean | 180.7Axial secondary bending stress, MPaNormalCOV0:40:28Cut-off0.1Crin eq. (2)LognormalMedian | 6.34E-5 [3] SD** | 0.421mrin eq. (2)Constant13742Median | 7.41E-3 [3]Co in eq. (2)Lognormal0.421me in eq. (2)Constant0.88failureMedianFatigue eq. [2]Fatigue lifeLognormalSD1899/12/31 10:33:36ruptureCreepMedian Creep rupture time Lognornaleq. [2]SD | 0.645 *COV: Coefficient of variation, **SD: Standard deviation関する指針(案)」での平均値を用いた。疲労寿命及びク リープ破断寿命に関するばらつきについては、実験デー タに基づき評価した。き裂進展式中の係数に関するばら つきは、「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に関する 指針(案)」で示された平均値と上限値を参考に設定した。確率評価法には、古典モンテカルロ法を採用した。サ ンプル数は、1.0E+7 サンプルとした。3. 評価結果11.0E+7 サンプル中、貫通に至ったサンプルは無かった。信頼区間推定法[4]により評価される 95%上限値は 3.7E-7160 year である。栗坂らは、炉心損傷頻度や格納機 能喪失頻度に対する目標値から、機器の許容破損確率を 導出する手法を提案しており、内的事象を起因事象とす る原子炉容器の小規模破損(貫通き裂の発生)に対して は、1.2E-5/60 year と評価されている[5]。今回の評価結果 は、信頼区間 95%上限値を考慮しても、許容破損確率を 2桁程度下回っていた。4.結言- 高速炉原子炉容器の主要な破損モードである液面近傍 部でのクリープ疲労によるき裂の発生から貫通に関する 信頼性評価手法を提案し、試評価を実施した。評価結果 は、信頼区間 95%上限値を考慮しても、安全要求から導出 される許容破損確率を2桁程度下回っていた。参考文献 [1] Y. Asada et al., ““System Based Code ? Principal Concept,Proc. of ICONE 10, 2002, #22730. [2] 森下正樹ら、“高温構造設計高度化研究 平成16年度共同研究報告書”、核燃料サイクル開発機構、日本原子力発電株式会社、2005、JNCTY9400-2005-012. [3] “高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に関する指針(案)”、電力中央研究所、1994. [4] 桐本ら、“原子力発電所に関する確率論的安全評価用の機器故障率の算出”、原子力情報センター、2001、%23P00001」[5]K. Kurisaka et al., “Development of System Based Code(1)““, J. Power and Energy Systems, Vol. 5, 2011, pp. 19-32.(平成23年10月5日)1900/06/14“ “高速増殖炉原子炉容器のクリープ疲労に関する信頼性評価手法の開発“ “岡島 智史,Satoshi OKAJIMA,浅山 泰,Tai ASAYAMA,千年 宏昌,Hiromasa CHITOSE,町田 秀夫,Hideo MACHIDA,横井 忍,Shinobu YOKOI,神島 吉郎,Yoshio KAMISHIMA
規格基準に含まれる技術項目間での重複を避け、裕度 を適切に設定することを目標として、システム化規格概 念が提案されている[1]。異なる技術項目間で裕度を比較 する際の候補指標としては破損確率(信頼度)が考えら れる。したがって、信頼性評価手法の開発がシステム化 規格概念実現のために重要である。本研究では、高速炉原子炉容器の主要な破損モードで ある液面近傍でのクリープ疲労によるき裂の発生から貫 通に関する信頼性評価手法を検討し、試評価を実施した。
2. 評価方法
2.1 き裂の発生及び貫通評価法「実用高速炉の高温構造設計方針(暫定案)」[2] に基づ きクリープ損傷量(D)及び疲労損傷量(D)を評価し、(1)式 を満たす場合に、深さ1 mm の全周き裂が発生すると仮定し た。__D. +30, = 1(0, <0.3} 70 + D, = , > 0.3) (1)き裂進展は、「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に連絡先:高屋 茂、〒311-1393 大洗町成田町 4002、日本 原子力研究開発機構 次世代原子力システム研究開発部 門 構造材料評価 Gr.、E-mail: takaya.shigeru@jaea.go.jpda関する指針(案)」 [3]に基づき、(2)式を用いて評価した。 GN=C,AI,” +CA ““(2) a: き裂深さ、 A, ANE: 疲労及びクリープに関するJ 積分範囲 CComme: 材料定数本研究では、き裂深さが板厚の 0.8倍に達した時点を貫 通と見なした。2.2 評価条件及び計算方法試評価の概要を表1に示す。液面近傍部に縦溶接を有 する原子炉容器を想定した。溶接部が存在する場合、溶 接部近傍での応力増加や、溶接金属部での疲労寿命及び クリープ緩和速度の低下により、き裂は溶接金属部に発 生し、その後、溶接金属部と母材部にまたがって進展す ると予想される。しかし本試評価では、そのような詳細 な進展挙動のモデル化は行わず、全周き裂の発生を仮定 することでき裂進展速度を保守的に評価し、モデルの簡 略化を行った。表2に入力条件を示す。発生応力及び主な材料特性を 確率変数とした。 発生応力の平均値は、「実用高速炉の高 温構造設計方針(暫定案)」に従って評価し、ばらつきは 工学的判断により設定した。また運転中のプロセス量監 視等を実施することから、発生応力が平均値から大きく 外れることはないと考え、確率分布に足切を設けた。材 料特性の平均値は、「実用高速炉の高温構造設計方針(暫1900/06/13定案)」及び「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用にTable 1 Outline of the example problem Material316FR Manufacturing method | Longitudinal welding of curvedplatesOuter diameter, mm1926/04/131900/02/18Wall thickness, mm Steady-state operating temp., °C Design life time, year Start-up times, n/60 year| 550 601900/05/29Table 2 Input dataParameterDistributionValueAxial stress due toNormalMean | 7.1 COV* | 0.1292 Cut-off | +66.6%inner pressure, MPaMean| 12.9Axial stress due to dead weight, MPaNormalCOV1.93981481481481E-02Cut-off | ±10%Mean256.53Thermal stress for fatigue damageNormalCOV0.03evaluation, MPaCut-off | ±10%Thermal stress forcreepdamageConstant1900/05/10 19:26:24evaluation, MPaMean | 180.7Axial secondary bending stress, MPaNormalCOV0:40:28Cut-off0.1Crin eq. (2)LognormalMedian | 6.34E-5 [3] SD** | 0.421mrin eq. (2)Constant13742Median | 7.41E-3 [3]Co in eq. (2)Lognormal0.421me in eq. (2)Constant0.88failureMedianFatigue eq. [2]Fatigue lifeLognormalSD1899/12/31 10:33:36ruptureCreepMedian Creep rupture time Lognornaleq. [2]SD | 0.645 *COV: Coefficient of variation, **SD: Standard deviation関する指針(案)」での平均値を用いた。疲労寿命及びク リープ破断寿命に関するばらつきについては、実験デー タに基づき評価した。き裂進展式中の係数に関するばら つきは、「高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に関する 指針(案)」で示された平均値と上限値を参考に設定した。確率評価法には、古典モンテカルロ法を採用した。サ ンプル数は、1.0E+7 サンプルとした。3. 評価結果11.0E+7 サンプル中、貫通に至ったサンプルは無かった。信頼区間推定法[4]により評価される 95%上限値は 3.7E-7160 year である。栗坂らは、炉心損傷頻度や格納機 能喪失頻度に対する目標値から、機器の許容破損確率を 導出する手法を提案しており、内的事象を起因事象とす る原子炉容器の小規模破損(貫通き裂の発生)に対して は、1.2E-5/60 year と評価されている[5]。今回の評価結果 は、信頼区間 95%上限値を考慮しても、許容破損確率を 2桁程度下回っていた。4.結言- 高速炉原子炉容器の主要な破損モードである液面近傍 部でのクリープ疲労によるき裂の発生から貫通に関する 信頼性評価手法を提案し、試評価を実施した。評価結果 は、信頼区間 95%上限値を考慮しても、安全要求から導出 される許容破損確率を2桁程度下回っていた。参考文献 [1] Y. Asada et al., ““System Based Code ? Principal Concept,Proc. of ICONE 10, 2002, #22730. [2] 森下正樹ら、“高温構造設計高度化研究 平成16年度共同研究報告書”、核燃料サイクル開発機構、日本原子力発電株式会社、2005、JNCTY9400-2005-012. [3] “高速炉機器への非弾性破壊力学の適用に関する指針(案)”、電力中央研究所、1994. [4] 桐本ら、“原子力発電所に関する確率論的安全評価用の機器故障率の算出”、原子力情報センター、2001、%23P00001」[5]K. Kurisaka et al., “Development of System Based Code(1)““, J. Power and Energy Systems, Vol. 5, 2011, pp. 19-32.(平成23年10月5日)1900/06/14“ “高速増殖炉原子炉容器のクリープ疲労に関する信頼性評価手法の開発“ “岡島 智史,Satoshi OKAJIMA,浅山 泰,Tai ASAYAMA,千年 宏昌,Hiromasa CHITOSE,町田 秀夫,Hideo MACHIDA,横井 忍,Shinobu YOKOI,神島 吉郎,Yoshio KAMISHIMA